目前に迫った第49回衆院選。くしくも小選挙区制や政党交付金を軸とする現行の選挙制度ではじめて衆院選が行われてから25年になります。この現行の選挙制度は「政党本位の政治」を実現する、という触れ込みで導入されました。しかし、現実にはどうでしょうか? 政治を大きく劣化させたといわざるをえません。

さとうしゅういちは、そうした問題意識から、参院選広島再選挙においては、「小選挙区制をなくす」を「原発をやめる」「貧困をふせぐ」とともに公約の三本柱としました。

「小選挙区制廃止」を掲げた筆者の参院選広島再選挙におけるポスター

◆死票が多すぎる

小選挙区制のもとでは、議席に反映されない死票が多くなります。その結果、大きな政党への民意は過大に反映されるいっぽう、少数意見はさらに実態以上に小さく見せられます。実際に2017年衆院選で自民党は小選挙区での得票率は48.2%でしたが、議席占有率は75.4%となりました。

◆大政党の公認でなければ事実上当選が不可能

この選挙制度のもとでは大政党の公認をもらえなければ事実上当選が不可能です。ましてや無所属や政党要件のない党派(政治団体)所属では、対等な選挙運動も制度上、難しくなります。

これらはわたくし、さとうしゅういち自身、参院選広島再選挙に立候補した際に痛感しました。政見放送ひとつとっても、無所属候補は放送局収録の定型のものしか放送してもらえません。政党の公認があればオリジナルの映像ももちこめるのです。ビラも政党の公認があれば、政党がポスティングできるビラを発行できるのですが、無所属候補はできません。衆院選は参院選よりさらに無所属に厳しく、政見放送さえできません。

これだけでも凄まじいハンディキャップです。選挙になりません。さらに、その上、マスコミによる無視.軽視もくわわります。国政選挙では、よほどのタレントでもなければ政党の推薦がない無所属候補など、あまり取り上げません。

そして、政党公認候補には河井事件でも問題となった政党交付金が本部から配られます。タレントまたは、世襲などで地盤が強いかでもなければ、無所属候補は太刀打ちできません。

◆総裁に逆らえなくなった自民党議員たち

自民党の議員の場合なら自民党の公認がもらえなければまともな選挙運動にならない。結果として、自民党議員も総裁に逆らえなくなります。総裁も自民党議員たちが自分に逆らえないことの足元を見るわけです。たしかに、派閥はこれで弱くなった。そのかわり、総理.総裁の一強になってしまったのです。

小泉純一郎さんが、郵政民営化反対派にいわゆる「刺客」を送った2005年のいわゆる郵政選挙でこの流れは決定的に強くなりました。だから、安倍さん、菅さんが表舞台から降りるまで、自民党内でも安倍体制をひっくり返してやとうという人が出てこなかったのでしょう。

今回の総裁選では、4人の候補者が、安倍さん直系の高市早苗さんは別として、かつて安倍さんが率いていた政党とはおもえぬような政策も掲げておられました。しかし、裏を返せば、安倍さん、ついで菅さんが権力を投げ出した「空白」状態だから3人のリベラルな主張も可能になった、という見方もできます。

◆総裁のお気に入りであれば「悪評」克行被告でも余裕で議員に

そして、現行選挙制度の広島で明らかになった問題点は、どんなに中身がなくても、総裁のお気に入りでさえあれば誰でも議員として当選を重ねることができる、ということです。いまや夫妻で「広島の恥」と呼ばれるようになった河井克行被告人のことです。克行被告人は皮肉にも小選挙区制になった1996年、広島3区で初当選しました。

克行被告人の評判は地元では非常に悪いのです。妻の案里さん(参院選2019で当選も無効確定)のことは好きでも「克行は嫌い」という有権者をわたくしもリアルで多数存じています。ここで多くは申しませんが、週刊誌などで報道されたような問題を克行被告人が起こしていたことをリアルでご覧になっている有権者が多いのです。

しかし、それでも「自民党の公認があるから仕方なく河井」という方も多かったのです。

もし、現状が、中選挙区制のままだったらどうでしょうか? 克行被告人は実際に旧広島1区が定数4の中選挙区だった93年に立候補。次点にもならず大敗しました。今は小選挙区1区(広島市中区.東区.南区)の岸田文雄さん、同じく3区(広島市安佐南区.安佐北区.安芸高田市.山県郡)で立候補予定の公明党の斉藤鉄夫さん。そして、小選挙区2区(広島市西区や佐伯区、廿日市市など)で1996年に新進党で当選し、自民党の平口洋さんが地盤を引き継いでいる粟屋敏信さん。後に広島市長になる社会党の秋葉忠利さんが当選しました。おそらく、いま、克行被告人が中選挙区制のもとで立候補したと仮定しても、与党票は岸田さん、平口さん、斉藤さんに占められ、同じように大敗していたろうと推測されます。

比例代表制でも、都道府県別の有権者が名簿の順番を変更できるノルウェー式であれば、どうでしょうか?広島県を一つの比例区と考えれば定数は10人程度となり、自民党の獲得議席は4程度と予測されます。広島県の自民党議員7人の中で群を抜いて評判が悪い彼が4位以内になることはあり得ません。

克行被告人はそもそも、選挙を石破茂さんに応援してもらっていたのです。しかし、2012総裁選では安倍晋三さんに寝返り、以降は安倍さんに重用されました。克行被告人ほどひどくはないにせよ、安倍さんにかわいがられるだけで議員になれたと言っても過言ではない議員が、小選挙区制を軸とする現行選挙制度のもとで、全国に生まれたことは想像に難くありません。

◆野党・市民運動の共闘も「政策なき野合」と背中合わせ

野党がこうした制度の中で「共闘」を進めるのは理解できます。そうしなければ自民党に勝つ見込みはないのも事実です。しかし、一方で、「共闘」の進め方次第では、各政党が持っていた「持ち味」や「キレ」が失われます。

安倍晋三さんが総理大臣だったときは「アンチ安倍」の一点で結集というのも求心力を持ち得たでしょう。

あるいは、参院選広島再選挙のような状況なら、候補者が具体的な政策がわかる人でなくても、「金権腐敗打破」の一致点だけで自民党候補に勝てるかもしれません。しかし、安倍さんも菅さんもいない今となっては政策軸をはっきりさせないと厳しい。へたをすれば「政策なき野合」とみられかねない。

実際に「小選挙区で勝つには大手労働組合に遠慮しないといけない。」という議論がとくに広島では根強くあります。その結果として、例えば中央では9月8日に野党(立憲、共産、社民、れいわ)と市民連合が合意している「原発なき脱炭素」に後ろ向きな言動も、大手労組出身の国会議員のSNSでもみられます。

参院選広島再選挙の際も野党を応援する市民運動家も、選挙期間中、原発推進労組を基盤とする野党統一候補者(当選)に遠慮してか、「伊方原発再稼働NO」「フクシマ汚染水海洋放出NO」などの主張をネット上でも控える傾向が顕著にみられました。投票行動は戦略的にするとしても、言うべきことを言わないというのは、結局運動を弱めることになるのではないか?と懸念します。

ジレンマですが、こうしたことで、「政策をよく考えている有権者」ほど、与党にも野党にも失望し、投票率が低迷する結果になります。定数1だった参院選広島再選挙においても実はこうした現象はすでに起きており、投票率は33%という低さでした。このように、与党だけでなく、野党をも現行選挙制度が弱体化させています。

◆小選挙区制でなければもっと進む「原発なき脱炭素」

もし、昔のような中選挙区制か、比例代表制中心の選挙制度だったら、原発問題で自民党を割って出る人もいるかもしれません。ドイツのメルケルさんのように「保守で環境派.脱原発派」というスタンスもあり得るからです。

野党も安心して(?)原発推進労組系とそれ以外の大多数に割れるかもしれません。そうなると、保守系脱原発派と野党の大多数が政策ごとのパーシャル連合を組み、「原発なき脱炭素」を進めるという展開もあり得るでしょう。現状よりは市民の多数がのぞむ政策が実現する可能性が増します。

◆ジェンダー解消も阻害する小選挙区制

小選挙区制はジェンダーの解消も阻害します。ある一つの小選挙区である政党の男性の現職議員がいたとして、女性新人に交替させるのは、難しいのが現実です。しかし、比例代表制であれば、名簿にあらたに女性をのせるだけで済みます。実際に、女性議員率が高い国の多くは比例代表制中心の国です。

日本も女性議員率は14.4%と先進国最低で、中東の平均16.55%も下回っています。しかし、単純小選挙区制のアメリカもOECD平均の31.15%を下回る23.7%にとどまっています。アメリカが男女平等ではそうはいっても日本より進んでいることを加味すれば、単純小選挙区制の悪影響があるのではないしょうか?

◆「1996年体制」の打破を!

「政党本位の政治」が目標だったはずの小選挙区制を中心とする現行選挙制度。これを「1996年体制」と呼びたい。

しかし、「政策不在」で「大政党党首による権威主義」をもたらしてしまったのではないでしょうか?

克行被告のような総裁に気に入られただけで議員になれてしまう人を大量生産したのではないのか?

野党は「共闘」による政権奪取のチャンスにはあるが、「政策なき野合」と背中合わせです。

小選挙区制を廃止してあらたな選挙制度にする。そうした議論がいまこそ求められるのではないでしょうか?

ネット上では「楽しく比例制をめざす会」が立ち上がっています。

毎月、オンラインで勉強会を開催しており、全国から女性の議員らも参加しています。お待ちしております。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

7日発売!タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』11月号!

『紙の爆弾』『NO NUKES voice』今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!