現在、日米欧で「自動運転車」の開発が進んでいる。本稿では各メーカーの進展状況と、「自動運転車」が普及した場合、どのような変化が起きるかを述べた。変化は国々の状況により、大きく違い、地方と都市部など、国が同じでも地域によってる差が出ると予測される。

実運動の障害は、技術的な問題よりも、運転車、社会のメンタリティ、法的整備である事が判った。

以前より、「自動運転車」の開発は漏れ伝えられている状況であった。筆者も20年ほど前、本田技研の開発者より非公式ながら「あんなものは2、3年あればできる。問題なのは自動車よりインフラの整備だ」と聞いた。

今年になって突然、「自動運転車」の開発状況が公開されるようになった。今年6月に米Googleはハンドルもブレーキもない完全自動運転車「prototype」の公道走行試験を行うと発表。追いかけるようにApple社も二月にウォールストリートジャーナルが開発を報道し、8月にサンフランシスコ郊外の米軍試験基地跡地を取得し、舗装道路総延長32キロのテストコースでの疑似公道走行試験を開始。9月に入るとすぐに米当局に対して公道試験の許可を求めた。

日本メーカーも負けていない。トヨタ、日産、ホンダが自動走行車の開発を発表。10月にはトヨタが「自動運転車」が首都高を試験走行。自動車線変更に成功したと発表した。

一方、ヨーロッパではすでにボルボ、メルセデスが高速道路上に限り自動運転を実用化できるタイプを発表している。

◆自動運転車実用化で始まる生活革命

従来、自動車は二点間を移動するだけの道具であった。運転車や同乗者は移動のために車に乗り込む。同乗者であれば移動の間に寝ていようが、食事していようが好きにできたが、自動運転車では運転者も同乗者と同じように過ごす事ができる。いわば、バスや、電車に乗っているようなものだ。

新幹線などで顕著なようにパソコンで仕事をしたり、ビールを傾けているビジネスマンもみられるように、自動運転車もビジネスの場となる。しかも、電車やバスが公共施設的性質が強いのに対して、自動運転車は個人的スペース性質が強くなる。
自動運転車が実用化され、もっとも大きな影響を受けるのはアメリカだろう。良く言われるようにアメリカは自動車社会であり、通勤の主力は自動車である。若年者も16歳になれば免許を取得して自分で学校に通う。現行型であれば移動の間は運転に集中する必要があるが、自動運転であれば朝の会議の準備をするか、やり残しの宿題と格闘するかも知れない。

より大きな恩恵を被るのが車上生活者である。日本でもアメリカでも貧困層の路上生活者が問題となっているが、アメリカの場合、路上生活の前に「車上生活者」が存在する。アメリカの車上生活者はトレーラトラックに住む。トレーラーの中にバス、トイレを完備して、夫婦生活も車上で行う。地方であればこうした車を受け入れる余地はあるし、都市部でも車上生活者のために駐車場が存在する。車上生活者はなんらかの雇用が発生すれば、通勤に楽な場所に移動してそこから職場に通う。砂漠の真ん中のロードサイドショップであれば交通費はかからない。居住費がかからず、生活費も安いから、正規雇用にこだわる必要もない。

完全自動運転が実現すれば日本でも同じような状況が発生する可能性がある。地方であれば自動車を止める場所にこと欠かない。現行の乗用車の中で寝泊まりするのは苦痛が大きいが、夜眠るためのフルフラットのシートを開発するのは用意だ。そもそも、ハンドルやブレーキといった突起物もない。

現代の東京でもコインパーキングが発達して「1泊800円」などのケースがある。ここに自動車を止めて1ヶ月生活しても2万5千円程度にしかならない。ワンルームの家賃に加えて自動車を維持する価格と、自動車一台だけ維持する価格を比較すればどちらが優位か明白である。

小型乗用車でも単身者、あるいは夫婦が暮らすのに不都合はない。子連れでもワンボックス車で十分である。シャワーを浴びたければ漫画喫茶に行くか、自動車で温泉に向えばいい。

長距離出張も変わるだろう。東京大阪であれば新幹線往復一日というのも珍しくないが、「自動運転車」で夜、出発して、朝大阪について、仕事を済ませそのまま帰ってくる。新幹線より遙かに安い。社員にしても往復の自動車の中で飲もうが好きな映画を見ようが、場合によっては女性を同伴させてもなんら差し支えはないのだ。

自動運転車の発達により、物流も変化するだろう。タクシーやトラックから運転手がなくなる。Googleやappleなどのコンピュータ会社が先導している所から、車体やエンジンをOEM供給する自動車会社にも需要が発生するだろう。

◆2020年導入で足並みが揃えた日米自動車メーカー

現時点の発表だと、日米の自動車メーカーの市場投入が2020年と足並みが揃っている。他社メーカーに後れを取らない、かつ、ライバルメーカーの出方を見るため近い年代となったのだろう。

発売時期とはちがい、各社とも仕様はかなりの違いが見られる。現代のヨーロッパ車は高速道路上での運転を狙い、通常の運転装置に自動運転モードがある。ヨーロッパではドイツのアウトバーンで知られるように、高速道路での性能が重視されるためだ。五年後にどの程度まで技術力をアップさせるか興味深い。

トヨタは「自動車には運転する楽しみがある」という社是があり、手動運転機構を外すとは思えない。トヨタもすでに公道実験を成功させているところからかなりの発達が予期できる。

アメリカも高速道路は発達しているが、ヨーロッパのような高速移動は要求されない。近場へ向かう足と考えられれている。街、市街地と呼んでもよほどの大都市でない限りポツポツと郊外型店舗が並んでいる程度である。

Googleは市街地における完全自動走行を目的として、ハンドルもブレーキもない。ただし非常事態に備えて「緊急停止スイッチ」があるという。その場で完全に停止するのか、なんらかの判断で路肩に停止するかのは公表されていない。ただし、開発名とされているprototype(試験機)からして、実用型は相当の変化があると見られる。発表されている動画は日本製の軽自動車か、ベンツのスマートを思わせる小型車だ。

秘密主義のappleはコンセプト画像を発表しただけで詳細は不明だが、試験規模から考えて市街地での完全自動走行を狙っているようだ。

もちろん、最終的には、完全自動走行車が実現するだろう。技術的には問題はない。かつてホンダが「インフラの問題」と言ったように、GPSの精度も上がり数十センチの単位で自分の位置を特定できる。グーグルマップと重ね合わせれば、自分の家の前まで誘導できる。トヨタはすでに「プリウス」で「自動車庫入れ装置」を実用化した。車庫入れが終わると人間はスイッチを切ってドアを開けるだけである。

しかし、公道を自動走行している自動車を見て歩行者や、他のドライバーはどう反応するだろうか。運転手の居ないバスに乗りたがるだろうか? 自動走行車が死亡事故を起こしたら、責任は誰が取るのか? ドライバーなのか、メーカーなのか。その事故が飛び込み自殺の様な恣意的な場合はどうするのか。

法がまったくといって良いほど対応できていない。まだ、存在しない物に対応しろというのが無理であるのは当然だが、かなり妙な事態が発生するのは予期できる。

問題となるのは事故だけではない。交通規制に対応させる必要がある。あまり聞かない違反であるが「歩行者通行妨害」という交通違反がある。歩行者が信号のない道路を渡ろうと横断歩道のそばに立っている場合、自動車は一時停止して歩行者を渡らせなければならない。現実にはあまり守られないが、もし歩行者が立つ横断歩道で自動運転車がいちいち、停止していたら搭乗者は怒り狂うだろう。かといって、「歩行者通行妨害」を無視するプログラムを自動運転車に組み込むわけにはいかない。

1969年に高速道路が完成して直後、1キロでも速度超過すれば違反で、速度超過は5キロ刻みで罰則が違った。最大速度30キロ、40キロの生活道路に準じた規定である。

現在でも高速道路の速度超過の違反はあるが、30キロまでは一律の罰則であり、事実上50キロ以上でないと取り締まりはない。高速道路の完成から法が追いつくのに、50年かかっているのである。

日本に最初に登場するのはトヨタ型の自動運転モードつきの自動車となるだろう。しかし、いつかは完全自動運転車が入ってくる。

導入に備えて法を整備する必要がある。

もちろん、国土交通省が「導入を認めない」という恐れもあるが、日本国内の少子高齢化に逆行する動きとなるし、数少ない好況産業である自動車を圧迫しかねない。完全自動運転車導入の最大の障害は法規制なのだ。

(鈴木雅久)

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