私の内なるタイとムエタイ〈18〉タイで三日坊主PART.10 新弟子の仕事

ワンプラ(仏陀の日)は寄進の多い日。いちばん左はデックワットやっていた中学生、お父さんが亡くなったばかりで供養の為の出家、ネーン(少年僧)になりました。(1994.10.27)

◆態度が変貌した藤川さん!

ペッブリーへ向かうバスが到着近くになると、藤川さんが車掌さんを促し、寺近くの交差点で降ろして貰うと、寺まで歩いて3分ほどの距離。歩きながら藤川さんに「網走刑務所に入るような気分か?」と聞かれ、刑務所という発想は無いものの、中学生の頃の短期ながら合宿生活に入るような、憂鬱な気分で寺の門を潜り、正に“入門”となった瞬間でした。

まずは自分の部屋が無いので藤川さんの部屋にお邪魔します。持って来た荷物を広げると、「狭いんやから、よう考えてやれ!」と機嫌悪いようなキツイ言い方が始まる藤川さん。元々仏陀の教えに反するような、贅沢な物が溢れる部屋で狭いのだから仕方無いだろうに、どうやら門を潜った途端、指導のスイッチが入ったような今迄と違う変貌に戸惑ってしまいました。

「来月、5日過ぎたら還俗者が増えて部屋が空くからそれまでここに居れ!」と言われるも、こんな口煩い藤川ジジイと1日だっていっしょに居るのは嫌でした。

◆デックワットの仕事!

夕方になると、「デックワット(寺小僧)と一緒に掃除しとけ!」と藤川さんに指示され、早速のデックワットとしての仕事が待っていました。出家前は数日前に寺に入り、比丘のお手伝いをするのが常識で、新弟子のような存在。そして日々デックワットがやっている仕事を私もやることになります。広いクティ内の板の間をモップを使って他の中学生ほどのデックワットとともに掃除を始めました。そんなモップがけをしながらフッと考え込んでしまい、「俺、30歳越えてこんなタイの田舎の寺で何でモップがけやっているんだろう。日本でもっとカメラマン出来ただろうに」と何か悶々としながら掃除を終え、やっと一人になれる時間を作って寺周りに散歩に出て、ようやく心休まる時間を作りました。

寺に帰り、藤川さんの部屋へ戻っても、特に話すことはない何とも窮屈な空間。すると突然、「よし、座禅組もう」と言い出す藤川さん。もう鬱陶しいこと言うやら、やらせるやら。逆らおうかとも思うも、ここに来ている意味を考えれば仕方ありません。

その頃にまた隣の部屋にデックワットが遊びに来ている様子が伺えました。また壁の穴からの視線を感じ、こちらは覗き部屋の見世物的対象。

「また日本人が変なことやってるぞ」と何やら言ったか言わないか、気になること落ち着かない。それに対し平然と身動きせず座禅を組む藤川さん。修行者と未熟者の違いがはっきり現れる座禅でした。約30分超えの座禅も意外とキツくはない。「これなら毎日やらされても耐えられるかな」とちょっとした自信にもなりました。午後9時過ぎ、我々は就寝。刑務所のような寺一斉に消灯ということはなく自由なもので、相変わらず両隣の部屋からはテレビの音やデックワットの笑い声が聞こえてくるのでした。

比丘の朝食風景(1994.10.27)

◆ワンプラ(仏陀の日)!

翌朝5時、まだ外は暗く鶏が鳴く中、藤川さんとともに起床。眠りは浅かった。コーヒーを飲みながら黄衣を纏う藤川さんの巻き方を見て覚えようとするも、なかなかすぐ覚えられるものではありません。もう一度、藤川さんの托鉢を撮りたいところ、「デックワットと一緒に掃除しとけ」と昨日と同じ指示して托鉢に向かう藤川さん。ここはもう私をカメラマン扱いしていない寂しさを感じました。

後から起きて来た若い比丘らが部屋の外で黄衣を纏うのを見ていると、「わかる?」と言われて「難しそう!」と応えると「大丈夫、すぐ出来るよ!」と慰めてくれる一回りほど年下の先輩僧たち。

藤川さんが托鉢から帰ってくると、「今日はワンプラ(仏陀の日)でサイバーツ(お鉢に入れる寄進)が多うて重かったあ~!」と腕も痺れる一苦労を、少々優しく報告してくれました。

“ワンプラ”は1週間に1回ぐらいの割合でやってくる仏教徒としてのお努めの日。在家信者さんも特にこの日は仏教の戒律を重視する日で、普段あまりやらない人も、この日は徳の“ポイントお得デー”かのようにお布施に力を注ぎます。托鉢での寄進だけでなく、信者さんが大勢寺にやって来て寄進する日でもありました。

大勢の比丘が座る目の前に、皿に盛られた大量の料理が並び、先導者に続いて5分ほどの読経が始まりました。そして5僧のグループ6つぐらいに分かれて朝食が始まりました。そんな時、信者さんと一緒に居る和尚さんに呼ばれました。

「どのくらいの期間出家するつもりか?、日本で何しているのか?」などと聞いてくるので、「日本ではボクシングやいろいろなスポーツのカメラマンやっています。」とやってもいないハッタリ含めて大袈裟に言っておくと、「こいつは日本で有名雑誌のカメラマンやっている優秀な奴だ!」と信者さんに更に大袈裟が加わり、二人目の日本人が来たことで「ウチの寺は国際的だ!」と言いそうで自慢げな笑顔と踏ん反り返った姿勢。藤川さんから聞いた、我々が“客寄せパンダ”となる和尚さんの思惑が見えて来た頃でした。

ワンプラ(仏陀の日)。多くの寄進された料理が皿に盛られて並びます。(1994.10.27)
寄進に訪れた信者さんも朝食へ。私も勧められました。(1994.10.27)

比丘の朝食の後、訪れていた信者さんの朝食となります。来ていたオバサンたちに呼ばれて一緒に食事となりました。「これも食べなさい、遠慮しなくていいよ、いっぱいあるよ、いつタイに来たの?タイ語上手いね」など、国は違えど、タイでも人見知りしないオバサンたちの温かさに癒されました。

食事後の片付けは信者さんたちが一斉にやり、私らデックワットはホー・チャンペーンを掃除し、藤川さんは独自の日課の掃除を始めるので、私も弟子らしく手伝いに入りました。部屋の内側外側の壁を雑巾で大雑把に拭いていると、藤川さんは「掃除というのは手の届かん見えんところまで拭くのが掃除というもんや!」とまた癪に障るキツイ言い方をする。こんな細かいことをいちいち言うことに、「年末大掃除じゃないでしょ!」とついに言い返してしまい、自分が甘く悪いことも分かりながらもムカついて仕方ない状況でした。

◆「銀座」に買い物に行く!

昼飯は朝の托鉢と寺で寄進された食材の残り物で済ませます。比丘の後、藤川さんに「デックワットと一緒に早う飯食え!」と促されて慌てて昼食。その後、藤川さんに案内して貰い、今後の生活に必要な日用品類を買い出しに出ます。バイクタクシーに跨って藤川さんが言う“銀座”へ。この街でいちばん賑やかな田舎っぽい商店街でした。いずれ利用するであろう写真屋さんも覗いておきました。

夕方頃、和尚さんに「部屋が空くぞ!」と嬉しい知らせが入りました。還俗した警察官らしい人が鍵を渡してくれて中に入ると、部屋は藤川さんの部屋より広め。しかし、デックワットも同居する雑魚部屋で、ちょっと残念ながら、狭い藤川さんの部屋で文句言われながら居るよりはるかに楽で、ウキウキスキップ気分で部屋を移動しました。

銀座で買った洗剤や、トイレットペーパー、水出し麦茶入れる水筒など並べていると、中学生デックワットが、私に「これどうぞ」と“カーオムーデーン(豚肉ライス)”を持って来てくれ、引越し御挨拶を逆にやられてしまう出遅れ。誰かに「持って行ってやれ」と指図されたのかもと思うも有難い気遣いでした。

夜は水浴びした後、「これが最後の髪いじりか、明日の夜は髪が無いんだな」と髪を梳かしながら中学卒業以降、長髪だった髪を惜しむように触っていました。明日はいよいよ剃髪の日となります。

ペップリー銀座。田舎の商店街の一部です。見難いですが、黄色い看板が写真屋さん(1994年)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

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生キ様ヲ刻メ! 35周年を迎える日本キックボクシング連盟の〈闘魂〉

大和知也との打ち合いを制し、綱渡り防衛となった高橋一眞
大和知也vs高橋一眞。二度のダウンの後の危ない打ち合いはファンをハラハラさせた。高橋一眞のピンチ

激闘ノックアウトが続いた主要カード3試合。

「格闘技人生賭けて今日全てを出し切ります。僕の生き様を見てください」と語っていた大和知也は一昨年、怪我で王座返上し、昨年9月の再起戦は棚橋賢二郎(拳心館)にKO負けもまだ王座復帰とNKBエース格を目指す。

高橋一眞は一昨年の3連敗から脱出し、昨年6月に宿敵村田裕俊から王座奪取し、再び「KNOCK OUT」出場を目指す今、両者とも負けられない立場。高橋一眞はパンチで出て来る大和にヒザ蹴り中心に右ローキック、ロープ際での接近戦で右ストレートでダウンを奪う。足に来た様子の大和だったが、パンチの距離になると右ストレートで逆転のダウンを奪う。

パンチとヒザ蹴りの攻防の中、更なるパンチ連打で2度目のダウン奪った大和。残り1分半。パンチで出る大和に応戦する一眞は危険な打ち合い。しかし一眞の右ストレートでスリップダウンする大和は立ち上がるも再び足に来ている様子で足がもつれる。一眞は上下の蹴りからヒザ蹴りも出すが、大和とパンチの打ち合いに応じ、どっちが倒れるかスリルある展開の中、一眞の右ストレートがヒット、足に来てフラついて起きれない大和にレフェリーが試合を止めました。

悔しさで号泣の大和。何のヒットで倒したか、自分がダウンしたことも覚えていない試合直後の一眞。2度ダウン後の打ち合いは危険な賭けは一眞にとっては今後に課題を残す初防衛となりました。大和は王座奪回成らず、2連敗。今後再戦するとしたら互いがガードをしっかりしなければならないでしょう。特に「“KNOCK OUT”に出たい」と言う一眞は要注意です。高橋一眞はこれで15戦11勝(9KO)4敗。大和知也は32戦16勝(11KO)13敗3分。

村田裕俊vs優介。向かって来た優介に村田のカウンターパンチがヒット、ダウンとなった瞬間

村田裕俊は2016年12月に初防衛戦で対戦した優介との再戦となる2度目の防衛戦。2017年は注目の選手との対戦が続く中、3連敗の村田。優介は再挑戦に向け、調子を上げてきた侮れない挑戦者。村田の攻勢は想定内で首相撲になっても組負けず、しなりある村田のハイキックとミドルキックが優介を圧倒。

2ラウンドには接近してきた優介に左フックカウンターでダウン奪う村田。優勢に進む中、村田の右ストレートが優介にヒットするも、相打ち気味だった優介の右ハイキックが村田のアゴを捉え、ダブルノックダウンのような形で、優介がやや先に尻餅つくが、ほぼスリップ気味ですぐ立ち上がり、村田は完全に足に来てフラつく中、レフェリーが止めました。

優介が劇的逆転ノックアウトで号泣の王座奪取成る。優介は第14代チャンピオン。村田裕俊はこれで19戦10勝(5KO)7敗2分。優介は25戦18勝(8KO)5敗2分。

村田裕俊の右ストレートはプッシュ気味、この直後、優介の右ハイキックが村田のアゴを捉える
ロープにもたれて倒れ込み、立ち上がれなかった村田裕俊

高橋聖人は昨年4月に村田裕俊を攻略する金星判定勝利。安田浩昭は3年前に髙橋聖人に判定負けしているが、その後勝利を重ね、上位進出してきた底力は侮れない。

パンチ主体の安田に対し、右ローキックを中心に蹴り技で優っていた距離感もよかった聖人。聖人の蹴りのペースが続き、安田の左足が効いていく中、安田の一瞬の右フックが聖人のアゴを捉えると、バッタリ倒れた聖人、完全に効いてしまって上半身を起こそうにも身体が言うこと利かないダメージでレフェリーが試合をストップ。パンチの当たる隙を安田が見逃さなかった展開。キックのキャリアは似たものがあるが、人生の経験値からくる勘があったであろう結末。聖人は反省点ある試合で今後に活かせることでしょう。高橋聖人はこれで10戦8勝(3KO)1敗1分。安田浩昭は10戦8勝(4KO)2敗。

新チャンピオン優介と真門ジム山岡会長。真門ジムでは優介が高橋兄弟に続く現役三つ目の王座獲得となった

◎神風シリーズ vol.6
2017年12月16日(土)後楽園ホール17:30~20:50
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆メインイベント NKBライト級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.高橋一眞(23歳/真門/61.05kg)
VS
挑戦者同級2位.大和知也(前C/32歳/SQUARE-UP/61.23kg)
勝者:高橋一眞 / TKO 1R 2:35 / 主審:前田仁

◆NKBフェザー級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.村田裕俊(28歳/八王子FSG/57.05kg)
VS
挑戦者同級2位.優介(33歳/真門/56.95kg)
勝者:優介 / TKO 2R 1:32 / 主審:鈴木義和

◆フェザー級 5回戦

NKBフェザー級1位.高橋聖人(20歳/真門/57.05kg)
VS
同級3位.安田浩昭(31歳/SQUARE-UP/56.9kg)
勝者:安田浩昭 / TKO 2R 3:02 / 主審:亀川明史

安田浩昭vs高橋聖人。頭をもたげる高橋聖人、身体は言うこと利かない痛烈なダウンシーン
安田浩昭vs高橋聖人。隙を突いた安田の右フックが高橋にヒット
王座挑戦権を得たであろう安田浩昭
初防衛成功の高橋一眞。王座奪取時にも見せた雄叫びポーズ

◆ライト級3回戦

NKBライト級1位.棚橋賢二郎(30歳/拳心館/60.95kg)
VS
小鹿雅弘(26歳/ジョイント/61.0kg)
引分け / 0-1 / 主審:川上伸
副審:前田30-30. 亀川30-30. 佐藤友章29-30

◆ミドル級3回戦

NKBミドル級6位.釼田昌弘(28歳/テツ/72.3kg)
VS
義充(27歳/アウルスポーツ/72.5kg)
引分け / 0-1 / 主審:佐藤彰彦
副審:鈴木30-30. 亀川29-30. 川上30-30

◆63.0kg契約3回戦

NKBウェルター級5位.マサ・オオヤ(43歳/八王子FSG/63.0kg)
VS
NKBライト級9位.野村怜央(27歳/TEAM-KOK/62.95kg)
勝者:野村怜央 / TKO 2R 1:58 / カウント中のレフェリーストップ
主審:佐藤友章

◆62.0kg契約3回戦

NKBライト級5位.パントリー杉並(25歳/杉並/61.65kg)
VS
J-NETWORK.スーパーライト級7位.伊東伴恭(33歳/ライラプス東京北星/61.9kg)
勝者:伊東伴恭 / 判定0-3 / 主審:亀川明史
副審:川上28-30. 前田27-30. 鈴木28-30

◆ウェルター級3回戦

NKBウェルター級4位.チャン・シー(33歳/SQUARE-UP/66.5kg)
VS
同級6位.SEIITSU(38歳/八王子FSG/66.45kg)
引分け / 0-1 / 主審:佐藤彰彦
副審:川上29-30. 前田30-30. 佐藤友章30-30

◆フェザー級3回戦

NKBフェザー級6位.鎌田政興(27歳/ケーアクティブ/57.0kg)
VS
同級9位.岩田行央(37歳/大塚/57.05kg)
勝者:鎌田政興 / 判定3-0 / 主審:鈴木義和
副審:亀川30-28. 佐藤友章30-28. 佐藤彰彦30-29

前座2試合は割愛します。

《取材戦記》

日本キックボクシング連盟に於いては、ラスト3試合は近来に無い壮絶な決着でした。リングサイド関係者は、意外な盛り上がりに驚きながらも満足気の様子。「来年(2018年)もNKBを盛り上げましょう」と言う声も聞かれました。高いレベルとは言い難いところもあり、「KNOCK OUTイベント」に向かっていくなら磨かねばならない技はあるものの、出場させてみたい選手も揃っています。

新年の興行タイトルは「闘魂シリーズ」だそうで、どこかで聞いたことあるようなシリーズ名ですが、この日のようなスリルは成り行き任せで難しくとも、好カードで盛り上がりを見せればNKBの存在価値も上がることでしょう。高橋三兄弟は課題を抱えつつ、負けてもまた向かっていく姿がカッコよく見えます。

2018年定期興行スケジュールは、2月17日、4月21日、6月16日、10月13日、12月8日、いずれも土曜日、後楽園ホールでの開催で、開始時刻は17:30の予定。この他、地方興行も予定されています。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

2018年注目の冤罪裁判〈2〉名古屋の小学校教師「強制わいせつ」事件

前回は2018年の注目冤罪裁判として、「今市事件」と「千葉18歳少女生き埋め事件」を紹介した。この2事件はいずれも第一審で無実の被告人に対し、有罪判決が出て、被告人たちが現在、控訴審で無罪判決を求めて闘っている。

一方、私が取材している冤罪事件の中には、まだ有罪判決は出ていないものの、無実の被告人が無罪を勝ちとるために裁判の第一審を闘っている事件もある。その被告人は名古屋市の喜邑(きむら)拓也さん、37歳。小学校教師だった喜邑さんは2016年11月、勤務していた小学校の1年生の女児に対する強制わいせつの容疑で逮捕され、2017年1月に起訴された。しかし一貫して無実を訴え、現在は名古屋地裁で無罪を求めて裁判中だ。

そんな喜邑さんの裁判は公判があるたび、無実を信じる支援者たちが多数傍聴に駆けつける異例の事態になっており、地元ではすでに冤罪を疑う声が広まっている。全国的にみれば、まだ事件の存在自体を知らない人のほうが多いだろうが、今年中に全国的注目を集める冤罪事件となる可能性は十分なので、冤罪に関心のある人は今から要注目だ。

◆「現場」には約20人の生徒がいながら目撃者はなし

喜邑さんは子供の頃から教師になることを目指していた人で、音楽大学を卒業後は地元の愛知県で一貫して小学校教師として働いてきた。プライベートではエレクトーン奏者としても活躍し、「名古屋のキムタク」と呼ばれた。そんな喜邑さんは、熱心な指導により生徒たちから人気を集め、保護者からの信頼も厚い教師だった。

この喜邑さんが2016年11月、強制わいせつの容疑で逮捕された。容疑内容は、前年度まで勤務していた小学校の教室で2016年1月、1年生の女児の服の中に手を入れ、胸を触った疑い。この時、保護者たちが受けた衝撃は大変大きいものだったようだ。

しかし、喜邑さんは容疑を一貫して否認した。そしてこのように無実を訴えたのだった。

「掃除の時間、教室の事務机で漢字ノートの採点をしていたら、女児がちりとりにゴミをたくさん取っているのを見せてきました。そこで、頭をなでて褒めてやろうとしたところ、手が女児の首からあごのあたりに触れてしまったのです」

この喜邑さんの主張を聞いただけでは、信じていいのか否かわからない人が大半だろう。しかし、「事件」があったときの現場の状況を踏まえれば、喜邑さんが容疑内容のような強制わいせつ行為をしたとは考え難いことはすぐわかる。何しろ、掃除の時間だった現場の教室には、「事件」があったとされるとき、約20人の生徒がいたのだ。そんな場所で、教師が1人の女児の服の中に手を入れ、胸を触る強制わいせつ行為に及ぶということは通常ありえないだろう。

実際、裁判が始まると、「事件」があったとされる現場には、約20人の生徒がいたにも関わらず、検察側は目撃証言を一切示せないなど証拠の乏しさが次第に明らかになった。法廷外でも昨年2月に結成された「喜邑拓也さんを支援する会」が冤罪を訴える街頭宣伝などの支援活動を熱心に繰り広げ、次第に地元では冤罪を疑う声が広まっていったのだ。

昨年9月の公判の際、支援者たちと名古屋地裁に入る喜邑さん(右から4人目)

◆大きなポイントは2月にある認知心理学者の証人尋問

裁判では結局、「被害者」の女児の証言が唯一の直接的証拠となる見通しだ。しかし、弁護人の塚田聡子弁護士によると、唯一の直接的証拠である「被害者」の女児の証言も変遷や矛盾があるという。

「女児はまだ小1で、認知や記憶の能力が高くありませんでした。母親に『こんなことがあったのでは』と誘導的に聞かれ、事実と違う記憶が形成された可能性も十分あります」

弁護側は女児の証言の信頼性について、認知心理学者に鑑定を依頼しているが、その鑑定人も証人として採用され、2月に証人尋問が行われる予定だ。この鑑定が有罪無罪を分ける大きなポイントになりそうだ。

喜邑さんは私の取材に対し、「逮捕勾留されていた時に自白せずに堪えられたのも、いま前向きに進めているのも支援のおかげです」と感謝の思いを述べ、「いまはとにかく無罪をとり、学校に戻りたいという思いです」と語った。支援者の中には、保護者たちも名を連ねているが、「本当にまじめな先生で、逮捕された時は何かの間違いと思いましたが、裁判を傍聴し、改めて無実を確信しました」「早く冤罪とわかって欲しいです」と誰もが喜邑さんの教師復帰を願っていた。

この事件の動向については、今後も折を見て、報告したい。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

キックボクシング 2017年の振り返りと2018年の展望!

ルンピニーのベルトも手に入れることが出来るか、二つ掲げたい梅野源治(2016.11.4)

2017年の主に目立った出来事を大雑把に独断と偏見で振り返ると、
・梅野源治とT-98(=今村卓也)のラジャダムナン王座陥落
・「KNOCK OUT」イベントの躍進
・IBFムエタイの発足
・高橋一眞の復活
・志朗と麗也の独立
などがありました。
他にも多くの興行、イベントがありましたが、あくまで独断と偏見です。

◆《1》梅野源治とT-98(=今村卓也)のラジャダムナン王座陥落

2016年6月1日にラジャダムナンスタジアム・スーパーウェルター級王座奪取したT-98(=今村卓也)は同年10月9日に日本人として初めて現地で初防衛を果たし、その勢いで2017年の更なる記録更新が期待される中、5月25日に現地での2度目の防衛戦は惜しくも判定で敗れ記録更新成らず。その後T-98は長い休養はとらず再起。今度はルンピニースタジアムに標準を定め、10月22日にルンピニージャパン・ミドル王座奪取を経て挑戦権を獲得。12月2日にタイ現地でルンピニースタジアム・ミドル級王座に挑戦しましたが、判定負けで王座奪取成らず。外国人初の二大殿堂制覇も成りませんでした。

2016年10月23日に、同じくラジャダムナンスタジアム王座をライト級で奪取した梅野源治は、2017年5月17日、現地で初防衛戦を行なうも判定で敗れ王座を失いました。現地に渡るとなかなか難しい本場の壁に阻まれますが、これを打ち破ってこそ崇高の王座であるわけです。

二人揃って王座陥落のままに終わった2017年でしたが、梅野源治は2018年2月18日、REBELS興行で、ルンピニースタジアム・ライト級王座決定戦出場が予定されています。日本人として新たな可能性を懸けて、ムエタイ二大殿堂王座への記録更新は2018年に引き継がれます。

T-98も厳しい立場に置かれたが、梅野同様まだ終われないT-98時代(2017.5.25)

◆《2》「KNOCK OUT」イベントの躍進

2016年9月14日に記者会見興行(お披露目1試合)から発足した「KNOCK OUT」イベントは同年12月、2回目興行(vol.0)から盛大に始まりました。(株)ブシロードがバックアップする背景から2017年は1年間を通じて8回の興行が開催され、想定する範疇ながら「やっぱり凄いな」と思わせる実績を残して来ました。

対戦が難しかった団体の垣根を越えたトップクラスの対戦があり、地上波のTOKYO-MXTVをはじめ、衛星放送やインターネット配信の充実、街頭スクリーンにもコマーシャルが流れる拡散に過去に無い一般社会へアピールの進出がありました。

選手の発言にも「KNOCK OUTに出たい!」と言う声が多くなっています。このリングに立つ為に、既存の各団体やフリーのプロモーション興行も選手の目つきが違って来ています。目指すものが大きいと選手のモチベーションも上がることが実証された1年でした。

ひとつ厳格に守って欲しいのは、本来のキックボクシングルールとシステムを遵守して欲しいこと。一旦勝手な解釈が加わると、そこからまた新たな解釈が加わり、本来のキックから逸脱した方向に行ってしまうので、老舗キック競技を守ることからイベント開催へ向かって行って欲しいところです。

◆《3》IBFムエタイの発足

2017年後半、水面下で動いていたのはIBFのムエタイ団体発足の動きでした。プロボクシングの主要4団体のWBCがムエタイ世界王座を発足されたのは2005年12月。いずれは他団体も手を付ける可能性が高いと思われたプロボクシング認定団体のムエタイ進出でしたが、ここに来てやっぱり出て来た他3団体の中のIBFでした。

多くの世界認定団体と二大殿堂王座、更に活発化するイベント(トーナメント戦優勝制)がある中、それらの価値が低くなってきた時代に、IBFムエタイがトップ争いの末、ムエタイ最高峰となることは無いでしょう。

初の世界王座決定戦を行なった2017年12月20日の世界戦数日前からから「ライトヘビー級か、クルーザー級かどっち?」と思っていたら、開催直前になって別選手によるウェルター級戦になる曖昧さ。発展途上のタイ側に任せていたらこうなるんです。ムエタイなので試合ルールは本場タイ側が主導するのは仕方ないにしても、IBFに限らず、組織管理・管轄はアメリカやメキシコの本部が監視していかないと、タイ側は勝手なことやりだすので、単なる名義貸しにならないよう注意して貰いたいものです。

発足したIBFムエタイ世界王座3試合のセレモニー(2017.12.18)
IBFムエタイ世界ライト級初代王座はセクサンvsパンパヤック戦(2017.12.19)
IBFムエタイ、最初のチャンピオンはウェルター級のピンクラーオ、左側はIBF会長のダーリル・ピープルズ氏、右側は元・タイ国副首相スワット・リパタンパンロップ氏(2017.12.20)
ここにも団体を担うチャンピオンとなった高橋三兄弟の長男・一眞が2018年を戦う(2017.6.25)

◆《4》高橋一眞の復活

2016年に悪夢の3連敗を喫した高橋一眞は2017年は4連勝と完全復活。過去3勝1敗の村田裕俊を破り、NKBライト級王座奪取と、元チャンピオンの大和知也を破り初防衛を果たしました。

長男・一眞は打たれ脆さが心配されます。大和知也との試合はそのスリルある展開を見せ大歓声となりましたが、再び「KNOCK OUT」出場することとなった高橋一眞は、2018年2月12日の「KNOCK OUT FIRST IMPACT」に於いてKNOCK OUT常連の町田光(橋本)戦が予定されており、ここはガードを固め冷静に戦って欲しいところです。

次男・亮も12月のKNOCK OUTに於いて、小笠原瑛作(クロスポイント)と引分ける好ファイトを見せながらも弱点を見せる展開。三男・聖人は安田浩昭に一発で逆転負けする不覚を喫したばかり。それでもNKBを担う立場に成長した高橋三兄弟は、安泰マッチメイクは無く試練を乗り越えていくので、負けながら這い上がるところに好感が持て、それぞれが2018年の急成長が見られるかが期待と見所でしょう。

本場のリングが主戦場となった志朗、2018年も厳しい戦いが続く(2017.12.9)

◆《5》志朗と麗也の独立

志朗と麗也(ともにKICK REVOLUTION)が新日本キックボクシング協会を、脱退宣言発表をしたのは6月20日でした。本場タイのリングでの戦いの場を求めて、これ以降ほぼ現地のみのリングに上がっていますが、現地の有力プロモーターに認められ、勝ち上がることはかなり難しい道程で、下手すれば簡単に切り捨てられる本場で、窮地に追い込まれても2018年も突き進まなければなりません。

早速1月13日(土)、タイ・ルンピニースタジアムにて志朗の出場が決定しています。試合はタイ地上波9チャンネルで放送と、セミファイナル出場が予定されるかなり高水準の待遇で、対戦相手は、チューペット・シットパナンチュンという、タイ7チャンネルや9チャンネルに出ている知名度があり、今最も勢いのある選手の一人として名を馳せており、パンチとローキックが武器で、最近は3連続KO勝ちしており、志朗とはKO決着が予想されています。

麗也は志朗とは別のジムに所属しており、まだ活躍の詳細は聞かれませんが、2018年は志朗に続かなければならない勝負の年となるでしょう。

新春最初の興行は1月8日に、後楽園ホールに於いて17時より、新日本キックボクシング協会・治政館ジム興行「WINNERS 2018.1st」が行なわれます。WINNERS、MAGNUM、TITANS NEOSなど、この団体内でもビッグイベントが揃っており、「KNOCK OUT」以外の国内各団体が突出してくるか、あるいはまた分裂が起こるか、何が起きても不思議ではないキック界が1年後にどうなっているか、波乱にも期待したいところです。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

2018年の注目冤罪裁判〈1〉「今市事件」と「千葉18歳少女生き埋め事件」

昨年暮れ、当欄で冤罪の疑いを伝えていた「滋賀人工呼吸器外し事件」の西山美香さんに対し、大阪高裁が再審開始の決定を出して大きな話題になったが、今年も袴田事件、大崎事件、日野町事件、恵庭OL殺害事件など冤罪が疑われる数々の再審請求事件で再審開始可否の決定が出る見通しだ。

一方、私が取材している冤罪事件の中には、被告人が第一審で冤罪判決を受けながら、今も無実を訴えて裁判中の事件もいくつかある。その中から、2018年の注目冤罪裁判2件を紹介する。

◆今市事件は2月にDNAの重要審理

まず、当欄では2016年から冤罪事件として紹介してきた「今市事件」。2005年に栃木県今市市(現・日光市)で小1の女の子・吉田有希ちゃんが殺害されたこの事件では、同県鹿沼市の勝又拓哉被告が2014年に逮捕され、2016年4月に宇都宮地裁の裁判員裁判で無期懲役判決を受けた。しかし、有罪証拠は事実上、捜査段階の自白しかなく、当時から冤罪を疑う声は決して少なくなかった。

そんな今市事件では、昨年10月から東京高裁で勝又被告の控訴審の公判審理が行われており、「殺害現場や殺害方法に関する勝又被告の自白内容は現場や被害者の遺体の状況に整合するか否か」「被害者の遺体に付着していた獣毛は、勝又被告の飼い猫とミトコンドリアDNA型が一致するか否か」という2つの争点において、すでに審理が終わったが、いずれの争点においても弁護側が優勢だったという見方がもっぱらだ。

とりわけ12月21日の公判では、藤井敏明裁判長が検察官に対し、「殺害現場について、訴因変更をしなくていいのですか?」と確認をしていたが、一審で有罪判決が出ている事件の控訴審で裁判長が検察官にこのような確認をするのは極めて異例だ。藤井裁判長ら控訴審の裁判官たちが一審の有罪判決の筋書きに疑問を抱いていることは間違いない。

勝又被告の控訴審では、2月にも2度の公判審理が予定されているが、その中では、被害者の遺体に付着していた粘着テープ片から検出された「第三者のDNA」について、真犯人のものである可能性があるか否かなどが法医学者らの証言によって争われる。裁判の結果を大きく左右する審理になるはずだ。

◆2人の被告人に無罪が出てもおかしくない「千葉18歳少女生き埋め事件」

もう1つの注目冤罪裁判は、当欄で昨年11月に紹介した「千葉18歳少女生き埋め事件」だ。

2つの注目冤罪裁判が行われている東京高裁

この事件は2015年に発生した当時、「生き埋め」という残酷な手口がセンセーショナルに報道されて社会を震撼させた。その報道のイメージが強いためか、一審・千葉地裁の裁判員裁判で3人の被告人のうち2人が殺人については無実を主張していたにも関わらず、3人全員に無期懲役判決が宣告されたことに疑問を呈する声はまったく聞かれなかった。

だが、実際には、生き埋め行為は、軽度の知的障害がある実行犯の中野翔太受刑者(すでに無期懲役判決が確定)が他の2人の意向とは関係なく、焦って自分1人で勝手にやったことだというのは、私が当欄の昨年11月10日付けの記事で報告した通りだ。無実を訴えていた井出裕輝被告、事件当時未成年だったA子の2人は、そもそも中野受刑者が被害者を生き埋めにした時には、現場を離れていたのだ。

井出被告とA子はいずれも無期懲役判決を不服とし、東京高裁に控訴中だが、A子の控訴審の公判審理はすでに始まっており、1月18日には第2回の公判が開かれる。井出裕輝被告の控訴審も1月23日に初公判が開かれる予定だ。

2人に対する有罪認定については、様々な疑問がある上、実行犯である中野受刑者自身が「1人で見張りをしている時、掘った穴に入れていた被害者が泣き出したので、焦って砂をかけてしまったんです」と証言しており、生き埋めは自分1人で勝手にやったことだと打ち明けているに等しい状態だ。

井出被告、A子共に控訴審で逆転無罪判決を受けても何らおかしくないだけに、冤罪に関心がある人には要注目の事件だと思う。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

偏向報道の是正を求め在日ジャイアントパンダが無期限ストへ突入

── おとうちゃん、いくら正月やからゆうて、飲みすぎちがう? 暮れの紅白見ながら白酒(パイチュウ)飲みだして、ずっとやで。
── じゃかましい! おまえらにいちいち酒の事は言われとうない。
── せやけど体にさわるで。いくらなんでも。
── あほ!「今年の10大ニュース」お前らも見たやろ?
── それがどないしたん?
── なにが「上野動物園でパンダの赤ちゃんシャンシャン誕生! 初公開に46倍の申し込み」や! お前ら悔しゅうないんかい!

(また、おとうちゃんの「上野恨み節」がはじまった。酒はいってるし、きょうは難儀そうやわ)

── うん、うん。あれはあんまりやね。
── あんまりですむかい! え? テレビも新聞もどこみてけつかんねん。おっ! わしらここでどんだけの家族がいてると思うてんのや!
── そやねぇ。いまはうちら5頭だけになったけど、一時は大賑わいやったもんね。

正月2日、場所は和歌山県「白浜アドベンチャーワールド」だ。ここではジャイアントパンダが現在5頭飼育されており、上野動物園のガラス越しとは異なり、じかにジャイアントパンダを目にすることができるので人気がある。が、13頭もの新生児を誕生させたジャイアントパンダが「白浜アドベンチャーワールド」にいることは、あまり知られていない。そのことについては当人(当パンダ)たちのあいだで、これまでさしたる問題になることはなかったが、昨年上野動物園で「シャンシャン」が誕生して以降の報道過多に、ついに白浜のパンダたちは堪忍袋の緒を切らし、2018年元旦を期して「無期限ストライキ」に突入していた。

東京・上野など目でははない!和歌山「白浜アドベンチャーワールド」のパンダファミリー

パンダたちの要求は
「上野動物園パンダ偏向報道の是正」
「動物園に収容されている動物の野生への一時解放期間の要求」
「日本の自然動物との交流機会の保障」
「外来種を含めた自然動物と動物園収容動物による意思決定機関の保障」
の4項目だ。

関係者はこれまで温厚だったジャイアントパンダの態度急変に驚いたが、ジャイアントパンダが同園に果たしてきた役割の大きさから、要求を無視することもできず、「一度持ち帰り検討させてほしい」とジャイアントパンダ側に回答。同園だけでなく、国際問題に発展する恐れもあることから外務省、文科省、ユネスコ、そして中国大使館とも水面下で対応を協議していたが、回答をまとめるのに時間がかかりついに世界の動物園史上初「ジャイアントパンダによる無期限ストライキ」突入となった。

── だいたいやな。わしらは「平和の使者」ゆわれて、大陸から世界中に派遣された。ちゃうか?
── うん、それはおとうちゃんからしょっちゅう聞いてるし、上野動物園に最初「カンカン」と「ランラン」が派遣されたときからそうやったんやね。
── それがやな、なんでわしら白浜家族はこんなごっつい所帯やのに、ちょぼっとしか宣伝もされんと、なんで上野の若造ばっかりいつも注目されるんや! お? わしがここで可愛い13頭のこども育ててたことを知ってる人間がどれほどおるんや!
── うんうん、おとうちゃんみたいな人間はおらへんやろうね。
── あたりまえや! 人間なんて頑張ってもせいぜい7-8人が限度や。それに日本は少子高齢化社会やよってに、最近の若い人間はこどもを産まんらしい。そこへいくとおとうちゃんは、今でもバリバリやで、へへへ。
── 下品なこといわんといてよ(バッシ)。せやけど、こんなことしていいの?「ストライキ」ってなんのことかわからへんけど。ちゃんと食事くれはるやろか?
── あたりまえやろが。わしらの貢献がなかったら白浜はここまでもりあがらんかったんや。せやから上のほうは知らんけど、飼育係の兄ちゃんたちはいつも通りやがな。それどころかいつもは日本酒かビールしかくれへんのに、白酒こっそりくれはったやろ。これごっついうまいねん(ヒック)。
── あ、テレビのチャンネル変えて!もーなんで上野のことばっかりやるんやろうね。
── せやろが。わしはな、人間に意地悪しようとおもってるんちゃうで。人間には「人権」ゆうものがあるらしい。お前ら知ってるか?
── (一同)知らん。
── 人間は尊厳を守られるために「人権思想」ゆうのを考え出したわけや。お前らは日本生れやから知らんやろうけど、わしはこれでも中国の教育を一通り受けたんや。弁証法的唯物史観や毛沢東のゲリラ戦術からマルクス主義の基本も一応教わった。
── おとうちゃん、お酒飲みすぎちがう?なんか訳わからへんこと言いだしたよ。
── 気の毒にお前らには教養がない。それはしゃーない。こういう環境で育ったんやから。せやけどやな。わしらはもともとこんな「見世物」やなかったことくらいはわかるやろ。
── うん! それはわかる。いっつもおかあちゃんとお話してんねん。大陸の山の中の笹の匂いってどんなんやろなーって。
── そや! そやろ! なんぼこんな場所で産まれても、ワシらの血はあの山や林の中の匂いを忘れはせえへんねん。あそこが故郷なんやからな。
── おとうちゃん、ぼくもちょっとだけ白酒のんでいい?
── おお、ええで。人間は20歳にならんと飲んだらあかんそうやけど、わしらはわしらや。せやけどもったいないからあんまりのんだらかんで。おとうちゃんのぶん、残しとくんやで。
── うわっつ。ごっついきつい。匂いもきついな。この酒。
── そこがええんやないか。まだお前には白酒の味はわからんな。お前は発泡酒飲んどけ。
── うんそうするわ。のどが焼けそうや。
── さて、真面目な話やで。わしらはいま「無期限ストライキ」に突入したんや。こまかいことを説明してもお前らにはわからへんやろから、おとうちゃんが簡単に説明したる。ようきくんやで。まず上野とここの扱いが違い過ぎるのはみんなわかるな?
── うん、それはわかる。
── あれはな、日本の中央集権がまねいた結果なんや。考えてみ。ここではおとうちゃんだけでお前ら13頭を育てたんやから、上野の13倍騒がれなおかしいやろ?
── わたしもそない思う。
── 人間の世界はな、「人権」だの「平等」だといいよるけど、結局そうはなってへんいうことや。せやからおとうちゃんは人間に向けて全面的な問いを投げかけたわけや。「動物園に収容されている動物の野生への一時解放期間の要求」はわしらを一時的に「大陸の山にもどせ」いうことや。キリンやシマウマやライオンをアフリカに。ペンギンやイルカやオットセイを海に返せいうことや。
── え!それええやん!大陸の山の匂いだけやなくて、ほんまもんの笹食べたい。山に帰ったら親戚に会えるかな、おとうちゃん?
── さあな。それはわからへん。せやけどお前らでも胸が躍るやろ。大陸の山の匂い。
── うん!帰りたい!
── 「日本の自然動物との交流機会の保障」は日本にも熊や猪、狐や鹿。ようけ自然動物がおる。やつらとわしらは直接おうたことがない。こんな長いこと日本におって、おかしいと思わへんか?
── せやけど熊は肉食やで。狸も狐も。
── わかってるがな。やけど奴らはわしらのことをよう知っとる。実はな、日本の自然動物は「日本自然生物同盟」いう組織を立ち上げたんや。そのことはここに飛んでくるヒヨドリから聞いた。奴らもわしらと接触したがってるそうや。なんせわしらは人間に大人気やからな。
── そんで、日本の動物と話してどうすんの?
── それやがな。「外来種を含めた自然動物と動物園収容動物による意思決定機関の保障」はな、日本の動物だけやなしに、日本に連れてこられたり、入ってきてしもうた連中との連帯や。沖縄のマングースが中心になる。オブザーバーやけどヌートリアやブラックバスも参加する予定になっとる。
── 予定になっとるって、もう準備してるん?
── 白酒取ってくれ。あたりまえや。ヒヨドリをレポ(連絡役)にしてもう連中と話はつけてある。沖縄のマングースとハブは気の毒やで。ハブは毒蛇やさかいに、人間には嫌われた。ハブを駆除するために人間はマングースを沖縄に連れてきた。マングースは蛇が好物やからハブを食わせたかったんやな。ところがそこへ「ヤンバルクイナ」発見や。マングースはハブだけを食うてるわけちゃう。腹が減ったらネズミでも昆虫でも「ヤンバルクイナ」でも食うがな。当たり前やろ。せやのに人間は自然だけやなくレジャーランドでも「ハブとマングースの戦い」ショーをやってキャッキャ言ってよろこんどった。マングースが連れてこられたのは檻の中でハブと「格闘技」するためやない。自然のハブを駆逐させようと人間が考えたのが理由や。それで今何が起きてると思う?
── ハブが全滅したん?
── ちゃう。人間は「ヤンバルクイナ」を守るために「沖縄島の北部(ヤンバル)エリアからマングースを全滅した」いうてる。
── ええ!そんなん勝手すぎるやんか!
── そない思うやろ?それだけやない。「ヤンバルクイナ」で一儲けした人間は、どういうわけか、「ヤンバルクイナ」の宣伝を止めて「イシカワガエル」に看板をかけ替えよったんや。
── なに「イシカワガエル」って?
── 聞いたことないやろ。沖縄の固有種らしい。けども「ヤンバルクイナ」ほどインパクトないわな。わしらと共闘する「日本非人間生物同盟」には「ヤンバルクイナ」も「参加する」言うとる。人間はわしらが「可愛くおとなしい」と思いこんどる。そこや。だからわしらがまず動くんや。わしらには世界のネットワークがあるし、人間の環境主義者との連携も既に模索しとる。
── おとうちゃん、結局なにがしたいの?なにをするの?
── 生物解放や。人間の一元支配から生物解放。人間は人間同士でがんじがらめになってもうどうにもならん。数千年続いてきた人間支配ももう限界にきてるんや。だからわしらが動き出す。もう人間にまかせておかれへんからな。
── なんかわからん。けど、わくわくする。お父ちゃんもうちょっとなら白酒飲んでええよ。
── 言われんでも、もう飲んでるがな。それから内緒やけどこの作戦にはおもろい奴もくわわるで。
── だれ?
── トトロや。

(上記の物語は断るまでもないがフィクションである)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

新年総力特集『NO NUKES voice』14号 脱原発と民権主義 2018年の争点

死刑・原発・東京新聞 ── 不整合な一年が暮れる

これは12月20日頃ネット上での東京新聞Webの冒頭画面だ。

 

この切り取りの中には、平然としているが、本来かみあわないはずの突合が無理やり詰め込まれている。東京新聞(中日新聞)は明確に原発に疑義を呈している。福島第一原発事故の後に東京新聞は契約部数を増やした。契約増の理由は、事実を伝えない他の全国紙よりも信憑性が高いと評価されたからだ。

ところが、このネット上の記事にはあろうことか「東京電力」の広告が画面中心に登場する。東京電力の広告は東京新聞が選択し、広告掲載契約を結んだものではないだろう。多数の閲覧者があるHPやブログでスポットCMのように、次々とかわるがわる入れ替わる方式の広告表示形態が、ある瞬間このようなマッチングとなっただけのことなのだろう。それにしても媒体の性格やブログの主張している内容と、まったくそぐわない広告が偶然にしても並び立つこの表象は、情報錯乱時代の意味論の視点からは示唆的な光景である。

反自民を標榜するある個人のブログを見ていたら、総選挙期間中しきりに安倍の顔が映し出される自民党の広告が表示されていた。紙媒体であれば、あのような現象はおこらない。反自民を主張するビラや冊子に自民党が広告を出すことはないし、発行元は仮に広告掲載の依頼があろうと断るだろう。

ネット上のスポットCMは媒体性格など関係なしに、おそらくは広告主からポータルサイトに支払われた広告代金にそった頻度で登場するのだろう。画面上での本来の主張との不整合は、いまのところ別段問題にされてはいないようだ。ただし、この画面を見て、「なんかへんだなぁ」とあやしさを感じ取る感性は保持しておきたいと思う。

◆犯行時19歳の死刑執行と光彦君の友人

そしてタイトルの「犯行時19歳の死刑執行 92年の市川一家4人殺害」記事に、「ああ」と声をあげたのは私だけではなかった。辺見庸は自身のブログで12月19日「絞首刑」直後にタイトルも「絞首刑」とし、絞り出すように書いている。

◎さようなら、光彦君・・・

友人が殺されるというのは、つらいものだ。

今朝、光彦君らが死刑に処された。
予感があったのであまりおどろかなかったが、やはりくるしい。重い。
気圧や重力や光りの屈折のぐあいが、このところ、どうもおかしい。

きみは〈やめてくれ!〉〈たすけてくれ!〉と泣き叫んだか。
あばれくるったか。〈お母さん〉と叫んで大声で
泣いたか。刑務官をどれほど手こずらせたか。
それとも、お迎えがきて、あっけなく失神したか。まさか。

きみは何回、回転したか。ロープはどんなふうに軋んだか。
宙でタップダンスを踊るように、足をけいれんさせたか。
鼻血をまき散らしたか。
舌骨がへし折られたときどんな音がしたか。
脱糞したか。失禁したか。目玉がとびでたか。
首は胴から断裂しなかったか。

けっきょく、再審請求も犯行時未成年も考慮されはしなかった。
考慮されたのは、「適正に殺す」ために、
きみのせいかくな体重とロープの長さくらいか。
さて、なぜ、けふという日がえらばれたか、知っているか。
平日。国会閉会中。皇室重大行事なし、だからだ。
国家は、ごく静かな朝に、ひとを「公式に」くびり殺すのだ。

やんごとないかたがたのご婚約、ご成婚、ご懐妊発表の日には
絞首刑はおこなわれない。
おことば発表の日にも、ホウギョの日にも、絞首刑はおこなわれない。
聖人天皇もマドンナ皇后も、死刑はおやりにならないほうがよい、
などというお気持ちのにじむおことばをお話しあそばされたことはいちどもない。
なぜか。

連綿たる処刑の歴史のうえに、ドジンのクニの皇室はあるからだ。
ひとと諸事実(そして愛の)の多面性と多層性について、
光彦君、ずいぶんとおしえられたよ。ありがとう!
ひとと諸事実(そして愛)の多面性と多層性については、
法律もジャーナリズムも、ほとんどの文学も、
まったくおいつかないことをとくと学んだよ。

災厄でしかない国家のなしうるゆいいつの善政とは、死刑の廃止であった。
死刑をつづける国家と民衆は、さいだいの災厄ー戦争をかならずまねくだろう。
にしても愚劣なマスコミ!

今夜はNirvanaを聴くつもりだ。
さようなら、光彦君・・・。

◆辺見庸と東京新聞

辺見と2017年12月19日、日本国から合法的に「殺された」関光彦さんのあいだに、10年を超える親交があったことは以前から知っていた。『いま、抗暴のときに』をはじめ辺見のエッセーには、匿名ながら幾度も関さんが「私の作品をもっとも深く理解する読者」として記されている。でも、死刑にはもとより反対の立場である私は、関さんの挿話を「死刑反対」の意を強くする補完材料として読んだのではない。逆だ。「殺す」とはいったいどういうことなのか、「死刑」判決を受け拘置所でいつ来るともしれない「その日」を待つひとの心のありようを自分は自分のこととして、これ以上ムリだと言い切れるほど思いを巡らしたのか。そして被害者(関さんであれば関さんがあやめた4名の)へどう立ち向かうのか。それらすべてを整理できなくとも、覚悟をもって「撤回のきかない最終回答」として「死刑反対」といいきれるのか、を問われ、鍛えられた命題だった。

一方、東京新聞の記事本文は、
〈法務省は十九日、一九九二年に千葉県で一家四人を殺害し、強盗殺人罪などに問われた関光彦(てるひこ)死刑囚(44)=東京拘置所=と、九四年に群馬県で三人を殺害し、殺人などの罪に問われた松井喜代司(きよし)死刑囚(69)=同=の刑を同日午前に執行したと発表した。上川陽子法相が命令した。関死刑囚は犯行当時十九歳の少年で、関係者によると元少年の死刑執行は、九七年の永山則夫元死刑囚=当時(48)=以来。二人とも再審請求中だった。(中略)
 上川氏は十九日に記者会見し「いずれも極めて残忍で、被害者や遺族にとって無念この上ない事件だ。裁判所で十分な審理を経て死刑が確定した。慎重な検討を加え、執行を命令した」と述べた。(中略)
 日弁連は昨年十月七日、福井市で人権擁護大会を開き、二〇年までの死刑制度廃止と、終身刑の導入を国に求める宣言を採択。組織として初めて廃止目標を打ち出した。
<お断り> 千葉県市川市の一家四人殺害事件で強盗殺人などの罪に問われ、十九日に死刑が執行された関光彦死刑囚について、本紙はこれまで少年法の理念を尊重し死刑が確定した際も匿名で報じてきました。しかし、刑の執行により更生の可能性がなくなったことに加え、国家が人の命を奪う究極の刑罰である死刑の対象者の氏名は明らかにするべきだと考え、実名に切り替えます。〉

東京新聞は「国家が人の命を奪う究極の刑罰である死刑の対象者の氏名は明らかにするべきだと考え、実名に切り替えます。」と結んでいる。この記事末尾を一片の「良心」ととらえるか「いいわけ」と判断するかは見解が分かれよう。本質はそんなことではない。

「死刑」は重大な問題だ。私は確信的に「死刑」」に反対する。その原点の延長線上に「原発反対」も位置し、「原発反対」を旗印にする「東京新聞」への「一定の評価」も付随する。天皇制への異議も同様だ。しかし東京新聞の名前の横に「東京電力」の広告が表示され、関さんへの「死刑」記事が8割がた記者クラブ発表記事として文字化され、最後に<お断り>で結ばれる。この不整合が不整合ではなく、あたかも体裁が整っているかのように完結する(私にとって意味はまったく完結していないけれど)流れが2017年を物語っているように思える。

不整合な一年だった。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

『NO NUKES voice』14号【新年総力特集】脱原発と民権主義 2018年の争点
『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』

森友・加計事件と共謀罪 ── 今年の二大事件の追及は来年も続く

2017年は様々な事件があったが、私としては「森友学園・加計事件」と「共謀罪の成立・施行」が二大事件だと考えている。

今後も疑獄事件の責任追及と共謀罪廃止へ向けての動きを追っていきたいが、いつ、どのような形で“納税者一揆”が起きるのかが 2018年における私の関心事だ。森友事件に関連してである。

森友事件は、総理大臣夫人の安倍昭恵氏と関わりのあった学校法人に対し、合理的な理由と説明がないままに国有地を8億円以上値引きして払い下げた重大事件である。

しかも近畿財務局の役人と森友学園との価格交渉を示す録音もメディアに公開されており、また値引きの根拠であったはずの「ゴミ」もほとんどなかったことが判明しているのだ。もはや、政府側(財務省側)は、申し開きのできない事態に追い込まれている。

当時財務省理財局長だった佐川宣寿・現国税庁長官が国会で、あらかじめ具体的な金額を出して森友学園と交渉したことはない、と虚偽の答弁をした。また、関連文書も破棄するなど証拠隠しにも関与していると批判が巻き起こっている。

こうした中で、森友学園がらみで市民による刑事告発が多発しているが、佐川国税庁長官を対象とした告発をいくつか挙げてみる。
 
まず、「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」八木啓代代表らが17年5月15日、佐川氏を含む官僚7名を公文書等毀損罪で刑事告発した。1年も経たず、また事案が進行中であるにもかかわらず文書を破棄したことを問題としている。

次いで10月16日、「森友・加計問題の幕引きを許さない市民の会」の醍醐聡東大名誉教授らが、佐川氏を証拠隠滅の疑いで東京地検に告発した。告発内容としては、右の「健全な法治国家のために~」の告発と重なる。

どちらも告発は受理された。

安倍ヤメロ(2017年12月14日)

◆国税庁前で抗議行動、さらなる告発も

森友事件に関して国会で虚偽答弁した人物が、税金を取り扱う国家機関である国税庁のトップに据わった。となれば、刑事告発も起こるだろうし、罷免運動も起きるのは当然だ。

12月14日には、市民団体「森友・加計告発プロジェクト」の呼びかけで、国税庁前で抗議行動があり、寒風吹きすさぶ中、約50人の市民が集まった。

「安倍は辞めろ!」
「佐川も出てこい! 国会で嘘ばかりの佐川!」
とシュプレヒコールが飛び交っていた。

佐川出てこい(2017年12月14日)

都内の自営業者も参加し、毎年年末や確定申告の時期になると大変な思いをしていることを述べ、国税庁の建物に向かい「あなたたちに税金を集める資格ないでしょ!」と怒りをぶちまけた。生活感と説得力のある発言だった。

愛媛県今治市で安倍首相の“腹心の友”加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園獣医学部認可について不正を指摘し続けている黒川敦彦氏も上京し、通行人や国税庁職員に向けて訴えた。

「厚生労働省の調査で約6割の人が生活が苦しいと答えている。普通の人がどれだけ大変かわかっているのだろうか。今本当に困っている人が多い。お金がないと人は死ぬんです。
 佐川国税庁長官は、国有地の8億円値引きについて1回も説明していない。8億円もあれば、何人の国民が救えるのか。
 加計問題や森友問題のようなことを放置していけば、普通の人の生活はどんどん苦しくなっていく」

まったく黒川氏が言うとおりだ。抗議行動をよびかけた「森友・加計後発プロジェクト」は、すでに国家公務員法違反の疑いで安倍昭恵夫人、公職選挙法違反の疑いで安倍晋三首相らを刑事告発しているが、佐川国税庁長官を刑事告発することを検討中である。

黒川氏(2017年12月14日)

◆税務署窓口で「領収書破棄しました」一言運動

納税者からカネ(税金)を徴収する機関のトップが国有財産のたたき売りに関与し、金額をめぐる事前交渉はなかったなどと虚偽答弁をし、関連文書も破棄した。

これでは、税金をまともに払う気など起きない。2月から3月にかけては確定申告の時期だが、とりわけ納税者意識を持たざるをえない自営業者やフリーランスは税に関して不公平感を持つのは当然だ。

書類や領収証の不備などを確定申告の時期に税務署から指摘されることもある。だが、そのときに納税者には一言物申す権利がある。

「領収証は破棄しました」
「契約書も破棄しました」
「パソコンのデータ消滅しました」

日本中の税務署で、このような言葉が飛び交ってもおかしくない。何か職員に言われたら「税金をつかさどる機関のトップたる佐川宣寿・国税庁長官を見習っているだけです」と答えるしかないだろう。むしろ、納税者は直接窓口で抗議するべきではないだろうか。

納税者の強い抗議がないから、安倍首相のお友達に血税が簡単に遣われてしまうのだ。

黒税庁長官(2017年12月14日)
食い逃げ(2017年12月14日)

▼林 克明(はやし・まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)ほか。林克明twitter 

鹿砦社新書刊行開始!『歴代内閣総理大臣のお仕事 政権掌握と失墜の97代150年のダイナミズム』(総理大臣研究会編)

「しばき隊」を必要としていたのは、「反差別」「反原発」「沖縄」の人たちではない

 
1『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』(2017年12月8日刊行)定価=本体1250円+税

鹿砦社取材班は常に「自分たちは間違っていないか? どこかに勘違いはないか?」と、留保の姿勢を維持しながら取材、執筆にあたっている。事実を探しだし、関係人物に話を聞き、事象を裏づける根拠(物証)を見つけて、ようやく原稿化する。当然のように「取材班は正義だ!」などとは微塵も思わない。むしろ世間知らずな面があることを自覚しながら、足らざる部分を補い合い、間違いを指摘し合いながら仕事をしている。

また、取材班は異なる個性の集合体であるので、個々の思想信条や属性、政治的意見もバラバラな人格の寄せ集めである。ただし、「差別」は許さない、「暴力やいじめは許さない」ことに関しては完全に一致をみている。その前提が共有できれば「M君リンチ事件」は、加害者や周辺人物がどのように詭弁を弄しようが、許されざる事件であることは簡単に理解できる。

◆「正義は暴走していいんだよ」と主張する人たち

他方、上記のように、「正義は暴走していいんだよ。だって、暴走しても正義だもん」と主張する人がいる。あきれる。笑いごとではない。小学生や幼児ではあるまいに。おのれを「正義」と規定する傲慢さと、「暴走してもいい」との際限なく浅はかで、危険な心情を吐露したコトバ。「暴走」はあらゆる場面で、ものごとの度が過ぎる場合に用いられるコトバだから、仮に自分の「正義」を確信したとしても(したならば、なおさら)「暴走」などと、理性ある大人は口にはしない。しかも公職や法曹関係者にとっての「正義」がいかなる定義づけをなされるか、は容易に想像される。

少なくとも「正義」の延長上に「暴走」を承認する理性などは、嘲笑の対象でしかない。彼がこの言葉を発したのは初めてではないらしい。やっかいなことに、彼は弁護士の職にある人物だ。その引用をしている人物も同様に弁護士、しかも二人ともM君と争う立場にある人たちの代理人を受任している。

大学院生リンチ加害者と隠蔽に加担する懲りない面々(『カウンターと暴力の病理』グラビアより)

◆しばき隊の「正義」は変幻自在に変化する

彼らに倣(なら)うかのように「しばき隊」は「みずからが規定する『正義』」になんの疑いもなく「暴走」する。しかしその「正義」の意味するところは、「しばき隊」にとって都合のよいように、変幻自在に変化する。彼らは「ヘイトスピーチ」はいけないという。取材班も同意する。

ではなぜ「ヘイトスピーチ」がいけないのか? 取材班は「差別される人の心を傷つけるから」ゆるされないものだと考える。「しばき隊」もおおすじ合意してくれるだろう。問題はその先だ。現象は常に「わかりやすい」とは限らない。口をつく、文字になる、映像になる差別のほかに、心に宿る差別はどうだろう? 取材班は常に、自己も無意識に保持するかもしれない「心に宿る差別」にも注意をはらう。そして「ヘイトスピーチ」が許されないものであるならば、「人の心だけでなく身体を傷つける暴力」がさらに罪深いことは当たり前だろう。

取材班はとりたてて優れた、または新たな人権思想や、社会のイメージを持っているなどとまったく思っていない。間違いをおかすことは誰にでもあるだろうと思う。なぜか? 「人間」だからだ。

きわめて単純だ。人間に絶対などなく、おおむね「正義」は相対的なものであり、自己を「正義」と評した瞬間、その人は無謬性という思考停止におちいることをあまたの歴史や経験から、そして取材班内の多様性からも知り得ているからだ。「人はみな違う」ことが重要なのだ。

鹿砦社への暴言の一部(『カウンターと暴力の病理』グラビアより)

◆“成果”にしろ“負の遺産”にしろ、社会運動の歴史を直視する

取材班は“成果”にしろ“負の遺産”にしろ、社会運動の歴史を直視する。歴史は断絶したものではありえず、負債にしろ勝利にしろ、私たちの社会で少なくとも戦後どのような社会運動が起きたのかをかなり研究し、共有している。その結実はなんだったのか? 戦術は? 参加者の想いは?被害者はいなかったか? あまつさえ犠牲者はでていないか? 不幸にも犠牲者が出ていれば、それは権力側の横暴によるものであるのか? あるいは不幸にも「正義の暴走」が引き起こした結果なのか?

歴史の前で謙虚になれば、「私たちはまったく新しい運動体」などと言い放つことができる運動など、出てきようががないことはあまりにも自明ではないか。その厚顔無恥を3・11後にやってのけたのが「反原連」(首都圏反原発連合)だった。首相官邸前に「日の丸」を掲げた“烏合の衆”(あえてこのように評す)が集まって、主催者内だけではなく「警察と打ち合わせ」(弾圧側との癒着は「社会運動」とは呼べない。社会運動の常識からすれば、これは「官製集会」、「官製デモ」と評されても過言ではなかろう)をしていた連中。彼らがやがてとんでもないことを引きおこすであろう予感は当時からあった。

◆「とんでもないこと」は2014年12月16日深夜から翌朝にかけて生じていた

そして「とんでもないこと」は実際2014年12月16日深夜から翌朝にかけて、不幸にも生じていた。「M君リンチ事件」だ。この事件を引き越した加害者の中には「戦後社会運動の歴史」を知るものはいないだろう。「新しい社会運動」と勘違いした人々のほとんどはそうだ。そうではなく「戦後の社会運動の歴史」を知る人は「ヘサヨ」、「ブサヨ」、「極左」などの烙印を押され、パージされていった。そして「失敗体験」を知らない人々だけが、「運動」を構成するようになり、やがて「運動」は目的をとらえ切れなくなる。2017年のしばき隊はすでに、「迷走」状態に突入しており、論理的整合性をたもった議論や論述を展開できなくなっている。「しばき隊」の出自が「日の丸」を掲げ「警察と打ち合わせ」をする「反原連」にそのルーツがあることをかんがみれば、当然の帰結である。

いまだに「リンチはなかった」などと平然と語る連中がいる──。(『カウンターと暴力の病理』グラビアより)

いまや「しばき隊」は極度のジリ貧で、中央が「締め付け」を強めないことには、アクティブな活動家とみられているメンバーの中にも、「辞めたいんですけど、怖くて」と取材班に連絡をしてくる人がいるほどだ。特高警察支配、スターリンの粛清なみに「しばき隊」の締め付けは、厳しいものになっている。つまり、彼らは崩壊の危機にあるのだ。でも心配はいらない。あなたたちを陰で支える、この国の権力はどこかで、あなたたちにテコ入れをしてくれることだろう。なぜならば、「あなたたち」をもっとも必要としているのは、「差別」された人でも「反原発」の人でも「沖縄」の人でもなく、「この国の権力中枢」にほかならないからだ、と取材班はみている。

(鹿砦社特別取材班)

『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』[特別付録]リンチ音声記録CD(2017年12月8日刊行)

カウンターと暴力の病理
反差別、人権、そして大学院生リンチ事件
鹿砦社特別取材班=編著
A5判 総196ページ(本文192ページ+巻頭グラビア4ページ) 
[特別付録]リンチ(55分)の音声記録CD
定価:本体1250円+税 12月8日発売! 限定3000部!

渾身の取材で世に問う!
「反差別」を謳い「人権」を守るとうそぶく「カウンター」による
大学院生リンチ事件の<真実>と<裏側>を抉(えぐ)る!
1時間に及ぶ、おぞましいリンチの音声データが遂に明らかにされる! 
これでも「リンチはない」と強弁するのか!? 
リンチ事件、およびこの隠蔽に関わった者たちよ! 
潔く自らの非を認め真摯に反省せよ! 
この事件は、人間としてのありようを問う重大事なのだから――。

【内容】

私はなぜ「反差別」を謳う「カウンター」による「大学院生リンチ事件」の真相
究明に関わり、被害者M君を支援するのか

しばき隊リンチ事件の告発者! M君裁判の傍聴人にしてその仕掛け人!!
在特会&しばき隊ウォッチャーの手記

カウンター運動内で発生した「M君リンチ事件」の経過
続々と明らかになる衝撃の証拠! リンチの事実は歴然!

「M君リンチ事件」を引き起こした社会背景
精神科医・野田正彰さんに聞く

前田朗論文が提起した根源的な問題
「のりこえねっと」共同代表からの真っ当な指摘

リンチ事件に日和見主義的態度をとる鈴木邦男氏と義絶

われわれを裏切った〝浪花の歌うユダ〟趙博に気をつけろ!

「M君リンチ事件」加害者・李信恵被告による「鹿砦社はクソ」発言を糾すが、
誠意ある回答なく、やむなく提訴いたしました!

「M君リンチ事件」裁判の経過報告
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鹿砦社元社員の蠢動と犯罪性
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大阪司法記者クラブ(と加盟社)、およびマスコミ人に問う!
報道人である前に人間であれ!
M君と鹿砦社の記者会見が五度も<排除>された!

『人権と暴力の深層 カウンター内大学院生リンチ事件真相究明、偽善者との闘い』(紙の爆弾2017年6月号増刊)
『反差別と暴力の正体 暴力カルト化したカウンター-しばき隊の実態』(紙の爆弾2016年12月号増刊)
『ヘイトと暴力の連鎖 反原連―SEALDs―しばき隊―カウンター 』(紙の爆弾2016年7月号増刊)