経産省「電力ひっ迫」のからくり〈1〉「ひっ迫に備えて原発推進」は正解か? 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◆規模停電の脅しで原発再稼働を推進

昨年の6月21日、梅雨が明けきっていない東電管内で「電力ひっ迫の注意報」(予備率が5%を下回る予想)が経産省により発令された。すぐにも警報に切り替えそうな勢いで、担当課長が緊急記者会見をしていた。

実際には90%台の後半の設備利用率(発電設備に対する電力需要)で、電力ひっ迫は起こらなかった。もちろん、呼びかけに応じて実施された節電も影響している。

14~15時台に最大5254万kW(以下、万kWを省略)の需要に対して供給力は5674で8%上回る程度に準備されていた。警報発出は3%を下回る場合とされているから、まだ余裕があった。東京電力エリア内の2022年最大電力は8月2日の5930で、このときは6440の供給力を用意していた。

6月末のピークは、その後にも来たが、「電力ひっ迫注意報」は30日午後6時で解除されている。この時期に電力がひっ迫するというのは想定外だった。もちろん、地震などで大型火力のいくつかが止まればたちまちひっ迫するし、それは3月22日に実際に起きて経験したことでもある。

東京では毎年夏のピークは、梅雨明けの季節に起きることが多い。梅雨明けで日照が多くなり、気温が急速に上がる一方で、まだ湿度が高いため蒸し暑い。暑さに慣れていないこともあり、冷房需要が急激に高まる。通常は、7月下旬に起きるこの 「梅雨明けピーク」が、今年は例年にない気象で1カ月早まってしまった。これがいろいろなミスマッチを生じさせたのである。

◆「電力ひっ迫に備えて原発」は正解か?

実際には原発で大電力を供給している時に災害が発生したら停電のリスクは高まる。それは東日本大震災と2007年の中越沖地震で起きている。原発も火力も海沿いに多数立地しているから、津波が発生すれば被災する。

地震で発電所に大規模な破壊が生じなくても、高圧送電線や変電所が被災すれば電気は送れない。地震や津波では原発こそが停電のリスクが高い。

自然災害に対処する場合、ひとつひとつが小さくても広く分散して設置され、地産地消の仕組みを基礎として広域連系ができていることが強靱さを発揮する。できるだけ消費地に近いところに立地し、被災しても早期復旧が見込める火力発電がよいだろう。

もう多くの人は忘れてしまったのかもしれないが、東日本太平洋沖地震後の復旧も圧倒的に火力が早かった。被災した原発15基は、未だに1基も稼働していないが、火力は震災の年の7月までにすべて復旧している。近い将来発生する南海トラフ地震では、西日本各地でブラックアウトしたまま復旧に長期間要する。防災対策上も極めて深刻な事態を招くだろう。

夏の節電要請は、震災直後の2012年以来7年ぶりと各社報じた。ではその前はいつだったのだろうか。2007年である。7月16日に中越沖地震が発生し、柏崎刈羽原発が全部止まったため政府から節電要請が出されている(経済産業省関東圏電力需給対策本部決定 平成19年7月20日付け)。

原発が地震に弱いことも実証済だ。被災した柏崎刈羽原発7基のうち、2011年までに再稼働したのは4基に留まっている。過去の「電力危機」は東電管内においてはすべて原発が原因といっても過言ではない。(つづく)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっ迫』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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3月10日発売 『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

——————————————————————–
福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
——————————————————————–

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
反原発川柳(乱鬼龍選)

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0BX927CLY/

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

『季節』2023年春号 刊行にあたって 季節編集委員会

制御力を失った電車は、軌道があっても止まることを知らず線路が果てるまであるいは、停車中の車両や車止めにぶつかるまで暴走します。しかし、電車の暴走事故は軌道から離れた環境にはさして大きな損害を与えません。

他方、軌道上の走行や移動を想定していない交通手段の故障は、予想できない範囲に及びます。航空機が操縦不能に陥ると、いかなる角度に向かって飛んでゆくか想定は困難です。墜落の局面でもどこに堕ちるのか不明ですし、見方を変えればどこが「墜落被害」を被るのかも想定できません。

それでも「墜落被害」は多くの場合、一国を滅ぼすような甚大なものではなく地域に限られるでしょう。「電車の制御力不能」や「航空機の操縦不能」は操縦者や乗客さらには追突される電車や墜落地で巻き添えを食らう人々に、甚大な恐怖感と生命の危機を強いる点で共通項を見出すことができますが、わたしたちの暮らす実時間、2023年春はそれらの被害や恐怖をはるかに凌駕する、軌道も操縦も失った大暴走の時代だと言わねばなりません。

愚劣な政治家(不幸にも現時点で総理大臣)岸田文雄は、選挙や国会での審議なしに原発運転の期間を60年以上に延ばすことを勝手に決めました。この国ではいつから「閣議決定」さえあれば、従前の法律や憲法の解釈変更が可能になったのでしょうか。日本は法治国家などではなく、明らかな「無法地帯」以外のなにものでもない、この残念な現実を岸田はさらに強力に証明することに血道を上げているようです。

原発の60年超え運転だけで満足せず、原発の新増設や新型原発の開発まで、真顔で語り始めています。危険で非効率極まりなく実現可能性のない戯言を堂々の宣うことにより、岸田は狂気時代の先頭走者として「破滅が必定」な地へ向け暴走を続けています。岸田並びにそれに与する議論には、なんの科学意的根拠、論理性、倫理性そしてあえて付言すれば経済性の欠片もありません。究極的とも言える「暴論の暴走」です。

本誌は岸田が繰り広げる暴論とは真逆の地に立っています。岸田の虚言と正反対の地平に真実があることを本誌(われわれ)は知っているだけではなく経験しました。冷静な判断能力の持ち主にとって原発は「必ず事故を起こす。事故が起きれば制御できない」構造物であることは明白です。原発はいったん事故が起きれば「軌道」がなく、人間が制御できるものではないことを、この国に住むひとびとは僅か12年前に福島で経験したではないですか。78年前には兵器(原爆)として広島と長崎で凄惨極まる被害を受けたではないですか。その広島の地が生み出した政治家、岸田により原発・原爆被害の事実と歴史が見事に踏みつぶされています。

季節は移ろいますが本誌は反原発・反核兵器から絶対に、1ミリも後退しません。岸田に象徴される反理性を、思想と事実において撃滅せしめる地平を切り拓こうではありませんか。

3月10日発売 『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


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福島第一原発事故 12年後の想い
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「よって原発の運転は許されない」……(龍一郎揮毫)
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福島第一原発事故から12年 ── 汚染水の実態を虚偽広告する経産省(資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室)に直撃電話インタビュー! 田所敏夫

新聞を情報入手の発信源として、毎日目を通す必要があるのかどうか。年々新聞に対するわたしの不信感と嫌悪感が増してはいるのであるが、それでも漫然と新聞購読は続けている。記事の5割以上に「なに言っているんだ!」と内心舌打ちするのは、毎朝のいわばルーティーンで、ときに堪忍袋の緒が切れる。加齢によって堪え性が減じる兆候であろうか。

花粉症でただでも鬱陶しいこの季節に、またしても度し難い文言が目に入ってきた。今次は新聞記事ではなく、経済産業省の広告である。

「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と、促されたので、考えた。でも、考えても、考えても、わたしの知識からは広告全体が伝えようとしているメッセージにどうしても得心がゆかない。

広告は、

Q.ALPS処理水って何?
A.東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです。トリチウムについても安全基準を満たすよう、処分する前に海水で大幅に薄めます。

といった体裁で、QアンドAは上記を含め4つある。ちょっとでも原発問題に関わっている人間には、アホらし過ぎて反論する気も失せる虚偽だらけだ。しかしこの広告は経済産業省つまり国がわれわれの税金を使って新聞に掲載している。少ないながらも納税者であるわたしにも、ことの真相を問いただす権利はあろうし、国が悪化な嘘を吹聴していることを問いだす責任があろう。

そこで経産省傘下資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室(電話:03-3580-3051)に「考えよう」と指示された内容を教えてもらうために電話をかけた。

以下はその内容であるが、やり取りには重複や会話特有の不明点があるのでその箇所は適宜修正している。

◆「安全だ」とは書いていないけれども、汚染水は「安全」だと理解してもよいのでしょうか?

田所  恐れ入ります。新聞に「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と広告が出ていました。そのことについてお尋ねするのはこちらでよろしいですか。

対応者 内容によって変わってくるかと思うんですけれども、一応こちらでお伺いできればと思います。

田所  「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と書かれた広告のことですが「海に流して大丈夫? 本当に安全?」とQ(質問)に書かれていてA(回答)に「安全確保に万全を期します」と答えで書かれています。この広告によれば汚染水が「安全」だと理解していいのでしょうか。

対応者 そうですね。ここに書かせていただいている通りのことですけれども。

田所  「安全確保に万全を期します」と書いてあるけれども「安全」とは書かれていないのですね。

対応者 はいはい。

田所  「安全確保に万全期す」とはたとえば火災の場合でも、「万全を期して」防火しても火事が起きたら「安全」ではなかったと結論づけられます。

対応者 はい。

田所  「安全だ」とは書いていないけれども汚染水は「安全」だと理解してもよいのでしょうか。

対応者 その前半部に環境や人体の影響を書かせていただいているので……

◆処理水の7割は法令以上に汚染されている。なのになぜ安全と言えるのですか?

田所  Q&A(質問・回答)が4つ掲載されています。質問は「ALPS処理水って何?」、「なぜ、ALPS処理水の処分が必要なの?」、「海に流して大丈夫?本当に安全?」、「もっと詳しい情報は何処で確認できるの?」です。ですからお尋ねしているのですが、「処理水は安全」であるのが間違いはない、ということですね。

対応者 そうですね。充分希釈して放出することは図って頂いていることですので。

田所  希釈というのは何を希釈するのですか。

対応者 放出する物質を海洋放出するものを希釈させていただくということになっておりますので。

田所  希釈、は何か物質を希釈する訳ですね。

対応者 ALPS処理水ですね。

田所  汚染水を希釈しているから、大丈夫だと。

対応者 そ、そういうことになります。

田所  「トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです」と書かれていますけれども、トリチウムは安全基準まで下がっていないということですか。

対応者 その下に書かせていただいている通り、トリチウムについても充分に希釈して、その前に希釈して。

田所  トリチウム以外のものは全部取り除けているということですか。

対応者 安全基準を満たすまで浄化しておりますね。

田所  わたしが知る限り、トリチウム以外の汚染濃度が法令基準以下に下がっているのは、汚染数い総量の30%だけでしょ。

対応者 しかし、その30%、えっと70%、70%は再度二次処理を済ませて同じようなところに……。

田所  だから、安全基準内に落ちているのは30%だけなのではないですか。

対応者 いえいえ。放出する際には全部。

田所  現在放出ができる基準の値まで下りているのは貯めている汚染水全体の30%だけではないですか。

対応者 現在の話ですね。

田所  そうです。

対応者 そうですね。

田所  そうでしょ。ということは「ALPS処理水が安全だ」というのは事実とは違うじゃないですか。安全基準を満たさない残りの70%も一応ALPSで処理したのでしょ。

対応者 そうですね。それを再度浄化して。

田所  あなたは「ALPS処理水は安全で間違いないですか」とわたしがお尋ねしたら「安全で間違いない」と先ほどおっしゃいましたね。

対応者 はい。

田所  でも汚染水の30%だけがトリチウムを除く規準が法定以下に落ちているだけであって、70%は法定基準の汚染のまま残っているということですね。

対応者 はい。

田所  そうであれば汚染水は「安全」ではないのではないですか。

対応者 (無言)

田所  いかがですか。

対応者 どこをもって「安全」とするかについては、放出の際に関してはすべて同じく処理させて頂きますので。

田所  では当面放出するのは汚染水の30%だけですか。

対応者 はい、はい、はい。(その後長い沈黙)

田所  この広告では「ALPS処理水」と書いてありますが、今の説明を伺うと「ALPS処理水」が安全なものと勘違いしますね。

対応者 はい、はい、はい。

田所  トリチウムを除いて法令基準以下に出来ているものは30%だけなのですね。

対応者 現在のALPSでは3割になるんですけれども。

田所  現在のALPSではなく、一度使った水、汚れている水で法令基準値以下に値が下げられているものは3割以下ということですね。

対応者 はい、はい、はい。

田所  7割は法令基準値以上だから、流すことは出来ないわけでしょ。

対応者 はい、そうですね。そのままでは流せません。

田所  でもそのような汚染水も「ALPS処理水」と呼んでいるのではないですか。

対応者 そうですね、そこについてちょっと担当に……。

田所  これは専門的な内容ではなく、新聞に載っている広告です。わたしたちのように素人が見るものです。そこに「みんなで知ろう。考えよう。」と書かれているからわたしも「知ろう。考えよう。」と思って聞いているの。

対応者 はい。

田所  安全ですかとお尋ねしたら、「安全です」とおっしゃるので、法令基準値以上なのに、なぜ安全なのですか、とお尋ねしているのです。

対応者 放出する際のというところになるかと思います。

田所  この広告のどこに書いてありますか。

対応者 (長い沈黙のあと)「処分する前に海水で大幅に薄めます」というところになると思います。

田所  ん? でも「ALPS処理水のこと」と書いてあるけども、ALPS処理水には、法令基準値以上に汚染された70%以上のものを含むわけでしょ。

対応者 はい。

田所  それでは安全ではないものを含んでいるじゃないですか。

対応者 はい、はい。

田所  それどころか7割がたは安全ではないもの、じゃないですか。

対応者 (沈黙)

田所  今教えていただいた内容によれば、7割は法令以上に汚染されている。なのになぜ安全と言えるのですか。国が。

対応者 (沈黙)

◆「嘘も百回言えば本当になる」

田所  ダイオキシンの濃度は現在は規制されていますね。ダイオキシンを出す焼却炉は、今使えませんよね。でも同様に法令違反なのにALPS処理水と書かれているものが、あたかも安全かのように誤解しそうです。それでも安全とおっしゃるのですか。

対応者 そうですね。

田所  ALPS処理水はこれから海に流そうとしている汚染水だけではなく。タンクに溜まっている汚染水も含みますね。

対応者 はい、はい。

田所  その中にはトリチウム以外の核種が、いまだに法令基準をはるかに上回る濃度で入っている汚染水も含まれますね。

対応者 はい。

田所  それは安全ですか。

対応者 そのもの自体に関しては、安全じゃないと思います。

田所  でも、そのもの自体についても「ALPS処理水」と呼ぶのでしょ。

対応者 はい、はい。

田所  それでは「ALPS処理水は安全だ」という論は立たないのではないですか。

対応者 はい。そういったご意見があったことについては……。

田所  意見ではありません。客観的事実をお尋ねしている。「ALPS処理水は安全だ」と最初に教えて頂いたのですが、お尋ねしているうちに「ALPS処理水の7割は法令基準値を超える核種が含まれている」と言われた。であればそれは法令基準以上だから安全と呼ぶ対象にはならないのではないですかと。わたしは意見ではなく聞いているんです。

対応者 ちょっと確認させて頂きたいと思います。

国はあらゆる手を使って国民を騙し、不都合な事柄は「無かったことにしよう」と税金を使い宣伝する。残念なことにアドルフ・ヒトラーによる「嘘も百回言えば本当になる」との権力者発信情報の特質は、依然として有効だ。だからわたしたちは日々、少々面倒くさくても、情報の取捨選択や、偽り情報を流す者に対しての忠告を怠ってはならないのだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
反原発川柳(乱鬼龍選)

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世界のヒバクシャと連帯する1月27日のネバダ・デー、伊方原発広島裁判仮処分抗告審が結審 さとうしゅういち

◆核実験場廃止、世界のヒバクシャと連帯で座り込み

1月27日はネバダ・デーです。1951年1月27日、アメリカのネバダ州で核実験場が「オープン」してしまいました。その後、1992年までに928回もの核実験が行われたとされています。アメリカでも実は多くの方がヒバクされているのです。ある意味、アメリカこそが世界最初で最大の被爆国(自国の核実験による)といってもいいでしょう。

33周年にあたる1984年1月27日、 実験場の偏西風の風下(東側)に当たるユタ州シーダー市の「シティズンズ・コール」(ジャネットゴードン代表)の呼びかけで、全米各地で反核集会が開催されました。

この運動がイギリス・カナダ・マーシャル諸島などへも広がり、 広島県原水禁もこの日、核実験全面禁止を求める国際連帯行動として、 原爆慰霊碑前で座り込みを行いました。

 
広島県原水禁代表委員で元衆院議員の金子哲夫さん

その後、この日は「ネバダ・デー・国際共同行動日」として世界で取り組まれるようになり、以降、広島では毎年のように座り込み行動を続けています。

この日も12時15分から筆者も含む広島県原水禁のメンバーが原爆慰霊碑前で座り込みを開始しました。

広島県原水禁代表委員で元衆院議員の金子哲夫さんから、上記のようなネバダ・デーについての説明をいただきました。

昨年2022年は、新型コロナ・オミクロン株の感染爆発で中止になった座り込みですが、2年ぶりに復活しました。

参加者は
・ネバダを始めすべての核実験場の閉鎖
・核兵器保有国と核の傘の下の国の核兵器禁止条約参加
・北東アジアの非核地帯化・非核三原則の法制化
を求め、
・ロシアによる核使用・威嚇は絶対に許さず
・世界のヒバクシャと連帯するとともに、岸田政権の原発再稼働・新増設も許さない、
趣旨のアピールを採択しました。

◆伊方原発運転差し止め仮処分 パワポのプレゼン競争で結審

筆者はこの後、伊方原発運転差し止めを求める裁判の原告として、広島高裁に移動しました。伊方原発広島裁判は、2016年3月11日に提訴。その後、筆者(当初は応援団)も含む原告312人に膨れ上がりました。本裁判の方はまだ広島地裁で続いています。「裁判中に原発事故が起きてはいけない」ので、運転差し止めの仮処分を住民側はこの間、何度も申し立てています。

広島高裁では、原告側が、運転差し止めの仮処分を求めて抗告中です。2017年12月13日に広島高裁で一度、運転差し止めの仮処分が下されています。しかし、四国電力が異議を申し立てし、2018年9月25日に四国電力の異議を認めた高裁が運転差し止め却下を決定してしまいました。

2020年3月11日に原告側は新たな仮処分を申し立て。しかし、2021年11月4日に産廃処分場裁判などでも権力寄りで悪名高い吉岡裁判長により仮処分は却下されてしまいました。そこで18日に原告側は即時抗告を高裁にしていました。そして、2023年1月27日に第一回審尋でそのまま結審、ということになりました。

この日の審尋では、抗告人(我々原告)側弁護人→相手方(四国電力)側弁護人の順にパワーポイントで主張を展開しました。脇由紀裁判長と陪席の男性裁判官2名も、高い場所から平場?に降りて、スクリーンに映った両者の主張を我々原告、被告=四国電力の「えらい人」たちと一緒に見ておられました。

原告側は、伊方原発訴訟最高裁判決を根拠として、被告=相手方の四電に審査基準が安全かどうかの立証責任があるという主張を展開しました。

「原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟においては、判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものであるが、行政庁の側において、まず、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議において用いられた具体的審査基準並びに調査審議及び科断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認される。」

これが、1992年の最高裁判決の要旨です。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54276

他方、被告=相手方の四国電力側は、地震動の危険性は加速度だけではない、また、伊方原発の下の地盤は周辺のそれより硬い、ということを必死で主張されていました。ただ、南海トラフ地震でも181ガルしか揺れない、という四国電力側の想定は素人目に見てもあまりにも楽観的なように思えました。そもそも、普通の工場などよりもさらに厳しく「絶対に事故を起こさない」ことを求められている原発にしてはあまり楽観的な態度に見えました。ただ一方で、「普通の工場並みでも良いじゃない?」と思ってしまっている人にはそれなりに説得性があるようにも思えました。

 
伊方原発運転差し止めを求める裁判の報告会

筆者は原発関係の裁判はもちろん、労働裁判も含めて裁判の傍聴経験は多数あります。しかし、今日は、はじめて、「パワポでプレゼン」という裁判を傍聴しました。非常に新鮮でした。ただ、裁判長の反応があっさりしすぎてちょっと不安になりました。ただし、判決内容と裁判長の裁判中の対応は必ずしも比例しないということもプレゼンした河合弘之弁護人から伺いました。

この日、応援にかけつけた原発を止めた「あの」樋口英明元裁判官(写真左端)も実は、「あの」裁判の訴訟指揮では原告に対してもかなり素っ気なかったそうです。そのことをうかがって、少し安心しました。

伊方原発広島裁判の運転差し止めの仮処分の可否は3月24日、言い渡されます。ご承知の通り、地元広島の岸田総理がフクシマの処理もめどが立たぬ中、原発推進へと暴走し、全国の皆様には大変ご迷惑をおかけしております。総理の選挙区の有権者の一人として、吉報を3月24日にお届けすることで、多少の「罪滅ぼし」ができることを願っております。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する〈3/3〉「1500ベクレル」の根拠 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

汚染水放出のトリチウム濃度について東電は「海洋放出の場合」 「海水中のトリチウムの告示濃度限度(水1リットル中6万ベクレル)に対して、 「地下水バイパス」及び「サブドレン水」(原発建屋周囲の地下水汲み上げ井戸)の運用基準(水1リットル中1500ベクレル)を参考に検討する、としている。

一見、法令上の規制値から40分の1に下げているので安全と思われるかもしれないが、それは誤解だ。

放射性物質による公衆の年間被曝制限値は1ミリシーベルトと定められている。

1500ベクレルとは、現在も放出されているサブドレン水及び地下水バイパスの排出運用に基づき設定された値である。これ以外にも放射性物質が漏出している福島第一原発では、法定基準値で排出したら他の放射性物質との合計で1ミリシーベルトを超えることから、トリチウムについては1500ベクレルとした。

事故によりさまざまな放射性物質を拡散させる福島第一原発では、排水中にトリチウム以外にもセシウムやスト097ロンチウムなどの放射性物質が含まれることから、それらが混在していても全体として公衆への被曝線量が法定基準内に収まるよう2012年に設定されたのである。

サブドレンとは、建屋周りの地下水を汲み上げて排水することで建屋などへ流入する地下水を低減させるために使用する井戸。地下水バイパスとは原発の上流側の海抜35メートルの高台に12本の井戸を設け、地下水を連続して汲
み上げ排水する設備だ。

アルプスで処理した水も、ストロンチウムやセシウムが全部なくなるわけではないし、その他の放射性物質も残留するとして、その値が告示濃度以下であっても環境への影響、人体への影響を抑えるために設定されている。現在は排水中のトリチウムが1500ベクレルを超えることは認められないことから、サンプリングで超えた場合はすべてタンクに貯蔵される。このことから東電はそれを目安として排出する
ことにしている。

一般の原発では存在しない1500ベクレル/リットルという基準を定めなければならないほど、福島第一原発の環境は汚染されていることを示している。

貯蔵すればトリチウムの総量は減る海洋放出について全国漁業協同組合連合会(全漁連)は、反対の意志を変えていない。県漁連と国・東電との間では「関係者の理解なしには放出をしない」ことを文書により約束している。

国も東電も反故にすることはしないという。しかし一方で海洋放出に関する「説明会」が1000回以上開催されており、既成事実化しようとしている。放射性物質は常に「減衰を待つ」ことが基本だ。

トリチウムの半減期は12.3年で、初期値が850兆ベクレルでも2052年時点で約90兆ベクレルに減る。さらに、濃縮すれば体積を大幅に削減できる。

123年経てば1000分の1になるので問題はさらに解決しやすくなる。

トリチウムの量を減らすには、時間経過を待つのが最も効率的だ。地元をはじめ多くの人々が求めているのは100年以上の長期保管だ。

これについて経産省は「2011年12月から30~40年での廃止措置終了時においては、アルプス処理水についても処分を終えていることが必要」としている。そして「貯蔵継続は廃止措置終了まで(注:最長2052年まで)の期間内で検討することが適当」と期限を切る。

東京電力は4月12日に海洋放出の関連費用が4年で計430億円に上る見通しだと明らかにした。これだけの費用を掛ければ、数年で新しく地下式のタンクで備蓄することは可能だ。地上タンクもなくすことができ、防災上も有利である。

肝心の廃炉が40年以内に完了する見通しは、まったくない。この前提で検討を進めること自体が全体をミスリードさせている。考え方を変える必要がある。ありもしないゴールを想定して汚染水放出を正当化することなど許されない。(完)

◎山崎久隆《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する
〈1〉放出にいかなる理由があるのか 
〈2〉「汚染水対策」は最初から失敗 
〈3〉「1500ベクレル」の根拠 

本稿は『季節』2022年夏号(2022年6月11日)掲載の「福島第一原発からの『汚染水海洋放出』に反対する」を本ブログ用の再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する〈2/3〉「汚染水対策」は最初から失敗 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

東電は「どのような処分方法であっても、法令上の要求を遵守することはもちろんのこと、風評被害の抑制に取り組む」(市民団体の質問への回答より)としているが、その処分方法は国の小委員会でも「大気放出」 「海洋放出」の2つしか議論されていない。地元の漁協などへの反対意見に対しても「放出」前提の対策のみで話が進んでいる。国も東電も放出以外の方法を検討していない。

2012年想定で、 2021年度末の段階では汚染水の新たな発生はなくなり、建屋内部の滞留水もデブリの冷却用に注入される日量5トンから6トン(3基合計で20トン程度)に留まるとされていた。

これは、凍土遮水壁や建屋及び周囲の土地の雨水浸入防止措置で、新たな水の流れ込みを押さえることで達成できるとしていた。

ところが、2017年頃になって、地下水や雨水の侵入防止がうまくいかないことが顕在化し、結局、当時最大でも80万立方メートル(現状の6割程度)で留まるはずが、今も増え続けている。

浸水防止の失敗が、汚染水増加を食い止められない事態を生んだ。2021年中には1日平均150立方メートルも浸入する状況になっている。

凍土壁が地下水を十分食い止めきれず、随所に漏れがあること、特に下部(底の部分)はもともと止められていないこと、建屋の損傷部や敷地の土壌部(舗装さえ完了していない)からの雨水浸入が止められないことが原因だ。

最初から、恒設の止水壁を地下に造り、 「地下ダム」を構築すると共に地上部をチェルノブイリ原発のドームのような構造物で覆うなどしていれば、汚染水の増加は防ぐことができたし、そうした主張や提案は市民から東電にも国にもされていたのに採用しなかった。また、その責任を指摘し追及する人もほとんどいない。

今からでも、これら対策を最優先にし、汚染水の発生量をゼロにする対策を構築すべきだ。

◆「放出基準値」の異常

申請されている放出方法では、汚染水は1日当たり最大約500立方メートルを排出する計画で、 「1500ベクレル/リットル」の濃度まで海水で薄めて流すという。その総量は「トリチウムで年間22兆ベクレル」で、原発が稼働していた時の管理目標値を使う。

原発の時代の管理目標値を、どうして廃炉になった原発で使えるのか、その法的根拠は何かが疑問だ。

さらに福島第一原発が実際に稼働していた時代には、年間放出量実績は平均約2兆ベクレル程度だった。実績として管理目標値の10分の1に抑えていたとも言える。ところが今度は原発でさえない(即ち経済的なメリットも何もない)施設から年間22兆ベクレルを放出するという。

40年かけて毎年22兆ベクレル放出の場合、開始時点では汚染水は総量137万トンほど、さらに毎日130トン程度溜まり続けるために、全体量はすぐに大きく減らない。現状の風景の約1000基のタンク群はそのまま。目に見えてタンクが減りはじめるのは2040年頃以降である。

東電はタンクの貯蔵限界を2023年秋とし、最長で24年1月まで貯蔵可能としている。その段階で137万トンを越えるという。しかしこれは放出開始時期を2023年春と仮定し、逆算して日量130トンの汚染水発生を推定した結果にすぎない。大型台風がひとつ襲来したり梅雨や秋の長雨でもあれば崩れてしまう。

建屋の止水を進めることが最も効果的なのだから、これを進めていけば少なくてもタンク容量から、放出時期を23年にする根拠はなくなる。単なるつじつま合わせでなく、対策と効果を正しく評価して、優先すべきことを明確にする必要がある。(つづく)

◎山崎久隆《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する
〈1〉放出にいかなる理由があるのか 
〈2〉「汚染水対策」は最初から失敗 
〈3〉「1500ベクレル」の根拠 

本稿は『季節』2022年夏号(2022年6月11日)掲載の「福島第一原発からの『汚染水海洋放出』に反対する」を本ブログ用の再編集した全3回の連載記事です。

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《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する〈1/3〉放出にいかなる理由があるのか 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

福島第一原発の事故から、早くも11年余の時が経過した。この間に何度か地震に遭遇したが、大きな被害は受けていない。この地域は常に巨大地震と津波の脅威が迫っているとされるところであり、重大事故を再発する潜在的な危険性は大きい。

発生した場合、爆発的な炉心溶融ではなく、炉心の真下にあるデブリの拡散と1000基を超える汚染水貯蔵タンクの倒壊のような、放射性物質の拡散事故が大きな被害をもたらす恐れがある。また、使用済燃料プールの冷却ができなくなり、燃料破損・溶融も懸念される。言い換えるならば、原子炉建屋の倒壊が最も危険である。

それに対する安全対策は最優先事項だ。しかし現状はそうなっていない。

政府は、2021年4月に福島第一原発のタンクに溜まり続けている「汚染水」約134万トンについて、 「海洋放出」で処分することを決定した。その理由として費用対効果と共に、汚染水タンクが地震で倒壊した場合の放射性物質大量拡散を防ぐためとしている。

しかし、海洋放出を始めたからといってすぐにタンクがなくなるわけではない。30~40年とされる「廃炉期間」の間に順次減っていく程度である。最初の数年は、見かけも減った印象などないし、地震のリスクも変わらずに存在し続ける。

福島県民や漁業関係者をはじめとして、強い反対の声を押し切ってまで強行する合理的な理由は見当たらない。また、東電は敷地をタンクが占領している状態で、廃炉に必要なデブリ取り出しの施設、設備が設置できないことを理由としている。しかしこれは合理的な敷地利用で対処可能であり、理由にはなっていない。

すでに規制委員会の審査がほぼ終わり、2022年6月には排水用地下トンネル本体工事着工、2023年春頃にも放出開始されるとされる。その最新の状況をお伝えする。

◆福島第一原発の「汚染水」とは何か

NHKは2021年4月の関係閣僚会議での海洋放出決定以降、「汚染水」という表現をやめた。「風評被害を招く」との主張が国会でされたことが原因だ。

他の報道機関も「福島第一原発の貯蔵タンクの水」を「アルプス処理水」または「処理水」と呼ぶようになっている。なお、アルプスとは「ALPS・多核種処理設備」のことだが、以下「アルプス」と表記する。

しかし、どのように表現しても「流れ込んだ雨水と地下水と、冷却用の注水が溶け落ちた炉心いわゆるデブリに接触して汚染された水」を「多核種除去設備・アルプスで処理した水」であることに変わりはない。

最初の 「汚染」 を重視するか 「処理」を重視するかで、呼び方に違いがある。汚染の大小があるにしても、トリチウムなどの放射性物質が混じる水だ。「アルプス処理」をしてもトリチウムの量が1リットル当たり数百万ベクレルにも達するものもあるので「トリチウム汚染水」とも言える。しかしアルプスを通してもストロンチウムやセシウムなどは全部除去しきれないので「(放射能)汚染水」でもある。

現在貯蔵されているタンクの水は、そのまま薄めて海に流せるものは3割以下、残りは再度アルプスで処理して流すとしているから、国の基準でも現在の水は大半が汚染水であることに変わりはない。(つづく)

◎山崎久隆《特別寄稿》福島第一原発からの「汚染水海洋放出」に反対する
〈1〉放出にいかなる理由があるのか 
〈2〉「汚染水対策」は最初から失敗 
〈3〉「1500ベクレル」の根拠 

本稿は『季節』2022年夏号(2022年6月11日)掲載の「福島第一原発からの『汚染水海洋放出』に反対する」を本ブログ用の再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
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季節2022年冬号 刊行にあたって 季節編集委員会

日本の崩壊がいよいよ可視的なレベルにまで高まってきました。「国民総中流」、「Japan as NO.1」との形容があったことすら知らない世代が既に成人を迎えています。安倍、菅のあと就任した岸田首相は、所信表明演説で「改憲の迅速化」と「原発の再稼働」を明言しました。ほかにも些末なことに言及していましたが、ほとんどすべての政策が2022年年末に「破綻」していることは、自民党支持者を含め多くの国民が同意するところです。

広島出身の岸田総理には主としてマスメディアから、的外れな期待もありました。また来年開かれるサミットを広島で開くことに、積極的な意味を見出す言説です。しかし考えてみてください。2000年の「沖縄サミット」は沖縄に少しでも平和の助け舟を出したでしょうか。幾度も選挙で辺野古基地建設反対の意思を表明しても、結局政府は「沖縄無視」を決め込んでいます。広島サミットが実施されてもその果実はほとんど皆無でしょう。

「二酸化炭素」を最大の悪者とする世界において原発は国連が発するSDGsとのお題目から、生き残る護符を得ました。広島で各国首脳が原爆被害者に哀悼の意を表面上表したところで、現在最も深刻な問題である「核兵器」、「原発」の削減や廃止についての議論にまで話題が及ぶことは「絶対」といってよいほどありません。

わずか一世紀前弱の記憶はおろか、十年ほど前の記憶すら、権力者や金持ちにとって不都合であれば「なかったものにしよう」、「被害を最小化に閉じ込めよう」と蠢いて恥じないのがこの国の心象です。どこまで矜持と良心を放棄すれば気が済むのか、と当該人物顔の前十センチ前で尋ねてみたいと思うのは、気が短いせいでしょうか。

ことしは大きな戦争が起きました。おそらくは専門家でも予想できなかった規模と戦法によってウクライナがロシアに侵略されました。冷戦終結前は同じ国であり言語も似通った近隣国による不幸な戦争です。この戦争に軽薄な日本の政権を含む右派は「現在の日本国憲法では国が守れない」、「米国と核兵器を共有すべきだ」と無知丸出しの恥ずべき感情を吐露しました。その失当さは本文で「原発を止めた裁判官」、樋口英明さんが看破していただいています。

この国も、世界もどうやらこれまでよりも格段に速度の速い文明の転換点に確実に入ったようです。きのうまで当たり前であったことが明日認められる保証がどこにもない時代です。今一度「なにが起こるかわからない」時代への心の準備を再確認し、まずは原発の全廃に向けて進もうではありませんか。

2022年12月
季節編集委員会

12月11日発売 『季節』2022年冬号(NO NUKES voice改題 通巻34号)

季節 2022年冬号
NO NUKES voice改題 通巻34号 紙の爆弾 2023年1月増刊

[グラビア]福島の記憶 2011-2022(写真=飛田晋秀

鈴木エイト(ジャーナリスト)
《インタビュー》大震災の被災地で統一協会は何をしていたか

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
人は忘れっぽい、でも忘れるべきでないこともある

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
マボロシが蘇ってきたような革新炉・次世代炉計画

菅 直人(元内閣総理大臣/衆議院議員)
時代に逆行する岸田政権の原発回帰政策

樋口英明(元裁判官)
《インタビュー》「原発をとめた裁判長」樋口さんが語る「私が原発をとめた理由」
《緊急寄稿》40年ルールの撤廃について

飛田晋秀(福島在住写真家)
《インタビュー》復興・帰還・汚染水 ── 福島の現実を伝える

広瀬 隆(作家)
《講演》二酸化炭素地球温暖化説は根拠のまったくないデマである〈後編〉

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
《検証・福島県知事選》民主主義が全く機能していない内堀県政が続く理由

森松明希子
(原発賠償関西訴訟原告団代表/東日本大震災避難者の会Thanks&Dream[サンドリ]代表)

最高裁判決に対する抗議声明
司法の役割と主権者である私たちが目指す社会とは

伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
「原発事故避難」とは何なのか

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
経産省「電力ひっ迫」で原発推進のからくり

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
原発政策の転換という反動的動きを見て

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
自分の将来、すべてが変わってしまった
311子ども甲状腺がん裁判第二回口頭弁論期日に参加して

板坂 剛(作家/舞踏家)
何故、今さら猪木追悼なのか?

松岡利康(鹿砦社代表/本誌発行人)
いまこそ、反戦歌を!

細谷修平(メディア研究者)
シュウくんの反核・反戦映画日誌〈3〉
映画的実験としての反戦 『海辺の映画館―キネマの玉手箱』を観る

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
「辞世怠(じせだい)」原子炉ブームの懲りない台頭

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈18〉
文明世紀末から展望する~新たなユートビアは構築可能か~

再稼働阻止全国ネットワーク
「原発の最大限の活用と再稼働の全力推進」に奔走する岸田政権に反撃する!
《北海道》佐藤英行(後志・原発とエネルギーを考える会 事務局長)
《東海第二》横田朔子(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
《新潟》小木曾茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
《志賀原発》藤岡彰弘(志賀原発廃炉を求める「命のネットワーク」有志)
《浜岡原発》沖 基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)

反原発川柳(乱鬼龍選)

《関係者証言録公開》もんじゅ職員不審死事件 ── 夫の「死」の真相を追及する西村トシ子さんの闘い〈6〉 尾崎美代子

◆広報室長・廣瀬氏の証言

次に、1月12日、動燃の行った3回の会見すべてに同席した広報室長・廣瀬氏の証言記録を見てみよう。

廣瀬氏は、大石氏に「12月25日と正直に答えなさい」と指示をされたのは、1回目の会見後の打ち合わせだったと証言している。ならば、その直後の2回目会見で、大石氏自身が正直に12月25日と答えれば良かったのではないか? そうすれば、3回目の会見に西村氏は駆り出されたりすることも、さらに死ぬこともなかったのだ。

弁護人にそのことを質問された廣瀬氏は「理事長はやはり理事長としての立場がございますから、やはり物事の本質論ですとか、そういうことを述べるというのが当然だと思います」などと証言した。

また、廣瀬氏は、会見を終えた西村氏に、科技庁の会見場から出た廊下で「なぜ1月10日と言ったのか?」と尋ねたという。その際、西村氏からは「年をまたいだら、もたないだろうと思った」と言われたと証言した。妻のトシ子さんは「一職員でしかない西村がそんなこというかしら」と言う。確かに、理事長が「12月25日と正直に答えなさい」と指示しているのに、一職員の勝手な判断でそんなことをいうだろうか。

しかし、西村氏がそう言ってしまったために、廣瀬氏と安藤氏は「訂正会見をやらなければ」と帰りの車中で話しあったという。

そもそも安藤氏と廣瀬氏は、西村氏の会見で同席しながら、西村氏が理事長大石氏の指示に従わず、「1月10日」と発言したならば、「何を言っているんだ」と驚いたはずだ。しかし、3回の会見を取り仕切った、廣瀬氏の部下A氏は、そのとき廣瀬氏、安藤氏に特別変わった様子はなかったと控訴審で証言している。

一方、西村氏の発言をその場で訂正できなかったか理由を質問された廣瀬氏は「常識論として、調査をした人間の答えを調査しない人間が、間違いじゃないかというのは、プレスがたくさん集まって、テレビのカメラが回っている状況の中でできるかどうかというのは、常識的に考えれば、それはパスするということになるんじゃないでしょうか」などと、どこか居直ったように証言した。

理事長・大石氏、理事長秘書役・T氏、広報室長・廣瀬氏(いずれも当時)他4名、計7名の314頁に及ぶ証言記録
 
福井県敦賀市白木地区で出会ったおばあさん。「あの近くにうちの畑があった」と指さす先にもんじゅが建っていた

納得いかない弁護士は、廣瀬氏にこう迫った。

弁護士 西村さんの地位は何ですか。

廣瀬  総務部の次長です。

弁護士 大石さんの地位は。

廣瀬  理事長です。

弁護士 大石さんの指示は12月25日だったんでしょう。

廣瀬氏 そうです、はい。

弁護士 どちらが重いんですか。

廣瀬氏 ……。(無言)

◆西村さんの会見は失敗ではなかった

西村氏の死が自殺だというなら、動燃に安全配慮義務違反があったのではないかと訴えた裁判の一審は敗訴した。トシ子さんはすぐに控訴した。2007年に始まった控訴審で、トシ子さんらは「動燃は、記者会見で真実を公表するか虚偽の事実を公表するかの二律背反的な進退窮る状況におき、結果として虚偽の発表を強いた」旨に一部主張を改めた。

こういうことだ。大石氏は、理事長として、打ち合わせで「2時ビデオが本社にあったことがわかった日は12月25日と正直に答えなさい」と指示しつつ、自身の会見では「初めて知ったのは昨日(11日)の夕方」と真っ赤な嘘をついたことから、西村氏は12月25日と正直に答えるか、大石氏に合わせて、(大石氏に報告した前日の)1月10日と嘘をつくかの二律背反的な状況を強いられ、結果、嘘をつかざるを得なかったのである。

では、3回目の記者会見がどのような様子だったかを、先の廣瀬氏の部下のA氏の証言からみていこう。A氏は、会見の調整役として、12日の3回の会見をすべてを現場で見ていた。事前の打ち合わせに出ていないA氏は、大石氏の指示は知らないため、西村氏の発言が正しいかどうかはわかっていない。しかし、西村氏は、会見では厳しく追及されたものの、終了後は記者らに囲まれ、褒められていたと証言した。

次の場面である。

弁護士 この会見の後、西村さんとあなたは言葉を交わしてますか。

A氏  会見の後は交わしてないですね……。あるとすれば、接点は1回だけあるんですけども、それは(西村さんが)会見場を出てこられたときに記者に囲まれたんですよね。それで記者の皆さんが、非常に立派な会見というのはおかしいかもしれないけど、きっちりしてましたというようなことをおっしゃったんですよ、皆さんが。で、西村さんもお疲れなので、あまりそこでつかまってもあれなので、「じゃあ」ということで私が仕切ったと思います、その入り口のところは……。

弁護士 何かすごく記者が殺気立って、追及みたいなことがあったみたいな情報もあるんですが、むしろそうじゃなかったということですか。

A氏  外のところはなかったです。その会見の席は結構厳しいと思いました。

弁護士 厳しいやりとりはあった。

A氏  あったと思います。

弁護士 それで、これも会見終了後ですけれども、廣瀬さんが、なぜ1月10日というふうに言ったのかというふうに聞いたら、会見場を出た廊下の部分、いま、あなたが言ってたところなんだけど、彼(西村さん)が年をまたいだら持たないと思ったのでそういったと答えたと。ちょうどその本人が会見場を出てきた辺りでやられていたことのようなんですが、それはご記憶ないですか。

A氏  いや、そこではそういう話は多分しないと思いますね、記者に聞こえるところではしないと思います。

弁護士 そこからちょっと離れたところ。

A氏 だから、出て、私は記者をそこで引き留めてしまったので。ほかの方たちはすっと帰られたと思うんですね。

 
夫の「死」の真相を追及する西村トシ子さんの闘いは続く

さらに、A氏は、上司の廣瀬氏から、間違った西村発言を訂正する会見を開く予定は聞いていたかと質問され、「ないです。私にしてみれば、なぜその日にやらないかというふうに思いますけどね」「(夜中でも)かまいません」と、当時は夜中の会見はざらにあったと証言した。

しかし、廣瀬氏と安藤氏は、「訂正しなくてはならないね」と話し合ったものの、その後会見は行わず、翌日の定例会見で訂正する予定だったと証言した。

しかし、翌日は土曜日で、通常定例会見を行うことはなかったと、A氏は証言した。A氏同様、当時会見に参加していた複数の記者が「西村さんは、初めての記者会見にしては堂々としていました。あのような厳しい状況のなかでの会見で、言うべきことははっきり言い、わからないことはわからないと対応していました。割とうまくやったと思います」と話している。

不本意だったとはいえ、西村氏の会見時での発言は、動燃職員としては間違っていなかったのだ。つまり、そのことを苦に自殺することは、まずあり得ないのだ。動燃から西村氏の死についての説明は一切ないなか、T氏の「西村職員の自殺に関する一考察」では、西村氏は、会見で間違った発言をしてしまったことを苦にした自殺とされた。しかもそれに、よって厳しい動燃批判は一挙に沈静化し、再び動燃はもんじゅ稼働を推し進めていった。

「組織防衛のために夫が生贄にされた」。

悔し気にそう話すトシ子さん。

もんじゅが、ほぼ稼働せず、廃炉が決まったのは、西村氏の死から20年後の2016年だった。その日、トシ子さんは、仏壇に置かれた夫の遺影にこう話しかけた。

「もんじゅのために死ぬことはなかった」──。(了)

《関係者証言録公開》もんじゅ職員不審死事件──夫の「死」の真相を追及する西村トシ子さんの闘い【全6回】
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44727
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44733
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44851
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44879
〈5〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44951
〈6〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44985

※本稿は『NO NUKES voice』30号掲載の「『もんじゅ』の犠牲となった夫の『死』の真相を追及するトシ子さんの闘い」と『季節』2022年夏号掲載の「《関係者証言録公開》もんじゅ職員不審死事件 なぜ西村さんは『自殺』しなければならなかったか」を再編集した全6回の連載レポートです。

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年秋号(NO NUKES voice改題 通巻33号)
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年12月号

《関係者証言録公開》もんじゅ職員不審死事件 ── 夫の「死」の真相を追及する西村トシ子さんの闘い〈5〉 尾崎美代子

◆あの日、夫に何が起こったのか?

遺体発見時の10時間前に亡くなっていた動燃職員・西村成生(しげお)氏。しかし、妻・トシ子さんへの遺書には「3:40」との時刻が書いてあった。遺書は確かに西村氏の字だが、数字は別人のものだった。

「夫はどこかで無理やり遺書を書かされたあとで、殺害されたのでないのか」。

トシ子さんはそう確信し、8年後の2004年、ようやく闘ってくれる弁護士に出会えた。しかし、動燃を「殺人罪」で訴えたいというトシ子さんの要求はかなわず、西村氏が自殺したというならば、動燃に「安全配慮義務違反」があったと訴えることになった。

トシ子さんにとっては不本意だったが、証人尋問で証言した、理事長・大石氏、理事の大畑氏、安藤氏、広報室長・廣瀬氏、そして理事長秘書役・T氏らの証言の記録から、西村氏が不審死する前後に何があったのかが明らかになってきた。

もう一度時系列で追ってみる。1996年1月11日夕方、動燃本社で大石理事長、安藤氏、理事長秘書役のT氏らが出席し、調査チーム主催の会議が行われた。8時過ぎには、動燃と科技庁との間で、どのタイミングでメディアに公表するかが話し合われた。しかし、前述の通り、12日、中川科技庁長官が会見で「ビデオは動燃本社に持ち込まれ、本部員も見ていた」などと発言したためメディアが騒ぎ出し、動燃も急きょ会見せざるをえなくなっていた。

1回目の会見で理事の安藤氏は、メディアの質問にまともに答えられず、怒ったメディアから、理事長大石氏の会見が要求された。

安藤氏の会見後、大石氏、関係者らは1回目の打ち合わせを行った。会見前の関係者の打ち合わせは、この1回目と、3回目会見前の2回目があり、証人により、そのどちらの打ち合わせかは違っているが、全員が、大石氏が「『2時ビデオ』が本社に持ち込まれていたことを確認した日は12月25日であると、正直に言いなさい」と指示したと証言した。大石氏がそこまで「12月25日と正直に言いなさい」と指示したとなれば、確かにT氏の「西村職員の自殺に関する一考察」のように、西村氏が間違った発言を苦に自殺したとも推測できる。しかし、裁判で証言した大石氏、大畑氏、T氏、広報室長・廣瀬氏らの証言からは、そうした事実と相反する事実が次々と明らかになった。

◆誰が嘘をついているのか?

2006年2月、東京地裁で大石氏は、「2時ビデオ」が本社にあったことを知ったのは、1月11日の会議の場だったこと、調査チームからは、それまで1度も報告がなかったこと、西村氏には11日初めて会ったと証言した。ビデオ問題が、もんじゅ存続の可否を決める重大事項になっている最中、自ら指示して作らせた調査チームの職員に、会ったたことがなかった……そんなことがあり得るだろうか。

また西村氏、安藤氏、広報室長・廣瀬氏が、会見後に大石氏に報告した際、大石氏は「安藤理事がなんとか無事に記者会見を終えることができましたという旨の報告がありました」「西村氏に変わった様子はなかった」と証言した。

また大石氏は、弁護士に「西村氏がなぜ自殺したと思うか?」「本社に『2時ビデオ』があったことを確認した日が12月25日であったのに、1月10日と発言したことと関連しているかどうかについてはどう思うか?」と問われ、「わからない」と答え、西村氏が「1月10日」と発言したことは、西村氏の死後、秘書役のT氏から聞いたと証言した。繰り返すが、重要な会見で、出席者がどのような発言をしたか、理事長が知らなかったなんて、あり得るだろうか?

では会見後、普段と変わった様子のなかった西村氏が、なぜ自殺しなければならなかったのか? その原因と思われる個所を、西村氏が間違った発言を苦にして自殺したと「考察」したT氏の証言から見てみよう。

西村氏が会見に使った資料(想定問答集)には、西村氏の字で「1月11日頃」との書き込みがあった。それについて、弁護士がT氏に、打ち合わせで何が話し合われたかと質問した。

弁護士 弁護士21号証で、これは調査グループが調査に入ってから、12月25日であるという1つの想定の答えが書いてあって、その右側に1月10日頃という記載があるんですけれども。

T氏  はい、ありますね。

弁護士 どういうやりとりがあったかは思い出せますか。12月25日という書き込みがあり、他方、本当のメモ書きなんだけれども、コピーで1月10日というふうに残っている。この1月10日頃という書き込みの、この字は西村さんの字なんですけども、どんなやりとりが行われたか。

T氏  それは私には判りませんが、やりとりがあったのは私のほうからご質問させていただいたんでよく覚えているんですが、この質問の、Eが保管していた事実が判明したのはいつかということで、12月25日という回答がでたわけですね、議論の中で。

弁護士 回答って、事実でしょう、調査結果の。

T氏  (12月25日を)ここに書きましょうという。それで、そのときに私から理事長に、12月25日ということで本日になって発表すると、いままでの経緯、ビデオ問題をさんざん隠して社会の糾弾を浴びておりましたから、今日になって、12月25日に判明しましたということをいうと、また騒ぎになりますが、それで宜しいですねということを聞きました。そのときに理事長がいいと、事実をありのままに言いなさいとおっしゃったので、よく記憶しております。(中略)

弁護士 第3回目の記者会見に向けて、あなた自身は12月25日の日取りについて不安があったと。12月25日といっちゃうと10日間以上も何をやっていたんだという話になると、大丈夫でしょうかという不安があったとおっしゃるわけね。

T氏  はい。

弁護士 実際には、理事長は本当のことを言いなさいというんだと。第3回目では結局(西村氏は12月25日とは)言ってなかったということになったんですが、その記者会見はどう聞いておられますか。

T氏  だいぶあとですね。僕は(会見で西村氏が)1月10日というふうにいわれたということを知ったのは2日後ぐらいですから。

弁護士 要するに、西村さんが亡くなられたと、関係方面から耳に入ってきたという話ですよね。

T氏  はい。

動燃理事長秘書役(当時)だったT氏が書いた手書き文書「西村職員の自殺に関する一考察」1-2頁
同上 3-4頁

西村氏が発言した3回目の会見後、大石氏に報告した際、西村氏が1月11日と発言したことは、誰からも全く問題にならなかったと、T氏は証言した。西村氏の両隣には安藤氏、廣瀬氏もいたし、事前の打ち合わせで大石氏にあれだけ「12月25日と正直に言いなさい」と指示されながら、西村氏の間違った、ある意味大石氏に背くような発言を行ったことを、咎める、訂正させる人が全くいなかったということがあり得るだろうか?

大石氏が、12月25日と正直に言うことについて、T氏自身が懸念を示していたのだ。であるならば、会議でなんらかの対処法などが検討された可能性もあるが、それについてはT氏はきっぱりと否定。さらにT氏は、11日午前と12日午後に、大石氏はじめ関係者が出席した重要な会議に出席した事実が議事録にも残っているのに、「まったく記憶にない」と否定した。T氏の理事長秘書役という役職は、通常の秘書業務だけではなく、「理事長に関わる問題のほとんど全部についてかかわってくる。理事長に情報を提供したり、いろんな問題について提案をしたりする」と理事長の大石氏が証言していた。その T氏は、理事長秘書役として重要会議に出席していたことを、なぜ頑なに否定するのだろうか?(つづく)

《関係者証言録公開》もんじゅ職員不審死事件──夫の「死」の真相を追及する西村トシ子さんの闘い【全6回】
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44727
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44733
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44851
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44879
〈5〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44951

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

※本稿は『NO NUKES voice』30号掲載の「『もんじゅ』の犠牲となった夫の『死』の真相を追及するトシ子さんの闘い」と『季節』2022年夏号掲載の「《関係者証言録公開》もんじゅ職員不審死事件 なぜ西村さんは『自殺』しなければならなかったか」を再編集した全6回の連載レポートです。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年秋号(NO NUKES voice改題 通巻33号)
タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年12月号