県庁ぐるみの自民党応援はいままでスルーしておきながら、野党の休日ビラくばりは逮捕・有罪という不公平! さとうしゅういち

◆行政の民主的運営に必要な公務員の地位を利用した選挙運動の禁止

公務員の地位を利用した選挙運動は禁止されています。公職選挙法の第136条の2は以下のように公務員による選挙運動を禁止しています。国家公務員法や地方公務員法においても、公務員の政治活動を制限する同様の趣旨の規定があります。

(公務員等の地位利用による選挙運動の禁止)

第百三十六条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、その地位を利用して選挙運動をすることができない。
一 国若しくは地方公共団体の公務員又は特定独立行政法人若しくは特定地方独立行政法人の役員若しくは職員
二 沖縄振興開発金融公庫の役員又は職員(以下「公庫の役職員」という。)

2 前項各号に掲げる者が公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)を推薦し、支持し、若しくはこれに反対する目的をもつてする次の各号に掲げる行為又は公職の候補者若しくは公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)である同項各号に掲げる者が公職の候補者として推薦され、若しくは支持される目的をもつてする次の各号に掲げる行為は、同項に規定する禁止行為に該当するものとみなす。
一 その地位を利用して、公職の候補者の推薦に関与し、若しくは関与することを援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。
二 その地位を利用して、投票の周旋勧誘、演説会の開催その他の選挙運動の企画に関与し、その企画の実施について指示し、若しくは指導し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。
三 その地位を利用して、第百九十九条の五第一項に規定する後援団体を結成し、その結成の準備に関与し、同項に規定する後援団体の構成員となることを勧誘し、若しくはこれらの行為を援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。
四 その地位を利用して、新聞その他の刊行物を発行し、文書図画を掲示し、若しくは頒布し、若しくはこれらの行為を援助し、又は他人をしてこれらの行為をさせること。
五 公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)を推薦し、支持し、若しくはこれに反対することを申しいで、又は約束した者に対し、その代償として、その職務の執行に当たり、当該申しいで、又は約束した者に係る利益を供与し、又は供与することを約束すること。

公務員がたとえば部下や出入りの業者に、特定の政党や候補者の支持をよびかけたら、部下や業者は逆らいづらいのは当然です。結果として行政機構が特定の政党・政治家と一体化することになりかねない。それこそ、現在の中国や朝鮮、あるいは、民主化前のメキシコ(制度的革命党の事実上の独裁)のようになりかねません。

逆に戦前の日本では政権交代のたびに警察のトップが交代させられ、選挙で与党が野党を弾圧する(選挙干渉)ことも常態化していました。このことが政党政治への不信、さらには軍部の台頭につながった暗い歴史があります。

上記の規定はそうしたことを防ぎ、行政の民主的運営を確保するためのものです。また、公務員が上司の圧力にさらされないためのものです。

筆者は広島県庁マンとして2011年まで勤務していました。広島県は、とくに最大都市の広島市の中心部に近づけば近づくほど岸田総理の影響が強い超保守王国です。ですが、広島県庁内では、少なくともこの上記の規定に違反するようなことは、筆者が見聞する限りではありませんでした。

◆衆院選2021契機に発覚した山口県庁の「組織犯罪」

ところが、お隣の山口県では、県庁が県庁ぐるみで自民党を応援することが少なくとも20年以上常態化していたのです。今回のことが発覚した発端は衆院選2021で副知事だった小松一彦被疑者が、部下に山口3区の林芳正外相の後援会入会を勧誘したことでした。小松被疑者は略式起訴され辞職に追い込まれました。

その後、小松元被告人は、部下に政治資金パーティーの会費1万円を振り込むようによびかけていました。呼びかけていたというふうに報道はされていますが、人事権を持っている副知事の言っていることを部長や課長が断れるでしょうか? 普通は断れません。そして、小松元被告人は県庁生え抜き。ご自身の課長や部長時代も同じように呼びかけられていたので、自分もそうした、というわけです。

しかし、選挙があるたびに、各都道府県には上記の公選法の条文を抜粋した文章が総務省から送られ、全職員に回覧される「はず」です。「はず」というのは、筆者が勤務していた広島県庁はそうだったということです。

◎[参考資料]衆議院議員総選挙における地方公務員の服務規律の確保について
https://www.soumu.go.jp/main_content/000510576.pdf

上記は衆院選2017のものですが、選挙があるたびに、県庁マン時代の筆者も目にしていました。

まさか、小松元被告も上記の文章をご存知ないとは言わせませんよ。周りがやっていたから、では済まされない。

ある意味、河井案里さんからお金をもらった人よりも言い逃れができない犯罪です。河井事件の「収賄」議員の場合は、「政治献金をもらった」という弁解も可能です(ただし、認められるかは別問題。)。だが、今回は「ど真ん中」の公選法136条の2違反です。

◆逃げ切りはかる村岡知事

さて、今回の事件は県庁ぐるみです。副知事がここまで大々的にやっていることを知事が知らないというのはあり得ない話です。知事は総務省ご出身。公務員の服務規律に関する文書を全都道府県に出す側で18年間やってこられた方です。筆者の同一大学同一学部の先輩にあたり、広島市では秋葉忠利市長の下で財政課長もされています。秋葉市長は、広島市役所の特定の議員と職員の結びつきなど、常態化していた役所内の規律の乱れを正していました。
https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/cms/a11100/profile/g-profile.html

そういう秋葉市長のもとでも要職を務めた村岡知事。今回のような不祥事はふせがないといけないお立場です。2014年以来、8年間も知事をされていて何をやっていたのか?

その村岡知事は、本年2月、再選されたばかりです。自民、公明の推薦を受けて、共産、社民、れいわが推す新人に「圧勝」しました。

山口市の60代女性有権者は、「知事は、コロナ対策と称してまったく選挙運動をしなかった。選挙を盛り上げないセコイ戦法をとった。盛り上がると県庁の不祥事がクローズアップされたと思う。県民も県民。知事を批判する声があまりあがってこない。」と悔しがりました。

山口県は市町村長全員が自民党員という異常な状態です。旧ソビエトや現在の中国や朝鮮とまではいかずとも、20数年前までのメキシコやインドネシアが「事実上の独裁」だった時代にほぼ近いように思えます。

ともあれ、村岡知事はただちに退陣し、公選法違反に関与していた幹部級職員も総入れ替え。本来ならそれくらいの荒療治が必要です。

◆問われる検察・警察の怠慢

しかし、これまで、検察や警察も何をやっていたのか?! 20年以上も県庁ぐるみでこういうことをやっていたのは気づかないはずはありません。公選法違反は親告罪でもなんでもない。事件化しようとおもえばいつでもできたはずです。検察・警察も説明責任をはたすべきでしょう。

自民党というより「安倍王国」山口で安倍晋三さんに忖度していたと批判されても仕方がないでしょう。

◆休日の野党のビラくばりは逮捕・有罪の不条理

いっぽうで、休日に野党のビラを配っていた国家公務員が逮捕・起訴されるという事件も日本ではおきています。

欧米諸国では、そもそも、休日に公務員が政治活動をすることは自由な場合が多いのです。これは、労働者の権利が欧米諸国では日本よりあるということです。筆者はノルウェーを訪問した際に公務員であるところの公立大学の教授が市議をやっている例に遭遇しました。(日本の国公立大学の教授は独立法人化によって現在は公務員ではありません。)。クロアチアでは格闘家で警官のミルコ・クロコップが現職のまま国会議員に当選。日本でも「ミルコ、社民党から立候補!」と東京スポーツ(広島では九州スポーツですが)が報道した例があります。

「職務上の地位を利用」ということが、日本ではとくに拡大解釈されて、とくに野党を弾圧することに悪用されています。

このうち、当時係長だった堀越さんという係長級の国家公務員労働者が日本共産党のビラのポスティングで逮捕された事件は逆転無罪になっています。
http://www.san-tama.com/topics/140
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik12/2012-12-08/2012120801_01_1.html

他方で宇治橋さんという厚労省課長補佐級の方が起訴された事件では罰金10万円という不当な判決が確定しています。

両者への司法の判断の違いをうんだのはなにか? 「係長級だと職務権限がないが、課長補佐級だとある。」ということです。

ありがとうございます! まったく意味不明です。係長級であろうが、課長補佐級であろうが、休日のポスティングに職務権限など関係ありません。

なお、一方で連合系の労働組合で民主党(現立憲民主党)の議員を応援した場合では、ここまでの「弾圧」はありません。筆者が現役の県庁マン時代は、組合が強い自治体の場合は、組合による事実上の政党支持の強制も問題と感じていました。

そして、その広島でもそうですが、(立憲)民主党が組合とともに自公と同じ候補者を知事選や市長選で推薦している実態もあります。管理職は自民党の、非管理職は組合の、それぞれ「領分」という構図が見えます。

こうした構図をまた検察や警察、司法も温存してきたと言えるでしょう。連合さん、民主党→民進党→立憲民主党さんも積極的にはこの構図を変えようとはしていないように見えます。(このことについては、鹿砦社刊行の「労働貴族」に詳しいです。)

日本の検察・司法は、上記判決が確定してから10年。山口県のような「ど真ん中」の「違法」をスルーしておいて、「職務上の地位」などまったく無関係なことを処罰する法解釈を変えていないのです。あまりにも、不公平な(自民党有利)法解釈がまかり通っていたのです。山口県庁の事件を契機にこうした構造を変えていかなければなりません。

◆「維新」による「公務員バッシング」への利用にも警戒

他方で「維新」が今回の事件を利用してさらなる地方切り捨て、公務員バッシングに悪用してくることにも警戒したいものです。「維新」も大阪市役所の不祥事を利用して最初は勢力を拡大しました。そして、市長に提言した校長を処分するなど、全体主義的な政治を進めています。「山口県庁」が、「村社会」なら「大阪市役所」は「ポストモダンなファシズム」です。「村社会」でも「ポストモダンなファシズム」でもない、民主的な地方行政の運営があるべき姿です。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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金竜介弁護士らが金銭請求している5億8,000万円に道理はあるのか? 892人を被告とする損害賠償裁判、弁護士大量懲戒請求事件、東京地裁も困惑か? 黒薮哲哉

3月初旬、わたしは2人の弁護士が起こした損害賠償訴訟で、被告にされたAさん(男性)を取材した。この訴訟の背景には、一時期、メディアがクローズアップした一連の弁護士大量懲戒請求事件がある。現在では報道は消えてしまったが、しかし、水面下で事件は形を変えて続いている。

 
金竜介弁護士(出典=台東協同法律事務所HP)

被告・Aさんによると、自らが被告にされた裁判では、被告の人数が892人にもなるという。Aさんは、その中の1人である。

この裁判を起こしたのは、金竜介弁護士金哲敏弁護士の2名である。2人の原告の代理人は高橋済弁護士である。訴状は、2021年4月21日に東京地裁で受理された。

請求額は約5億8,000万円である。まもなく提訴から1年になるが、未だに口頭弁論が開かれていない。わたしが3月に東京地裁に問いあわせたところ、担当書記官は、「何もお答えできることはありません」とあいまいな返事をした。Aさんも、自分の答弁書を提出したが、その後、裁判所からの連絡はない。他の被告がどのような対応をしているのかも、知りようがない。

わたしは東京地裁で裁判資料の閲覧を求めたが、これも認められなかった。理由はわからない。

◆大量懲戒請求への道

事件の発端は、インターネット上のサイト「余命三年時事日記」に特定の弁護士に対して懲戒請求を働きかける記事が掲載されたことである。同ウエイブサイトからは懲戒請求のために準備した書式がダウンロードできたという。その書式に自分の住所や名前などを記入して、「まとめ人」に送付すると、集団による大量懲戒請求の段取りが整う。

高橋弁護士が作成した訴状によると、「少なくとも平成29年(2017年)11までに」は懲戒請求を働きかける記事が掲載されていたという。懲戒請求の理由は、次のとおりである。訴状から引用する。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・【引用】・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「違法である朝鮮人学校補助金支給請求声明に賛同、容認し、その活動を推進することは、日弁連のみならず傘下弁護士会および弁護士の確信的犯罪行為である。
 利敵行為としての朝鮮人学校補助金支給要求声明のみならず、直接の対象国である在日朝鮮人で構成させるコリアン弁護士会との連携も過過できるものではない。
 この件は別途、外患罪で告発しているところであるが、今般の懲戒請求は、あわせてその売国行為の早急な是正と懲戒を求めるものである」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

このような主張自体は、国境が消滅しはじめて言語なども多様化してきた現代の感覚からすれば時代錯誤だ、というのがわたしの考えだ。国際感覚が欠如した「島国根性」にほかならない。

しかし、懲戒請求者の全員が懲戒理由を吟味して、懲戒請求書を「まとめ人」に送ったわけではない。Aさんも深くは考えなかったという。

訴状によると、2018年4月19日ごろに、「東京弁護士会の綱紀委員会は、本件懲戒請求についての調査開始をした」。しかし、翌日に「事案の審査を求めない、との議決をした」。さらにその後、弁護士会としても「被調査人を懲戒しない」ことを決定した。そして、27日に金竜彦弁護士と金哲敏弁護士にその旨を通知した。

2人は「この議決書及び決定書の送達があった日に、自らが懲戒請求を受けたことを知った」のである。

◆個々人、別々に金銭を請求

金銭請求の内訳は、被告1名に付き慰謝料30万円、弁護士費用3万円である。(ただし、内金については控除)。金銭請求の総額は約5億8,000万円になる。

実は、被告をひとまとめにして金銭を請求する代わりに、被告個々人に対して個別に金銭請求する方法も一般化している。たとえばわたし自身の経験になるが、2008年、読売新聞社がわたしに対して2230万円の賠償を求める名誉毀損裁判を起こしたことがある。この裁判の原告は、3人の読売社員と法人としての読売新聞社だった。読売の代理人の喜田村洋一・自由人権協会代表理事は、3個人と1法人に対して、個々の金銭請求額を提示してきた。その結果、わたしの年収の10倍近い金銭請求額を突きつけれたのである。

※裁判の結果は、地裁、高裁はわたしの完勝。最高裁が高裁判決を差し戻し、最終的には読売が劇的逆転勝訴を勝ち取った。わたしが、読売とその社員3人に約110万円の現金を払うことになった。

改めて言うまでもなく、個々人に対して金銭請求をしても、違法行為ではない。実際、金竜介弁護士と金哲敏弁護士は、この方法で約5億8,000万円というとてつもない金銭を請求したのである。

◆精神的苦痛による損害

しかし、損害金を請求するというからには、具体的な損害が発生していることが前提になる。ところが2人の弁護士が自分たちを対象とする大量懲戒請求が起こされていたことを知ったのは、弁護士会が懲戒請求を却下した後である。従って、精神的にも経済的にも損害を受けていない可能性が高い。あえて言えば、この事実を知らされたときに驚きと憤りを感じたという程度ではないだろうか。その損害の程度と5億8,000万円の請求に合理的な整合性はあるのだろうか。


◎[参考動画]ヘイトスピーチの抑制を呼びかける法務省の人権啓発スポット映像「ヘイトスピーチ、許さない。」

そこでこの点について、高橋弁護士に問い合わせてみた。高橋弁護士は書面で次のように回答した。民族差別を受けたことが被害であるという観点の回答だ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・【引用】・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 各懲戒請求者は、在日コリアンの属性のある弁護士が、在日コリアンの人権擁護を求めることが、日本に対する利敵行為であり、外患誘致罪に該当する犯罪行為であるという理由で、懲戒処分を受けるべきであるなどとして、弁護士会に対する懲戒請求を行いました。このような行為が「在日コリアンには人権が認められるべきではない」し「在日コリアンが人権擁護を求める活動をすれば実体的な不利益を受けるべきだ」という「差別意識」の発現であることは明白ですし、このような差別を受けた在日コリアン弁護士に重大な精神的苦痛による損害が生じていることも明白です。

 この点は、既に確定した判決で認められており、例えば、令和元年5月14日東京高等裁判所判決は、「本件会長声明の発出主体ではなく,東京弁護士会の役員でもない一審原告が対象弁護士とされたのは,専らその民族的出身に着目されたためであり,民族的出身に対する差別意識の発現というべき行為であって合理性が認められないところ,このような理由から本件8人を対象弁護士とし,名指しで懲戒請求をすることは,確たる根拠もなしに,弁護士としての活動を萎縮させ,制約することにつながるものである。したがって,一審被 告は,本件懲戒請求により一審原告が受けた精神的苦痛の損害を賠償すべきである」と判示しています。

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◆司法制度改革で高額訴訟が日常に

ちなみに高額訴訟の原点は、小泉構造改革の中で行われた司法制度改革である。実際、2001年6月に司法制度改革審議会が発表した意見書も、賠償額の高額化の「必要性」に言及している。次のくだりである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・【引用】・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「損害賠償の額の認定については、全体的に見れば低額に過ぎるとの批判があることから、必要な制度上の検討を行うとともに、過去のいわゆる相場にとらわれることなく、引き続き事案に即した認定の在り方が望まれる(なお、この点に関連し、新民事訴訟法において、損害額を立証することが極めて困難であるときには、裁判所の裁量により相当な損害額を認定することができるとして、当事者の立証負担の軽減を図ったところである。)。

 ところで、米国など一部の国においては、特に悪性の強い行為をした加害者に対しては、将来における同様の行為を抑止する趣旨で、被害者の損害の補てんを超える賠償金の支払を命ずることができるとする懲罰的損害賠償制度を認めている。しかしながら、懲罰的損害賠償制度については、民事責任と刑事責任を峻別する我が国の法体系と適合しない等の指摘もあることから、将来の課題として引き続き検討すべきである。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

このような流れの中で、公明党の漆原良夫議員が国会で次のような発言をするに至った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・【引用】・・・・・・・・・・・・・・・・・・

私は過日の衆議院予算委員会で、メディアによる人権侵害・名誉毀損に対し、アメリカ並みの高額な損害賠償額を認めるよう森山法務大臣へ求めました。  善良な市民が事実無根の報道で著しい人権侵害を受けているにもかかわらず、商業的な一部マスメディアは謝罪すらしていません。  

 これには、民事裁判の損害賠償額が低い上、刑事裁判でも名誉毀損で実刑を受けた例は極めて少なく、抑止力として機能していない現状が一因としてあります。  私は、懲罰的損害賠償制度を導入しなくとも現行法制度のままで、アメリカ並みの高額な損害賠償は可能であると指摘しました。これに対し、法務大臣は、「現行制度でも高額化可能」との認識を示しました。
◎出典 http://urusan.net/akahige/akahige1405.htm

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◆訴訟がビジネスの成立

実際、このころから武富士、読売、オリコン、JR東日本といった会社が高額訴訟を起こしている。武富士の代理人・弘中惇一郎弁護士らが「活躍」しはじめる。訴訟がビジネスとして成立することを、人権派弁護士が示したのである。

ここ数年のうちにわたしが取材した高額訴訟だけでも、横浜副流煙事件の4,500万円、ミュージックゲート事件の2億円などのケースがある。

金竜彦弁護士と金哲敏弁護士が起こした裁判では、総額が5億8,000万円にもなり、わたしが取材した裁判の中では最高金額である。しかも、会社ではなく、個人が原告である。

しかし、5億8,000万円という金額は、普通の労働者が生涯にわたり真面目に働き続けても、とても預金できる額ではない。その額を差別された事実を最上段に掲げて、デスクワークで入手しようとする試みそのものに、倫理上の問題があるようにわたしは感じる。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

破綻しつつあるプーチンの戦争 ── だが、停戦交渉は軍事作戦の一環にすぎない 横山茂彦

中東・ムスリムの紛争およびそれへの米ロの介入が、日本人には理解がむつかしい宗教的な障壁のゆえ「対岸の火事」であったのに対して、ロシアのウクライナ侵略は身近に感じされる。それは明日の台湾有事・朝鮮有事であり、北方諸島の現実であるからでもあろう。

そのウクライナ侵略戦争は数回にわたって停戦交渉が行なわれ、現在も継続されている。いまこの時も無辜の市民が殺され、ロシアに強制連行されている。一刻もはやく停戦が実現されることを祈念したい。

だが、ロシアがプーチンのほぼ独裁制である以上、その政治的なメンツが軍事上の優勢抜きには果たされず、したがって事態は泥沼化を辿らざるをえない。東部二州の併合という最低限の政治目標が達成されない限り、停戦やロシア軍の撤退はありえないのだ。

今回は停戦を左右する軍事的な側面から、現状を分析していこう。日本に居て現地の軍事情勢を俯瞰するのは困難とはいえ、双方の断片的な、そして相互の一方的な報道の中からも、十分に見えてくるものがある。

◆ロシア軍戦車の脆弱性

ロシア軍はキーウ(キエフ)を包囲していた兵力の20%をベラルーシ方面に後退させたという。これはアメリカの偵察衛星の情報によるもので、部隊の再編成のためと分析されている。いったんキーウ攻略をあきらめ、東部・南部への転用も考えられるところだ。いずれにしても、ロシア軍の苦戦は明らかだ。

現地から報じられる画像では、ロシア軍の戦車や戦闘車両が破壊されたものが目に付く。ウクライナ当局による意識的な戦果誇示の面があるとはいえ、イラク戦争のときに明らかになったロシア製戦車の防御の脆弱性が、ふたたび明らかになったと断言できる。

アメリカによるイラク侵攻の時、イラクの主要な戦車はロシア製のT-72だった。初期の戦車同士の正規戦闘で、イラクのT-72はアメリカ軍のM1エイブラムスに一方的に破壊された。T-72の125ミリ徹甲弾(鉄鋼製)は、アメリカ軍戦車の砲塔に命中しても跳ね返されるという事態が頻発したのだ。現在のロシア軍はT-72の改良型、およびその派生型のT-90が主力だが、画像を見るかぎりイラク戦争当時の脆弱性は克服されていない。砲塔が吹っ飛び、車体の損壊が激しいのがその証左だ。

戦車戦は戦闘のなかでも、最も物理的な戦いだとされている。装甲の強さと砲弾の破壊力の戦いなのである。弾頭は鉄鋼よりもタングステンのほうが強く、装甲は鋼鉄よりもチタンやセラミックを複合した合金、あるいは弾薬を外装することで敵の砲弾を跳ね返す(爆発反応)。

この点では側面装甲には外装弾薬が見られるものの、戦車の泣き所である上部装甲を破壊された車両が多くみられる。対戦車ミサイルによるものであろう。

いっぽうで、機動力(速度・運動性)と運用力(軽量化)のうち、広大な大陸では運用力が重視される。国土のせまい日本ですら、キャタピラ式の重戦車よりも軽量な装甲車(タイヤ走行)が重視される傾向にある。

ロシアの場合も広大な国土で運用するために、運搬のための軽量化が考慮されてきた結果、装甲の脆弱性を抱え込むことになったのだ。第二次大戦時のT-34という高速戦車が、ドイツのⅥ号戦車(タイガー重戦車)を打ち破った伝統から、欧米の最新戦車が重量化の方向に進んだのに対して、T-90型においても防御的なバージョンアップは少なかった。その結果、今回の戦闘では甚大な被害を出しているのだ。それも戦車戦ではなく、歩兵が携行する対戦車ミサイルにやられているのだ。
その主役は、FGM-148 (ジャベリン)である。


◎[参考動画]ロシア戦車撃退した“携帯兵器” 米に1日500基求めた威力とは(ANN 2022年3月25日)

◆戦車キラーの対戦車ミサイル

FGM-148は、発射指揮装置、発射筒体、発射筒体に収められたミサイル本体から構成されている。総重量は22キログラム。ちょうどママチャリや5キログラム米袋4個ほどの重さで、兵士が一人で運搬できる。

ミサイル本体は、射出用ロケットモーターによって発射筒から押し出される。数メートル飛翔した後に安定翼が開き、同時に飛行用ロケットモーターが点火される。ミサイルは完全自律誘導のため、射手は速やかに退避することができる。

主な目標は装甲戦闘車両だが、低空を飛行するヘリコプターへの攻撃能力も備える。発射前のロックオン自律誘導能力、バックブラストを抑え室内などからでも発射できる。

ミサイルの弾道は、戦車の装甲の薄い上部を狙うトップアタックモードと、建築物などに直撃させるためのダイレクトアタックモードの2つが選択できる。

最高飛翔高度は、トップアタックモードでは高度150メートル、ダイレクトアタックモードでは高度50メートルだという。射程距離は2,500メートルで、発射指揮装置のスコープの視認距離にひとしい。ミサイルは赤外線画像追尾と内蔵コンピュータによって、事前に捕捉した目標に向かって自動誘導される。メーカー発表によれば、講習直後のオペレーターでも94%の命中率だという。

弾頭はタンデム(複数)成形炸薬を備えている。メイン弾頭の前に、小さなサブ弾頭を配置したもので、サブ弾頭により爆発反応装甲などの増加装甲を無力化した後に、メイン弾頭が主装甲を貫通するように設計されている。上部装甲を破られた戦車は、ほぼ確実に弾薬庫を貫通される。ロシア戦車の砲塔が吹っ飛んでいるのは、戦車に搭載している砲弾が誘発し、自爆にちかい大爆発を起こすからだ。

近代兵器は装甲(耐久性)や動力(速度)だけではなく、戦闘機ならソースコード、陸上戦闘車両や携行ミサイルもコンピュータ制御の精度が勝負を決める。その意味では、陸上戦闘の花形と思われがちな戦車も、最新鋭のコンピュータ制御ミサイルの前では、愚鈍な標的にすぎないのである。ウクライナ側の映像で、車列をミサイル攻撃されたロシア軍戦車が、算を乱して潰走するシーンが現れるのは、単にロシア軍の戦意が低いわけではなく、ミサイル攻撃にかなわないと判っているからなのだ。

◆制空権を握れないロシア軍

もうひとつのウクライナ軍の武器は、地対空ミサイルのFIM-92(スティンガー)である。

スティンガーの主目標は、低空を飛行するヘリコプターや爆撃機などだが、低空飛行中の戦闘機、輸送機、巡航ミサイルなどにも対応できるよう設計されている。ミサイルの誘導方式には高性能な赤外線・紫外線シーカーが採用され、これによって目標熱源追尾能力(発射後の操作が不要な能力)を持っている。おおまかに狙いを定めれば、熱を発する飛翔体は何でも撃墜できる。

原理的には、アンチモン化インジウム(InSb)フォトダイオードを受光素子とした、量子型(冷却型)赤外線センサーによる赤外線ホーミング(IRH)誘導方式を採用しており、中波長赤外(MWIR)帯域の検知に対応していることから、全方位交戦能力を備えている。

発射時には目視で目標を確認し、その後本体のスイッチを入れて目標を捕捉する。引き金を引くとシーカーが冷却され、ミサイル後部のブースターによりコンテナから打ち出される。本体から10メートル離れたところでロケットモーターが点火し、超音速まで加速する。狙われた戦闘機や巡行ミサイルは、もう逃げられない。


◎[参考動画]Ukraine’s Powerful Stinger Missiles That Wreaked Havoc On Russian Forces(ミリタリーテレビ 2022年3月14日)

ジャベリンにせよスティンガーにせよ、敵の位置を正確に知ることで戦果が上っているのは言を待たない。アメリカ軍の衛星偵察とドローンによるロシア軍の配置把握によるもので、一面では情報戦でウクライナがロシアを圧倒していると言えるだろう。

現在、西欧各国はウクライナに対して、対戦車・対空ミサイルの供与を約束あるいは実施している。消耗を怖れるロシア軍は遠距離からの砲撃やミサイルで、いわば無差別攻撃に頼らざるを得ない。それがこのかんの、病院や学校、ショッピングモールへの攻撃として報じられたものなのだ。

これからも、プーチンの政治的な意地(メンツ)のために、ロシア軍はある程度の勝利(殺戮)と引き換えに停戦交渉をすすめ、いっぽうでは東部2州の事実上の併合を獲得目標とするであろう。そのために、ウクライナ国民の膨大な犠牲、そしてほかならぬロシア兵の犠牲が積み重ねられていく。21世紀のヒトラー、ウラジーミル・プーチンを止めよ!

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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渡辺てる子講演記録〈1〉庶民による庶民のための政治実現を ── 二度の国政選挙に立候補して 林 克明

◆れいわ新選組から立憲民主党へ

2019年7月の参院選、2021年10月の衆院選の二つの選挙に、れいわ新選組から立候補した渡辺てる子氏は、その熱烈な演説で多くの人々をひきつけた。結果は落選だったが、その後も非正規労働者・格差社会・シングルマザーなどの、当事者として活動を続けてきた。
 
衆院選後は彼女の去就が注目されていたが、年が明けて2022年2月15日、立憲民主党公認で4月17日投開票の練馬区議補選に出馬することを発表した。

 
『渡辺てる子の放浪記』(林克明著、同時代社)

昨秋の衆院選挙後も活動を続け、支援者からは時期参院選出馬を望む声も上がってきた。しかし、れいわ新選組の規約では、現職の議員と立候補予定者以外は党の「構成員」からはずれる。そうなると党からの支援は受けられず、選挙で仕事も辞め、わずかな財産もほぼ使い果たしている「落選者」は、非常に厳しい状況に追い込まれる。

そのような状況で渡辺てる子氏に声をかけたのが立憲民主党だった。その後、関係者が水面下でことを進め、最終的には、山本太郎れいわ新選組代表と渡辺てる子氏が直接会談し、4月17日投開票の練馬区議補欠選挙で立憲民主党から出馬することが合意されたのである。

どの政党から選挙に出ようが、当事者として庶民による庶民のための政治実現を目指し活動してくことには全く変わりないだろう。

そうした彼女の基本姿勢がわかるのが、総選挙から一か月近く経過した昨年11月29日に行われた講演である。

その講演とは、彼女の半生をダイジェストでつづった拙著『渡辺てる子の放浪記』(同時代社刊)の出版記念講演会のことだ。

最初に選挙に出た経緯から衆院選の心境に至るまでを語った講演内容は、日本社会への大きな問題提起が含まれているので、4回にわたり報告する。(構成=林克明)

◆「次の選挙出ませんか」と山本太郎がひと言

皆さんからみれば、およそ考えられない、ある意味奇妙キテレツな半生だったのですが、そのダイジェストが林克明さん執筆の『渡辺てる子の放浪記』(同時代社)です。

私がこれまでたどったプロセスもさることながら、私の意識や思いはどういうものだったか。そういう私がなぜ活動を続けていこうと思っているかお話をしたいと思います。

私はいま62歳なのですが、2017年末に17年近く勤めていた派遣先を一方的に雇止めされました。それに対して再就職を求め、あるいは派遣先紹介を求めて団体交渉をしてもらちがあきませんでした。

このような私自身の体験もありますが、従前から派遣労働者の権利向上の活動もしていました。

雇止めされた後は、糊口をしのぐために次から次へとバイトやパートなどの仕事を知り合いから紹介され、食いつないでいきました。

そして2019年7月1日、東京のある区の非常勤職員採用の辞令をいただいたのです。
その翌日の夜、知り合いから山本太郎さんから電話が来るのでよろしくと電話があり、すぐに山本さんご本人から電話がかかりました。

「次の選挙に出ませんか」とストレートに言われ、私も1秒以下の反射神経で、「いいですよ」と答えました。すごい決断ですねと皆さんから言われるのですが、人から頼まれるといやと言えない性分が幸いしたのか不幸なのか。で、「ハイ」と言ってしまった。

活動しないよりする方を選ぶ私の当たり前の判断があったのですが、実はピンと来なかったんです。なんの事前説明も面談もなく、とつぜん携帯に電話がかかってきてというのは、社会常識的に欠ける(笑い)。太郎さんもいきなりだけど、それを受ける私もなんだという話しです。

選挙ボランティアという頭が思い込みであり、気軽に受けて、翌日どうしてくださいという話がありました。

◆その夜、母親が狭心症の発作で倒れる

で、家に帰ったら母が狭心症の発作で倒れてしまい、夜を徹してその看病をしていました。

朝早く病院に連れて行ったのですが、病院から母を家に連れ戻すと約束の時間に間に合わない。そこで、デイサービスの職員の方にお願いして、太郎さんから指定された会場に急ぎました。

そこで手続きやなにやらします、と言うんですよ。写真も撮るというのですが、ボランティアのIDカードか何かの写真を撮るのかなと思いました。

徹夜の看病明けでシャツ1枚の姿でペロっと会場にたどり着いていたわけです。写真撮影とはいっても、IDカード用か何かなんだから、首から上だけなので、とりあえず襟付きのシャツならいいやと。

そうしたら、何の説明もなくメイクをしましょうと言われたんです。細長いテーブルに紅筆とかお化粧道具が並べてあって。さすが元俳優の山本太郎だけあって、念入りにお化粧をボランティア一人ひとりのもするのだな、と。

ビジュアルにこだわるのはさすがだよねって思いました。俳優っていうのはこうじゃなければと思って。

でも徹夜の看病明けだし、お化粧をする習慣もないもので、いやいやお化粧をしてもらいました。写真も3分間写真で済むと思ったら、どうやらポーズをつけなきゃならない。首から上の写真でポーズを付けるってどうやるんだろう? 手で頬杖をつくようなかっこうをするんだろうか? なんて思ったんですけどね。

何の説明もないんですよ。れいわ新選組は人がいないもんで。

で、れいわ新選組がどういうものかもよくは分かっていない段階で記者会見になだれ込んでしまいました。そして皆さんの前でお披露目をし、次の日が選挙公示日。どれだけ私はうすぼんやりなのか。

そのとき、無名の私を皆さんに分かっていただくために、元派遣労働者、シングルマザー、そしてホームレスを5年経験していました、と伝えました。

そして渡辺てる子という名前はとても平凡なので、どうぞてるちゃんと呼んでくださいとダメ元で言ったら、皆さんから気軽にてるちゃん、てるちゃんと呼んでいただけるようになりました。

こうして2019年7月から私を取り巻く状況は劇的に変化しました。

◆当事者の労働者がなぜ発言できないのか?

あわただしく選挙に突入しましたが、れいわ新選組の政策やポリシーに関しては、なんら違和感はありませんでした。それまで私が活動を通して伝えたかったことがそっくりそのまま重なるからです。

私はシングルマザーとして、派遣労働者として活動してきましたが、そこに通底するものは「当事者」であることですね。

ところが、労働組合が主体になって進める労働運動は、労働者が主体でありながら、実際は労働者が主体じゃない、労働者ファーストではないということに気が付いたんです。

国会議事堂の向かい側に国会議員の事務所がある議員会館がありますが、その大講堂で行なわれる院内集会によく行っていました。発言する側としても、勉強する側としても行っていましたが、派遣労働者の実体を訴えるために発言の時間をもらう場合でも、他の登壇者よりずっと割り当て時間が少なかったのです。

労働運動の集会でいちばん長時間話すのは、だいたい労働法の権威の方なのです。たとえば名誉教授が基調講演を1時間くらい。その次が弁護士の方、その次に労働組合の専従の方が活動実態を述べます。最後に裁判を起こしている当該主体者ということで、やっと5分くらい当事者の労働者が時間をもらえればいい方だなと。

そういう状況を何度も目にしたし、労働者として時間をもらって話をしたこともたびたびありました。普通に考えておかしいんじゃないかと思います。労働者が困っているから労働運動があるにもかかわらず、なぜ当事者以外の人の発言時間のほうがはるかに多いんだ、と。

運動の欺瞞性をそこで感じたんですね。でも、労働運動ってそういうフォーマットがテンプレート的に確定してしまっているのです。そのフォーマットをなかなか崩せないという忸怩たる思いがありました。

◆自民議員が居眠りする厚生労働委員会で発言

そういう労働運動の在り方を変えることを個人ではできなかったのですが、国会議員に直接、派遣労働がいかにおかしな働き方かを訴えるチャンスが訪れました。2015年に労働者派遣法が改悪されたときに、改悪されないように国会議員の方々にロビー活動をしたのです。

そのときも労働組合の人に一緒にロビー活動してくれませんかと依頼しても、同行してくれる人はほとんどいませんでした。「私は運動してます、してます」と言っていますが、実は一匹狼で運動をしてきたんですね。

労働運動の限界を感じ、労働組合の人に対する不信感もあっていいはずなのに、運動・活動を止める理由にはならなかったんです。なぜか。問題を解決したいのは私だから。

よくも悪くも一人でやっていることが目にとまり、記者会見も何度もやらせてもらいましたし、当時は民主党が頑張っていたときだったので、民主党主催の勉強会に何回も行って実態を訴えました。

そうした姿に厚労省の官僚の方が目を付けて、この人間なら派遣労働者の当事者として国会で発言させてもいいんじゃないかということで、2015年8月、参議院の厚生労働委員会で登壇することができました。

そのとき派遣労働について訴える人が4人いました。経営側の弁護士と派遣の協会の理事が経営側。こちら側は、労働問題を引き受ける弁護士の方、そして当事者の私です。こうして2対2で厚生労働委員会の議員に訴えました。

三原じゅん子さんとか自民党の議員が多かったです。議長は丸川珠代さんでした。来ている議員たちは、視線を合わせられる距離で対面していました。事前に読んでもらう論文も配布していました。

私は基本的なことを述べて、その後質疑応答に入りましたが、自民党の方々は一切、興味関心を示さないのです。たぶん勉強してなかったんでしょう。私の論文も読んでくれなかったのだと思います。

ですから一切質問がこなかった。実は私は期待していたんですよ。派遣労働はこんなにすばらしいのになんであなたは文句を言うの? くらいの質問がくることは覚悟していたのですが、それすらありませんでした。

代わりに自民党の方々は何をやっていたか。まあ、仮眠してました。それから関係ない本を読んでいる。隣の人とぼそぼそしゃべりをしている。人に話を聞く態度ではないですね。学校でいったら学級崩壊の状況ですよ。

かたや立憲民主党(当時は民主党)、共産党、その他の野党の方々はそれなりに勉強してくださって、とてもいい質問をしてくれました。いい質問というのは、私の言葉から派遣の問題や矛盾を引き出すような質問ということなのですが。

明らかに与党と野党の熱量の違い、勤勉さ、誠実さ、常識のあるなしが目の当たりにしてわかりました。自民党の候補に票を入れる方々、その状況を見てください。みんなの税金使って自民党の議員は内職したり仮眠してるんですよ。そのためにみなさん、なけなしの税金を払ってるんですよね。

そのことだけをもってして、十分に怒る理由になると思います。同時に変えなければならないというモチベーションをさらに掻き立てられることになりました。

その後も派遣の体験を重ねたり、様々な状況を目の当たりにして発信していきました。たぶん山本太郎代表はその姿をいろんな形で見てくれていたのだと思います。それによるリクルートだったのです。

そんなわけで、いきなりマイクをもって街宣車に乗り込み、選挙戦に突入していきました。しかしもう後戻りできません。進んでいくしか私の道はないと思います。
(つづく)

『渡辺てる子の放浪記』(林克明著、同時代社)

▼林 克明(はやし まさあき)
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

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《4月のことば》ゆっくりでいい 一歩一歩大地を踏みしめて 鹿砦社代表 松岡利康

《4月のことば》ゆっくりでいい 一歩一歩大地を踏みしめて(鹿砦社カレンダー2022より。龍一郎揮毫)

コロナ禍が続く中、新年度4月になりました。

新たなスタートの月です。

本来なら明るく行きたいところですが、国内ではコロナ禍が続き、国際的にはロシアがウクライナを侵略(侵攻ではなく侵略だ)し、ウクライナの必死の抵抗で長期化し停戦の見込みも立っていません。かつてのスターリニズムが生きていたことを実感させます。戦争は対岸の火事ではなく、明日は我が身、強い危機感があります。

国内外で混迷を極める中で、私たちはどう歩んでいったらいいのでしょうか。

そう、今月の言葉にあるように、「ゆっくりでいい 一歩一歩大地を踏みしめて」歩んでいくしかありません。

(松岡利康)

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一般職公務員のボーナスカットよりも、非正規公務員や介護・保育などの給料アップを通じて、なによりいまは「経済の底上げ」を! さとうしゅういち

国家公務員給与引き下げ法案が今国会に提出されています。一般職、特別職(大臣や議員など)ともにボーナスが0.15ヶ月引き下げられる内容です。このままだと与党や維新の賛成で成立するとみられます。

◆制約されている日本の公務労働者の労働三権

そもそも、公務員の給料の決まりかたはどうなのでしょうか? 日本の公務労働者は労働三権(団結権、団体交渉権、争議権)が制約されています。多くの分野の公務労働者はそうはいってもかつて筆者が所属した「自治労」や筆者の祖母が生前所属していた「日教組」などの労働組合(職員団体)に加入はできます(団結権)。皇室労働者にも「宮内庁職員組合」という労働組合はあり、天皇が(組合主催の文化祭に和歌を寄せるという形で)「参加」する唯一の労働組合です。しかし、いずれにせよ、団体交渉権や争議権は制約されています。

さらに、防衛労働者、警察労働者、海保労働者、法務教官労働者、消防労働者には組合さえありません。これは、諸外国からみると異常なことです。わたしはノルウェーのメーデーに参加した経験があります。このとき、インターナショナルを女性警察官が演奏して、それにあわせて参加者が歌っていました。そのとき、わたしがただ一人日本語でインターナショナルを歌って注目を浴びたので鮮明に記憶しています。実は戦後すぐは、警察労働者にも労働組合はみとめられていたのですが、いわゆる逆コースで禁止されてしまったのです。

◆代償としての人事院制度・人事委員会制度

こうした公務労働者の労働三権の制約の代償として、人事院制度・人事委員会制度(都道府県、政令指定都市、特別区)があります。

まず、人事院や人事委員会が民間企業の給料を調査します。それをもとに、人事院勧告・人事委員会勧告を出します。2021年の場合、人事院勧告は8月10日に内閣に提出されています。(https://www.jinji.go.jp/kankoku/r3/r3_top.html

そして、国が勧告についての取り扱いを閣議決定します。そして、地方自治体には、事務次官通知が送られます。

こうした手続きを経て、内閣は給与法の改正案を国会に、知事や市町村長は給与条例案を議会に提出します。

これらの案が可決されれば、民間企業に準じた給料アップが実施されます。ただし、自治体によっては、勧告どおりにならないケースもあります。筆者が勤務する広島県もそうでした。広島県では1990年代、あの河井案里さんの師匠にあたる男性大物県議がゼネコンの実質的なオーナーでもあり、「天皇」と恐れられるほど君臨していました。その「天皇」が1990年代に必要性の薄い大型事業を大学の後輩でもある当時の知事に強行させた結果、広島県は1990年代末には貯金が底を尽きました。その穴を埋めるために、職員の給料がターゲットにされました。人事委員会勧告が完全実施された場合に比べて3%~7%カットされたこともありました。

このように、自民党の身勝手なつけを労働者が払わされるケースは全国でありました。

また、東日本大震災のときには、民主党政権は復興財源捻出のため、公務員給料をカットしました。しかし、災害対策で激務を強いられた上に給料をカットされた公務労働者の怨嗟の声は高まりました。公務労働者のかなりの部分は民主党やのちの立憲民主党の支持基盤である労働組合の組合員です。そうした公務労働者も離反したことが、民主党政権崩壊、その後も組合員の票を自民党にとられて立憲民主党が苦戦する背景になっています。

◆コロナ災害という非常事態を考慮せよ

たしかに、コロナ災害で民間企業のボーナスは減っています。貰えればありがたい。そんな会社もあります。筆者の勤務先に至っては、ボーナスなんて存在しません。それはそれとして、平均すれば0.15ヶ月分下げるべき。それは、一見、正しいように見えます。

しかし、今回のとくに民間のボーナス減少はコロナという大災害によるイレギュラーなものと見なすべきでしょう。人事院勧告は、そもそも、民間の平均を算出するものだから、仕方がないとして、政府が人事院勧告をそのまま鵜呑みにしてよいのでしょうか?

もちろん、民間労働者のコロナ災害にともなう大幅な収入減は、国が補償するべきです。その上で、公務員の給料も一般職については、引き下げを回避すべきではないでしょうか? 現場公務員、とくに、公立病院関係者や保健所関係者はこの2年間はまるで野戦のような労働環境でした。その上にボーナス減少では士気の低下につながりかねません。

また、もし、今回の給与法改悪のように、公務員の給料を減らせば、災害によるイレギュラーな給料の低下がレギュラーなものとして定着してしまいかねません。

岸田政権の給料アップ方針自体はショボい。しかし、給料を引き上げるという方向性は正しいと思います。日本はいまや、非正規ばかりふやし、いわゆる失敗国家(内戦などで崩壊状態の国)以外では唯一といっていいほど給料が上がらない異常な国です。もちろん、給料引き上げは労働組合の仕事ですが、現状の組合、とくに連合にはそれは望むべくもありません。総理に給料アップで先行されて悔しい思いをして組合が奮起、というのが現実的なシナリオに思えます。

こうした中で、今回の国家公務員一般職員の給料引き下げは労働者の大幅な給料アップという、総理の方針実現にもマイナスです。地方公務員にも波及し、民間企業にも波及するでしょう。労働条件を「公務員準拠」にしている企業も多いからです。ただでさえ、ロシアとウクライナの戦争の影響で輸入物価が上昇して人々の暮らしが直撃されている中でさらに悲惨なことになりかねません。そして、岸田政権が掲げる「賃上げによる経済の底上げ」そのものも難しくなかってしまいます。

かつて、人事委員会勧告を無視して広島県は職員の給料カットを強行したことがありました。逆に今回は「コロナ災害」や「労働者の賃金アップを政府総がかりで実現することをきめている」という状況を踏まえて、「ボーナスカット」勧告を無視するという「政策判断」も「あり」ではないでしょうか?

◆財政出動でガツンと非正規も介護・保育も給料アップを

いま、やるべきは、財政出動ですべての人の暮らしを下支えすることです。正規公務員の給料引き下げで溜飲を下げてもらう場合ではありません。

もちろん、公務員でも教員ふくめて正規と非正規の格差は深刻です。とくに女性が多い部署にみられることですが、専門性が高い仕事ほど、非正規で使い捨てという場合がおおくあります。

2020年度からは、地方公務員にも、会計年度任用職員ができています。ボーナスも支給されるようになりました。しかし、これでも「基本給を下げてボーナスを支給」など、運用が不十分な実態があり、大幅な改善が必要です。さらに、労働時間を少し短縮することで会計年度任用職員ではなく、「パート」扱いで、同じ仕事をさせながら、労働条件を会計年度任用職員より低く押さえるセコい自治体も少なくありません。「維新」の「本拠地」の大阪では部署によってはほとんどが派遣社員というケースもあります。これでは、労働者の給料は低い上に、派遣会社が儲かるだけで市民の負担はむしろアップしかねません。

とにかく、そもそも非正規の労働条件が低すぎるのが問題であり、この20-30年正規公務員をへらしすぎたのが問題なのです。

介護など家庭の事情がある人は短時間正規公務員でよいのです。

また、たしかに、介護や保育と比べると、お役人の給料は仕事の割には高いのも事実です。筆者自身がかつては県庁マンとして働き、いまは民間で介護福祉士として働いているのだから、それはよくわかります。維新の議員などより、そのことは百万倍わかっているつもりです。

しかし、そもそも、介護や保育の労働条件が低すぎるのが大問題なのです。一般職公務員の給料は据え置いて、財政出動により、ガツンと我々、介護や保育などケア労働者の給料をアップしてください。総理、維新のような「低いほうに合わせる」格差是正ではなく、筆者やれいわ新選組が提言してきた「高いほうに合わせる」格差是正をお願いします。

◎【参考】大石あきこ議員のTwitter https://twitter.com/oishiakiko/status/1501423247987863557

私は一般職給与法に方に断固反対の立場から、また特別職給与法並びに育休法には賛成の立場から討論を行います。

一般職給与法について、先ほども申し上げましたけれども反対です。

今政府が行うべきは、自らが「骨太の方針2021」において謳った「賃上げを通じた経済の底上げ」を文字通り行うべきです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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冤罪説が根強い飯塚事件・久間三千年氏の「陰茎出血」は無実の証拠である 片岡 健

先日、エンペディア(Enpedia)というオンライン百科事典に設けられた「飯塚事件」のページ(https://enpedia.rxy.jp/wiki/%E9%A3%AF%E5%A1%9A%E4%BA%8B%E4%BB%B6)で、私の編著『絶望の牢獄から無実を叫ぶ—冤罪死刑囚八人の書画集』(鹿砦社)が〈鳥越俊太郎や清水潔に比べるとかなり無名のジャーナリストの本〉として紹介されていることに気づいた。

同書の第1章では、1992年に福岡県飯塚市で小1の女児2人が殺害されたこの事件の犯人とされ、2008年に死刑執行された久間三千年さん(享年70)が冤罪であることをわかりやすく説明しつつ、久間さんが死刑執行直前に獄中で綴った手記を紹介したり、この冤罪処刑に関与した警察、検察、法務省の責任者らに取材した結果を報告したりしているのだが、エンペディアでは拙著の内容に批判的なことばかり書かれている。

つまり、このエンペディアの執筆者は久間さんのことを「クロ」だと思っているのだろう。

そのこと自体は構わないが、この人は久間さんに対する福岡地裁の死刑判決(以下、確定死刑判決)に目を通していながら、その内容をよく理解できていないように思える点がある。この人は当欄も見てくれているようなので、この場で指摘しておきたい。

◆「片岡も陰茎出血といった証拠には言及していない」と批判されているが…

エンペディアの「飯塚事件」のページの記述のうち、それにあたるのは以下の部分だ。

〈当然ながら、片岡も陰茎出血といった証拠には言及していない。〉(エンペディアより。2022年2月24日アクセス)

この記述の趣旨は以下のようなことだと思われる。

確定死刑判決では、久間さんが事件当時、亀頭包皮炎を患っており、外部からの刺激により容易に出血する状態だったと認定されたうえ、被害女児2人の性器やその周辺、彼女たちの遺体遺棄現場で採取された血痕は久間さんが犯行時に出血したものであるかのように判示されている。このエンペディアの執筆者は、拙著がそのことに言及していないのは、久間さんに不利な事実を隠すためだと考えたようだ。

これは完全な誤解だ。なぜなら、事件当時、陰茎から容易に出血する状態だったことは、むしろ久間さんの無実を裏づける事実だからだ。

エンペディアの「飯塚事件」のページ

◆「陰茎出血」に関する久間さんの供述は「無知の暴露」

というのも、峠道沿いに遺棄されていた被害女児2人の遺体は、処女膜などの損傷の状況から性器に犯人の指と爪が挿入されていたと認められたが、犯人の陰茎が挿入された形跡は確認されていない。それにもかかわらず、久間さんは逮捕前、警察官に対して亀頭包皮炎の病状を次のように供述していたのである。

「シンボル(陰茎)の皮がやぶけてパンツ等にくっついて歩けないほど血がにじんでしまう。オキシドールをかけたら飛び上がるほど痛かった。シンボルが赤く腫れ上がった。事件当時ごろも挿入できない状態で、食事療法のため体力的にもセックスに対する興味もなかった」(確定死刑判決より)

この証言を見ると、久間さんは犯人が被害女児たちとセックスしたことを前提に、警察官に身の潔白を訴えていたことがわかる。実際には、犯人は被害女児たちの性器に自分の陰茎を挿入しておらず、すなわち、犯人は被害女児たちとセックスしていないにもかかわらずに、だ。

このような供述は、供述心理学で「無知の暴露」と言われる。本当の犯人の供述には、犯人でなければ知りえない「秘密の暴露」が現れるが、本当は犯人ではない被疑者の供述には、実際の犯行を知らないことを示す「無知の暴露」が現れる。久間さんは、犯人ではないため、わいせつ目的の小児性愛者であることが想像されるこの事件の犯人が「被害女児たちとセックスしている」と勘違いしていたわけである。

私が拙著で久間さんの「陰茎出血」に言及し、このことを説明しなかったのは、情報過多になると本は読みにくくなり、読者の理解を妨げるためだ。エンペディアの執筆者のおかげで、この機会にそのことが説明できてよかった。

無実の罪により処刑された久間さんの生命はもう戻らない。せめて遺族が現在請求中の再審が実現し、一日でも早く久間さんの雪冤がなされることを願うばかりだ。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[改訂版]―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)
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岡田万祐子検事が作田学・日本禁煙学会理事長を不起訴に ── 横浜副流煙事件、権力構造を維持するための2つのトリック 黒薮哲哉

2022年3月15日、横浜地検の岡田万佑子検事は、日本禁煙学会の作田学理事長を不起訴とする処分を下した。

この事件は、作田理事長が患者を診察することなく、「受動喫煙症」等の病名を付した診断書を交付した行為が、医師法20条に違反し、刑法160条を適用できるかどうかが問われた。

医師法20条は、次のように患者を診察することなく診断書を交付する行為を禁止している。

【引用】「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」

一方、刑法160条は、次のように虚偽診断書の「公務所」(この事件では、裁判所)への提出を禁じている。

【引用】「医師が公務所に提出すべき診断書、検案書又は死亡証書に虚偽の記載をしたときは、3年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処する。」

横浜地検が送付した処分通知書

告発人の藤井敦子さんらは、岡田検事が下した不起訴処分(嫌疑不十分)を不服として、検察審査会へ審理を申し立てた。しかし、4月16日で事件が時効になるために、作田医師が起訴されないことがほぼ確実になった。作田医師は、岡田検事による法解釈と時効により、2重に「救済」されることになる。

◎[参考資料]審査申し立ての理由書全文
 http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2022/03/mdk220321-2.pdf

筆者は、この刑事告発を通じて日本の司法制度のからくりを理解した。2つの「装置」の存在を確認した。法律を我田引水に解釈することを容認する慣行と、時効による「免罪」である。いずれも権力構造を維持するための「装置」にほかならない。検察は昔からおなじ手法を繰り返してきた可能性が高い。

この点に言及する前に事件の概要を説明しておこう。

◆事実的根拠に乏しい診断書で4518万円を請求

この事件の発端は、2017年11月にさかのぼる。ミュージシャンの藤井将登さんが自宅で煙草を吸っていたところ、同じマンションの住民一家3人(夫妻とその娘)から、副流煙で健康被害を受けたとして4518万円を請求する裁判を横浜地裁で起こされた。3人が金銭請求の根拠にしたのが、「受動喫煙症」等の病名を付した娘の診断書だった。

ところが審理の中で、この診断書を作田理事長が娘を診察しないまま交付していたことが分かった。作田医師は、娘となんの面識もなかった。さらに3人の原告のうち、ひとりに25年の喫煙歴があることも判明した。

つまり高額訴訟の根拠となった事実に強い疑念が生じたのである。

横浜地裁は、単に原告3人の請求を棄却しただけではなく、作田医師による診断書交付が医師法20条違反にあたると認定した。これまでの判例によると医師法20条違反は、刑法160条の適用対象になる。

そこで前訴で被告にされた藤井将登さんが、作田医師に対して虚偽診断書行使罪で神奈川県警青葉署へ刑事告発したのである。告発人には、将登さんのほかにも、妻の敦子さんら数名が加わった。青葉署は2021年5月に刑事告発を受理して捜査に入った。そして2022年の1月に横浜地検へ作田医師を書類送検した。

しかし、横浜地検の岡田検事は、事件の当事者から事情聴取することなく嫌疑不十分で不起訴を決めたのである。

◆動物の診断書も無診察は許されない

藤井敦子さんは、不起訴の理由を岡田検事に電話で問い合わせた。わたしはその録音テープを視聴した。その中で最も気になったのは、作田医師が娘の診断書を交付する際に、娘が別の医療機関で交付してもらった診断書等を参考にしたから、虚偽診断書とまではいえないという論理だった。

◎[参考資料]藤井敦子さんによる取材音声
 https://rumble.com/vy7w3h-57475133.html?fbclid=IwAR1pbAQZ505EuewQY0s6dg7PRo24OPh3r__-u11DG6UvU55QH2hEV1l94ek

しかし、作田医師が交付した診断書には、娘が「団地の一階からのタバコ煙にさらされ」ているとか、「体重が10Kg以上減少」したといった事実とは異なる記述が多数含まれている。これらの記述は、作田医師が参考にしたとされる他の医師が書いた診断書には見あたらない。つまり作田医師が交付した診断書の所見には明らかな「創作」が含まれているのだ。

こうした診断内容になった原因のひとつは、作田医師が娘を診察しなかったからにほかならない。あるいは事件の現場を検証しなかったからである。さらに禁煙運動という日本禁煙学会の政策目的があったからだ。

ちなみに獣医師が動物の診断書を交付する際にも、診察しないで診断書を交付する行為を禁じている。次の法律である。

【引用】「第十八条:獣医師は、自ら診察しないで診断書を交付し、若しくは劇毒薬、生物学的製剤その他農林水産省令で定める医薬品の投与若しくは処方若しくは再生医療等製品(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和三十五年法律第百四十五号)第二条第九項に規定する再生医療等製品をいい、農林水産省令で定めるものに限る。第二十九条第二号において同じ。)の使用若しくは処方をし、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案しないで検案書を交付してはならない。ただし、診療中死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」

動物についても、人間についても、無診察で診断書を交付する行為は法律で厳しく禁じられているのだ。

改めて言うまでもなく、法律は文字通りに解釈するのが原則である。好き勝手に解釈することが許されるのであれば、秩序が乱れ、法律が存在する意味がなくなるからだ。

医師法20条は、他の医師の診断書を参照にすれば、患者を診察することなく診断書を交付することが許されるとは述べていない。

現在の司法制度の下では、検事が我田引水の法解釈をすることで、起訴する人物と起訴しない人物を選別できるようになっている。これが公正中立の旗を掲げて、権力構造を維持するためのひとつの「装置(トリック)」なのである。

◆時効というトリック

もうひとつの「装置」は、時効のからくりである。作田医師を被告発人とするこの事件の時効は、2022年4月16日である。藤井さん夫妻は、検察審査会に審理を申し立てたが、この日までに起訴されなければ、事件は時効になってしまう。検事が「牛歩戦術」を取れば、時効がある事件では被疑者を無罪放免にできる制度になっているのだ。「時効」も権力構造を維持するための巧みな「装置」なのである。

なお、岡田検事はこの事件の処分を決めるに際して厚生労働省に相談したという。内容は、藤井敦子さんが岡田検事に対して行ったインタビューで確認できる。この事実は、「民主主義」の仮面の下に、日本を牛耳っている面々が隠れていることを物語っている。

◆岡田検事に対する質問状
 
筆者は、岡田検事に対して下記の問い合わせを行ったが回答はなかった。

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2022/03/23  

岡田万佑子検事殿
発信者:黒薮哲哉

 はじめて連絡させていただきます。
 わたしはフリーランス記者の黒薮哲哉と申します。

 貴殿が担当された横浜副流煙事件(令和4年検第544号)を取材しております。
 3月15日付で貴殿が下された不起訴処分について、お尋ねします。告発人の藤井敦子氏と貴殿の会話(18日)録音を聞いたところ、貴殿が処分を決める前に厚生労働省に相談されたことを裏付ける発言がありました。

 つきましては、次の点について教えてください。

1,厚労省の誰に相談したのか。

2,相談した相手から、どのようなアドバイスを受けたのか。

 また上記質問とは別に、次の点について教えてください。

3,他の医師の診断書を参照にした場合は、無診断で診断書を交付してもかまわないという法律はあるのでしょうか。

 25日(金曜日)の午後1時までに、ご回答いただければ幸いです。よろしくお願いします。

【連絡先】
Eメール:xxmwg240@ybb.ne.jp
電話:048-464-1413

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


◎[参考動画]【横浜副流煙裁判】ついに書類送検!!分煙は大いに結構!!だけどやりすぎ「嫌煙運動」は逆効果!!

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

河井事件で暴走官僚市長が「漁夫の利」の皮肉? 広島市議補選第1ラウンド、「低投票率で隠れ自公主流圧勝」 さとうしゅういち

参院選広島2019で河井案里さん(当選無効)派から賄賂をもらったとして略式起訴され辞職した議員が広島市議会で6人おられます。それに伴う補欠選挙の第一ラウンドともいえる安芸区の補欠選挙が2022年3月20日、執行されました。

他方で最近では衆院選2021で、維新の衆院議員が安芸区を含む4区から比例復活とはいえ、誕生しました。

無所属新人ですが、実際には公明党と自民党の主流派が推す元市職員の西佐古晋平さんが、維新新人の大田智弘さん、共産元議員の中石仁さんらをやぶり、得票率50%を超える圧勝となりました。投票率は20.6%でした。

▼安芸区補選2022開票結果
西佐古晋平 無所属新人 6582(公明党、自民党多数派支援) 
大田智弘  維新新人  2776.426
中石 仁  共産元職  2377
大田 清  無所属新人 1072.573

安芸区補選2022に立候補された方々

なお、投票率が低いのは、補選で当選した人は複数区の本選挙ではライバルになるので、同じ政党の議員からの支援は手を抜き気味になるからです。野党の場合も、共産党が参院選2022では複数区の広島ではライバルになるので、公式な野党共闘というわけにはいきませんでした。

◆広島市安芸区とは 超保守王国、ただし過去には例外も

安芸区は広島市の東部に位置します。実は筆者の妻の実家もあり、わたしの本籍地でもあります(わたしは、戸籍上は妻の苗字で妻が戸籍筆頭者です)。自衛隊の海田駐屯地も一部安芸区にかかっています。安芸郡海田町によって、分断されています。ちなみにこの海田町は筆者の勤務先のひとつがあります。

海田町によって飛び地となっている安芸区矢野地区は西日本大水害2018で壊滅的な被害を受け、多くの市民が亡くなられました。保守的な風土で有名で、私が広島県内にUターンした2000年以降は全ての市議選通常選挙で自民党系(公認や推薦とわず)が4議席を独占しています。

▼市議選2019安芸区開票結果
おきむね正明 自民系現職 4907 河井事件で辞職し略式起訴
金子和彦   自民現職  4871
川口しげひろ 自民系新人 4173
三宅正明   自民現職  3917
以上当選
中石 仁   共産現職  3259 後述補選2018で当選も再選ならず
かなざわ陽介 無所属新人 1968

いっぽう、県議はかつて自民党の「天皇」とも呼ばれた河井案里さんの大学の先輩で師匠にあたる男性議員と大手労働組合(もちろん原発推進、消費税増税推進)男性議員で独占しています。参院選広島は改選数をほぼ自民党の高級官僚・世襲の議員と野党とはいっても大手労働組合組織内議員でしめていましたが、こうした超保守王国広島を象徴する地域です。

ただし、何事にも例外はあります。2018年、25年ちかく市議を務めてきた自民党議員が政務活動費を不正受給していたとして起訴され、辞職。その補欠選挙は、共産党の中石仁さんと、起訴された議員の妻の対決でした。この妻は夫から「身代わり」といわれていた方でした。「あまりにも市民をなめている」という反発がおき、共産党の中石仁さんが自身初めての当選となりました。

▼安芸区補選2018開票結果
中石仁    共産新人  5585
熊本じゅんこ 無所属新人 4783(辞職議員の妻)

また、衆院選2021では、安芸区を含む4区で維新が比例復活ですが、議席を得ています。

▼衆院選2021比例区安芸区開票結果
自民党     15222
立憲民主党   4761
日本維新の会  4569
公明党     3156
共産党     1487
国民民主党   1095
れいわ新選組   791
社民党      492
N裁党      435
合計     32008

◆市長と距離がある議員二人が起訴される

今回、安芸区では沖宗正明議員が略式起訴され、辞職しました。また、三宅正明議員は徹底抗戦の構えで起訴されました。沖宗議員は、医師で筆者の妻も幼少時にお世話になっていたそうです。自民党、公明党、連合広島が推す現市長とは距離をおいていました。逆に革新系の秋葉忠利市長の時代には保守でありながら秋葉市長には是々非々の対応でした。

今回、その沖宗議員の穴を埋める補欠選挙で、市長与党が推す方が選ばれる結果となりました。

◆市議の起訴で助かった?!ネオリベ官僚の現市長

松井一実・広島市長は厚労省官僚のご出身。実は筆者の父の部下だった時代があるそうです。父によると市長は大変真面目な男だったそうです。筆者も市長は真面目だと思います。しかし、問題はその中身です。

中央政府、とくに総務省が自治体に押し付けてくる新自由主義的な施策を大真面目にやってしまう。そして市民の意見をあまり聞かずに暴走してしまう。その結果、自民党市議の中からも市長と距離をおく議員が出てくる。これが実態です。

ちなみに、河井案里さんは、県議でしたが、ともに官僚のご出身である市長と知事をぼろくそにけなすことで、熱狂的なファンも獲得していたのも事実です。逆に知事と市長は参院選2019では案里さん以外の有力候補2名を応援しました。ですから、市長と河井夫妻の確執は地元では有名です。

先日も市長は市立の中央図書館やこども図書館をなんと駅前のデパートの入っている建物に移そうという案を発表。10月の発表からろくに市民の意見も聞かないまま、関連予算を2022年度予算案に計上するという「事件」を起こしています。にぎやかすぎる場所に小中高が主に利用する図書館を移転する。素人目にみても唐突です。「そこをけちりますか?」という話です。

当然、議会で反発がおき、自民党で市長と距離をおく会派が出した図書館移転の関連予算削除の修正案に共産党も相乗り。21対24で否決されました。ちなみに立憲民主党議員は、予算の修正に反対して市長をかばいました。

こういう背景がある中で、今回の安芸区での2名の起訴を一番喜んでいるのは市長かもしれません。

逆に市民の立場に純粋に立てば「腐った議員が起訴されて良かった」と単純に喜んでいる場合ではないのです。

さらにいえば、起訴された議員を批判している立憲民主党さんが市長の暴走をかばうという構図にも頭がいたくなります。

そんなことだから、衆院選2021で惨敗したのだ、と申し上げたい。

◆維新と共産で自民批判票割れの構図

今回の安芸区補選では、維新の大田さんが実は、リベラルな方でした。彼は過去、広島市内の別の選挙区で県議や市議に旧民主党系で何度か立候補経験があります。被爆2世で脱原発、核兵器禁止条約推進、格差是正の立場です。今回の安芸区補選では、「誰か出さないといけない」ということで、立候補経験がある大田さんが落下傘で立候補された形です。保守から「自民党にお灸を据える」票を取るというよりは、ただでさえ少ないリベラルの票を共産党の中石仁さんと、分け合う形になりました。

維新の中央はいまや、核共有、憲法改悪、原発再稼働を自民党以上に「ガツン」と政府に提言する危険な勢力です。しかし、個々の候補者はリベラルな方も少なくない。そこで、リベラル系の票もかなり維新に流れる。立憲民主党さんが、市長の暴走をかばうという構図もあるわけで、なおさら、維新が注目されてしまいます。

また、リベラルな方でも、議員定数削減には賛成という方も少なくない。なんとなくクリーンそう、というイメージもあるのです。

◆「河井批判」は賞味期限切れ 他野党とは切磋琢磨の関係で

そして、今回の安芸区補選であきらかになったのは、「河井批判」そのものは賞味期限切れになっているということです。

参院選再選挙2021で自民党が負け、収賄市議や県議も起訴されて「これで勘弁してやろう」という思いも保守層には広がっているとおもいます。今回の安芸区補選では、当選した西佐古さんが防災対策を中心に訴えたのに対して、維新と共産は「河井事件批判」が軸だった。

安芸区補選の投票日の3月20日にれいわ新選組支持者のみなさまとともに街頭演説する筆者

しかし、安芸区ではやはり、西日本大水害2018の経験から防災・減災対策への関心は非常に強い。また、広島市では市長の暴走にいかに歯止めをかけるということも、保守・リベラル関係なく課題です。市民生活に直接関係するからです。広島県内全体に目をひろげても、広島県は、前知事のもとで、大阪に先行して自治体を減らし、公務員を減らしすぎました。まさに、新自由主義の弊害に苦しんでいます。県議や国政であれば新自由主義による弊害の是正が大きな課題です。これらを考えると、「河井批判」に比重が行き過ぎている立憲民主党さん、日本共産党さんの戦略では苦しいのではないか?

もちろん、れいわ新選組を全面的にバックアップする筆者は立憲民主党さん、共産党さんとも衆院の小選挙区での野党共闘や核兵器禁止条約推進、憲法改悪阻止など組むべき場面では組む大人の対応をとります。しかし、参院選2022広島では筆者自身も選択肢に「消費税廃止やガソリン税ゼロ、奨学金チャラ、介護や保育の労働者の給料10万アップ、非正規公務員の正規化」などを軸に「ガツンと財政出動で暮らしの安全保障」を確保し、「核兵器禁止条約ふくむ憲法をいかした緊張緩和外交やグリーンニューディール」で「核兵器も原発もない世界」を目指すビジョンを高々と掲げ、闘い抜く覚悟です。

「複数区では野党が切磋琢磨したほうがよい。」この間の立憲民主党さん、共産党さんの動き方を拝見して、衆院選2021以降の筆者の考え方は強化されました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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定期興行拡大のKICK Insist、今後を占う前哨戦! 堀田春樹

毎年、秋の開催だったビクトリージム主催の「KICK Insist」も今年からボリュームアップ。今回も新宿フェースに於いては昼と夜の二部制で開催。

今野顕彰は開始早々からパンチで圧倒され、巻き返す前に倒された。新たな挑戦でインターナショナル王座獲得は成らず。

永澤サムエル聖光は5回戦を集中して戦い切る展開で判定勝利を飾る。

◎KICK Insist 12 第1部 / 3月20日(日)新宿フェース 14:00~16:10
主催:(株)VICTORY SPIRITS / 認定:ジャパンキックボクシング協会(JKA)

◆第7試合 第1部メインイベントWMOインターナショナル・ミドル級王座決定戦 5回戦

JKAミドル級チャンピオン.今野顕彰(市原/72.57kg)vs シュートン・BKK(タイ/70.5kg)
勝者:シュートン・BKK / TKO 2R 0:37
主審:ノッパデーソン・チューワタナ
スーパーバイザー:ナタポン・ノーナクシン

シュートン・BKKはタイでの元・パタヤ地区フェザー級チャンピオンの実績を持つベテラン戦士。

第1ラウンド早々のわずかな蹴りの様子見からいきなり重いパンチでラッシュしたシュートン。今野をコーナーに詰め、右トレートから左右フック連打。今野はコーナーを脱出してもすぐ他のコーナーへ追い詰められる。

シュートン・BKKの右ストレートが今野顕彰にヒット、最初のノックダウンとなった

まともに打たれることだけは逃れ、シュートンが打ち疲れになれば今野の反撃のチャンスだが、第2ラウンドも勢い衰えなかったシュートン。右ストレート喰らった今野は脚をふら付かせながらもノッパデーソンレフェリーは様子を見ながら続行。今野のグロッギー状態へ更に右ストレートを喰らうとノーカウントで試合をストップ。

何とか凌いでからの今野の反撃を期待したが、小柄なシュートンでもベテラン戦士のパワーは侮れない勢いだった。

今野顕彰を倒してWMOインターナショナル王座獲得したシュートン・BKK

◆第6試合 女子(ミネルヴァ)57.0kg契約3回戦(2分制)

浅井春香(KICKBOX/57.0kg)vs 寺西美緒(GET OVER/56.8kg)
勝者:浅井春香 / 判定3-0
主審:中山宏美 / 副審:仲30-28. 桜井30-28. 椎名30-28

ミネルヴァ・スーパーバンタム級チャンピオンの浅井春香はパンチと蹴り、組み合ってもヒザ蹴りで上手さを見せたが、寺西が下がらずパンチと蹴りで浅井のリズムを狂わし、浅井は攻め倦む苦しさを滲ませながらヒザ蹴りが上回って攻勢を維持して判定勝利したが喜べる内容ではなかったような浅井の表情だった。

浅井春香の前蹴りが寺西美緒の前進を止めるが、寺西の圧力ある反撃も目立った

◆第5試合 ウェルター級3回戦

JKAウェルター級1位.政斗(治政館/66.68kg)vs 同級2位.ダイチ(誠真/66.68kg)
勝者:政斗 / 判定3-0
主審:桜井一秀 / 副審:仲30-26. 中山28-26. 椎名29-26

政斗は経験値が優って落ち着いた右ストレートでノックダウンを奪い、第3ラウンドにもノックダウンを奪ったが、ダイチがパンチと蹴りで反撃して来ると、政斗は倒し切れないもどかしい表情を見せるも大差判定勝利となった。

経験値で優った政斗の左ジャブがダイチにヒット

◆第4試合 フェザー級3回戦

JKAフェザー級2位.皆川裕哉(KICKBOX/57.15kg)vs WBCムエタイ日本フェザー級8位.大脇武(GETOVER/56.6kg)
勝者:大脇武 / 判定1-2
主審:椎名利一 / 副審:桜井29-28. 中山28-29. 仲28-29

武のローキック、皆川のヒジやパンチはアグレッシブな展開は好ファイトとなったが、終盤、やや蹴られて下がった皆川は印象が悪く、第3ラウンドは大脇にポイントが流れた感は拭えない。第1~2ラウンドの振り分けは難しい見極めの中、スプリットデジションとなった。

スピーディーな展開の中、皆川の蹴りに合わせた大脇武の右ストレートがヒット

◆第3試合 ライト級3回戦

JKAライト級3位.興之介(治政館/61.15kg) vs 旭野穂(野良犬道場/61.05kg)
勝者:興之介 / TKO 1R 2:23
主審:仲俊光

◆第2試合 フライ級3回戦

拓真(治政館/50.7kg)vs 花澤一成(市原/50.5kg)
引分け1-0 / (30-29. 29-29. 29-29)

◆第1試合 ライト級3回戦

古河拓実(KICKBOX/61.1kg)vs JKIライト級9位.渡辺雄太(マイウェイ/60.7kg)
勝者:古河拓実 / 判定3-0 (30-27. 30-27. 30-27)

◎KICK Insist 12 第2部 18:00~20:05

◆第6試合 第2部メインイベント 62.5kg契約 5回戦

スタミナ消耗へ、ボディーブローを炸裂させた永澤サムエル聖光

WBCムエタイ日本ライト級チャンピオン.永澤サムエル聖光(ビクトリー/62.4kg)
vs
パランラック・FELLOW GYM(元・MAX MUAYTHAI 61.5kg覇者/タイ/61.5kg)
勝者:永澤サムエル聖光 / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:仲49-48. 中山50-48. 桜井49-48

永澤にWMOインターナショナル王座挑戦の前哨戦として5回戦が組まれ、しぶとく戦うパランラックとマッチメイク。

永澤はパンチから蹴りの組み立て、ローキック、ボディーブローで弱らせても強引に出ることは無いが、相手を弱らせていく流れは前哨戦として良い流れを掴んで僅差ながら内容は圧倒の判定勝利。また一つ上の王座目指して的確に組み立てた展開は成功だった。

上下打ち分け、ローキックをヒットさせる永澤サムエル聖光

◆第5試合 ライト級3回戦

JKAライト1位.睦雅(ビクトリー/61.23kg)vs 同級4位貴政(治政館/61.1kg)
勝者:睦雅 / TKO 2R 0:37 / カウント中のレフェリーストップ
主審:桜井一秀

睦雅がローキックで貴政を弱らせ、右ストレートでノックダウンを奪い、第2ラウンドには右ミドルキックから右フックを繋げノックダウンを奪い、カウント中のレフェリーストップとなった。

蹴りからパンチを繋いで貴政を倒した睦雅

◆第4試合 58.0kg契約3回戦

JKAフェザー級1位.櫓木淳平(ビクトリー/57.8kg)vs 眞斗(KIX/57.35kg)
勝者:櫓木淳平 / 判定2-0
主審:仲俊光 / 副審:桜井29-29. 中山29-28. 椎名30-29

パンチとローキックの一進一退の攻防は激しい展開でも落ち着いた試合運びを展開。櫓木がやや的確さで優り、組み合っても押してヒザ、コーナーに詰めてヒジ打ちはインパクトを与えて僅差ながら判定勝利。

櫓木淳平の前蹴りで、掠る程度だが眞斗の顔面にヒット

◆第3試合 女子(ミネルヴァ)ピン級(-45.359kg)挑戦者決定戦3回戦(2分制)

1位.藤原乃愛(ROCK ON/45.0kg)vs 6位.撫子(GRABS/44.3kg)
勝者:藤原乃愛 / 判定3-0
主審:中山宏美 / 副審:桜井30-26. 仲30-27. 椎名30-26

1月9日の対戦で引分けているが、今回は王座挑戦権を懸けた試合となって前回より積極的に蹴り合った両者。第2ラウンドには乃愛が前蹴りでノックダウンを奪うタイミングのいい蹴り。ここから調子上がり、主導権を奪った乃愛が蹴りのヒットを増やして大差判定勝利。

再戦で、より柔軟な蹴りで優った藤原乃愛

◆第2試合 54.5kg契約3回戦

JKAバンタム級4位.樹(治政館/54.5kg)vs 宮坂桂介(ノーナクシン東京/54.5kg)
勝者:宮坂桂介 / 判定0-3 (28-30. 28-29. 28-29)

◆第1試合 ウェルター級3回戦

山内ユウ(ROCK ON/66.4kg)vs 正哉(誠真/66.68kg)
勝者:正哉 / 判定0-2 (27-29. 28-30. 29-29)

《取材戦記》

タイ国発祥の認定組織は幾つもあるが、World Muaytahi Organization(WMO)も、ジャパンキックボクシング協会に於いては上位王座として定着してきた感があります。

今野顕彰に試練のムエタイ戦。シュートンに打ち抜かれた強打だったが、第1ラウンドは攻められながらも強打は打たれないテクニックで凌ぎ切った今野。歩いて控室に帰って意識ははっきりしていたが、試合を振り返って貰う余裕は無かった。疲れとダメージあって記憶も定まらないところに、私(堀田)が鬱陶しいこと聞いて申し訳なかった。

永澤サムエル聖光は2020年1月5日にジャパンキックボクシング協会ライト級王座決定戦で興之介を倒して初のタイトルを獲得後、同年9月12日、NJKFに赴いてWBCムエタイ日本ライト級王座を鈴木翔也と争い、判定勝利で王座獲得。コロナ禍を挟んで今年2月12日には健太(ESG)に判定勝利し初防衛も果たした。国内トップクラスを維持する存在感が増し、今後の日本人対決やムエタイ第一線級戦に期待が持てる存在に成長。2015年から勝次(藤本)と2度対戦して敗れている永澤サムエル聖光で、今や対戦の可能性は無くなったが、もし戦えばお互い負けられない立場であろう。

同・協会ライト級1位にランクする同門の睦雅も貴政を倒してTKO勝利を飾った。王座挑戦の機会を覗いつつ、永澤との同門対決は視野に無い様子でも、トップを目指す展開は見物でしょう。そんな存在感が増してきた睦雅である。

ビクトリージムはこの日出場した櫓木淳平の他、瀧澤博人、細田昇吾、石原將伍など、王座やランキングに名を連ねる選手が充実しています。今後のKICK Insistでの王座絡みに注目したいところです。

第2部 メインイベント予定だった、瀧澤博人vs ガイヤシットHIKARIMACHI(タイ)戦は瀧澤博人が、コロナ感染症防止対策の為、一定の待機期間を設ける必要のある選手に該当することが判明し、出場を見合わせとなりました。このカードは7月17日(日)新宿フェースに於いてのKICK Insist.13に延期となりました。

ジャパンキックボクシング協会次回興行は5月1日(日)後楽園ホールに於いて武田幸三さん主催Challenger.5が開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」