携帯電話の基地局設置をめぐる電話会社と住民のトラブルが絶えない。この1年間で、わたしは40~50件の相談を受けている。今月に入ってからも2件の相談を受けた。両方とも、問題を起こしている電話会社は楽天モバイルである。相談者はいずれも、知らないうちに基地局が設置されていたと訴えている。

5Gの基地局

宮城県丸森町のケースでは、町が所有する土地に楽天が基地局を設置した。工事中はシートで工事現場が覆われていたので、その内側で工事が行われていることには気づかなかったという。筆者は、工事を請け負った業者に事情を聞くために何度も電話したが、一度も応答することはなかった。

わたしに情報を提供した町民によると、地方都市に特有の閉鎖的な空気があり、町役場の方針に反旗を翻しにくいという。町会議員に相談するようにアドバイスした。裁判所に調停を申し立てる方法があることも伝えておいた。

◆東京都大田区のケース

東京都大田区東矢口では、俗にいう「電磁波過敏症」に罹患したAさん(女性)が苦情を訴えている。自宅マンションから100メートルほどの近距離にあるマンションに楽天が基地局を設置したという。近くには別の基地局もあり、Aさんとっては日常生活に困難を来たす状況だ。基地局と自宅の間には、障害物がないので、電磁波が住居を直撃する。

Aさんの自宅近くに設置された基地局

Aさんは2014年まで米国に生活の基盤を持っていた。米国に多いオール電化のマンションに住み、Wi-Fiを設置するなど、後から考えると「電磁波過敏症」を発症しやすい環境で生活していた。香料の類いも必需品として日常的に使っていた。

「電磁波過敏症」と化学物質過敏症は併発することが多い。いずれも電磁波や化学物質により神経が攪乱され、脳が誤作動してさまざまな症状を発現させる。Aさんの場合は、化学物質過敏症を先に発症した。

ある日、電車に乗っているとき、香水の匂で気を失いそうになり、つり革につかまった。これを機に身体が化学物質に敏感に反応するようになった。その後、電磁波にも体が反応するようになったのである。

現在では電子レンジもスマホも使えない。職場にいるときよりも、自宅にいる時のほうが顕著な症状がでるという。

◆朝霞第2小学校の正門前の楽天基地局

わたしの自宅の近くにも楽天モバイルの基地局が立っている。埼玉県朝霞市の朝霞第2小学校の正門から、50メートルほどの距離である。簡易の測定器で電磁波の密度を測定したところ7.35μW/c㎡という数値(2022年6月)がでた。欧州評議会の勧告値が0.1μW/c㎡だから73.5倍の強度である。危険な領域だ。

楽天モバイルに対して撤去を申し入れて1年になるが、何の措置も取っていない。児童の安全よりも、電話事業を優先しているのである。

また、やはりわたしの自宅近くにある城山公園の敷地内に、KDDIが2020年8月、基地局を設置しトラブルになったが、放置されたままである。公有地の賃借料が月額360円程度である。ただ同然で朝霞市が提供しているのだ。

電話会社が基地局問題の対策を取らない背景には、ビジネスを優先するメンタリティーと、電磁波による人体影響を正しく理解していない事情があるようだ。

◆電磁波による人体影響は客観的な事実

電磁波や化学物質による身体の不調は、心因性のものもかなりあるが、一定の割り合いで「電磁波過敏症」の患者が存在する。罹患すると生活に支障を来たし、重症になると電磁波の「圏外」に逃げなければ生活できなくなる。事実、わたしの知人で、電磁波の届かない長野県の山中に住居を移した人もいる。患者本人にとっては非常に厄介な病気なのだ。

たとえ頭痛や吐き気、目まいといった症状がなくても、基地局の近くでは、癌が多発していることが、海外の疫学調査(ドイツ、ブラジル、イスラエル)で明らかなっている。5Gで使われる電磁波の安全性に関しては、現時点では確定的な評価をするだけの十分なデータが揃っていないが、電磁波にはエネルギーの大小にかかわらず遺伝子毒性があることが判明しており、当然、5Gの電磁波にも高いリスクがある。

しかし、電話会社は、「総務省の規制値を厳守している」の一言で、住民の迷惑をかえりみずに、電話ビジネスを拡大している。基地局の設置は、自分たちの権利でもあるかのように振舞っている。

わたしは楽天に対して、次の2点を問い合わせた。

【質問事項】

基地局設置をめぐるトラブルについて、貴社の見解をお尋ねします。

現在、わたしは次の3件の係争を取材しています。

① 宮城県丸森町の町有地に貴社が基地局を設置しようとしている問題。
② 大田区東矢田のマンションに貴社が基地局を設置した問題。
③ 埼玉県朝霞市の朝霞第2小学校の正門から50メートルの地点に貴社が基地局を設置した問題。

①~③のケースでは、住民に対していずれも事前に十分な説明をしなかったと聞いております。

今後、住民の健康状態をどのようにして確認されるのでしょうか。

22日の夕方までにご回答ください。

【楽天モバイルの回答】

お問い合わせいただいている件につきまして、
ご連絡までお時間をいただき恐縮ですが、以下の通り回答申し上げます。

①~③への回答:
「お問い合わせいただいている件でございますが、個別の事案については回答を控えさせていただきます。」

以上、ご確認の程、よろしくお願いいたします。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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