4月15日福井新聞社説は「高浜原発再稼働認めず 重い警告どう受け止める」と銘打たれた文章だ。この社説は新聞社説の見本のようだ。

あれこれ瑣末な事柄を述べた上で、結局何が言いたいのかをぼやかす。

だから新聞の「社説は面白くない」と言われる典型と言っていいだろう。この日の社説、最後の部分だけ紹介すると、「樋口裁判長は大飯原発訴訟で『学術的論議を繰り返すと何年たっても終わらない』と指摘したように早期判断に導いた。今後、上級審で一体誰がどのように判断していくのか、司法全体の責任は一段と重くなる」と結ばれている。

原発の危険性への総合判断を避けて、司法の責任追及に矮小化せざるを得ない原発立地、福井新聞の苦しい立場を物語る結びである。

◆アクセス上位記事に表れる福井新聞の歪んだ本音

しかし、福井新聞の本音はその他の記事によって明らかだ。福井新聞のHPにはこの1時間でのアクセス数上位10本と、24時間でのアクセス数上位10本を掲載しているが、その中で紹介されているのは、

[1] 「差し止め決定文に「曲解引用」 困惑する地震動の専門家」(2015年4月15日午前7時40分)

[2] 「再稼働ノーで不安募る高浜町民 原発反対派からは歓迎の声(2015年4月15日午前7時10分)

[3] 「高浜町長、地裁決定は『別の土俵』 従来姿勢に変わりない考え」「(2015年4月15日午前7時20分)

[4] 「高浜原発再稼働差し止め決定要旨 全文は福井新聞D刊(デジタル版)で公開」(2015年4月14日午後8時30分)

[5] 「大飯原発差し止め訴訟5日控訴審 福井地裁判決の是非を問う」(2014年11月4日午前7時40分)

[6] 「福井地裁、高浜原発再稼働認めず 仮処分決定、規制委合格事実上否定」(2015年4月14日午後4時06分)

[7] 「高浜再稼働は電源構成と並行し判断 福井県知事、既存原発の活用強調」(2015年4月14日午前7時20分)

[8] 「高浜再稼働差し止め仮処分決定いつ 14日福井地裁、大飯認めた裁判長」(2015年4月10日午前7時20分)

[9] 「再稼働差し止め仮処分の判断基準は 高浜と大飯原発、14日に判断」(2015年4月12日午前7時05分)

15日夕刻現在、総数20本の中で原発関連では上記9記事が「この1時間」もしくは「この24時間」に高いアクセス数を記録している。

[1]-[3]は仮処分後の記事で中立を装っているが私の目にはそうは映らない。記事の根底には仮処分決定への反発が伺われる。[4]は仮処分決定文章であるので、これは中立である。[5]は昨年の大飯原発再稼働判決前に掲載された記事で、この記事も事実のみを伝えているので中立である。

[6]は概ね事実を述べているが、文末が「原発訴訟で住民側が勝訴したのは、高速増殖炉もんじゅ(福井県敦賀市)の設置許可を無効とした2003年1月の同支部判決と、北陸電力志賀原発2号機(石川県志賀町)の運転差し止めを命じた06年3月の金沢地裁判決がある。しかし、いずれも上級審で住民側の敗訴が確定している」となっており、言外に上級審では判断が覆っていることへの期待感を感じる。

[7]は四選を果たした福井県の西川一誠知事の原発についての見解が一方的に述べられている。話にならない。

[8]は「樋口裁判長は昨年5月、大飯3、4号機の運転差し止めを認めた福井地裁判決を出している。関電側が名古屋高裁金沢支部に即時抗告している担当裁判官3人の交代を求めた忌避については、9日時点で関電側に結果は届いていない。住民側は、決定の期日決まったことで忌避の即時抗告は棄却されたとみている。高浜3、4号機は原子力規制委員会が2月、安全対策が新規制基準に適合する として事実上の審査合格を決めた。再稼働に向けた地元同意手続きでは、高浜町議会が3月に同意。高浜町長の判断や県議会の議論の行方、知事の判断に注目が集まっている」と関電寄りの姿勢で結ばれている。

[9]は事実のみを述べた中立記事だ。

このように(私の目から見ればだが)9本中5本は明らかに中立を欠き、原発存続若しくは推進の記事で、3本は中立、残り1本も中立とは言いがたい立場から記事が構成されている。

地元住民の本音がこの記事に反映されているのか、あるいは福井新聞が地元住民の民意を先導しているのだろうか。

◆原発に詳しい記者が直ぐに動ける中日新聞の効用

福井新聞とは逆に、原発問題に関してはブロック紙の中でも熱心な中日新聞と東京新聞記者に「なぜおたくは原発問題に熱心なのか」と事故後取材したことがある。答えは単純だった。

「福井でも中日新聞は購読されているんですよ。だから福井支局がありそこへ赴任する人間が相当数いる。福井はそれほどニュースの多い場所ではないこともあり、自然に記者は原発についての知識を身に着けていくんです。関西電力や日本原電は全国紙の記者には接待攻勢をかけようと必死ですよ。地元の福井新聞にも。でもうちには声がかからないんです。だって帰っても名古屋でしょ。中日新聞が全国的に影響を持つとは考えてないんじゃないですかね。だから事故後に全国紙に比べても原発の知識を持っている記者が直ぐに動けた。それが原因じゃないですかね」

ということだった。なるほどご説ごもっともだ。朝日や読売が「原発推進!」と書けば全国規模の影響があるだろうけれども、中日新聞は所詮中部北陸と一部関西だけで購読される新聞だ。その境遇が幸いして事故後、東京新聞(中日新聞の東京版)が原発記事では他紙を圧倒できたのかもしれない。

◆原発問題を通じて育っていった中日新聞の公正報道

中日新聞はかつて今の産経新聞のように「読むに値する記事がほとんどない」新聞だった。暴力を振るって子供を更生させると言いながら複数の子供を殺していた「戸塚ヨットスクール」を称賛する上之郷尾利昭による『スパルタの海 甦る子供たち』を半年間も1面に連載したり、愛知県内の汚職や行政の暴走を黙認することが多々あった。その程度の人権感覚のない三流新聞だった。

だが、何があったのかわからないが、最近、中日新聞を目にするとその変貌ぶりが著しい。良い意味でである。原発問題に限らず記者の視点が以前とは比較にならないほど鋭い。その中日新聞の社説は通常1日に2本が掲載されるが、15日は「国民を守る司法判断だ 高浜原発『差し止め』」 1本だった。他紙と異なり「社説が分かりやすいから」という理由で購読者を増やしている中日新聞社説の明快さが伺えるだろう。

「福島原発事故の現実を見て、多くの国民が、原発に不安を感じている。なのに政府は、それにこたえずに、経済という物差しを振りかざし、温暖化対策なども口実に、原発再稼働の環境づくりに腐心する。一体誰のためなのか。原発立地地域の人々も、何も進んで原発がほしいわけではないだろう。仕事や補助金を失って地域が疲弊するのが怖いのだ。福井地裁の決定は、普通の人が普通に感じる不安と願望をくみ取った、ごく普通の判断だ。だからこそ、意味がある

全くその通りだと思う。

▼田所敏夫(たどころ としお)

兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ

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