新世代公害とは、化学物質による人体影響と、電磁波による人体影響のことである。この両者が相互に作用して複合汚染を引き起こす。

 

米国のCAS(ケミカル・アブストラクト・サービス)が1日に登録する新しい化学物質の件数は、1万件を超えると言われている。勿論、そのすべてが有害というわけではないが、地球上は化学物質で溢れ、それに電磁波が重なり、生態系へ負の影響をもたらしている。透明な無数の牙が生活空間のいたるところで待ち構えている。

1年ほど前から、わたしは電磁波が人間の神経系統に何らかの影響を及ぼした可能性がある事例を取材している。具体的には「妄想」である。あるいは精神攪乱。2005年から、電磁波問題の取材をはじめた後、稀にこうした事例に遭遇してきた。ただし電磁波以外が「妄想」の原因である可能性もある。わたしは医師ではないので、このあたりのことはよく分からないので、事実を優先するのが基本的な取材の方針だ。

◆欧州評議会の勧告を上回る電磁波強度

今回、ここで紹介する事例の取材対象者は、AさんとBさんである。いずれも70歳前後の女性である。Aさんは一人暮らしで、Bさんは夫と二人で暮らしている。隣人同士である。住居の所在地は、神奈川県川崎市。郊外の緑が多い地域である。

最初、わたしはBさんから、「頭痛やめまいに悩まされている。電磁波の影響ではないかと疑っている」と電話で相談を受けた。わたしは現場を調査するためにBさんの自宅へ足を運んだ。Bさんの自宅には、Aさんの姿もあった。Aさんも、Bさんと同じような症状に悩まされていることをわたしは、その場で知った。

持参した電磁波測定器で、Aさん宅とBさん宅のマイクロ波(携帯電話の通信に使われる電磁波)の強度を測定した。Aさん宅でもBさん宅でも、優に1μW/c㎡を超えていた。1μW/c㎡という数値は、総務省の規制値はクリアーしているものの、欧州評議会の勧告値に比べると10倍も高い。欧州では危険な領域とされる数値に入る。Bさん宅では、2μW/c㎡を超えることもあった。

 

◆森を隔てて巨大な鉄塔型の基地局

近辺に基地局があるに違いないと考えて、わたしはAさんとBさんに、自宅近辺の環境について質問した。しかし、2人とも基地局の形状を知らない。従って基地局があるのかどうかを答えようがなかった。

 そこでわたしは徒歩で基地局の有無を確認することにした。その結果、2人の自宅から、200メートルほどの位置に鉄塔型の巨大な基地局があるのを発見した。鉄塔の周りに、10本以上のアンテナが設置してあった。

基地局は、二人の家からは森に遮られて見えないが、強い電磁波はこの基地局が発生源である可能性が濃厚だった。たまたま基地局の近くで子供が遊んでいたので、

「頭痛や吐き気に襲われることはないか?」

と、聞いてみた。子供らは、「いいえ」と答えた。

◆自宅の周りに巨大な金属フェンス-電子レンジの状態

Bさん宅の玄関から5メートルのところに廃材置き場がある。Bさん宅の敷地と廃材置き場は、金属フェンスで仕切られている。廃材置き場の地形が入り組んでいて、Bさん宅はちょうど「コの字」金属フェンスに囲まれた中央部に位置している。金属は電磁波を反射するので、基地局から放射されるマイクロ波は、金属のフェンスに反射して、Bさん宅を直撃している可能性があった。ただし、Bさんの夫は特に体の不調はないとのことだった。

Aさん宅もそれに近い位置関係になる。

「コの字」型の金属フェンスと電磁波の関係について、わたしは電磁波問題に詳しい大学の専門家に問い合わせた。グーグルの航空写真で現地を確認してもらいコメントをもらった。

「巨大な電子レンジの中で生活しているような状態になっている」

わたしはAさんとBさんに、基地局を所有する電話会社と撤去の交渉をするように勧めた。二人は電話会社に苦情を申し入れたが、電話会社は総務省の規制値を守って操業しているので、対策するに及ばないと相手にしなかった。

◆顕著な被害妄想が現れた

その後、わたしはAさんとBさんから断続的に聞き取り調査を続けた。そのうちに2人とも奇妙な事を口にするようになった。Aさん宅とBさん宅に隣接するCさん(わたしは面識がない)が、夜になると殊更に荒々しく窓を閉めたり、騒音を出したりして、「自分たちを攻撃している」と言うのだった。

植木の鉢も壊されたので、警察に相談したが、相手にしてもらえなかったという。Bさんの方は、体調不良で自宅に住めなくなり、ホテルへ「避難」することが増えているという。実際、わたしに、

「どこか電磁波から逃れられる施設はありませんか」

と、尋ねてきた。

「福島県にありましたが、今はコロナで閉鎖されています」

ふたりの症状はさらにエスケレートした。Aさんは、

「自宅へ戻ってくると、見知らぬ男が投光器で光を放射したり、大声で怒鳴りちらしたりします。部屋の中をのぞかれたこともあります。嫌がらせの電話もかかってきます」

と、話す。

Bさんも同じような妄想めいた内容の苦情を打ち明けた。わたしは、2人の訴えを電話で繰り返し聞いた。その口調から、ウソを話しているとは思えなかった。

AさんとBさんのどちから1人だけに、「妄想」が現れているのであれば、マイクロ波と妄想の接点は弱いが、隣同士の2人が「妄想」を訴えているわけだから、マイクロ波が原因である可能性も考慮する必要があった。タブーに近いテーマを本稿で事例を紹介したゆえにほかならない。

それにわたしは他にも類似したケースを取材したことがあった。たとえば鎌倉市の事例では、男性が「夜になると、基地局からものすごい音がする」と訴えていた。基地局からは、低周波音はですが、「ものすごい音」というほどではない。従って男性の話は、マイクロ波による「妄想」の可能性があった。男性の妻は、音については否定していた。夫妻のうち男性にだけ「妄想」が現れたことになる。

米軍が所有するマイクロ波の武器

◆マイクロ波で精神を攪乱する技術
 
マイクロ波が人間の精神を攪乱することは、昔からよく知られている。この点に着目して、マイクロ波を使った武器の開発が進められてきた。たとえば1977年2月に発行された『軍事研究』に興味深い記事が掲載されている。短いものなので、全文を引用してみよう。

ソ連マイクロ波兵器を開発

国防総省報告によると、ソ連は現在、人間の行動を混乱させたり、精神障害や心臓発作を起こさせるマイクロウエーブ(極超短波)兵器を開発中である。

同報告はさらに、ソ連はすでにマイクロウエーブやその他の波長の電波による人体への科学的作用や脳機能の変化を実施しており、マイクロウエーブの照射によって、敵の外交官や軍部高官の思考を狂わすことを狙っているようだ。

すでにソ連はさきにモスクワの米大使館にマイクロウエブ照射を行って情報収集電子機器を狂わせ、米国務省から抗議を受けている。

また、英国BBCは、「米外交官らがキューバで体調不良、マイクロ波攻撃の可能性=米報告書」(2020年12月20日)と題する次のような記事を掲載している。

米外交官らがキューバで体調不良、マイクロ波攻撃の可能性=米報告書

キューバでアメリカの外交官らが原因不明の体調不良を訴えたのは、マイクロ波に直接さらされたのが原因だった可能性が高いと、米政府が報告書で明らかにした。

米国科学アカデミーがまとめた報告書は、マイクロ波を誰が発していたのかは特定していない。

ただ、50年以上前に当時のソヴィエト連邦が、パルス無線周波エネルギーの効果を研究していたと指摘した。

この体調不良は2016~2017年に、キューバの首都ハバナのアメリカ大使館職員に最初にみられた。

◆「妄想」を取材対象に

マイクロ波を使って精神を攪乱したり体調の異変を誘発する技術は、すでに完成していると言われている。マイクロ波で敵地を軍事攻撃したり、デモ隊を解散に追い込む戦略も実現可能になっている。マイクロ波で、激しい吐き気を引き起こしたり、戦意を喪失させたりする戦略である。

AさんとBさんに見られる「妄想」が、本当に携帯電話基地局からのマイクロ波によるものかどうかは現時点では判断できない。しかし、「妄想」が現れている人を指して、単純に「精神の病」と判断することは避けなければならない。マイクロ波が影響している可能性もあるのだ。

以前、わたしは「妄想」を訴える人は、電磁波問題の取材対象から外していたが、最近は、積極的に取材する方針に変えた。精神疾患が原因で「妄想」が現れたのか、それともマイクロ波が原因で精神疾患になったのかは分からないからだ。

今後も、この問題の推移を追っていきたい。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年11月号

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』