話題の「全裸監督」は原作もいいが、著者の「その前の2作」も名著過ぎる!

AV監督・村西とおる氏の半生を描いたNetflixのオリジナルドラマ「全裸監督」があちらこちらで大絶賛されている。筆者も観てみたが、「地上波では放送できない」とのフレコミ通り、性描写は過激だし、有名俳優が多数出演しているし、素人目にもセットやロケ地に手間や金がかかっていることはわかる。ストーリーも中毒性があり、たしかに楽しめる作品だ。


◎[参考動画]『全裸監督』予告編 2 (Netflix Japan 2019/07/24公開)

そんな話題作は、文筆家・本橋信宏氏の著作「全裸監督 村西とおる伝」(太田出版)が原作。712ページから成る分厚い本で、村西とおるという「絶対教科書に載らない偉人」の半生を克明に記録し、後世に残そうという著者の執念や使命感が感じられる一冊だ。ドラマのヒットでこの本にも注目が集まっているようなのは、喜ばしいことである。

もっとも、ほとんど予備知識がない人がこの本をいきなり手にとると、ボリュームがあり過ぎて、最後まで読み切るのがしんどいのではないかと思われる。そこで、筆者が「初学者」にお勧めしたいのが、著者の本橋氏が「全裸監督」以前に村西氏のことを書いた2作、1996年12月発行の「裏本時代」と1998年3月発行の「アダルトビデオ 村西とおるとその時代」(いずれも単行本の版元は飛鳥新社)だ。

本橋信宏「裏本時代」(1996年)

◆「裏本の帝王」だった村西氏

この2作は、「全裸監督 村西とおる伝」に比べると、ボリュームが少なく、一人称の小説のような文体で書かれているので、たいへん読みやすい。それでいながら、1つ1つのエピソードも詳細に綴られており、時代の空気もよく伝わってきて、端的に言えば名著である。

まず、「裏本時代」。これは、村西とおる氏がアダルトビデオに進出する前、草野博美という本名で「裏本の帝王」として君臨していた頃の生きざまを活写したノンフィクションだ。本橋氏が当時の村西氏を取材して知り合い、関係を深め、やがて、村西氏が営む新英出版が創刊した写真週刊誌「スクランブル」の編集長となって奮闘する日々が描かれている。

インターネットは影も形もなく、ビデオデッキを所持する一般家庭もまだ少数だった80年代初頭、世の人々がビニ本や裏本に熱を上げ、FOCUSの成功に端を発する写真週刊誌ブームが過熱したりした時代の空気も行間からあふれ出ている作品だ。

ちなみに同書によると、書店を全国展開し、多数の営業マンを雇ってビニ本、裏本を売りさばいた当時の村西氏は、「流通を制する者が資本主義を制する」と言い、ビニ本、裏本の販売ルートを使って「スクランブル」を日本一の写真週刊誌にしようとしていたという。

結局、新英出版が資金繰りに窮して倒産し、スクランブルも廃刊となってしまった。とはいえ、30年余り経った現在、インターネット企業やコンビニが「流通」を制し、隆盛を極めているのを見ると、当時から流通を重視していた村西氏はやはり慧眼の持ち主だったのだと改めて感心させられる。話題の「全裸監督」にしても、地上波のテレビ局では「流通」させられないドラマをNetflixというインターネットメディアが「流通」させているのだというとらえ方もできる。

本橋信宏「アダルトビデオ 村西とおるとその時代」(1998年)

◆ジャニーズ事務所との攻防

一方、「アダルトビデオ 村西とおるとその時代」は、裏本が摘発され、服役した草野博美氏が出所後、AV監督の村西とおるとなり、今度は表社会でのし上がっていく様を描いたノンフィクションだ。この時代も本橋氏は村西氏と行動を共にし、村西氏の成功と挫折のすべてを間近で観察し続けている。それだけに描写は細部に至るまで迫真性に富んでおり、実にエキサイティングなのである。

そしてその中では、地上波のみならず、Netflixでも描くのは難しかったのではないかと思えるエピソードも頻出する。中でも最大の見せ場は、ジャニーズ事務所とのガチンコバトルだ。

その発端は、村西氏の作品に出演したAV女優が、当時人気絶頂だった田原俊彦氏との情事を週刊誌で告白したことだった。ジャニーズ事務所側からそのことについて抗議され、村西氏は逆に激怒する。そしてジャニーズ事務所のスキャンダルを集めようと躍起になる中、かつてジャニーズ事務所に所属した元フォーリーブスの北公次氏と出会い、北氏に告白本を書かせたり、マジックをやらせたりするのである。

当時も今も全マスコミが及び腰になるジャニーズ事務所相手に、このように村西氏が何ら臆することなく、真っ向から喧嘩をふっかけていく様は実に痛快だ。

本橋氏は同書において、「この男のやることはいつも退屈な現実を『少年ジャンプ』のような世界に変えてしまう」と評しているが、村西氏はまさにその通りの人なのだろう。だからこそ、本橋氏はずっと村西氏のそばにいたし、村西氏の記録を残そうと、この2作を書き残し、さらにあの大部な本「全裸監督 村西とおる伝」まで上梓したのだと思う。

そう書いて気づいたのだが、ドラマ「全裸監督」もどこか『少年ジャンプ』のようである。それが中毒性の秘密かもしれない。


◎[参考動画]The Naked Director(全裸監督)- Kaoru Kuroki(黒木香) Real Life Character(Coconut Omega 2019/8/11公開)

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。著書『平成監獄面会記』が漫画化された『マンガ「獄中面会物語」』(著・塚原洋一/笠倉出版社)が発売中。

創業50周年 タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』10月号絶賛発売中!
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

福島民報、福島民友が紹介しない飛田晋秀さんの写真集「福島の記憶 3.11で止まった町」に写る福島復興の真実 『NO NUKES voice』ルポ〈7〉

1947年、福島県三春町に生まれた写真家の飛田晋秀さんは、2009年全国の職人さんを撮って欲しいと依頼され、翌年から北海道を皮切りに全国の職人を撮って回り、最後に長崎から九州を一回りしたのち、いよいよ編集作業に入ろうとしていた矢先、東日本大震災と原発事故にあった。当初「報道カメラマンでもないから」と、被災地の写真を撮ることを躊躇していた。しかし4月中旬、小名浜に訪ねた知人から、津波で7名の仲間を亡くした話を聞き、こうした記憶を風化させてはならないと、写真を撮ろうと決めた。

帰還困難区域に初めて足を踏み入れたのは2012年の1月。しかし、変わり果てた町並みを目の当たりにした飛田さんはシャッターが押すことが出来なかった。そんな飛田さんが、今では既に100回以上、帰還困難区域などに入り、写真を撮り続けている。

富岡町。車も人もいない街路、信号だけが機能している(2012.1.31)
富岡町。国道6号電光掲示板2.409マイクロソフトシーベルト(2018.4.11)

そのように変わったのは、2012年8月、避難所で会った小学2年生の女の子に「大きくなったら、お嫁にいける?」と聞かれたからだ。心臓が止まりそうになったという飛田さん。しばらく何も言えず、ようやく口にできたのは「ごめんね」のひとことだった。

号泣しながら車で帰りながら「自分には何ができるのだろうか?」と悩み続け、飛田さんは決意した。「命がある限り、被災地に入り、人がいなくなった街を撮り続けていこう。あの女の子のような若い人たち、それから後世に生きていく人たちに、福島の真実を伝えていくために…」と。

国道6号線、放射線量は、電光掲示板でも0.92マイクロシーベルト~2.409マイクロシーベルトの場所があり、福島第一原発に近くなる程高くなる。国道脇の民家に人が侵入しないよう、バリケードが設けられているが、警備する警察官は防護服もマスクも着けていない。富岡から浪江までの14.1キロは、歩行もバイクも禁じられている。車で走行中も車外に長く留まってはいけない。

除染で出た汚染物を入れたフレコンバックを、中間貯蔵施設(大熊町、双葉町)に搬入する作業が急ピッチで進む。昨年1200台から、今年は倍近い2400台に増えたトラックが、粉塵を撒き散らしながら走っている。国道6号線と同じく、一部が帰還困難区域を走行する国道228号線で、3月27日、大きな交通事故が起きた。写真では、車が脱輪しているのがはっきりわかるが、環境省は東京新聞の記者の取材に、「脱輪はしていない」と頑なに否定した。高線量のため、長時間車外にいてはいけないことになっているが、警察官らは、レッカー車が到着するまで4時間も道路に立ち続けていた。全員マスクもなしに。

大熊町。事故を起こして脱輪してしまった大型ダンプ(2019.3.27)

4月に町の一部が避難指示解除された大熊町役場の新役場の建設現場(施工は鹿島建設)。1月3日、役場前で0.35マイクロシーベルトを計測した。7月12日に完成した新役場の総工費用は約31億円。町には事故前、11000人いたが、戻るのはわずか約25名程度だと町会議員の人がいう。(ただし、役場近くの大河原地区の東電社員寮の社員と、住民票を町に移している建設現場の作業員を含めて『帰還者数』は700人プラスしてカウントされるという)

役場職員は会津若松市を朝5時半に出て車で通う。他の職員も郡山、いわき、南相馬などから通っているという。住民には「帰れ!帰れ!」と言うくせに…。今後31億円かけた新役場をどう維持していくのか?

1月3日撮影。大熊町大川原地区、役場から1.5キロ、福島第一原発から9キロの場所に、2018年に完成した給食センター。地元の人を中心に100人雇用すると言われた。福島第一原発の作業員に、1日3000食の給食を提供している。空調設備の整った調理場は、0.07マイクロシーベルト程度だろうが、工場の外は1.1マイクロシーベルト。給食を福島第一原発に運ぶ作業員の被ばくはどうなるのか?あるいは運搬する途中、給食への影響はないのだろうか?影響があるとしたら、被ばくを強いられながら作業をする労働者を一層被ばくさせることにはならないか?

大熊町役場建設中(2019.1.3)
大熊町に建設された給食センター。1日3000食の給食を作っている(2017.1.3)
雨どいの線量27.4マイクロソフトシーベルト(2014.3.27)

帰れない、入ってはいけない帰還困難区域を、防護服もマスクもつけずに除染する作業員。飛田さんの線量計は、車中で0.5マイクロシーベルト。「入れないところをなぜ除染するの?そこで何を作るの?」。飛田さんは現場の監督に聞いた。「(上から)やれと言われたことをやっているだけです」という返事が返ってきた。

帰還困難区域の飛田さんの知人の家。2014年から2018年の4年間で、玄関に入るのが困難なほど木が大きくなった。2014年撮影時、玄関先で2.24マイクロシーベルト、線量が高くなりやすい雨どい付近は、27.4マイクロシーベルトだった。同じ雨どい付近で昨年は測ったら、なんと43マイクロシーベルトと倍近くあった。国は徐々に下がってくると言うが、逆に上がる場所もある。

大熊町。帰還困難区域の田んぼを除染してどうするのか(2018.7.27)
大熊町。4年前に撮影。木が背丈よりも伸びている(2018.7.26)
飯舘村。除染作業員が昼寝被爆が心配(2015.8.4)
一時帰宅してくると斑点ができ物凄く痛痒い。原因は解らない。避難先に戻ると4.5日位から消えていく(2017.1.6)

飛田さんの車中で0.96マイクロシーベルトもある場所で、休憩中の除染作業員が道路で昼寝している。被ばく防護の安全教育はきちんと受けているのだろうか? 今後、被ばくが原因の健康被害は増えるだろうが、そもそも「放射能は危険」の教育も受けていなければ、体調を崩しても、除染(被ばく労働)が原因とは思いつかないのではないだろうか? 

50代男性の知人は、帰還困難区域の自宅に戻ると、必ず腕にぶつぶつが出る。かゆくて痛い。60代女性の知人も、このように赤くなる。線量の低い自宅に戻ると何日かで、すーと治る。病院でも原因はわからないという。こういうことはマスコミには一切でない。すべて隠されてしまう。

飛田さんの写真展は、地元紙(福島民報、福島民友)では掲載されないし、取材もされない。地元紙に掲載されるのは「復興した」という記事ばかり。2020東京五輪に向け、「復興した」と演出される被災地には、しかし、多くの戻れない、戻ってはいけない場所がある。飛田さんの新しい写真集「福島の記憶 3.11で止まった町」が訴えるのは、多くのメディアがもう伝えなくなった、そうした福島の「真実」だ。

飯舘村(2014.11.21)
 
飛田晋秀写真集『福島の記憶 3.11で止まった町』(2019年旬報社)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。最新刊の『NO NUKES voice』21号では「住民や労働者に被ばくを強いる『復興五輪』被害の実態」を寄稿

※本記事掲載の写真はすべて福島県三春町在住のカメラマン、飛田晋秀さんによるもので、飛田さんはこの2月に写真集『福島の記憶 3.11で止まった町』(旬報社)を出版している。

9月11日発売!「風化」に楔を打ちこむ『NO NUKES voice』21号 創刊5周年記念特集 死者たちの福島第一原発事故訴訟


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NO NUKES voice 21号
創刊5周年記念特集 死者たちの福島第一原発事故訴訟
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[グラビア]
福島で山本太郎が訴えたこと(鈴木博喜さん
原発事故によって自殺に追い込まれた三人の「心象風景」を求めて(大宮浩平さん

[報告]野田正彰さん(精神科医)
原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって 死ぬ前に見た景観

[インタビュー]伊藤さん(大手ゼネコン下請け会社従業員、仮名)
福島第一原発事故後の現場で私が体験したこと

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈5〉
事故発生直後の中通り・会津地方の住民の受け止め方と、浜通りから福島県内に避難した人々の避難生活

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
「希望の牧場」吉沢正巳さんが語る廃炉・復興のウソ

[報告]尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)
住民や労働者に被ばくを強いる「復興五輪」被害の実態

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとはなにか〈16〉
酷暑下の東京五輪開催に警鐘を鳴らさないメディアの大罪

[報告]佐藤幸子さん(「子どもたちのいのちを守る会・ふくしま」代表)
福島の教育現場の実態 文科省放射線副読本の問題

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
東海第二に経済性なし 原電の電気を買った会社も共倒れ

[報告]平宮康広さん(元技術者、富山在住)
僕たちが放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
選挙が終わって急に暑い日がやってきたのだけれど

[インタビュー]本誌編集部
志の人・納谷正基さんの生きざま〈3〉最終回

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈5〉記憶と忘却の功罪(前編)

[報告]板坂剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第四弾!
ケント・ギルバート『「パクリ国家」中国に米・日で鉄槌を!』

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
原発“法匪”の傾向と対策~東電・国側弁護士たちの愚劣を嗤う~

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発は危険!「特重ない原発」はさらにもっと危険! 安全施設(特重)ができていない
原発を動かしていいのか? 安全施設ができるまでは動いている原発はすぐ止めよ!
《首都圏》柳田 真さん(たんぽぽ舎、再稼働阻止全国ネットワーク)
「特定重大事故等対処施設」のない各地の原発の即時停止を!
《北海道》佐藤英行さん(後志・原発とエネルギーを考える会)
泊原発3号機 再稼働目指せる体制か
《新潟》佐々木 寛さん(市民連合@にいがた共同代表、新潟国際情報大学教授)
参議院選挙 新潟選挙区について
《福島》宗形修一さん(シネマブロス)
「福島原発事故から遠く離れて」2019年参議院選挙福島選挙区からの報告
《東京》久保清隆さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
11・27ヒューマンチェーンで日本原電を追いつめよう 首都圏の反原発運動の現状と課題
《関西》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
来年4月から、原発稼働は電力会社の意のまま?
《福島》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟)
オリンピック前に終息も廃炉もできない福島第一原発
《香川》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
原発のない社会のために 蓮池透さん四国リレー講演会報告と今後の課題
《鹿児島》江田忠雄さん(脱原発川内テント)
いま、川内原発で何が起きているか
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
東海第二の審査請求から逃げ、原子力緊急事態宣言を隠す原子力規制委員会
《書評》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
安藤丈将の『脱原発の運動史 ── チェルノブイリ、福島、そしてこれから』(岩波書店)

私たちは『NO NUKES voice』を応援しています!

『NO NUKES voice』Vol.21 https://www.amazon.co.jp/dp/B07X3QHYV6/

「風化」に楔を打ちこむ『NO NUKES voice』21号、本日9月11日発売!

◆9.11〈戦争の世紀〉と3.11〈原発の世紀〉

 
9月11日発売!「風化」に楔を打ちこむ『NO NUKES voice』21号!

「戦争の世紀」と呼ばれた20世紀が終わり、21世紀は少しはましな時代になってほしい。口には出さずとも、世界で多くのひとびとが、内心そう祈念するなか、2001年9月11日、米国への同時多発ゲリラ攻撃が、何者かにより敢行された。米国政府や、主たる国際メディアは「アルカイダ」の犯行説を吐き続けたが、事件以前、以後の様々な検証から、この同時多発ゲリラ攻撃は、米国による、自作自演ではないかとの疑義が今日でも根強い。

米国が、アフガニスタン、イラクへと一方的に戦争を仕掛けていったのは、この同時多発ゲリラ事件の反撃が名目だった。しかしの反撃はイスラム社会のひとびとにたいして、そもそも全くいわれのない侵略戦争であり、弁明の機会すら充分には与えられなかった。そして日本=小泉政権は、どさくさ紛れで自衛隊を派兵し、実質的な「参戦」に足を踏み入れた。イラク、サマーワ「参戦」で現地の指揮を執った人間が、現在の外務副大臣であることを、読者は御存知であろうか。

かくして、世界も日本も暗雲の中で21世紀の幕開けを迎えたのだ。今日に至るも中東では、相変わらず戦火が絶えない。軍産共同体は当面の武器消費地を、20世紀に引き続き、中東と定めたかのようだ。

あの日から18年経ったきょう、『NO NUKES voice』21号が発売される。冒頭米国への同時多発ゲリラ攻撃を取り上げたのは、昨日の本通信でも私見を述べた通り、「原発問題」の背景には目前の経済利益だけではなく、中長期的な国家や武装国家群、あるいは白衣を着た科学者然とした軍事研究者たちの思惑などの目論見が複雑に絡み合い、背景も非常に厄介な問題っであると認識するからだ。

◆蜃気楼の向こうに実在する希望を目指す

 
『NO NUKES voice』21号 グラビアより

20世紀終盤から米国の2大原発メーカーであるGE(ゼネラル・エレクトリック)とWEC(ウエスティングハウス・エレクトリック)は新規受注を得るのに、非常な困難に直面していた。もう原発の新設で利益は出ない、と考えた米国はこの2つの会社を日本に売り払った。GEは日立に、ウエスティンハウスは東芝に化けることにより、減益必至部門の切り捨てに成功する。

製造業のトップに君臨する日立、東芝がこのような愚か、かつ無益な選択をしていたからかどうかはわからないが、1995年の阪神大震災以来、地震の活動期に入っていた日本で、ついに賢人たち懸念していた「震災原発事故」が起こった。想定外でも、2万年に一度でもない。放置していれば必ず起こることが、やはり起こってしまった。

だが、福島原発第一原発事故が発生した2011年には、前述の自衛隊のイラクへの派兵、1995年阪神大震災発生から2か月で起こったオウム真理教によるサリン事件などを経て、マスメディアの神経中枢はすでに脳死しており、若手の記者は正確な情報の掌握方法すらわからない。わかったとしても伝えない。そしてどこにも法案化されてはいないが、独裁国家でもないのに、世界で一番ではないかと思えるほどに「従順化」した国民は、抗議の声すらあげはしない。

だから『NO NUKES voice』は砂漠を独歩で進むような、殺風景な時代にあっても、必ず蜃気楼の向こうに実在する希望を実現するために、歩みを進める責任がある。

◆熾烈を極める現場の状態

 
『NO NUKES voice』21号 グラビアより

今号の特集は《死者たちの福島第一原発事故訴訟》だ。

巻頭の野田正彰さんによる長編レポート「原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって 死ぬ前に見た景観」については、昨日、本通信でご紹介した。伊藤さん(仮名)の「福島第一原発事故後の現場で私が体験したこと」は、是非、注意深くお読みいただきたい。インタビューでお伺いした内容の相当部分は、伊藤さんの個人特定につながるので掲載していないが、それでもお答えの端々から、熾烈を極める現場の状態が伝わる。

伊達信夫さんの「《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈5〉 事故発生直後の中通り・会津地方の住民の受け止め方と、浜通りから福島県内に避難した人々の避難生活」は事故直後に地元の人々の受け止め方、と行動についての貴重な記録の第5弾である。今回は中通りと会津で起きていた、混乱と戸惑いなどについて詳細に報告がなされている。こういった具体的な記録を、定期的に掲載し、いわゆる「風化」に楔を打ちこむのも『NO NUKES voice』の役割だと認識する。

「『希望の牧場』吉沢正巳さんが語る 廃炉・復興のウソ」で行動の人、吉沢さんに話を聞いていただいたのは、鈴木博喜さんだ。吉沢さんは次々に現実を説明し、解説を加える。事故現地生活者であるだけではなく、分析者でもあり、運動家でもあるが、なによりも酪農家であることが、吉沢さんの地面から足が生えているような、肉声を造り出しているのかもしれない。

◆2020年復興五輪の欺瞞

 
『NO NUKES voice』21号 グラビアより

「住民や労働者に被ばくを強いる『復興五輪』被害の実態」は、大阪釜ヶ崎で安価な、おいしい食堂を切り盛りする尾崎美代子さんのレポートだ。内容は詳しく紹介しないが、日雇労働者の被爆問題に寄り添い、東京五輪の欺瞞を徹底糾弾する尾崎さんは、どのような社会問題を論じても、決して立脚点がずれることがない。こういうひとが町内に一人でもいれば、日本も少しは変わるであろう、と常々エネルギッシュな行動には、敬服させられる。本論考も鋭敏さに一寸のブレもなしだ。

本間龍さんの「原発プロパガンダとは何か? 酷暑下の東京五輪開催に警鐘を鳴らさないメディアの大罪」。やはり「反(脱)原発」を語るひとびとにとって「東京五輪」は避けて通れない、大難物であることが再度実感される。編集部が「東京五輪についてお願いします」と依頼したわけではないが、本号では多くのかたがたが「東京五輪」を指弾している。本間さんは冒頭「私が何度も五輪を取り上げる理由は、原発とマスコミの関係と、五輪とマスコミの関係は同じだからだ(注:著者要約)」と、実に明快に批判する理由を述べている。余計な言葉は不要だろう。

◆原発に無駄金を捨てている社会

佐藤幸子さんの「福島の教育現場の実態―文科省放射線副読本の問題」では、本誌に度々ご登場いただいている佐藤さんが、今回は文科省が副読本として配布している「放射能安全洗脳」の問題点を指摘する。この副読本は、福島県内だけではなく、全国の小中学校で配布されている。佐藤さんが指摘する問題点は明確だ。

山崎久隆さんは「東海第二に経済性なし 原電の電気を買った会社も共倒れ」で、日本一危険と言われる東海第二原発の問題を経済的な観点から指摘する。要するに無駄金を捨てている、に等しい論拠は読者の皆さんがお読みいただいて、ご確認いただきたい。

元技術者、平宮康広さんの「僕たちが放射性廃棄物の地層処分に反対する理由」は、独自の視点からの懺悔からはじまり、高レベル廃棄物の地層処分問題への提言で結ばれる。果して平宮さんが問いかけている問題はなんなのであろうか。そして回答はあるのか。

◆もう、それほど時間はない

常連執筆陣、三上治さんは「選挙が終わって急に暑い日がやってきたのだけれど」で、東京五輪問題、韓国との関係悪化、淵上太郎さんのご逝去など、この短かった夏(また再び暑さが戻っているが)の出来事を振り返る。

「志の人・納谷正基さんの生きざま」〈3〉は本誌に連載を寄稿して下さっていた納谷正基さんへ編集部が行ったインタビューの最終回だ。納谷さんのご逝去は本誌にとって大きなダメージ。それをあらためて印象付けさせられるお話だ。読者にも納谷さん「志」の真骨頂が必ず伝わることだろう。

山田悦子さんには「記憶と忘却の功罪」をテーマに原稿をお願いした。甲山事件の冤罪被害者にして、世界で最も長い21年の刑事裁判の被害者にとっての「記憶と忘却の功罪」とは。大きなテーマであるため、本号では「前編だけ掲載したい」との山田さんからのリクエストに沿う掲載となった。

板坂剛さんの「悪書追放キャンペーン 第四弾 ケント・ギルバート著『「パクリ国家」中国に米・日で鉄槌を!』」。いつのまにか、ケント・ギルバードに狙いを集中したのか? 板坂流は「ルパン三世」に登場する石川五右衛門が持つ「斬鉄剣」。なんでも切れるのであるから、連続攻撃も読み応えがあるが、一原稿での「10人斬り」など、離れ業も見たくなってきた(贅沢か?)。

なんでも知っている人を「博覧強記」と表現する。佐藤雅彦さんのことである。「原発〝法匪〟の傾向と対策 ~東電・国側弁護士たちの愚劣を嗤う~」では、板坂流と違い、持論の展開を最小に抑え、事実を重ねながらそれで諧謔も同時に演じる。これがわたしの佐藤雅彦評である。板坂論考は爆笑できる。佐藤論考は含み笑いを狙っているとみた。的外れか。

その他、全国各地からの現状報告やお知らせも、欠かしていない。数日前には高浜原発が煙を出した。伊方でも事故があった。おそらくわれわれにはもう、それほど時間はない。渾身の胆力と全国で頑張る皆さんへのエール、そしてスパイス代わりのユーモア精神で走ってきた。これからも走り続ける。是非、書店へ!

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。


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NO NUKES voice 21号
創刊5周年記念特集 死者たちの福島第一原発事故訴訟
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[グラビア]
福島で山本太郎が訴えたこと(鈴木博喜さん
原発事故によって自殺に追い込まれた三人の「心象風景」を求めて(大宮浩平さん

[報告]野田正彰さん(精神科医)
原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって 死ぬ前に見た景観

[インタビュー]伊藤さん(大手ゼネコン下請け会社従業員、仮名)
福島第一原発事故後の現場で私が体験したこと

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈5〉
事故発生直後の中通り・会津地方の住民の受け止め方と、浜通りから福島県内に避難した人々の避難生活

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
「希望の牧場」吉沢正巳さんが語る廃炉・復興のウソ

[報告]尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)
住民や労働者に被ばくを強いる「復興五輪」被害の実態

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとはなにか〈16〉
酷暑下の東京五輪開催に警鐘を鳴らさないメディアの大罪

[報告]佐藤幸子さん(「子どもたちのいのちを守る会・ふくしま」代表)
福島の教育現場の実態 文科省放射線副読本の問題

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
東海第二に経済性なし 原電の電気を買った会社も共倒れ

[報告]平宮康広さん(元技術者、富山在住)
僕たちが放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
選挙が終わって急に暑い日がやってきたのだけれど

[インタビュー]本誌編集部
志の人・納谷正基さんの生きざま〈3〉最終回

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈5〉記憶と忘却の功罪(前編)

[報告]板坂剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第四弾!
ケント・ギルバート『「パクリ国家」中国に米・日で鉄槌を!』

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
原発“法匪”の傾向と対策~東電・国側弁護士たちの愚劣を嗤う~

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発は危険!「特重ない原発」はさらにもっと危険! 安全施設(特重)ができていない
原発を動かしていいのか? 安全施設ができるまでは動いている原発はすぐ止めよ!
《首都圏》柳田 真さん(たんぽぽ舎、再稼働阻止全国ネットワーク)
「特定重大事故等対処施設」のない各地の原発の即時停止を!
《北海道》佐藤英行さん(後志・原発とエネルギーを考える会)
泊原発3号機 再稼働目指せる体制か
《新潟》佐々木 寛さん(市民連合@にいがた共同代表、新潟国際情報大学教授)
参議院選挙 新潟選挙区について
《福島》宗形修一さん(シネマブロス)
「福島原発事故から遠く離れて」2019年参議院選挙福島選挙区からの報告
《東京》久保清隆さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
11・27ヒューマンチェーンで日本原電を追いつめよう 首都圏の反原発運動の現状と課題
《関西》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
来年4月から、原発稼働は電力会社の意のまま?
《福島》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟)
オリンピック前に終息も廃炉もできない福島第一原発
《香川》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
原発のない社会のために 蓮池透さん四国リレー講演会報告と今後の課題
《鹿児島》江田忠雄さん(脱原発川内テント)
いま、川内原発で何が起きているか
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
東海第二の審査請求から逃げ、原子力緊急事態宣言を隠す原子力規制委員会
《書評》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
安藤丈将の『脱原発の運動史 ── チェルノブイリ、福島、そしてこれから』(岩波書店)

私たちは『NO NUKES voice』を応援しています!

『NO NUKES voice』Vol.21 https://www.amazon.co.jp/dp/B07X3QHYV6/

〈原発なき社会〉を求めて創刊5周年『NO NUKES voice』21号が明日発売!

本文に入る前に、台風15号により、9月8-9日関東地方を中心に、各所で大きな被害が出た。被災された皆様へお見舞いを申し上げます。

 
9月11日発売〈原発なき社会〉を求めて創刊5周年『NO NUKES voice』

あす、『NO NUKES voice』21号が発売される。2014年8月、それまでも福島第一原発事故に関する書籍を多数出版していた鹿砦社は、「反(脱)原発」を目的に据えた季刊誌の発刊に踏み出した。商業的な勝算があったわけではないし、お恥ずかしながら現在も本誌は「赤字」である。

だが、ほとんどのひとびとが、その危険性すら知らずに、暮らしてきた「確実な危険が収められた、パンドラの箱」の蓋は、あいてしまったのだ。原発に関する書籍が本屋の書架に、並ぶ中、鹿砦社も独自の書籍を何冊も発刊してきた。当時は、がむしゃらに警鐘を鳴らし続けた。一定の意味はあったのであろうと思う。だが、なにか物足らない。問題の巨大さと危険の大きさ、生物・生命への危険性を考えると、「単行本で追いかけきれる問題だろうか」との思いが募った。

そこで、継続的に「反(脱)原発」を問い続ける季刊誌の発行に思いが至ったのだ。

と、あたかもわたしが「主語」であるかのように書いているが、これはこれまで『NO NUKES voice』誕生にかんして、わたしが鹿砦社代表・松岡利康から、断片的に聞いた話を繋ぎ合わせたに過ぎない。しかし松岡が『NO NUKES voice』発刊にかけた思いは理解できる。創刊号から6号までは松岡自身が編集長をつとめた。

7号からは原発問題への造詣・人脈が豊富な小島卓が編集長に就任した。1号から6号までを「黎明期」とするならば、7号以降は、今号までは「成長期」と位置付けられるであろうか。贅肉は削ぎ落とし、より問題に直接的に肉薄することができる方向性が模索され続けている、と感じる。不思議なことに原発問題は、核心に迫れば、迫るほど、沖縄の基地問題、差別、司法そして思想哲学などとの関連が、切りようがないことをわたしは実感してきた。

そのことを踏まえれば、あす発売の『NO NUKES voice』21号は、これまで培ってきたわれわれの力を、いったんすべて出し切り、その価値を世に問う内容と言っても過言ではないだろう。通常発売前に書籍の内容をそのままご紹介することはないのだが、今回は特別に21号の「巻頭言」をご紹介する。

《2014年8月創刊の本誌は、今号で五周年を迎えました。本誌の役割は、脱原発に向けての各種情報を、読者の皆様にお届けすることと、本誌発刊の契機となった福島第一原発事故について、福島現地の方々に寄り添いながら、「事実」を掘り起こし、「被害の現実」をお伝えすることであると考えます。
 創刊5周年記念の特集では、福島第一原発事故による被害者の方、なかでも、もうご自身で語ることが能わない「自死」された方々へ視線を向けました。精神科医であり多くのノンフィクション作品を手掛けられている野田正彰先生に「自死」された方々が、亡くなる前におられた場所で、なにを考え、感じておられたのか、を考察頂きました。非常にデリケートで抜き差しならない重大なテーマです。本誌をおいてこの問題に、事故後八年経過して踏み込む媒体はないでしょう。「福島第一原発事故で死者は出ていない」などと、とんでもないことを平然と口にする人々がいます。被害者を冒涜するデマです。
 第二次世界大戦で侵略を行った日本が、あたかも被害国であったかのように、責任が隠蔽され忘却される犯罪的行為が進むなか、同様の現象に異を唱える意味でも、渾身の思いでこの企画には取り組みました。
 また事故現場での収束作業にかかわっておられた方のお話を伺うこともできました。選挙公約で気軽に「脱原発」とは口にしますが、その実、どこまで本気なのか怪しい政治家が大半を占める中、原発立地現地で、または避難先で地道に闘っておられる方々と、本誌はますます連帯を深めたいと考えます。
「復興五輪」という欺瞞の冠詞をいただく来年の東京五輪は、福島第一原発事故とその被害を隠蔽するために、準備されている「虚構の祭典」です。本誌は、これまで何度も批判をぶつけてきましたが、ますます過熱する「虚構」の喧伝に対しても反撃を続ける所存です。
「命にかかわる」暑さの続いた夏でした。人間の力で自然の温度は調整できませんが、人工物は取り除くことができます。そのために必要なのは「知恵」と「理性」だけではないでしょうか。原発の罪(その意味は深淵ですが)の表層に触れていただく。決して楽しく、愉快な内容ではありませんが少しでも多くの方々に、本誌が、お届けしようとする現実が伝わることを期待いたします。季節の変わり目です、読者の皆様におかれましてはご自愛くださいますように。》

野田正彰さんの《原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって 死ぬ前に見た景観》は、野田さんにしかなしえない論考だ。刑事事件の被告を含め、精神鑑定を多数行ってきた豊富な経験と知識。それらと無縁に「死者の目から見えた世界の再現」が、知識や経験のないひとが行えば、軽率で、場合によっては亡くなった方に対する侮辱にもなりかねない。そのようなギリギリの鑑定に、野田さんはどうして踏み出そうと考えたのか。

自死者の家族援助や、東京空襲による孤児の問題に長年取り組んできた、野田さんだからこそなしえた「原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって」は、超重量級のレポートだ。

断言する。今後どのような媒体でも、「原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって」に肩を並べるレポートを読むことはできないであろう。

『NO NUKES voice』21号、5年間の、中間総括として本特集は是非お読みいただきたい。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。


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NO NUKES voice 21号
創刊5周年記念特集 死者たちの福島第一原発事故訴訟
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[グラビア]
福島で山本太郎が訴えたこと(鈴木博喜さん
原発事故によって自殺に追い込まれた三人の「心象風景」を求めて(大宮浩平さん

[報告]野田正彰さん(精神科医)
原発事故で亡くなった人々の精神鑑定に当たって 死ぬ前に見た景観

[インタビュー]伊藤さん(大手ゼネコン下請け会社従業員、仮名)
福島第一原発事故後の現場で私が体験したこと

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「東電原発事故避難」これまでと現在〈5〉
事故発生直後の中通り・会津地方の住民の受け止め方と、浜通りから福島県内に避難した人々の避難生活

[報告]鈴木博喜さん(ジャーナリスト/『民の声新聞』発行人)
「希望の牧場」吉沢正巳さんが語る廃炉・復興のウソ

[報告]尾崎美代子さん(「西成青い空カンパ」主宰、「集い処はな」店主)
住民や労働者に被ばくを強いる「復興五輪」被害の実態

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとはなにか〈16〉
酷暑下の東京五輪開催に警鐘を鳴らさないメディアの大罪

[報告]佐藤幸子さん(「子どもたちのいのちを守る会・ふくしま」代表)
福島の教育現場の実態 文科省放射線副読本の問題

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
東海第二に経済性なし 原電の電気を買った会社も共倒れ

[報告]平宮康広さん(元技術者、富山在住)
僕たちが放射性廃棄物の地層処分に反対する理由

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
選挙が終わって急に暑い日がやってきたのだけれど

[インタビュー]本誌編集部
志の人・納谷正基さんの生きざま〈3〉最終回

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈5〉記憶と忘却の功罪(前編)

[報告]板坂剛さん(作家・舞踊家)
悪書追放キャンペーン 第四弾!
ケント・ギルバート『「パクリ国家」中国に米・日で鉄槌を!』

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
原発“法匪”の傾向と対策~東電・国側弁護士たちの愚劣を嗤う~

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
原発は危険!「特重ない原発」はさらにもっと危険! 安全施設(特重)ができていない
原発を動かしていいのか? 安全施設ができるまでは動いている原発はすぐ止めよ!
《首都圏》柳田 真さん(たんぽぽ舎、再稼働阻止全国ネットワーク)
「特定重大事故等対処施設」のない各地の原発の即時停止を!
《北海道》佐藤英行さん(後志・原発とエネルギーを考える会)
泊原発3号機 再稼働目指せる体制か
《新潟》佐々木 寛さん(市民連合@にいがた共同代表、新潟国際情報大学教授)
参議院選挙 新潟選挙区について
《福島》宗形修一さん(シネマブロス)
「福島原発事故から遠く離れて」2019年参議院選挙福島選挙区からの報告
《東京》久保清隆さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
11・27ヒューマンチェーンで日本原電を追いつめよう 首都圏の反原発運動の現状と課題
《関西》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
来年4月から、原発稼働は電力会社の意のまま?
《福島》けしば誠一さん(杉並区議会議員、反原発自治体議員・市民連盟)
オリンピック前に終息も廃炉もできない福島第一原発
《香川》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
原発のない社会のために 蓮池透さん四国リレー講演会報告と今後の課題
《鹿児島》江田忠雄さん(脱原発川内テント)
いま、川内原発で何が起きているか
《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
東海第二の審査請求から逃げ、原子力緊急事態宣言を隠す原子力規制委員会
《書評》天野恵一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
安藤丈将の『脱原発の運動史 ── チェルノブイリ、福島、そしてこれから』(岩波書店)

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『NO NUKES voice』Vol.21 https://www.amazon.co.jp/dp/B07X3QHYV6/

遺伝子から万能細胞の世界へ ── 誰にでもわかる「ゲノム」の世界〈4〉ジェネリック医薬品はどうしてこんなに安いのか?

先発薬の製造特許が切れると、後発薬が売り出されるそうです。特許の期限がお薬の販売には大きな影響を持っているようです。薬局のかたでも、正直なかた(親切なかた)は、「ジェネリックはたしかに薬価が安いですね。そして我々は『効果は同じ』と製薬会社からは説明を受けています。先発薬に比べて、ジェネリックは薬の値段が薬は、1/4ぐらいのもあります。どうして、こんなに安いのか。同じ効果がある薬で、本当に特許が切れただけの理由で安いのであればいいのですが。どうもそれだけではないようですね」とおしゃいます。ジェネリック医薬品に疑問を持ちながら、はっきり言うことができずジレンマを感じている薬剤師さんがいらっしゃるように思います。

たしかに、消費者(患者)にとって、薬の値段が安いことは、ありがたいことです。とくに、病院に通う機会の多い年金生活者にとっては、負担軽減になりますから。でも、昔から「安かろう悪かろう」という言葉があります。つまり、安いものは、それなりの材料で作られているから注意しなさい、という教えでしょう。

もし、ジェネリック薬が「安かろう悪かろう」であってはたまりません。私自身は飲み続けている薬はありませんが、身内には高齢の人も多く、血中のコレステロールが高いとか、血圧が高い、血液をサラサラにする薬を何年も飲んでいるひとたちがいます。でも、高齢の方はあまり、先発薬とかジェネリック薬とかに関心なく、薬袋の中の成分説明書を見てみると、「ジェネリック薬」と書いてあることがなんどもありました。薬効(品質)が同じであれば、それにこしたことはありません。でも安い薬を飲んで、効果が低いだけでなく副作用などが出てしまっては、薬を飲む意味がありません。

どうしてこんなに安いのか。ネットで調べると、意外なことがわかりました。ジェネリック薬品の大部分は、海外から輸入して販売されているようです。日本の製薬会社の名前で販売していても、製造元は海外が多いのです。

※後発医薬品の原薬調達状況に関する調査結果
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryou/kouhatu-iyaku/dl/h24-02_3.pdf

これは厚生労働省の発表です。資料が長くて読むのが面倒ですが、ジェネリック薬品は、半分程度が輸入品であり、その輸入元は、購入金額ベースで「インド」が全体の 30.0%を占め、次いで「韓国」(26.0%)、 「中国」(24.1%)、「ドイツ」(9.6%)という順であることがわかります。

厚生労働省「後発医薬品の原薬調達状況に関する調査結果」より

次に、そのジェネリック薬がどのように認可されるのか調べてみました。「先発医薬品の承認申請には、発見の経緯や外国での使用状況、物理的化学的性質や規格・試験方法、安全性、毒性・催奇性、薬理作用、吸収・分布・代謝・排泄、臨床試験など数多くの試験を行い、20を超える資料を提出する必要がある」

これに対して後発医薬品では、有効性・安全性については既に先発医薬品で確認されていることから、「安定性試験・生物学的同等性試験等を実施して基準をクリアすれば製造承認がおりる。」つまり、生物学的同等性だけ確保されればよいのです。では、生物学的同等性試験とはどんなものでしょうか? ウィキペディアでは以下のように説明されています。

「ヒト(健常人)に先発品・後発品を投与し、両者の血中濃度推移に統計学的な差がないことを確認する。より具体的には、先発品・後発品を各10~20名程度の健常人に投与し、一定時間ごとに採血を行い、薬物血中濃度の推移を比較し、両群の間に統計学的な差がないことを証明する手法がとられる。ただし、倫理的な面や、製剤特性等の理由から、ヒト以外の動物での試験が認められることもある。」

「人間が実際に服用して、副作用を確かめる」試験を行わず、「動物実験」だけでも認可される。そういう意味のようです。人間が飲んだこととがないかもしれない薬である可能性もあるのでしょうか。であればとても不安になりませんか?

また、海外から輸入されているわけですから、先発薬と全く同じものと言うわけにはいかかないと考えられます。製造する工場や手順が違うわけですから、含まれる副産物も多少違ってくると思われます。でも、その辺は厳密に調べていない様です。

本当に、ジェネリック薬は、先発薬と同じなのかという疑問が湧いてきます。ジェネリック薬の副作用で、また、新たな薬を飲まなければならなくことはゴメンです。この疑問を解くのに「遺伝子ゲノム」の解析が役に立つようですので、次回は「ゲノム」について調べてみたいと思います。

 

◎連載過去記事(カテゴリー・リンク)
赤木夏 遺伝子から万能細胞の世界へ ── 誰にでもわかる「ゲノム」の世界 
http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=73

▼赤木 夏(あかぎ・なつ)[文とイラスト]
89歳の母を持つ地方在住の50代主婦。

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WBCムエタイジュニアリーグ開催、優勝者決定! MVPはU15の山口瑠選手!

小学校低学年31kg未満 宮崎遼二vs稲田滉大
MVP 山口瑠

8月24日(土)豊島区立雑司が谷体育館にて開催されました、『WBCムエタイジュニアリーグ第5回全U15、第4回U18全国大会』の全19階級の王者が決定。

熱戦を繰り広げた選手の中から、最優秀選手(MVP)にはU15中学生50kg未満で優勝した山口瑠選手が獲得し、タイ国政府観光庁より3泊4日バンコク観光・ムエタイ観戦ツアーが贈呈。他に敢闘賞、各クラス1名計4名、フェアプレー賞各クラス1名計4名が受賞。

◎WBCムエタイジュニアリーグ第5回全国大会 / 8月24日(土)12:00~
会場:豊島区立雑司が谷体育館
主催:WBCムエタイジュニアリーグ実行委員会

◆WBCムエタイジュニアリーグ、第5回U15、第4回U18全国大会決勝

◆U15 小学校低学年(3年生、4年生)

25kg未満決勝   ×中森琉海vs駒木根稔和○

28kg未満準決勝  ○小野琥大vs大出琥太郎×
     決勝  ○中山幸亮vs小野琥大×

31kg未満準決勝  ×戸部汐汰vs稲田滉大○
     決勝  ○宮崎遼二vs稲田滉大×

34kg未満決勝   ×高山翔星vs大矢凉夏○

小学校高学年31kg未満 竹中悠獅vs大久保世璃

◆U15 小学校高学年(5年生、6年生)

28kg未満決勝   ×松本来人vs島田晋作○

31kg未満準決勝  ○大久保世璃vs上窪聖 ×
     決勝  ×竹中悠獅vs大久保世璃○

34kg未満準決勝  ×細美樹斗vs曽我昴史○
         ○小林栄絢vs沖井朔斗×

     決勝  ○曽我昴史vs小林栄絢×

37kg未満     ×鈴木咲耶vs竹内征汰○
     決勝  ×岩本慎vs竹内征汰○

40kg未満準決勝  ×成尾歩斗vs高橋ルキヤ○
         ×志賀野真人vs宮里阿連○
      決勝  ○高橋ルキヤvs宮里阿連×

45㎏未満優勝   生田瑠玖

小学校低学年28kg未満 中山幸亮vs小野琥大
中学生37kg未満 比嘉暖人vs藤井昴
中学生50kg未満 山口瑠vs坂本嵐

◆U15 中学生

34kg未満準決勝  ○小佐野航vs辻畑元気×
         ○桜井嵐vs清水龍月×
     決勝 ○小佐野航vs桜井嵐×

37kg未満準決勝  ○比嘉暖人vs岡林昊×
         ×杉浦輝vs藤井昴○
決勝 ×比嘉暖人vs藤井昴○ 

40kg未満準決勝  ×井上大和vs酒寄珠玲葵○
決勝 ×長洲優人vs酒寄珠玲葵○

45kg未満準々決勝 ○大久保琉唯vs前田大尊×
          ×安野竜信vs林裕人○

      準決勝 ○大久保琉唯vs林裕人×
          ○下地絃斗vs佐藤勇波×
       決勝 ×下地絃人vs大久保琉唯○

50㎏未満準々決勝  ×浦田拓真vs山口瑠○
      準決勝 ×齋藤龍之介vs山口瑠○
          ○坂本嵐vs下地奏人×
      決勝  ○山口瑠vs坂本嵐×

中学生55kg未満 小林亜維二vs上田咲也
高校生57kg以下 田中大翔vs山内歩希

55kg未満準決勝  ○小林亜維二vs片原樹×
         ×桜井竜馬vs上田咲也○
     決勝  ○小林亜維二vs上田咲也×

60kg未満決勝   ○川崎海宗vs左近颯大×

◆U18 高校生

52kg以下準々決勝 ×谷川瑠太vs阿部温羽○
     準決勝 ○若原聖vs阿部温羽×
         ×酒寄珠璃vs加藤真○
      決勝  ×若原聖vs加藤真○

57kg以下準決勝  ○田中大翔vs松岡優太×
         ×横山太一郎vs山内歩希○
     決勝   ○田中大翔vs山内歩希×

高校生52kg以下 若原聖vs加藤真

《各表彰者》

MVP
山口瑠(拳心會館)中学生50kg未満

敢闘賞
宮崎遼二(日本空手道 拳竜会)小学校低学年31kg
高橋ルキヤ(日本空手道 拳竜会)小学校高学年40kg未満
藤井昴(治政館 江戸川道場)中学生37kg未満
加藤真(魁塾)高校生52kg以下

敢闘賞=左から高橋ルキヤ、宮崎遼二、加藤真、藤井昴

フェアプレー賞
中山幸亮(team AKATSUKI)小学校低学年28kg未満
大久保世璃(K-1GYM WOLF)小学校高学年31kg未満
小林亜維二(新興ムエタイ)中学校55kg未満
田中大翔(不死鳥)高校生57kg以下

フェアプレイ賞=小林亜維二、中山幸亮、大久保世璃、田中大翔

《取材戦記》

幼少期から始まる戦いと、35歳から始まるオヤジファイトやキックなど、幅広い選択肢のある時代です。

今回のイベントは、プロのリングに立つ前の、ジュニアキックの全国大会。他のアマチュアジュニア大会で、10年前から始まったWINDY SuperFightでは、那須川天心や吉成名高が活躍し、プロ入り後、十代のうちからメインイベンターとなり、ムエタイ殿堂王座や世界のトップクラスの王座を獲得するなどの活躍の裏には、幼少期からキック・ムエタイに馴染む戦いの場があったことに由来します。

WBCムエタイ日本傘下に於いては2015年から始まったU15大会、翌年はU18も開催、ここから近い将来のプロでのメインイベンターの出現が期待されます。

判定結果が下される前、とりあえず勝ちをアピールする者。勝者コールの瞬間、歓喜の雄叫びを上げる者。接戦の末、勝者となって驚く者。負けて泣いてリングを降りる者。プロでも見られる喜怒哀楽が、このジュニアたちにも表れる人間模様でした。しかしこのジュニアたちはまだ十代でのアマチュア段階。ここで挫けることなく、負けることも重要な糧として、また鍛え直されることでしょう。

表彰選手と役員集合

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]

フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩 編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』
上條英男『BOSS 一匹狼マネージャー50年の闘い』。「伝説のマネージャー」だけが知る日本の「音楽」と「芸能界」!

安倍「国益毀損」外交から進次郎・滝クリ結婚異常報道、ジャニーズ、N国、吉本まで、同時多発で権力を撃ち続ける月刊『紙の爆弾』10月号、本日発売!

 
創業50周年 タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』10月号本日発売!

巻頭は「安倍外交の『国益毀損』」(横田一)である。国益というと、国の利害あるいは国家としての損益と解釈しがちだが、国民経済という観点から発されるのが正しい。たとい一時的な他国への譲歩や妥協で、見た目には「国益」を損していると見えても、他国との国際協調によって自国の国民経済が安定・発展すれば、それは「国益」に反しているとはいえない。

これとまったく逆の意味で、安倍政権の対韓外交は、おおきく国益を損なうものと言うしかないのだ。今回、山本太郎の試算では6兆円の経済的な損失(輸出総額)が生じたという。とりわけその目的が、参院選時の政治的パフォーマンスとして、あるいは感情的に行われたものならば、まさに政治の私物化がもたらす、最悪の「国益毀損」である。

安倍外交による損失は経済だけではない。「日本の暴走が韓国GSOMIA破棄を招いた」(高嶋信欣)は、外交的な損失にもかかわらず、ひたすら反韓キャンペーンに走る安倍政権の姿を喝破する。その姿は「感情的民主主義」であると。

◆やはり小泉進次郎がキーマン

今号も政界再編の分析が誌面をうめる。
「与野党それぞれの『地殻変動』進次郎“ポスト安倍”へ、立憲・国民合流の“その先は”」(朝霞唯夫)。
「首相『アンダーコントロール』デマに加担 進次郎・滝クリ結婚マスコミ報道の異常」(浅野健一)。

このうち、浅野氏は滝川クリステルの所属事務所フォニックスに対して、質問状を送っている。小泉進次郎にも取材を申し入れたという。こういう行動力こそ、浅野氏ならではのものだ。その内容は、私的な結婚を官邸に出向いて報告した件である。事前に菅氏をつうじて連絡が行っていたのか? 安倍総理が原発事故を「アンダーコントロール」状態で東京に影響がないと公言したことについて。この件での沈黙には連帯責任が生じる。フランス警察が竹田恆和JOC会長が捜査し辞任した件、である。8月25日現在、両氏からの返答はない。

「『N国』とは何なのか『ワン・イッシュー政党』の素顔」(藤倉善郎)は、同党のネトウヨ的な素顔を暴いている。同党の「私人逮捕」の実態がすさまじい。

インタビューでは、渡辺てる子(れいわ新撰組新人立候補者・シングルマザーで元派遣労働者)を小林蓮実がレポート。このシリーズで、れいわの素顔も明らかになる。つづきが楽しみだ。

◆ジャニーズ圧力問題と吉本“反社”問題

「ジャニーズ『圧力問題』で滝沢秀明に“追い風”」は芸能取材班によるもの。ジャニーズ事務所の子会社の社長である滝沢氏に、相対的にいい環境が生まれているとのこと。吉本騒動も元の鞘に収まりそうな昨今、滝沢氏のうごきに注目だ。
その吉本騒動だが「吉本興業“反社”問題で得をしたのは誰か」(片岡亮)は、問題の本質を「反社」との付き合いとしつつも、吉本興業の6000人いるというタレントの無契約問題に誌面を割いている。フリーランスの弱い立場とともに、スポットライトを当てるべき問題だろう。

◆「元『S』(スパイ)が語る警察『偽造調書作成』の手口」の圧巻!

「元『S』(スパイ)が語る警察『偽造調書作成』の手口」(林克明)が圧巻だ。公安警察が左翼組織にS(情報協力者)工作をするのは、よく知られている。ここで紹介されているのは、生活安全課(覚せい剤や風俗産業などを管轄)の刑事によるS工作だ。おどろくべきことに、覚せい剤の取り締まりで囮捜査を行うことだ。ようするに、犯罪を教唆しているのと同じなのだ。

◆東海第二原発『いばらぎ原発県民投票』で暴かれる原発の玉砕主義

「東海第二原発を問う『いばらぎ原発県民投票』」(島村玄)では、原発の玉砕主義が暴かれている。危険性を無視した稼働延長、採算無視の再稼働である。3月に「県民投票の会」が発足し、14万筆の署名を目標に活動をつづけているという。

◆「遺骨がカネになる? 『残骨灰』をめぐる論点」

「遺骨がカネになる? 『残骨灰』をめぐる論点」(杉田研人)は、ちょっショッキングだ。違背に混ざっている金や銀、パラジウムなどを採取するのが目的で、業者が争奪しているというのだ。死んでもカネの対象にされるとは、人間の業には深いものがある。

◆「公判廷の『手錠・腰縄』は違法である」

司法では朗報だ。「日本司法の人権無視に画期的判決 公判廷の『手錠・腰縄』は違法である」(足立昌勝)。ご存知ない方のために言っておくと、裁判の時は手錠も腰縄も解かれるが、入退廷時に傍聴席から手錠・腰縄を隠してくれないことが争点だったのだ。判決が出るまで、被告といえども推定無罪である。

◆“国旗・国歌”で洗脳する文科省・新たなる臣民教育

「文科省により雁字搦め“国旗・国歌”の洗脳教育」(永野厚男)は、日の丸・君が代教育の現場強要を批判する。前号につづいて、各教科書会社の教科書を悲観検討する。駆け足になったが、議論を呼ぶ内容の記事満載の「紙の爆弾」ぜひお読みください。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

創業50周年 タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』10月号本日発売!

検証・冤罪疑われる今市事件の自白調書【下】犯行の詳細を語れなかった被告人

2005年12月に栃木県今市市(現在の日光市)で小1の女の子・吉田有希ちゃん(当時7)が失踪し、刺殺体で見つかった「今市事件」。殺人罪に問われた勝又拓哉被告(37)は、裁判で無実を訴えながら一、二審共に無期懲役判決を受け、現在は最高裁に上告中だ。

この事件は冤罪を疑う声が非常に多いが、勝又被告の自白調書の内容を改めて検証したところ、自白が嘘であることを示す形跡が新たに色々見つかった。そのことを3回に渡って報告する。今回はその最終回。

◆自白に基づいて捜索しても、凶器や軍手が見つからないのはなぜか?

今回、検証結果を報告するのは、勝又被告が「犯行後の言動」を供述した2014年6月22日付けの自白調書(作成者は宇都宮地検の阿部健一検事)だ。

調書によると、勝又被告は午前4時頃、現場の林道で有希ちゃんを刺殺し、その遺体を林道脇のヒノキ林に投げ入れると、カリーナEDでその場を離れたことになっている。そしてしばらく車を走らせてから、血のついた軍手や凶器のバタフライナイフを証拠隠滅したことになっているのだが、この場面の供述がまずおかしい。具体的に見てみよう。

《私は、車を止めると、運転席に乗ったまま、その窓から道路脇の林みたいなところに、軍手2つを一緒にポイッて投げ捨てました。私は、有希ちゃんから外したガムテープもその時、ポイッて投げ捨てました。そのガムテープに有希ちゃんの血がついていたか憶えていません。

私は、車を走り出して、2、3分くらいのところで、また車を止めると、運転席に乗ったまま、その窓から、道路脇の林みたいなところに有希ちゃんを刺すのに使ったバタフライナイフを投げ捨てました。そのナイフは、刃のところも、手で持つところも有希ちゃんの血でベットリしていました》

さて、何がおかしいか、おわかりになるだろうか?

問題は、勝又被告が証拠を捨てた場所をこのように明確に供述しているにも関わらず、これらの証拠が何一つ見つかっていないことだ。「血がついた軍手」も、「有希ちゃんから外したガムテープ」も、「有希ちゃんを刺すのに使ったバタフライナイフ」も、警察の大がかりな捜索に関わらず、見つかっていないのだ。

私は、勝又被告がこれらの証拠を捨てたことになっている「道路脇の林みたいなところ」を特定した。その場所の様子を撮影したのが後掲の写真だが、草木が広範囲に渡って伐採されており、大勢の捜査員が大々的な捜索活動を行っていたことがよくわかる。

それでも結局、勝又被告が「投げ捨てました」と供述した物が一切見つからなかったのは、なぜなのか。普通に考えれば、自白が嘘なのだろう。

草木を広範囲に伐採した捜索でも証拠は見つからなかった

◆ランドセルを細かくハサミで切ったはずだが・・・

調書によると、証拠を「道路脇の林みたいなところ」に捨てた勝又被告は、次にこんな行動をしたことになっている。

《私は、公衆便所を見つけたので、有希ちゃんの血がついた手を洗おうと思い、そこに入って、両手を洗いました。右手には、掌も甲も有希ちゃんの血がべっとりついていて、左手にも指と掌の上のほうに有希ちゃんの血がついていました》

このような調書の供述には「公衆便所」が印象的な形で登場するが、実はこの公衆便所も見つかっていない。警察捜査で、公衆便所の1つも見つけられないとは考えにくいから、この公衆便所も最初から実在しなかったのだろう。

そして調書によると、勝又被告は自宅アパートに帰宅後、《もうこれからどうしよう》と不安な日々を過ごしつつ、また新たに次のような証拠隠滅をしたことになっている。

《シャルマン(引用者注・勝又被告のアパートの名称)の部屋には、有希ちゃんのランドセルや服や靴などが置いたままでした。私は、1週間か、2週間くらいかけて、有希ちゃんのランドセルや靴などを細かくハサミで切って、いくつものビニール袋に入れ、それらをシャルマンの前のゴミ捨て場で何度かに分けて、捨てていきました。1週間か、2週間くらいかかったのは、とくにランドセルを細かく切るのに時間がかかったからです。

有希ちゃんの遺体が見つかったということは、すぐにニュースでわかりました。私は、とくにランドセルはそのようなものを私が持っていたと誰にもわからせたくありませんでした。それで、ランドセルは、直径2センチくらいに細かく切っていって、少しずつ捨てていきました》

この供述には、いくつもの疑問がある。

まず、ランドセルを細かく切る程度のことに1週間とか2週間もかかるのか。それに、勝又被告が本当に有希ちゃんを殺した犯人なら、そんな重要な証拠はもっと急いで処分するのではないか。そして、何より疑問なのが、勝又被告がランドセルを細かくハサミで切ったと供述しつつ、「ランドセルにぶら下がっていた物」や「ランドセルの中に入っていた物」を何1つ供述していないことだ。

参考までに、有希ちゃんの母親の供述によると、ランドセルの脇には、(1)青色で、5センチくらいの防犯ベル、(2)ミッキーマウスのキーホルダー、(3)リラックマの小さい人形、(4)白色の毛がついた猫のキーホルダー――の4つがぶら下がっていたという。また、ランドセルの中には、小1の国語、算数、生活の教科書とそれぞれのノート、ブリキ製の筆箱が入っていたとのことだった。

勝又被告がランドセルを切り刻んで処分したように供述しながら、調書中にこれらの物に関する言及が一切ないのは、あまりに不自然だ。

有希ちゃんの母親はランドセルについて、《フタをあけたところに、有希の名前、電話番号、保護者として夫の名前が書いてありました》とも供述している。勝又被告が本当にこの事件の犯人で、ランドセルをハサミで細かく切って処分していたなら、この事実が印象に残っていないはずがない。調書にこの事実が書かれていないのは、勝又被告がこのランドセルを見たことがなかったからだろう。

ハサミで細かく切ったランドセルはアパートの前のゴミ捨て場に捨てたというが・・・

◆ポスターの白いセダンは見ていても、ランドセルは見ていなかった?

警察のポスターには、ランドセルの特徴も色々記載されていたが・・・

さらに調書を読み進めると、また不可解な供述が出てくる。以下の部分だ。

《その後、刑事が5年くらい私のところに来なかったので、もう捕まらないのではないかと思いました。でも、コンビニとか交番前とか、町中のあちこちに、有希ちゃんを殺した犯人の情報提供を求めるポスターが貼られていたのです。それを見るたびに怖い思いをしていました。

怖いので、そのポスターはあまり見ないようにしていましたが、不審車両として、白いセダンの車の絵が載っていました。その白いセダン車は、左後ろがへこんだように描いてあり、私のカリーナEDの左後ろの塗装が剥がれているのとよく似た特徴があったので、自分の車がばれているのではないかと思い、怖かったです》

警察の情報提供を求めるポスターには、たしかに白いセダン車が「不審車両」として紹介されていたが、それだけでない。後ろにポスターの実物を掲載したが、有希ちゃんのランドセルの特徴も色々記載されているのがすぐ目に飛び込んでくるはずだ。勝又被告が本当に犯人で、このポスターを見るたびに怖い思いをしていたなら、ランドセルの特徴を供述していないのはなおさら変である。

この調書の最後では、勝又被告は、《本当のことを話して、凄い楽になりました》と供述し、《もう決心しました。有希ちゃんを殺した罪をちゃんと償いたいと思います》と締めくくっている。しかし、自白調書を検証すれば、勝又被告が取り調べで本当のことなど何も話していなかったことは明らかだ。

それは、なぜなのか。私は、勝又被告がそもそも今市事件の犯人ではないから、犯人が何をしたかを知る由もなく、取り調べで犯行の詳細を語れなかったのだろうと思っている。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)。『さよならはいいません ―寝屋川中1男女殺害事件犯人 死刑確定に寄せて―』(山田浩二=著/片岡健=編/KATAOKA 2019年6月 Kindle版)。

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「週刊ポスト」謝罪文 韓国人の半分は憤怒調節困難の精神病だからと「断韓」煽る

まずは謝罪文(「週刊ポスト9月13日号掲載の特集について」「2019.09.02 19:00 NEWポストセブン)からご紹介しよう。

週刊ポスト9月13日号掲載の特集『韓国なんて要らない!』は、混迷する日韓関係について様々な観点からシミュレーションしたものですが、多くのご意見、ご批判をいただきました。なかでも、『怒りを抑えられない「韓国人という病理」』記事に関しては、韓国で発表・報道された論文を基にしたものとはいえ、誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました。お詫びするとともに、他のご意見と合わせ、真摯に受け止めて参ります。(『週刊ポスト』編集部)

広告で煽った、特集のタイトルは「『嫌韓』ではなく『断韓』だ 厄介な隣人にサヨウナラ 韓国なんて要らない」である。そして記事のサブ見出しには「禁断のシミュレーション」「日韓両国のメリット・デメリットを徹底調査」とある。

つまり国交を断ったさいに顕われるメリットとデメリットを、さまざまな面から調査するというものだ。

具体的には「人や物の行き来が多い国同士では、経済的、文化的な損失も生まれることになる。ただ、そうした損失やリスクは、どれほどのものなのか。誠意を持って韓国と付き合おうとする際につきまとう膨大なコストと、ここで一度、冷静に天秤に掛けて比べてみたい。」(本文リードより)というものだ。

『怒りを抑えられない「韓国人という病理」』と題した記事がつづく。内容は韓国人研究者の論文を紹介しつつ、それに無批判に乗っかることで韓国人は精神病であると断じている。これに対して、小学館で執筆する作家や評論家たちが「断筆宣言」を突きつけることで、上掲の「謝罪文」となったのである。

作家たちの批判を掲げておこう。

「わたし、深沢潮は、週刊ポストにて、作家たちのA to Zという、作家仲間6人でリレーエッセイを執筆しています。しかしながら、このたびの記事が差別扇動であることが見過ごせず、リレーエッセイをお休みすることにしました。すでに原稿を渡してある分については掲載されると思いますが、以降は、深沢潮は、抜けさせていただきます。ほかの執筆陣の皆様には了解を得ています」(深沢潮)。深沢氏は両親が在日韓国人である。

「ポスト見本誌見て唖然とした。持ち回りとはいえ連載持ってるのが恥ずかしい。表紙や新聞広告に酷い見出し踊らせてるけど、日本には韓国人や韓国にルーツある人もいっぱいいるんだよ。子供だっているんだよ。中吊り広告やコンビニでこれ見たらどういう気持ちになると思ってんだよ? ふざけんなよ」「今週の記事は精神疾患当事者への偏見を煽るようなものもあってまじクソオブクソ。てかこれもう立派なヘイトスピーチ、差別扇動だろ」(葉真中顕)。

評論家の内田樹氏は「この雑誌に自分の名前を掲げて文章を寄せた人は、この雑誌が目指す未来の実現に賛同しているとみなされることを覚悟した方がいいです」「というわけで僕は今後小学館の仕事はしないことにしました」とツィートに投稿している。

在日韓国人である作家の柳美里氏も「『週刊ポスト』の『10人に一人は要治療 怒りを抑制できない 韓国人という病理』という見出しは、人種差別と憎悪を煽るヘイトスピーチです。 韓国籍を有するわたし、わたしの家族、親族、10人います。 10人のうち一人は、治療が必要?」「日本で暮らす韓国・朝鮮籍の子どもたち、日本国籍を有しているが朝鮮半島にルーツを持つ人たちが、この新聞広告を目にして何を感じるか、想像してみなかったのだろうか? 想像出来ても、少数だから売れ行きには響かないと考えたのか? 売れれば、いいのか、何をしても」と、怒りを隠さない。

しかし、問題は単なるヘイトではない。出版社が版元の週刊誌とはいえ、報道機関が日韓両国の断行を煽っているのだ。「WiLL」や「正論」など右派オピニオン誌がやるのならまだしも、報道性の高い週刊誌がこれをやったところに問題がある。「断韓」とはすなわち、韓国との国家的な関係を断つことにほかならない。もっと言えば、断行は戦争の前提であり、戦争を煽っているということになるのだ。報道機関が間接的とはいえ、戦争を煽ってしまったのだ。

メディアは政治権力を批判し、言論をもって世論を喚起するところに成立根拠がある。その報道の根本理念を忘れて、安倍政権の偏狭な外交政策に迎合し、政治権力の補完物に成り下がりつつある。これはひとり「週刊ポスト」だけではない。何でもいいから、売れればよいという傾向が強まっている。紙媒体の危機が背景にある。

◆紙媒体の低迷が生む、偏狭なポピュリズム

昨年、LGBTをヘイトクライムした「新潮45」が廃刊になった。かつては中瀬ゆかり編集長のもと、中年・壮年の男性層をターゲットに「読ませる雑誌」「納得させる雑誌」として、一世を風靡したこともあった。わたしも愛読者のひとりだった。ところが、中高年男性へのメッセージのテーマを見失って以降は、極右的な内容なら売れるとばかりに、無内容に右旋回してしまったのだ。その挙句が、「正論」や「諸君」(廃刊)の右派論壇誌に連なる極右的な中身になってしまった。それこれも、紙媒体が売れないからである。

週刊誌では“文春砲”と称される「週刊文春」が、往時の70万部から30万部に低減、「週刊新潮」も横並びだという。「週刊ポスト」とともに“ヘアヌード”で部数を競い合ってきた「週刊現代」は、いまや老人雑誌とでもいうべき惨状を呈している。最新号の目次を引いてみよう。

大人気特集第5弾  病院で死ぬのは、こんなに不幸/大事な遺産を親戚に横取りされない遺言書の「書き方」「書かせ方」/ちゃんとした外国人に聞いた 日本と韓国「どっちが正しい、どっちがまとも?」/消費税10%であなたと日本経済に起きること/飲まなきゃよかった、と後悔することになる薬/死んでからわかる、あなたの値打ち/井上陽水『傘がない』を、英語で何と訳しますか/お元気ですか?田村正和さん 財津一郎さんほか/尾野真千子 撮り下ろし
(8月30日号)

とほほ、である。部数減を「おとなの週刊現代」発行で糊塗するありさまだ。数年前に、やはり「週刊ポスト」とともに「死ぬまでセックス特集」を競い合った勢いもすでに褪せ、死に方や遺書の書き方が特集のメインなのである。ライバル誌だけに「週刊ポスト」も似たようなものだ。

週刊ポスト9月13日号
菅が二階と麻生を蹴落とした!「アベノカジノ」3兆円利権争奪戦
[潜入ルポ]アマゾン絶望倉庫/手術は成功したのに体調も気分もすぐれない…… それ、「術後うつ」「退院うつ」かも

9月6日号
死に至る「しこり」と放っておいて大丈夫な「しこり」の見分け方・あなたも老親も「ボケる前」に済ませておく手続き(23)

8月30日号
“老人ホームGメン”が教える「優れた特養[特別養護老人ホーム]」の選び方&入り方

菅官房長官のカジノ暗躍を暴露するなど、骨っぽいところも見せてはいるが、基本的に老人雑誌の記事である。

この「とほほ」状態の誌面を活性化するには、嫌韓から反韓へ、そして断韓へと最後の一線を踏み越えたのが、まさに今号の「謝罪」なのである。紙媒体への広告出稿が激減し、部数も低減するという危機的な状態のなかで、しかしだからこそ政治権力を批判する骨太なオピニオンを送り出す。かつて総合雑誌と週刊誌がメディアの王者だったことを思い起こし、原点に立ち返ってもらいたいものだ。

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)
著述業、雑誌編集者。近著に『ガンになりにくい食生活』(鹿砦社ライブラリー)『男組の時代――番長たちが元気だった季節』(明月堂書店)など。

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学生や学校を食い物にしながら狼藉を改めないブラック企業、リクルートの犯罪

〈就職活動中の学生の内定辞退率予測データを企業に販売した問題で、謝罪するリクルートキャリアの小林大三社長(左)=26日夜、東京都千代田区、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京)の小林大三社長は26日夜、就職活動中の学生の内定辞退率を予測したデータを企業に販売した問題に関して都内で記者会見し、「学生や企業など多くの方々にご迷惑をお掛けし、申し訳ない」と謝罪した。同社はリクナビを利用する学生のうち、7万4878人のデータを使って内定辞退率を算出。7983人については本人の同意を得ずに外部に提供した。〉リクナビ問題、社長が謝罪=内定辞退率を分析-データの合否判定利用なし(2019年08月26日付け時事通信

どこまで大学生や受験生を、食い物にすれば気が済むのだろうか。だが、この会社には設立時から、社会的常識、順法意識、人権感覚などはなかった(なにもリクルートに限ったことではない。日本の「会社」は「社会」を逆にした固有名詞であり、多くの会社で「会社の玄関をくぐれば『日本国憲法』など通用しない。このフレーズと、本当は無視していたはいけなかった悪癖がが定着して、どのくらい経つだろう」)。

リクルートの商売は悪質だ。何回かに分けてこの通信で報告することも不可能ではないが、拙著『大暗黒時代の大学』でリクルートが、大学生をどのように食い物にしているかは、詳述してある。興味をお持ちの方はお読みいただければ幸いだ。

人の人生が「商品」になる。ん?

そういう商売をリクルート(だけではなく同じような業種の企業)は、儲けにしている。「進学情報」、つまり大学や高校の受験倍率や、志願者数、偏差値を公表している分には問題はない(しかし、企業にとっての「利益」も少ない)。そこで、リクルートが手を付けたのが、大学入試前から個々の受験生の個人情報を収集し、それを就職活動にも利用する商法だった。

それだけでも、どうして公正取引委員会が介入しないのか、と不思議であるが、このほど明らかになったのは、「内定辞退率予測データ」の企業への、有償提供(販売)である。

どうして「内定辞退率予想」(実際には内定辞退者名も含まれているだろう)を、リクルートは掌握し、企業に「販売」できたのか。それは「リクルートが就職活動にかかわる学生のほとんどの情報をもって」いなければ不可能なことであろう。どの情報をリクルートはガッチリ確保しているから、こういった「人権無視」の商売が可能になるのだ。

けれども、こういった「個人情報」のやり取りは、わたしたちの知らないところで、既に大々的に繰り広げられている。検索エンジンで何かを検索すると、それに関した広告がしつこいほど表示される経験をお持ちの読者は少なくないであろう。うっかりマイクロソフトやソフトバンクなどに、メールアドレスや住所と一緒にあなたの情報を提供していたら、もうあなたの購買嗜好は、真っ裸にされている、と考えた方がいい。

AIという名の人格を持たない、機械は、人間に近い違法行為を行っても、「人格」がないから、人間のように逮捕されたり刑事罰を食らうことはない。あくまで「機械」なのだから。でも人間よりよほど情報処理能力が優秀で、判断までするこの「人工物」は科学技術の「賜物」のようにチヤホヤされているけれども、AIが犯した罪を被るのは、結局「製造物責任」あるいは「使用責任」のある人間であることを、AI賞賛者の皆さんおわかりであろうか。

AIなどと構えなくても、エアコンの調整機能や、冷蔵庫の節電機能。自動車の電気系統や、目の前のパソコンやスマートフォンなど、集積回路のお化けのような能力に、日々わたしたちの生活は依存している。嫌ならどこか電気の通っていない場所で、生活はじめるほかない。そういう現実は受け入れざるを得ない、にしても「内定辞退率予想」を企業に販売するのは、人間の思い付きだろう。

いつまでたっても、本質的には学生や学校を食い物にしながら、狼藉を改めないリクルートという企業と、その疑似企業にはあきれ返るしかない。騙されるな!受験生、就職活動に直面している諸君!

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)
月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”