岸田総理は12月11日、核廃絶のための「国際賢人会議」を主宰するために、自身の選挙区である広島1区に「お国入り」しました。広島1区は爆心地や平和公園を含み、筆者の自宅もあります。

 

広島市内で見かける岸田総理の政治活動用ポスター

その総理が、「お国入り」を前後して、暴走が止まりません。前日の10日(土)の夜、突如、総理は記者会見を実施。このために、NHKの人気番組「ブラタモリ」が延期になりました。ネット上でも、非難ごうごうとなりました。筆者は一度も総理に投票したことはありません。ただ、全国の皆様に、地元選出の総理がご迷惑をおかけしているのは事実であり、深くお詫び申し上げます。

筆者は、特に以下のことについて、総理の暴走がひどいと感じました。一つは、軍事費倍増(次の5年間合計では1.5倍)へ向けて1兆円増税。これはとんでもないことです。近日中に軍事費倍増を閣議決定する見込みです。もう一つは、出産費用補助50万円への引き上げです。そのこと自体は良いが後期高齢者医療費に財源を求めていることが暴走です。

◆軍事費倍増そのものが間違いだ

まず、第一に、軍事費倍増の為に増税を行う、と総理は宣言しました。これに対しては自民党内・閣内からも、高市早苗大臣らから軍事費倍増には反対しないが増税には反対する文脈で反発が起きています。

そもそも、軍事費を倍増することに何の根拠もありません。その意味では「防衛費倍増のための増税」の総理も、「防衛費倍増を国債で賄う」の高市大臣も筆者は全く支持できません。

食料もエネルギーもほとんど自給できない日本が敵基地攻撃能力=先制攻撃も可能になる能力を持ったところで、何の役に立つというのでしょうか? 日本を倒すには、ミサイルはいりません。食料やエネルギーの封鎖です。封鎖まで行かずとも、いま、日本は食料やエネルギーを「買い負け」してピンチになっているのは皆様もご承知の通りです。

そして、日本の軍事費倍増は、結局、周辺諸国の軍拡の口実にもされる。そして、例えば中国を相手に軍拡競争になった場合、先に経済的に参るのは、今となっては、GDPが中国よりも少ない日本でしょう。

◆敵基地攻撃能力保有によるリスク

敵基地攻撃能力保持は、日本自身が挑発に乗って先制攻撃に走るリスクも発生します。最悪の場合は、相手国が、「日本を攻撃するかもしれない」という偽情報を流し、真に受けた日本が挑発に乗って、敵基地を先に攻撃する。そして、「日本が先制攻撃した」ことを理由に相手国が「自衛権行使」で正々堂々、臆することなく日本を焼け野原にする。こういうパターンがないと言い切れるでしょうか? 日本は、実際にアメリカの挑発に乗って真珠湾攻撃をしたという「前科」があるのです。

いくら、相手に非があっても先に手を出したほうが悪い。歴史を振り返っても、先に手を出した方が非難を大きく浴びるのです。ついつい忘れてしまうことがあります。

なお、報道によれば、防衛省は、AIで自国民を好戦的に洗脳する工作に取り掛かっています。例えば、対朝鮮ということを考えてみましょう。日本人が防衛省に煽られて、先制攻撃を支持→世界から非難ごうごう&朝鮮からの反撃で日本滅亡、ということもあり得ます。

◆「台湾有事」に介入?!

台湾有事に対応することが必要、という意見もあります。しかし、1979年に米中が国交正常化して以降は、同海峡での直接的な軍事衝突はありません。

台湾を人民解放軍が攻め取ろうとしても、軍事的にはかなり難しいと言われています。大軍を渡海させて上陸させ、なおかつその状況を維持するというのは非常に困難だからです。地続きで平原地帯のロシアvsウクライナとは状況が全然違います。

なお、究極的にはいまだ終結していない「国共内戦」の延長である「台湾有事」が万が一起きたとして、日本が介入すれば、これは内政干渉です。ロシアが、ウクライナの内戦に介入して侵攻したのと変わりはありません。

だいたい、米中が衝突すれば、世界、とくにアジアは大混乱になる。食料を輸入に頼っている日本は大変なことになります。絶対に米中衝突は回避するよう立ち回ることに全力を注ぐべきです。

◆原発を推進しながら「抑止力向上」

岸田総理は、GX=グリーントランスフォーメーションと称して、原発推進に大きく舵を切りました。原発の新増設も辞さない構えです。しかし、冷静に考えると、これは、安全保障上のリスクを増やします。もちろん、原発を攻撃することは、国際法違反です。だが、ロシアのウクライナ侵略でザポリージャ原発が何度も大事故の危機に陥ったように、何が起きるかわからないのが現実です。

武器を増やして挑発をしながら、敵の的を増やしてあげる。総理がしようとしているのはこのような愚行です。

◆緊張激化で遠のく核廃絶、賢人会議開催とも矛盾

総理は、軍事費倍増を進めるその口で、広島で主催されている「賢人会議」では核廃絶について世界に向けてご高説を垂れておられました。「どの口が言うか?」と突っ込まざるを得ません。

繰り返しますが、日本の軍事費倍増自体が、緊張を高めることになります。そして、さらなる周辺諸国の核の増強にもつながりかねないのです。総理がいつもおっしゃる核兵器廃絶への「現実的な取り組み」どころか、核兵器廃絶を遠ざける行動ではないでしょうか?

◆出産費用補助に後期高齢者医療保険流用?!

総理は、出産費用補助を50万円まで引き上げると10日の会見で発表しました。そのことについて異存はありません。しかし、問題は財源です。なんと、後期高齢者医療保険から流用するということです。これは、財源の目的外使用です。しかも、後期高齢者も医療費負担が今秋から爆増し、困っている中です。

世の中には大金持ちの高齢者ももちろん、たくさんおられます。それなら、資産所得への課税を強化すればいいのです。それを軍事費ではなく出産費用補助にも使えばよいのです。あるいは、軍事費倍増をまかなうための増税の軸とされる法人税増税を、軍事費ではなく、出産費用補助に使えばよいのです。

もうひとつは、今の状況で出産費用補助だけ増やしても子どもが増えるかどうかも疑問です。日本の場合、とくにこの数十年は給料が上がっていません。若者は奨学金返済に追われ、年配者は年金が少ないからハードに働かないといけない。こうしたことが人々から希望を奪っているのではないでしょうか?

この点が、いわゆる少子化対策に成功しているとされる欧米諸国とも、人口が増えているいわゆる発展途上国とも決定的に違う点です。そもそも、少子化を解消すべきかどうかも吟味されるべきだが、日本の現状は、それ以前の問題です。そんな状況で、軍事費を倍増ですか?総理。筆者はあなたの選挙区の一有権者ですが、あなたがなさろうとしていることは、意味不明です。

軍事費増加はあっさり決まるのに、社会保障については、内部でやりくりをさせられる。岸田政治の本質がここに現れています。

◆頼りない立憲、総理暴走のストッパーにならぬ

こうした総理の暴走にストップをかけるべきは、野党第一党です。だが、残念ながら、特に広島県内の立憲民主党は、「岸田暴走問題」について頼りないと言わざるを得ません。

個々の議員や支持者の中には、依然として敵基地攻撃能力には反対の方も多くおられます。しかし、広島県選出の立憲民主党の男性参院議員は、2019年の改選時にマスコミのアンケートに対して「憲法9条を変えるべきではない」「防衛力を増強すべき」の両方の回答をしておられました(設問の表現は社によって微妙に異なるが)。

また、筆者がかつて支援をさせていただいた立憲の現職県議も、参院選中の公開討論会の中で「武器を見せつけて抑止することも大事」という趣旨のことをおっしゃっていました。これは武力による威嚇です。日本国憲法違反どころではありません。お二方とも、広島県内で強い武器製造関連労組への忖度があるのでしょう。

もちろん、日本の安全保障上の最大の弱点ともいえる原発についても、広島の立憲民主党は事実上の原発推進労組(武器製造と原発製造は重なる)の「労働貴族党」です。岸田総理へのけん制などのぞむべくもありません。

立憲でも特に岸田寄りないし労働貴族色が強い議員については、「このままではあなたを次の選挙では打倒せざるを得ない」というメッセージを有権者は送っていくべきでしょう。筆者は、既に、立憲の現職県議への支援は中止、私自身が立候補する意向を支持者に示しています。続く動きを期待します。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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