◆「解散・総選挙」騒動

昨年7月、参院選での圧勝により、自民党は、「黄金の三年」を迎えた。向こう三年間、国政選挙なしに好きに政治ができると言うことだ。

一方、長期に渡り続いて来た自民、公明の選挙協力には、ひびが入って来た。自民側の選挙での協力拒否に怒った公明側が東京都での自民との選挙協力について破棄を言い渡してきたのだ。

岸田首相の口から「解散・総選挙」の話が漏れたのは、そうした中でのことだった。

「寝耳に水」とはこのこと。誰もがこの報には耳を疑った。特に慌てたのは、当の自民党だったのではないのか。「こんな時に総選挙をなぜやるのか。敗北必至だ」という声が挙がる一方、親米派第一人者、麻生太郎氏からは、「一人でできない奴は資格がない」という声が挙がるなど、党内は右往左往だ。

自民党、そして全政界を巻き込んだすったもんだの末、「今国会中は選挙はやらない」の岸田首相の言により、ひとまず一件落着。「選挙は秋の臨時国会終了後」ということで収まっているかに見える。

だが、火はまだ完全に消えたわけではない。それより何より岸田首相は、なぜあんなことを言ったのか、疑問はくすぶったままだ。

◆今なぜ「解散・総選挙」なのか

「解散・総選挙」。この岸田発言をめぐって考えられるのは、「様子見」だ。そのように言えば、政界はどう動くか。反応を見ることに目的があったのではないのか。

もちろん、岸田首相自身、「様子見」をすることは有り得る。だが、その場合の、政界、自民党内、あるいは国民の間での反響など、首相にとってのマイナス面は小さくない。

では誰か。岸田氏でないとすれば、誰の意図、誰の要求から、あの発言はなされたのか。そう考えた場合、考えられるのは、やはり「米国」しかない。米国側の何らかの示唆により、岸田首相が「解散」を口にしてみた。これは十分に有り得ることだ。

この辺りから、話は完全に、私個人の独断と偏見になっていくのだが、もし仮にそのようなことがあったとしたなら、米国は一体なぜ、何のためにそうしたのだろうか。

そこで考慮すべきは、今、米国がその覇権回復戦略として、「米対中ロ新冷戦」を敢行して来ており、日本をその最前線に押し立てて来ているという事実だ。

この「新冷戦」にあって、米国は、「民主主義陣営」と「専制主義陣営」、二つに世界を分断し、後者を包囲する一方、前者に属する同盟国、友好国を米国の下に統合することにより闘いを有利に進めようとしている。中でも日本との統合は、あらゆる意味で、その模範として決定的な意味を持つ。駐日米大使に「剛腕」で知られる元大統領首席補佐官、ラーム・エマニュエル氏を据えて来たのもそのためではないのか。

今、鳴り物入りで宣伝されたウクライナによる「5月反転攻勢」が行き詰まり、戦争がロシアペースで長期化の様相を強める一方、「新冷戦」で米国が中ロとの二正面作戦に耐えられず、中国との和解に出ざるを得ず、G7でのインドやブラジルなど、グローバルサウスの国々の引きつけにも失敗して、非米主権国家群が米国との距離をさらに大きくしている今、米国にとって、日本との統合は、一層急を要する切実なものになっている。

こうした時の「解散・総選挙」は、当然、それを促進するものになるはずだ。だが、執権党、自民党にとって、当面の「解散・総選挙」は、先述したように、決して有利ではない。むしろマイナスの面が大きい。自民党内から懸念の声が挙がったのはそのためだ。ではなぜ、米国は「示唆」をしたのだろうか。

◆狙われる「政界再編」

今、「解散・総選挙」があった場合、一番有利だと目されているのは日本維新の会だ。一挙にその議席数は、倍増するのではないか。一方、他の諸党はよくて微増。自民党に至っては、公明党との不調の中、下手をすると大幅に議席を減らす可能性すらある。

こうした中、岸田首相に「解散」を示唆したとするなら、米国の狙いは何か。

それについて、この間、見えてくるものがある。それは、「政界再編」への動きだ。

小沢一郎氏が立憲民主党、国民民主党、そして自民党などの国会議員に呼びかけてつくった「一清会」(15人)、前原誠司氏が国民民主党、日本維新の会、立憲民主党、そして自民党など超党派で募った台湾行きの代表団、この立て続けに現れた政党、党派を超えた動きは何か。これと「解散・総選挙」は連動しているのではないか。

元来、この数年、国政、地方政治を通じて、その選挙をめぐり自民党内の分裂は甚だしいものになっていた。党中央と地元の対立、派閥間の抗争、それが中央の統制を聞かず激化し、党内分裂選挙が常態化してきていた。

こうした中、自公の選挙協力が破綻したらどうなるか。自民党の分裂、さらには立憲民主党や国民民主党の分裂までそれが波及して大きな政界再編にまで発展する可能性はすでに十分すぎるほど熟している。

そこで考慮すべきは、その政界再編が何をめぐって推し進められるようになるかだ。

先述したように、今、日本に提起されている最大の問題は、日本が「米対中ロ新冷戦」の最前線に押し立てられ、それとの連関で「日米統合」が要求されてきていることだ。それを置いて他にない。実際、安保防衛から経済、教育、地方地域、社会保障とあらゆる部門、領域にわたって、日米の統合に向け、各種改革が要求され、敢行されてきている。新設された自衛隊統合司令部やデジタル庁だけではない。すべての大手企業や大学、地方自治体に至るまで、指揮と開発の日米統合が強行されてきている。

それが日米間の激しい摩擦を陰に陽に生み出さないはずがない。事実、トヨタなどで会長職の人選をめぐり、米助言会社の方から豊田章男会長をはずせとの「助言」が入り、それにともなう米系株主の動きが見られるなど、熾烈な日米の攻防が繰り広げられてきている。

この全国、全領域に及ぶ攻防が今起きている政界再編への動きと無関係であるはずがない。

◆内外情勢発展と「解散・総選挙」の早期強行

日本内外の情勢発展にあって米国は、「解散・総選挙」の早期強行とそれにともなう日本政界の根本的な再編を求めている。もはや、これまでの自民党体制では、安保防衛、経済、教育など、日本のあり方をその根本から変える改革など、激動する内外の情勢発展に対応することはできないということだ。そこから、自民党内改革派や「改革」の旗を掲げる日本維新の会、そして立憲民主党、国民民主党内改革派などを結集しての日米統合・改革新党や連合の早期結成、形成が狙われているのは、容易に予測されることだ。

これに対し、中ロと対決する「米対中ロ新冷戦」にはとてもついていけず、米国の下に日本が統合される改革である日米統合の改革にも賛成できない自民党をはじめ各政党内の勢力は、いまだその自覚と目的意識性が明確でなく、その結集軸も定まらず、結集力も弱く未熟な情況にある。この有様で「解散・総選挙」に直面したらどうなるか。彼らがとてもそれに対応できないのは目に見えている。米国が求める日本の政界再編を実現する好機ではないのか。

その上、目を外に転じれば、米英メディアによる「大本営」発表にあっても隠し果せないほど、あのウクライナ戦争の帰趨はますますロシアに有利に転じており、「新冷戦」の趨勢も中ロなど非米の自国第一、国民第一の優勢が一層明確になり、米国内にあっても「米国第一(アメリカファースト)」のトランプの勢いが数々の妨害を乗り越え、それを力にして、増大してきている。

この内外情勢の進展が、日本の「解散・総選挙」のできるだけ早期の実施を要求して来ているのは十分に予測可能なことではないだろうか。

◎ピョンヤンから感じる時代の風 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=105

小西隆裕さん

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年によど号赤軍として渡朝。現在「かりの会」「アジアの内の日本の会」会員。HP「ようこそ、よど号日本人村」で情報発信中。

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

『一九七〇年 端境期の時代』