「甲状腺がんは増えている」はデマではない!「311子ども甲状腺がん裁判第1回口頭弁論」 被害者の訴えを聞き、放射能被害の現実を知っていこう! 尾崎美代子

5月26日、東京地裁で、311子ども甲状腺がん裁判の第1回口頭弁論が行われた。この裁判は、福島原発事故当時、福島県内に居住していた6才から16才だった男女6名が、東電に対し、事故に伴う放射線被ばくにより甲状腺がんを発症したとして、損害賠償を求める裁判だ。

6名はいずれも甲状腺がんの手術を受け、うち4名は再発に伴う手術で甲状腺を全摘、甲状腺がんの発症や、それに伴う手術、薬の服用などで進学・就職などにも大きな被害が生じている。

裁判では、原発事故と、6名の原告の甲状腺がんの因果関係や原告が受けた損害の評価が実質的な争点となる。午後2時からの第1回期日では、5名の弁護士が弁論を行ったのち、原告2さんが意見陳述を行った。

その後の報告集会の冒頭、井戸謙一弁護団長は、「今日の法廷の印象は、5人の弁護団が手分けしてそれぞれの弁論をしましたが、それは前座で、本番は原告の女性の素晴らしい意見陳述でした」と話されたあと、期日の成果を以下のように述べられた。期日前の進行協議では、毎回意見陳述を認めるかどうかが話しあわれていた。被告・東電は、毎回やることに反対し、裁判所も消極的な感じだった。しかし、今日原告の意見陳述を聞いたあと、再びその話題になり、裁判長が被告代理人に意見を求めた。被告代理人は、建前的には大事なのは争点整理で、それを優先すべきと主張していたが、原告の意見陳述を認めるか否かについて反対とは言えず「最終的に裁判所に委ねます」と述べた。

裁判所も「もう一度考えます」と態度を変えた。被告代理人が反対できなかったのは、原告女性の意見陳述が、彼らの胸にも響いたからだと思う。当時の子どもたちをどう救済していくかで一番大事なのは、原告がどう苦しんできたかを裁判所に理解させる、そのことによって真っ当な判決に導いていくことだ。

先日TBSで報道された「報道特集」について、中身も知らずに「デマだ」とバッシングする輩が大勢いるが、そうではないということを発信して頂きたい。このようにバッシングする社会の風潮を変え、被害者の原告を支援していく社会的風潮をつくっていくということが、この裁判で真っ当な判決を出させる大きな力になると思います。

原告2さんの意見陳述作成を担当した柳原敏夫弁護士から、それまでの経緯が話された。

「彼女は自分から第1回目に陳述すると言ってくれた。そのとき、私が偉そうに彼女に言ったのは、裁判官に届く言葉、あなたにしか言えない言葉を言って下さいとお願いした。人間として扱われなかった治療や手術のことは思い出したくないだろうが、あなたしか言えないのだから。本人も悩んだようだが、連休明け、それまで書いた文章に、本人も思い出したくないアイソトープ治療について2000字を書き足してきました。それが今日のメインテーマでした。書いただけで精魂尽き果てただろうに、今日法廷でもう一度読むのも大変だったろうが、今日は最善の意見陳述をしてくれました。ここには来れませんが、皆さん、彼女に拍手をお願いします」。

その後、前日意見陳述を練習した際の原稿2さんの声が、会場に流れた。「意見陳述要旨」から、その一部を紹介する。

「あの日は中学校の卒業式でした。友達と「これで最後なんだね」と何気ない会話をして、部活の後輩や友達とデジカメで写真をたくさん撮りました。そのとき、少し雪が降っていたような気がします」

3月16日、放射線量が高かったことを知らない彼女は地震の影響で電車が止まっていたため、歩いて学校に行き、外で友達と話し、歩いて帰ってきた。県民健康調査で甲状腺がんがみつかり、精密検査を受けた。結果は甲状腺がんだったが、医師はそうは言わず「手術が必要です」と説明した。

「手術しないと23才までしか生きられない」と言われたことがショックで今でも忘れられません」

病気を心配した家族の反対もあり、大学は第一志望の東京の大学ではなく、近県の大学に入学、しかし、その大学にも長くは通えなかった。甲状腺がんが再発したためだ。

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「治っていなかったんだ」「しかも肺に転移しているんだ」とてもやりきれない気持ちでした。「治らなかった、悔しい」この気持ちをどこにぶつけていいのかわかりませんでした。「今度こそあまり長くは生きられないかもしれない」そう思いました。……

「手術の後、肺転移の病巣を治療するため、アイソトープ治療を受けることになりました。高濃度の放射性ヨウ素の入ったカプセルを飲んで、がん細胞を内部被ばくさせる治療です。

1回目と2回目は外来で治療を行いました。この治療は、放射性ヨウ素が体内に入るため、まわりの人を被ばくさせてしまいます。病院で投薬後、自宅で隔離生活をしましたが、家族を被ばくさせてしまうのではないかと不安でした。2回もヨウ素を飲みましたが、がんは消えませんでした。

3回目はもっと大量のヨウ素を服用するため入院することになりました。病室は長い白い廊下を通り、何回も扉をくぐらないといけない所でした。至るところに黄色と赤の放射線マークが貼ってあり、ここは病院だけど、危険区域なんだと感じました。病室には、指定されたもの、指定された数しか持ち込めません。汚染するものが増えるからです。

病室には、看護師は入って来ません。医師が1日1回、検診に入ってくるだけです。その医師も被ばくを覚悟で検診してくれると思うととても申し訳ない気持ちになりました。私のせいで誰かを犠牲にできないと感じました。

薬を持って医師が2、3人、病室に来ました。薬は円柱型のプラスチックケースのような入れ物に入っていました。

薬を飲むのは、時間との勝負です。医師はピンセットで白っぽいカプセルの薬を取り出し、空の紙コップに入れ、私に手渡します。

医師は即座に病室を出ていき、鉛の扉を閉めると、スピーカーを通して扉越しに飲む合図を出します。私は薬を手に持っていた水と一緒にいっきに飲み込みました。

飲んだ後は、扉越しに口の中を確認され、放射線を測る機械をお腹付近にかざされて、お腹に入ったことを確認すると、ベッドに横になるよう指示されます。

すると、スピーカー越しに医師から、15分おきに体の向きを変えるように指示する声が聞こえてきました。

食事はテレビモニターを通じて見せられ、残さず食べられるか確認し、汚染するものが増えないように食べられる分しか入れてもらえません。

その夜中、それまでは何ともなかったのに、急に吐き気が襲ってきました。すごく気持ち悪い。なかなか治らず、焦って、ナースコールを押しましたが、看護師は来てくれません。ここで吐いたらいけないと思い、必死でトイレへ向かいました。吐いたことをナースコールで伝えても吐き気止めが処方されるだけでした。時計は夜中の2時過ぎを回り、よく眠れませんでした。

次の日から、食欲は完全に無くなり、食事ではなく、薬だけ病室に入れてもらうことのほうが多かったです。2日目も1,2回吐いてしまいました。

私はそれまでほとんど吐いたことがなく、吐くのが下手だったため、眼圧がかかり、片方の目の血管が切れ、目が真っ赤になってしまいました。扉越しに、看護師が目の状態を確認し、目薬を処方してもらいました。

病室から出られるまでの間は、気分が悪く、ただただ時間が過ぎるのを待っていました。

病室には、クーラーのような四角い形をした放射能測定装置が、壁の添乗近くにありました。その装置の表面の右下には数値を示す表示窓があり、私が近づくと数値がすごく上がり、離れるとまた数値が下がりました。

こんなふうに3日間過ごし、ついに病室から出られる時がきました。パジャマなど身に着けていたものはすべて鉛のごみ箱に捨て、ロッカーにしまっていた服に着替えて、鉛の扉を開け、看護師と一緒に長い廊下といくつもの扉を通って、外に出ました。……こんなつらい思いをしたのに、治療はうまくいきませんでした。治療効果がでなかったことは、とてもつらく、その時間が無駄になってしまったと感じました。以前は、治るために治療を頑張ろうと思っていましたが、今は「少しでも病気が進行しなければいいな」と思うようになりました。……通院のたび、腫瘍マーカーの「数値があがってないといいな」と思いながら病院に行きます。でも最近は毎回、数値が上がっているので、「何が悪かったのか」「なぜ上がったのか」とやるせない気持ちになります。……自分が病気のせいで、家族にどれだけ心配や迷惑をかけて来たかと思うととても申し訳ない気持ちです。もう自分のせいで家族に悲しい思いはさせたくありません。もとの身体に戻りたい。そう、どんなに願っても、もう戻ることはできません。この裁判を通じて、甲状腺がん患者に対する補償が実現することを願います。

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裁判の傍聴希望者は約200名、うち傍聴出来たのは27名、期日後の記者会見でも多くのメディアから質問があったとお聞きした。甲状腺がんなど原発事故の放射能による健康被害に関心が高まっている。被害者に対する支援の輪を、今後さらに広めていかなくてはならない。

311子ども甲状腺がん支援ネットワーク 

▼尾崎美代子(おざき みよこ)
新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)
おかげさまで創刊200号! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年6月号

人を信じること、人に裏切られること、それでも私は人を信じる ── ある弁護士の懲戒処分取消について考える 鹿砦社代表 松岡利康

齢70代に入り、さして誇るべき実績もない私の人生も末期に入りました。私をよく知る方はご存知ですが、思い返せば人に裏切られたり騙されたりが多かった人生でした。この期に及んでは、もう人に裏切られたくはありません。

ここ数年、ひょんな縁で、私たちが「カウンター大学院生リンチ事件」と呼び、巷間「しばき隊リンチ事件」とか呼ばれる事件の被害者M君支援と真相究明に関わってきました。6冊もの本にまとめ世に送り出し、決して多くはありませんが、少なからずの心ある方々に理解を得ています。

リンチ被害者M君は、リンチ加害者5人に対し民事訴訟を起こしましたが、この初期、弁護団に加わったのが橋本太地弁護士(大阪弁護士会)でした。ともかく問題のある言動が多く、やがて代理人を辞めていったのですが、その後も問題を起こしています。弁護団から去っても、まともになり本来の弁護士の仕事を懸命にやってくれたら、と蔭ながら応援していたのですが……。一番ショッキングだったのは依頼者と着手金返還を巡りトラブルを起こし「タヒね」(「死ね」という隠語。「死」の上部の「一」を取れば「タヒ」となる)懲戒事件でした。昨年初めのことで、大阪弁護士会は懲戒請求者の主張を認め弁護士として「品位を失うべき非行」として懲戒処分のうち一番軽い「戒告」処分に付したのでした(2021年3月1日付け)。

橋本弁護士は、
「金払わん奴は死ね!」
「弁護士報酬の踏み倒しを撲滅するために何ができるだろうか。」
「弁護士に金払わなくて平気な奴は人殺しと同じだよ。」
「弁護士費用を踏み倒す奴はタヒね!」
「金払う気ないなら法律事務所来るな!」
「金払わない依頼者に殺された弁護士は数知れず。」 (議決書より)

などとSNSで発信し、これに対し依頼者は懲戒を申し立て、昨年3月1日で懲戒処分を受けたのでした。私は、これで心から反省するのであればいいんじゃないか、と思いました。反省しなければ、これ以上の問題を起こしかねないですから。

しかし、橋本弁護士は日本弁護士連合会に処分取消の審査請求を起こし、同会は去る5月17日付けで逆転裁決を下しています。

橋本弁護士と知り合った頃、彼は精神的に病み、生きるの死ぬのと日々ツイートしていました。彼を激励するために、べつに恩着せがましく言うわけではありませんが、高級日本料理店に連れて行ったり北新地のそこそこ高級な飲み屋にも連れて行ったりしました。また、私は2年間、関西大学で非常勤講師を務めさせていただきましたが、そのうち各1回づつ彼にも講義してもらいました。私なりに彼へのエールのつもりでした。彼は1年目の自分の講義(音声)をSNSで発信し依頼の問い合わせが多数あったとのことでした。2年目の講義は映像にし、これもSNSで発信し、1年目より格段に多い問い合わせがあったそうです。

*橋本弁護士のTwitterでは、いまだにこの時の映像を流していますが、そういう経緯があったことを書き添えておきます。少しぐらい感謝してほしいものです。

しかし、彼は、そうした私の気持ちを踏みにじる言動を繰り返しました。ある取材班の一人は悩み血便を下したほどです。

橋本弁護士の処分取消審査請求、弁護士たるものが、そうした下劣な言葉を何度もSNSで発信し依頼者を傷つけた行為は決して許されることではなく、大阪弁護士会の懲戒処分は当然だと思っていました。しかし、日本弁護士連合会がなぜ逆転の裁決を下したのか、市井人としては到底理解できません。本人のためにもよくないと思います。変な理屈付けて、こんな甘いことやってるから弁護士たる者、「三百代言」などとバカにされるんじゃないでしょうか。依頼人(=懲戒請求者)は、次のように悔しさをツイートされています。お気持ちはよく理解できます。

「私はこの懲戒請求した本人です。私の所に日弁連からの議決書はまだ来ていません。それなのに、SNSで弁護士通して、こんなに議決書をシェアして喜ばれると、困ります。それに、着手金も返還してもらっていません。弁護士会は、もっと消費者を保護すべきだと思います。業界の需要が減りますよ。」

むべなるかなです。

ところが、くだんの審査請求の代理人に、かの神原元弁護士の名前があります。これは昨年の時点で情報提供があり知っていましたが、神原弁護士がどういうつもりで橋本弁護士の代理人に就いたのか、あるいは橋本弁護士がなぜ神原弁護士を代理人に選任したのか、非常に裏切られた気持ちです。いやしくも橋本弁護士は、私やリンチ被害者M君らが神原弁護士に立ち塞がれ、彼の手腕によって苦杯と屈辱を舐めてきたことを知っているはずです。

橋本弁護士は、まだ弁護団にいる時、「僕は弁護士として神原のような職業倫理のないやつは許せない」と意気込んでいたのは何だったのか?と思います。と言いつつ、裁判が終わった後で2人して喫茶店に行ったという証言もあり、これは橋本弁護士本人も認めているそうです。そうか、そうであれば合点がいきます。

橋本弁護士にしろ神原弁護士にしろ、彼らの人間性に義憤を覚えます。こうした人間性を持つのが弁護士なのか? こういう弁護士に依頼すれば、仮に「正義が勝つ」ことはあっても、あまり感心しません。

「もう人に騙されたり裏切られたりしないぞ」と肝に命じて来ましたが、藤井正美にはうまいこと社内に入り込まれ3年間雇いました。このかん、勤務時間中にやりたい放題やられました。3年間も気づかなかった馬鹿な社長です。また、藤井につながる「反原連」にも多額の資金を吸い取られ、ちょっと意見するや挙句一方的に絶縁されました(もちろんお金は返ってきません)。

非常にやり切れない気分で、一気に書き連ねてきました。普通は他の人に一読してもらったり1日置いたりして掲載するのですが、今回は執筆即掲載しました。

まあ、人を見る目がないとみずからを恥じるしかありませんが、それでも私は残りのわずかな人生、人を信じたいと思っています。

尚、「裁決書」は2ページですが、このほかに「議決書」が9ページあります。ここでは「裁決書」のみを掲載します。

*朝日新聞5月26日朝刊に記事が出ましたので画像を追加しました。それにしても、SNSでの誹謗中傷が社会問題になり侮辱罪の強化が叫ばれる昨今、弁護士という特権階級だったら許されるのか、「死ね」「タヒね」というようなツイートが「表現の自由」だとする日弁連の頭の中は時代錯誤としか言いようがありません。

《関連過去記事カテゴリー》
 M君リンチ事件 http://www.rokusaisha.com/wp/?cat=62

水源地ど真ん中に三原市民の圧倒的反対押し切り産廃処分場! 広島県は許可取り消しと水資源保護条例制定を! さとうしゅういち

広島県三原市本郷町は、広島県のほぼど真ん中に位置しており、広島空港があることでも知られています。昔は独立した町でしたが平成の大合併で三原市に事実上吸収されました。その本郷町に産業廃棄物処分場建設計画が2018年に持ち上がり、大混乱となっています。

三原市・竹原市の水源地のど真ん中。問題の産廃処分場の概要は以下です。

計画地 広島県三原市本郷町南方字観音平22179番地1 外(宗教法人と業者土地取得済)
関係地域 広島県三原市本郷南方 / 広島県竹原市新庄町
埋立面積 9万7,499平方メートル(マツダスタジアム約10個分)
埋立容量 112万6,000立法メートル (2~10t車両30台/日程度・160立法メートル /日)国道2号から搬入
廃水計画 雨水・浸透水は調整池を経由後、自然流下で椋原川と日名内川に排水する
主な産廃排出場所 県内5割、県外5割(岡山、島根、大阪、京都、岐阜、愛知、静岡)

三原市にとっても竹原市にとっても水源地のど真ん中です。三原側は沼田川へ、竹原側は賀茂川へ流れます。

三原側の沼田川下流には三原市最大の浄水場があります。三原市民の4分の3にあたる3万世帯の水道水となります。また、竹原側の下流域には6つの浄水場があり市民の大半の水道水になっています。下流には井戸水利用者、農業用水利用、漁業、地下水を利用した酒・豆腐・飲料メーカーなどもあります。

◆三原市・竹原市の市民の総意で「ノー」も県はゴーサイン

2018年に計画が持ち上がったあと、三原市でも竹原市でも住民が立ち上がり、産廃処分場建設許可をしないよう、県に求める運動を開始。2018年10月25日には三原市議会本会議で2つの産廃処分場建設反対請願が全会一致で採択され、県に決議文を提出。2019年2月25日には竹原市議会本会議で、全会一致で同様の決議が採択されました。

三原市も竹原市も自民党が非常に強い地域。しかし、自民党員の議員もふくめて全会一致で反対決議が採択されたということの意味はあまりにも大きいのです。

しかし、広島県は許可を出してしまいました。許可を出したのは筆者が最後に勤務した広島県東部厚生環境事務所でした。廃棄物関係の職員は理系の専門の職員で人数も限られています。元同僚が許可を出す立場にあったことに複雑な思いです。とはいえ、基本的に広島県の場合は産業廃棄物処分場許可にあたって、周辺住民の意見を聴くよう義務づける条例はありません。不許可にすれば、今度は業者から訴えられるリスクもあります。そうはいっても、行政の透明性は求められる時代であり、産業廃棄物業者もその恩恵に浴しています。

◆一度は廃棄物持ち込みを禁止する仮処分も、ひっくり返る 裁判の経過

これに対して、広島地裁において、住民が広島県を相手取って、産業廃棄物処分場許可を取り消すよう求める行政訴訟を提起しました。平行して業者に産業廃棄物処分場への廃棄物の持ち込み、すなわち稼働しないよう求める仮処分も申し立てています。

 

仮処分申請は、2021年4月にいったん認められました。しかし、それに対する業者の異議が2022年4月認められてしまいました。もちろん、原告側(債権者側)は抗告しています。こうした中で、行政訴訟の第9回公判が4月19日に行われました。次回は6月26日の予定です。

公判後の報告会で、住民側の山田延廣弁護士(写真中央)が年内に結審する見通しであることを明らかにしました。

また、山田弁護士は「広島県には、長野県のような、産業廃棄物処分場許可にあたって住民の意見を聴取することを義務づける水資源保護条例がなく、産業廃棄物処分場がほぼ野放しの状態だ」と指摘しました。

◆このままでは広島が日本・世界のゴミ箱の恐れ

山田弁護士が紹介した通り、長野県には豊かな水資源の保全に関する条例があります。水資源保護区域の大規模な土地の売買があった場合は市町村の意見を聞くことになります。

https://www.pref.nagano.lg.jp/mizutaiki/kurashi/shizen/mizukankyo/jore/index.html

もし、広島で今回あったようなことが長野で起きればどうなるか? まず、売買の段階で売り主が県に産業廃棄物処分場目的であることを届け出ます。関係する市町村が猛反対しているわけですから、県としても「産業廃棄物処分場目的の売買はダメです」ということになります。

このような条例が全国にできつつあるのに、広島だけなければどうなるか? 現に今回の三原市本郷の産業廃棄物処分場が稼働すれば広島だけでなく、岡山や島根などの周辺県はもちろん、大阪や京都、岐阜、静岡、愛知など遠方の産業廃棄物が大挙して押し寄せてきます。それこそ、広島が日本のゴミ箱になってしまいます。

わたしが住んでいる広島市でも安佐南区上安の産業廃棄物処分場で問題が起きています。周辺住民の調査では汚れた水が流出しています。そしてさらなる拡大が計画されています。そして、ここは外資系に買収されています。

◎参考;エクイスグループ、日本で廃棄物処理事業を開始。今後3年間における投資見込み額は最大で550億円 https://www.kyodo.co.jp/pr/2021-06-10_3617278/

日本はそもそも、産廃の基準がいまや韓国や中国よりも緩いとも言われています。たしかに、日本では「管理型処分場」「遮蔽型処分場」の基準は厳しい。曲者は「安定型処分場」です。安定型というと、いかにも安心のように思えます。いわゆる安定五品目の廃プラスチック類,金属くず,ガラス陶磁器くず,ゴムくず,がれき類などのみが捨てられる、だからコンクリートもシートもなしで埋め立てられる、というわけです。だが、実際にはその中にそれ以外のものが混じってもきちんと、検査されるわけではないのです。さらにその中でも、広島の産業廃棄物行政は大甘なのです。

こんな状態では、それこそ、広島は世界のゴミ箱になりかません。安定型処分場の新規許可をしないよう法改正するとともに、広島県でも長野県同様の条例の制定を強く求めます。

ストップ本郷処分場【広島県三原市】 https://mihara-sanpai.com/

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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ABC部数のグレーゾーン、朝日新聞倉敷販売(株)の事件にみる新聞発行部数のデタラメ 黒薮哲哉

産経新聞社が新聞販売店に搬入する産経新聞の部数が、今年3月に100万部を下回った。1990年代には、約200万部を誇っていたから、当時と比較すると半減したことになる。かつて「読売1000万部」、朝日「800万部」、毎日「400万部」、産経「200万部」などと言われたが、各紙とも大幅に部数を減らしている。新聞の凋落傾向に歯止めはかかっていない。

コンビニなどで販売される即売紙を含む新聞の総発行部数は、3月の時点で次のようになっている。()内は、前年同月差である。

朝日新聞:4,315,001(-440,805)
毎日新聞:1,950,836(-58,720)
読売新聞:6,873,837(-281,146)
日経新聞:1,731,974(-148,367)
産経新聞:1,038,717(-177,871)

旧ソ連のプラウダが消えて後、新聞の世界ランキングの1位と2位は、読売新聞と朝日新聞が占めてきた。しかし、現在の世界ラングを見ると、USAツデーやニューヨークタイムスがトップ争いを演じている。これはひとつにはコロナウィルスの感染拡大を背景に、電子版が台頭したことに加え、国際語としての英語の優位性が、それに拍車をかけた結果にほかならない。英語の電子媒体は、すでに地球規模の市場を獲得している。

その結果、「紙」と「部数」の呪縛を排除できない新聞社は没落の一途を辿っている。公表部数そのものが全くのデタラメではないかという評価が広がっている。

◆新聞セールス団が新聞購読料を負担

日本ABC協会が定期的に発表しているABC部数は、新聞の発行部数を示す公式データである。このABC部数の中に大量の残紙(配達されずに廃棄される「押し紙」や「積み紙」)が含まれていることが、周知の事実になり始めている。ABC部数と実配(売)部数の間にある大きな乖離が、社会問題としての様相を帯びてきた。

最近、ABC部数をかさ上げする新たな手口が明らかになった。それはニセの新聞購読契約書を作成して、それに整合させるかたちで、販売店の帳簿類の処理をして、「新しい読者」をABC部数に計上する手口である。

今年4月、わたしは元新聞セールス団の幹部から、ニセの新聞購読契約書を作成する手口が読み取れる内部資料を入手した。このセールス団は、2012年ごろから岡山県倉敷市にある朝日新聞倉敷販売(株)で新聞拡販活動を展開した。しかし、報酬の支払い額やニセの購読契約書などをめぐって朝日新聞倉敷販売と係争になった。

わたしが入手したのは、この事件の裁判資料である。

裁判そのものはセールス団幹部の敗訴だったが、裁判の中で、図らずもABC部数にグレーゾーンが生じるひとつの原因が露呈した。それはニセの新聞購読契約を作成して新規読者として計上する方法だった。しかも、帳簿上の整合性を保つために、ニセの読者の購読料をセールス団の側が負担していた。

実際、判決は次のようにこの手口を認定している。

「両者の間で協議がされた結果、原告(注:セールス団)と被告(注:朝日新聞倉敷販売)は、原告が偽造された契約書に関する新聞購読料を負担し、被告に対し、これを分割して支払う旨の合意をした」

実際、朝日新聞倉敷販売(株)は、セールス団の支払い負担を軽減するために、入店料(新聞拡販の成功報酬)を先払いしていた。金の流れは、「朝日新聞倉敷販売→セールス団→朝日新聞倉敷販売」となり、法的な汚点を排除した上で、新聞の公称部数を増やしていた。

 
倉敷市における朝日新聞のABC部数の変化

◆倉敷市の朝日新聞のABC部数

ニセの購読契約書の枚数について元幹部は、

「朝日は、515枚あったことを認めている」

と、話している。現在、わたしは偽造枚数について調査中である。現時点では枚数を確定できないが、ABC部数に疑惑があることは、次のデータを見れば明らかになる。

倉敷市における朝日新聞のABC部数の変化を示すデータである。期間は2011年10月から2021年10月の約10年。

半年で1000部から3000部ぐらいの変動が観察できる箇所が複数ある。常識的に考えて、倉敷市の朝日新聞の読者が半年で、1000人単位、あるいは3000人単位で変動することなどあり得ない。これは、ABC部数そのものが信用できないデータであることを示している。

筆者は、同じような手口を、他系統の新聞社の元セールス団員からも聞いたことがある。次のような手口である。

戸別訪問で、「タダでいいので新聞を配達させてください」と、話を持ち掛ける。承諾を得ると、実際に新聞を届ける。購読料は、セールス団が負担する。無料で新聞を配達し続けていると、数カ月後に公式に新聞購読契約を結んでくれることが多い。その際に成功報酬が手に入る。このケースでもABC部数は増えていることになる。

以上、紹介したように新聞社と販売店の間だけではなく、販売店と新聞セースル団の間でも、ABC部数をかさ上げするための裏工作が行われているケースがあるのだ。販売店がセールス団に対して「押し紙」をする構図がある。

◆巨大のメディアの汚点とメディアコントロール

海外では、出版物の水増し表示に対しては厳正な措置が下される。たとえば米国テキサス州の『ダラス・モーニングニュース』は、1980年代の半ばに、ライバル紙から発行部数の水増しを告発されたことがある。2004年になって同社は、事実関係を認めた。日曜版を11.9%、日刊紙を5.1%水増ししていたことを確認した上で、広告主に2300万ドルを払い戻したのである。

しかし、日本ではABC部数の水増しが、堂々と横行している。裁判所や警察もこの件に関しては黙認してきた。巨大メディアの汚点を握ることで、メディアコントロールが可能になるからではないだろうか。大半の新聞研究者もABC部数の闇にはタッチしない。

USAツデーやニューヨークタイムスの躍進に象徴される電子メディアへの移行の中で、日本の新聞社は、近い将来に行き場を失う可能性が高い。地球規模で日本の新聞社を見ると、「ならず者」の集まりにしか映らないのである。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

ウクライナ戦争 ── 戦況総括と今後の展望 横山茂彦

ウクライナ戦争を分析するなどと言うと、戦争好きな元左翼が愉しんでいるように受け取られかねないが、第三次世界大戦を惹起するかもしれない重大事のゆくえは、ひとえにその戦況にかかっているのだ。

すでにプーチンはくり返し、NATOに対して核兵器使用の可能性を口にしているが、新型弾道弾サルマトの実験を行ない「(ロシアは)他国にない兵器を保有しており、必要な時に使う」と強調した。これまでの通常兵器の戦闘で、追い詰められていると見るべきであろう。

戦争が他の手段をもってする政治の延長である(クラウゼヴィッツ)とはいえ、その帰趨は兵器が決する。近代戦争においては兵士の多寡ではなく、兵器の能力によるものだ。

第一次大戦においては戦車と塹壕、毒ガス、飛行機。第二次大戦では巨砲をそなえた戦艦よりも空母が主力艦の位置を占め、ロケット、ジェットエンジン、そして核爆弾と、軍事兵器の「進化」は人類をおびやかすようになった。

核兵器使用の可能性を見据えつつ、ロシアとウクライナの今後の戦況を占おう。

ウクライナ戦争では、ウクライナの数字上の戦力が対ロシア比で10分の1とされてきた。これだけを見れば、侵攻後の数日で決着がつくはずだった。

【兵員数・国防予算】
       現役   予備役   予算
ロシア    90万人  200万人  7兆円
ウクライナ  19万人   90万人  6800億円
※アメリカ85兆円・中国28兆円・日本5兆円

【陸上兵器】 戦車   戦闘車両 火砲
ロシア   13,127輌  13,680台 4,990門
ウクライナ  1,990輌   1,212台 1,298門

【航空兵器】 戦闘機  爆撃機  戦闘ヘリ
ロシア    770機  691機   399機
ウクライナ   69機   45機    35機
※国際軍事年鑑などを参考に概算。

もっとも、軍事ジャーナリストの田岡俊次によれば、ロシア軍の兵員は実際にはもっと少ないという。

「ロシア陸軍はソ連解体時に140万人だったが現在28万人(陸上自衛隊の2倍)で、空挺(くうてい)軍4万5千人、海軍歩兵3万5千人を加えても地上兵力は36万人だ。東シベリアと極東700万平方キロを担当する東部軍管区の総人員は8万人(自衛隊の3分の1)にすぎず、一部はウクライナに投入されている。ロシアは徴兵制で1年の兵役を終えた予備兵を名目上200万人持つが、就職している社会人を召集するのは余程の場合で、シリア人などの傭兵(ようへい)で補充中だ。」(AERA 2022年5月2-9日合併号)

それでもウクライナ軍の2倍の兵員である。兵器は性能はともかく、実数に近いであろう。いずれも10倍以上である。戦わずして、勝敗は見えていたはずだ。

少なくともプーチンは、FSB(連邦保安局)の情報をもとに、こう考えたことだろう。ロシアが大軍を動かしただけで、ウクライナは戦わずしてその軍門に下ると。精鋭部隊を派遣せずとも、訓練名目で動員した新兵でこと足りると。
だが、実際にはそうならなかった。

◆ロシア軍の甚大な損害

イギリス国防省の分析によると、ロシア軍は当初動かした20万の兵力の3分の1を失い、キーウ攻略を断念しなければならなかった。

戦死者は、じつに約1万5000人に上るとの分析を明らかにした。1351人が死亡したとするロシア側の発表を大きく上回る。

前線では数人のロシア軍の将軍が、通信状態の悪さから携帯電話を使うことでその位置を把握されて戦死した。第二段とされた東部戦線でも計画通りの侵出はできず、一部では国境線まで押し返されている。

イギリスのウォレス国防相は、ロシア軍の装甲車両も2000台超が破壊されたか、ウクライナ軍に奪われたと述べている。内訳は戦車が少なくとも530両、歩兵戦闘車が560台など。ヘリと戦闘機は計100機以上を失ったとしている。

損害は正規軍だけではない。士気が低い徴兵兵士に代わって投入された、いわゆる傭兵にも、多数の死者が出ていると報じられている。

すなわち、ウクライナ戦争のファクトチェックを続けている英調査報道機関「ベリングキャット」(クリスト・グロゼフ取締役)は、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がウクライナに派遣した傭兵8000人のうち、37.5%にあたる3000人が戦死したと考えられると語った(4月21日付、英デーリー・メール)。

◆戦車戦の実態

プーチンの盟友であるベラルーシのルカシェンコ大統領は「自国内で領土や家族、子供のために戦う国民を打ち負かすのは不可能だ」「(ロシアの軍事作戦が)これほど長期になるとは思っていなかった」と語っている。

つまり、ロシア軍がこれほど弱いとは思っていなかった、と云っているのだ。

第二段とされた東部戦線でも計画通りの侵出はできず、一部では国境線まで押し返されている。

とりわけ、ロシアの外貨獲得の目玉商品である戦車の脆弱性が明らかになり、北部戦線ではジャベリンの餌食になったことは、この通信でも解説してきたところだ。

◎[関連記事]「破綻しつつあるプーチンの戦争 ── だが、停戦交渉は軍事作戦の一環にすぎない」2022年4月3日

分厚い装甲と機動力をもった戦車は、軍事侵攻においては圧倒的な力を発揮する。都市制圧では歩兵を護り、敵の機関銃の弾丸を跳ね返す。

だが、精度の高い対戦車兵器には、その上部装甲は弱い。20世紀後半には対戦車ヘリ(空対地攻撃ミサイル装填)の登場で、その歴史的役割は終わったとすら云われたものだ。

その後、装甲がチタンやセラミックによる軽量化のいっぽうで、劣化ウラン(密度が高い重金属)、炸裂システムなどが使われるようになり、その弱点は補われたかに思われたが、今回のウクライナ戦争では歩兵が携行できる対戦車ミサイル(ジャベリン)の餌食になった。

この対戦車ミサイルを破壊するには、歩兵の白兵戦・狙撃をもってしか戦術的には対応できない。戦車はミサイルに弱く、しかしミサイルを抱えた歩兵は、敵の歩兵で狙撃するしかない。しかしその歩兵たちは、ミサイルなしに戦車の装甲を破壊することはできない。

※戦車<歩兵の対戦車ミサイル<歩兵の狙撃<戦車=三すくみのループ。したがって、最前線の兵器の運用が勝敗の帰趨を決める、平野での戦車戦の要諦である。

◆エクスカリバーの脅威

この三すくみのループを破るのが、遠距離から撃てる榴弾砲である。近距離で戦車が撃ち合う徹甲弾とはちがい、いま、東部戦線で威力を発揮しているのが、155ミリ榴弾砲(M777)に装填される砲弾エクスカリバー(M982)である。このエクスカリバーは、衛星利用測位システム(GPS)を用いて標的を正確に狙えるもので、単なる砲弾ではない。

アメリカ陸軍習得支援センター(USAASC)によれば、「エクスカリバーの砲弾は、妨害電波に耐える内蔵GPS受信機を搭載しており、慣性ナビゲーションシステムを改良している。これにより飛行中の正確な誘導が可能になり、射程距離に関係なく、ミス・ディスタンス(標的と実際の着弾点の間の距離)は2メートル以内に抑えられ、劇的に正確性が向上している」という。

さらに、ロシアの152ミリ砲が射程距離20キロ以内であるのに対して、エクスカリバーは40キロと長距離を狙える。通常弾でも30キロを狙える。東京駅から撃ったとして、横浜駅にいる戦車をピンポイントで狙えることになる。

ロシア軍がハリコフを放棄して撤退したのは、エクスカリバーの射程圏外への脱出にほかならない。しかもヘリコプターで空輸できるほど軽く(4トン未満)、ロシア軍の榴弾砲(7トン以上)が機動力を発揮できないのとは対照的だ。

榴弾砲はもともと、敵陣近くまで進出した偵察砲兵の指示で砲撃する。最前線で索敵する偵察砲兵はしかし、上述したとおり敵の歩兵に狙撃されやすい。

そこで問題になってくるのは、敵兵がどこにいて、どういう援護を受けているか。敵の動きを把握する必要がある。最前線の攻防が情報戦になってくるのだ。

緒戦でその必要を満たしたのは、ドローン兵器だった。ロシアのミサイル巡洋艦モスクワの撃沈はネプチューンの直撃とされているが、ドローン(バイラクタルTB2)が先行して撃沈に関与したことが明らかになっている(ロシア軍部に近いSNSのアカウント・Reverse Side of the Meda)。今後もそれは変わらないだろう。

◎[関連記事]「日本政府がウクライナにドローンを供与 ── 戦争を止めるために、何をすれば良いのか?」2022年4月23日 

◆NATO供与の兵器がロシア軍を壊滅させる?

4月26日、ドイツ南西部のラムシュタイン米空軍基地で、ウクライナへの軍事支援強化に向けたアメリカ主催の国際会議が開かれた。これまで兵器供与に慎重だったドイツを含め、西側諸国が一致してウクライナが強く求める大型兵器の供与を本格化させる方針となった。

じつは日本も、この会議に参加している。ここに、ウクライナ戦争を梃子にした日本政府の軍拡への布石、流れがつくられることも見ておかなければならない。NATO軍以上の兵器を供与できるはずはないのだから、医療関連の支援に徹すべきであろう。

それはともかく、ドイツのランブレヒト独国防相は、自走対空砲ゲパルトを50輌、ウクライナに提供すると表明した。ドイツはこれまで、直接の供与を対戦車ミサイルなど比較的小型の兵器に限っていたが、大きく方針転換したことになる。

このゲパルトは、レオパルドⅠ(60~70年代の主力戦車)の車体に35ミリ機関砲を二門搭載した対空戦車である。対空戦車の長所はミサイル攻撃に強いことだ。


◎[参考動画]Germany to supply Ukraine with anti-aircraft tanks

レーザー測距機付きKuバンド捜索レーダー(距離15km)とSバンドの追尾レーダー(距離15km)で機関砲が掃射されるシステムだ。戦車の天敵である攻撃ヘリコプターの射程外(15km以上)からのミサイル攻撃には、スティンガーで対抗する。

ウクライナ東部で今後、予想される戦闘は平野での戦車戦である。

アメリカが榴弾砲(155ミリ)を供与したのは、戦車群を叩くとともに、ロシアのロケット砲陣地や榴弾砲を無力化するのが狙いである。だが、砲門の数で上まわるロシア軍を撃破するには、攻撃の精度の高さがもとめられる。双方ともにドローンを飛ばして敵陣形をさぐり、無駄弾を撃たないほうが勝利を得るはずだ。


◎[参考動画]Report: Germany to deliver ‘Gepard’ anti-aircraft tanks to Ukraine | DW News

◆注目されるアメリカの新兵器

近代戦を決定づけるのは、敵の主力戦闘力をピンポイントで叩ける航空戦力だが、ロシア・ウクライナ両軍ともに制空権を確保できていない。これは半面で地対空ミサイル、対空砲が航空兵力を上まわっているからだ。

ロシア軍が「ウクライナ軍の軍事施設を攻撃した」と喧伝しながらも、じっさいには民間施設や住宅が被弾しているのは、爆撃機があまりにも遠くからミサイルを発射しているからだ。爆撃機の動静は監視衛星で把握されているし、標的に近づけば地対空ミサイルの餌食になる。したがって離陸した段階で動きを母くされるので、目標の上空に達することなく、ほぼ無差別爆撃となってしまっているのだ。野戦においても同じ構造となるであろう。やたらにミサイルを撃つが、当たらない無駄弾が続出するはずだ。

そこで、的確にヒットする無人機の登場となる。上述した戦車と榴弾砲が応酬する、野戦の均衡を崩す。しかもそれは、ロシア軍にはない兵器だ。

NATO諸国が対空ミサイルのスイッチブレードを供与されたのにつづき、アメリカが新兵器のフェニックス・ゴーストの供与を決めた。このフェニックス・ゴーストはロシアのクリミア併合を機に開発された無人自爆飛行体である。

スイッチブレードと同様、弾頭はタングステン炸裂弾だが、スイッチブレードが航続時間15分(300型)~40分(600型)なのに対して、フェニックス・呉ストは6時間という航続力がある。

一部には戦闘機から発射されることで、長時間を稼げるという観測もあるが、垂直離陸方式ではないかとも考えられている。ようするに、軍事評論家も実体を知らない新兵器なのである。ビデオカメラと赤外線センサーで標的を捉えるので、夜間攻撃に向いている。英米の軍事情報スポークスマンにそれば、ウクライナが戦略的な総反攻を準備しているという。

その総反攻には、ロシア本国への攻撃も含まれるであろう。補給路と兵站システムを叩くのも防衛である。

ここ数日、ウクライナと接するロシア西部で弾薬庫や石油関連施設などの爆発が相次いでいる。ウクライナ側は公式には認めていないが、ポドリャク大統領府長官顧問は、自国の攻撃であることを示唆したという。ロシア軍の補給線に打撃を与えるため、無人機(ドローン)などで攻撃を強化しているとみられる。

米シンクタンク「戦争研究所」も、無人機かミサイルでウクライナ軍がロシア西部ベルゴロド、ボロネジ両州で補給拠点を攻撃したと分析し、今後、越境攻撃が拡大すると予測している。ロシアが撃墜したと主張するトルコ製攻撃型無人機の画像も、インターネット上で出回っているという(共同電をもとに編集)。

いま、アメリカとイギリスの軍事顧問団がポーランドほかで、ウクライナ兵に新型兵器の扱いを修得させているともいう。これをもって、さらなる戦争の激化をもたらすNATOの暴走と批評するのは簡単だ。しかし、いまのところここにしかプーチンの暴走を止める術はないのである。


◎[参考動画]英国のNLAW対戦車ミサイルがロシアの戦車を破壊

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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憲法アンケートに被災地訪問 ── れいわ新選組 広島でのメーデーのとりくみ さとうしゅういち

◆今年は筆者にとっても新しいこころみ

5月1日はメーデーです。筆者は自慢ではありませんが日本広しといえども、筆者ほど幅広い系統のメーデーに参加した経験がある人間はいないと自負しています。筆者は県庁マン時代には「連合」系自治労広島県職員連合労働組合の支部役員として、連合系のメーデーによく参加しました。5月1日ではなく、前倒しで29日あたりの休日または祝日開催、基本的には家族連れで参加するお祭り、というのが広島でも連合系メーデーの特徴です。ただし、コロナでお祭り要素は、ここ3年は消えています。

他方で県庁マン末期の2008-2010年には、就職氷河期世代を中心とする独立系メーデーを広島でも主催しておりました。大きな組合や既成政党が女性を中心とするケア労働者、非正規労働者の利益を代弁できているとはとてもではないが思えなかったからです。この「生存のためのメーデーINひろしま」5月1日の翌日に開催していました。そして、新幹線に飛び乗って東京で開催される「自由と生存のメーデー」に参加するのがこの2008-2010年の筆者のGWのスケジュールでした。

一方で筆者は外国のメーデーにも参加しています。2007年、15年前のノルウェーのメーデーに筆者は参加しています。このときは、女性警察官労働者がトロンボーンでインターナショナルを演奏。筆者はただひとり、日本語で「たて、うえたるものよー」と歌い、沿道から注目されまくっていました。日本でもかつては警察労働者の組合があり、日本社会党で活動していた警察労働者もいたそうですが、いわゆる逆コースで警察労働者、防衛労働者、海保労働者、消防労働者、刑務・入管労働者らは団結権すら奪われています。そのことは歴史的な事実としては存じていましたが、ノルウェーでメーデーに参加されている警察労働者を拝見して、そのことを実感しました。

筆者は2011年、河井案里さんと対決するために県庁を退職。当時は東日本大震災・福島原発事故により、左派・リベラルの間でも「貧困問題はどうでもいい。反原発が最優先」という雰囲気がひろがり、独立系メーデーの運動が組み立てられなくなりました。筆者は全労連系、ときに全労協系のメーデーにも参加しつつ、あたらしい労働運動の流れを模索していました。しかし、2022年。れいわ新選組のみなさまと、あたらしい形でのメーデーへの関わり方をスタートさせました。

以下にその取り組みをご紹介します。県労連系の広島県中央メーデーに参加しつつ、政党として独自の取り組みもさせていただきました。
1.メーデーへの参加
2.メーデー会場ちかくでの憲法アンケート
3.西日本大水害2018被災地訪問
以下にご紹介します。

◆メーデーを前に独自の街頭宣伝

第93回広島県中央メーデーを前にさとうしゅういちは、NHK広島近くでも街頭演説。5月4日(水)13時からPARCO前での『山本太郎と桜を見る会』のご案内を行いました。あわせてメーデーに当たって『この20~30年給料がずっと上がってこなかった日本』の状況にたいして『ガツン、と財政出動』で『あなたの給料を引き上げ、あなたの負担を減らす』れいわ新選組の政策をご紹介しました。

メーデーを前に『この2、30年給料がずっと上がってこなかった日本』だからこそ『ガツン、と財政出動』で『あなたの給料を引き上げ、あなたの負担を減らす』

立憲さん、共産さんとの大きな違いは河井事件にあえて触れないことです。お金をかけずにボランティアで政治活動を組み立てていることはご紹介します。しかし、「河井案里さんから金をもらった誰某市議を打倒する!」などと叫んでも、その誰某市議の知名度を上げてしまい、筆者がやりたい政権批判や自分や所属政党の政策を紹介する時間が削られるだけで時間の無駄と感じています。


◎[参考動画]さとうしゅういち IN NHK広島ちかく

◆メーデー会場参加隊と憲法アンケート隊で同時多発行動

筆者自身は、第93回広島県中央メーデーに参加しました。フラワーフェスティバルの準備がすすむ、平和公園南側の噴水からデモがスタートしました。そして、会場のハノーバー庭園にいきました。今年はコロナで全員によるシュプレヒコールはなく、主催者のコールのあと、ハリセンのようにしたプラカードを叩いて音を出しました。

写真は友人が所属する郵政産業労働者ユニオンさんののぼりです。すこしまえ、全労連系の郵政産業労働組合と全労協系のユニオンが統合してできました。同ユニオンは労働契約法20条にもとづき、非正規差別をなくす裁判闘争を展開されています。メーデーの内容についてはマスコミで報道されているような各地でのものと同様ですのでここでは詳しくは触れません。

一方でチーム広島の皆様は、28日の竹原に続き、メーデー会場の入り口付近で『憲法アンケート』を実施しました。れいわ新選組チーム広島のメンバーが中心となり、自民党や維新、国民が進める憲法改悪を阻止するための活動をスタートさせています。https://twitter.com/reiwakaikensosi

[写真左]友人が所属する郵政産業労働者ユニオンさんののぼり/[写真右]メーデー会場の入り口付近で『憲法アンケート』を実施

◆近年の繰り返される水害の被災地を回る

筆者はメーデーの午後は広島市安佐南区祇園出張所前と古市橋駅前で街頭宣伝しました。

安佐南区は2018年の西日本大水害2018では被害は安佐北区や安芸区にくらべると小さかったのですが、2014年の広島土砂災害では北東部の八木・梅林地区や南部の山本で壊滅的な被害が出た地域がありました。2021年8月にも山本や上安で大被害が出ましたが、過去の水害の教訓で早めの避難が徹底していたこともあり、犠牲者は出なかったのは不幸中の幸いです。

『この20~30年給料がずっと上がってこなかった日本』の状況にたいして『ガツン、と財政出動』で『あなたの給料を引き上げ、あなたの負担を減らす』れいわ新選組の政策を紹介。

それとともに、「世界で最初の戦争被爆地」で「最近、大きな水害に見舞われている」この広島からこそ、「軍事より災害救援・復旧復興」「核兵器も原発もない世界」を打ち出していきたい、と表明。

日本は災害救助隊で国際貢献するとともに、核兵器禁止条約にせめてオブザーバー参加をすること、また、原発なき脱炭素・エネルギーの安全保障で先頭にたつべきこと、そのための財政出動もさとうしゅういちとれいわ新選組は、ガツンと打ち出している、と訴えました。

社会福祉協議会のふれあいセンター

筆者はそのあと、西日本大水害2018の大きな被災地のひとつである安佐北区の東部を回らせていただきました。この地域は西日本大水害2018の際に県内で最も早い時間帯に壊滅的な被害が伝えられました。他方で、地元の議員の機転で、県内でもいちはやく、7月9日には、社会福祉協議会のふれあいセンターにボランティアセンターが開設されました。ボランティアが自身の都合にあわせて活動しやすい環境も整っていたのが思い出されます。

この地域の災害時に土砂がひどかった県道沿いを中心に一軒一軒ご様子をうかがいました。災害時に活躍された地方議員などにもご挨拶させていただきました。災害時の機転のきかせかたについてご教示いただき、勉強になりました。この議員は広島土砂災害2014で安佐南区にボランティアに参加したときに感じた問題点を是正するような形でボランティアセンターを立ち上げたそうです。ボランティアはのべ8000人、うちリピーターが3000人。その裏には地域のリーダーでもある地方議員の存在がありました。彼は保守系で政策はちがう部分もありますが、毎回上位当選されるだけのものはあるのだな、と唸らされました。国会では当時は自由党参院議員だったれいわ新選組の山本太郎代表が奮闘して、重機などの資材を被災地におくることなどを提案したのを思い出しました。

参議院というのは、政権選択の衆議院とはちがいます。イデオロギー云々をこえて、じっくり現場を踏まえた議論をするような院にしていきたいものです。筆者はその観点からも今後とも県内の被災地を重点的に回らせていただきます。災害時やその後にこそ、普段みのがされてきたような社会の弱点も見えてくるからでもあります。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
◎Twitter @hiroseto https://twitter.com/hiroseto?s=20
◎facebook https://www.facebook.com/satoh.shuichi
◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

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それで良いのか福島「県民健康調査」検討委員会 ── 長崎大医学部「山下俊一チルドレン」高村昇座長選出の問題点 民の声新聞 鈴木博喜

「あれ?ない……」
13日午後、福島駅前のホテルで開かれた第44回「県民健康調査」検討委員会。配布資料をめくると、筆者はすぐに〝異変〟に気付いた。委員名簿にあるはずの名前がなかったのだ。記者席で思わず声を出してしまったほど驚いた。

7カ月前の昨年10月に開かれた前回委員会で座長に再任されたばかりの星北斗氏(福島県医師会副会長)の名前も、座長代行になったばかりの稲葉俊哉氏(広島大学 原爆放射線医科学研究所教授)の名前もない。さらに2人を加え、計4人の委員が「一身上の都合」で辞めていたのだ。2年の任期が始まったばかりだというのに……。

「『県民健康調査』検討委員会設置要綱」第3条7項で「座長に事故があるとき又は座長が欠けたときは、座長代行が、その職務を代理する」と定められている。座長に選ばれたばかりの星氏が夏の参院選に自民党公認で立候補することから、次の座長は当然、稲葉代行が務めるものと考えていた。

開会までまだ時間があるので、旧知のフリーランス記者とその事で立ち話をしていると、会場に1人の委員が入って来たのが目に留まった。高村昇氏(長崎大学 原爆後障害医療研究所教授)だった。高村氏は前回委員会を欠席。それ以前もコロナ禍でリモート形式での開催が続いたので、会場に姿を現すのは実に2年ぶりのことになる。

「まさか…」
物書きとして冷静でいなければいけないことは分かっていたが、徐々に鼓動が激しくなっていった。もし高村氏が新しい座長に選ばれれば、「放射線の影響は、実はニコニコ笑っている人には来ません。クヨクヨしている人に来ます」(2011年3月21日、福島県福島市での講演会)と言い放った山下俊一氏(初代座長)とともに福島県内各地で〝安全講演〟をした人物が座長に就任することになるからだ。


◎[参考動画]3.11直後の山下俊一発言

果たして、その「まさか」が的中した。
「福島県復興のためにご尽力されている。高村先生以外にはいない」、「やっぱりここは高村先生しかいらっしゃらない」などと称賛を受けての選出だった。高村氏は2020年4月から「東日本大震災・原子力災害伝承館」の初代館長(非常勤、任期5年)も務めており、検討委員会も〝牛耳る〟ことになったのだった。

高村氏の問題点については、これまで何度も「民の声新聞」で指摘してきた。
福島県の担当者は「伝承館」の館長に選出した理由について①考え方に偏りが無い、人格的に温厚で高潔②福島県の復興、避難地域等の支援に関わってきた③「伝承館」の運営に必要な能力を持っている─の3点を挙げた。しかし、高村氏は「考え方に偏りが無い」と言えるだろうか。

「伝承館」初代館長就任にあたり内堀雅雄知事を表敬訪問した高村氏。山下俊一氏の影響下にある高村氏が検討委員会も〝牛耳る〟ことになり、検討委の中立性が揺らいでいる=2020年撮影

高村氏は1993年に長崎大学医学部を卒業。2013年度からは同大原爆後障害医療研究所の教授を務めている。原発事故直後の2011年3月19日には、山下俊一氏とともに福島県の「放射線健康リスク管理アドバイザー」に就任。県内各地で行った講演会では「放射性セシウムはろ過されやすいので水道水には出てこない」、「放射性セシウムセシウム 137 が体に入った場合の半減期は30年では無い。子どもであれば2カ月、大人でも3カ月程度で半分になる」などと発言したほか、子どもたちの鼻血についても「放射線の影響ではない」と断言していた。

飯舘村では震災発生から2週間後の2011年3月25日に県と村の共催で高村氏の講演会が行われている。その場で「マスク着用や手洗いなどをすれば、健康に害なく村内で生活できる」という趣旨の発言をしているが、実はこの講演会、そもそもの目的が「村民に安心してもらうため」だったのだ。当時の菅野典雄村長が著書「美しい村に放射能が降った」のなかで「私も安心した」と明かしているほどだ。

復興庁が2018年3月に発行した冊子「放射線のホント~知るという復興支援があります。」は「原発事故の放射線で健康に影響が出たとは証明されていません」と書いているが、「作成にあたり、お話を聞いた先生」に名を連ねているのも高村氏。
伝承館館長就任にあたって「一番の主眼は、復興のプロセスを保存して情報発信すること」、「ぜひイノベーションコースト構想の一翼を担いたい」と語って内堀雅雄知事を満足させたのも高村氏。

事故発生直後から被曝リスクを全否定し、住民を線源から遠ざけるどころか逃げないように〝安心〟させ、国や福島県が画策する原発事故被害の矮小化と復興PRに加担するような人物を座長に選んで本当に良いのだろうか。筆者は委員会後の記者会見で質問した。高村座長は苦笑していたが、どの委員も質問に答えなかった。答えないも何もない。司会役の県職員が全力で質問をブロックしたのだった。

「申し訳ありませんけれども、本日の議事議題に関係ありませんので、お答えを控えさせていただきます」

原発事故後に神奈川県に区域外避難、現在は避難元の郡山市と行き来している松本徳子さんは、今回の検討委員会や記者会見を動画で観て福島県の県民健康調査課に電話をかけた。「子どもが健康調査を受けている親として、県民健康調査検討委員会の場で傍聴や質問をする権利を与えてもらえませんか?」と申し入れたが、けんもほろろに断られたという。

「県民健康調査課と私との意見交換の場を設けてもらえませんか?とも言いましたが、『それもできません』とのことでした。どれだけ詰め寄っても『それは松本さんの見解なので仕方ありません。これ以上お話しても意味がありません』と電話を切られてしまいました」

検討委員会後の記者会見に臨む当時の星北斗座長(左)と高村昇委員。自民党公認で参院選に出馬する星氏の後継座長に高村氏が選ばれた=2017年撮影

高村氏は昨年2月、原子力産業新聞のインタビューで次のように語っている。

「もちろん、今後もいろんな調査研究を進めていく必要があるが、因果関係を調べた結果、10年経った現時点では、福島で見つかる甲状腺がんは被ばくの影響とは考えにくいという結論に至っている」

「福島では、これまで甲状腺検査をしてこなかったから見つからなかったものが検査をすることにより見つかるようになった」

これではもはや、検討委員会の方向性は見えている。

そもそも、初代座長が「子ども脱被ばく裁判」の一審証人尋問で厳しく追及され、二代目座長は原発再稼働に躍起になっている自民党の公認候補として参院選出馬。その路線を継承するのが〝山下チルドレン〟の三代目座長。そんな委員会が説得力を持ち得るのだろうか。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

おかげさまで創刊200号! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年6月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の脱原発季刊誌 『季節』2022年春号(『NO NUKES voice』改題 通巻31号)

ウクライナ戦争をどう理解するべきなのか〈3〉反帝民族解放闘争と社会主義革命戦争 横山茂彦

ウクライナ戦争は、ある意味で第二次大戦の残滓でもある。前回明らかにしたとおり、軍事大国(ドイツとロシア)に挟まれた、悲劇と言うべきであろう。

「共産党の過酷な政策からウクライナの住民は、ドイツ軍を『共産主義ロシアの圧制からの解放軍』と歓迎した。とくに東欧の反共産主義者は、ロシア国民解放軍やロシア解放軍としてソ連軍と戦った。プーチンが『ウクライナ民族主義者たちは、ナチスに協力した』とするのは、一面では当たっているのだ。」

「スラブ人を劣等民族と認識していたヒトラーは、彼らの独立を認める考えはなく、こうした動きを利用しようとしなかった。親衛隊や東部占領地域省は、ドイツ系民族を占領地に移住させて植民地にしようと計画し、これらは一部実行された。」

「ウクライナ戦争をどう理解するべきか〈2〉──帝国主義戦争と救国戦争のちがい」2022年5月13日

◆世界は分割された

ファシズム(枢軸独裁国)に対する民主主義世界(連合国軍)の勝利によって、第二次世界大戦は終結した。ドイツは東西に分割され、日本はアメリカの占領下に置かれたのだった。

これを「20世紀の悲劇」(民族分断と従属)と言いなすこともできるが、日本とドイツは戦争を仕掛けた、開戦責任をもって「平和に対する犯罪」として裁かれたのである。

概括すれば第二次世界大戦も帝国主義間戦争だが、開戦した側、侵略した側に全面的な責任が問われる。これは今回のウクライナ戦争においても同様である。

ところで、現在も日独は国際連合憲章において「敵国」なのである。したがって、れいわ新選組の山本太郎が指摘するとおり、独自の核武装は不可能である。安倍晋三が云う「核共有論」もまた、国連憲章の前では意味をなさない。

さて、ファシズムは敗戦によって裁かれたが、戦勝国もまた東西に分裂する。
ソ連(およびロシア共和国を中心にした連邦国家・その同盟国)とアメリカ(および西ヨーロッパ列強・その同盟国)が、ベルリンの壁、北緯38度線(朝鮮半島)、北緯17度線(ベトナム)で睨み合うことになったのだ。東西冷戦である。

◆ソ連はどのような国家だったのか

第二次世界大戦後の冷戦下で、日本の左翼はしばらくのあいだ、ソ連邦支持だった。ロシアではなく、ソ連邦である。ソ連邦の原爆や水爆も、欧米のものとはちがう「きれいな核兵器」だとされたものだ。そのソ連邦とは、そもそも何だったのだろうか?

ソビエト社会主義共和国連邦は、対外的(国際的)には単独の国家でありながら、15もの共和国からなる連邦である。

【旧ソ連邦構成国】
ロシア・ウクライナ・白ロシア(現ベラルーシ)・ウズベク・カザフ・グルジア(現ジョージア)・アゼルバイジャン・リトアニア・モルダビア・ラトビア・キルギス・タジク・アルメニア・トルクメン・エストニア

ソ連邦はロシアを中心としながらも、ソビエト(会議)という社会主義国の連合体であり、共産主義者にとっては世界革命の実質だった。

国民党との内戦をへて成立した中華人民共和国、中米に社会主義の旗を立てたキューバ、フランスの植民地支配をくつがえした北ベトナム、アメリカ軍(国連軍)と渡り合った朝鮮人民民主主義共和国、そして東ドイツをはじめとする東欧社会主義諸国が、ソビエト連邦の同盟国だった。1950年代から80年代にいたるまで、われわれの世界は東西両陣営に分断されていた。

時代は民主主義と科学的な進歩史観が支配し、帝国主義の旧体制は反動とされていた。社会主義・共産主義こそが、人類の未来ではないかと思われたのだ。

昭和30年代までの日本人の文章には「科学的」「進歩的」「反動的」「封建的」という言葉がおびただしく散見される。進歩的知識人とは、左翼系の学者や左派の評論家をさしたものだ。

しかし、スターリンの死去とともに、社会主義神話に亀裂がはいる。ソ連共産党の無謬性に疑義が呈されたのである。1956年のソ連共産党20回大会、フルシチョフの秘密報告、すなわちスターリン批判である。プロレタリア独裁の名の下の行きすぎた専制的支配、おびただしい粛清と収容所。鉄のカーテンと言われた、ソ連邦の秘密が暴かれたのである。

これを機に、東欧でソビエト支配から脱する動きがはじまる。ハンガリー動乱(1956年10月)がその端緒だった。

社会主義体制の閉鎖性、密告と強権的な独裁政治にたいする、自由の抵抗である。60年代後半のプラハの春や70年代後半のポーランド連帯労組の運動、80年代後半の東西の壁崩壊へとつらなる流れだが、ここでは多くは触れない。

◆共産主義運動の病根

今日的には、ソ連邦を中心とした社会主義国の独裁政治、全体主義と称される政治体制の淵源は、歴史的に明らかになっている。

労働者階級の団結がひとつである以上、指導政党である共産党も唯一(単一党)である。分派の自由はない(コミンテルン22年決議)というものだ。

その指導政党は「民主主義以上のあるもの(同志的信頼)」(レーニン『何をなすべきか』)にゆだねられ、選挙は行なわれない。あるいは党公認の候補者にしか投票できない。党という官僚組織が政治と文化のすべてを統括し、正しい指導のもとに国民をみちびくというのだ。

したがって、間違った行動をする者たち、党と政府に反対する者たちは秘密警察に密告される。これが民主集中制による一党独裁である。党と国家は正しいのだから、遅れた部分・間違った道を歩む者を取り締まる。強制収容所で正しく労働教育される。この単純な原理で、一党独裁は盤石なものとなった。ソ連は「収容所群島」(ソルジェニーツィン)と呼ばれたものだ。

スターリンを尊敬するウラジーミル・プーチンによって、いまもロシア連邦は事実上この政体を採っている。

そしてここが肝心なのだが、日本共産党をはじめとする日本の共産主義政党もまた、このレーニン主義・スターリン主義の組織原則を堅持しているのだ。党内選挙を行なわない、労働者階級の党は単一であるから分派の自由を認めない。したがって、党から離反する者は反革命分子とされるのだ。

ここに他党派の主張をみとめない、場合によっては内ゲバ(処刑)を厭わない、左翼の病根があるといえよう。内ゲバは感情や倫理ではなく、組織原理に基づくものなのだ。左翼においては、とくに排除の思想がいちじるしい。

つい最近のことだが、わたしが編集する雑誌「情況」において、「キャンセルカルチャー」を特集したときに、議論を封殺しようとする事件が起きた。

このキャンセルカルチャーとは、差別的な表現や社会運動にとって認めがたい表現は、キャンセル(取り消し)できる、という文化だと措定できる。ところがそのなかで、特定の人物への原稿依頼をもって、情況編集部が差別に加担したというのである。当該の掲載論攷には、直接的に差別的な内容はなかった。

いかに差別的な言動であれ、言論をもって批判・反批判をするのが理論闘争の原則である。言論誌としてのあまりにも当然な編集姿勢について、批判的な人たちは「情況誌をボイコットせよ」と呼びかけるに至ったのだ。このとんでもない主張も言論であるから、情況誌はボイコット運動の呼び掛けをふくむ論文も注釈付きで掲載した。

ここまではまだ、言論空間(雑誌編集・販売)の出来事である。しかるに、批判的な人たちは「情況編集部と関係のある人は、その人間関係を断ってください」なる呼びかけをしたのだ。関係を断たれても痛くも痒くもないとはいえ、日本の社会運動の深刻な病理を見る思いだった。

運動からの排除や人間関係を断てという呼びかけと、内ゲバ殺人のあいだに、それほど距離があるとは思えない。たとえば日本共産党が、彼らの云う「ニセ左翼集団」とはいっさい対話をしないように、無党派の市民運動や学生運動においても、この排他的な運動論は継承されてしまっているのだ。反対派を排除するソ連邦(手法を受け継いだロシア連邦)と同じ政治空間が、そこには現出する。

この話題を持ち出したのは、ほかでもないプーチンとアメリカ帝国主義(およびNATO)の評価において、日本の左翼は米帝を原理的(陰謀論的)に批判するあまり、プーチン擁護にまわってしまうからだ。内容を抜きに、アメリカなら許さないという無内容な決めつけである。おそらく彼らは、民主党政権と共和党政権の差異も論じることは出来ないであろう。国際社会におけるアメリカの役割の正否も、論評することはできないであろう。これを「教条主義」と呼ぶ。

毛沢東の云う「主要側面・副次的側面」(矛盾論)をみとめなければ、そこには「絶対悪」という硬直した思想が表象するのだ。

つぎに日本のとくに新左翼が陥った、民族解放戦争への客観主義について解説しよう。そこにも、硬直した原理主義があった。

◆民族解放戦争

帝国主義間の争闘、あるいはソ連邦とアメリカの覇権主義的な争闘は、第三世界諸国を巻き込んでくり広げられた。とりわけ旧植民地において、その対立は「代理戦争」の様相をおびたものだ。

だがここで注意しなければならないのは、帝国主義の植民地支配の残滓として傀儡政権に対する闘争は、民族解放闘争である事実だ。第二次大戦後の世界は、旧植民地国・従属国の独立と自立をかけた民族運動として顕われたのである。

この世界史的な動きに、マルクス・レーニン主義はじつに冷淡だった。反帝・反スタ思想も民族解放闘争には冷淡だった。

プロレタリアートの階級闘争は、先進国革命によって果たされる。史的唯物論は市民社会の進化によって、大工業化された資本と賃労働の関係において、プロレタリアートの形成が階級関係を高次に変化させ、社会主義革命へといたる(マルクス)。

あるいは、帝国主義段階に至った資本主義は市場再分割の戦争を引き起こすがゆえに、戦争を内乱に転化することで政治危機を社会主義革命に至らしめる(レーニン)。

そもそもヨーロッパ世界のみを研究テーマにしてきたマルクスは、東洋を「アジア的専制」と読んでいた。レーニンは帝国主義の市場再分割が、直接的な侵略戦争ではなく、協調と対立を内包しながらも超帝国主義に至ることを予見しえなかったのだ。

いっぽう、日本の左翼運動は、社会党系のソ連派、新左翼の反スターリン主義派(革命的共産主義者同盟)のほか、家元である日本共産党もソ連・中共と訣別していた。これらの党派は、おしなべて民族解放闘争の背後にスターリン主義がいることをもって、きわめて客観主義的な立場だった。

今回のウクライナ戦争にたいしても、帝国主義間戦争にすぎない、と新左翼の多くは腰が引けている。ウクライナ人民への支援や連帯を訴えるのでもなく、単に原則的な反戦運動(日米安保粉砕)を呼び掛けるだけなのだ。※個人においては、ウクライナ独立戦争を支持する人は少なくない。

◆国際主義の実体とは

かように、左翼は民族解放闘争に冷淡なのである。

60~70年当時、唯一といってもいいだろう。ブント系のみが中国共産党やキューバ共産党に、世界革命の現実性を見ていた。

そして旧植民地国の民族解放戦争が、社会主義革命を内包していることに着目したのである。その政治路線は、組織された暴力とプロレタリア国際主義、三ブロック階級闘争の結合による世界革命戦争と定式化された(ブント8回大会)。

世界的な組織を持っている第4インターや、早くからベ平連をつうじてベトナム反戦運動に取り組んでいた共産主義労働者党(プロ青同)などがこれに続き、やがて民族解放闘争が現代革命のキーワードとなったのだった。じっさいにブントは国際反戦集会に各国の革命組織をまねき、赤軍派においてキューバ・北朝鮮・パレスチナに同志たちが渡航した。

そして1975年4月30日、インドシナ三国(ベトナム・ラオス・カンボジア)の革命戦争が勝利を果たし、世界は民族解放社会主義革命戦争が規定するようになったのである。

にもかかわらず、いやそうであるがゆえに、世界は民族対立と宗教対立のカオスとなったのだ。いっぽうで、ナショナリズムを煽る右翼ポピュリズムの躍進によって、プロレタリアートの先進国革命は彼方に忘れられた。

ウクライナをはじめとする東欧情勢を、国民国家以前と評した評論家がいたが、けだし当然である。民族国家としての独立性を、いまだに問題にしなければならない人類の21世紀なのである。

ウクライナ戦争を理解するために、さらにわれわれは人民民主主義革命と救国戦争の諸相にせまってみよう。20世紀が「戦争と革命」の時代であったのに対して、どうやら21世紀は「民族と宗教戦争」の時代になりそうな気配だ。

◎[関連リンク]ウクライナ戦争をどう理解するべきなのか
〈1〉左派が混乱している理論的背景
〈2〉帝国主義戦争と救国戦争の違い
〈3〉反帝民族解放闘争と社会主義革命戦争

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

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町長が自らを刑事告発、第三者委員会が報告書を公表、神奈川県真鶴町の選挙人名簿流出事件 黒薮哲哉

神奈川県真鶴町の松本一彦町長が町職員だった2020年2月、選挙人名簿抄本などを盗み出し、みすからが出馬した町長選で利用した問題を調査していた「選挙人名簿等流出に係る第三者委員会」は、4月28日、「報告書」を公表した。報告書は、松本町長と元職員、それに松本町政が誕生した後に選挙人名簿を受け取った町議らを刑事告発することが相当と結論ずけた。

これを受けて真鶴町は、「関係当事者に対する刑事告発及び損害賠償請求を行います」とする談話を発表した。談話の発信者は、「真鶴町長 松本一彦」となっており、型式上は松本町長が自身を含む関係者に対して刑事告発することになった。起訴される可能性が高い。

◎報告書の全文 https://www.town.manazuru.kanagawa.jp/material/files/group/29/daisansyahoukoku.pdf

「真鶴町長コメント」と「報告書」

この事件は、デジタル鹿砦社通信でも既報してきた。概要は次の記事に詳しい。

◎[関連記事]すでに崩壊か、日本の議会制民主主義? 神奈川県真鶴町で「不正選挙」、松本一彦町長と選挙管理委員会の事務局長が選挙人名簿などを3人の候補者へ提供 

報告書は、関係者が該当する可能性がある犯罪について、次のように述べている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・【引用】・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 松本氏については、窃盗罪、建造物侵入罪、守秘義務違反の罪、公職法上の職権濫用による選挙の自由妨害罪及び買収(供与)罪が各成立し、尾森氏(注:選管職員)については、地公法上の守秘義務違反の罪、公選法上の職権濫用による選挙の自由妨害罪が各成立すると解されるものである。また、青木氏(注:町議)、岩本氏(町議)については公職選挙法上の被買収罪、刑法上の証拠隠滅罪が成立する可能性がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・【引用おわり】・・・・・・・・・・・・・・・・・

青木氏と岩本氏は、松本町長が自らの町長選で使った選挙人名簿(投票行動の有無を明記したもの)などの複写を受け取った後、焼却したり、廃棄したりしていた。それが原因で、「証拠隠滅」の可能性を指摘された。

一方、同じように名簿類を受け取った森敦彦議員は、それを警察に届け出ていたので、刑事事件に連座した可能性は低いとされた。

◆親密な人間関係が生んだ馴れあい

この事件では、真鶴町の市民グループがすでに松本町長らを刑事告発している。(受理されたかどうかは、不明)。第三者委員会の報告を受けて、真鶴町も刑事告発に踏み切ることで、事件の捜査が本格化する可能性が高い。

松本町長が選挙人名簿を持ち出した時の様子を、報告書は次のように述べている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・【引用】・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 (注:当時、町職員だった松本町長は文書を盗み出した後、)文書保管庫から約100メートル離れた町役場に移動して、町が管理しているコピー機を利用して、約1時間かけてその選挙人名簿全部のコピーを取った。コピー後、持ち出した選挙人名簿の妙本は文書保管庫の持ち出した場所に戻し、コピーした文書は自宅に持ち帰って保管した。松本氏は、自身の選挙に際し、選挙人に選挙用はがきを郵送する際に宛名書きのため、当該名簿を利用したが、その選挙後も名簿を廃棄せず、保管していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・【引用おわり】・・・・・・・・・・・・・・・・・

この名簿を2021年の町長選の際に再コピーして、選挙管理委員会の尾森氏を通じて、一部の町会議員に提供したのである。

報告書は今回の選挙人名簿等の流出事件が起きた背景に、「関係当事者の遵法意識の欠如、関係当事者の馴れ合い意識、そして町としての情報管理体制の不備にあるものと結論」ずけている。人間関係が親密な小さな自治体の役所にありがちな体質を指摘している。実際、松本町長と尾森職員は竹馬の友だった。

第三者委員会の委員は、次の3氏である。

今村哲也(関東学院大学法学部教授)
加藤勝(弁護士 神奈川県弁護士会)
板垣勝彦(横浜国立大学大学院教授)

真鶴町民の間からは、「第三者委員会を設けてもうやむやになるのではないか」との声も上がっていたが、関係者が法廷に立たされる可能性が高くなっている。

なお、松本町長は辞任を表明していない。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

【汚染水を海に流すな】横浜〝常磐もの〟イベントで実感 「海洋放出計画など知らぬ」では済まされない」 民の声新聞 鈴木博喜

厳しかった冬の終わりがようやく見え始め、暖かい陽射しが降り注いだ3月。横浜・みなとみらい地区の一角では、キッチンカーに長い行列ができていた。「発見!ふくしまお魚まつり」と銘打たれたイベントは、原発事故による福島県産水産物の〝風評払拭〟が目的で復興庁や福島県が後援。海鮮丼などを食べてもらうことで福島県沖で獲れる「常磐もの」をPRするのが狙いだ。ホームページには「ぜひこの機会に、『常磐もの』を食べて、福島を応援してください」と書かれている。

筆者もカップルや家族連れなどの列に加わり、奮発して一番高い2000円の「全部乗せ」を食べた。サーモンやアナゴ、マグロなど確かに美味しい。原発事故による影響など考える必要がなければどれだけ良かっただろうと思う。しかし、現実には原発事故後にたまり続ける「汚染水」(国や東電は〝ALPS処理水〟と呼称)の海洋放出計画が着々と進められているのだ。しかも、福島県などの「事前了解」はまだ得ていない。福島だけの問題ではないとはいえ、県民の賛同さえ得られていない。それなのに海底トンネル設置の工事だけが粛々と進められ、この種の〝風評払拭イベント〟が行われる。

横浜・みなとみらい地区で行われた〝常磐もの〟のPRイベントには長い行列ができた(2022年3月5日)

キッチンカーの周囲では、当然ながら汚染水海洋放出計画への言及などない。では、〝常磐もの〟を堪能する人々は反対の声を無視して進められている計画をそもそも知っているのだろうか。時に激しく怒られながら声をかけただけでも、ほとんどの人の答えが「知らない」だった。

「全然知りません。そういう情報は入ってこないですね」(都内在住の男性)
「聞いたことないです」(横浜在住の男性)
「知りません」(横浜在住の女性)

もちろん、海洋放出計画を知っている人もいた。だが、単なる偶然なのか、ともに「福島出身」の人だった。

「知っていますよ。トリチウムのキャラクターで騒いでいましたね。ちゃんと検査をしているのは知っているので、海洋放出したとしても食べるか食べないかには影響しません。実家が農家で、桃や野菜を幅広く生産しているのでそういうことはよく分かっていますよ」(中通り出身の女性)

「実家がいわき市なので知っています。致し方ないのかな。地元としては反対しているけれどどんどん溜まっていく一方だし…。一方で漁師の方々は苦労していますよね。難しい…」(横浜在住の男性)

こんな声もあった。

「海に流すというのは聞いたことがあります。流したとしても食いますよ。関心ないわけではないけど、国に『安心ですよ』って言われたら面倒くさいから食べますね」(都内在住の男性)

出店者の1人、大川魚店の大川勝正社長が現場で取材に応じた。大川社長は、自民党に移った細野豪志代議士(元環境大臣)が昨年2月に出版した「東電福島原発事故 自己調査報告」(徳間書店)で細野氏と対談するなど、海洋放出計画そのものには賛成している。

「2012年くらいから水をどうするんだというのは言われていた話で、どうするのかいつまでも決めねぇなとずっと思っていました。突然決めたというか、時間はあったわけだからもっと合意形成をちゃんとすれば良かったんですけど、何もしないで急にパンとやった。下手だなあって感じです。どういう結論になってもあれなんですけど、もうちょっとやり方があったでしょって感じがします」

調理の手を止め、こちらの質問にも嫌な顔ひとつせずに答える姿には誠実さを感じた。一方、廃炉完了のためには海洋放出が必要だという考えはブレなかった。

「海に流すというか、僕は廃炉がスムーズに進むことを一番望んでいるので、廃炉がスムーズに進めば良いなという視点です。僕が住んでいるところ(いわき市四倉)は原発に近いし、双葉郡には親戚が住んでいます。子どもの頃から慣れ親しんだ街なので、早く何もなくなってくれれば良いなと思っているんです」

「水の問題も以前、経産省の方(木野氏や奥田氏)と話す機会があって、素朴な質問として『あの水どうするんですか?』と尋ねたら『普通の原発は(海に)流すんですけど、とりあえずタンクに溜めておく。でも、いつかは流さなければいけない』と、5つくらい処分方法案を口にしていました。その後、年に1回くらいは水をどうするかという話はあったんですけど、それ以上話は進まなくて、なんだかなあと。で、実際にキャパオーバーだから、なんというグダグダぶりなんだろうと思います。グダグダすぎる……」

来年にも汚染水の海洋放出が強行されようとしているが、そもそも海洋放出計画を知らない人も多い。何も知らないまま「美味い美味い」と喰うだけで良いのだろうか

なぜ海洋放出計画に反対しないのか。

「僕の場合は物理的な問題ですね。キャパがない。土地がない」

「みんな反対って言っていますけど、トリチウム水のことを学べば学ぶほど、あんまり問題じゃねえなと(笑) あとは反対の声をあげる方が処理水を流したときの風評被害が『地元の人たちも反対しているのになぜ流すんだ』となって話が大きくなっちゃう。東電に文句ばかり言っていても福島の応援にはならないことを、みんな肌感覚で分かっているんですよ」

「自宅の近くにごみ処理場ができるような話ですよね。まあ嫌だけど、みんなのためには必要だと。安全に運営してくれるんだったらって感じですかね。世界の原発でもやっている?そうですね。懸念を口にしている専門家もいる?うーん……」

大川社長が指摘したのは「合意形成のまずさ」だった。

「時間はあったのに、何でちゃんとやらなかったのか。合意形成をね。反対する人がいたとしても、もうちょっと容認する人を増やしてバランス良くできなかったのか…」

福島民友新聞は4月27日付の1面トップで「処理水放出方針 国内6割知らず」と復興庁の調査結果を報じた。しかし「情報発信不十分」との見出しは立てるが、会報放出そのものの是非は論じない。時間をかけて反対意見に耳を傾けるのが民主主義の基本だろう。まずは立ち止まり、代替案をていねいに議論するのが「合意形成」ではないのか。

汚染水を海に流しながら〝常磐もの〟を宣伝するという矛盾した取り組みが、来年にも始まろうとしている。「知らなかった」では済まされない。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)
神奈川県横須賀市生まれ。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

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