4月から10月にかけて、奈良県内8ケ所の会場で、巡回展「先住民族アイヌは、いま」が開催される。4月24日、奈良県人権センターで開会セレモニーが開催され、「平取アイヌ遺骨を考える会」代表の木村二三夫氏の講演、「先住民族アイヌの声実現!実行委員会」の出原昌志氏の「取り戻したいアイヌの歴史」と称した展示解説などが行われた。

巡回展「先住民族アイヌは、いま」ポスター

巡回展「先住民族アイヌは、いま」の様子

巡回展を開催した「先住民族アイヌのいまを考える会」委員長・淺川肇氏は、昨年2月からこの展示会を企画し立ち上げ、
(1)県内各地で、身近な場所で行うこと、
(2)気軽に立ち寄っていただきたいので無料で行うこと、
(3)アイヌ民族について、私たちはあまりに無知なのでアイヌ目線で行うことを目標に準備を行ってきた。

「世界の先住民族の生存や尊厳、自決に関する権利を規定した『先住民族の権利に関する国際連合宣言』が2007年に採択され、日本も賛成したが、2019年施行された『アイヌ施策推進法』は、アイヌの自決権、土地や領域、資源回復や補償などには触れておらず、国連の宣言とはかけ離れており、アイヌの暮らしと誇りを立て直す内容とはなっていない。私たちはアイヌ民族と日本人(和人)の歴史的関係性やアイヌ民族がおかれている現状をもっと知る必要がある」、「幕藩体制下の支配や、アイヌを日本国民にさせる近代国家の政策などの抑圧や差別に抗してきたアイヌ民族の歴史や、伝統的に継承されてきた文化を紹介する本展示の開催が、アイヌ民族の先住権・自決権を尊重し、アイヌ民族をはじめとする多民族・多文化の共生社会を実現する一助になることを願っています」などと巡回展開催の意義を述べられた。

そんななか、先ごろ、日本テレビの朝の情報番組「スッキリ」で、アイヌ民族を差別する内容の作品が放映された件で、これまで2回の交渉を行ってきた出原昌志氏にお話を伺った。(聞き手・構成=尾崎美代子)

3月12日、「スッキリ」はアイヌ民族の女性をテーマにしたドキュメンタリー作品を紹介したのち、お笑いタレント脳みそ夫が謎かけで、「この作品とかけまして動物を見つけた時ととく。その心は、あ、犬」というテロップ付き漫画の映像を放映した。これに対して「先住民族アイヌのいまを考える会」は、「部落解放同盟奈良県連合」「奈良ヒューライツ議員団」とともに抗議を行っている。

アイヌ差別発言に抗議する 共同声明(2021年3月28日)

左から木村二三夫さん(「平取アイヌ遺骨を考える会」代表)、出原昌志さん(「取り戻したいアイヌの歴史」「先住民族アイヌの声実現!実行委員会」)、淺川肇さん(「先住民族アイヌの今を考える会」委員長)

──  差別映像が制作されるまでの経緯を教えてください。
出原 3月12日は「財布(サイフ)の日」の日で、すでに別の台本を作って映像ができていた。だけど脳みそ夫氏から提案があって新たに台本作ってあの映像を制作したという話です。担当ディレクターはそれまで「民族について軽々に扱えない」としていたというので、僕らは「ちょっと今の説明は不可解だ。民族を軽々に扱えないといっていたのに、なぜ脳みそ夫氏が提案したら民族問題を扱うことになったのか?」と追及し、次回は脳みそ夫氏本人がチャランケに出席して説明と謝罪を行うことを要求しています。
 日テレには番組考査部というコンプライアンスや人権問題を扱う部署があるが、そこの代表が、当初、アイヌ民族差別と捉えられずに「アイヌ民族に対する認識が薄かった」と認めており、また、日テレ全体の共通認識として被差別部落問題などはペーパーがあるが、アイヌ民族問題ではなかったこと。結局、アイヌ民族の歴史や人権に無関心であったことです。いまは放送に至る経緯をもっと検証していく段階です。ただ僕らが申し入れた5項目は全部うけとめ実行するということは確認しています。

──  番組前の打ち合わせで、誰もおかしいと思わなかったのか?
出原 日テレの言い方では、作成された映像を本社のプロデューサーに問い合わせたらOKが出たから、後は放映までスルーパスで、生放送中は番組チーフプロデューサーとプロデューサーが確認しているだけとのことです。専門のチェックマンがいないわけです。

──  MCの加藤浩次さんは北海道出身なのに、おかしいと思わなったのでしょうか?
出原 加藤さんは小樽出身ですが、あの年代で同じ高校にいた人の話も聞いたが、あの時代も単一民族国家観の授業が行なわれていて、彼はアイヌ民族の歴史について理解をしていなかったのではないかと思います。小樽のアイヌ民族は強制移住でいないから身近ではなく、加藤さんが気付くのは無理だったのではという話です。

──  でも人間に対して「あ、いぬ」だけでも差別と思いませんかね?
出原 それが差別と意識できなかった。わざわざ「アイヌ」というテロップまで入れて、驚きでしたね。週刊現代は、ディレクターが台本を書いて脳みそ夫氏にやらせたと言っているが、他の情報も含めて、脳みそ夫氏が提案してやったというのが事実だと思います。脳みそ夫氏が提案して、ディレクターが台本は書くから「やらせた」と言えばそうなるが。僕らはそうした認識でチャランケをしていますが、そのことに関して脳みそ夫氏が所属するタイタンのチーフマネージャーも異議申し立てはしていません。

──  当日は結局夕方のニュースで謝罪したのですね?
出原 番組中も抗議の電話はじゃんじゃん入ってきています。なぜ、直後の生番組で謝罪放送をしなかったと糾すと、「スッキリ」の後の生番組は首都圏のみの放送になり、午後からの「ミヤネ屋」は関西で製作されているとのこと。結局夕方のニュースで謝罪した。でもあの時は「不適切な発言」というだけで「差別だった」とは言っていなかった。その直後に、私から担当プロデユーサーに電話を入れて「月曜日のスッキリで謝罪してください」と要求した。1つ目はアイヌ民族差別と明確に認めること。2つ目は、アイヌの歴史に触れて言うこと。もうひとつは再発防止に努めるということ。また、チャランケを申し入れたらそれに応じるという事を確認しました。担当プロデユーサーは、謝罪放送を検討しており「やります」となった。それで3月15日月曜日の「スッキリ」の冒頭で、水卜アナウンサーがアイヌ差別と認めて謝罪した。それを見て、一応、日テレは努力していると認めて、同時にチャランケの日程調整に入りました。

──  チャランケ? 話し合いですね?
出原 1回目は3月18日。最初、チーフプロデユーサー(部長)が謝罪すると言うので、「参加者全員から一人一人自分の言葉で謝罪してほしい」と伝えた(当初は日テレ側5人、現在参加者は、日テレ側5名とタイタン2名の7名)。彼等の発言を聞いて、アイヌ民族からも自分の被差別経験などを含めて、今回のアイヌ民族差別の衝撃と重大さを話した。そのアイヌ民族の身を削る言葉を聞いて、もう一度、彼等にどう思うか、再度、一人一人に発言してもらった。その上で、放映までの経緯の概略的な話を聞いたが、次は詳細な経緯を説明してほしいと約束して、4月15日2回目のチャランケを行なった。経緯をペーパーで出してもらったが、まだまだ疑義が残ります。職員らの聞き取りなども全部出ていない。また、定期的にアイヌ民族を講師に職員研修と、アイヌ民族の歴史や人権などに関して定期的に番組作りをすることを要求して確認しています。
 アイヌ民族差別は日本人問題ですが、奈良の3団体の申し入れは、道外からこのような組織的な抗議の声はこれまでほとんどなく、本当に画期的なことです。日テレには、アイヌ民族差別を許さない社会規範を作る責任があると要求しています。ああいう大きな民放できちんとやってくれれば、成果も大きいので、引き続き頑張って話し合います。
──  今日はどうもありがとうございました。

[2021年4月24日奈良県人権センターにて]

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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