《BOOK REVIEW》尾﨑美代子著『日本の冤罪』── 伝えようとする思いの強さに感銘を受ける 大阪・西成の居酒屋ママの冤罪ルポタージュ 評者=片岡 健

報道や執筆が本職ではないのに、伝えようとする思いの強さが職業ジャーナリストを上回るような文章を書く人は少なくない。『日本の冤罪』の著者である尾﨑美代子さんもその一人だ。

 
尾﨑美代子著『日本の冤罪』

尾﨑さんは普段、大阪・西成でフリースペースを兼ねた居酒屋『集い処はな』を営みつつ、日雇い労働者や失業者の支援、脱原発活動に取り組んでいる。私が最初に会ったのは和歌山カレー事件関係の集まりの場だったが、気さくな感じで声をかけてもらい、いつのまにか親しくなった。この間、尾﨑さんは当欄や月刊誌『紙の爆弾』で労働者の人権問題や脱原発、冤罪事件に関する記事を書くようになったが、私はいつも尾﨑さんの記事に感銘を受けていた。伝えようとする思いの強さが常に溢れているからだ。

本書は、そんな尾﨑さんが独自に取材、執筆した16の冤罪事件に関する計18本の記事をもとに編まれたものだ。伝えようとする思いの強さは本書でも健在で、それはたとえば次のような部分に現れている。

湖東記念病院事件の項

滋賀県警と山本刑事は刑事責任をきちんととり、美香さんに謝罪せよ。検察、裁判所も目を覚ませ。
 そして、一日も早く西山美香さんに無罪判決を!(45ページ)

日野町事件の項

裁判所には、阪原さんのこの悲痛な訴えが届かなかったのか。一日でも早く阪原さんと遺族に、再審無罪を言い渡せ!(107ページ)

名張毒ぶどう酒事件の項

人の心を持った鹿野裁判長には、(引用者注:故・奥西勝さんの妹で、再審請求人の)岡美代子さんに一刻も早く再審無罪を言い渡していただきたい(251ページ)

一読しておわかりの通り、何の迷いもなく取材対象である冤罪犠牲者やその関係者の思いを共有し、真っすぐな言葉で雪冤の実現を訴えている。だからこそ、この冤罪を何とかしたいという尾﨑さんの本気の思いが読み手に届く。本当は中立ではないのに、損得勘定や保身から中立を装ったような記事ばかり書いている職業ジャーナリストでは絶対書けない文章だ。

本書の冒頭には、先日亡くなった布川事件の冤罪犠牲者・桜井昌司さんとの対談をまとめた記事も収録されている。これを読むと、がんに冒されながら、亡くなる直前まで冤罪仲間たちを救おうと全国各地を飛び回っていた桜井さんが尾崎さんに心を開いて言葉を発しているのがわかる。それも尾崎さんの冤罪事件や冤罪犠牲者への向き合い方が桜井さんに信頼されているからだろう。

報道や執筆を職業としている人が自分の姿勢を見直すために読んでみると良い本だと思う。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。著作に『もう一つの重罪 桶川ストーカー殺人事件「実行犯」告白手記』、『絶望の牢獄から無実を叫ぶ─冤罪死刑囚八人の書画集─』など。

[著者略歴]尾﨑美代子(おざき・みよこ)1958年、新潟県生まれ。中央大学中退。大学生時代の80年代、山谷(東京)の日雇労働者、野宿者問題の支援に関わる。90年代初頭大阪に移住して以降は、同じく日雇労働者の町・釜ヶ崎に住みながら、フリースペースを兼ねた飲食店「集い処はな」を経営。釜ヶ崎で知り合った仲間たちと、3・11以後福島支援、反原発運動を始め、講演会、上映会、支援ライブなどを続ける。その傍ら、かつてより関心のあった冤罪事件の取材・執筆活動を続ける。


『紙の爆弾』2023年12月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

本誌でこの間、重点的に採り上げてきたコロナワクチンの問題。前号(11月号)では立憲民主党・原口一博衆院議員が、昨年の自身のがん発症・公表と、ワクチンの関係について語っています。今月号ではさらに踏み込み、いわゆる「ワクチン後遺症」についてレポートしました。9月に「XBB1.5対応」として7回目接種が始まっていますが、追加接種が推進されているのは日本だけ、という事実にまず、目を向けなければなりません。

それでも、政治の世界を含め、ワクチンの危険性に関する言及は、だんだんと増えているように見えます。“コロナブーム”も一時期と比較すれば落ち着きつつある現在、わざわざ接種を受ける人は減るのではと思っていたのですが、「接種会場の予約がとれない」との報道やSNSコメントが相次ぎました。しかし、7回目接種人口は10月末時点で人口の7%ほど。今月号記事では、「接種希望者殺到の報道に惑わされるべきではない」と指摘しています。そうしたネットを含めた情報・報道のあり方についても、11月号で原口議員が元総務相としての経験をもとに警鐘を鳴らしています。近年、インターネット上で“フェイク”が横行しているとして、総務省が音頭をとって「ファクトチェック」を推進しています。しかし、そのやり方を見れば、プラットフォームによるユーザーへの規制と監視。メディアが自己検証するのとは異なる「検閲」にほかならないと言わざるをえません。

また今月号では、水稲新品種として秋田県が2025年の全面切り替えを発表した「あきたこまちR」についてレポートしました。「あきたこまちR」は、放射線を当てて一部の遺伝子を破壊した「コシヒカリ環1号」を「あきたこまち」と交配することで作った新品種。自民党がその安全性をPRするものの、これを常食することに問題はないのか、本当に日本の農業に寄与するのか、多くの疑問が投げかけられています。秋田県がこの夏に行なったパブリックコメントには過去最多の6000件もの意見が寄せられ、計画の延期と見直しを求める署名8038筆が県に提出されました。しかも、“風評被害”を避けるとして、切り替え後も販売されるにあたり、表示義務はありません。本誌レポートでは、「あきたこまちR」の実態と、予想される事態に迫りました。ぜひお読みいただければと思います。

増税しながら減税、増税しながら給付金の岸田政権。中抜き企業をまた儲けさせるのはもちろん、かかる手間も国民にとって大きな負担であり、決して見逃せるものではありません。そして、その間にも巨額を投じた軍拡は着実に進みます。ただの“増税メガネ”ではないということです。そうして市民が自らの生活を守るのもままならない状況で、2027年までに航空自衛隊が「航空宇宙自衛隊」に改称することを発表しました。「宇宙作戦群」なる防衛省のホームページがまさに示すように胡散臭いことこの上なく、「宇宙」が軍需のネタとなっているのは事実のようです。一方、「地上」の日本では、防衛医大が「戦傷医療センター」新設を8月末に公表(こちらも先月号参照)。今月号では軍事要塞化する馬毛島の模様をレポートしていますが、もはや政府は「戦争準備」を隠さなくなった感があります。

ほか、12月号では旧ジャニーズ“NGリスト”でも話題となった本間龍氏が2030年札幌冬季五輪「招致断念」の背景事情を解説。イスラエルと“国際社会”の「罪」、超円安を克服する“秘策”など、盛りだくさんの内容をお届けします。全国書店で発売中です。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年12月号

『紙の爆弾』2023年12月号

放射線育種米交配種「あきたこまちR」が開く食と農業の悲劇的な最終幕
五輪も万博も日本ですべきではない 札幌五輪招致断念という「正しい判断」
患者が語る“症状”と“治療”「コロナワクチン後遺症」の実態
「基地反対」で再選の朝日新聞出身市長が容認
岸田大軍拡の最前線 馬毛島基地建設の現場
「細田博之会見」は“ジャニーズ以下”“増税メガネ”岸田政権のヒサンな内幕
「参院徳島・高知」「衆院長崎四区」衆参2補選が象徴する岸田政権の凋落
イスラエルの「罪」を見逃してきた米国による「国際秩序」
“NGリスト”は本質ではない ジャニーズ問題の背後にある芸能界の“闇”
「航空宇宙自衛隊」誕生へ 宇宙軍拡競争に巻き込まれた日本
「対米隷属」から「日本自立」への活路 超円安を克服する“秘策”
これは宗教紛争ではない イスラエルが潰した「パレスチナ和平」
政治家の不正蓄財が見逃される理由「政治献金」をめぐる法律の抜け穴
新文部科学事務次官の天下り斡旋「停職」歴
旧統一教会解散命令請求で揺らぐ創価学会
女こどもを食いものにする自民党の女衒政治を嗤う
シリーズ 日本の冤罪44 元講談社「妻殺害」事件

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵


尾﨑美代子著『日本の冤罪』刊行にあたって 鹿砦社代表 松岡利康

10月も半ばを過ぎ、日ごとに肌寒くなってまいりました。

 
本日発売 尾﨑美代子著『日本の冤罪』

さて、このたび小社は『日本の冤罪』を刊行しました。著者の尾﨑美代子さんは、労働者の町・大阪釜ヶ崎に根づき、小さな食堂を営みながら、かねてからの自身の追求課題として冤罪事件の取材を続け、月刊『紙の爆弾』を舞台に継続してレポートを発表してきました。それらに補強取材を行い最近の経過を加え一冊の単行本『日本の冤罪』としてまとめ上梓されました。「日本の冤罪」の連載は毎号『紙の爆弾』の基幹企画として複数のライターによって現在も継続しています。それだけ世の中に冤罪が多いということですが……。

尾﨑さんのレポートは、連載開始以来好評で多くの読者から書籍化することが望まれてきました。特に本書の完成を待たずに8月に亡くなられた「布川事件」の冤罪被害者・桜井昌司さんはそうで、本書での対談は、まさに〝遺言〟ともいえる貴重なものです。

そのように本書は、机上で教条主義的スコラ的に「事件」を組み立てるのではなく、法律の専門家でも学者でもなく、日々労働者と共に在る一人の市民として時間を見つけては四方八方冤罪被害者の元を訪ね、冤罪被害者と家族・関係者に寄り添って取材を続け、生きた記録として書き綴ってあります。「冤罪」問題を扱った類書は少なからずありますが、その点が類書と根本的に異なるところです。

何卒、本書を紐解いていただき、知人や友人、メディア関係者の方々に薦められご紹介の労を執っていただきたくお願い申し上げます。

株式会社 鹿砦社
代表取締役
松岡利康

日本の冤罪
尾﨑美代子=著
四六判 256ページ カバー装 定価1760円(税込み)

「平凡な生活を送っている市民が、いつ、警察に連行され、無実の罪を科せられるかわからない。
今の日本に住む私たちは、実はそういう社会に生きている。」
(井戸謙一/弁護士・元裁判官)

労働者の町、大阪・釜ヶ崎に根づき小さな居酒屋を営みながら取り組んだ、
生きた冤罪事件のレポート!

机上で教条主義的に「事件」を組み立てるのではなく、
冤罪事件の現場に駆け付け、冤罪被害者や家族に寄り添い、
月刊『紙の爆弾』を舞台に長年地道に追究してきた、
数々の冤罪事件の〈中間総括〉!

8月に亡くなった「布川事件」の冤罪被害者・桜井昌司さんが死の直前に語った
貴重な〈遺言〉ともいうべき対談も収める!

【主な内容】
井戸謙一(弁護士/元裁判官) 弱者に寄り添い、底辺の実相を伝える
《対談》桜井昌司×尾﨑美代子 「布川事件」冤罪被害者と語る冤罪裁判のこれから

[採り上げた事件]
湖東記念病院事件/東住吉事件/布川事件/日野町事件/
泉大津コンビニ窃盗事件/長生園不明金事件/神戸質店事件/姫路花田郵便局強盗事件/
滋賀バラバラ殺人事件/鈴鹿殺人事件/築地公妨でっち上げ事件/京都俳優放火殺人事件/
京都高校教師痴漢事件/東金女児殺害事件/高知白バイ事件/名張毒ぶどう酒事件

[著者略歴]尾﨑美代子(おざき・みよこ)1958年、新潟県生まれ。中央大学中退。大学生時代の80年代、山谷(東京)の日雇労働者、野宿者問題の支援に関わる。90年代初頭大阪に移住して以降は、同じく日雇労働者の町・釜ヶ崎に住みながら、フリースペースを兼ねた飲食店「集い処はな」を経営。釜ヶ崎で知り合った仲間たちと、3・11以後福島支援、反原発運動を始め、講演会、上映会、支援ライブなどを続ける。その傍ら、かつてより関心のあった冤罪事件の取材・執筆活動を続ける。


《BOOK REVIEW》尾﨑美代子『日本の冤罪』── 大阪・西成の飲食店「はな」ママが市井の視点から解き明かす16の冤罪事件 評者=田所敏夫

◆冤罪はきょうも続いている

 
尾﨑美代子『日本の冤罪』(鹿砦社)10月23日発売

警察に「逮捕する!」といわれ、手錠をかけられる。最近あるのかどうか知らないが「刑事ドラマ」は二世代ほど前には人気番組だった。しかしあの番組群は、警察権力に迎合し過ぎた。やりたい放題な拳銃の発砲や警察権力の過剰な暴力を英雄化・美化して視聴者の感覚を鈍化させる作用を担っていた。

そういったエンターテインメントで描かれる、警察の正義性や、苦闘、あるいはヒューマンドラマの裏面に「作り物」ではない現実として、冤罪は悲しい旋律を奏でながら現在進行形、きょうも続いている。

冤罪とは事件・事故の加害者ではないのに、まずは警察に加害者と決めつけられ、ほどなく、被疑者と呼称を変えられ(かつては「被疑者」とも呼ばれず氏名呼び捨てであった)、警察発表に従いマスコミが「こいつが犯人だ」、「こいつは劣悪非道な人間だ」と散々喧伝され、最悪の場合、無期懲役や死刑が言い渡された犠牲者を示す単語である。そこには司法の暴走・暴虐・組織防衛の力学が必ず働く。

◆著者は大阪市西成区の飲食店「はな」のママ

『日本の冤罪』著者の尾﨑美代子さんは、大阪市西成区に飲食店「はな」を経営する女性だ。西成といえば「釜ヶ崎」。「釜ヶ崎」はご存知の通り、日雇労働者が多く暮らす地域だ。著者は「どこにそんなエネルギーと発想が蓄えられているのか」と驚嘆させられる情熱の持ち主である。その情熱が『日本の冤罪』で二つ結実した。

一つ目は布川事件冤罪犠牲者桜井晶司さん(本年8月23日にご逝去)と著者の対談だ。この対談はおそらく桜井さんが遺された最後のまとまった意見表明だろう。二つ目は冤罪事件解決、原発訴訟や福島原発事故被害者救済の裁判など広範な分野で最先頭に立ち、闘う井戸謙一弁護士からの寄稿「弱者に寄り添い 底辺の実相を伝える」である。桜井さん井戸弁護士お二人の力添えが『日本の冤罪』の価値をより高めていることは間違いない。

本書に推薦文を寄稿してくれた井戸謙一弁護士(左)と著者

◆16の事件の冤罪犠牲者たち

『日本の冤罪』には16の事件、18本の取材報告が収録されている。殺人事件から1万円の窃盗そして痴漢事件まで。「事件の軽重にかかわらず幅広く冤罪は作られる」ことを知るために、本書が有益であることを著者は意識したであろうか。さらにこれまで一度として報道されたことのない「京都俳優放火殺人事件」まで取材・執筆の幅が広がっていることが数ある冤罪関連書籍の中で本書を際立たせるのだ。読者は驚かれるかもしれないがと「京都俳優放火殺人事件」の冤罪犠牲者は現在も獄中に囚われたままだ。

著者の冤罪事件取材の方法は独特だ。対談した桜井さんや他の冤罪犠牲者から「こんな事件がある、冤罪だ」と紹介を受け、当該事件の冤罪犠牲者や、弁護士、関係者に取材に赴く(冤罪犠牲者が獄中に居れば手紙を書く)。多くの場合取材のきっかけに冤罪犠牲者の紹介や、要請があり、それが次の事件取材へと繋がる。

『日本の冤罪』筆者の主たる生業は執筆ではない。著者は20年続く飲食店「はな」の店主である。つまり著者は少なくとも「二足の草鞋」を履いているのであるが、それだけではない。「はな」はしばしば勉強会、講演、音楽ライブの会場として地域だけではなく全国から人が集まる場所として機能する。仕切るのはいつも著者、でも必ずたくさんの人が手伝ってくれるという。

冤罪の犯罪性を市井の視点から解き明かし、その射程を未だに誰もが触れぬ領域にまで広げていった。本書のエッセンスと価値はそこにある。

◆取材者の洞察力

 
布川事件冤罪犠牲者桜井晶司さん(本年8月23日にご逝去)。本書収録の対談が桜井さんによる生前最後の意見表明となった

ひとつだけ『日本の冤罪』手に取る未来の読者に警告しておこう。冤罪取材は事実の確認作業が第一歩だが、その先にどんな恣意が隠されていたのかを洞察するのは取材者の洞察力に委ねられる。

さらには事件を文章化するにあたってはときに、凄惨な事件を描写しなければ全様を説明し尽くせない。冤罪を解き明かすには取材者が事件の全体像に踏み込む勇気が求められるわけだ。著者はどんな事件であっても全容を納得することなしには、文章を書いていない。冤罪の犯罪性同様、事件のむごたらしさも描かれていることを心して、読者は本書を手にしてほしい。

なお、著者は故桜井さんに「尾﨑さん、あの事件も書いてよ」と言われている冤罪事件をかなりの数抱えている。その取材が終わるまでは、桜井さんにお別れはできないという。ということは、冤罪事件がある限り、著者が桜井さんに「さようなら」を言える日は来ないのかもしれない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

[著者略歴]尾﨑美代子(おざき・みよこ)1958年、新潟県生まれ。中央大学中退。大学生時代の80年代、山谷(東京)の日雇労働者、野宿者問題の支援に関わる。90年代初頭大阪に移住して以降は、同じく日雇労働者の町・釜ヶ崎に住みながら、フリースペースを兼ねた飲食店「集い処はな」を経営。釜ヶ崎で知り合った仲間たちと、3・11以後福島支援、反原発運動を始め、講演会、上映会、支援ライブなどを続ける。その傍ら、かつてより関心のあった冤罪事件の取材・執筆活動を続ける。


『紙の爆弾』2023年11月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

 
本日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年11月号

8月24日に始まった、東京電力福島第一原発から発生する核汚染水の海洋放出。1回目が9月11日に終了。第2回が10月5日に始まり、2023年度は4回に分けて予定されています。9月24日付の福島民報は、「廃炉作業に必要な施設整備のためにタンクを撤去する方針だが、タンクの解体で出る廃棄物の減容化や置き場の見通しは立っていない」と報道。政府はこれまで汚染水海洋放出について、「廃炉作業を安全に進めるためには、新しい施設を建設する場所が必要となり、タンクを減らす必要がある」と説明してきました。しかし、そのタンクの処分方法が決まっていないということは、廃炉のプロセスが未定であり、少なくとも現在行なわれている海洋放出は、廃炉にまったく結びついていないということです。本誌9月号では小出裕章・元京都大学原子炉実験所助教が、海洋放出の真の目的を「トリチウムが放出できないとなれば、核の再処理ができなくなるため」と喝破しました。そのとおり、日本政府はとにかく海に捨てたいだけです。

市民団体が9月1日に、海洋放出を強行した岸田首相、西村康稔経済産業相、小早川智明東電社長ら5人を刑事告訴したほか、「ALPS処理汚染水差止弁護団」(共同代表・広田次男、河合弘之、海渡雄一各弁護士)が9月8日、福島地裁で海洋放出を差し止めるため民事で提訴。その詳細を本誌でレポートしています。さらに今月号では、元『科学』(岩波書店)編集者で富山大学准教授の林衛氏に、トリチウムだけではない、「ALPS処理水」の危険性を示す科学的事実を聞きました。福島原発のデブリの処理は100年以上かかるといわれ、ならば汚染水海洋放出も100年を超えて行なわれることになります。これを止めることこそ、私たちが現在向き合うべき課題です。

麻生太郎自民党副総裁に「政権のがん」と言われた公明党。「平和の党」「政権のブレーキ役」を“金看板”として自称する彼らとすればお褒めの言葉となるのでしょうが、公明党は敵基地攻撃能力について専守防衛の立場から反対したことはないとして、麻生発言は「事実誤認」と弁解する体たらく。そして、軍事三文書が昨年末に易々と閣議決定したのは周知の通り。岸田軍拡で日本国民はすでに5年間で43兆円の支出を迫られ、“中国の脅威”でさらに増額となることも予測されます。しかも、日本政府はすでに発表しているウクライナへの総額1兆円の支援に加え、世界銀行からの復興支援金15億ドル(約2230億円)についても保証。国民の命と金を際限なく差し出すのが岸田政権、というより、すでに岸田首相の意図すら関係なく、事態が動いているのかもしれません。

今月号の足立昌勝氏の論考も指摘しているとおり、地域の平和は地域で、つまりアジアの平和を求めることこそ、あらゆる点で理にかなっているということでしょう。そのために、日本の戦後処理を総括する必要があります。関東大震災における朝鮮人虐殺も、もちろんそこに含まれます。ほか今月号では、“被災地”が高い壁に覆われたハワイ・マウイ島火災にまつわる大手メディアが書かない数々の“疑惑”、「XBB対応」のコロナワクチンが日本だけ接種拡大の“現実”など、ぜひ全ての方々に読んでいただきたいレポートを多数掲載しています。ジャニーズ以外にも「マスメディアの沈黙」といえる事例は社会に山積しており、そこに光を当てることこそ本誌の役割です。今月号も、書店でお見かけの際はぜひご一読をお願い致します。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年11月号

『紙の爆弾』2023年11月号

林衛富山大学准教授に聞く原発汚染水海洋投棄 
日本政府「安全」のウソ
原発事故汚染水 西村康稔経産大臣が無視する海洋放出の“損害額”
映画『福田村事件』原作者に聞く朝鮮人虐殺百年 
日本の“現在地”
ジャニーズ性加害問題 マスコミが触れない“本質”
ジャニーズよりも悪影響
創価学会に屈し続ける「メディアの沈黙」
旧統一教会「解散命令請求」めぐり自民党の“出来レース棄却”
辺野古裁判“敗訴”を機に日米地位協定の闇を問い直す
小渕優子・木原誠二起用の裏側
第二次改造内閣にみる岸田政権終焉の予兆
自然災害か、それとも人為的な破壊工作か?
日本企業も関与するマウイ島大火災の“疑惑”
立憲民主党・原口一博衆院議員インタビュー 
コロナワクチン「日本だけ接種拡大」の現実
米国覇権回復に向けた謀略的内実「統合の時代」と日本
アフリカで続く動乱の背景に欧米「新植民地主義」
“アメリカの戦争”への協力体制確立
合意された「米日韓軍事同盟」
茶坊主事務所のアイヒマン——
男色カルト集団を増長させてきた日本“令和の敗戦”
シリーズ 日本の冤罪43 続・日野町事件

連載
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ニュースノワール 岡本萬尋
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裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

『紙の爆弾』2023年10月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

昨年7月の原子力規制委員会の認可以降、トンネルを掘り進めて今年6月に完成、8月24日に東京電力福島第一原発「汚染水」の海洋放出が始まりました。マスコミは「処理水」と呼んで、中国だけが反対しているかのように強調し、放出されるトリチウムの量をフランスの再処理施設から出るなどと比較して、事態を矮小化する報道を続けています。

 
9月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

これは汚染水海洋放出の実態を隠すと同時に、日本国内の反対の声をもかき消しています。しばらくすれば、そんな報道すら消えるかもしれません。ただし、鈴木達治長崎大学教授は「処理水の中にはまだ放射性物質が入っており純粋なトリチウム水とは違うもの」と語っています。ちなみに、農林水産省の発表によれば、今年1-6月期「農林水産物・食品 輸出額 国・地域別」は、中国(1位)、香港(2位)・台湾・韓国が前年同期比10%~20%増だったのに対し、アメリカ(3位)は−7.9%(6月は−11.0%)。気になるところです。

本誌9月号では海洋放出の目的が、原子力政策の維持であると指摘しました。「もし福島のトリチウムを海に流してはいけないということになれば、使用済み核燃料の再処理工場の運転もできなくなり、日本の原子力は根本から崩壊する」と小出裕章・元京都大学原子炉実験所助教が解き明かしています。海洋放出に向け「原子力マフィアの総元締め」IAEAのラファエル・グロッシ事務局長が、日本政府の代弁人を担い、各国を渡り歩いた理由もここにあるものと思われます。 

前号で登場の「全国有志医師の会」藤沢明徳代表が、6月に「一般社団法人ワクチン問題研究会」を設立し、8月にはホームページを公開(https://jsvrc.jp/)、本誌発売の9月7日に記者会見を開きます。「コロナワクチン惨禍は全世界規模の人体実験」とし、会見の理由を「ワクチン後遺症の患者さんの記者会見に対する医師側の正面からの意思表明」と語っています。会見の模様はHPでも公開予定とのこと。本誌インタビュー記事では、WHO(世界保健機関)を内部で批判してきた専門家らによる組織WHC(世界保健評議会)にも触れています。WHOについては、来年5月の総会に向けて「パンデミック条約」の策定を目指していることにも注意が必要です。同条約は、WHOの「緊急事態宣言」により、各国の憲法を超えて、WHOの決定を優先するという内容。事実上、国家が主権をWHOに預けるものです。

今月号では、ジャーナリスト・堤未果氏がマイナンバーカードの危険性と、中国に限らず世界各国で現出しつつある「デジタル監視社会」を解説。マイナ保険証については、持たない人に向けて「資格確認書」を交付、有効期限を5年に延ばしたものの、一方で資格確認書を利用した場合、医療機関での窓口負担が割高になるペナルティが政府で検討されているといいます。前号ではワクチン接種に次ぎ、マイナカードの旗振り役を務める河野太郎デジタル相の“本質”に迫りましたが、政府がその先に見据える「デジタル社会」とは何なのかを考える必要があります。

そんな自公政権に迎合し、馬場伸幸代表が自ら「第2自民党」を公言した維新。大阪・開催万博、そして大阪カジノの実態については本誌記事をお読みください。万博・カジノとともに、維新の「地盤沈下」が始まっています。そのほか「木原事件」をめぐる報道管制など、多彩なレポートをお届けする『紙の爆弾』は全国書店で発売中です。ぜひご一読をお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

『紙の爆弾』2023年10月号
ジャーナリスト・堤未果が語る 危険な「マイナカード」とデジタル監視社会
万博・カジノが“共倒れ”に「地盤沈下」する維新
大阪・関西万博は延期&会場変更するしかない
岸田訪米に同行した“影の総理”「木原事件」報道管制の大問題
目指すは「国家によるサイバー攻撃」 経済安保法の危険な蠢動
際限なき「軍事同盟」拡大路線 米国ネオコンが仕切る日本・NATOパートナー宣言
ロシア・ウクライナ問題に便乗「NATO東京事務所」構想が示す岸田凡愚政権
それでも岸田文雄を降ろせない“安倍派”迷走と自民党弱体化
ビッグモーター事件で露呈した日本社会の劣化
芸能界“一〇〇〇億円企業”の錬金術 ジャニーズ性加害問題の“元凶”
2024パリ大会が改めて浮き彫りに 東京五輪汚職の根本原因
自民党議員の収賄疑惑 利権化する「洋上風力発電」
アベ暗殺の地政学——米国の極東「新冷戦」戦略のもと統一教会は「粛清」対象となった
シリーズ 日本の冤罪42 米原汚水タンク殺人事件
「週刊金曜日」書籍広告排除事件にみる「左派」言論の落日

連載
あの人の家
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コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年10月号

『紙の爆弾』2023年9月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

7月24日、新型コロナワクチンによって命を落とした男性がワクチン被害救済認定を受けたことで、妻らが大阪府庁で記者会見し、救済認定を急ぐこと、また接種後の死亡について正面から研究するよう訴えました。会見の模様は繋ぐ会(ワクチン被害者遺族の会)がニコニコ動画にアップしています(https://www.nicovideo.jp/user/22102689)。また同日には「新型コロナワクチン後遺症患者の会」も、厚生労働省で記者会見を開いています。両会見は、よみうりテレビや朝日新聞など、大手メディアも報道しました。救済制度で国は「予防接種と健康被害との因果関係が認定された方を迅速に救済する」としています。7月14日時点で8000件以上の申請に対し、約4割を認定。すでに、「ワクチン薬害」は国や大手メディアも認めるものであることは、言うまでもありません。

 
8月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

しかし、6月に日本小児科学会は、子どもへのコロナワクチン接種を「推奨」。今月号のインタビューで「全国有志医師の会」藤沢明徳代表が語っているとおり、子どもだけでなく大人においても、もはや接種のメリットなどないにもかかわらず、です。同ワクチンの免疫の働きを抑える仕組みが明らかになり、そのために感染症の重症感が軽減されているだけ。打つごとに副反応が出なくなるのも同じ、というのはシンプルな事実です。詳細は本誌記事をお読みください。

そんな危険なコロナワクチンの接種拡大と、これまた危険なマイナンバーの普及を担う河野太郎デジタル相。マイナンバーカードで他人の住民票が発行された、他人の年金記録が閲覧できてしまった、といったトラブルや、一体化した「マイナ保険証」により現行の保険証が廃止されれば「無保険」となる人が続出し、国民皆保険が崩壊する、といった指摘があります。こうした危険性がメディアで報道されても、政府は制度移行を強行。しかも岸田文雄首相や河野大臣は、国民騙しの詐欺的説明を繰り返しています。ワクチンにせよ保険証にせよ、人命に直接、危険を及ぼすことが、なぜ強行されるのか。その“謎”を解明するための第一歩として、河野大臣が“何でも売る営業マン”であることを本誌で指摘しました。では、彼の“雇い主”とは誰なのか——。一歩踏み込んだレポートをお届けします。

6月23日に施行されたLGBT理解増進法。その真相に迫った本誌増刊『人権と利権「多様性」と排他性』が好評です。同書の編者・森奈津子氏にインタビューした8月号とあわせて、ぜひお読みください。差別解消が、社会が目指すべき課題であることは絶対の前提ですが、それでもLGBT法には、いまだ様々な立場から“異論”が投げかけられています。今月号では成立の経緯から、米国と西側世界が迫るイデオロギーの一体化であることを指摘しました。その米国は、ウクライナにクラスター爆弾を供与、同爆弾には使用しないことはもちろん、「作らない・持たない・渡さない」ことも規定した国際禁止条約(オスロ条約)が存在します。加盟国である日本は米国・ロシア、そしてウクライナに対し、同条約への締約を求めるのが筋のはず。しかし、イギリス・スペイン・カナダといったNATO各国も使用に反対を表明する中、日本は米国の行為を追認するのみです。

ほか今月号では、国際原子力機関(IAEA)も“お墨付き”を与えたとされる核汚染水海洋放出の“本当の目的”を解説。『紙の爆弾』は全国書店で発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大


『紙の爆弾』2023年 9月号

「全国有志医師の会」藤沢明徳医師に聞くコロナワクチン後遺症の真実とWHOの次なる策略
“売り物”は何でもいい ワクチン・マイナ営業マン河野太郎の本質
岸田・河野の国民騙し マイナ保険証強行の詐欺策動
「過大請求」はなぜ起きるのか 新型コロナ対策 コールセンターに潜む闇
低下し続ける支持率でも岸田政権を延命させる“安倍派”の内紛
IAEAと大手メディアが既成事実化 原発核汚染水海洋放出の本当の目的
「アジアの平和」破壊を中国メディアも危惧 岸田政権の軍拡とNATO急接近の愚
LGBT法は米国の日本解体策謀だ
山下達郎「スマイルカンパニー」炎上の背景 もう止まらない「ジャニーズ帝国崩壊」
三浦春馬のファンたちの抗議活動が続く理由
夏の蜃気楼(ミラージュ) 可愛かずみがいた頃
ボクシング「替え玉事件」と「井岡一翔大麻騒動」の真相
暴動は用意されていた フランス暴動勃発の裏の現実
引退帝国たちの「老老介護」の地政学
QRコードで自衛隊軍拡サイトに誘導「小学校教科書」が危ない!
シリーズ 日本の冤罪41 狭山事件

連載
あの人の家
NEWS レスQ
コイツらのゼニ儲け 西田健
「格差」を読む 中川淳一郎
ニュースノワール 岡本萬尋
シアワセのイイ気持ち道講座 東陽片岡
キラメキ★東京漂流記 村田らむ
裏から世界を見てみよう マッド・アマノ
権力者たちのバトルロイヤル 西本頑司
まけへんで!! 今月の西宮冷蔵

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年9月号

『紙の爆弾』2023年8月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

安倍晋三元首相銃撃事件から1年。いまだ山上徹也被告の裁判も始まっていないなか、複数の“謎”が残されていることは、本誌で指摘してきたとおり。そして、岸田文雄政権下で“安倍以上”ともいわれる軍国化が進められています。今月号では元外務省国際情報局長・孫崎享氏が、安倍政権を総括しつつ、その死にまつわる“謎”とともに、これまで触れられてこなかった安倍元首相の発言についても分析しています。

 
7月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号

岸田軍拡と同様、グリーントランスフォーメーション(GX)あるいは環境変動対策の名の下で、加速を続けているのが原発再稼働の策動です。福島第一原発の汚染水は「海洋放出せざるをえない」と説明されていますが、核のごみ問題と同様、そのこと自体が、そもそも原発が人間の手に余るものだということを示しています。海洋放出を語るときには、それを前提とすべきです。既成事実化することで、「いざとなったら海に捨てればいい」との前例にもなるでしょう。流していいかどうかの問題ではありません。

その岸田政権下で起きたスキャンダルが、首相の長男・岸田翔太郎・元首相秘書官の「公邸宴会」と、“官邸の軍師”こと「木原誠二」官房副長官の愛人問題。とくに前者の翔太郎氏は、今回の問題があっても世襲議員の道を閉じたわけではありません。その動向に注目が続けられるべきですが、首相秘書官更迭後の現職は不明です。検察出身の郷原信郎弁護士は、ジョンソン英首相が辞任に追い込まれる原因となった、2022年の公邸「パーティーゲート」と多くの点で共通していると指摘しています。

6月14日、岐阜市の陸上自衛隊日野基本射撃場で起きた銃乱射事件。その“原因”がどこまで解明されるか、あまり期待はできません。仮に、発砲した18歳の候補生自身が何らかの問題を抱えていたとしても、国内の練習場ですらこういう事件が起きたわけで、戦地の極限状況ではどうか。6月号では「イラク戦争20年」を振り返りました。その中でも触れられているとおり、イラク日報はいまだ多くが黒塗りです。そして、戦地に派遣された自衛官には、精神を病む人が多く、自殺に至るケースも少なくありません。

今月号でも複数記事で採り上げたAIをめぐる危険。メディアの「チャットGTP」礼賛を見ていて感じるのは、まずAI導入ありきで、人の生活を良くするような、需要から生まれる発明とは趣が異なることです。本誌で紹介したような、リスクに関する専門家の警告が日本で大きく報じられないのは、すでに社会が実験場となっていることを意味するのでは、とも危惧しています。さらに藤原肇氏は今回の記事で、世界の経済システムが「ポンジ金融」化していると指摘しました。だとすれば、科学技術のイノベーションも、その動機が健全なものばかりではないことがわかります。あるいは、それは科学技術に限ったことではないかもしれません。 そして、神宮外苑再開発に伴う「樹木伐採」問題。6月4日投開票の大田区都議補選で当選した元都民ファーストの会の森愛氏が、会派内で「森喜朗元首相の利権だから終わったこと」との発言があったと暴露。詳細は本誌レポートをお読みください。「紙の爆弾」は全国書店で発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

7月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2023年8月号

《書評》『紙の爆弾』7月号の木村三浩の記事に注目! 赤報隊事件特集で、『文藝春秋』はなぜ統一教会(勝共連合)隠しをしたのか? 横山茂彦

◆重要捜査対象者だった木村三浩の指摘

『紙の爆弾』最新号で興味を惹かれたのは「文藝春秋『赤報隊』特集の罠」(木村三浩)である。文藝春秋」は赤報隊の正体を、野村秋介の周辺にいた右翼として描いているのだが、その論拠は盛田正敏(サム・エンタープライズ=不動産業)という人物の証言だという。

 
月刊『紙の爆弾』2023年7月号

すなわち、盛田が野村に渡した3000万円が赤報隊の逃走資金となったのではないか。そしてリクルートから盛田の会社に1000万円が寄付されたのも、野村への「対策金」、つまり赤報隊対策だったというものだ。

この種の「証言」は右翼や任侠系実業家にはありがちな「大言壮語」「オレだけが知っている秘話」であって、その人物を検証しなければならない。

盛田正敏は後藤忠政(山口組直参でのちに破門)の企業舎弟で、イトマン事件にも関与していたと言われている。02年には銀行取引が停止となり、ヤクザの借金回収に追われて渡米。帰国後は島田紳助やダウンタウンの浜田雅功の任侠右翼との関係を『週刊現代』で証言するなど、極道ネタを切り売りしてきた。いわば事件師(事件ネタを食い扶持にする)といってもいいだろう。

木村の記事は、この『文藝春秋』のエビデンスのいい加減さを指摘したものである。木村自身が9人の重要捜査対象者だったことから、当事者でもある。

たしかに野村秋介や鈴木邦男が赤報隊に会った、と匂わせたことはある。野村の朝日新聞本社での拳銃自決が、赤報隊への「俺が責任を取るから、もう朝日を攻撃するな」というメッセージだったと、野村に好意的な人々は解釈してきたものだ。

しかし、木村は直接触れていないが、被害者である朝日新聞の記者たちが右翼および民族派を徹底的に取材し、行き着いた調査の方向性は、木村が指摘するとおり「勝共連合(旧統一教会)」だった(樋田毅はその著書『記者襲撃』(岩波書店)のだ。樋田の著者に従いながら、事件捜査・取材の概要をふり返ってみよう。

◆赤報隊右翼説は、当初から外されていた

『文藝春秋』の特集も明らかにしているとおり、当初警察庁は朝日新聞阪神支局銃撃事件の犯行の態様、犯行声明の内容から右翼事件と断定した。まもなく捜査線上に木村をふくむ9名の右翼関係者がリストアップされ、個別に事件当日のアリバイ調査、ポリグラフ(嘘発見器)の任意捜査がおこなわれた。

しかるに、ほぼ全員にアリバイがあり、ポリグラフにも引っ掛からなかった。リストに挙げられた9人は、総合的に「シロ」と判断されたのだった。

もしかしたら、犯人は右翼ではないのかもしれない。捜査陣および朝日新聞関係者には、そう感じられた。本物の右翼であれば、みずからの犯行として警察に出頭する。そのうえで、犯行(天誅)の大義を堂々と述べるはずだ。かれらは往々にして売名的だが、逃げ隠れすることを嫌う。右翼事件にしては、赤報隊の隠密的な行動は異様だった。

取材した右翼関係者も口々に言った。

「従来の民族派が起こしたものと異なり、乾いた匂いのする事件だ」(野村秋介)、「こうした事件は、やわな右翼では起こせない」(民族派の活動家)、「周辺の右翼にあの事件を起こせそうな奴はいない」(行動派の民族活動家)と。そして樋田は、その民族活動家たちから「(犯行は)統一教会ではないのか」と逆に質問されるのだ。前掲書から他の民族派活動家の言葉を引用しよう。

「(犯行グループは)本心のキーワードを隠し、右翼を装っているのだ。テロ事件を繰り返すには強固な秘密組織が必要だ。右翼には秘密組織など作れない。それが可能なのは、左翼を除けば、α教会しか考えられない。君たち朝日新聞はα教会の秘密組織について取材してきたのか」

樋田の著書で「α教会」とされているのが、統一教会(世界基督教統一神霊教会・現在は世界平和統一家庭連合)である。

◆事前にあった脅迫状と幹部の演説

当時、朝日新聞および『朝日ジャーナル』(週刊誌)は、統一教会の霊感商法に対して紙面を割いて批判していた。統一教会(勝共連合)が中心となっていた「スパイ防止法制定促進会議」に対しても、朝日新聞は言論の自由を侵害する法案であると、反対の論陣を張っていたのだ。

統一教会は朝日新聞東京本社の前に街宣車を連日のように乗りつけ、朝日新聞を批判する演説を行なっていた。そして事件が起きた年の2月には、統一教会名で「ソ連のスパイ朝日社員どもに告ぐ。俺たちはきさまらのガキを車でひき殺すことにした……」で始まる脅迫文が届いてもいた。

文中に「俺たちが殺すのは共産サタンで人間ではない。てめえらバイキンだ、サタンだ」「俺はM16ライフルを持っている。韓国で訓練を受けてきた」とあることから、いかにも統一教会らしさを装っている。少なくとも統一教会を熟知している何者か、朝日と統一教会の対立をよく知っている者からの脅迫であろう。

朝日の記者たちが取材を開始してみると、事件の2か月前に統一教会の「関西の対策部長」を名乗る人物が、大阪の会合で「神側(統一教会)を撃ってくる人たちに対し、たとえ誰が霊的になってサタン側に立つ誰かを撃ったとしても、それは天的に見たならば当然許される」と話したという証言が得られた。

◆秘密の武装組織は存在したか?

前出の統一教会幹部が「サタン側に立つ誰かを撃ったとしても」が、朝日新聞阪神支局事件を指すのだとしたら、本当に武装した秘密組織があったのだろうか。反共の立場で共闘する右翼団体にも、統一教会はよく出入りしていたという。樋田の前掲書から紹介しよう。

日本青年旭心団の本部長・松本効三も勝共連合(統一教会)の若者たちと親しかった一人だが、心を許さなかった理由として「連中の持っている宗教は恐ろしい。人間をすっかり変えてしまう」と語り、「朝日新聞襲撃もα連合の可能性があると私は思っている」と語ったという。

松本の論拠は、同じ世代の右翼活動家が統一教会に取り込まれたかに見えたが、その活動家は「α連合には分からない部分があり、恐ろしい組織だ」と語ったからだという。松本によれば「この分からない部分というのは秘密組織か何かを指している」のではないかというのだ。

松本自身が観光ビザで韓国に行き、ベトナム戦争派遣の猛虎部隊に体験入隊した経験があった。したがって、統一教会の若者たちが韓国内で軍事訓練をするのも、たやすいのではないかというのだ。

いや、わざわざ韓国に行くまでもない。統一教会は当時、全国で26店舗の銃砲店を持っていた。その多くは射撃場を併設し、来客に試射させてもいたのだ。韓国の統一教会は銃砲メーカーを経営し、そこで生産したエアライフルを日本に輸出していたのである。統一教会の日本人会員(元自衛官)が、義勇兵としてケニアに派遣されていることも明らかになっている。統一教会は銃器とわかちがたく結ばれていたのだ。

◆証言をひるがえした会員たち

樋田ら朝日の記者たちは、統一教会の秘密軍事部隊の存在を追っている。そして早稲田大学の原理研に所属していた、元信者の証言をとったのだ。その元信者は大学卒業後に統一教会の会長秘書を務めたのち、特殊部隊に所属したという。その任務は、信者であることを隠して金山政英元駐韓大使の私的研究所に入り、研究所にあった韓国と北朝鮮、民団および総連の資料を入手していたという。別の女性元信者も、統一教会の非公然の軍事組織に所属し、銃を撃つ練習をしていたことを明らかにしている。

その女性元信者によれば、軍事訓練の指導は習志野空挺団出身の幹部が担当し、数人のグループで参加したという。実際に多かった任務は監視活動で、焼き芋の屋台をリヤカーで引きながら、監視対象の周辺を探ったという。ほかの元信者は、生道術(空手の一種)を身に着けた数十人の屈強そうな男性が集められて、軍事訓練を行なったと証言している。特殊な任務で軍事訓練をしていた秘密組織が、統一教会のなかに間違いなく存在していたのだ。

ところが、秘密軍事組織の証言をした元信者に再度取材したところ、かれらは先の証言をひるがえしている。というのも、元信者は統一教会に復帰していたのである。銃の訓練をしたという証言も「そんなこと言いましたか? 私は覚えていません」と否定した。この否定こそが、松本効三がいう統一教会の「分からない部分があり、恐ろしい組織」であり、民族派活動家が言う「テロ事件を繰り返す……強固な秘密組織」が「可能なのは、左翼を除けば、α教会しか考えられない」という評価に合致する。

直接的な証拠こそないが、朝日新聞襲撃事件の実行部隊は、統一教会が秘密裡に組織した軍事組織、あるいはその任務を請け負ったプロ的な軍事グループと見るのが自然ではないだろうか。

◆タイトルを重視する編集者の落とし穴

さて、木村が「罠」だと指摘した『文藝春秋』の「勝共隠し」に立ち返ろう。

今になって『文藝春秋』が赤報隊事件を特集したのを、木村は新谷学編集長が「編集長の職を退くにあたっての、新谷氏の思いも関係しているのではないかと推察する」と、やんわりした感想のオブラートに批判を包み込んでいる。

言論の士であり、リアルな政治活動家らしい感想だが、スクープとファクトを編集の髄としてきた新谷にとって、この特集は編集長としての汚点になると、ここでは指摘しておこう。まさに木村が指摘するとおり、エビデンスに欠ける「スクープ」なのだから。

じつは、あえて「罠」というほど巧妙でも突飛でもない。ひとつのテーマを掘り下げるとき、徹底的に他の有力なテーマを封印する編集手法なのだ。あたかも「スクープ」が真実であるかのように描き出す雑誌ジャーナリズムの、とくに文春砲と呼ばれた方法論がそこにあるだけなのだ。

野村秋介大人の死が過去のものとなり、野村をよく知る鈴木邦男が逝去した今だから、飛び出してきた「スクープ」だともいえよう。墓碑銘を穢すことはあっても、慰霊することにはつながらない。

なお、「紙爆」最新号には、横田一による「旧統一教会『500億円新施設』と
変化する『合同結婚式』」の現地取材レポートが掲載されている。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年7月号

『紙の爆弾』2023年7月号に寄せて 『紙の爆弾』編集長 中川志大

サーロー節子氏が「失敗」「原爆犠牲者を冒涜している」と批判した5月のG7サミット。広島の地と市民を存分に政治利用し、さらにゼレンスキー来日効果もあって岸田文雄政権の支持率を押し上げました。その直後の岸田長男・翔太郎氏の「官邸忘年会」スキャンダルで支持率上昇は帳消しとなったとはいえ、被爆地・広島で行なわれたG7をマスコミが「成功」と報じ、多くの国民がそれを鵜呑みにすることが、岸田軍拡を大きく後押しすることになります。同時に、中国の脅威も煽り、米国の核を日本に配備する下準備もさらに進むことに。自衛隊の敵基地攻撃能力保有に加え、同志国軍事支援「OSA」が紛争の可能性をさらに高めてもいます。

 
6月7日発売! 月刊『紙の爆弾』2023年7月号

まず、その状況を正確に伝える報道が皆無であることが問題で、そうである限り、この流れをどう食い止めるかといったことは、論じようがありません。そんな現状にあって、今月号では憲法について、小西洋之参院議員にインタビューを行ないました。小西氏は3月2日に、安倍晋三内閣が、放送法が規定する「政治的公平」の解釈改変を試みていたことを示す総務省の内部文書=安倍政権の言論統制の証拠を公表するも、衆議院の憲法審査会について「毎週開催はサルのやること」との発言が問題視され、参院憲法審の筆頭幹事を更迭。総務省が認めた文書を「ねつ造発言」と言い放った自民党・高市早苗元総務相は経済安保相として政権に居座っています。そんな小西氏が、改憲派による壊憲戦略である、憲法審の「毎週開催」の問題を具体的に解説しつつ、その策動を止める戦略を明かしています。また、これもマスコミは大きく報じませんでしたが、3月17日に総務省は高市氏らの放送法解釈改変を全面撤回しています。ならば安倍解釈改憲も撤回させることは可能。そもそも解釈改憲が、嘘と曲解によってなされたものであり、撤回しなければならないものだということを、本誌で明かしています。

とはいえ、「騙され改憲」が現実化する可能性は否定できず、政治における闘いがすべてと言えないのもまた現状です。6月号で電通の洗脳利用を採り上げたAIやChat GPTを挙げるまでもなく、自分の意思や思考に基づき生きることが、意識しなければ難しくなっているような気もしています。5月30日には研究団体「Center for AI Safety(CAIS)」が、AIによる人類絶滅のリスクに対する声明を発表、当のAI関連企業CEOをはじめ数百人に及ぶ専門家らが署名するなか、日本の能天気なAI信奉ぶりは、まるで日本国内がAI実験場にされているように見えます。さらにアップルの「AirTag」をはじめ、スマホを自動的に相互監視させる仕組みも、すでに社会に投入されています。警察庁に「サイバー特別捜査隊」が発足して1年以上経過したなか、警察と自衛隊を動員した国家による「ネット監視体制」についても7月号で解説しています。

ほか、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)「合同結婚式」現地ルポ、企業の「マスク・ハラスメント」など、7月号も盛りだくさんの内容です。『紙の爆弾』は全国書店で発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年7月号