このところ、編集制作会社に手伝いに行っているが、おもな仕事はレイアウトだ。なかなか50歳近くなるとデザインの技を覚えないが、今、活版なら少なくとも対応できそうだ。多くの人はもう当たり前だと実感しているだろうが、最近では、編集者がデザイナーも兼ねるのが、今どきの編集制作会社の常識のようだ。

ただし、かつて僕は求められる場面でも、徹底的にデザインからは逃げていた。もとよりセンスがないと思っていたし、細かい仕事が苦手だからだ。だがそうも言っていられないほどの出版不況である。約14年ぶりに触ったマックは、何もかもが過去とは明確に変わっていた。

まず。慣れ親しんだワープロソフト「EGワード」はとっくに時代が終わっており、(2008年1月28日のパッケージソフト事業終了)、デザインソフトは「クォーク・エクスプレス」から「インデザイン」と「イラストレータ」の時代となっていた。専門的な話となるが、インデザインというソフトが1998年ごろにリリースされたが、写植の記憶を残す、縦組み…つまり日本語での組み版に優れたソフトだった。このソフトにより、一気に各出版社とも雑誌のデザインはインデザインに乗り換え、写植屋は仕事を失った。現在、インデザインやイラストレータは改良が加えられ、現在はバージョンがCC(クリエイティブ・クラウド)が最新だ。僕が使っているのは、CS3というバージョンで、もし最新バージョンが大学生とするなら、まだ小学生といった感じのバージョンだ。

頭に来ることに、バージョンにより、インデザインもイラストレータも当たり前だが、微妙に使い方がちがう。ウインドウズだと感覚的にバージョンが違っていても、いじっていればなんとかなるが、マックはめったにいじってこなかったし、簡単に描いたようにはいかない。必然として、マニュアルと向かいあうことになる。

とくにフォトショップの使い方を知っていると、デザインは有利だ。1日講習でも行こうと思ったが、あらかじめデザインスクールにメールで「CS3でも大丈夫ですか」と聞くと「CS3をお使いですと、現在のCCまでは140ほど新機能が追加している状況です。使えない機能が多いと思われるが、それでもよろしければ、どうぞお越しください」という回答だった。これだから僕はイノベーションが嫌いだ。「最新」のスペックを持っていて当然だと、誰もが思っている。

だいたいにおいて、「インデザイン」や「イラストレータ」を作るアドビは、なぜ有料で現状のバージョンからアップロードするサービスをしないのだろう。
マックは確かに使いかたが簡単で、これに慣れると、ウインドウズに戻ってキーを操作していると「なんでこんなに複雑なのだ」とイライラする。
それでも、14年間もマックから離れていた原因は、やはりソフトが高いという1点につきる、

なにしろデザインに必要な3点セット、つまりフォトショップ、イラストレータ、インデザインを揃えるとなると、6万円くらいかかるのだ。これではセレブしかデザイナーになれない。
アドビは、少なくとも現状より3割はソフトを安く売るべきだ。もしくは、半年スパンでリースできるような契約を編み出してほしい。
デザインソフトの高騰が、出版不況の遠因となっていることを、忘れてはいけない。

(小林俊之)