◆「日本の最大の弱点は、核に対する無知」!?

「日本の最大の弱点は、核に対する無知だ」!

これは「安全保障問題の第一人者」とされる兼原信克元内閣官房副長官補(同志社大学客員教授)が4月15日の読売新聞主催のG7広島サミット開催記念シンポジウムで語った言葉だ。

5月に開催されるG7広島サミットを前に「核に対する無知」を正すための米国による対日“核”世論工作がすでに始まっている。

「核の脅威に対する知識を深め続ける」!

フジTV「プライムニュース」に出演したブラッド・ロバーツ元米国防次官補代理(オバマ政権で核・ミサイル防衛担当)は「核に無知な」日本人にこのように「提言」した。

この「提言」を行ったブラッド氏は、自分の研究所、グローバルリサーチセンターの所長として一つの「報告書」をまとめた。この「報告書」作成に米国人以外の唯一の外国人、高橋杉雄防衛庁防衛研究所室長を参加させた。この一事をとってみてもこの「報告書」が誰のために作られたものかがわかるだろう。

 

プライムニュースの「報告書」写真

一言でいってこの「報告書」は「核に無知」な日本人に「核の脅威に対する知識を深め」させるための「啓蒙の書」だと言える。

題して「第二の核超大国、中国の台頭-アメリカの核抑止戦略への影響」がそれだ。

「報告書」の内容は題名の通り「中国の核の脅威」を説くことと、これに対応する新たな米核抑止戦略について述べたもの。

まずは「ロシアの分析」。

そこではプーチン体制が続けば、ロシアは「核挑発を繰り返す」とし「核兵器への依存を高め、早期使用に頼る可能性が高い」と分析。

要するに、ロシアによる核戦争挑発の危険が高まっていますよという日本人への「警告」だ。

次に中国の「核軍拡」への警鐘。

中国は核大国として今後10年ほどで質量的にアメリカと同等の存在となる。現在の新型ミサイルの大量導入もいまある現実の脅威であること。

核弾頭数でいえば、中ロ合わせて3,000発に対して米国1,500発という不均衡が生じる。これが現在の深刻な「核の脅威」であると「警告」。

だから核戦争挑発のロシアと第二の核超大国、中国に対抗する新たな核抑止戦略として、米国はアジアと西欧の同盟国と協力して抑止力強化の役割分担を新たに定めるべきであること。

これが「報告書」の結論だ。

「プライムニュース」出演のブラッド氏は、特にアジアにおいて日本は「ミサイル防衛」でいちばん大事な同盟国であり、米国と共同で核抑止力を高める責任を負うべきであることを強調した。

この責任を日本に負わせる上で最大のネックになるのが「核に対する無知」な日本人の非核意識だ。だから5月開催のG7サミットで広島から発せられるメッセージは「核に対する無知」な日本人を啓蒙、覚醒させるものになるであろうことは明らかだ。


◎[参考動画]核超大国・中国の脅威と抑止戦略〈前編〉2023/4/17放送

◆「葛藤から逃げずに議論」、これが「広島の声」!?

5月のサミットを前にした4月15日、読売新聞主催のG7広島サミット開催記念シンポジウムが「被爆地」広島で持たれた。

このシンポジウムへのメッセージで川野徳幸・広島大平和センター長は次のように呼びかけた。

「今後、核廃絶の理想と、米国の“核の傘”に守られている現実の隔たりが深刻化するかもしれない。それでも、その葛藤から逃げずに議論するべきだ」

この発言を受けて「葛藤から逃げずに議論」、これが「広島の声」だという形で読売新聞は伝えた。

「広島は核なき世界をかかげるシンボリックなまちで、これまで核抑止論を含む安全保障の問題を正面切って議論することは少なかった」、つまりこれまでは「核廃絶という理想と現実の葛藤となる」核抑止の議論を避けてきた、しかしいまは現実の核の脅威から「逃げずに核抑止を議論」すべきことをこの広島大平和センター長は訴えたのだ。

一言でいって、G7広島サミットを契機に、非核日本のシンボルの地からの訴え、「広島の声」として、「核抑止力強化」の議論を「葛藤から逃げずに」高めていこうということだ。

冒頭で上げた「日本の最大の弱点は、核に対する無知」なる兼原信克発言の意図するもの、それはいまや「核に対する無知」を克服すべき時、「核抑止力強化」を議論すべき時であること、これを「広島の声」として発信していこうということであろう。


◎[参考動画]G7広島サミット開催記念シンポジウム③ 被爆者の声 広島の声

◆「葛藤から逃げずに議論」すべきこととは?

「核に無知」な日本人が「葛藤から逃げずに議論」すべき課題については、すでに上述のブラッド・ロバーツ元米国務次官補代理は語っている。読売新聞の取材に答えたものだ(2月15日付け一面トップ記事)。

「岸田首相は核廃絶という長期目標に向けた現実的なステップを踏みつつ、核兵器が存在する限り核抑止力を効果的に保つというアプローチを明確にすべきだ」と、まず議論の前提を述べた。

その「核抑止力を効果的に保つアプローチ」についてブラッド氏は具体的に二つの課題を提示した。

第一は、「アジアに核兵器が配備されていない核態勢は今日では不十分」だということ。

これは日本の「非核三原則」を見直し、せめて日本への核配備、「核持ち込み」を容認しないと危険なことになりますよという警告だ。ブラッド氏にとっては非核三原則は「核に対する無知」な日本のシンボルなのだろう。

第二は、NATOのような核使用に関する協議システム、「日米核協議の枠組みが必要」だということ。

この「日米核協議の枠組み」と関連して日韓首脳会談開催決定を受けて早速、動き出したものがある。 

読売新聞(3月8日朝刊)は一面トップ記事で米政府が「“核の傘”日米韓協議体」創設を打診していることをワシントン特派員がリークした。そこでは「韓国は有事に備えた核使用の協議に関心を示している」が問題は日本政府だとして岸田首相に「有事に備えた核使用」、すなわち日米「核共有」の議論に踏み込むことを暗に求めている。

これはNATOと同様に米国と日本との「核共有」システム、有事には自衛隊も核使用を可能にする協議システムが必要だということだ。

米国の狙いは、米国の核抑止力の一端を自衛隊に担わせること、自衛隊に核攻撃能力を持たせることだ。具体的には「核共有」実現によって新設された自衛隊スタンドオフミサイル(中距離ミサイル)部隊に核搭載を可能にすることだ。

その先にあるのは米国が対中対決の最前線を担わせる日本の代理“核”戦争国化、「東のウクライナ」化だ。

これがG7広島サミットで発信される「広島の声」、「葛藤から逃げずに議論」する「核抑止力強化」論の帰結だ。


◎[参考動画]G7広島サミット開催記念シンポジウム① ブラッド・ロバーツ元米国務次官補代理の基調講演「緊迫する安全保障環境 米国の核戦略は」

◆「非核の国是」放棄か堅持か、日本の性根が問われる時

読売TV「深層ニュース」出演の兼原信克・元内閣官房副長官補は「核に対する無知」な日本人をこう脅迫した。

「非核の国是を守ることが大切か、国民の命と安全を守ることが大切か、議論すべき時が来た。答は明らかでしょう」

非核の国是を日本の安全保障と対立するものとする「安全保障問題の第一人者」。まるで非核が「核に対する無知」の象徴かのような詭弁、国是の愚弄を許してはならない。国是を愚弄することは日本という国を否定することだ。まさに日本の性根が問われている。 

「核に対する無知」な日本の象徴として被爆地・広島を愚弄するG7広島サミット、そこから開始される「葛藤から逃げずに議論」せよという対日“核”世論工作を許してはいけないと思う。

非核の国是は日本の安全保障と対立するものではない、いや「非核の国是堅持」こそが強固な日本の安全保障であることを明確にすべき時が来た。

若林盛亮さん

▼若林盛亮(わかばやし・もりあき)さん
1947年2月滋賀県生れ、長髪問題契機に進学校ドロップアウト、同志社大入学後「裸のラリーズ」結成を経て東大安田講堂で逮捕、1970年によど号赤軍として渡朝、現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』