「みなさんが何を言っても、委任状ですでに過半数をとっているんです。何をやっても無駄です」
昨年6月28日、東京電力の第87回定時株主総会で、勝俣恒久会長が放った言葉だ。
原子力発電からの撤退を決議する議案が、402名の株主によって提出された。会場では、明らかに賛成の挙手が多かった。
勝俣会長は、委任状の存在によって、反対多数だとして、これを否決した。
あらかじめ、出席しない大株主たちから、委任状を取っていたのだ。

昨年の東電株主総会の有様は、橋本玉泉著『東電・原発副読本』(鹿砦社)に書かれている。
株主総会は、100名以上の制服、私服の警察官による警備の中で行われた。質疑応答では、「役員が私財を投じて責任を負うべきなのでは」という質問に、「プライベートな問題なのでノーコメント」と答えるなど、誠意の感じられない対応が続いた。「ちゃんと質問に答えろ!」「誠意がないぞ!」とヤジを飛ばしていた出席者には、スーツ姿の強面の男が近づいていき、「オイ、黙れ!」「外に出ろ」と言い、人影のない方に連れて行こうとしたという。

東電の株主総会が開かれたことは、大手メディアでも報じられたが、こうした異様な有様については伝えられていない。

大手メディアでは伝えられない脱原発の大きなうねりも、本書では詳しくレポートされている。高円寺や渋谷での1万人を超えるデモを始めとして、全国でデモは行われた。その特徴は、労組や市民団体の動員ではなく、一人一人の市民が自分の意志で参加しているということだ。年齢も様々、子供のいる家族もいる。ごく普通の人々だ。右翼・民族派による脱原発のデモがあったことも書かれている。

見落としてしまいがちな、細かなことも本書は丹念に拾っている。脱原発の行動を「しょぼいデモ」「老人と情報弱者の暇つぶし」と揶揄する、経済評論家の池田信夫氏が、「セシウムは燃やせば安全」と発言するなど、放射能について無知であったこと。「東電社員は利用お断り」を公言した、札幌・ススキノの風俗店と、それを巡るネット上の議論。「福島の農民は殺人者」とツィッターで発言した、群馬大教育学部教授で火山学者の早川由起夫氏と、それを巡る議論。「やっぱデモって火炎瓶が飛び交って権力サイドの建物が炎に包まれないとサマにならないな」などと煽っているのが揶揄しているのか分からない、ニュースサイト「マイ・ニュース・ジャパン」オーナーでジャーナリストの渡邉正裕氏。

福島原発の事故を巡っての、さまざまな動きをまとめた本書は、脱原発の意志を持って行動し続けていくための手引きとなるだろう。

(FY)