旧統一教会の「家庭主義」が妨げるくらしの再建、そして日本の「アップデート」 さとうしゅういち

安倍晋三さんが7月8日、参院選の応援演説中に山上徹也被疑者に奈良で暗殺された事件を契機に統一教会に焦点が当たっています。

山上被疑者の母親が統一教会(現・家庭連合)の信者で、教団に多額の献金をして山上家は破綻しました。そして、被疑者が教祖を暗殺しようとしたが、未遂に終わり、熱心なシンパと被疑者が考えた安倍晋三さん暗殺に切り替えた、ということが報道されています。

◆統一教会が自民党に取らせている「家庭主義」

統一教会と自民党の癒着に関する問題のひとつは、このような団体を大物政治家が推奨したようなイメージを与えたことはもちろん大きいものがあります。しかし、もうひとつは、統一教会が自民党の政策や政治姿勢に大きな影響を与えていることはもっと注目されるべきです。もっと言ってしまえば、特に日本の庶民、とくに女性の生きづらさの震源地は、統一教会が自民党にとらせている政策や政治姿勢に震源地があるのではないか?ということです。

また、現役の介護福祉士である筆者からすれば、介護、保育を含む労働者の給料が不当に低く抑えられているのも、統一教会のイデオロギー「家庭主義」ないし「家族主義」がひとつの震源地ではないか?ということです。

もちろん、家庭を大事に、といいながら、山上家を含む全国の多くの家庭をぶっ壊した実態は、まさにブラックジョークですが、それはそれとして、同教団のイデオロギーが最大与党の自民党に影響し、それが日本のアップデートを阻んでいるのではないか?と思うのです。

◆「男女平等=共産主義」と決めつける統一教会の方々

筆者は、2011年に河井案里さんと対決するために県議選に立候補して以来、11年以上、広島市を地盤として政治活動を続けています。2013年参院選(予備選挙)、2021年参院選再選挙に立候補しました。こうした中で選挙期間以外には、政治活動としての戸別訪問も行います(選挙期間中の戸別訪問は禁止。)。そういう中で様々な方にお会いします。その中には、統一教会系の方にも結構遭遇します。以下に筆者が遭遇した典型的な人物像を挙げます。

それは、女性なのになぜか、自民党の男尊女卑的な言動で有名な議員を熱烈に応援されている方々(複数人)です。筆者は最初、そうとは知らずに、戸別訪問した先の方から「今度、こういう人たちがあつまるから、来てみないか?」と紹介されました。

筆者も、最初にお会いした時は相手が女性ばかりということもあり、また、筆者の「広島市男女共同参画審議会委員」という肩書も紹介しながら
・家族を介護する方を支援する法律・条例の制定
・介護や保育現場の給料アップ
・非正規労働者への差別廃止
・DV・性暴力被害者支援
などを軸にお話します。

そうすると、相手の顔色がみるみる変わります。

「男女平等なんて共産主義だわ!」
「保育園なんて共産主義よ!」
「仲よくすればDVなんて起きないわよ!被害者支援なんて家庭を崩壊させるだけ。」

まるで、スイッチが入ったようにわたしが掲げている政策を共産主義と決めつけ、マウントをとってくるのです。その上で、「そんなことを言っていたら一票も入らないわよ」というわけです。

噴き出しそうになるのをこらえながら、お話をさらに伺っていると、統一教会系とみられる(あとでネット検索したら確かにそうとわかった)いかにも「怪しげな」イベントに来ないか?と水を向けられるのです。これはやばいとおもって、丁重にお断りはします。こうした方々との会話を思い出すたびに、腹の皮がよじれそうなくらい笑ってしまいます。

◆信者が「一騎当千」の働きで自民党に多大な影響

しかし、実は、こうしたことは笑い事ではない。一つは、彼女らが山上被疑者の母親のようになっていないか心配であるということです。

もうひとつは、こうした方々は、自民党の男尊女卑で有名な議員を選挙の時は、まさに一騎当千の働きで応援されているからこその心配です。

筆者は公明党・創価学会の方で親しい方も少なくはありません。ただ、公明党・創価学会の方々はいわゆるジェンダー解体という点では筆者と考え方は全く一致します。夫婦同姓強制の廃止や脱原発などの考え方で共通する方も特に婦人部では多い。また、一騎当千という感じではなく、数で押してくるイメージがあります。

しかし、統一教会系の方は「少数精鋭」でガンガン自民党の議員の選挙スタッフとして頑張っておられる特に女性が多いように見えます。そして、(女性なのに)「極端な男尊女卑」で「緊縮財政主義」者という点が判を押したように共通しています。日本会議の方もそれなりに存じていますが、日本会議の方はどちらかというと、積極財政主義の方もおられるなど、緩やかな感じがします。

◆自民党改憲案24条・83条にみられる「統一教会」の影

さて、「極端な男尊女卑」で「緊縮財政主義」というのは、実は、自民党の憲法草案に盛り込まれています。

【憲法 第24条(家族、婚姻等に関する基本原則)】
一 婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
二 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

【自民党憲法改正草案第24条】
一 家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
二 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
三 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

【日本国憲法第83条】
国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。

【自民党憲法改正草案第83条】
第1項 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて行使しなければならない。
第2項 財政の健全性は、法律の定めるところにより、確保されなければならない。

◆男尊女卑に直結する家庭主義・家族主義的改憲

自民党は、統一教会の言う通り、個人ではなく家族を単位としているわけです。現代でも、そうはいっても、圧倒的多数の夫婦で女性の方が改姓をしている(筆者の場合、本名は妻の氏で戸籍筆頭者も妻ですが)状況もあります。こうした中で家庭ないし家族を社会政策上の単位としてしまうと、男尊女卑寄りにパワーバランスは傾いてしまうでしょう。自民党案24条のような社会政策の単位を家族とするのは家庭主義ないし家族主義といえますが、それは男尊女卑に直結します。

◆介護・保育を家族に押し込む24条と83条改悪の組み合わせ

さらに言えば、83条の健全性という名の緊縮財政条項と組み合わされば以下のようなことになります。

「育児や介護は国に頼らずに家庭で抱え込め。」

では実際にだれがやるか?

そうはいっても、妻であり、母であり、嫁である女性がやることをそうはいっても現状では期待されることになる。昔と違って今は、専業主婦家庭のほうが珍しくなってきました。

だが、今度は「仕事もして育児も介護もきちんとしろ」ということを女性に要求することになる。これが今はなき安倍晋三さんの「女性活躍」の実態でしょう。

昭和時代よりもハードモードとさえいえる。そして、その背景には「介護や育児など、たいしたことがないから女性にやらせておけ」というイデオロギーがまだ厳然とあります。

「たいしたことなければ男性もやればいいじゃないか?」と突っ込みたくなるのですが、なぜか、彼らは逃げ出すわけです。「何にもしない父親・夫。」これは確かに筆者の同僚の女性から存在は確認できます。

一方で、介護が「家族の女性がやることだから」と軽く見られて、手当てが十分でないからこそ、男性しか介護する家族がいないと、これはこれで追い詰められて悲惨なことが起きやすくなります。筆者も介護福祉士として事例を多く拝見してきましたし、男性介護者による介護殺人は広島県内でもしばしば報道されているところです。そして、最近ではヤングケアラーが深刻化しています。「母、妻、嫁」である女性にケア労働を押し付けてきたつけがいま、いろいろな形で子どもや男性も巻き込んで噴出しています。

もちろん、介護も保育も介護保険や保育園という形で社会化は進んでいます。だが、やはり「女性の仕事だから」ということで、低く見られ、仕事のハードさのわりに給料が低く抑えられています。

「女性差別」というよりは「女性虐待」「女性酷使」といったほうがいいかもしれません。そしてそれとセットで筆者ら男性も含む介護士や保育士の低賃金があるわけです。

一方で、介護保険の全面3割負担、人工透析者へのサービスのカットなども財務省は提案し続けています。

憲法24条、83条が改悪される前から、すでに憲法が改悪されたような状況になっているともいえます。

そして、筆者も含む積極財政派に財務省は緊縮財政の根源と批判されています。しかし、その財務省とて、安倍晋三さんの友人の怪しげな企業や学校法人などへのお金の流れは標的にしません。しかし、介護保険の改悪には張り切って取り組むわけです。財政健全化といっても、安倍さんのお友達には甘く、庶民に厳しく、なのです。

◆生活保護「扶養照会」を温存する統一教会的イデオロギー

また、生活保護受給にあたって、扶養照会という制度があります。三親等以内の親族に扶養できるかどうかを紹介するものです。しかし、そもそも、本人が困って窓口に駆け込んでいるのですから、照会してもほとんど無意味です。公費の無駄でしかない。しかし、照会されることを嫌がって申請をあきらめてしまう人もおられます。従って、厚労省も「扶養照会はしなくていい」という扱いにしています。旧統一教会の影響で「家族は相互に助け合わなければならない」というのを憲法に書いてしまうと、それこそ、この扶養照会が強化・復活することになってしまいます。

◆「高度成長期」の遺物の「家庭主義」

そもそも、家庭主義・家族主義というのも、高度成長期の遺物とも言えます。ざっくりいえば、「世帯主である男性が裕福か大手企業正社員であれば、家族は、住まいも教育も安心。」という仕組みです。それと裏表で「女性が介護や育児、家事などを全面的に担う」というものです。しかし、世帯主の安定が崩れると、家族も悲惨なことになる社会の在り方です。

いまや、日本はいわゆる失敗国家以外では唯一といっていいほど30年間、給料がアップしませんでした。そして、新自由主義・規制緩和のもとで、非正規雇用も増えています。そうした中で、今度は共働きの中で介護や育児などを相変わらず「軽視」したうえで、相変わらず女性に多く負担させることを前提にしています。一方で、低賃金で生活に困っている単身者も増えています。そうした中で、きちんと人々の給料を上げる方向や、学費無償化含めて社会政策の単位を個人にしていく方向で財政出動をしていくことが大事です。

なお、立憲民主党の一部にも統一教会と親しい方がおられるのは、大手企業労組の幹部でも、こういう「家庭主義」の路線の方がいらっしゃるということでしょう。実際に、筆者が「連合」系労組の役員をさせていただいた経験からそれは感じます。

◆人々のくらしの再建と日本のアップデート阻む「統一教会・自民党」からの卒業を

信教の自由は誰にでもあります。安倍晋三さんら政治家が何を信じようが人に迷惑にならない限りにおいて勝手です。しかし、今回、筆者が強調したいのは、宗教が選挙スタッフを送り込むなどの形で政策決定に大きな影響を与えているのではないか?という問題です。

その結果として、すでに「庶民に対する」緊縮財政で人々の暮らしは壊れていることです。そして、特に若い女性にとっていづらい古臭い国になっていることです。
「創価学会・公明党」とよく言われますが、これからは「統一教会・自民党」と呼んだ方がいい。そしてその「統一教会・自民党」のイデオロギーから日本が卒業しないと大変なことになる。いや、もうすでになっている。そのことは声を大にして申し上げたいのです。
 
▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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読売新聞の販売店が警察と連携して街の隅々まで監視、「不審人物などを積極的に通報する」全国読売防犯協力会(Y防協)の異常性 黒薮哲哉

新聞社と警察の連携は、ジャーナリズムの常識では考えられないことである。「異常」と評価するのが、国際的な感覚である。本来、ジャーナリズムは公権力を監視する役割を担っているからだ。

読者は、全国読売防犯協力会という組織をご存じだろうか。「Y防協」とも呼ばれている。これは警察とYC(読売新聞販売店)が連携して防犯活動を展開するための母体で、読売新聞東京本社に本部を設けている。こうして警察と新聞社が公然と協力関係を構築しているだ。他にも読売新聞社は、内閣府や警視庁の後援を得て、「わたしのまちのおまわりさん」と題する作文コンクールを共催するなど、警察関係者と協働歩調を取っている。

これらの活動のうち、住民にとって直接影響があるのは、Y防協の活動である。
その理由はYCの販売網が、全国津浦々、街の隅々にまで張り巡らされているからだ。それは住民を組織的に監視する体制が敷かれていることを意味する。

全国読売防犯協力会(Y防協)のウエブサイト、福知山の「青色防犯パトロール」を紹介した記事

「防犯活動」について、Y防協の清水和之会長は次のように述べている。

わたしたちの防犯活動の基本は「見ること」と「見せること」です。街をくまなく回って犯罪の予兆に目を配ります。そして、防犯パトロールの姿を犯罪者に見せつけ、「この街は犯罪をやりにくい」と思わせることも狙っています。さらに、新聞のお家芸である情報発信なども含め、活動の目標は次の4点に集約できると思います。

・配達・集金時に街の様子に目を配り、不審人物などを積極的に通報する

・警察署・交番と連携し、折り込みチラシやミニコミ紙などで防犯情報を発信する

・「こども110番の家」に登録、独居高齢者を見守るなど弱者の安全確保に努める

・警察、行政、自治会などとのつながりを深め、地域に防犯活動の輪を広げる

日ごろから地域のみなさんのお世話になっているYCスタッフたちは、少しでも地元のお役に立ちたいと思っております。街で見かけたときは、気軽に声をかけていただければ幸いです。

※出典 https://www.bouhan-nippon.jp/about/greeting.html

Y防協は、セイフティーネットとして機能する半面、「防犯」の定義が不明で、拡大解釈によっては、根拠のないことで住民が警察へ密告されるリスクもある。たとえば集金員が訪問した民家で、人々が集まって議論してる光景に遭遇して、不審者と思い込み、警察に通報する可能性もあるかも知れない。

新聞販売店やセールス団のスタッフがなにを基準に「不審人物」と判断するのかも分からない。路上での押し売り、不法投棄、恫喝、暴力などは通報対象になっても、市民のプライバシーに関することが保護されるとは限らない。

◆北海道のローカル紙が読者の個人情報を収集

もう10年以上も前になるが、北海道のあるローカル紙の販売店を取材したことがある。驚いたことに、販売店のコンピューターには、読者の個人情報を入力するフォーマットがあり、そこには読者の宗教や組合活動の有無に関する情報を記入する欄もあった。記入欄は細かく分類されていた。名目上は、営業のための資料ということになっていたが、この新聞社の場合は、コンピューターがオンラインで発行本社とつながっていた。読者の個人情報が新聞社に筒抜けになっていたのだ。

読者の個人情報が新聞社に入った後、どのように処理されているのかはまったく分からななかった。おそらく読者も自分の個人情報がどのように扱われているのかは把握していない。

Y防協が集めた情報につても、警察に入った後の扱いはよく分からない。本人が知らないうちに記録・保存されている可能性もある。「通報」は、あくまでも通報者の主観に基づいた一方的な行為で、情報の評価は警察の手に委ねられているからだ。

◆Y防協と連携している都道府県警察

現時点で全国読売防犯協力会は、新潟県を除く46の都道府県の警察と覚書を交わしている。2005年11月の高知県警を皮切りに、締結の順番は次の通りである。

高知県警:2005年11月2日
福井県警:2005年11月9日
香川県警:2005年12月9日
岡山県警:2005年12月14日
警視庁 :2005年12月26日
鳥取県警:2005年12月28日
愛媛県警:2006年1月16日
徳島県警:2006年1月31日
群馬県警:2006年2月14日
島根県警:2006年2月21日
宮城県警:2006年2月27日
静岡県警:2006年3月3日
広島県警:2006年3月13日
兵庫県警:2006年3月15日
栃木県警:2006年3月23日
和歌山県警:2006年5月1日
滋賀県警:2006年6月7日
福岡県警:2006年6月7日
山口県警:2006年6月12日
長崎県警:2006年6月13日
茨城県警:2006年6月14日
宮崎県警:2006年6月19日
熊本県警:2006年6月29日
京都府警:2006年6月30日
鹿児島県警:2006年7月6日
千葉県警:2006年7月12日
山梨県警:2006年7月12日
大分県警:2006年7月18日
長野県警:2006年7月31日
福島県警:2006年8月1日
佐賀県警:2006年8月1日
大阪府警:2006年8月4日
青森県警:2006年8月11日
秋田県警:2006年8月31日
神奈川県警:2006年9月1日
埼玉県警:2006年9月14日
山形県警:2006年9月27日
富山県警:2006年9月29日
岩手県警:2006年10月2日
石川県警:2006年10月10日
三重県警:2006年10月10日
愛知県警:2006年10月16日
岐阜県警:2006年10月17日
奈良県警:2006年10月17日
北海道警:2006年10月19日
沖縄県警:2008年6月12日

全国読売防犯協力会(Y防協)のウエブサイト、都道府県警察との覚書締結のリスト

◆読売内部から疑問はあがらない

改めて言うまでもなく、新聞社は言論機関である。少なくとも表向きは、独立したジャーナリズム企業である。

わたしが不思議に思うのは、読売新聞社の内部から警察との県警を断ち切ろうという声が上がらないことである。少なくともわたしはそのような声を聞いたことがない。新聞社は公権力と連携してはいけない。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号
黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

自民党と統一教会 安倍暗殺と政教一致をめぐる議論 ── 三浦瑠麗と東浩紀らは、なぜ福島瑞穂の発言にそれほどまでに動揺したのか 横山茂彦

安倍晋三元総理が銃殺されて以来、メディアと論壇は混迷の様相を呈している。テロ事件(政治暴力)とみるべきか、それとも統一教会への怨恨の延長、すなわち法的には自然犯罪であるのか、と。

典型的な議論は、自民党が統一教会(現・世界平和統一家庭連合)とズブズブの関係にあったから、安倍元総理が殺されたのだ(自業自得)という解釈に対し、それ(自民党と統一教会の関係)とは関係なく、政治テロ自体を批判するべきだという相克がある。

◆福島瑞穂の発言をめぐって

たとえば7月10日のニコニコ選挙特番で、社民党の福島瑞穂が統一教会に触れたところ、出演者の東浩紀氏らが激怒した。

問題となったのは安倍元総理の銃撃事件などの質問を受けた場面で、福島瑞穂が「まだ詳細は分かっておりませんが統一教会との関係も言われています。詳細が明らかになると同時に、もし自民党が統一教会を応援していることが問題とされたのであれば、まさに自民党が統一教会によって大きく影響を受けていることも日本の政治の中で問題になりうると思っています」とコメントした件だ。

この発言を聞いたコメンテーターの三浦瑠麗(国際政治学者)は、やや動揺気味に「現時点で完全な裏取りができていない上に、ましてや統一教会と安倍さん、あるいはファミリーがどういう関係にあるかは何の証拠もない状況なんですよね」と述べ、福島に対して発言を自重するように求めた。

その後、福島瑞穂が居なくなると同時に東浩紀氏が怒り気味に「あのこれさ、自民党は統一教会と関係しているからこのようなテロを招いたということを言った? もしかしたら」というようなコメントをしたところ、主演していた石戸諭や夏野剛らも福島の発言を批判するコメントを連発したのだ。

大変な問題発言だとして、ニュース(放送事故)になるレベルの信じがたい発言だと繰り返した。東らの深読みは否めない。

一連のやり取りはネット上で話題となり、その書き起こしがツイッターで1000回以上リツートされるなど注目を集めたという。

おもに、こういう反応である。

福島瑞穂氏が生放送中に統一教会を語りだす⇒出演者らが大激怒! 三浦瑠麗&東浩紀「裏取りができていない」「テロを許容するって話」。「いや、福島瑞穂は自民党と統一教会の公然たる蜜月関係が、自民党の政策に反映されている、と言っただけ」などと。

三浦瑠璃は、フジテレビの情報番組めざまし8で「彼(容疑者)の妄想に加担してはいけない」と発言。つまり、山上容疑者は安部晋三元総理と統一教会の関係を「妄想」しているのであって、その動機に正当性はないというものであろう。正当性はないが、動機は「妄想」させた事実関係にあるはずだ。

福島発言に激昂した感のある東浩紀は、SNSでこう振り返っている。東には「統一教会を擁護している」との批判が出たので、それへの弁明でもある。

「当該番組を見ていただければわかりますが、ぼく、東浩紀は、統一教会(現在は『世界平和統一家庭連合』ですが、こちらの名称のほうが知られているのでこちらで記します)を擁護しておりません。また安倍元首相銃撃事件犯人の動機が統一教会と関係がないとも発言しておりません。」

「ぼくが当該番組で表明したのは、福島瑞穂・社民党党首という公人が、多くの視聴者が見ている番組で、ほとんど文脈もなく、そのような誤解を生みかねない発言をしたことに対する驚きです。同じ驚きは、番組中、他の共演者にも、また視聴者のコメントでも共有されていました。ぜひ番組をご覧ください。」


◎[参考動画]【参院選2022】開票特番|三浦瑠麗、東浩紀、石戸諭、夏野剛と見守ろう(ニコニコ選挙特番7月10日放送 動画3:01~)

◆自民党の統一教会癒着と暗殺は別問題

それにしても、自民党と統一教会の関係を知らぬ者は少ないであろう。マスコミが意識的に報じて来なかったのも、自民党に忖度したからにほかならない。

「日刊ゲンダイ」が7月18日付で、ジャーナリスト鈴木エイトの調査に基づいて、教団と関係のある国会議員リストを報じた。100人超のリストから、過去に教団側とカネのやりとりがあった議員をピックアップしている。

「旧統一教会に関係する個人や団体から、関連政治団体が献金を受け取っていた国会議員は〈別表〉の計5人。特に下村博文元文科相の場合、代表を務める政党支部が「授受」の双方に関わっていた。12年には旧統一教会の関連団体「世界女性平和連合」に会費として1万5000円を支出。逆に16年は教団の機関紙を発行する「世界日報社」から6万円の献金を受け取った。下村氏本人は13、14年に世界日報のインタビュー記事に登場していた。」

「自民党の閣僚級では萩生田光一経産相、井上信治前万博担当相、加藤勝信前官房長官が、ほかにも小田原潔氏、大岡敏孝氏、高木啓氏、高鳥修一氏、奥野信亮氏の各衆院議員と上野通子氏。」と。

だから「自民党の政治家は殺られても仕方がないのだ」とはしかし、けっして言えない。ロシアのウクライナ侵略の背景に、NATO(アメリカ)の徴発や謀略があったからといって、プーチンの開戦責任を免責できないのと同じである。

そしてこれは、暴力反対を一般的に言っているのでもない。たとえば権力の暴力に対して、人民(市民)が暴力で対抗することも歴史的にはあった。遠い昔の話ではなく、つい数十年前の日大闘争や三里塚闘争がそうであった。右翼や機動隊の殺人を厭わない暴力に対して、暴力をもって反撃する権利が人民にある。だが今回、山上容疑者は選挙中の、言論で行なうべき闘いを銃の暴力に置き換えてしまったのである。

◆報道する側の基本的なスタンスとは

事件を報じる原則に立ち返ってみよう。

MBSの西靖アナウンサーは、報道の基本スタンスをこう述べている。

「容疑者の中での妄想的な殺害に至る思考回路と、安倍さんと旧統一教会とのつながり、統一教会の歴史、そのカルト的な側面というのは、一つずつ切り分けて考えなくてはいけない」と。

「それぞれを、ちゃんと事実を見て、統一教会が過去に話題になった時から今に至るまで、体質として、その体質が残ったまま続いていたことを我々見逃していたというか、ちゃんとクローズアップしていなかったところはメディアも含めて反省だと思う」と自戒の念を込めて語る。

その上で「(統一教会が)その性質を残したまま、自民党なり安倍さんとのつながりがどの程度のものだったのか。それが何かしら影響があったのかなかったのか。そうしたところを丁寧に見ていくということは、彼の犯行が許されないということとは別に、ちゃんと見なきゃいけないところだと思います」と。事件の本質はテロ(選挙の自由妨害)だが、その背景はまた別に論じるべきなのである。

CBC特別解説委員の石塚元章のコメントにも、報道人としての基本が述べられているので、挙げておこう。

山上徹也容疑者が動機について「母親が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に多額の寄付をして家庭が崩壊した」と供述していることについて、石塚は「だから安倍総理を襲撃していいのか、というのは全く別の話、これは大前提です」と前置きした上で、「ただ、あえて言うと、旧統一教会はかなり問題をはらんでいる団体であることは間違いないので、それを安倍元総理がご存じなかったはずはないと思うんです。有名な話ですから」と指摘する。「じゃあ、なぜそこの広告塔を、安倍元総理はおやりになってしまったのか」と。

石塚は芸能界を例に「ちょっと違うかもしれませんけど、詐欺グループの会社の宣伝にタレントさんが出てたってなると、問題になってタレントさんがしばらく番組に出られないとか自粛するとか、そういうこともいっぱいあるわけでしょ。それで言ったら、こういう“褒められたことをやってないよね”っていう組織の広告塔をやってしまったという事実は間違いなくあるんじゃないか」と云う。政治家が芸能人よりもはるかに、公的な存在であるのは言うまでもない。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号

西日本大水害2018から4年 改めて振り返る〈2〉「宴会とカジノ」優先だった故・安倍晋三さん さとうしゅういち

◆凶弾に斃れたからといって検証の手を緩めてはいけない

西日本大水害2018から4年がたった2022年7月10日執行の参院選。その終盤でとんでもないことが起きました。

7月8日、奈良市内で自民党候補の応援演説中だった水害当時の総理・安倍晋三さんが、凶弾に斃れました。このことについては、お悔やみ申し上げます。しかし、亡くなったことで故人を神格化するかのような論調には違和感を覚えます。神格化することで、故人の事績の分析が適切に行われないと、とくに安倍さんのような大物政治家に関する場合は、危機管理の改善が行われずに、人命に関わることも考えられるからです。とくに、西日本大水害2018の場合は、後世に教訓とするためにも、きちんと当時の安倍晋三さんの総理としての災害への向き合い方・安倍内閣の危機管理能力を検証する必要があります。14日、安倍さんの国葬を法的根拠もないまま岸田総理が独断で決めてしまいました。これを批判するとともに「今後の危機管理」のためにも、故人を神格化しないことを呼びかけます。

◆7月10日 被災地の混乱よそに、カジノ法案審議に突入

 

さて、2018年に時を戻します。7月8日(日)朝8時の閣議で、安倍晋三さんは非常災害対策本部を立ち上げました。しかし、その時には大災害があちこちで起きていたのです。その後も安倍さんの「ヌルさ」は続きます。なんと、予定していた外遊を取り消したのが7月9日(月)だったのです。

7月10日、参院内閣委員会でカジノ法案の審議がはじまりました。ちなみに、この日は筆者が、広島市安佐北区口田の被災地入りしています。被災地は、右上の写真のようなありさまでした。1時間半、土砂除去作業に従事しただけで、マスクも手袋も泥まみれでした。ちなみに、いまは、コロナ対策でマスクがデフォルトになってしまっていますが、このときはもちろんそうではない。しかし、マスクがないと泥を吸い込んで大変なことになります。

また、この日は、広島県安芸郡府中町で上流に災害でできた「ダム」が崩れ、大雨から3日たってから市街地に洪水が押し寄せたのです。

そんな被災地の混乱をよそに、この日からカジノ法案の審議でした。この時、安倍総理は出席しませんでした。国土交通大臣らが答弁をしました。実は、石井国交大臣は、府中町の洪水については、「ニュースで知った」と答弁する始末でした。本当に浮足立っていたのです。

◆安倍政府のヌルさをただした野党議員

この日、自由党参院議員だった山本太郎が質問にたち、安倍内閣の危機管理のヌルさを指摘するとともに、具体的な提言をおこなっています。

山本太郎は「気象庁が警鐘鳴らして、実際に規模の大きい避難勧告が出た日から非常災害対策本部が設置されるまでは3日間、3日間掛かった。」と指摘しています。

そして、熊本大震災2016については「震災発生から非常災害対策本部立ち上げまでは約1時間。今回は、気象庁が警鐘を鳴らし、実際に規模の大きい避難勧告が出た日から非常災害対策本部が設置されるまでは3日間。」

九州北部豪雨2017については「昨年7月に起こりました平成29年7月九州北部豪雨、このときには、実際に豪雨が降る前から予測して対応していたんですよ。たまにはいいことするんですね。」

と実例を挙げて、今回の政府の対応のヌルさを明らかにしました。

また、この非常時に防災を担当する国土交通省幹部が国会に多数出席しておられることを憂いて「その上、本日、ばくちの解禁法案審議スタートですか。多くの野党が求めているのはカジノではないですよ。災害対応ですよ、今国会でやるべきは。カジノの審議が遅れて誰か人死にますか。国民生活、誰か困りますか。困るの利害関係者だけじゃないですか、遅れたらどうするんだよみたいなことで。」とせまっています。

そして、九州北部豪雨2017と比べても20倍近い自治体に災害救助法が適用されているという答弁を引き出し、安倍政権に覚醒を促しました。

その上で、「災害派遣等従事車両の証明書の発行の簡素化」を提案しました。ボランティアが高速料金を払わずに広島など現地に行けるようにするためのものです。これは、「水害は2週間が勝負。」であり、それまでに多くの人が現地入りできるようにしなければならないからです。土砂や洪水にまみれた家を二週間以上放置すれば腐ったりカビが生えたりするなどして、衛生上よくないからです。たとえ床下浸水でも、土砂を除去して消毒をしないといけないのです。筆者も実際に、県内の被災地でボランティアに従事し、被災から二週間以上経った土砂の匂いやカビなどには閉口したのを記憶しています。

山本太郎のこの提案に対して石井国土交通大臣も「ボランティアが現地に入るのになるべく手続を簡素化してほしいという御要請かと思います。私、直接の所掌ではありませんけれども、委員の御指摘、非常に重要なことかと存じますので、閣僚懇談会を待ちますと今度の金曜日になりますから、それを待たずになるべく早く伝えるようにしたいと思います。」と答弁。この提案は実現しました。おかげで、神奈川や大阪など遠方からも応援が広島県内の被災地に多く来られるようになりました。

また、被災地に入りやすい重機の充実整備、そして、民有地の土砂の除去を自衛隊もしてほしいということも要望し、前向きな答弁を得ています。

山本太郎以外にも活躍した野党議員はいます。弁護士でもある日本共産党の仁比聡平議員です。仁比議員は地盤である広島など各地を回っておられる姿をわたしも拝見しました。仁比議員は民有地の土砂を除去する場合に公費負担をという趣旨の質問を行い、実現しました。

◆関東の高学歴安倍支持者「西日本の物流なんて崩壊すればいい」

さて、7月11日には、関東地方の安倍内閣支持者を名乗る人物、それも高学歴でそれなりの社会的な地位のある人物が、わたしのSNSサイトに「西日本の物流なんて崩壊すればいい」という趣旨の書き込みをされるという事件がありました。ボランティア活動で疲れ切っているときに、イライラさせられたのを覚えています。呆れましたが、実は驚きはしませんでした。

実を言えば、関東のブルジョア・インテリで、「東京と神奈川東部・千葉北西部以外日本じゃない」ような感覚の方も多いのは、筆者自身、東京で過ごした中高、大学時代の同級生の言動でよく存じています。

あえて暴言と言われるのを承知で申し上げれば、「関東南部生まれで東京のいわゆる難関中高から東大卒でたいした苦労もしてない」方々ほど、そういう世界観になりやすい傾向がある、というのは現実あると思います。

そういう方々が2011年頃は東北の被災者に冷たく、2018年には西日本の崩壊を事実上喜んでおられるのも不自然ではない現象です。安倍総理の取り巻き高給官僚とかブルジョア知識人などもそういう方が多いのかもしれません。だから誰も総理に「こんなときに酒盛りをやっていたら不味いですよ」などと注意しなかったのでしょう。

◆7月12日 被災地の泥、水が抜けてだんだん固まる 国交大臣「退席して災害に専念を」の諫言に耳貸さず

7月12日、筆者は、再び同じ安佐北区の被災地を訪れました。

だんだんに水分が泥から抜けていました。しかし、これにより、泥が固まり、泥を掘り崩す(というのが一番正確な感じ)のも苦労が多くなってきます。発災から6日。二週間のタイムリミットが迫ってきます。この日は日本共産党の大門みきし参院議員が、国交大臣に「退席して災害対策に専念していいですよ」と勧めたのですが、大臣は耳を貸しませんでした。

この日はわたしは、熱中症でぶっ倒れてしまいました。ボランティアセンターを主導された伊藤昭善広島市議に手厚い救護をいただいたことを感謝しています。

 

◆7月14日 水道民営化法案、ようやく審議見送り 総理は五十股で来広中止

この日、水道民営化法案が審議見送りという報道がされました。当然です。災害で水道が壊れまくっているのですから、そちらの復旧が当たり前です。
一方で、総理はこの日、来広予定だったそうですが、五十股にかかられ、中止になりました。

このことについて、年配のボランティア男性は「天皇陛下は来てくれたらうれしいけど、総理とか政治家は警備で作業の邪魔になるだけだ」という本音を漏らされました。

◆7月15日 被災者生活再建支援法改正成立を野党が日曜討論で提起も

阪神淡路大震災を契機に成立した被災者生活再建支援法。立憲、共産、自由、社民など野党は、共同で全壊世帯の支援金を300万円から500万円に引き上げる改正案をすでに3月に提出していました。これをのこり6日の国会会期で成立させよう、と野党側はこの日の日曜討論で提起しました。

しかし、与党側はけんもほろろな対応でした。

◆7月17日 猛暑続き作業と休憩半々

筆者は安佐北区口田の被災地入りしました。猛暑でもう、作業と休憩時間を半々でもいいくらいの感じでした。道路の復旧は進んでいますが、泥が固くなって作業に手間取るようになってきました。

その前後に、広島市安佐南区内で街頭演説を実施し、現場の状況の報告や、ボランティア参加にあたっての注意点、そして、政府や自治体への提言を行いました。

まず、現場については「土砂が乾燥してサウジアラビアかイラクかと思われるような状態になっている。や鼻をガードしてほしい。マスクは必須だし、目が弱い人はゴーグルを」と注意を喚起。

「人手は足りていない。土砂がまだ多く残っている。しかし、この猛暑だ。作業時間と休憩時間半半でも良いくらいの暑さだ。体力温存重視で参加してほしい。」と訴えました。

そのうえで「総理や石井国土交通大臣からは言い訳ばかりでやる気が今一つ伝わってこない。本気で災害対策に取り組むなら、水道民営化や国民投票法案だけでなくカジノ法案も取り下げよ。そして野党が提案している被災者への支援を300万円から500万円に引き上げる法案を、たまには与党も野党案に賛成して成立させたら(与党も株が上がるのでは)?」と提案。

 

さらに「これだけ災害が続発する一方、朝鮮半島は緊張緩和だ。今後は、自衛隊を分割し、サンダーバードのように、地球上どこでも災害や事故に対応する救助隊を設置したらいい国際貢献になる。戦争のための海外派兵(のための改憲)よりサンダーバードを。」と訴えました。

さらに「災害のたびに住む場所に困る人が出る。普段から住宅政策が貧困なことも背景にある。例えば、安全な場所の空き家を県や市が借り上げて公営住宅として貸し出す仕組みをつくっておけば、災害の時にも役に立つのではないか? 平時でも、若い時に買ったマイホームが山岳地帯にあって日常生活に困っているお年寄りの住み替えをスムーズに進めるのに役立つのではないか?」と借り上げ公営住宅の推進を訴えました。


◎[参考動画]西日本大水害 ボランティアは体力温存優先で 政府幹部は災害対策にもっと本気に

◆改憲で緊急事態条項導入ならむしろ危機管理は後退!

筆者は、この西日本大水害2018を振り返り、もし、憲法改悪がされ緊急事態条項が導入されていたらどうだったかとおもうと、背筋が凍ります。緊急事態条項は、緊急時に、総理大臣に独裁的な権力を与えるものです。国会を開かない、といったこともできます。

しかし、安倍晋三さんや石井国土交通大臣の当時の対応を拝見するかぎり、もし、国会が開かれなければ、山本太郎や仁比聡平ら野党議員の提言も届かず、「ゆるゆるの災害対応」で進み、さらに多くの人が困ったり、命を落としたりしたことでしょう。あるいは、政府の災害対応に街頭演説やビラで注文をつけたわたしのような市民も取り締まられたかもしれません。

くどいようですが、安倍晋三さんが、凶弾に斃れられたこと。そのことについてはお悔やみ申し上げたい。

しかし、一方で、安倍晋三内閣の緩慢すぎる危機管理についてきちんと検証しなければ、「危機管理のための緊急事態条項改憲」が進み、その結果、危機管理は後退する上に市民は弾圧されるという最悪な結末が想定されるのではないでしょうか?
今後も、筆者は西日本大水害当時の安倍晋三内閣の危機管理について検証をしていきます。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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《1人イノセンスプロジェクト03》求む「白いワゴン車の目撃情報などを警察に提供した人」── 今市事件 片岡 健

2005年12月、栃木県今市市(現在は日光市)で小1の女の子・吉田有希ちゃん(当時7)が下校中に失踪し、茨城県常陸大宮市の林道脇のヒノキ林で刺殺体で見つかった「今市事件」は、無期懲役判決が確定した元台湾人の男性・勝又拓哉氏(40)について、裁判中から冤罪を疑う声が多く聞かれた。

それも当然と言えば当然だ。この事件では、勝又氏を有罪とする証拠は事実上、捜査段階の自白だけだ。しかも、その唯一の有罪証拠である捜査段階の自白についても、確定判決である東京高裁(藤井敏明裁判長)判決が次のように述べているほど極めて曖昧なものなのである。

〈本件自白供述のうち、殺害犯人であることを自認する部分を超えて、本件殺人の一連の経過や殺害の態様、場所、時間等に関する部分にまで信用性を認めた原判決の判断は是認することができない〉

要するに、裁判官は唯一の有罪証拠である勝又氏の自白もその内容の大半が信用できないことを認めざるをえなかった。それにもかかわらず、自白のうち、有希ちゃんを殺害した犯人だと認めている部分のみは信用できるとして、勝又氏を有罪としたのだ。無理がある感は否めない。

加えて、この事件には勝又氏とは別の真犯人が存在することを示す事実も存在する。たとえば、有希ちゃんの遺体からは勝又氏のDNA型が一切検出されていない一方で、別の第三者のDNA型が検出されていることなどである。これで冤罪の疑いが指摘されなかったらむしろおかしいとさえ言える。

ここでは、勝又氏とは別の真犯人が存在する可能性を示す証拠について、警察、検察が隠している疑いを示す事実を紹介し、情報提供を求めたいと思う。

◆裁判で検証されなかった「白いワゴン車」が犯人の可能性

警察も勝又氏を逮捕する以前は、「白いワゴン車」の情報を募っていた

この事件は2005年12月の発生以来、長く被疑者が検挙されない状態が続いた。事件発生から8年半が経過した2014年6月、勝又氏がこの事件の容疑で逮捕されるまでは「全国の重大未解決事件の1つ」としてメディアで取り上げられることも多かった。そしてこの間、栃木、茨城両県警の合同捜査本部は町中のあちこちに事件の情報提供を募るポスターを張り出していたが、実はこのポスターこそが勝又氏とは別の真犯人が存在する可能性を示す証拠なのである。

ここにそれを掲載したので、見て頂きたい。〈現場付近で目撃された不審車両です〉として、「白いワゴン車」と「白いセダン車」のイラストが掲載されている。そして現時点では、この事件の犯人は当時「白いセダン車」に乗っていた勝又氏ということにされているのだが、実は勝又氏の裁判において、実際には「白いワゴン車」のほうこそが真犯人の車である可能性は何ら検証されていないのだ。

しかも、事件発生当初の新聞報道を見ると、他ならぬ警察も当時は「白いセダン車」より「白いワゴン車」のほうを強く疑っていたことを示す情報が散見される。その中でもとくに注目すべきは、事件発生の5日後の2005年12月5日、読売新聞の東京本社版が朝刊1面に載せた〈女児乗せた白いワゴン〉という見出しのスクープ記事だ。

この記事によると、有希ちゃんが下校中に行方不明になった後、現場近くにある有料道路「日光宇都宮道路」の大沢インターチェンジ入口の料金所のビデオカメラに、有希ちゃんとみられる女児と男の乗った白いワゴン車が映っていたという。

さらに読売新聞はその後も、〈日光堂ICの白いワゴン 午後3~5時通過〉(同12月6日朝刊1面)、〈「白い箱型の車見た」 一緒に下校の女児 別れた直後に〉(同12月20日朝刊39面)などと、白いワゴン車が犯人のものであることを示す情報を次々に報道。また、朝日新聞も同12月11日の東京本社版39面で「『栃木』ナンバーの白いワゴンを2日朝に(遺体遺棄)現場付近で見た」という内容の目撃証言が捜査本部に寄せられたことを報じている。

当初は“白色ワゴン車”が疑われていた(読売新聞東京本社版2005年12月5日朝刊1面)

これらの報道が事実であれば、「有希ちゃんが失踪した現場」と「有希ちゃんの遺体が遺棄された現場」の両方で、勝又氏とは別の真犯人の車である可能性がある「白いワゴン車」が事件発生と近接する時間帯に目撃されるなどした証拠が存在し、警察、検察はそのような証拠を収集していながら隠している可能性があるわけだ。

◆警察が「白いワゴン車」が犯人のものである可能性を示す証拠を入手しているのは確実

一般論を言えば、マスコミの事件報道には間違いも多い。しかし、この「白いワゴン車」の情報については、他ならぬ警察が情報提供を広く求めているわけだから、少なくとも警察が「白いワゴン車」が犯人のものである可能性を示す証拠を入手していることは確実だ。したがって、そのような情報をこの場で募りたいと思う。

2005年12月初旬ごろ、「栃木県今市市やその周辺」あるいは「茨城県常陸大宮市やその周辺」で今市事件との関係が疑われる「白いワゴン車」を目撃した情報や、そのような車が映っている防犯カメラの映像などの客観証拠を警察に提供した人、あるいはそのような人を知っている人がいれば、私のメールアドレス(katakenアットマークable.ocn.ne.jp)までご一報ください。

あなたがお持ちの情報は、無実の罪で無期懲役刑に服している男性が雪冤を果たす一助になる可能性があります。どうかよろしくお願いします。

※メールで連絡をくださる人は、アットマークを@に変えてください。
※私は、過去に冤罪File第22号、第24号、第25号、第29号などにもこの事件に関する詳細な記事を寄せています。これらのバックナンバーも冤罪Fileの公式ホームページから購入可能なので、関心のある人は参照して頂けたら幸いです。

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ─冤罪死刑囚八人の書画集─』(鹿砦社)。

7日発売!タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[改訂版]─冤罪死刑囚八人の書画集─」(片岡健編/鹿砦社)

西日本大水害2018から4年 改めて振り返る〈1〉 さとうしゅういち

西日本大水害2018から4年が経過しました。広島県で114人、岡山県で64人、愛媛県で27人など263人が犠牲になるなど、普段は雨が少ない瀬戸内地方を中心に大きな被害が出ました。日本の災害に悪い意味で新たな歴史を刻んだ水害でした。

◆50年前の飛騨川バス転落事故に似た状態に

2018年7月4日夕方。台風一過とは思えぬどんよりとした雲がかかっていました

この水害をもたらした大雨が降り始めたのは2018年7月5日(木)のことです。その前々日、台風7号が対馬海峡付近を通過し、広島でもそれなりの暴風雨になりました。台風は日本海で温帯低気圧に変わりました。普通は台風が通過して「台風一過」で梅雨明けになる場合が多いのですが、そうはいかなかった。

筆者はそのとき、ふと、1968年8月18日未明に岐阜県の飛騨川にバスが転落して104人が犠牲になった事故のことが頭をよぎりました。

以下は7月4日夕方の筆者のブログへの書き込みです。台風一過とは思えぬどんよりとした雲がかかっていました(写真右)。

「50年前の飛騨川バス転落事故を思い出します。台風通過後にそこから伸びた前線と湿った空気のために岐阜県で大雨となり、犠牲者100人超の大惨事になりました。明日以降、飛騨川バス転落事故と似た気圧配置ですのでご注意ください!」

その筆者の予感は当たってしまいました。

翌5日は午前3時ころから大粒の雨が降りはじめました

◆7月5日朝から本降り

翌5日は、筆者がいた安佐南区でも午前3時ころから大粒の雨が降りはじめました。そして、9時ころから本降り、10時前から土砂降りとなりました。

14時には気象庁が会見し、未曽有の豪雨になるおそれがある、と発表しました。

15時から夕方18時くらいまでは、次々と強烈な雨雲がレーダーでも次々と広島市内に流入している様子が明らかになりました。

17時に広島市中区の広島地方気象台で累加雨量85ミリ。広島瀬戸内新聞安佐南支社の近くの祇園山本で117ミリ。広島市全域に避難準備情報が出されました。

◆安倍晋三さんはそのころ、大宴会

しかし、こともあろうに、この後、当時の総理というよりは、まるで皇帝のようにやりたい放題だった安倍晋三さんが、岸田現総理らを招いて自民党本部で大宴会を開いていたのです。そこで総理が差し入れた山口県岩国市の地酒も、蔵元が大被害を受けてしまったのですが、そんなことになるとも知らずに安倍さんはのんきに宴会をしておられたのです。

「こんな人たち」に、独裁権を与えてしまう「緊急事態条項」。こんな改憲をしても、日本の危機管理能力がアップするとはとても思えない。そういう事件でした。

翌日6日(金)11時半頃、東区不動院前では太田川河川敷に水があふれ始めました

◆5日夜は小康状態も6日5時頃から再び大雨に

とはいえ、広島市内の雨雲はいったん東へ抜けて、筆者の周囲では小康状態でした。5日の合計雨量は広島気象台で81ミリでした。しかし、翌日6日(金)5時には、大雨が降り始めました。

11時半には、広島市のほとんどが、土砂災害警戒レベルが警報レベルの3に達しました。0-12時までに、新たに52ミリの雨が気象台では降り、合計133ミリに達しました。

このころ、東区不動院前では太田川河川敷に水があふれ始めました(右写真)。

15時までに降り始めからの雨量が183.5ミリに達します。5日の降り始めから6日16時までに196.5ミリ、17時までに206ミリに達します。ここまでは、1時間に10-20ミリの雨が長時間続く感じでしたが、このあと、状況がさらに悪化します。

18時までに合計雨量が237.5ミリ、すなわち1時間に41ミリの激しい雨となりました。すでに200ミリの雨で地盤が緩みかかっているところに激しい雨。たまったものではありません。

続く19時までにも広島市で48ミリ。これが振り返れば「決定打」となって、19時40分に気象庁は大雨特別警報を広島県にも出しますが、すでにその時には大被害が出始めていました。

安佐北区でまず、芸備線の安芸矢口駅前が水没。さらに、土砂災害で犠牲者も出てしまいます。

強烈な雨雲は北東から南西に伸びており徐々に北東へ流れつつ、全体として東へ移動していきました。すなわち、安佐北区に大被害を与えた雨雲はさらに、安芸区・安芸郡海田町や南区を結ぶライン、そしてさらに安芸郡熊野町・坂町を結ぶライン、さらに東広島市~呉市を結ぶラインへと少しずつ移動しながら激しい雨を降らせていきます。

7日午前3時までに広島市中区の気象台では降り始めからの雨量が362.5ミリとなりました。このころには、雨雲の中心が福山市や尾道市、三原市、竹原市などに大きな被害を与えながら移動していたのです。

2018年7月6日17時頃の安佐南区民文化センター付近。会話が聞き取れないくらいの激しい雨だった

◆被害が大きかった地域ほど「過少」報道

7日(土)朝8時半に報道されていた被害状況は以下でした。

三原市で1人死亡、4人不明。
福山市で1人死亡。
竹原市で4人不明。
府中市で1人不明。
東広島市で1人死亡、不明者相次ぐ。
呉市で2人不明。
坂町でも2人不明。
広島市安佐北区で2人不明。
東区で土砂に埋まった人?
安芸高田市で1人死亡。
4人死亡、15人不明というのがこの段階での被害報道でした。

本当に被害が大きかった坂町、呉市、広島市安芸区、熊野町などの被害が小さめに報道されているのが特徴です。しかし、それは、これらの地域が道路や鉄道の寸断で孤立してしまったから把握されていないだけだったのです。

筆者はそれでもこの日は太田川を渡って、老人ホームに出勤して仕事をしました。
太田川河川敷のゴルフ場はすべて水没していました。

ゴルフ場の常連客とみられる男性が、ゴルフ場の従業員に詰め寄り「いつになったらゴルフができるようになるのだ?!」とおっしゃっていたので、従業員も困っておられました。人間、好きなことのためには非常事態もそっちのけなのだ、ということを感じました。

しかし、一般市民である「普通のおっさん」はそれでよくても内閣総理大臣が、相変わらず宴会三昧では困ります。

安倍晋三さんは、結局、ずっと毎晩、総裁選対策の宴会をしておられたようでした。

7日22時には全国で47人死亡、49人不明で広島では23人死亡22人不明と報道されました。22:30には全国で47人死亡、64人不明となりました。事態の把握が進むにつれて死者と行方不明の合計が増えていったのです。

◆8日朝、ようやく安倍晋三さんが非常災害対策本部

7月8日(日)朝8時の閣議で、安倍晋三さんは非常災害対策本部を立ち上げました。しかし、その時には大災害があちこちで起きていたのです。

広島市も含めて、山岳地帯に人が多く住む広島の場合は土砂災害がメインでしたが、平原地帯が比較的広い岡山県では倉敷市真備町で大洪水となっていました。救助の手も十分でない中で、多くの方が、自宅で水死という結果になってしまいました。

このような男がいま、維新などと連携するかのように、岸田総理を右から攻撃し、改憲を煽り立てています。しかし、こんな男が総理のときに、独裁権が総理にあり、西日本大水害があったらどうだったのでしょうか? 緊急事態条項発動で、国会も閉じられ、批判する言論も抑え込まれれば、危機管理能力がないこの男が暴走していた。そう思うとぞっとします。

しかし、安倍晋三さんの「本領発揮」は、非常災害対策本部が立ち上がったあとの復旧局面においても続きます。

そのことへの地元の被災者やボランティアの皆様のいら立ちの声も今後、稿を改めてお届けします。

※本稿は故・安倍晋三さんの生前に書かれたものです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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身を挺して護れなかった警備陣と暗殺者の銃撃準備 横山茂彦

安倍元総理殺害事件が、選挙の自由妨害という民主主義の根幹にかかる犯罪であることは前回も確認した。

そのうえで、事件の背景および暗殺者としての犯人の技量を推し量っておこう。政治史上に刻印された世紀の大事件は、われわれの社会を映し出しているとともに、時代を変える動力もまた暗殺者の技量に反映するものだからだ。

ゲバ棒や火炎瓶の時代の大衆武装、爆弾闘争の非公然時代、そして社会的に孤立し(アトム化され)た時代の犯罪、すなわち今回の事件が社会の変化をどこまで反映しているのか。経済的にも行き詰った現在の日本を占うものとして、考察を深めるべきであろう。先行きのわからない時代にあって、それはひとつの手がかりになるはずだ。

◆動けなかった警備陣

それにしても、ぶざまだったのは奈良県警の警備である。

元総理の背後警備はガラ空きで、要人警備の基本である交通封鎖もしていなかったのだ。そして、第一発目の発射(爆発音)に驚くばかりで、身動きできないという体たらくだった。銃器事件が日常的ではないとはいえ、まさにテロ無防備国家である。

「ザ・シークレット・サービス」のクリント・イーストウッドは、ジョン・マルコビッチ演じる狙撃犯から「身を挺して大統領を護る覚悟はあるのか?」と問われる。JFKを護れなかったトラウマと使命感に懊悩し、そして最後は身を挺して大統領暗殺を防ぐのだった。


◎[参考動画]In the Line of Fire (6/8) Movie CLIP – Blocking the Bullet (1993) HD

この基本的な警護を、奈良県警の警備陣および警視庁から派遣されたSPは、果たせなかったのである。かれらは爆発音に凍り付いたままだった。いや、自分の体を要人の楯にする必要はない。一発目の銃撃音のあと、安倍元総理を押し倒すだけでよかった。運命の3秒間を、かれらは無為にすごすことで、警護対象を銃弾にさらしたのだ。


◎[参考動画]映画CM 「ザ・シークレット・サービス」日本版予告編 In the Line of Fire 1993

その奈良県警は、いわゆる田舎警察というわけではない。奈良県警の鬼塚友章本部長は、じつは安倍元総理の懐刀とも言われた北村滋に見出された人物なのである。
鬼塚は福岡高校から九州大法学部を経て、警察庁に入庁したキャリア組である。内閣情報調査室に勤務、当時の北村滋情報官に見いだされ、北村がNSC(国家安全保障局)に転じる際にこれに従っている。北村の辞職後、警察庁に戻り、そろそろ地方の本部長をということで回ってきたのが奈良県警だったのである。その意味では選ばれた任務であり、今回の失態をうけた更迭はまぬがれないであろう。

◆山上容疑者の武器製造

いっぽう、山上徹也容疑者は手づくりの鉄砲を準備していた。プロの暗殺者なら、カラシニコフの模造銃(中国製)をヤクザから手に入れていたはず、などとうそぶく評論家もいるが、そうではないだろう。暗殺者にとってブラックマーケットで得られる粗悪品の模造銃よりも、自分で調整してその性能を確かめられる武器こそ重要なのだ。

なるほど山上容疑者はプロではないかもしれないが、成功を期するスナイパーは武器をみずから確かめるものだ。山上容疑者の銃は、撃鉄(ハンマー)や撃針(ストライカー)を用いない、側穴(タッチホール)式の精巧なものだった。

その構造に専門家が舌を巻いたのは、着火が電子式である以上に、弾丸が6個の散弾式であることだ。ライフルを切っていない銃身(ブリッド)はしたがって、適度な仰角をもっている。1発で6個、2発目の6個のうちの一発が安倍元総理の喉元をとらえ、心臓と大血管を損傷したのである。

武器の精度・破壊力を確認するのは、小説(映画)だがフォーサイスのジャッカルがそうだった。

「ジャッカルの日」のエドワード・フォックスは、特別注文の狙撃銃(カスタムライフル=ハンドメイド)を念入りに調整する。ドゴール大統領警護の銃包囲網をかいくぐり、絶好の狙撃位置を確保したのは、今回の山上容疑者がやり遂げたのとよく似ている。


◎[参考動画]映画「ジャッカルの日(1973)」のカスタムライフル(日本語吹替版)

ブルース・ウイリス主演の「ジャッカル」もまた狙撃銃を特注するが、こちらは機関砲だった。しかもコンピュータ遠隔制御である。エドワードの細めの特注狙撃銃にたいして、いかにもアメリカらしい荒っぽい設定だ。

エドワードのジャッカルは撃ち殺され、ブルースのジャッカルも「女を護れない」と言いつつ、みずから女を人質にしながら撃ち殺される。

しかるに、山上容疑者は日本人らしく、かれの「大望」を果たして従容と縛についた。風蕭蕭として易水寒く 壮士一たび去りて復(ま)た還らず、の美学を感じさせるものがあった。民主主義の根源をゆるがす犯罪にもかかわらず、われわれは一服の清涼感を味わうのである。


◎[参考動画][映画]ジャッカル 大統領夫人を暗殺しようとするシーン【野沢那智Ver】

さて、その容疑者の内面にせまろう。武器をみずから作るほどの能力を持ち、しかし武器流通の裏社会に接するほどの交際能力はない。そこに、われわれは共同体の崩壊によってアトム化された、現代の諸個人の孤立と内向を見ることが可能だ。資本主義に固有の協働・コミュニティからの排除、労働の分業と細分化によって労働力商品として分断された諸個人が、ひっそりと個的な世界に閉じこもる。そして世界との接点が一方的なメディアやネットに限定されたとき、個的妄想は否応なく世界からの孤立を加速させる。おとなしい人が突如として殺人鬼に変貌するのは、こうした社会的分断と孤立の構造にほかならない。

山上容疑者は旧統一教会への寄付のために、母親が土地を売り借金するなど破産に至ったことを動機に挙げている。旧統一教会の関連団体に安倍元総理がビデオメッセージを送ったことで、標的をかれに絞ったという。安倍元総理の旧統一教会へのコミットがどの程度であったのかは、このさいほとんど関係ない。事件は選挙演説をねらったテロ(政治的殺人)であり、政治家とはそのような運命を抱えもった存在であるということだ。そして熟練のはずの警備陣が動転するほどの爆発音と威力で圧倒した、暗殺者の妄念のつよさが事件をなさしめたという事実である。


◎[参考動画]【独自】銃撃男の母親 旧統一教会に「本当に心酔」 大学友人語る変化…1億円献金か(ANN 2022年7月14日)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号

安倍狙撃事件のマスコミ報道を考える、日本の権力構造に組み込まれた新聞・テレビの実態 黒薮哲哉

カメレオンという爬虫類がいる。周辺の環境にあわせて皮膚を変色することで身を守る。生存するための合理的な体質を備えた動物である。

安倍元首相が狙撃されて死亡したのち、日本のマスコミは世論を追悼一色に染め上げた。だが、インターネット界隈から国境を越えて安倍元首相の実績評価が始まった。その中で鮮明に輪郭を現わしてきたのが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会=国際勝共連合)と安倍一族の親密な関係だった。日本の黒幕としての裏の顔が暴かれたのである。

安倍元首相は、統一教会=国際勝共連合の機関誌『世界思想』に繰り返し登場している

しかし、日本の新聞・テレビが統一教会の実名報道に踏み切ったのは、7月11日、世界平和統一家庭連合が記者会見を開いたのちである。参院選の投票日を前に、自民党と右翼に配慮した可能性が高い。

しかし、統一教会と安倍一族の関係は、実は半世紀以上の前から指摘されていた。狂信的な反共思想、霊感商法、合同結婚式が水面下で問題になってきた。しかし、新聞・テレビはこのカルト集団に関する報道を極力自粛してきた。報道が黒幕を刺激して、自分たちが返り血を浴びかねないことを知っていたからである。そのスタンスは今も変わっていない。

実際、新聞・テレビが垂れ流す安倍氏の評価にそれが現れている。安倍氏には、森友事件や安保関連法制の強行採決など問題視される政治手法もあったが、総合的には見れば卓越した政治家だったという世論を形成しようとしている。今後、安倍氏の国葬を正当化する世論形成にも動くであろうことはまず間違いない。

◆ジャーナリズムの偽看板

わたしはかねてから新聞・テレビは、日本の権力構造に組み込まれているという見解を持っている。優れた報道番組もあるが、それは報道にジャーナリズムの要素がまったくなければ、世論誘導そのものが成立しないからである。巧みに騙すのが洗脳なのだ。

独占資本主義が諸悪の根源というスタンスに立っている新聞・テレビは1社もない。社会的な歪を「修正」したうえで、現在の体制を維持しよというのが共通したスタンスなのだ。言論の自由とはこの枠内の自由を意味している。それゆえにこの枠をはみ出す可能性があるテーマは扱わない。

実際、新聞・テレビは、旧統一教会が記者会見を開くまでは、実名報道を控えた。日本の黒幕に光を当てかねないあまりにも不都合な事件であったからだ。インターネットメディアや雑誌メディアが、先に動いていなければ新聞・テレビは、安倍氏が旧統一教会の信者と「勘違い」されて、狙撃されたというストーリーに終始していた可能性が高い。

◆ジャーナリズムを見る2つの視点

わたしは新聞・テレビのジャーナリズムが衰退した原因を探るための視点は、2つしか存在しないと考えている。枝葉末節はあるにしろ、どちらかの陣営に分類できると考えている。

ひとつは問題の本質を記者個人の職能や精神の問題として捉える視点である。意識改革こそが状況を改善する起爆剤と考える観念論の視点である。

この視点に立てば、東京新聞の望月衣塑子記者のような人が、100人も登場すれば、ジャーナリズムの衰退は解消することになる。きわめて単純な発想で大半の新聞社批判はこの視点の域を出ていない。

これに対して、ジャーナリズム衰退の原因を考えるもうひとつの視点がある。それは、問題の原因を物質的、あるいは経済的な事実の中に求める唯物論の視点である。「存在が意識を決定する」とする論理で、メディア企業の経済的諸関係の中に客観的な汚点を発見し、それが記事や番組に及ぼす影響を考察する方法である。

以下、具体的な着目点を提示してみよう。

1,新聞各社が新聞購読料の軽減税率の適用を受けている事実。

2,新聞の再販制度の殺生権を、国会が握っている事実。

3,日本新聞協会が新学習指導要領に、小中高学校での授業で新聞の使用を明記させることに成功した事実。

4,公権力が半世紀以上にわたって、新聞社の「押し紙」を放置してきた事実。

5,新聞社が、内閣府をはじめとする省庁から多額の紙面広告費を受け取っている事実。

6,放送局が使用する電波の割り当てが、総務省から行われている事実。

7,記者クラブを通じて、新聞・テレビが取材上の便宜を受けている事実。

8,新聞社・テレビ局の経営が財界を中心とする広告主に大きく依存している事実。その財界が自民党の支持層である事実。

このうち「4」の「公権力が半世紀以上にわたって、新聞社の『押し紙』を放置してきた事実」と、メディアコントロールの関係に踏み込んでみよう。両者の間には暗黙の情交関係がある。公権力が「押し紙」を故意に取り締まらないことで、新聞社が暴利をむさぼる構図を維持することができる。新聞・テレビの報道が、公権力にとって不都合な存在となれば、「押し紙」を取り締まるだけで、簡単に片が付く。

戦中の政府が、新聞用紙の配給により新聞社の殺生権を握ったのと同じ原理である。このあたりの関係について、新聞研究者の新井直之氏(故人)は『新聞戦後史』の中で次のように指摘している。

「新聞の言論・報道に影響を与えようとするならば、新聞企業の存立を脅かすことが最も効果的であるということは、政府権力は知っていた。そこが言論・報道機関のアキレスのかかとであるということは、今日でも変わっていない」

◆「朝刊 発証数の推移」

新聞社が「押し紙」によりいかに莫大な利益を上げているかを、試算してみよう。それにより「押し紙」問題がメディアコントロールの温床になっている高い可能性を推測できる。

試算に使用するのは、毎日新聞社の社長室から外部へ漏れた内部資料「朝刊 発証数の推移」である。この資料によると2002年10月の段階で、新聞販売店に搬入される毎日新聞の部数は約395万部だった。これに対して発証数(読者に対して発行される領収書の数)は、251万部だった。差異の144万部が「押し紙」である。

シミュレーションは、2002年10月の段階におけるものだが、暴利をむさぼる構図そのものは半世紀に渡って変わっていない。

■裏付け資料「朝刊 発証数の推移」http://www.kokusyo.jp/wp-content/uploads/2016/10/49efd58c2dad25b295ed13115dc4494b.pdf

◆シミュレーションの根拠

試算に先立って、まず「押し紙」144万部のうち何部が「朝・夕セット版」で、何部が「朝刊単独」なのかを把握する必要がある。と、いうのも両者は、購読料が異なっているからだ。

残念ながら「朝刊 発証数の推移」に示されたデータには、「朝・夕セット版」と「朝刊単独」の区別がない。常識的に考えれば、少なくとも7割ぐらいは「朝・夕セット版」と推測できるが、この点についても誇張を避けるために、144万部のすべてが「朝刊単独」という前提で試算する。

「朝刊単独」の購読料は、ひと月3007円である。その50%にあたる1503円が原価という前提で試算するが、便宜上、端数にして1500円に設定する。144万部の「押し紙」に対して、1500円の卸代金を徴収した場合の収入は、次の式で計算できる。

1500円×144万部=21億6000万円(月額)

毎日新聞社全体で「押し紙」から月に21億6000万円の収益が上がっていた計算だ。これが1年になれば、1ヶ月分の収益の12倍であるから、

21億6000万円×12ヶ月=259億2000万円

と、なる。

「押し紙」に対して、毎日新聞社が若干の補助金を提供している可能性もあるが、この分を差し引いても「押し紙」を媒体として、巨額の販売収入が発生するという点で、大きな誤りはない。公権力が「押し紙」に対して睨みをきかせれば、暗黙のうちにメディアコントロールが可能になるのだ。

改めて言うまでもなく、このようなビジネスモデルの上に成り立っているのは毎日新聞社だけではない。「押し紙」政策を敷いてきたすべての新聞社に同じ構図がある。

販売店に山積みになった「押し紙」
 
(左)統一教会の教祖・文鮮明、(右)安倍元首相の祖父・岸信介

◆権力構造の補完勢力

新聞・テレビは、半世紀前に統一教会の文鮮明氏が岸信介氏に接触した時点から、統一教会の問題に着目すべきだった。安倍氏が首相に在任していた時期には、首相みずから国際勝共連合の機関誌『世界思想』に何度も登場している。つまり報道のタイミングはあったが、報道しなかったのだ。

が、それは記者の職能が低く、問題意識がないからではない。それよりもむしろ新聞・テレビが権力構造に組み込まれているからにほかならない。単純な問題なのである。

【参考記事】統一教会=国際勝共連合の機関誌に安倍首相が繰り返し登場、そっくりな思想と提言 http://www.kokusyo.jp/nihon_seiji/11408/

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

ピョンヤンから感じる時代の風〈03〉参院選、野党大敗を前にして 小西隆裕

参院選、事前に大方予想はついていた。それに拍車を掛けることになるかもしれない「安倍暗殺」。自民大勝を告げる選挙速報は、ただ淡々と実務的に流れていった。

◆野党は政策で負けていた

いつものことながら、今回の選挙も争点がないと言われた。だが、いつもと同じだった訳ではない。

自民党は比較的争点になるような政策を掲げていた。経済は「新しい資本主義」、安保防衛は「防衛費GDP2%へ増」、そして憲法改正。問題は、これと真っ向から対決する野党がなかったことだ。

正直言って、野党の政策には、この「危機」の時代に対処し、自民党とは違う日本を創るというビジョンが感じられなかった。これでは勝負にならない。ここに、野党大敗の第一の要因があったのではないだろうか。

◆四分五裂だった野党

自民党と真っ向から対決する路線も政策も持たなかった野党が、その下に統一し団結することがなかったのは必然だった。

特に今回、野党の分裂はいつにも増して甚だしかった。まず、選挙前の内閣不信任案を野党一致で出すこと自体ができなかった。出した立民が孤立し、深手を負った。

その上で、前回、前々回の参院選で実現した一人区の野党一本化ができなかった。できたのは、32ある一人区中11だけ。結果は、4勝28敗の惨敗だった。

また、野党間協力どころか抗争がいつにも増して激しかった。野党第一党をめぐる立民VS維新の抗争は、ともすれば自民党との戦いを超えたものになった。それに加えて、出馬政党のいつにない林立。「政権の受け皿」など念頭にも浮かばない有様だったと言える。

◆できなかった危機への対応

今度の選挙では、「危機」が異口同音に叫ばれた。与野党そろって、「物価高騰の危機」、「戦争の危機」を叫んでいた。

しかし、それに対処するビジョンらしきものを提示していたのは自民党だけだった。だが、その自民も、「危機」の本質を全面的に明らかにしていた訳ではない。

物価高騰、戦争の危機と言った時、人々の念頭にあったのはもちろんウクライナ戦争だ。そこで問題は、このウクライナ戦争が単純なロシアによるウクライナ侵略戦争ではないという事実だ。

軍事や経済など、「複合大戦」とも言われ、直近では、「第三次世界大戦」の声も出てきているこの戦争の根底には、米欧覇権秩序・勢力VS中ロと連携した全世界脱覇権秩序・勢力の攻防がある。この世界を二分する攻防にあって、自民党が米欧覇権の側に立っているのは明らかだ。

だが、この米欧覇権の側の戦略戦術自体、霧の中に包まれている。日本など同盟諸国の軍事と経済を自らの下に統合して自身を強化する一方、中ロなど脱覇権勢力を包囲、封じ込め、排除、弱体化して打ち負かす覇権回復、建て直し戦略の全貌を米国が明らかにするはずがない。

自民党が今度の参院選を契機に打ち出したビジョン、政策がこの米覇権戦略の手の平の上にあるのは言うまでもない。

今、日本に問われているのは、自らの進むべき道を自らの頭、自らの力で選択し切り開いていくことだ。

参院選で示された野党の姿、それは、その反面教師だと思う。

これまでのように米欧覇権の側に明確な自覚もないままに立ちながら、大政翼賛的に自民との争点もつくれず、自分たち相互でいがみ合っていた姿、そこからの脱却こそが求められているのではないだろうか。

 
小西隆裕さん

◆「黄金の三年」に問われていること

これから日本政治の前には、「黄金の三年」と言われる国政選挙のない三年間が横たわっている。

この期間に、ウクライナ戦争に象徴される米欧覇権勢力VS中ロと連携した脱覇権勢力の世界史的攻防は進展し、その米欧覇権側の対中対決最前線、「東のウクライナ」としての日本の面貌は大きく変えられていくのではないか。

そのために、何よりもまず、「新しい資本主義」「防衛費GDP2%」そして「憲法改正」が公約通り実行されていくだろう。

それが日本にとって何を意味しているかは、今、ウクライナの現実が雄弁に教えてくれていると思う。

国政選挙のないこれからの三年をどうするか。

問われているのは、日本の「東のウクライナ」化に反対し、それを阻止する闘いの三年にすることではないかと思う。

これまでの野党政治の荒涼たる廃墟の上に、世界政治の実相を見据え、それに真っ向から相対するビジョンと政策をもった新生日本への新しい運動の構築こそが今切実に求められているのではないだろうか。

▼小西隆裕(こにし・たかひろ)さん
1944年7月28日生。東京大学(医)入学。東京大学医学部共闘会議議長。共産同赤軍派。1970年、ハイジャックで朝鮮へ

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年8月号
『一九七〇年 端境期の時代』

安倍元首相暗殺が暴いた日本政治の〈不都合な真実〉 田所敏夫

◆「民主主義に対する挑戦」とは位相が異なる事件

7月8日、奈良市で参議院議員選挙に立候補した自民党候補者の応援演説を開始してまもなく、安倍元総理が男性に手製の銃で射殺された。日本で政治家の「暗殺」は少なくない。有名なところでは、現役の首相、犬養毅が銃弾に倒れた「5・15」事件や複数大臣が暗殺された「2・26事件」、社会党(当時)の浅沼稲次郎委員長が演説中に刺殺された事件などが、わたしの年齢の層には思い浮かぶ。

安倍元総理射殺事件の直後、与党も野党も、おそらくはどのマスコミも(マスコミのすべてを検証はしていないが)「民主主義に対する卑劣な攻撃・挑戦であり断固として許せない」旨のメッセージを発していた。選挙期間中に首相在位期間最長者である、安倍晋三氏が殺されたのであるから、なんらかの「政治的背景」があるのではないか、と考えても無理はない。というよりも時期や状況から判断すれば、動機は判然としないものの「政治的な背景を持ったテロ」だとの推測が大勢であった。

しかし、容疑者(とはいえこの事件の場合、現在明らかになっている供述から「容疑者」との呼称ではなく「犯行遂行者」と呼ぶ方が適切かもしれない)からは、与野党・マスコミ・おそらくは警察当局も想定していなかったであろう、意外な供述が発せられた。

「統一教会に家族(人生)をバラバラにされたので、統一教会を日本に連れてきた岸信介の孫である安倍元首相の殺傷を狙っていた」、「統一教会最高幹部が来日した際に、暗殺を計画したが果たせなかった」……。

犯行遂行者は長期間にわたり、自分の家族が崩壊させられ、自分の人生も狂わされた「敵」として統一教会(現・世界平和統一家庭連合)を捉え、復讐の機会を探っていたようだ。そうであれば、事件の直接被害者は安倍元総理ではあるが、犯行の動機は政治的なものではない。むしろ自分の人生を壊した統一教会に本来は向かっていたものを、それが果たせなかったために、統一教会の支援者と考えられる安倍元首相への攻撃へターゲットを切り替えたと推測される。

ここで事件が帯びる性質の全体像が大きく変化するのである。仮に「犯行実行者」が「安倍元首相の政治姿勢」あるいは「政治手法」などについての批判を動機として持っていれば、たしかに、「政治テロ」事件としての色彩からの捜査が進行するであろうが、「犯行実行者」は現在伝わっている情報の限りにおいて、まったく「政治」と無関係にひたすら統一教会による被害(「犯行実行者」が感じる被害)が、事件実行の動機だったと述べているようだ。

そうであれば、この事件は結果として安倍元総理が暗殺されたとはいえ、冒頭に述べた「5・15」、「2・26」、「浅沼委員長刺殺事件」と衝撃においては似ていても、動機においてはまったく位相が異なる事件である可能性があるのではないだろうか。

7月14日岸田総理は安倍元総理の「国葬」を行うと発表したが、同時に原発9基の再稼働を経産大臣に指示したことも表明した。

弱小党派や少数野党がときに「自民党政権は議席を多数保持していても、内心では極限まで追い詰められている!」というような定型文的なアジテーション文章や声明を出すことがある。7月中盤参議院選挙終了直後の自公政権は、奇しくもその状態に陥っているのではないかと感じる。

◆権力中枢に浸透し、暗然たる力を保持していた統一教会

若年層はともかく、50代以上の人々にとって、統一教会は桜田淳子や元体操選手・山﨑浩子が「合同結婚式」で結婚したことはまだ記憶の中にあるだろう。ところが統一教会の活動は70年代から各界で広がりを見せ、80年代には「霊感商法」などで大々的に問題にされるも、21世紀に入ってからめっきり報道が減っていた。これは統一教会が活動を縮小したからではなく、想像するに95年のオウム真理教事件をピークにマスメディアが意識的に扱わなくなったことと関連があるのではないか。マスメディアにおける統一教会の扱いが減っていた原因は、統一教会がそれだけ権力中枢に浸透し、暗然たる力を保持したからだと言い換えられる。

当選回数の少ない議員と統一教会の関係が断片的に報じられているけれども、元総務大臣で安倍元首相同様タカ派の急先鋒であり後継者ともいわれた、事件発生地奈良出身の高市早苗氏と統一教会についての関係は、地元だけでなく、政界・報道関係者であれば周知の事実である。不思議なことに事件発生後、安倍元首相の搬送された病院と東京にいながら連絡を取っていたというにいたといわれている高市氏と統一教会の関係にフォーカスが向いたマスメディアの報道は大々的に行われていない(総務大臣はテレビ局免許の認可権を持つ)。

◆矛盾を顕在化を恐れる岸田政権

さらに不思議なのは、韓国の右翼とKCIAがその活動を援助したといわれる韓国右翼団体である統一教会は教義に「韓国語(ハングル)による世界統一」など偏狭な主張を持つ団体であるにもかかわらず、日本の右派、特徴的には「日本会議」から批判が聞かれないのはなぜであろうか。

皇室を持ち上げ「日本民族の優秀性」を強調する日本の右派と、韓半島統一は良いにしても「韓国語(ハングル)による世界統一」を教義の一部に持つ団体とは、主張においてまったく相容れないのではないか。それらの矛盾を顕在化させないために、岸田は早期に「国葬」決定と原発再稼働命令との、まったく理解不能な煙幕の如き選択肢しか思いつかなかったのではないだろうか。

最後にわたし自身が経験した統一教会との接点を紹介しておこう。80年代半ば、米国に半年ほど滞在したことがある。数か月間は毎日マンハッタンに電車で通った。グランドセントラルステーションは多くの映画にも登場する、著名な場所だが、電車を降りて構内をあるいていると、わたしはアジア系と思われる若い女性からしばしば声をかけられた。

“ Are you looking for purpose in your life ? “

発音には日本語のなまりがあり、年齢は当時のわたしと変わらないひとたちだった。

「あなた、原理(原理研)でしょ!」

と日本語で吐き捨てると、すぐに離れていった。80年代から統一教会が引き起こす各種の問題を放置したから、皮肉にも安倍元首相殺傷事件は引き起こされたのではないか。


◎[参考動画]全国霊感商法対策弁護士連絡会 記者会見(2022年7月12日)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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