〈就職活動中の学生の内定辞退率予測データを企業に販売した問題で、謝罪するリクルートキャリアの小林大三社長(左)=26日夜、東京都千代田区、就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリア(東京)の小林大三社長は26日夜、就職活動中の学生の内定辞退率を予測したデータを企業に販売した問題に関して都内で記者会見し、「学生や企業など多くの方々にご迷惑をお掛けし、申し訳ない」と謝罪した。同社はリクナビを利用する学生のうち、7万4878人のデータを使って内定辞退率を算出。7983人については本人の同意を得ずに外部に提供した。〉リクナビ問題、社長が謝罪=内定辞退率を分析-データの合否判定利用なし(2019年08月26日付け時事通信

どこまで大学生や受験生を、食い物にすれば気が済むのだろうか。だが、この会社には設立時から、社会的常識、順法意識、人権感覚などはなかった(なにもリクルートに限ったことではない。日本の「会社」は「社会」を逆にした固有名詞であり、多くの会社で「会社の玄関をくぐれば『日本国憲法』など通用しない。このフレーズと、本当は無視していたはいけなかった悪癖がが定着して、どのくらい経つだろう」)。

リクルートの商売は悪質だ。何回かに分けてこの通信で報告することも不可能ではないが、拙著『大暗黒時代の大学』でリクルートが、大学生をどのように食い物にしているかは、詳述してある。興味をお持ちの方はお読みいただければ幸いだ。

人の人生が「商品」になる。ん?

そういう商売をリクルート(だけではなく同じような業種の企業)は、儲けにしている。「進学情報」、つまり大学や高校の受験倍率や、志願者数、偏差値を公表している分には問題はない(しかし、企業にとっての「利益」も少ない)。そこで、リクルートが手を付けたのが、大学入試前から個々の受験生の個人情報を収集し、それを就職活動にも利用する商法だった。

それだけでも、どうして公正取引委員会が介入しないのか、と不思議であるが、このほど明らかになったのは、「内定辞退率予測データ」の企業への、有償提供(販売)である。

どうして「内定辞退率予想」(実際には内定辞退者名も含まれているだろう)を、リクルートは掌握し、企業に「販売」できたのか。それは「リクルートが就職活動にかかわる学生のほとんどの情報をもって」いなければ不可能なことであろう。どの情報をリクルートはガッチリ確保しているから、こういった「人権無視」の商売が可能になるのだ。

けれども、こういった「個人情報」のやり取りは、わたしたちの知らないところで、既に大々的に繰り広げられている。検索エンジンで何かを検索すると、それに関した広告がしつこいほど表示される経験をお持ちの読者は少なくないであろう。うっかりマイクロソフトやソフトバンクなどに、メールアドレスや住所と一緒にあなたの情報を提供していたら、もうあなたの購買嗜好は、真っ裸にされている、と考えた方がいい。

AIという名の人格を持たない、機械は、人間に近い違法行為を行っても、「人格」がないから、人間のように逮捕されたり刑事罰を食らうことはない。あくまで「機械」なのだから。でも人間よりよほど情報処理能力が優秀で、判断までするこの「人工物」は科学技術の「賜物」のようにチヤホヤされているけれども、AIが犯した罪を被るのは、結局「製造物責任」あるいは「使用責任」のある人間であることを、AI賞賛者の皆さんおわかりであろうか。

AIなどと構えなくても、エアコンの調整機能や、冷蔵庫の節電機能。自動車の電気系統や、目の前のパソコンやスマートフォンなど、集積回路のお化けのような能力に、日々わたしたちの生活は依存している。嫌ならどこか電気の通っていない場所で、生活はじめるほかない。そういう現実は受け入れざるを得ない、にしても「内定辞退率予想」を企業に販売するのは、人間の思い付きだろう。

いつまでたっても、本質的には学生や学校を食い物にしながら、狼藉を改めないリクルートという企業と、その疑似企業にはあきれ返るしかない。騙されるな!受験生、就職活動に直面している諸君!

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY 007)

月刊『紙の爆弾』9月号「れいわ躍進」で始まった“次の展開”