大阪市長の橋下徹が在特会(在日特権を許さない市民の会)会長の桜井誠と10月20日、「面会」した。報道によると両者は「お前!」「お前と呼ぶな!」など罵倒に終始し小競り合いにSPが止めに入るなど、大した内容もなく10分で「面会」を終了したと報じられているが、その10分間に交わされた会話を子細に見ると、これは単なる怒鳴りあいではない。

まず、橋下は面会に先立って先週行われた会見で「在特会もだいぶまともになったんじゃないですかね。今日の主張なんか見てると問題ない範囲ですよ」と述べている。

何が問題ない範囲だ! 橋下にとって問題ない範囲は差別に対しては「無限大」。だから奴の尺度で判断されること自体が的外れだ。在特会が繰り返す「朝鮮人は国に帰れ」、「在日はゴキブリ」という表現に問題はないという大阪市長。温度も冷え込んできたからそろそろ道頓堀にでも飛び込んで頭を冷やしてはいかがか?

◆同じ穴の狢(むじな)

「会談」当時の内容も一見単なる怒鳴りあいに見えて、子細に見ると内容の上で双方が合致している。

橋下:大阪でな。大阪でもうそういう発言を止めろって言ってるんだ。
桜井:どういう発言かって聞いてるんだよ!
橋下:民族とか国籍を一括りにしてな、評価をするようなそういう発言は止めろって言ってるんだ。
桜井:朝鮮人を批判するってことがいけないって言ってるわけ?
橋下:お前な……(笑)。

ここで桜井が朝鮮人を批判するのがいけないのか、と聞いているのに対し、橋下は「お前な・・・(笑)」と朝鮮人差別を否定していない。また、

橋下:お前、国会議員に言え。
桜井:は?
橋下:お前の主張は国会議員に言えって言ってるんだ。
桜井:あんたの友達の国会議員に言ってるよ。
橋下:おう言えよ。
桜井:おう言ってるよ。
橋下:どんどん言えよ。
桜井:うん。それで終わりじゃねえか話は。
橋下:参政権を持ってない在日韓国人に言ってもお前、しょうがねえだろ。
桜井:その参政権を求めてるだろ彼らは。

と桜井は地方参政権を求めていることがあたかも「悪」のように断言しているが、それへの橋下の回答は、

橋下:強い者に言えよ。そんな弱い者いじめばっかりするんじゃなくて。

と極めてあいまいに逃げており、決して差別を否定していない。また、

橋下:……だからもうそういうな、在日の特定永住者制度とかそういうことに文句があるんだったら、それを作った国会議員に言えって言ってんだ。
桜井:言ってるんだよ! そして何よりもね、特別永住者制度なくしたらどうなるかくらい、わかるだろ?
橋下:だから、国会議員に言え。
桜井:言ってるって言ってるだろ。
橋下:特定の個人をな、ルール違反のことをやってる特定の個人がいるんだったら、刑事告発しろ。民族をまとめて、国籍をまとめて、それについて評価を下したり、ああいう下劣な発言は止めろ。

橋下は「特定永住者制度文句があるんだったらそれを作った国会議員に言えって言ってるんだ」と発言している。橋下自体が「特定永住者」制度に異議があるとも受け止められる発言だ。しかも制度に異議があるのならば政治家に言えというのは、逃げの発言だ。自分が桜井と「面会」を承諾しておきながら自分では何も責任を取る発言をしていない。

それはそうだろう。奴らは二人とも「同じ穴の狢(むじな)」なのだから。極めつけは次のやり取りだ。

橋下:もうとにかく、大阪ではお前みたいな活動はいらないから、ちゃんと政治的な主張……
桜井:私がいつそういう主張を大阪でやったんだって聞いてるんだよ。
橋下:政治的な主張と、通常の主張を、ちゃんと表現の自由に収まる範囲に変えろって言ってるんだ。
桜井:お前に、この間なんか見たけど、「在特会はおとなしくなった」とかなんとか言ってたろ? ああいうデモしか我々はやったことないんだよ! それ以外でね、あんたがいうヘイトだなんだっていうデモがあったんだったら、ちょっと日付言ってくれるか?

橋下は「大阪ではお前らみたいな活動はいらないから」と発言している。逆に言えば「大阪以外のことは知らない」ということだ。ちょっと待て橋下!
お前は大阪市長でもあるが、国会議員を擁する「維新の党」の共同代表ではないのか? 野党とはいえ一定数の国会議員を抱える政党の責任者が、「国会議員に言え」、「大阪ではやるな」など無責任にもほどがある。これでは「桜井と俺はちょっと立場が違うけど基本的に考えは変わらないよ」と発言しているも同然だ。

◆在特会を世間に広める効果

来年4月の統一地方選で、元在特会の人間が維新の党から選挙に出馬することが判明した。元在特会といっても、思想がそう簡単に変わるものではない。そのことについて大阪維新の会の松井大阪知事は「もう考えは変わっているから問題ない」と発言した。当人の思想点検やったのか? アホぬかせだ!

「弁護士タレント時代」にテレビで無責任な差別発言を連発して以来、橋下は確信的な差別者である。しかもこいつは、決定的にずるい。光市母子殺人事件の弁護団懲戒をテレビで呼びかけながら、自分自身は「それに時間を割く価値を感じなかった」と厚顔にも発言した。さすがにこの行為は大阪弁護士会で問題とされ懲戒処分を受けている。テレビでの懲戒呼びかけに日頃から「騙され続けている」人々が大挙参加し、弁護士としてごく当たり前の仕事をこなしている弁護団が、あたかも「悪人」のように報じられた。

テレビ報道で今回桜井を初めて知った方々には桜井が酷い物言いをする人間との印象が残っただろう。が、同時に橋下が同じレベルで話をしていた内容の危険さに気づいた人は少ないのではないか。私は今回の「面談」は両者の間で最初からストーリーが決められていた、猿芝居に思える。そうでなければ、言葉の上では喧嘩をしているように見えて、在特会の認知を世間に広める効果を持っただけだ。

断じておこう。橋下、桜井は同種の人間であり、橋下流に言えば「お前ら二人とも日本にはいらない!!」

▼田所敏夫(たどころ・としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しない問題をフォローし、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心が深い。

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