小野俊一医師

3.11直後から毎日休みなく福島第一原発動向をブログで発信し続けてきた「onodekita」さんこと小野俊一医師。東電、福島、被曝をめぐる諸相からメディア・識者批判にいたるまで、縦横無尽に語ってもらった200分インタビューを8回に分けて随時掲載する。今回はその第7回目。

◆連関する「福島」と「水俣」

── 福島の流れはむしろ水俣と同じ道を辿っているように思います。

そうですね。熊本日日新聞の山口和也編集委員も水俣と福島の関連性を書かれています。このふたつはたしかにそっくりです。ひとつ違うのは、水俣病の原因について、熊本大学はその原因は有機水銀ではないかという説を最初に出した。しかし、それを東京大学が否定した。「田舎の大学が変なことをいうな」という感じで、熊本大の説を潰していった。また、水俣の商工会は東大の説を支持して、チッソで生きている町がチッソを悪者扱いしないようにしむけていった。しかし、事実を歪曲されてもその事実は後になって蘇り、いまの水俣訴訟となっていくわけです。

一方、いまの福島ではどうかというと、福島県立医大は率先して被曝を隠す側に回っている。地元の医師会も同じです。事故では被曝の被害は出ないと言い続け、なにか起きても、それは放射能のせいではないと平気で言う。開業医でさえそうした態度です。世間は開業医も所詮医師会の圧力を受けていると考えがちですが、そうではない。むしろ、私も含めて開業医の中には医師会の言うことを聞かない医師がたくさんいます。医師会は世間が思っているほど権威などありません。なのに福島の開業医の中から被曝の現実をきちんと語る医師が出てこない。いろんな問題があって、ここはいえないという姿勢をとってしまうのもあるでしょうが、それにしても福島の開業医から何も意見が出てこないのは酷いです。

◆お金で解決できない核廃棄物問題

── 事故の責任でいえば、東電は一度解体した方がよくありませんか?

事故後、日本政府は原子力規制委員会をいったん解体しました。それで起こったことは、重要な資料などが散逸してしまい、逆に訳がわからなくなった。これは日本の悪いところですが、人が変わると、資料や業務の引継ぎがおかしくなる。機関をばらばらに解体しても、その後、同じ人がやらざるを得ない。だから私は東電は東電のままで、活かすしかないと思っています。おそらく東電を解体したら、もっと悪くなる。下手をしたら原発のことをぜんぜん知らない人間が行くかもしれない。東電が無能なのは確かです。しかし中には有能な人もいて、それで現場がなんとかもっている。しかも、内部の建設業者や請け負い業者との関係もある。こうした関係を福島原発で解体することは、太平洋戦争の最中に日本が軍部を解体するようなものです。もっと悪くなる。いまの方がまだましだと思います。

── ただ、発送電分離などはやった方が明らかにいいですよね?

そこはそうですね。むしろそこは早く分けないと電力会社が先に原子力事業を切って責任逃れをしそうです。原子力事業が火力、水力よりコストが高いのはすでにわかっている。でも、国策だからやっていた。送配電分離をしたら原子力は持てなくなる。でもこれまでの原子力は発電しなくても、誰かが維持管理しなければいけない。そのための人は残さなくてはいけません。もしも原子力を国が管理するとなれば、原発に役人が来ることになる。そんなことになればもっと悪いことになるでしょう。

── 大学に廃炉学の学科を創設して人材を育てるとかしないでしょうか?

廃炉はあくまで後ろ向きの事業です。すでにあるものをいかに片付けるかが目的になりますから、若い人にとっては夢がない。優秀な人であればあるほど、何もないところで何かを新しく作り上げていくことが好きです。だから廃炉のように先人がいい加減にしてきて残したものを担う学科であれば、少なくとも理系のトップは騙されていかないでしょう。逆にそれで騙されていくような人たちはその程度の人なのだと思います。

廃炉に関してはなかなか良い答えがないのも事実です。廃炉庁を創設したりするのもありえますが、結局、廃炉の一番の目的は放射性廃棄物をどう処理するかです。これはいままで米国などが70年近く研究してきたけれど、結局、その解決法の現状は地中に埋めるぐらいが関の山。そんな分野を日本人が大学で学科を作ってやったとしても何も答えは出てこない。

そもそもトイレのないマンションをどうするべきなのか?を誰も考えてこなかった。これまではお金でなんとか解決できるだろうと思っていたが、どうやら金で解決できる問題でもなさそうだという感じです。

フランスなどは再処理をしようとしていますが、それでも再処理燃料の八割~九割は廃棄物になる。その捨て場所がなかなか見つからず、現状はシベリア送りです。それでロシアは儲けている。米国、フランス、英国の原子力学者と日本の学者とどちらが優秀か?と問われれば、当然、実際に原発や原爆を作った経験のある国の学者に勝てるわけがない。

核廃棄物の再処理問題でわかることは、人類には金で解決できない問題があるということです。金さえつければ解決できるという風潮がいま凄くありますが、死んだ子を生き返らせるのは1兆円使ってもできません。再処理もそういう問題で、そこでどうするか?ということです。[つづく]

[2014年6月26日熊本市 小野・出来田内科医院にて]
(構成=デジタル鹿砦社通信編集部)

ブログ「院長の独り言」

▼小野俊一(おの しゅんいち)(小野・出来田内科医院院長)

1964年広島生まれ宮崎育ち。東京大学工学部(精密機械工学科)を卒業後、1988年に東電に入社。福島第二原発(5年間)と本店原子力技術課安全グループ(2年間)で7年間勤務。1995年に退社後、熊本大学医学部に入学し、2002年卒業。NTT病院等の勤務を経て、熊本市の小野・出来田内科医院院長。『フクシマの真実と内部被曝』(2012年11月七桃舎)

◎ブログ「院長の独り言」 http://onodekita.sblo.jp/

 

◎onodekitaさん200分インタビュー[全8回]

《原発放談01》福島の放射能被害はチェルノブイリより酷くなる(2014年9月15日)
《原発放談02》東電の「できる人」は役人に決してNOと言わない(2014年9月17日)
《原発放談03》自分で真実を想定していくしかない(2014年9月19日)
《原発放談04》そもそも早野龍五さんは原発を知らないです(2014年9月21日)
《原発放談05》被曝由来の病気は「個発」でなく「群発」(2014年9月24日)
《原発放談06》分断される「原爆」と「原発」(2014年9月26日)
《原発放談07》連関する「福島」と「水俣」(2014年9月30日)

 

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