『季節』2024年冬号 次の10年に向かって ── 季節編集委員会

本誌『季節』は前号で創刊から10周年を迎えました。10年前、世の中の機運が反(脱)原発に溢れ、会社の景気も良く、意気揚々と出発しましたが、新型コロナ急襲にて局面が変わりました。世の人々はコロナで狂わされた日々の生活に追われるあまり、反(脱)原発の機運も盛り上がらなくなりました。世の人々も私たちも、10年の半分の5年ほどはコロナ禍による業績不振に苦しんできました。

これを支えてくださったのは、福島現地の方々、避難され不自由な生活をされている方々、毎号現地からの活きたレポートを寄せてくださる方々らでした。さらには定期購読やご支援金で支えてくださる読者の皆様方にも助けられました。

半分(以上)は私たちみずからの力不足ではありますが、本誌は創刊以来一度も黒字になってはいません。常識的な経済原理からすると休廃刊もやむをえないところでしょうが、類似の雑誌もなく、小さくとも反(脱)原発の拠点として被災者、被災現地の生の声を伝えるメディアとして生き延び発行を継続していければ、と願っています。

今年も年末が近づいてまいりました。毎年思うのですが、被災地の方々、故郷から離れることを余儀なくされた方々らは、どのような想いで過ごされているのでしょうか。胸が詰まります。

そうしたこともあって、本誌でも毎号気持ちの入った書を巻頭に揮毫している、大学の後輩で書家の龍一郎と話し合い、わずかでも被災された方々と励まし合い、また一人でも世の方々にその想いを伝えようとして始めたのが鹿砦社カレンダーです。

それ相当の費用が掛かっていますが、私たちの想いが詰まったカレンダーですから無料で配布しています。数に限りはありますが、主に本誌の定期購読者を中心にお配りしています。今年も出来上がってまいりました。定期購読の方には同封しております。今、新たに定期購読をお申し込みされた方にも送ります。なくなればそこでストップとなります。毎年ほとんど余りません。

今夏は歴史的な猛暑でした。師走を迎え季節は冬に入っていきます。この冬の寒さはいかばかりでしょうか。寒さがいかに厳しいとしても、なんとしても乗り越え共に春を迎えましょう!

本誌『季節』は次の10年に向かって歩き始めました。この世から原発がなくなる日まで共に頑張りましょう!

2024年12月 季節編集委員会

12月11日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年冬号 

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年冬号(NO NUKES voice 改題 通巻41号)
紙の爆弾 2025年1月号増刊
A5判 132ページ(巻頭カラー4ページ+本文128ページ) 
定価770円(税込み) 2024年12月11日発売

[グラビア]輪島市門前町深見地区。5.2メートルもの隆起が確認できた(2024年9月8日 写真提供=北野進)

[グラビア]能登半島震災一年 隆起に沈む人と国(北野進)/復興進まず“棄民”の地(北村敏泰

樋口英明(元福井地裁裁判長)
[報告]2025年の脱原発 非力ではあるが、無力ではない

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
[報告]核融合発電はできないし、やってもいけない
[講演]伊方原発を止める裁判闘争の歴史的・社会的意義

後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
[報告]福島第一原発事故炉 危機の真実 ペデスタル破損と溶融デブリの下で事故収束は可能か

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
[報告]第七次エネルギー基本計画の何が問題か

────────────────────────────────────
《特集》避難対策は全国どこでも「絵に描いた餅」
────────────────────────────────────

北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団長)
[講演]能登半島地震が実証した避難計画の破綻

石地 優(福井県若桜町・有機農業)
[報告]能登半島地震で何が起きていたのか 原発事故になれば避難はできません

阿部功志(茨城県東海村議会議員)
[報告]問題だらけの東海村避難計画 どうすれば「避難弱者」を救えるか

菅野みずえ(福島県浪江町・原発事故避難者)
[報告]福島の避難所で起きていた性被害 避難計画には女性の意見を!

森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
[報告]原発賠償関西訴訟・法廷で語られる真実 本人尋問が伝える「被害」と「避難」の実相
 
────────────────────────────────────

北村敏泰(ジャーナリスト)
[報告]脅かされる被災住民のいのちと生活 能登半島地震でも国や行政の“棄民”政策

和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
[講演]福島イノベーションコースト構想の真実〈後編〉「日本のハンフォード」になる福島

柳原敏夫(弁護士)
[報告]いま法律が危ない

平宮康広(元技術者)
[報告]水冷コンビナートの提案〈2〉

漆原牧久(脱被ばく実現ネットボランティア)
[報告]考えないようにすることで精神の安定を保っています  
3・11子ども甲状腺がん裁判第11回口頭弁論期日報告

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
[報告]国家がせり出してくる時代 ── 希望は何処にあるか

板坂 剛(作家/舞踊家)
[報告]三島由紀夫生誕100年 死後54年に想う!

佐藤雅彦(翻訳家/ジャーナリスト)
[報告]原子力は地域社会に「核分裂」をもたらす

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
[報告]山田悦子の語る世界〈25〉 絶望の時代《今》を生きる意味(上)

大今 歩(高校講師/農業)
[報告]「人為的CO2温暖化説」を止めない限り、原発は止まらない

再稼働阻止全国ネットワーク
核ゴミの行き場はない! 福島は終わっていない! 
沸騰水型原発の再稼動反対! 東電に原発動かす資格なし!

全国各地からの生の報告(全10本)
《青森》山田清彦(核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団)
 六ヶ所再処理工場とむつ中間貯蔵施設の実態
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 再稼働反対11・2集会宣言(抗議声明)案(抜粋)
《福島》木幡ますみ(大熊町議)
 大熊町民の本音
《柏崎刈羽原発》桑原三恵(規制庁・規制委員会を監視する新潟の会)
 ”安全”ではありえない柏崎刈羽原発の再稼動
《日本原電》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 原発を動かす資格のない原電は廃炉作業に専念するよう求めます
《高浜原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
「9・23高浜全国集会」の報告と「12・8関電包囲大集会」の案内
《敦賀原発》山本雅彦(原発住民運動福井・嶺南センター事務局長)
 日本原電敦賀原発2号機の廃炉を要求する
《中国電力》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 活断層に囲まれた島根原発2号機の再稼働は中止すべきだ!
《四国電力》名出真一(伊方から原発をなくす会)
 伊方原発3号機の即時廃炉を!!
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 大地震の脅威を無視し原子力災害対策指針改訂でお茶を濁す原子力規制委員会

[反原発川柳]乱鬼龍

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

島根原発2号機の再稼働を強行した中国電力本店前で抗議行動 さとうしゅういち

中国電力は2024年12月7日、12年ぶりに島根原子力発電所2号機を再稼働させました。島根2号機は、2011年に大事故を起こした福島第一原発と同じ沸騰水型軽水炉です。女川原発に続いて沸騰水型では2基目の再稼働となります。

原子力規制員会の新安全基準に基づいて審査され、2024年10月23日に「テロ対策施設整備を5年以内に実施すること」を条件に正式に「合格」したことにはなっています。

しかし、以下の問題が残されています。(後述の中国電力前での抗議行動での各弁士のお話しと筆者自身の過去の選挙での政策から構成)

◆裁判所も指摘した避難計画の実効性のなさ

島根原発は全国でも唯一、県都=松江市にある原発です。山陰地方の人口の多くが、30km圏内にある松江市、出雲市、境港市に集中しています。もし事故になれば、住民は島根県西部や広島県、あるいは鳥取県東部方面に避難することになります。

だが、大震災による原発事故の場合、日本海と宍道湖・中海に囲まれた地域は孤立する危険があります。

また、広島県民にとっても他人事ではありません。多くの住民は自家用車で避難するとみられます。その場合は、途中で除染を受けることに建前ではなっています。だが、福島原発の周辺が町村部で人口が少なかったのに対し、島根の場合は避難人口が多い。大混雑が予想されます。そして、スクリーニング検査や除染をスルーして広島県内の避難先に向かう人が多数出るでしょう。

島根原発2号機再稼働を差し止める仮処分申請について裁判所でも、避難計画は実効性がないと断じています。ただ、事故が起きる可能性があるのを証明するのは原告=住民側の義務だ、などと言う理由で、仮処分申請を却下しています。

◆島根県内の活断層連動の危険

島根原発すぐそばには宍道断層があり、M7以上の地震を発生させる可能性が高いとされています

地震動を起こす断層面は、原発の直下にも広がっています。これは、能登半島大震災時の志賀原発よりもさらに厳しい状況です。

さらに、この活断層は鳥取県沖の活断層とも連動する可能性を中電自身も認めています

それこそ、100Km以上に渡って連動すれば、M8以上と言うこともありうる。ただ、能登半島沖の活断層同様、これまで研究が進んでいなかっただけです。それこそ、原発の直下の地盤も大きく変動する。安全装置など役に立たなくなる危険もある。避難どころではなくなる危険もあります。

原子力規制委員会はテロ対策施設以外については、2021年9月15日時点で合格としています。だが、能登半島大震災の教訓を十分に踏まえた知見とは言えないのではないでしょうか?

◆だれも責任を取らない原発

実は原発について、責任を取る人は決まっていません。原子力規制委員会も「基準に合格」と認定するだけです。「許可」をするわけではない。また、過去の判例でも例えば福島原発事故については、東京電力の責任は認めても、国の責任は認めていません。国が原発を推進してきたのですが、実際の運用は電力会社に任されている。そんな状態の物を動かせるのですか?ということです。

◆そもそも中国地方に原発は必要ない

百歩譲っても電力が足りない状況が生じえるのは、日本でも東京電力管内のそれも限られた時間帯です。AI関連のデータセンターで電力需要が増えると言うが、それなら遠方の原発から供給するのではなく近場での発電で賄った方が効率は良いでしょう。環境に配慮した形での再生可能エネルギー、つなぎとしての高効率火力発電。また、スマートグリッド、蓄電池などを進めて行けばよいのです。

また、東京周辺についてはそれこそ、人口が異常に集中しすぎているのが問題です。どうせ、狭い東京に電源を造るのに限界があるのですから、人口を分散させるしかない。「国会等の移転に関する法律」を速やかに実施し、政府機関の移転で人口の分散を図るべきです。

まして中国地方に原発を造るいわれはない。なお、これまで、核燃料税などで潤ってきた地元自治体に対しては国が責任をもって産業振興をすれば良いのです。また、原発廃炉に当たっては電力会社から国が原発を買い上げて責任をもって廃炉にすればいいのです(核燃料が財産として計上されている分も含め、国が保障する)。

◆中国電力前で抗議行動

再稼働の12月7日、「上関原発いらない!広島ネットワーク」など広島県や島根県の市民団体などは中国電力本店前で抗議行動を行いました。

広島に二番目に近い原発・島根原発。広島県民にとっても他人事ではありません。

そもそも、原爆の爆心地=広島1区の市民が選出=任命した衆院議員である岸田前総理が、安倍政権までの「脱原発依存」方針を転換してGX(グリーントランスフォーメーション)を錦の御旗に原発推進に一挙に舵を切りました。広島一区の有権者の責任でもあります。


◎[参考動画]島根原発再稼働に抗議 中国電力前 広島瀬戸内新聞(さとうしゅういち)

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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12月11日発売 〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年冬号 

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年冬号(NO NUKES voice 改題 通巻41号)
紙の爆弾 2025年1月号増刊
A5判 132ページ(巻頭カラー4ページ+本文128ページ) 
定価770円(税込み) 2024年12月11日発売

[グラビア]輪島市門前町深見地区。5.2メートルもの隆起が確認できた(2024年9月8日 写真提供=北野進)

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《特集》避難対策は全国どこでも「絵に描いた餅」
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北村敏泰(ジャーナリスト)
[報告]脅かされる被災住民のいのちと生活 能登半島地震でも国や行政の“棄民”政策

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3・11子ども甲状腺がん裁判第11回口頭弁論期日報告

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[報告]国家がせり出してくる時代 ── 希望は何処にあるか

板坂 剛(作家/舞踊家)
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再稼働阻止全国ネットワーク
核ゴミの行き場はない! 福島は終わっていない! 
沸騰水型原発の再稼動反対! 東電に原発動かす資格なし!

全国各地からの生の報告(全10本)
《青森》山田清彦(核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団)
 六ヶ所再処理工場とむつ中間貯蔵施設の実態
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 活断層に囲まれた島根原発2号機の再稼働は中止すべきだ!
《四国電力》名出真一(伊方から原発をなくす会)
 伊方原発3号機の即時廃炉を!!
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 大地震の脅威を無視し原子力災害対策指針改訂でお茶を濁す原子力規制委員会

[反原発川柳]乱鬼龍

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

LGBT犯罪録 かなざわシャブのま事件──金沢レインボープライド事務局長が覚醒剤で逮捕〈4〉 森 奈津子

2024年3月下旬、金沢レインボープライド事務局長・奥村兼之助氏(50)が覚醒剤を所持、「かなざわにじのま」で使用したとして逮捕。その後、金沢地裁に覚醒剤取締法違反容疑で起訴された。その事件が報道されたのは、3ヶ月近くが経過した6月4日の初公判の翌日だった。 その間、金沢レインボープライドは事件をひた隠しにしていた。あるLGBT活動界隈の方からは、「実は、金沢レインボープライドの一般スタッフにも、奥村氏逮捕は知らされていなかった。団体から彼が突然消えたことに関しては、幹部同士でけんかや対立があったのではないかという憶測だけが流れていた」との情報も寄せられた。これが事実なら、金沢レインボープライド幹部は運動を支える仲間たちにも事件をひた隠しにしてきたということになる。不誠実極まりないと言えはしないか? 奥村氏逮捕を知ったLGBT当事者の間では、当然、金沢レインボープライドに対する批判の声があがった。「報道がなければ、ずっと隠すつもりだったのか?」「身内の犯罪に甘すぎる!」と。 それにあわてたのか、金沢レインボープライドは逮捕報道の直後に、公式HPとXで次のような謝罪文を発表した。
 ご報告とお詫び  本年3月に弊団体元スタッフ1名が覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕・ 起訴されました。  このような事件が発生したことは誠に遺憾であり、関係の皆様方に多大なるご心配とご迷惑をお掛けしておりますことに対し、 深くお詫び申し上げます。また、警察の捜査に対してはすでに全面的に協力しておりま すことを申し添えます。  今後は裁判の行方を見守り、事実関係を踏まえ厳正に対応してまいります。また、弊団体全スタッフの法令順守の取り組みを一層徹底してまいります。                           2024年6月5日                           金沢レインボープライド
逮捕された事務局長の名前だけでなく、代表者名まで伏せた謝罪文
この短い「ご報告とお詫び」文書に、LGBT当事者はざわついた。 「『元スタッフ』って、なに? 逮捕されたときには事務局長だったよね?」 「しかも匿名?」 「事務局長って言ったら、普通、団体代表に次ぐナンバー2でしょ? それがシャブ歴20年のうえ、運営施設でキメてたのに、これで終わらせるつもりか?」 「団体代表の名前すら出さずに、謝罪? なにコソコソしてるのよ!」 「これだけ? こんな簡単な詫び文で済ませるつもり?」 実は、事件の悪質性や社会に及ぼす影響以外にも、LGBT当事者から見るとツッコミポイントがあったのだ。 皆様は、2023年3月に岸田文雄首相の秘書官・荒井勝喜氏がLGBT差別的な発言をし、LGBT活動家が「差別だ!」と大騒ぎし、辞任に至った事件は、覚えておいでだろうか? あれは元々、オフレコとして荒井秘書官が口にしたものを、毎日新聞電子版が記事にしてしまい、騒ぎに発展したものだった。 以下に、その記事を引用する(https://mainichi.jp/articles/20230203/k00/00m/010/329000c)。
首相秘書官、性的少数者や同性婚巡り差別発言/毎日新聞/2023年2月3日  LGBTQなど性的少数者や同性婚のあり方を巡り、経済産業省出身の荒井勝喜首相秘書官が3日夜、記者団の取材に「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などと差別的な発言をした。首相官邸でオフレコを前提にした取材に対し発言したが、進退問題に発展しかねず、国会で岸田文雄首相の任命責任が問われる可能性がある。  記者団は1日の衆院予算委員会で岸田首相が同性婚の合法化などについて「社会が変わっていく問題だ」などと述べたことについて質問。荒井氏は「社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」などと発言したほか、「人権や価値観は尊重するが、同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」との趣旨の言及もあった。【高橋恵子】
毎日新聞のオフレコ破り記事。末尾には「高橋恵子」との署名あり
この報道を受け、ただちに荒井秘書官は謝罪し、発言を撤回。岸田首相も謝罪し、彼を更迭した。 しかし、このとき、活動家ではないLGBT当事者は、荒井氏よりもマスコミに対して非常に辛辣な感想を洩らしていたのである。 「オフレコを前提にした発言を記事にするなんて、毎日新聞の記者が非常識なだけ」 「同性愛者を『見るのも嫌だ』という人がいても、べつにいいんじゃない? いちいち大騒ぎするようなことかしら?」 「差別的な本音を口にするのはどうかと思うけど、オフレコ発言を記事にする記者のほうがヤバくない?」 「まーた、LGBT活動家がLGBT商売のネタに食いついてるよ。まさに虹ヤクザ」 さらにはその後、複数のLGBT団体の者が官邸に押しかけ、岸田首相に謝罪させたのを、皆様は覚えておいでだろうか? あの中の一人が、金沢レインボープライド代表の松中権氏だったのである。 今でも確認できるウェブ媒体の中で、団体名を明記している日刊スポーツの記事を、ここでご紹介する(https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202302170001287.html)。 実は、マスコミ報道の中には、彼らLGBT活動家をまるで一般のLGBT当事者であるかのように報じるケースも多く、油断できないのである。
岸田文雄首相「不快な思いさせた」性的少数者の支援団体と面会し直接謝罪 元秘書官の差別発言/日刊スポーツ/2023年2月17日  岸田文雄首相は17日、LGBTなど性的少数者を支援する団体と官邸で面会し、元首相秘書官による差別発言を謝罪した。「極めて不適切。多くの方に不快な思いをさせたことを心からおわびを申し上げたい」と述べた。  今月3日に元秘書官の差別発言が出た後、首相が関係者に直接謝罪したのは初めて。「多様性が尊重され、すべての人々が互いの尊厳を大切にする社会を目指すべく努力していかなければならない」と述べた。  面会は、予定時間を超えて約50分に及んだ。「プライドハウス東京」「LGBT法連合会」「ReBit」の3団体の関係者が出席した。  出席者によると、首相は1日の衆院予算委員会で、同性婚の法制化に関して「社会が変わってしまう課題」と発言した真意について「ネガティブな意味ではない」などと釈明。今後は、団体側の意見を参考にする考えも示したという。  支援団体側は面会の中で、首相に差別禁止法や同性婚の法制化を要請した。LGBT法連合会の神谷悠一事務局長は、面会後の取材に「(この日の面会を経て)抜本的に政策が加速し、変化していくことを期待している」と話した。  首相はまたこの日付で、森雅子首相補佐官を、新たにLGBT理解増進担当に任命した。性的少数者の人権問題を専門に担当する首相補佐官の創設は、支援団体側が求めていた。
──はい、首相官邸に押しかけたLGBT団体の名がちゃんと記録されていますね。「プライドハウス東京」「LGBT法連合会」「ReBit」。 この中の「プライドハウス東京」の代表として首相に謝罪を迫ったのが、松中権氏だ。大物LGBT活動家である彼は、「金沢レインボープライド」の他にも、複数のLGBT団体を運営しているのである。 この報道で、Yahoo!ニュースは、岸田首相が松中氏に頭を下げているかのような写真を記事に使用した。動画を確認すると、実はこれは、首相が書類をテーブルの上に置こうと身をかがめた一瞬のことだったとわかる。LGBT活動家の威光を示して首相を貶めたいという反権力気取りの担当者が、わざわざこの画像を切り取ったのだろう。
ほぼ捏造に近い切り取り。偏向報道と呼ぶには、あまりにもセコい
当然、LGBT当事者はYahoo!ニュースの報道に不快感を示した。 「まーた、松中が『いいとこ取り』するために、わざわざ金沢から上京してきたよ」 「LGBT活動家とズブズブのマスコミが、卑怯な切り取りをして!」 「プライドハウス東京、LGBT法連合会、ReBit……LGBT商売がうまい団体ばかり」 「私たちの代表者ヅラして、首相に謝罪させるなんて、あいつら、何様のつもり?」 「LGBT差別禁止法だの同性婚法制化だの、こっちは望んでいないのに、また、勝手なことを……」 「あいつらに出し抜かれたLGBT活動家たちが、一番、ムカついてることでしょうね。笑うわ」 元々底意地が悪いLGBT当事者の反発と罵倒と嘲笑に恐れをなしたのか、Yahoo!ニュースはただちに「岸田首相の謝罪写真」を別のものに差し替えたが、今もそれは、ネット上のウェブ魚拓サイトに残っているのである(https://archive.md/x64zJ)。 ──と、そんな背景もあり、2024年6月、LGBT当事者は金沢レインボープライドの大変簡素な謝罪文に怒りを表明したのだ。 「自分は岸田首相のところに押しかけて、謝罪を求めておきながら、いざ身内が不祥事を起こしたら、こんな適当な謝罪文で済ませるって、どうなの?」 「単なる失言と、覚醒剤所持・使用とでは、どっが問題だと思っているのかしらね?」 「他人に厳しく、自分に甘い。これで人権を叫んでいるのだから、笑えるわ」  この謝罪文に対し、ゲイ当事者であるY@su氏(@Yasoo___Japan)が鋭い批判をXに投稿されているので、当事者の声の一つとして、ここにご紹介したい(https://x.com/Yasoo___Japan/status/1798533638910562751)。
「LGBT関連団体」は、当事者が選挙で選んだ訳でも無いのに当事者の代表と言えるのか──ゲイ当事者Y@su氏の問題提起に、皆様はどうこたえますか?
石川県金沢市で「かなざわにじのま」を運営する「金沢レインボープライド」の元事務局長が「覚醒剤使用」の疑いで起訴されていた事が発覚した。「金沢レインボープライド」は「LGBT活動」に深く携わり「婚姻平等」など、様々なLGBT政治運動で重要な役割を担っている、松中権氏が代表を務めている。 その様な団体の運営する「拠点内」で「組織幹部の事務局長」が「常習的に覚醒剤を使用していた」と言うのは尋常では無い。しかも、元事務局長は「20年以上に渡る覚醒剤使用歴」を供述しており、それが事実なら「極めて強い常習性」が認められる。 代表の松中氏は「知らなかったので驚いた」などと、まるで「他人事」の様に発言しているが「最高責任者としての責任感が疑われる態度」だと言わざるを得ない。常習的に「組織の拠点内で覚醒剤を使用」されていて「気付かない」と言うのは、一体どの様な管理・運営がされていたのか。これでは「金沢レインボープライド」のガバナンスは「組織の体」を為しておらず、最早「解体」すべきレベルである。当然だが、松中氏の組織トップとしての「管理責任」は免れ得ず、何故「分からなかった」のか「どの様な施設管理がなされていたのか」などをキチンと究明すべきだ。 本件は「公金を使った公的性格を有する施設内での、常習的覚醒剤使用」であり「松中氏を含むメンバー全員の薬物検査」と「その結果の公表」は必須である。その上で、松中氏は「普段のLGBT活動での声の大きさを超える大きな声」で「事の顛末と、組織内の調査結果」を発表する責務がある。それにもかかわらず、何ら詳細な説明の無い「ありきたりの謝罪文だけが書かれた紙切れ一枚だけ」が提示されたが、人を馬鹿にするにも程がある。 更に、本件は「3月下旬に起訴されていた」にも関わらず、2ヶ月以上何らの発表もしなかった事も「隠蔽」の誹りを免れ得ない。 昨年の「政府高官の差別発言騒動」の際には「大騒ぎして糾弾」し「岸田首相を謝罪に追い込んだ」事を、まさか忘れてはいないだろう。その当人が「都合の悪い事にはダンマリ」を決め込み「曖昧にお茶を濁す様な態度」を取る事が許される筈も無い。 この様な態度を取り続ければ、松中氏の発言の信憑性は失墜し、今後幾ら「LGBTの権利」を主張しても「自らの事が先と鼻で笑われるのが関の山」だと言うほかない。(つづく)

◎森奈津子 LGBT犯罪録 かなざわシャブのま事件  ── 金沢レインボープライド事務局長が覚醒剤で逮捕
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=50290
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=50306
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=50381
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=51912
〈5〉https://www.rokusaisha.com/wp/?p=52094

▼森 奈津子(もり・なつこ) 作家。1966年東京生。立教大学法学部卒。1990年代よりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラー等を執筆。 Xアカウント https://x.com/MORI_Natsuko 森奈津子 LGBTトピック https://x.com/morinatsu_LGBT
 
斉藤佳苗『LGBT問題を考える 基礎知識から海外情勢まで』

僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由〈6〉寿都町も神恵内村も玄海町も、その岩盤層は地層処分に適さない 平宮康広(元技術者)

◆2.3. 寿都温泉(ゆべつの湯)と玄海海上温泉パレア

僕は、すでに述べた地熱の問題、地層の深さや地下水の問題を経産省資源エネルギー庁とNUMOが開催した説明会で何度も指摘したのですが、彼らの無知と不勉強に呆れました。後日、自民党富山県連の政調会長が、「経産省資源エネルギー庁とNUMOはバカと詐欺師の集まりか!」といったと知り、少し安堵しました。高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体とTRU廃棄物を富山県内で地層処分する計画は、なくなったかもしれません。

しかし、その後経産省資源エネルギー庁とNUMOは、北海道での地層処分を計画し、寿都町と神恵内村で文献調査をはじめました。さらに佐賀県の玄海町でも文献調査をはじめようとしています。僕には、寿都町も神恵内村も、地層の深さや地下水の問題は富山市と同様であるように思えます。また、玄海町は、地下水の問題もあるでしょうが、岩盤層がかなり高温で、地層処分は無謀であると考えます(僕は、本稿の内容は、地層処分に反対しておられる北海道や佐賀県のみなさんに役立つ内容になっていると自負しています。大いに活用してください)。

北海道寿都町には、寿都温泉(ゆべつの湯)という町営温泉施設があります。寿都温泉は、小泉元首相が原発に反対する講演をした、記念すべき場所でもあるのですが、ひょっとして、寿都温泉の温泉水は、日本のどの温泉施設よりも良質な温泉水かもしれません。[表4]は、寿都温泉の温泉水の水質です。

[表4]

寿都温泉の温泉水の水質は弱アルカリ性ですが、1リットルあたりの塩素イオンが10550.0mg、ナトリウムイオンが4125.0mgです。そして、硫酸イオンが1195.0mg、カルシウムイオンが2428.1mgです。塩化ナトリウム=塩と硫酸カルシウムが混ざっていることが、「名湯」の条件ですが、これほど多量の塩化ナトリウム=塩と硫酸カルシウムが混ざり合っている温泉水は他にないと思います。寿都温泉の温泉水の水質は弱アルカリ性ですが、アルカリ性温泉水の効用があり、酸性温泉水の効用もあります。

むろん、ここで重視すべきことは寿都町の地層です。[表3]の富山市内の5つの温泉施設のうち、城南温泉病院の礫層下位層に「八尾塁層」、今泉温泉病院の礫層下位層に「シルト混じり砂互層」という記載があります。どちらも火山灰です。すなわち、過去は海で、火山灰が降り注いで陸地になった地域です。寿都町の地層は不明ですが、寿都温泉の温泉水は多量の塩化ナトリウム=塩と硫酸カルシウムを含んでいます。したがって、寿都町も過去は海で、火山灰が降り注いで陸地になったと考えることができます。

[表3]

寿都温泉の温泉井戸の孔底深度は不明ですが、寿都町の岩盤=花崗岩層は、おそらく500~750m以深でしょう。しかしNUMOは、文献調査と称して寿都町の地理を調べたように思いますが、不勉強な彼らが寿都町の岩盤=花崗岩層は500~750m以深であると認識する場面はおそらくないと思います。

ちなみに、神恵内村にも町営の温泉施設があります。温泉水の水質や温泉井戸の孔底深度はわかりませんが、神恵内村の岩盤=花崗岩層もおそらく500~750m以深であると思います。

鈴木直道北海道知事も反対しておられるので、NUMOが、岩盤=花崗岩層が500~750m以深の寿都町や神恵内村で高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体とTRU廃棄物を地層処分する場面はないと思います。しかし、NUMOが文献調査をはじめようとしている、佐賀県の玄海町はどうでしょうか。

玄海町には原発があます。山口祥義佐賀県知事は反対していますが、経産省資源エネルギー庁とNUMOは、原発立地地域のほうが地層処分の同意を得やすい、と考えているかもしれません。しかし、原発がなくても、玄海町での地層処分は無謀です。
玄海町に、玄海海上温泉パレアという温泉施設があります。玄海海上温泉パレアの温泉水の水温や水質、温泉井戸の孔底深度はわかりませんでしたが、隣接する唐津市の呼子台場の湯の温泉水はラジウム泉です。ラジウムの融点は696℃です。唐津市の岩盤層はかなりの高温で、玄海町の岩盤層も同様であると考えます。(つづく)

◎平宮康広 僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由(全7回連載)
〈1〉日本原燃が再処理工場を新設する可能性
〈2〉ガラス固化体の発熱量は無視できても、地温は無視できない
〈3〉NUMOがいう地下300m以深の「岩盤」は、本当に「天然のバリア」なのか
〈4〉ガラス固化体以外の廃棄物が低レベル放射性廃棄物であるとの考えは、乱暴すぎる 
〈5〉地震や豪雨・豪雪で地下水系は大きく変わる
〈6〉寿都町も神恵内村も玄海町も、その岩盤層は地層処分に適さない

▼平宮康広(ひらみや・やすひろ)
1955年生まれ。元技術者。オールドウェーブの一員として原発反対運動に参加している。富山県在住。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ 定価880円(税込み)

《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く〈6〉飯塚事件再審 ── 日本の再審制度を変えていかなければいけない 尾﨑美代子

 

ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士 ──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)

◆飯塚事件の再審を勝ち取ることの意義

私たちは今、福岡高裁で即日抗告審を闘っています。ここで今、Оさんの初期供述をだせという証拠開示の闘いを挑んでいるわけですが、これまでの闘いで私たちが体験していることからいうと、真犯人を特定しない限り再審の扉は開かないのではないかと思っています。

そういう私たちに、実は、ある刑務所で服役している人から、彼が以前の事件で服役中に、同房になった男から「自分が飯塚事件をやってしまった」という告白を聞いたという情報が寄せられています。これはまだ私たちがその証言の信用性を固めていくということをやっていかなくてはならない。しかし、なかなか固めるということは難しいという、そういうレベルの段階ですが。

ただ、私たちがこの飯塚事件をやっていて確信に近い思いをもっているのは、私たちが一生懸命闘っている過程に、新しい証拠、新しい道がどんどん開いていくわけです。第一次再審請求がだめだったときに、木村さんが現れる、Оさんが現れる、そして第二次再審の壁が塞がれたとき、新たな道が開かれている。つまりこの飯塚事件というのは、時間が経てば経つほど、久間さんが犯人でないという確信を、この事件にかかわる人たちにもたらせている、そんなようになるわけです。

飯塚事件こそ、死刑制度の根幹を改めて問うという、飯塚事件の罪の深さを改めて私たちが考えるときにおいても、この飯塚事件の再審を勝ち取ることは、とても大きな意義があるのではないかと考えています。

◆再審法の規定を変えなくてはならない

その飯塚事件の再審を勝ち取るためにも、何を今一番にやらなければならないと思っているか。それは、再審法の規定を変えなくてはならないということです。日本の再審法は大正11年(1922年)に作られた旧刑事訴訟法の規定がそのまま残されています。戦後、変えられたのはたった一点、検察官には再審請求権がない、この一点だけです。

戦後、刑事訴訟法は改定されましたが、時間がなかったからという理由で、再審規定だけはそのままだった。いずれ改めて検討するという国会での議事録が残されていますが、手つかずのままでした。

それが何をもたらしているかというと、特に2つの大きな害悪をもたらしている。1つは証拠開示規定がないということです。刑事訴訟法は改正されましたので、今は、検察官は手持ちの証拠を開示しなくてはならないとなっている。

しかし、再審事件に関してはこの規定がありません。ですから検察官は、再審請求に関して、本当は真犯人ではないかという証拠があっても出す義務がないんです。捜査というのは、誰が犯人だろうかということで、いろんな証拠を集めていくわけです。その人を犯人にしていくための証拠と、その人が犯人でないという証拠をふりわけていくわけです。その人が犯人だという証拠だけを集めて裁判に提出するというのが捜査のやり方です。だから、彼が犯人でないという証拠は眠っているわけです。再審請求では、その眠っている証拠を出させることがとても大事なわけです。

でも日本の刑事訴訟法には、再審請求のときは証拠開示権が提示されていない。これを何が何でもかえなくてはならない。大崎事件でも狭山事件でも、隠されていた証拠が少しずつ開示されていくなかで、無実が明らかになっていくという経過をたどっています。飯塚事件で新証拠が開示されれば、間違いなく久間さんは無実だと明らかになると確信しています。

もう一つ、日本の再審制度で決定的に問題なのは、再審開始決定がでたあとに、検察官が不服申し立てできることです。このために、袴田さんは何十年も苦労してきた。大崎事件もそうです。何度も再審開始決定がでたが、検察官が即時抗告し、また再審開始が取り消されるということがおこっている。

この2つの問題を早急に改めさせることが急務になっています。まもなく袴田さんの再審無罪判決がでます。これをきっかけに、私たちは全力をあげて、日本の再審制度を変えていかなければいけないと思っていますし、それが変われば飯塚事件は死刑執行という厚い壁をこえて、間違いなく再審開始になるだろうと私たちは確信をしております。

すみません。お話しするたびに怒りが沸いてきまして、とりとめのない話になってしまいましたが、以上で私からのご報告とさせていただきたいと思います。どうぞ、これからも飯塚事件にご支援をお願いしたいと思います。ありがとうございました。(完)

◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)

◎《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く ── 飯塚事件再審[全6回連載](構成=尾﨑美代子)
〈1〉弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか
〈2〉失われていた物証と証拠の改竄
〈3〉無実の人を殺してしまった日本の裁判所
〈4〉死刑判決の理由は、全部間違いだった
〈5〉裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する
〈6〉日本の再審制度を変えていかなければいけない

▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由〈5〉地震や豪雨・豪雪で地下水系は大きく変わる 平宮康広(元技術者)

◆2.1. 地下水と化石水の問題 富山市内の5つの温泉施設

経産省資源エネルギー庁とNUMOは、富山県で、地層処分に関する最初の説明会を開催しました。彼らは、高校生をアルバイトで雇い、サクラに仕立てて説明会を盛り上げます。この説明会に出席した多くの富山県民が、経産省資源エネルギー庁とNUMOは、富山県内で高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体とTRU廃棄物を地層処分するつもりでいる、と思いました(高校生をアルバイトで雇い、サクラに仕立てる彼らの反社会性にも怒りましたけど!)。

しかし、地層処分はどのようなものなのか、具体像がよくわかりませんでした。そこで、先日亡くなられた原子力資料情報室共同代表の伴英幸さんや、大学で核物理学を教えている教授等を招いて、地層処分を詳しく知るためのセミナーを高岡市で開催しました。その後、僕は僕なりの勉強をはじめたのですが、ガラス固化体とTRU廃棄物の地層処分は、現実を無視した無謀な計画であること、にもかかわらず、不勉強な経産省資源エネルギー庁とNUMOは、専門家のふりをして計画を無理やり推進している、と思うようになりました。

経産省資源エネルギー庁とNUMOは、すでに述べた地熱の問題を深く考えていません。そして、地層の深さや、地下水と化石水の問題をまったく考えていません。[表3]は、文科省地震調査研究推進本部が開示した、富山市内の5つの温泉施設のボーリング調査結果です。

[表3]

温泉水は化石水の一種で、水脈が地上付近にまで上昇している場合もありますが、ふつう、岩盤付近に滞水しています。したがって、岩盤内にガラス固化体とTRU廃棄物を地層処分するのであれば、温泉井戸の深さが建設する地下施設の深さの目安になりますが、富山市の5つの温泉井戸はかなり深いですね。表3の孔底深度は、温泉井戸の深さです。すべて1200m以上あります。

([表3]は、これまで本誌に寄稿した原稿に何度か記載したので、ご存じの読者も多いと思います。僕は。経産省資源エネルギー庁とNUMOが富山県で開催した4回目の説明会で、温泉井戸の孔底深度を指摘して質問しました。経産省資源エネルギー庁とNUMOは、地下1200m以深に地下施設を建設するつもりでいるのか、その場合、坑道の全長は何㎞になるのか、あるいは、300m以深であれば合法であると判断し、泥岩層内で地下施設を建設するつもりでいるのか、その場合でも、「泥岩層も花崗岩層と同様な天然バリアである。ガラス固化体を10万年保管できる」などというつもりなのか、等々の質問をしました。彼らは無言でした。文科省地震調査研究推進本部が開示したデータを元にして質問したので、「文献調査をすればわかることです」などということも、できなかったと思います)

◆2.2. 大惨事

他にも大きな問題があります。富山市の5つの温泉井戸は、もっとも浅い場合でも、礫層深度が150mです。これは、富山平野が扇状平野であるからともいえますが、とはいえ日本の地層は沖積層です。ヨーロッパのような洪積層ではありません。富山平野の礫層だけが、例外的に深いわけではありません。日本の地層の礫層深度は、たいがい100m以上あると考えてよいと思います。そして、礫層内の地下水の流れ(以後、「地下水系」と呼びます)が立体交差している場合があります。しかし、NUMOは、ヨーロッパの廃炉処分等を参照して、礫層の想定深度を30~50mにしているように思います。経産省資源エネルギー庁とNUMOは不勉強、というしかありません。

(富山県には、地下水学会の会員が大勢おられます。中学や高校で理科の先生をしておられた方が多いですね。僕は、何名かの方に、地下水学会は礫層内を流れる地下水系を把握しているのですか、と質問したことがあります。みなさん、地下水系の把握は技術的に無理、立体交差している場合は当然あるが、把握なんてできない、とおっしゃいました。礫層内を流れる地下水系の把握は、断層を把握する以上にむずかしいことのようです)

日本の地層は礫層深度が深く、しかも日本の年間降雨水量はヨーロッパの約2倍です。人工バリアで包んだオーバーパックとTRU廃棄物を地層処分する場合、礫層内を流れる地下水系が大きな問題になりそうですが、経産省資源エネルギー庁とNUMOが説明会で配布した資料を読む限り、彼らはまったく無頓着です。「岩盤内に埋設する、岩盤内に埋設する」といいながら、僕が地下水問題を指摘しても、温泉井戸の孔底深度に言及しないで、礫層の地下水を汲み上げる井戸(「ふつう」の井戸)の孔底深度に言及し、方向を見失った発言を繰り返すだけです。

経産省資源エネルギー庁とNUMOの思惑(あるいは希望的観測)がどうあれ、人工バリアで包んだオーバーパックとTRU廃棄物を岩盤内=花崗岩層内に埋設する場合、少なく見積もっても、地下500~750m以深の地層処分になりそうです。他方、50年の工事期間中に礫層内の地下水が浸水し、それまで埋設した人工バリアで包んだオーバーパックとTRU廃棄物が水没する危険を想定して、水没を防ぐ対策を考えなければなりません。

礫層内の地下水系は、年間10~20m移動します。地震が勃発した場合、より大きく移動します。また、豪雨や豪雪後、新しい地下水系が生じる場合があります。そして、地下水系が坑道の壁を突き破り、坑道に水が流れ込む場面があり得ます。NUMOは、そのような場面では、クラッキング工事で対処するというのですが、クラッキング工事は道路のトンネル内で漏水等が生じた場面で施す工事です。しかし、トンネルは「横坑」です。地上施設と地下施設を結ぶ坑道は「立坑」です。地下水系の水流のパワーはかなり強く、クラッキング工事で岩盤水等の浸水を阻止することができても、地下水の流入を阻止することはできません。

すでに述べましたが、礫層内の地下水が流れ込めば、短時間で地下施設と坑道が満水状態になり、地上施設に水が溢れ出ます。そして、人工バリアで包んだオーバーパックとTRU廃棄物が水没します。フランスのビュール県でしたら、水没する前に地上に引き上げることができるかもしれませんが、日本の場合、全長200~300㎞(あるいは500㎞以上)のらせん状の坑道で地上施設と地下施設をつないでいるので、引き上げることができません。その後、人工バリアで包んだオーバーパックとTRU廃棄物に50~75気圧(ひょっとして100気圧以上)の圧力がかかります。

当然、TRU廃棄物を詰め込んだドラム缶は潰れますが、NUMOが、耐用年数1000年と豪語するガラス固化体を格納したオーバーパックも潰れるでしょう。地下施設と坑道内の水が放射能汚染水になり、地上施設に溢れます。そして、地下水系が放射能汚染水系になり、放射能汚染水が海に流出します。

[図7]は、地下水系が坑道の壁を突き破り、水が地下施設に流れ込む場面のイメージです。

[図7]

[図8]は、地下施設に埋設した高レベル放射性廃棄物=ガラス固化体とTRU廃棄物が破損した場面のイメージです。

[図8]

大惨事ですが、経産省資源エネルギー庁とNUMOは憂慮していないですね。だから、彼らは地下水の勉強もしていません。(つづく)

◎平宮康広 僕が放射性廃棄物の地層処分に反対する理由(全7回連載)
〈1〉日本原燃が再処理工場を新設する可能性
〈2〉ガラス固化体の発熱量は無視できても、地温は無視できない
〈3〉NUMOがいう地下300m以深の「岩盤」は、本当に「天然のバリア」なのか
〈4〉ガラス固化体以外の廃棄物が低レベル放射性廃棄物であるとの考えは、乱暴すぎる 
〈5〉地震や豪雨・豪雪で地下水系は大きく変わる

▼平宮康広(ひらみや・やすひろ)
1955年生まれ。元技術者。オールドウェーブの一員として原発反対運動に参加している。富山県在住。

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌『季節』2024年夏・秋合併号《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
『季節』2024年夏・秋合併号(NO NUKES voice 改題)
A5判 148ページ 定価880円(税込み)

《グラビア》
「幻の珠洲原発」建設予定地 岩盤隆起4メートルの驚愕(写真=北野 進
「さよなら!志賀原発」金沢集会(写真=Kouji Nakazawa

《創刊10周年記念特集》どうすれば日本は原発を止められるのか

《報告》小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
 原子力からこの国が撤退できない理由

《報告》樋口英明(元福井地裁裁判長)
 なぜ日本は原発をやめなければならないのか

《報告》井戸謙一(元裁判官/弁護士)
 事実を知り、それを人々に伝える

《報告》山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
 核武装に執着する者たち

《報告》後藤政志(元東芝・原子力プラント設計技術者)
 課題は放置されたまま

《報告》森松明希子(原発賠償関西訴訟原告団代表)
 原発被害の本質を知る

《インタビュー》北野 進(「志賀原発を廃炉に!訴訟」原告団団長)
 珠洲原発・建設阻止の闘いは、民主主義を勝ち取っていく闘いだった

《対談》鎌田 慧(ルポライター)×柳田 真(たんぽぽ舎共同代表)
 東京圏の反原発 ── これまでとこれから

《報告》今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
「核融合発電」蜃気楼に足が生え

※          ※          ※

《回想》松岡利康(鹿砦社代表)
 創刊から10周年を迎えるまでの想い出

《墓碑銘》松岡利康(鹿砦社代表)
 お世話になりながら途上で亡くなった方への追悼記

《季節創刊10周年応援メッセージ》

 菅 直人(衆議院議員・元内閣総理大臣)
 守りに入らず攻めの雑誌を

 中村敦夫(作家・俳優)
 混乱とチャンス  

 中嶌哲演(明通寺住職)
「立地地元」と「消費地元」の連帯で〈犠牲のシステム〉を終わらせる

 水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
『季節』丸の漕ぎ手をふやして、一刻も早く脱原発社会を実現しよう

 山崎隆敏(元越前市議)
「核のゴミ」をこれ以上増やさないために

 今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
 裁判も出版も「継続は力なり」

 あらかぶ(「福島原発被ばく労災損害賠償裁判」原告)
 隠された「被ばく労働」問題を追及し、報じてほしい

※          ※          ※

《報告》なすび(被ばく労働を考えるネットワーク)
《検証》あらかぶさん裁判 原発被ばく労働の本質的問題 

《報告》北村敏泰(ジャーナリスト)
 棄民の呻きを聞け 福島第一原発事故被害地から

《講演》和田央子(放射能ゴミ焼却を考えるふくしま連絡会)
「復興利権」のメガ拠点 「福島イノベーション・コースト構想」の内実〈前編〉

《報告》平宮康広(元技術者)
 水冷コンビナートの提案〈1〉

《報告》原田弘三(翻訳者)
 COP28・原発をめぐる二つの動き
「原発三倍化宣言」と「気候変動対策のための原発推進」合意

《報告》三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
 総裁選より、政権交代だ

《報告》板坂 剛(作家/舞踊家)
   タイガー・ジェット・シンに勲章! 問われる悪役の存在意義

《報告》山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
   山田悦子の語る世界〈24〉
   甲山事件50年を迎えるにあたり
   誰にでも起こりうる予期せぬ災禍にどう立ち向かうか(下)

《報告》大今 歩(高校講師・農業)
   洋上風力発電を問う 秋本議員収賄事件を受けて

《報告》再稼働阻止全国ネットワーク
 時代遅れの「原発依存社会」から決別を!
 政府と電力各社が画策する再稼働推進の強行をくい止める

《老朽原発》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
 6・9大阪「とめよう!原発依存社会への暴走大集会」に1400人超が結集

《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
 女川原発の再稼働はあり得ない 福島事故を忘れたのか

《福島》黒田節子(請戸川河口テントひろば共同代表)
 浪江町「請戸川河口テントひろば・学ぶ会」で
 北茨城市大津漁協裁判で闘う永山さんと鈴木さんの話を聞く

《柏崎刈羽原発》小木曽茂子(さようなら柏崎刈羽原発プロジェクト)
 7号機再稼働で惨劇が起きる前に、すべての原発を止めよう!

《首都圏》けしば誠一(反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
 福島原発事故の責任もとれない東京電力に
 柏崎刈羽原発を動かす資格はない!

《浜岡原発》沖基幸(浜岡原発を考える静岡ネットワーク)
 静岡県知事と御前崎市長が交代して
「一番危険な原発」はどうなるか

《島根原発》芦原康江(さよなら島根原発ネットワーク)
 政治に忖度し、島根原発2号機運転差止請求を却下
 それでも私たちは諦めない!

《玄海原発》石丸初美(玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会)
 玄海町「高レベル放射性廃棄物・最終処分場に関する文献調査」受入!

《川内原発》向原祥隆(反原発・かごしまネット代表)
 私たちは歩み続ける

《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
 原子力規制委員会を責め続けて11年
 原子力規制委員会は、再稼動推進委員会・被曝強要委員会

《反原発川柳》乱鬼龍

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0DB1GZ5CM/

◎鹿砦社 https://www.rokusaisha.com/kikan.php?bookid=000748

龍一郎揮毫

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

小説家51名、映画監督97名の声明責任 ─ 李琴峰氏のカミングアウト ─ 滝本太郎(弁護士)

去る11月20日、小説家51名、映画監督97名の、トランスジェンダーにつき「苛酷な差別言説が氾濫」などという2つの声明が出た。前者は、同日発売の『小説新潮』12月号にも掲載され、その問い合わせ先として指定されている柚木麻子氏、山内マリコ氏の対談がある。

対談から分かることは、発案者は李琴峰氏で、米国保守派が、同性婚が実現したので次の標的としてトランスジェンダー差別をし、その波が日本に上陸、翻訳して拡散させている、と説明している。

偽りである。女子トイレを男性器ある人の一部が利用公認される考えなぞは、外国の動きと関係なく多くの人が反対する。筆者も孫娘らを心配し、酷い刑事事件も扱ってきたから、少しでも女子トイレに入りやすくなってはならず、反対している。考えてみればトランス女性は男性の多様性であり、男子トイレを「共用に戻して」解決できるものでもある。

声明は第十稿目で完成したという。山内氏いわく「メッセージはマイルドにしつつ、メッセージは伝わる形に落とし込んでいく ── その塩梅に気を遣いました。」「世界的には、ブラック・ライブズ・マター以降、声を上げないと差別に加担していると受け取られても弁明できない流れがあると感じています」という。

声明には、肝心な「何をもって、差別とするか」の記載がなかったが、対談でも分からない。対談は、性自認至上主義での論争点である「女性スペース」や「女子スポーツ」という単語さえもない代物である。そして、李氏はこの対談でも自らが生得的男性であることは述べていない。

その李氏は、この2つの声明が発表された同日、自らインターネット上のnoteに、強いられてトランスジェンダーであることをカミングアウトする、として6400字程の声明を出した。中国語と英語での文章も出した。

驚くべきは、その中では、生得的には男性であることを中国語で示した市井の女性の、名前、住所街区が示され、その他の人についても情報を下さい、としたことである。ドキシング「身バレ攻撃」である。

李氏は、この女性を被告としてプライバシー侵害を理由に台湾の地方裁判所に提訴していたのだが、10月31日に全面敗訴したところだった。李氏は同様に筆者に対しても東京地裁に提訴しているが、11月13日李氏代理人にも生得的男性であることの様々な証拠を出したところだった。このnoteは、こんな個人情報を示したからだろう、翌日には運営側から閉鎖された。が、李氏はフェイスブックに更に台湾女性の誕生日や出身大学まで書いたものを掲載した。

筆者は、李氏が架空のものである小説でどのように記述しても問題としない。しかし、李氏は、エッセイや新聞記事への寄稿において、性自認至上主義を進める立場の者としての見解を示している。そこには、女性、レズビアンとの紹介があるだけである。多くの人は芥川賞を受賞した著名な「生得的女性の意見だ」と誤解する。
実は李氏は、多くの文章で様々な立場の「真ん中だ」として、トランス女性であることも匂わし、いわばそれをウリもしてきた方でもある。更には女性の買春の事実などまでエッセイ「愛おしき痛み」に書いている(リレー・エッセイ集『私の身体を生きる』、2024年5月文藝春秋社)。李氏は、リアルの世界でも性自認至上主義を進めようとするならば、「生得的男性だ」と指摘されても、受忍すべき立場ではなかろうか。

「性同一性障害特例法を守る会」の代表で、李氏と同じく法的女性になっている美山みどり氏は、こう述べている。

「意見はそれを言った人とは切り離して扱われるべきだ」という考え方もありますが、しかし、そういう客観性を破壊して「当事者でなければわからない現実がある」などと「立場理論」を振りかざしてきたのは、李氏を含むトランス活動家の側なのです。二重の意味で「誰が言っているか」がきわめて重要な問題なのです。私自身、李琴峰氏と同じく、男性から女性へと性別移行した者として言います。議論の当事者として、自らの立場を隠して議論するのは、アンフェアで不誠実なやり方であると。

◎美山みどり「李琴峰氏のカミングアウト問題について」 https://note.com/gid_tokurei/n/n49907a16cdbf
 
今回の、「苛酷な差別言説が氾濫」といいつつ、何をもって差別とするのか書かない、書けない各声明は、「トランス女性は女性だ」と言う思想運動に対して疑義を述べるな、議論拒否という雰囲気づくりの役目をはたす。あわせて、その中心人物である李琴峰氏のこのような不誠実な姿勢を、ガードする役目を果たす効果をもつこととなった。李氏が「強いられた」とするカミングアウトの露払いのような声明だった。

小説家は子どもではない、映画監督も子どもではない。この148名は責任をもって、これらの疑問について答えなければならない。

LGBTQ+差別に反対する小説家の声明

トランスジェンダーを含むLGBTQ+差別に反対する映画監督有志の声明

▼滝本太郎(たきもと・たろう)
1957年神奈川生。市井の弁護士。オウム真理教と闘う。信者との話し合い活動や被告人らとの面談によりカルト心理を知る。脱会者の集まり「カナリヤの会」窓口、日本脱カルト協会の元事務局理事。女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会世話人。共著に『宗教トラブル110番』(2015年民事法研究会)、『LGBT異論』(女性スペースを守る諸団体と有志の連絡会=編著/2024年鹿砦社)

『LGBT異論』と『LGBT問題を考える』

◎『LGBT異論』 https://www.amazon.co.jp/dp/B0DHGBQC8X/
◎『LGBT問題を考える』 https://www.amazon.co.jp/dp/4846315592/

《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く〈5〉飯塚事件再審 ── 裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する 尾﨑美代子

 

ハンセン病、薬害エイズ被害患者の救済から飯塚事件などの冤罪訴訟まで、常に弱者の立場に立ち、法廷で声なき声を代弁してきた徳田靖之(とくだ・やすゆき)弁護士 ──。「6・5 飯塚事件『不当決定』を許さない」と題された9月14日大阪講演の記録を全6回連載で報告する。(企画・構成=尾﨑美代子)

◆第二次再審での争点

私たちはそのOさんの古い供述と新しい供述について、裁判所がどちらが正しいか判断するとしたら、Oさんが言っていたように、女の子を見たのは別の日だが、警察官にむりやり事件当日だとされたということを明確にするには、Oさんが最初に警察から取り調べを受けたときの捜査記録を出したら、Oさんが今言っていることが正しいかどうか一目瞭然ではないかと考えます。

Oさんが最初に警察に調べをうけたときの捜査メモ、捜査報告書があるはずだから、これらを出すように裁判所に要求しました。じつは遺留品発見現場で久間さんの車と似た車を見たという人の最初の捜査報告書は残されているんです。そこには何が書いてあるかというと「紺色のワゴン車をみた」「そこから一人の男がおりてきた」という言葉が捜査報告書に残されているんですね。だとしたら、Oさんの警察での最初の初期供述が残されていないはずはないんですよ。

だから私たちはそれを出すようにと要求してきた。しかし、検察官は「ない」というんですよ。こういうとき検察官はなんというかというと「存在しない」とは言わない。「不見当」、見当たらないというのです。なぜか? これはあらゆる冤罪事件で検察官はそういいます。あとからできたときに説明ができるように「不見当」、見当たらないというのです。

今回の飯塚事件も、木村さん、Oさんが最初に警察に呼ばれた時の初期供述を出せというと「不見当」だというのです。私たちは「そんなことはありえない」と裁判官に強くいいました。裁判官は検察官に「そうだとしたら、警察から検察に証拠が送られてきたときの目録はあるのか?」と聞きました。すると検察官は、ちょっとうかつだったと思いますが「ある」といったのです。

裁判所は「その証拠の目録をだしなさい」と勧告しました。私たちはこの目録が出てくれば、Oさんが最初に警察に聞かれたときの捜査報告書が目録に必ず記載されているはずだと確信していました。

裁判所から検察官に勧告がだされ、検察官が何といったと思いますか? 「目録がある」と答えてしまっているわけですから、もう「不見当」とは言えない。そうしますと検察官は「裁判所がそのような勧告をする法律的根拠がない。したがって我々は勧告に従わない」と言ったのです。

日本の検察官は自分たちは「公益の代表」などと言っていますが、彼らは真実を発見しようという気が全くない。本当に彼らが飯塚事件に関して、久間さんが犯人と確信しているのなら、目録を出してくればいいじゃないですか。あるのだから。でも出せない。なぜか? 目録にはOさんの初期供述が残っているからです。目録をだしたら「不見当」といっていたOさんの初期供述を出さなければならなくなる。だから「裁判官がそのような勧告をする法的根拠がない」という理屈をつけて拒否したわけです。

◆警察、検察官は、遺留品発見現場での目撃証言を強引に誘導して、事実と違う供述をつくった

このようなことをされたら、裁判官は普通どうすると思いますか? 自分たちの勧告を拒否したのだから、普通の裁判官だったら「出せ!」と命令するでしょう。検察官は「ある」といった上で、出さない理由として裁判所に勧告する権限はない」と言っているのですから。あらゆる再審事件で「証拠を開示しろ」という勧告をすべての裁判でやっています。「法的根拠がない」という理由で拒否したのは、今回がはじめてです。

私たちは「命令を出せ」と裁判所に言った。しかし裁判所は「命令は出さない」といった。命令を出せないといったから、我々はそれをどう受け止めたか。裁判官は、検察官が勧告を拒否したことで、その目録の中にOさんの初期供述があると確認したはずだ。目録を出さないといったことは、検察官はOさんの初期供述を表に出したら、すべてが明らかになる、これを何とかして拒むために勧告を拒否したと裁判所は判断したと、私たちは思ったわけですよ。

しかし、蓋を開けてみたら、Oさんの新しい証言は信用できない、古い証言の方が信用できると言った。ふざけんなよ! そんな判断をするなら、古い供述の前の初期供述を出せといえばいいではないか、それをしないでOさんの古い証言の方が信用できるとは……よくそんなことが言えるものだなと思いました。

◆裁判所は、事実に目をふさいで、再審請求を認めなかった

警察、検察官は飯塚事件に関しては、これだけのことをやっているわけです。DNA型鑑定の写真を改ざんしました、遺留品発見現場での目撃証言を強引に誘導して、事実と違う供述をつくった。そのうえで、裁判所の勧告を無視して、Oさんの供述が正しかどうかを徹底的に明らかにするはずの証拠の目録の提出を拒んだ。

これだけのことをしたのに、裁判所は事実に目をふさいで、再審請求を認めなかった。なぜ裁判所はそんなことをするのか? 私に言わせると、少なくとも証拠目録を開示しないと言われたら、その理由はどこにあるのかを裁判官は考える義務があるはずだ。なぜなら、裁判所は怪しいと思ったわけですよ。Oさんの初期供述は「不見当だ」といった。それを怪しいと思ったから裁判所は「目録はないか?」と聞いた。すると検察官は「ある」といったので、裁判所はそれを出せと勧告をした。怪しいと思ったからですよ。いや、少なくとも目録がでてくれば、検察官が言っている「不見当」が信用できるかどうかの判断ができると考えたから勧告したのです。

そこまでしておきながら、なぜ命令をせずに、そのうえで「古い供述のほうが信用できる」などと判断したのか。皆さん、どう思われますか? 結局裁判所は怯えたのですね。再審開始をしてしまうということにです。Оさんの新しい供述が信用できると言ってしまったら、再審開始することになってしまう。そうなると、久間さんという無実の人を裁判所が殺してしまったことになる、そうなることに裁判所は怯えたのだと思います。

そこから今度私たちは、ではどうして裁判所は証拠開示の勧告をしたんだろうか、と考えました。そんな結論を下すなら、なぜ証拠開示の勧告をしたのだろうか。その証拠開示の勧告をしたあとに、裁判長の次に経験のある右陪席が交代したんです。

エリート裁判官でした。証拠開示の勧告をした裁判体と、再審請求を棄却したときの裁判体では、一人構成が代わっていたんです。その人は経歴的にはエリート裁判官です。私らはこの裁判官の交代が、証拠開示の勧告をしながら、再審請求を棄却する決定をするという矛盾を示す、ひとつのカギを握っているのではないかとみています。

似たようなことが、実は、第一次再審請求のときにも、もっと露骨に起こったのです。第一次再審請求の時の裁判長は、科警研のDNA型鑑定がいかさまだと早くに察知しました。彼はそこで、自分が定年退官する前に再審請求の判断をすると、私たちに明らかにした。その裁判官の定年が8月に予定されていたので、私たちは7月中に決定がでると思っていた。

ところが、決定がでないまま、裁判長は定年退官をしてしまった。そのあとに新たな裁判長が赴任したのです。この人もまた超エリート裁判官。この裁判長が半年後に再審請求を棄却する決定を書いたのです。第一次再審請求の時も、そういう裁判官の交代という事実が、再審を認めないという決定に影響したのではないかと、私たちは思っていた。

そのことが第二次再審請求でも繰り返された。エリート裁判官という言い方をしていますが、こういう経歴の人というのは、最高裁にいわば「忖度」傾向が極めて強い人たちです。

私たちは、飯塚事件の再審請について正々堂々と闘っている。私たち弁護団や支援者の多くは、常識的な意味で、これだけの証拠をだせば、必ず再審の扉が開くと思っていますが、このレベルの闘いでは扉が開かない。もう「この人が真犯人だ」というような新しい証拠を出さない限りは、再審の扉が開かないくらいになっているということです。死刑を執行してしまっているからです。(つづく)

◎徳田靖之弁護士講演会 6月5日飯塚事件「不当決定」を許さない(2024年9月14日 大阪浪速区大国 社会福祉法人ピースクラブにて)

◎《講演》徳田靖之弁護士・声なき声を聞く ── 飯塚事件再審[全6回連載](構成=尾﨑美代子)
〈1〉弁護士として、自ら犯してしまった過ちをいかに一人の人間としてどう償うのか
〈2〉失われていた物証と証拠の改竄
〈3〉無実の人を殺してしまった日本の裁判所
〈4〉死刑判決の理由は、全部間違いだった
〈5〉裁判官は、「エリート」であればあるほど最高裁に「忖度」する

▼徳田靖之(とくだ・やすゆき)
弁護士。1944年4月大分県別府市生まれ。東京大学法学部卒。1969年弁護士登録。大分県弁護士会所属。「らい予防法」違憲国家賠償請求訴訟西日本弁護団共同代表、ハンセン病市民学会共同代表、薬害エイズ九州訴訟共同代表。飯塚事件弁護団共同代表

▼尾﨑美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

尾﨑美代子著『日本の冤罪』

買収? 規正法違反? 斎藤元彦・兵庫県知事に新疑惑 広島県・市でも仕事の社長がネットで「自白」 さとうしゅういち

斎藤元彦・兵庫県知事(写真右のガッツポーズしている男性、折田楓社長NOTEより)。

 

渡瀬元県民局長(2024年7月自死とみられる)による内部告発文書について自ら犯人探しをしてしまうなど、公益通報者保護法の趣旨に反する行動から議会による不信任案可決で失職。しかし、2024年11月17日執行の兵庫県知事選挙で劣勢の下馬評をひっくり返し、〈逆転勝ち〉しました。

10月に入ってSNSでは、#さいとう元知事がんばれ というハッシュタグが流行。また、筆者が斎藤元彦知事の疑惑を追及する動画などを投稿すると、アクセスが殺到し低評価が大量につくという状況がありました。

斎藤知事=既得権益と闘う正義の士=ネットで真実を探し当てた市民vs稲村候補=外国人参政権推進の極左、大半の自民党系市長が推す既得権益=テレビなどオールドメディアという構図が、ネット上で出来上がりました。そもそも、冷静に考えれば、極左と自民党など水と油なのですが、そんな論理矛盾もお構いなしに、事実と異なることがあっという間に広がりました。

◆県の仕事をしている社長がフルコミットした斎藤選挙

選挙後、これは何だろう?と思っていたのですが、その種明かしを、仕掛け人自らがネット上でしてしまいました。その仕掛人とは、株式会社merchuの折田楓社長です(写真のガッツポーズしている女性。)。折田社長は、斎藤陣営の広報全般を仕切っていたことをご自身のノートで報告しました。ホームページなどによると折田社長は1991年生まれ。フランスESSEC大学留学 後 慶応義塾大学をご卒業され、フランス大手金融機関に勤務。きらびやかなご経歴です。その後、母親の会社を手伝いながら、株式会社merchu創業されたとのことです。

 
折田社長のnoteより

斎藤知事が就任された 2021年より兵庫県地方創生戦略委員、2022年より兵庫県eスポーツ検討会委員、2023年より兵庫県空飛ぶクルマ会議検討委員 をされているほか、会社のある西宮市で産業振興審議会委員もされています。兵庫県、広島県、山口県、徳島県、高知県、神戸市、藤沢市、倉敷市、広島市、江田島市、由布市、株式会社リクルートや有馬グランドホテルなど、これまでに150以上の行政・企業・団体の広報・PRを手がけておられるそうです。

その折田社長のもとを斎藤知事自ら訪れ、会議を行われたそうです。プロフィール写真撮影、コピー・メインビジュアルの一新、斎藤知事を応援するSNSアカウント立ち上げ、「#さいとう元知事がんばれ」ハッシュタグをはやらせること、などを立案・実行。

選挙期間中には折田社長が「私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲フローの確立、ファクトチェック体制の強化、プライバシーへの配慮などを責任を持って行い、信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら運用」されたそうです。

◆事実なら買収罪か規制法違反が成立 「詰み」の状態 

とにかく、委員会の委員など県の仕事をされている社長が斎藤元知事(当時)の選挙運動を必死でされたわけです。それも広報全般を請け負ったということです。SNSの広報は、これは、代価を受け取った場合は、公選法違反になります。車上運動員、運転手、事務員以外の給料=報酬が発生すればアウトです。他方で、折田社長がやった仕事は、どうみても、社員を一か月半動員しています。無償でやった場合は、労務の提供になる。おそらく、1000万円くらいの仕事になるだろう。個人が政治家にできる寄付の上限は150万円です。政治資金規正法でアウトになります。

また、委員など県の仕事を継続できることと選挙運動が引き換えだった場合も公選法上の買収罪が成立しかねません。いずれにせよ、斎藤知事も折田社長も将棋で言えば「詰み」です。

斎藤知事は、現時点では「法に触れることはしていない」としておられます。しかしそうなると、折田社長の公表した記事とどう見ても矛盾してきます。折田社長と斎藤知事。どちらが正しいのでしょうか?あるいは、どちらがどの程度嘘を言っているのか。特に公職にある斎藤知事には説明責任が求められます。

◆前提「斎藤=既得権益と闘う正義の士」は本当か?

ネット上では斎藤知事の支持者により、折田社長に対する困惑のコメントも相次いでいます。既得権益と闘う正義の士・斎藤知事の足を引っ張るな、と言う趣旨です。しかし、そもそも、斎藤知事の支持者の皆様の既得権益のイメージが古すぎるのではないでしょうか?

既得権益と言うと、一定年齢以上の方は、土建屋さんとか公務員とか、そんなイメージの方が多いかもしれません。それは、自民党よりも、どちらかというと、いわゆる野党やマスコミによって煽られていた面もあります。

しかし、今は、原材料費の高騰や賃金の高騰などで、土建屋さんも大変です。公務員も、昔のような(給料が安い代わりに)楽な仕事でもない。

この10年くらいで随分と地方行政における意思決定過程も変わっています。米国など外資系の企業に近い首長(広島県の湯崎英彦知事もその典型例)とか、広島で言えば、平川理恵・県前教育長や今回登校する折田社長のように、きらびやかな海外経歴の女性・若手の「躍進」が目立ちます。言い換えれば、政治・行政の米国化が進んでいます。

むろん、まだまだ、昔風の特に年配男性のエライ人も健在ではある。そういう中で、実際には、地元で地道に頑張っていたようなタイプの中堅・若手、すなわち、多数派を占める人たちが意外と割を食っている感じがします。そうした中で、割を食った中堅・若手がアホらしくなって県外へ流出する、そういう構造が広島でも起きています。広島の教育現場でも現場の先生が平川氏の「改革」に振り回された後遺症に悩まされています。

そうした構造を把握した上で、行政・政治を批判していかないと、あるべき方向と明後日の方向に兵庫も広島も日本も向かいかねません。ちなみに、折田社長は、広島県や広島市でも仕事をしておられます。折田社長的な人たちに県や市の仕事をしていただいていて、本当に広島のためになっているのだろうか? 広島市民・県民、また市議や県議の皆様にも改めて注意を喚起する次第です。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2024年12月号

作田医師が法廷で患者に対して、「うさんくさい患者」、「会計にも行ってないと思います」、患者が検察審査会に審査を申し立て、横浜副流煙事件の刑事告訴 黒薮哲哉

横浜地裁の法廷で医師から、「うさんくさい患者」で「会計にも行ってないと思います」などと名指しで罵倒された患者が、医師の証言は事実無根で名誉を毀損されたとして、神奈川県警・青葉警察署に刑事告訴した事件に展開があった。青葉署はこの案件を横浜地検へ書類送検したが、地検は不起訴に。これに対して患者は、10月30日、横浜検察審査会へ処分の審査を申し立てた。

審査申立書の一部(P01-P02)

審査申立書の一部(P03-P04)

審査申立書の一部(P05-P06)

◎審査申立書の全文 http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2024/11/MDK241121.pdf

検察審査会制度とは、不起訴処分になった事件の妥当性を審査する組織で、処分に対して、事件の当事者を含む一般市民から不服の申し立てがあった場合、一般市民から選ばれた11人の検察審査員が、処分の妥当性を審査する制度である。

医師の証言の中で、患者が病院の「会計にも行ってない」ことを前提事実として、「うさんくさい患者」と人物評価を下したのだが、会計に行った証拠があった。診療報酬を支払ったことを示す領収書が残っていたのだ。

患者が検察審査会に提出した審査申立書の文面からは、尋問の場で医師がいかに根拠のない証言をしたかが、浮かび上がってくる。事実に基づいた患者の人物評価であれば、その内容が他人の名誉を毀損していても、法的な責任を免責されるが、事実とはかけ離れたことに基づいた人物評価は、たとえ法廷の場であっても、刑事責任を問われることがある。

なお、この事件の概要は、下記の通りである。事件の概要を把握している読者は、概要をスキップして、「証言は事実とは異なる?」の節に入っても、内容が理解できる。

【事件の概要】(以下、敬称略)

この事件の発端は、2016年までさかのぼる。この年、横浜市青葉区にあるすすき野団地に住む藤井将登・敦子夫妻は、煙草の副流煙をめぐるトラブルに巻き込まれた。おなじマンション棟に住むA夫と妻、それに娘の3人が、将登が吸う煙草の煙で健康を害したとして、藤井夫妻に対して自宅での禁煙を申し入れてきたのである。

将登は喫煙者であるが、1日に2本、3本の煙草を嗜む程度である。ヘビースモーカーではない。しかも、喫煙場所は防音構造になって外部とは完全に遮断された音楽室だった。将登の職業は、作曲や演奏を担当するミュージシャンで、自宅にいるときは、その大半を音楽室で過ごしていた。仕事の関係で自宅を不在にすることも多かった。従って煙の発生量は微量だった。近隣へ迷惑をかける量ではなかった。

それに音楽室から、A家の窓までは8メートルほどの距離(空間)があり、しかも、両家の位置関係は、藤井家が1階、A家が斜め上の2階になっていて、常識的には、音楽室から漏れた煙草の煙がA家に入り込む余地はなかった。またA家も、窓をビニールで覆うなどして、外気の侵入を防ぐ措置を施していた。こうした状況からすれば、副流煙による被害を直訴すること自体が不自然だった。

 

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なお、煙草の煙の成分を含む化学物質による人体影響に警鐘を鳴らしている専門医の中には、科学的な見地から「香」による被害を訴えて来院する患者の中に精神疾患に罹患しているケースが多く存在するという見解を発表している者もいる。たとえば千葉大学予防医学センター特任教授の坂部貢医師は、被害を訴える患者の約80%が精神疾患に罹患していると環境省に報告している。

しかし、将登は、隣人の訴えに配慮し、念のために2週間ほど喫煙を止めてみた。元々、ヘビースモーカーではないので禁煙することに苦痛はなかった。しかし、それでもA家の3人による藤井家にたいする苦情はやまなかった。A夫が将登の行動を病的なまでに観察していたことも、後にA夫が裁判所へ提出した自らの日記により明らかになっている。

そのうち藤井敦子もヘビースモーカーだという噂が、団地の中に広がり、何者かが元日早々に、藤井夫妻の自宅のポストに敦子を誹謗中傷する怪文書を投函するに到った。敦子は非喫煙者だった。喫煙したことはあるが、それは10年以上も前のことだった。煙草も吸わないし、酒も飲まない。

しかし、事態はさらにエスカレートしてA家の弁護士が、将登に宛てて内容証明郵便で禁煙を申し入れてきた。提訴もほのめかしていた。また、神奈川県警青葉署の刑事らが、2度に渡って藤井家を訪れ、敦子を事情聴取し、将登の音楽室に入って、喫煙の痕跡を調べるに至った。

藤井夫妻は、煙草をめぐる尋常ではないトラブルに巻き込まれ、平穏な日常を奪われたのである。

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この事件が社会的に注目を集めるに至る直接的な出来事は、2017年11月に起きた。A家の3人が藤井将登を被告とする裁判を起こしたのである。この訴訟で、A家は4518万円の金銭支払と、藤井将登の自宅での禁煙を求めてきた。敦子は訴外だった。

藤井夫妻は、夫はミュージシャン、妻はフリーランスの英語教師という身の上で、高額所得者ではなかった。裁判官が判決で、高額な金銭支払いを命じた場合、自己破産に追い込まれる怖れがあった。

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この別件裁判で、A家を全面的に支援し続けたのが、日本禁煙学会理事長で、当時、日本赤十字医療センターに勤務していた作田学医師であった。

作田は、A家3人のために「受動喫煙症」の病名を付した診断書を発行し、そのなかの1通で、「1階のミュージシャン」が煙の発生源であると事実摘示を行った。

通常、診断書には、裏付けのないことは記入しないものだが、作田は現地を取材することもなく、A家の訴えを信用して、将登が副流煙の発生源であることを事実摘示したのである。

さらに作田は、裁判の審理が進む中で、次々と意見書を提出してきた。その総数は5件にも及ぶ。意見書の中でも作田は、煙の発生源は、藤井将登であると摘示し、将登が禁煙することが最も効率的な解決策であるとまで述べている。大上段に振りかぶって将登を罵倒し続けたのである。

しかし、やがて風向きが変わる。作田がA家の3人に対して交付した診断書に重大な疑惑が次々に浮上したのだ。まず、A娘の診断書が2通存在し、双方の診断書の病名が異なっていた事実である。これは単純な表記ミスだったが、ひとりの患者の診断書が2通存在すること自体が不可解だった。

第2に作田が、A娘を直接診察せずに「受動喫煙症」の病名を付した診断書交付していた事実である。これは患者を診察することなく診断書を交付することを禁じた医師法20条に違反する。もちろんインターネットを通じた診察も行っていない。つまり、作田はまったく面識のない人物に対して診断書を交付したのだ。

第3に診断書のフォーマットが、作田が外来診療を行っていた日本赤十字医療センターのフォーマットとは異なっていた事実である。自分のパソコンで診断書を作成した可能性が高い。

これらの点に不信感を抱いた藤井敦子は、作田がどのようなプロセスを経て診断書を交付しているかを直に調査するために、2019年7月17日に酒井久男を伴って、日本赤十字医療センターの作田外来を訪れた。酒井は非喫煙者で、煙草の煙やほこりに対するアレルギーがあった。

酒井が藤井敦子の計画に協力したのは、敦子の夫が高額訴訟の法廷に立たされた後、敦子も心身ともに疲弊していたのを、見るに忍びなかったからである。敦子の髪の毛は、夫が法廷に立たされた後、真っ白になっていた。こうした状況の下で、将登が敗訴すれば、パニックにも陥りかねないと心配したからである。

酒井は、藤井家が勝訴するための証拠を集めるために協力するのが人道だと考えたのである。それにA夫妻の言動を熟知していた。A家の訴えも、どこかおかしいと思っていた。酒井は、青葉区の土着の人だった。

そこで、酒井は、地元のユミカ内科小児科ファミリークリニックを受診し、MRI検査などさまざまな精密検査を受け、担当医に作田外来を受診するための紹介状を交付してもらった。

2019年7月17日、酒井は精密検査のデータを持参し、藤井敦子を伴って日本赤十字医療センターの作田外来を訪れた。作田は、酒井が持参した検査データを確認することなく、問診を行っただけで診断を下し、即座に診断書を交付した。問診の中で、酒井は煙草の煙だけでなく、衣服の繊維を吸い込んでも、咳き込んで仕方がないと訴えた。しかし、作田は診断書に「煙草の煙のないところでは全く症状が起こらない」と記し、「受動喫煙症」の病名を記していた。

ちなみに、受動喫煙症という病名は、作田が理事長を務める日本禁煙学会が独自に定めたものに過ぎず厚労省では認めていない。もちろん世界保健機関(WHO)が定める国際疾病分類(ICD)にも入っていない。つまり受動喫煙症という病気は、公式には存在しないのだ。受動的に副流煙を吸い込む状況はありうるが、それを病名に転換するのは論理に飛躍がある。日本語としてもおかしい。副流煙を吸い込んだ結果、たとえば気管支炎になったという表現なら十分にありうるが、受動喫煙症とう病気は存在しない。

◆       ◆        ◆

藤井将登を被告とする別件裁判は、2020年10月、将登の勝訴で終わった。A家の訴えは、まったく認められなかった。判決が確定したのを受けて、藤井将登夫妻は、A家の3人と作田学を相手どって「反スラップ」訴訟を起こした。訴権の濫用によって精神的・経済的な被害を受けたというのが提訴理由だった。

この訴訟の尋問の場で、作田は裁判の争点とは直接関係のない藤井敦子と酒井久男による作田外来受診の件を持ち出し、「うさんくさい患者さんでした。」「うさんくさい人だなと思いました。」、「当然、会計にも行っていないと思います。」と供述したのである。作田によるこれらの言動が酒井の名誉を毀損するかどうかが、刑事事件の争点だった。ちなみに酒井は、この事件で民事訴訟も起こしている。

 

◆証言は事実とは異なる

さて冒頭で述べたように、この刑事事件の争点は、作田医師が法廷で行った証言が、酒井の名誉を毀損したかどうかという点である。その発言とは、「会計にも行ってないと思います」という事実摘示を前提とした「うさんくさい患者」という人物評価である。

作田医師の言い訳は、酒井と藤井敦子が診察室を立ち去った後、3分後に煙草の匂いがしたので、女性職員に2人の後を追わせ、構内放送も行ったが、2人が診療室へ引きかえさなかったから、酒井が会計をせずに病院を立ち去ったものとみなし、「うさんくさい患者」と評価したというものだった。従って作田が女性職員に酒井を探すように指示していなければ、人物評価の前提事実がないわけだから、「うさんくさい患者」という人物評価は事実に基づかない暴言ということになる。

既に述べたように、酒井は、刑事告訴とは別に作田に対する民事訴訟も起こしている。その訴訟の本人尋問の中で作田は、女性職員に酒井を探すように指示した行為について、弁護士の質問に答えるかたちで、次のように述べている。作田が女性職員に酒井らの後を追うように指示したかを見極めるために重要な部分なので、引用しておこう。

弁護士 陳述書でも書いていただいたように、一つには診察が終わった後に男女の2人組みが出てったら、うっすらとたばこのにおいがしたんだと。それで事務方の方にも確認してもらって、やっぱりたばこのにおいがすると。これは、もしかしたら誤った診断書を出してしまったかもしれないと思って、慌てて後を追ってもらったんだと。ただし見つからなかったという報告があったと。こういう出来事があったことが一点でいいですか。もう一点としては、後に提出された酒井さんの診断書には、検印、割り印ね。病院の印鑑が押してなかった。この2点がまず挙げられているということでいいですかね。

作田 はい、そのとおりです。(略)

弁護士 診察した後に書類を整理していたら、たばこのにおいがしたというわけですね。

作田 はい。

弁護士 そのたばこのにおいがしがしたというのは、患者さんと思われる二人組が出ていってから何分ぐらい経っていましたか。

作田 まあ、3分ぐらいでしょうね。

作田は尋問の中で、自分が酒井に対して「誤った診断書を出してしまったかもしれないと思って」、事務の女性に後を追わせたと証言しているのである。従って、特別な事情がない限り、酒井の診断記録を訂正するはずだ。ところが作田が、酒井の診断記録を訂正することはなかった。

この点については、酒井を作田に紹介したユミカ内科小児科ファミリークリニックに対する情報公開請求で明らかになった。酒井が、同クリニックに対して作田から送付されたはずの診断記録の開示を求めたところ、開示された診療記録には、「受動喫煙症」などの病名が記されていた。訂正はされていなかった。

つまり作田が酒井らの後を女性職員に追わせたという証言は事実とは異なる可能性が極めて高い。法廷での暴言を正当化するつくり話だったと考え得る。「うさんくさい患者」で「会計にも行ってないと思います」といった証言は、事実とは異なる暴言であり、酒井の名誉を毀損しているのである。

余談になるが、酒井らが立ち去って3分後に煙草に匂いがしたというのも、不自然な証言である。

しかし、横浜地検はこの事件を不起訴とした。ただ、酒井が刑事告訴をした時期には、作田医師の証言(タバコの匂いがしたので、診察の間違いに気づいて、酒井のあとを追わせたという証言)は、証拠として警察に提出されていなかった。検察審査会に審査を申し立てるに際して、酒井はこの証言を証拠として提出している。今後、検察審査会の判断が、注目される。

本稿は『メディア黒書』(2024年11月20日)掲載の同名記事を本通信用に再編集したものです。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)