六代目三遊亭円楽さんの死去に想う 鹿砦社代表 松岡利康

円楽(襲名前・楽太郎)さんが亡くなりました。

落語家としての世間の評価は高いようですが、私の関心は別の所にあります。

円楽さんは1968年に青山学院大学に入学、やはり時代かなあ、彼も学生運動の波に巻き込まれます。新左翼の主流派・ブント(共産主義者同盟)系の活動家の時期もあったとのことです。

 
六代目 三遊亭円楽(1950年2月8日-2022年9月30日)

青学と言えば、ブント系でも中央大学と共に、後に叛旗派となる勢力が強かったです。これは事実で、私の知人のTJ氏は青学の叛旗派の中心メンバーとして71年三里塚第二次強制収容阻止闘争で逮捕・起訴されました。罪状は凶器準備結集罪とともに、なんと「殺人」容疑! 機動隊が3名亡くなった激しい闘いでした。私もこの闘争には参加しましたが、この現場には居合わせませんでした。TJ氏はその後、別の大学に入り直し学究生活に転じ、のちに早稲田の教授となりました。早稲田の奥深さを感じさせる逸話ではあります。

今では考えられませんが、60年代後半から70年代にかけての時代は芸能人、あるいは芸能界に身を転じる人たちも積極的に学生運動や反戦運動に関わった時期でもありました。北野武(明治大学工学部)さんもそうですし、同じ明大で言えば、往年の女優・松原智恵子さんもブント系の活動家だったとは、同じ明大学生運動OBの横山茂彦さんの証言です。

『家政婦は見た』で有名な故・市原悦子さんは、1971年、中村敦夫さんや原田芳雄さんらと共に老舗の劇団・俳優座で叛乱を起こし、その後も反戦歌『フランシーヌの場合』で一世を風靡した歌手・新谷のりこさん(古い!)らと共に長く中核派系の「杉並革新連盟」の候補者の推薦人でした。『家政婦は見た』の市原さんからは想像もできません。けっこう過激な方だったようです。

さて、円楽さんですが、青学の主流派だった、のちに叛旗派に流れる系列とは違い、なんと「さらぎ派」シンパだったとの噂を聞きました。どなたかとの対談で話されているとのことです。「さらぎ派」は別名「蜂起派」ともいい、トップの「さらぎ徳二」さんは当時のブントの議長で、69年4・28沖縄闘争で破防法(破壊活動防止法)の被告人でもありました。69年7月6日には、赤軍派によってリンチされています(いわゆる「7・6事件」。この報復として叛旗系の人たちに赤軍系の同志社大学の先輩・望月上史さんが拉致・監禁され、のちに亡くなります。新左翼運動最初の内ゲバの犠牲者と言われ、盛り上がった学生運動に汚点を残しました)。

話がマニアックになった感がありますが、円楽さんは、本当にそんな系列(さらぎ派)にいたのでしょうか? 信じられませんが、当時は多くの学生・青年が学生運動や反戦運動の渦に飲み込まれた時代ですから、ありえない話でもありません。もう50年余りも経ったのですから、どなたか詳細をご存知ならば、ぜひご教示いただきたいものです。

このところ私と同じ歳か、ちょっと上の世代がどんどん亡くなっています。訃報を聞くたびに、「明日は我が身」と思わざるをえません。特に私と同じ歳で言えば、忌野清志郎さん、大杉漣さんが亡くなった時にはショックでした。

(松岡利康)


[参考動画]【三遊亭円楽さん死去】「笑点」メンバーが追悼 好楽さん「早すぎるよ」

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年11月号
『一九七〇年 端境期の時代』
『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)

この秋、噴出し続ける広島政治・行政の積年の膿 ガツンと物申す気風で大掃除を さとうしゅういち

この夏の後半から秋にかけて、広島の政治・行政の膿が噴出しています。

◆噴出する膿1 総理腹心の石橋議員ら、旧統一協会と深い関係

まず、旧統一協会問題です。この間、岸田文雄総理自身の地元の腹心ともいえる衆院議員が旧統一協会と関係が深いことが明らかになりました。

岸田総理腹心の石橋林太郎衆院議員の政治活動用ポスター。広島3区で筆者撮影

石橋林太郎衆院議員は、広島県議会議員を経て河井克行受刑者の自民党離党に伴う、広島3区の自民党広島県連の公募に応募。過去に日本維新の会の衆院議員だった方、あるいは候補者だった方を押さえて、自民党の公認候補に選ばれました。ただ、この広島3区は、自民党の不祥事で議席が失われるということで、連立与党の公明党から候補を出すことが自公の本部間で決定。比例ブロック衆院議員だった斉藤国交大臣が3区の公認候補に選ばれました。そして、衆院選2021では、石橋さんが自民党の比例中国1位で当選。斉藤国交大臣も不利という当初の下馬評を覆して3区で当選しました。

その石橋林太郎衆院議員は実はお父さんの良三さん(県議)時代から統一協会と親密でいらっしゃいました。お父さんも広島の日韓トンネル推進組織のリーダーをされていたことが、一連の「文春砲」であきらかになりました。さらに、石橋議員の腹心ともいえる読売新聞記者出身の市議も統一協会との関係が明らかになりました。ただ、これらのことは、そもそも、地元では有名だったのですが、地元のマスコミがほとんど取り上げてこなかった。それだけのことです。

◆噴出する膿2 知事の湯崎さん腹心の教育長の不祥事

そして、もう一つの膿は、筆者の元職場・広島県庁内の不祥事です。すなわち、湯崎さんが肝いりで連れてきた平川教育長による官製談合疑惑です。
(※https://www.rokusaisha.com/wp/?p=43780

平川教育長がご自分の地元・京都のNPO法人「パンゲア」を事業への公募で優遇した、というよりも「文春砲」が正しければ「教育長がお友達に県費で仕事をつくってあげた」疑惑というほうが相応しい展開になっています。

教育長ご自身は、疑惑発覚の直後には「問題ない」と木で鼻を括ったようなことを記者会見でおっしゃっていました。

しかし、追加の文春砲が出てくるにつれて、教育長は追い込まれます。そして、ついに9月中旬、「外部の専門家による調査をさせる」と約束せざるを得なくなりました。最初に「問題ない」と断言してしまってこの展開は、一番まずい展開です。

◆アンチ河井系の与党回帰で自民党が盤石に……安倍暗殺直前の広島情勢1

さて、いわゆる河井事件発覚の前、河井案里さん、そして夫の克行受刑者は、自民党広島県連主流派からは孤立しており、自民党・公明党推薦の広島県知事の湯崎さん、市長の松井さんとも関係が悪いことで有名でした。

そのため、自民党の県議や市議でも、国政選挙の時は、極端な場合「わしは河井が大嫌いじゃけん、野党候補を応援する」と半ば公言している地方議員もいらっしゃいました。その反映で広島3区を中心に、「地方選挙は自民だけど、国政は野党」という有権者の方が多かったのが広島の特徴でした。

ところが、案里さん・克行被告の失脚、そして地元の岸田総理の誕生によりそういう議員も、斉藤国交大臣支持で固まりました。かつて、日本維新の会で活動されていたような元候補者も自民党の公募に応募するような状況も起きたのです。これが、2022年7月8日の「安倍暗殺」直前の広島の情勢の特徴でした。

◆アンチ知事・市長系の議員の失脚で知事・市長の「安倍化」加速……安倍暗殺直前の広島政治情勢2

また、一方で、河井案里さんを参院選2019で応援し、なおかつお金を河井夫妻からもらっていた自民系議員には、知事の湯崎英彦さん、市長の松井一実さんに批判的な方が比較的多かったのです。

皮肉なことですが、河井疑惑の追及で、知事も市長も大助かりになった。

このお二人、とくに知事の湯崎さんは、8.6の平和記念式典のあいさつは毎年それなりに素晴らしいことでは有名です。一方で、県政の中身では問題山積です。一言でいえば「安倍化」しているのです。

筆者の家の前の高速道路5号線二葉山トンネル問題では木で鼻を括ったような対応が続いています。説明しないで逃げるというのはまさに、故・安倍晋三さんうりふたつです。

産廃処分場問題では全国でも、大甘の姿勢が目立ちます。実はいわゆる産廃税は導入していますが、立地を規制するような条例がないために、効果は限定的なのです。(https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/zei/1177301663057.html

その結果、安佐南区で産廃処分場を外資が購入して大幅拡張したり、三原市では水源地のど真ん中に平気で処分場が許可されたり、ということが起きています。外資など企業のやりたい放題に大甘。まさに安倍晋三さんそのものです。

◆「河井にはそれなりに厳しく、知事・市長に甘い」広島のマスコミ・野党第1党は反省を

しかし、なぜ、こんなことになってしまったのか?

政策論議不在の広島の政治の構造については、筆者はこの12年間、ずっと街頭などで訴えてきました。政策論議が不在だから、「河井夫妻のようなお金か」、「総理、知事、市長のような組織か」の政治になってしまうのです。

そして、その構造の責任の一端は、広島のマスコミにもある、と筆者はみています。

すなわち、以前から、広島県内各社の姿勢は、自民党広島反主流派であった河井案里さん克行受刑者に対してはそれなり厳しいけれども、岸田総理や知事の湯崎さん、市長の松井さんに批判的な報道はほとんど見られません。

なお、安倍晋三さんに対しては、その政治姿勢や2度の水害時の危機管理に対してそれなりに批判的な姿勢もあったように記憶しています。

確かに、露骨に金をばらまいた河井夫妻=広島自民反主流派は最悪の金権政治家ではある。しかし、一方で、河井批判の陰で旧統一協会を含む組織がちがちの政治をやってきた総理、知事、市長ら自民系主流派の問題点の追及がおろそかになったのではないでしょうか?

野党も広島の場合、野党第1党は事実上、労働者のほんの一部でしかない重厚長大大手企業の労働組合のための党であり、知事や市長の議案に反対することはほとんどありません。したがって、知事や市長の問題点を街頭などで訴えるのも日本共産党さんと筆者くらいです。最近では、社民党さんもそれなりに街宣をがんばっておられるようですが。マスコミや野党第1党の知事や市長に対して腰が引けた対応という要因が解消されないと、今後もまた、膿がたまっていくことでしょう。

◆とにかく総理、知事、市長にガツンとモノ申し続けよう!

こうした中、筆者は、9月16日朝、広島市安佐南区中筋駅で街宣(文末写真左)。

「多くの方を苦しめた旧統一協会の広告塔になった安倍さんの国葬はおかしい。国もせっかく、旧統一協会問題電話相談をしているのに、安倍さんを国葬で持ち上げたら統一協会の宣伝になってしまい、逆効果だ。」

「安倍さんは河井事件では、1.5億円の最終責任者なのに最後まで何も語らないで亡くなってしまわれた。亡くなられたことはお悔やみするが、何も説明責任を果たさなかったのは許しがい。2014の大水害ではゴルフ、2018の大水害では宴会やカジノ法案優先という、まずい危機管理で広島県民に迷惑をかけた方だ。」
と指摘しました。

広島県知事の湯崎英彦さんに対しても、「湯崎さんがそういう人の国葬とやらに参加するのも納得できない。いま、県議会開会中なのだし、それこそ、統一協会で苦しんでいる特に2世、3世などの方を救う追加の補正予算とか検討されてはどうか?」と水を向けました。

生前、不祥事も多く、さらに広島を襲った水害時の危機管理がまずかった安倍さんの国葬強行で、いままで「岸田さんにそれなりに期待しておられた方」でも岸田さんへの失望が広がっていくのが感じられます。こうした皆様の思いにもこたえていきたいものです。

筆者は、2023年統一地方選挙・広島県議選を前に、特に元上司でもある知事の湯崎さんに対してガツンとモノ申し、海の大掃除をしていく先頭に立っていく覚悟です。具体的には、毎週日曜日に安佐南区イオンモール広島祇園前、そしてフジグラン緑井前で街宣をおこなっています(文末写真右)。当面は知事の湯崎さんの「安倍化」をただしていくとともに、国葬参加に反対、旧統一協会被害者も含む「何があっても心配しないで良い広島」を訴えていきます。

◎筆者の今後の街宣の予定

9月25日(日)10時 イオンモール広島祇園前
10月2日(日)10時 緑井フジグラン前
※以降、毎週交互にイオンモール広島祇園前と緑井フジグラン前で街宣
11月6日(日)午後 安佐南区内 勉強会 食料問題と広島 外部講師

[写真左]9月16日朝、広島市安佐南区中筋駅で街宣。[写真右]毎週日曜日に安佐南区イオンモール広島祇園前

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年10月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年秋号(NO NUKES voice改題 通巻33号)

米国のNED(全米民主主義基金)、ロシア国内の反政府勢力に単年で19億円の資金援助、フェイクニュースの制作費? 黒薮哲哉

米国CIAの別動隊とも言われるNED(全米民主主義基金)が、ロシアの反政府系「市民運動」やメディアに対して、多額の資金援助をしていることが判明した。

 
出典=ベネズエラのTelesur

NEDがみずからのウエブサイトで公表したデータによると、支援金の総額は、2021年度だけで約1384万ドル(1ドル140円で計算して、約19億4000万円)に上る。支援金の提供回数は109回。

米国がロシア国内の「市民運動」とメディアに資金をばら撒き、反政府よりのニュースや映像を制作させ、それを世界に配信させている実態が明らかになった。ウクライナ戦争やそれに連動したロシア内部の政情を伝える報道の信頼性が揺らいでいる。ウクライナ戦争は、メディアと連携した戦争とも言われてきたが、その裏側の疑わしい実態の一部が明らかになった。

良心的なジャーナリストさえ情報に翻弄されている可能性がある。

NEDは、メディアを対象とした資金援助に関して、たとえば次のように目的を説明している。

▼高品質の調査ジャーナリズムに一般の人々がアクセスできる機会を増やすと同時に、そのような報道の存在を広く知らしめる。地域や国際機関による報告に焦点をあてた調査ジャーナリズムを遂行する。その目的を達成するために、デジタルコンテンツを作成する。

▼地域ジャーナリズムの発展を支援し、重要な政治や社会問題に関する独立したニュース源の分析結果を公衆に提供する。 コンテンツは、一般市民に影響を与える政治情勢の展開や人権侵害に対する市民活動などのトピックに焦点を当てたビデオ形式を含み、定期的にオンラインやSNSで発信する。

一方、ロシアの「民主化運動」に対する資金提供については、たとえば次のように目的を説明している。

▼活動家、政治家、公共思想のリーダーを繋ぐネットワークを強化し、ロシアの民主的発展のための国際支援を提唱する。 政治と時事問題に関する専門家による分析を実現する。 客観的で事実に基づいた報告とそれを裏付ける証拠は、(注:ロシア政府が)偽情報キャンペーンで使う中心的な筋書きを正すために使用する。 出版物を世に出し、著者と共に定期イベント、公開プレゼンテーション、各種の集会を開く。それにより、重要な発見事項をテーマとした公開討論を促進する。

▼ロシアの民主化運動を地球規模の連帯で促進する。ヨーロッパの政治家やオピニオンリーダーと活動家の間でネットワークを強化する。 国内の信頼できる独立した情報源を提供して、(注:ロシア政府の)プロパガンダに対抗する。

※以上の出典 https://www.ned.org/region/eurasia/russia-2021/

これらの資金援助の性質から察すると、「市民運動」が反政府運動を展開して、それをメディアが発信する共闘関係が構築されていると想定される。独立系メディアの独立性にも疑問符が付くのである。歪んだニュースが巧みに制作されている可能性が高い。

実際、NEDに関する白書類の中には、「市民運動」のメンバーにNED資金が日当として支払われているという情報もある。たとえば中国外務省が、今年の5月に公表したNEDについての報告(ファクトシート)は、ウクライナにおける「市民運動」について次のように報告している。

2013 年、ウクライナで大規模な反政府デモが起きた。その際にNED は多額の資金を提供して、国内で活動をしている NGOの65団体の活動家、一人ひとりに賃金を支払った。

NEDが絡んでいる国の「市民運動」や独立系メディアの情報は慎重に見極めなければならない。「市民運動」の資金源を確認する必要がある。

◆NEDとラテンアメリカ諸国

今回、明らかになったNEDによるロシアへの約1384万ドルの援助額は、他諸国の反政府運動への資金援助に比べて桁はずれに多額だ。たとえば、下のグラフは、ラテンアメリカ諸国に対するNEDの支援額を示している。

ラテンアメリカ諸国に対するNEDの支援額

最も高額なのは、キューバの反政府勢力に対する支援で、470万ドル(2018年度)である。ロシアへの支援額約1384万ドルはその金額の3倍近くになっている。

◆口実は、他国の「民主主義」を育てること

全米民主主義基金(NED)は、1983年に米国のレーガン政権が設立した基金である。表向きは民間の非営利団体であるが、支援金の出資者はアメリカ議会である。米国民の税金である。

NED設立の目的は、他国の「民主主義」を育てることである。親米派の「市民運動」や特定のメディアなどに資金を提供することで、親米世論と反共思想を育み、最終的に親米政権を設立することを目的としている。その意味では、ウクライナを舞台に展開している代理戦争の裏側で、メディアを巻き込んだこうした戦略が展開されていることに不思議はない。報道されていないだけで、米国による内政干渉の手はロシア国内に延びているのだ。

かつて米国の対外戦略は、軍事力による他国への軍事進行やクーデターを主体としていた。しかし、ベトナム戦争での敗北を皮切りに、その後も軍事作戦の失敗が相次いだ。民主主義に対する国際世論の高まりの中で、米国内でも軍事作戦が批判の的になり始める。そこで従来の直接的な軍事作戦に代って「代理戦争」に切り替える傾向が生まれ、さらにはNEDを通じた「市民運動」や独立系メディアの育成により、他国の内政を攪乱したうえで、クーデターなどを試みる戦略が浮上してきたのである。

NEDについて西側メディアはほとんど報じていないが、非西側諸国では、その行き過ぎた活動が内政干渉として強い反発を招いている。ロシアのケースも同じ脈絡の中で検証する必要がある。マスメディアの情報を鵜呑みしてはいけない。

◎[参考記事]米国が台湾で狙っていること 台湾問題で日本のメディアは何を報じていないのか? 全米民主主義基金(NED)と際英文総統の親密な関係 

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』
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NJKF勢、山浦俊一と波賀宙也らが他団体からの刺客を迎え撃つ! 堀田春樹

5月21日にKO負けでS-1世界王座を逃がした山浦俊一は、戦いのスタイルを変え、多彩に攻めて勝利を掴み、再び世界挑戦を目指す。

波賀宙也も6月5日にIBFムエタイ世界王座を失ってからの再起、王座奪還へ向けた勝利。

嵐(キング)の物議を醸した騒動とは、計量失格ともう一つ。

真美が苦しい展開を制し、王座初防衛。

◎NJKF 2022.3rd / 9月25日(日)後楽園ホール17:30~21:04
主催:ニュージャパンキックボクシング連盟 / 認定:NJKF

◆第12試合 59.0kg契約3回戦

山浦俊一(新興ムエタイ/ 58.95kg)vs一仁(真樹AICHI/ 58.9kg) 
勝者:山浦俊一 / 判定2-0
主審:竹村光一
副審:少白竜29-29. 多賀谷30-29. 中山30-29

山浦俊一はWBCムエタイ日本スーパーフェザー級チャンピオン
一仁はMA日本フェザー級チャンピオン、J-NETWORKフェザー級チャンピオンなどの経歴有り

山浦は試合前、主催者側インタビューで「今回から倒せる選手になりたいと思って、一気にスタイルをチェンジしました。自分の中ではファイトスタイルを変えて上手くいってると思います。」と語る。

1ラウンドに山浦は組み合ってからの崩しで、3回ほど一仁を引っくり返したが、「三日月蹴りをボディーに喰らってちょっと効いてしまった」という山浦は、第2ラウンドから圧力を掛けて出ていく。ボディーを狙われないようミドルキックを使い、一仁の積極的な出方に応じて多彩に攻め、隙を突いたパンチや蹴りを入れていく。

一仁も打ち合いに持ち込み、蹴りでも下がらぬ展開を見せて、山浦は幾らか被弾はするが、打ち負けない展開。ポイント的には僅差だが山浦俊一が積極的展開で順当な判定勝利を掴む。5月にS-1世界王座を逃したが、再度チャンスを狙って、S-1を含め、WBCムエタイやIBFムエタイなど、「挑めるなら全て狙っていきたい」と語った。

山浦俊一が戦うスタイルを変えて多彩に攻める中、重いハイキックを放つ

◆第11試合 スーパーバンタム級3回戦

波賀宙也(前・IBFムエタイ世界Jrフェザー級C/立川KBA/ 55.33kg)
      VS
片島聡志(元・WPMF世界スーパーフライ級C/Kick Life/ 55.3kg) 
勝者:波賀宙也 / 判定3-0
主審:宮本和俊
副審:竹村30-29. 多賀谷30-28. 中山29-28

波賀宙也は「何試合か挟んで来年もう一発IBFムエタイ世界再挑戦が実現するなら王座を奪って行ったペットーン・ギャッソンリットにリベンジしたい。」と言う。

片島聡志は8月21日のビンラー・ストライフ(タイ)戦で判定負け。そこから1ヶ月あまりで出場。「自分は完全なムエタイスタイルではないですが、こちらの方が伸び伸びできるのでムエタイスタイルで臨みたいです。前回の試合で自分のスタイルに迷ってるなというところがあったので、今回は振り切って原点に戻ろうと思います。」と言う。

2019年12月に獲得したWPMF世界スーパーフライ級王座は翌年、石井一成に奪われたが、片島も再び世界を狙う立場でもある。

波賀宙也は左ミドルキックやハイキックでリズムを掴んで蹴り中心に前進。片島聡志も波賀を下がらせる場面もありながら攻勢を維持出来ず。両者、好戦的ムエタイを意識した攻防が続き、波賀の攻勢がやや目立った順当な判定勝利。

波賀宙也も片島聡志も元・世界の称号を持つ者同士。負けられない戦いの両者
片島聡志と波賀宙也、試合終了時の取り敢えずは勝利確信のポーズ

◆第10試合 当初「51.0kg契約3回戦」の変更カード

NJKFフライ級2位.嵐(キング/ 53.1→53.0kg/2.0kgオーバー)
      VS
コンバンノー・エスジム(タイ/54.9kg)
勝者:嵐 / KO 2R 2:14
主審:少白竜

嵐と対戦予定だった老沼隆斗(STRUGGLE)は、前日計量を51.0kgで1回でパスも、嵐は2キロオーバーでの計量失格。条件を付ける協議はされるも、嵐はここから更に明日に向けての減量は無理と判断し試合は中止。しかしその嵐が中止決定後にタイのコンバンノー選手と試合が発表された。

嵐は前日の脱水状態でフラフラの状態から立ち直ったフットワーク軽い動きを見せ、パンチと蹴りを多彩に繰り出し、タイミングを見計らって右ストレートでノックダウンを奪った後、すぐのタオル投入によるノックアウト勝利。

◆第9試合 女子キック(ミネルヴァ)ライトフライ級タイトルマッチ 3回戦

チャンピオン.真美(Team lmmortaL/48.95kg)
      VS
同級1位.佐藤”魔王”応紀(PCK連闘会/48.55kg)
勝者:真美 / 判定2-0
主審:主審:中山宏美
副審:竹村29-29. 少白竜29-28. 宮本29-28

好戦的に打ち合う両者。真美は調子が上がらなかったか、打ち合ってもパワーの無い展開もヒザ蹴りと終盤の打ち合いで優った勢いで辛うじて判定勝利で初防衛。

終盤にようやく猛攻掛けた真美。際どくも、ここで勝利を導いた
「情けない試合をしてしまった」と反省を述べる真美。まずは初防衛に成功

◆第8試合 54.0kg契約3回戦

NJKFバンタム級チャンピオン.志賀将大(エス/ 53.7kg)
      VS
同級3位.誓(ZERO/ 54.0kg)
引分け 三者三様
主審:多賀谷敏朗
副審:中山28-30. 少白竜30-29. 宮本29-29

首相撲からの崩しは誓が優勢な流れ。蹴り合いの攻防は互角ながら誓の方が落ち着いた表情。志賀は将大はやや圧されてロープ際に下がるシーンも見られる誓の圧力があった。志賀もチャンピンとして意地でも下がらず蹴って出た展開もあって引分け。誓はバンタム級での王座奪取へ前進と言える内容。

前フライ級チャンピオンと現・バンタム級チャンピオンの戦いは互角に

◆第7試合 女子キック(ミネルヴァ)52.17kg契約3回戦(2分制)

NA☆NA(エス/ 52.95→52.85kg/680gオーバー)協議による減点1、グローブハンデ有
      VS
AYA(BLA-FREY/ 51.4kg)
勝者:NANA / 判定3-0
主審:竹村光一
副審:多賀谷29-28. 少白竜29-27. 中山29-28

NANAはミネルヴァ・スーパーフライ級チャンピオン(6月5日獲得)
AYAは同級6位

NANAはウェイトオーバーだったが、ハンディーを付け試合は成立。ウェイト差が影響したかは厳密には分からないが、パワーとテクニックで圧し切る展開で大差判定勝利も、申し訳なさが過ったか、涙を流す勝者コール。

AYAとNANAの打ち合い。攻勢を維持したのはウェイトオーバーのNANA

◆第6試合 スーパーライト級3回戦

吉田凛汰朗(VERTEX/ 63.5kg)vs宗方888(キング/ 63.5kg)
勝者:吉田凛太朗 / 判定3-0 (30-28. 30-28. 30-28)

前半は吉田凛太朗がパンチの攻勢で圧倒しながらも宗方のしぶとさで倒すに至らず。

吉田凛太朗が宗方を連打で攻めるも攻めきれず

◆第5試合 58.25kg契約3回戦

龍旺(Bombo Freely/ 57.9kg)vs木下竜輔(伊原/ 58.15kg)
勝者:龍旺 / 判定3-0 (30-28. 30-28. 30-28)

龍旺が徐々にローキックで木下竜輔の脚にダメージを与え、木下の強打、右ストレートは空振りし逆転成らず、龍旺が判定勝利。

新日本キックから乗り込んだ木下竜輔にローキックで圧倒した龍旺

◆第4試合 59.0kg契約3回戦

コウキ・バーテックス(VERTEX/ 58.95kg)vs細川裕人(VALLELY/ 58.95kg)
勝者:コウキ・バーテックス / 判定3-0 (30-29. 30-29. 30-28)

◆第3試合 スーパーフェザー級3回戦

史門(東京町田金子/ 58.96kg)vs匠(キング/ 58.45kg)
勝者:史門 / 判定3-0 (29-28. 29-27. 29-28)

◆第2試合 フライ級3回戦

悠(VALLELY/ 50.7kg)vs愁斗(Bombo Freely/ 50.6kg) 
引分け 三者三様 (29-30. 29-29. 29-28)

◆第1試合 アマチュア50.0kg契約2回戦(90秒制)当日計量

堀田優月(闘神塾)vs鈴木咲耶(さくら格闘技クラブ)
引分け 0-1 (19-19. 19-20. 19-19)

「次はもっと完封出来るように頑張ります」マイクで語る山浦俊一

《取材戦記》

メインイベントに進むにつれ閑散としていく場内。応援団中心の観衆の表れ。それでも山浦俊一と波賀宙也は世界に向け存在感をアピール。

一仁は愛知県から出場。今回は新幹線が遅れたり不便もあったが、地方でもタイ人トレーナーが常在する真樹ジムAICHIで経験を積んでいる。地方のジムが強くなっている一つである。

片島聡志はWPMF世界スーパーフライ級王座獲得した経験もある50戦を超えるベテラン域に達した。いろいろな戦い方を経験も、ムエタイスタイルが性に合っている様子で、「スロースターターなので5回戦制も戦い易い」と言う。好戦的ファイトは今後もNJKFで観たい選手である。

嵐の2.0kgオーバーは、身体の成長でフライ級を維持出来ないほど苦しい減量だったという。6月5日に吏亜夢(ZERO)にノックダウン奪って判定勝利してNJKFフライ級王座挑戦権を獲得している嵐は、11月13日にチャンピオン優心(京都野口)に挑戦予定だが、開催は難しいところだろう。

今回の前日午前11時の計量で、53.1kgの目盛りを指した後、2時間の猶予内で契約ウェイトの51.0kgを目指し、ミット打ちと蹴りを続けていた。減量によるフラフラで軽く打つ程度だが、汗をかく為、延々続いていた。まずここに来て2kgは簡単に落ちるものではないと想定出来たが、やはり100グラムしか落ちず、連盟役員と両陣営で中止回避の為の協議が成され、明日の午前10時に再計量の決定。契約の51.0kgまで落とすか、現状の53.0kgを超えないことの条件があったが、この時間から更に飲食できない状態が続くこと自体無理があっただろう。無理せず試合は中止と決定。ここまでは止むを得ない状況であった。

ところが驚いたのが、計量失格した嵐がタイのコンバンノーと試合することが発表されたこと。興行側の苦しい事情あってのことだが、第三者から見れば不可解な決定と揶揄されている。エスジムのトレーナー、コンバンノーは依頼を受けて調整無しでも、ピンチヒッターとしての役割を果たした出場だった。

今回の件、参考にプロボクシング(JBCルール)から倣えば有り得ない事態が多過ぎるが、プロモーター主体の団体では、興行ありきの決定になってしまうのが問題点多きキックボクシング界なのである。

NJKF本興行、2022.4thは11月13日(日)、後楽園ホールで開催されます。DUELは10月16日(日)、GEN SPORTS PALACE。NJKF 2022 west 5th拳之会興行は10月30日(日)、岡山市岡山コンベンションセンターで開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

『紙の爆弾』と『季節』──今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!

《10月のことば》あるがままでいいんだよ 鹿砦社代表 松岡利康

《10月のことば》あるがままで いいんだよ(鹿砦社カレンダー2022より。龍一郎揮毫)

「あるがまま」でいることは、実は難しいことです。若い時には、格好つけたり粋がったりしました。必要以上に背伸びしたりもしました。みなさん、そんな経験ないですか?

齢を重ね、酸いも甘いも経験し、もう格好つけることにも粋がったりすることにも背伸びすることにも疲れました。

肩の力を抜いて自然体で生きてゆこう。「あるがまま」に──。

月日の経つのは速いもので、今年のカレンダーも、あと3枚となりました。ここ3年近くコロナ禍との闘いでした。これだけ長期化するとは思ってもいませんでした。税金や社会保険、公的融資等の猶予措置も終わり、挫けるケースも出始めています。励まし合い支え合って、この難局を乗り越えていきましょう!

来年のカレンダーの制作も進んでいます。書家・龍一郎も、ここ数年連れ合いやご母堂、さらには師と仰ぐ中村哲医師を亡くしたり、みずからも大病で病に伏し今も闘っている中で心血を注いで揮毫しています。『紙の爆弾』や『季節』の定期購読者の方々には12月発行の号と共にお届けいたします。ご期待ください! 未だ定期購読を申し込まれていない方は今すぐお申し込みください。

(松岡利康)

『紙の爆弾』と『季節』──今こそタブーなき鹿砦社の雑誌を定期購読で!

冤罪を訴え、最高裁に上告中 ──「川崎老人ホーム連続転落死事件」死刑被告人との対話〈後編〉 片岡 健

2014年に起きた「川崎老人ホーム連続転落死事件」では、同施設の介護職員だった今井隼人被告(29)が勤務中、80~90代の入所者3人を各居室のベランダから転落させ、殺害したとして一、二審共に死刑判決を受けた。しかし、無実を訴える今井被告は、現在も逆転無罪を諦めておらず、最高裁に上告中だ。

今井被告は本当にこの事件の犯人なのか。前編に引き続き、筆者が東京拘置所で今井被告と面会し、本人から聞き取った無実の訴えについて、事実関係に照らしながら紹介する。

◆自白が嘘なら、なぜ客観的事実に整合したのか?

今井被告の裁判の最大の争点は、捜査段階の自白が信用できるか否かということだ。

前編では、自白した理由に関する今井被告の説明には、とりあえず合理性があることをお伝えした。だが一方で、今井被告が自白した取り調べは録音録画されており、しかもその自白内容は客観的事実とよく整合している。

たとえば、仲川さんの事件について、今井被告は「仲川さんの部屋にあったパイプ椅子をベランダに持ち出し、その上に仲川さんを立たせたうえで転落させました」と自白しているが、実際に4階のベランダにはパイプ椅子が転がっていた。今井被告が本人の主張するように本当に無実なのであれば、なぜ、このような客観的事実と整合する自白ができたのか。

筆者がその点を質すと、今井被告は指を2本立て、「このような自白になった理由は2つあります」と言い、こう説明した。

「1つは、勤務中に仲川さんの部屋に入ることもあり、室内にパイプ椅子があったのを覚えていたことです。そしてもう1つは、仲川さんが亡くなった際に第一発見者に呼ばれ、ベランダに行って下を見た時、視界に“椅子っぽい物体”が入っていたことです。それで、取り調べでは最初、『仲川さんを“茶色い木の椅子”に立たせました』と供述したのですが、刑事に誘導され、最終的に『黒っぽいパイプ椅子に立たせました』と供述したのです」

この今井被告の説明については、納得しかねる読者もいるだろう。しかし、無実の被疑者がやってもいない容疑を自白する場合、自分が知っている情報をもとに「自分が犯人だったらどうするか」と想像しながら、やってもいない犯行を供述するのが一般的だ。今井被告の話は、冤罪における虚偽自白でいかにもありそうな話ではある。

一方、1人目の被害者・丑沢さんについて、今井被告は「丑沢さんを転落させた際には、丑沢さんの手を持ち、ベランダの柵に手をかけさせた」と自白している。そして実際、ベランダの柵には丑沢さんの指掌紋が付着しており、自白の内容がやはり客観的事実に裏づけられた形となっている。

今井被告はこの点について、こう説明した。

「僕は、丑沢さんが亡くなった時、警察の人たちが現場を調べていたのを見ていたのです。その時、『捜一』という腕章をした人がベランダの柵にポンポンと白い粉をつけていたので、丑沢さんの指掌紋がベランダの柵についていることがわかりました。それに合わせて、そういう自白をしたのです」

さらに今井被告はこう説明した。

「僕の自白は、犯人でなければ知りえない秘密の暴露はなく、供述心理学者の鑑定でも『犯行を体験していない可能性が高い』と判定されています。僕の自白は、あの施設の介護職員なら誰でも語れる内容なのです」

実際、一、二審判決を見ても、今井被告の自白の中に「秘密の暴露」にあたる供述があったとは示されていない。今井被告の話には、無下に否定しがたい説得力があるのは確かだ。

今井被告が収容されている東京拘置所

◆犯行予告のような発言をしたされる件の真相

ただ、裁判では、今井被告について、他にも怪しげな事実が示されている。

1人目の被害者・丑沢さんが亡くなった後、今井被告が同僚に対し、2人目の被害者・仲川さんや3人目の被害者・浅見さんが亡くなることを予見するような発言をしていたというのだ。

今井被告はこの点について、こう説明した。

「丑沢さんが亡くなった後、僕は再発防止のため、ベランダに防犯カメラをつけたり、柵を高くしたりすることを提案しました。それと共に自殺願望のようなことを口にしている危ない入所者の名前を4、5人挙げ、対策が必要だと言っていたのです。そのように名前を挙げた中に仲川さんと浅見さんもいたのです」

この今井被告の主張については、にわかに信じがたい読者もいると思われる。だが、よくよく考えると、仮に今井被告が犯人だとすれば、事前に犯行を予告するようなことを言い、疑われるリスクを高めるほうがむしろ変な話だ。

実際、一、二審判決を見ると、今井被告の主張を裏づける事実も示されている。浅見さんは事件前に「もう死にたい」「早く殺して」と口走っていたことが判明しており、丑沢さんも転落死する前、帰宅願望が高まり、「家に帰りたい」と言っていたというのだ。

これらの事実は、今井被告の主張を裏づけるのみならず、被害者たちが自ら転落死した可能性があることを示しているようにも思われる。

◆家族にも自白したのはなぜか?

もっとも、今井被告には、他にもまだ不利な事実がある。それは、警察に犯行を自白後、母親と妹にも罪を認める発言をしていることだ。

この点について、今井被告はこう説明した。

「母と妹に罪を認めたのは、取り調べの延長線上でのことです。警察で自白後、刑事から取り調べで話したことを母と妹にも話すように言われ、『やっていない』とは言えなかったのです。『やっていない』と言えば、刑事が機嫌を損ね、マスコミから守ってもらえなくなり、取り調べも元に戻ってしまうと思ったからです」

前編で既述した通り、今井被告は逮捕前からマスコミに追いかけ回され、「疑惑職員」と報じられたりもした。そして今井被告によると、刑事から「警察がマスコミから母ちゃんと妹を守ってやるから」と言われ、迎合してしまったことが、身に覚えのない罪を自白した理由の1つであるとのことだった。とりあえず、説明の辻褄は合っている。

だが、自白したら死刑などの重い罪になることはわからなかったのか? そう質すと、今井被告は、こう答えた。

「自白した時は、そこまで深く考えられませんでした。死刑とか、そういうことは思い浮かばなかったのです」

では、今井被告にとって、母親と妹はどのような存在だったのか?

「大切な存在です。うちは父親がいなかったので、僕は自分が家の長として2人を守らなければいけないと思っていました」

◆窃盗事件の被害者への思い

最後に、今井被告本人が聞かれたくないだろうことを突っ込んで、聞いてみた。

―― 今井さんは、どんな思いで介護の仕事をしていたのですか?

「僕が介護職員になったのは、祖父母を介護した経験が役に立つと思ったからです。実際、仕事は大変でしたが、人に感謝される仕事なので、やりがいはありました。被害者の方が亡くなった時はショックで、もうこういうことがないようにしたいと思っていました」

―― ただ、今井さんは、入所者から現金や貴金属を盗んでいた。そして、その盗んだ金で同僚におごったりしていたそうですが、なぜ、そんなことを?

「見栄を張りたかったんだと思います」

―― 窃盗の被害者の人たちへに対して、今、どんな思いを抱いていますか?

「申し訳ないことをしたと思います。示談が成立した人もいますが、人の気持ちはお金で買えません。取り返しがつかないことをしたと思っています」

終始堂々としていた今井被告だが、この時は殊勝な面持ちだった。ただ、答えをはぐらかすような様子はなく、正直に話している印象を受けた。

今井被告の冤罪の可能性については、今後も検証を続け、当欄でも報告させて頂きたいと思う。(完)

◎冤罪を訴え、最高裁に上告中 ──「川崎老人ホーム連続転落死事件」死刑被告人との対話
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44047
〈後編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44051

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[電子書籍版]─冤罪死刑囚八人の書画集─」(片岡健編/鹿砦社)
党綱領を自ら否定した自民党は即時解散せよ 岸田内閣改造人事の真相 月刊『紙の爆弾』2022年10月号

消費増税なのに利用者負担増・低賃金放置…… 検証「安倍晋三さんは、介護現場に何をしたのか?」 さとうしゅういち

安倍元首相国葬前の9月23日、広島1区発で「安倍晋三さんは、介護現場に何をしたのか?」を検証するオンラインおしゃべり会が筆者のよびかけで開催されました。

なお、この日は、リアルでも「総がかり行動」主催で、安倍晋三さんの国葬を中止するよう求めるデモが原爆ドーム前から岸田総理の事務所の前まで実施されています。

岸田総理は、国葬の理由として、安倍さんが憲政史上最長の総理であったことをあげておられます。しかし、在任期間が長いということは、それだけ、悪いことについても責任が重いということです。そのことについてもきちんと検証することが、本当の意味での「追悼」ではないでしょうか?

◆筆者から安倍晋三さんへの「追悼の言葉」―― 介護破壊の悪行三昧

まず、20時のオンラインミーティングの開始から、20分ほど、筆者(介護福祉士・元広島県庁職員=元介護保険担当)から問題提起と称する故・安倍晋三さんへの追悼の言葉をおくらせていただきました。

以下はその要旨です。

介護保険導入は2000年4月であり、介護保険が発足してからの22.5年のうち、介護保険発足から約22.5年のうち、4割弱の約8.7年が安倍晋三さんの総理だった期間である。きわめて大きな影響、それも悪い影響を与えた総理大臣で言わざるを得ない。介護の社会化が大義名分だった介護保険だが、利用者負担増でそれが揺らぎ、一方で、我々介護労働者の給料労働条件は劣悪なままだ。

第一次安倍政権(2006年9月-2007年9月)において、安倍さんは2007年参院選では「KO負け」し、短命政権に終わり、大きな影響はなかったとも言える。これにより、民主党が躍進し、2009年介護報酬改定(麻生太郎政権)では、我々介護労働者について一定程度の処遇改善加算制度が導入されるきっかけになった。言い換えれば自民党が民主党の政策を模倣した結果だ。

その3年後の2012年度の介護報酬改定は、民主党政権下で行われることになった。民主党は、マニフェストで介護労働者の大幅給料アップを掲げていた。しかし、東日本大震災からの復興財源調達を理由に、自民党政権以上の改善はされず、介護労働者の失望を買った。民主党は、震災復興財源の調達のため、公務員=旧社会党=総評時代から支持基盤も失った。古い基盤も新しい支持者も失い、民主党は自滅。安倍晋三さん、あなたは政権に返り咲いてしまった。

2012年末、政権に返り咲いたあなたは「消費税増税は全額社会保障に使う」と約束し、2014年10月に5%から7%に税率を引き上げた。当時、新人の介護労働者だったわたしは、「これで俺の給料は上がる」と喜んだが、あなたを信じたわたしが愚かだった。あなたは、2015年度から介護報酬を引き下げた。当時のわたしの勤務先の老人ホームの社長は、「消費税増税でモノも値上がりし、経営が苦しくなる。報酬も下がる。覚悟しておけ」と訓示した。こうした介護業界の苦境により、多くの仲間が現場を去った。利用者側はこの年度から一部に2割負担が導入された。サービスの利用控え圧力が進んだ。ここだけの話だが、2割負担を回避するために、名目上離婚されたとみられる方も存じている。

あなたは、2015年9月の自民党総裁選挙で「介護離職ゼロ」を掲げた。家族の介護のために仕事を辞めることに追い込まれる人をなくすということだ。それ自体は結構だが、あなたのやった利用者負担増などはそれに矛盾している。

2018年度の介護保険法改定では、2割負担の対象を拡大し、3割負担も導入した。そもそも、お金持ちとも言えない人から過剰に負担を求めすぎているのではないか?もしお金持ちに負担を求めるなら、税金をしっかり負担いただくのが筋だろう。

2018年末、あなたは、入管法改定で特定技能制度を導入した。日本人で介護労働者になる人が足りないからと言って、外国人を呼び込もうという安易な考え方だ。2022年現在、わたしの勤務先の中には、外国人の時給を日本人より高めに設定している介護施設経営者もおられる。日本人がやりたくない仕事を外国人はやりたがるとどうして安易に思えたのか?いまや、円安は進み、給料を上げないともっと外国人労働者も来てもらいにくくなるだろう。

2019年介護報酬改定(臨時)をあなたはおこなった。介護職員等特定処遇改善加算を設置したが、対象が非常に狭く実効性が薄いと言わざるを得ない。

2020年に新型コロナ禍が勃発し、ただでさえ人員不足で厳しい介護現場に追い打ちをかけた。あなたは、介護職員に5万円の慰労金は出した。菅、岸田政権では同様の措置はなかったから、この点はまだ「より少なく悪かった」かもしれない。あなたは、その年の9月に退陣した。そして2022年7月8日、山上徹也被疑者の凶弾に斃れたのである。

安倍晋三さん、あなたは無責任極まる男だ。しかし、あなたの応援でいま総理になっている岸田さんがましか?と言えばそうとも言えない。岸田さんは我々介護労働者の給料アップをしてくれたが、3%としょぼい。物価上昇、最低賃金/他業界の給料アップも加味すれば人手不足解消効果はないのではないか?一方で、岸田政権はIT化による人員基準の緩和などを検討している。しかし、例えば、夜勤帯でどれだけ削減できるのか? とくにコロナのもとでは怖すぎる。

また、岸田さんは、給料アップを2022年10月以降は介護報酬で賄うという。これは利用者負担増につながり、それを恐れて給料改善をやらない事業者も出る恐れがある。そもそも、介護保険の在り方に無理があるのだ。資本の論理と福祉は両立しないのではないだろうか。

安倍晋三さんのでたらめを忘れないとともに、岸田さんへの批判を強めないといけない。

安倍晋三さんが事実上票の差配までしていた旧統一協会が介護現場に与えた影響も指摘しなければならない。男尊女卑と緊縮財政が旧統一協会信者の主張の特徴だ。男尊女卑を前提に家族ですべての責任を負え、というのが基本的なスタンスだ。山上徹也被疑者も旧統一協会の男尊女卑に腹を立てていたという。

男尊女卑と緊縮財政が組み合わされば、ケア労働者の低賃金になる。「こんなのは女のやることだから」と低い給料にされたのだ。そして、利用者負担増で社会化に逆行することになるのだ。

この「問題提起」(筆者の追悼の言葉)を受けて、残りの時間で参加者に自由に意見を交換していただきました。

◆自民党べったりの介護経営者に苦労 ―― 四国地方の女性労働者

四国地方の介護福祉士の女性Aさんは、くしくも安倍晋三さんの地元の山口県出身でもいらっしゃいます。この女性は、ご両親の介護のため、近く退職されるとのこと。この方は訪問介護に従事されています。自民党のべったりの法人で、自民党政治家の活動に動員されるということです。それでも、福利厚生は充実していたが、安倍政権の介護報酬引き下げで、福利厚生も削られ、職場はぎすぎすしていづらい状況になっているということです。

筆者からは「自民党県議・市議らが理事長でなおかつ悪徳な社会福祉法人は全国に多くあった。NHKも含めてそれをマスコミも糾弾した。ただ、当時の安倍政権はそれも悪用して、介護報酬カットへの雰囲気づくりをしていたように見受けられる。その結果は現場の労働者が苦しむだけになっている。」と「悪徳法人が介護報酬カットに悪用されて労働者が苦しむ」構図への憤りの感想を述べさせていただきました。

◆統一地方選で「地方議員兼悪徳法人経営者」の打倒を!

また、関西地方の30代男性Bさんからは、こうした自民党べったりの法人が多い状況に驚愕したと感想をいただきました。この男性からは「こういうことを共有化していかないといけないと思った。」とご感想。

筆者は「ただし、こうした法人の存在をもって介護報酬カットに悪用されたらたまらない。それよりもこうした県議・市議兼悪徳法人経営者という方は、選挙で有権者が打倒すべきだと思う。統一地方選は大事だ。」と回答させていただきました。

◆「反共」で教条的な緊縮財政の「旧統一協会」

四国在住の女性Cさんからは「なぜ、旧統一協会は緊縮財政なのか?」とのご質問をいただきました。

筆者は「『反共』がキーワードだと思う。かつては保育園を増やす政策を取った美濃部東京都知事に対して、統一協会ズブズブの人間を旧民社党が刺客として送り込んだこともある。庶民のための財政支出を共産主義と決めつけて否定するのが統一協会の信者の方には多い。」と筆者の経験上と断りをいれつつ回答させていただきました。

◆年々増加する利用者負担

四国の介護福祉士女性Aさんからは、介護報酬本体以外に、いろいろな加算が取られるようになり、低所得者の負担も増えている、と指摘がありました。

筆者からも「利用者負担増では、今後は、例えば、孫世代に介護負担が行く恐れがある。昔は嫁=母親でもある=におしつけられていたが、そうはいっても昔よりは男女平等が進む中で、嫁=母親に行かない=ぶん、孫に押し付けられ、ヤングケアラーがさらに増える恐れがあるのではないか。昔のように嫁へ押し付ける男尊女卑は論外として、若い人が過剰に介護にエネルギーを取られるのも報道されている通り、まずい。実際、大学生とか、新社会人くらいの孫が介護をされているケースは、わたしもだんだん目にするケースが増えている。本当は(社会人として仕事をおぼえることも含めた)勉強にもっと集中したほうがいいのだが、おっさんが余計な世話を焼くのもどうかとおもい、隔靴掻痒だ。」とヤングケアラー増加への懸念を示しました。

◆仕事に対して報酬が低すぎる

東北地方の看護師女性も「看護も介護も仕事に対して給料が少なすぎる。」と訴えます。やはり欧州のように公営でやるほうが望ましいとおっしゃいます。

広島市内の別業界の会社員男性も「介護労働者の友達がいるが、昔は看護師がやっていたようなことも、専門知識がそこまでない介護士がやっている。入所者を最後まで看ることも多くなり、精神的に厳しいと思う。やはり、給料の引き上げは必須だと思う」とおっしゃいました。

◆「少子化対策」より「まず、安心」を

また、高齢者が増える中で少子化をなんとかしないと難しいのではないか?というご意見もいただきました。

これについて筆者は「ただし、日本の場合は、高齢者も多く働いている。この点が欧州とは大きく違う。コンビニでも工事現場でも、各種派遣労働者でも年金が少なく働かざるを得ない人がたくさんいる。高齢者を悪者にするのもまた誤りではないか?」と指摘したうえで「環境破壊をせずに一人当たりの豊かさをふやすチャンスでもある。問題は、人口が減るのに、まだ山を開いて大型商業施設や住宅地をつくったりする行政の在り方ではないか? いますぐ子どもがふえたとしても、労働力になるのに時間がかかるので、人口減少を前提に、新規開発はやめて土砂災害警戒区域からはむしろ撤退し、そこで平時は食料をつくるなどの方向も必要ではないか?」と提案しました。

そして「大阪維新の会は高齢者を悪者にして子育て支援重視を言っているが、これも、実際には奴隷であるところの子どもがほしいだけ。自分に反抗的な意見を言った高校生を橋下徹さんは泣かせている。それが維新の本質だ」と維新をばっさり切り捨てました。

また、山口県の女性からも「労働条件も悪い、教育を受けたら借金を背負うこんな国で、子どもを産んだらむしろ子どもがかわいそうだ。まず、教育や労働条件の改善などをする方が先ではないか?」とのお話をいただきました。

◆「チャレンジ」の前に「安心」を

広島県内の女性からは、筆者に対して政治家として何をまず取り組みたいか?とのご質問をいただきました。

「前回、2011年、河井案里さんと対決した県議選立候補時に掲げた公約のうち、まだ実現していない介護する家族を支援する条例(ケアラー支援基本条例)」をぜひ実現したい。特に広島県内は、なぜか女性の健康寿命が短く、男性が妻の介護をするケースも多く拝見する。ある一定年齢以上の男性の方はそうした中で追い詰められる場合も多い。また、ヤングケアラーや、逆に親御さんが高齢になった後、障害をお持ちのお子さんをどうするかという問題など、課題も複雑化している。2011年時点ではわたしが広島でも最初に提案したが、今回はぜひ、実現したい。」

「現知事は高速道路5号線二葉山トンネル問題について、教育長はご自身の疑惑について木で鼻を括ったような対応で、安倍晋三さんうり二つになりつつある。他方で、ご両人とも政策の中身も、保守的な広島県の風土へのいら立ちはわかるが、無理やりアメリカ的なものを押し込もうとしてうまくいっていないように見られる。基本的なニーズが満たされない中でアメリカ的なチャレンジを煽られても、ついていけない県民も多いと思う。」と指摘。

「まずは、安心を県民に。その上でチャレンジだ。知事も教育長もアメリカ的な方向に傾いている中では、安心重視の議員がもっと議会に必要だ。」
と力を込めました。

国葬反対署名の報告も国葬反対署名に取り組む広島市内の20代男性からは、国葬反対署名を3115筆集めて内閣府に提出したことが報告されました。その上で、今後は「奨学金チャラ」の署名活動を進めることが報告されました。

筆者からは「介護現場でも、例えば機能訓練指導員で資格を取るために大学や専門学校に行き、奨学金返済を抱える若者が多くいる。奨学金チャラにもぜひ取り組もう。」と呼びかけさせていただきました。

◆安倍政治の問題点を忘れぬとともに地元から遠慮なく岸田政治をただそう

安倍晋三さんの国葬で安倍晋三さんの問題点を覆い隠すことは許されません。在任期間が長いからこそ影響力も大きい。だから、きちんと検証すべきです。今回は東北から四国まで広い範囲のみなさんのご参加で安倍晋三さんの問題点を検証できました。ご参加ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

それとともに、岸田さんもかならずしも「安倍さんよりまし」とも言えない実態も浮き彫りになってきました。きちんと地元・広島からこそ、遠慮なく岸田政治もただしていかなければなりません。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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《9.27 TOKYO REPORT》安倍晋三国葬儀 ── 英エリザベス女王国葬との痛々しいほどの落差で際立った伝統文化の貧困と過剰警備のグロテスク 横山茂彦

◆同情を禁じ得ないショボさ

国論を二分、いや反対多数のなかで安倍国葬儀が行なわれた。

連日にわたって渋谷や新橋で、あるいは新宿でくり広げられてきた国葬反対デモの総決算。国葬儀それ自体の過剰警備による痛々しさを、警察都市化した東京の現場から、国葬の惨状をレポートする。

直前の毎日新聞の世論調査(9月17~18日)では、賛成27%、反対67%。産経新聞社とFNNの合同世論調査(17~18日)でも、賛成31.5%、反対62.3%であった。岸田首相の国会での説明に「納得できない」と答えた人は72.6%(産経新聞調査・NHK調査も72%)にのぼっている。

単に保守系ではなく、右翼系の新聞とされる「産経新聞」でこれなのだ。これだけで、国民の圧倒的多数が「国葬反対」「納得できない」であることがわかろうというものだ。国葬などせずに、身内だけでひっそりと送っていれば、故人もここまで恥をかくことはなかったはずだ。

◆G7首脳の出席も、ゼロになった

期待された「弔問外交」も、いっそう寂しいものになった。出席を表明していたカナダのトルドー首相が、ハリケーンの被害対策で急遽欠席することになったのである。

岸田文雄総理にとっては大きな誤算であろう。岸田氏は安倍氏の国葬の意義に弔問外交を前面に押し出していたが、G7の首脳ではトルドー氏だけが出席を表明していた。そのトルドー氏も来なかったのだから。

ツイッターでは「これはしゃあない」「自国の災害対応が優先ですからね」と欠席に理解を示す意見もあれば、「言い訳かもね。行っても意味ないと気付いたのかも」「プーチンでも呼んだらいいのでは」「日本も台風被害対応のため中止にしたらいいよ」と冷ややかな書き込みもあった。(東スポWEB 2022/09/25)

海外での報道を紹介しておこう。

「暗殺された指導者の国葬に日本国民が怒る理由」(米ニューヨーク・タイムズ)
「安倍国葬 なぜ英女王の国葬よりもコストがかかるのか話題に」(英BBC)
「安倍国葬、なぜ日本は分断しているのか」(ロイター)
「岸田首相、安倍国葬を決めて人気急落」(英フィナンシャル・タイムズ)

まさに、驚きをもって報じられているのだ。

◆党内からの猛批判

国葬反対という位相にもさまざまなものがあるが、ここでは自民党内からの批判を挙げておこう。というのも、安倍元総理の実績を「国賊」とまでこき下ろす、閣僚経験のある自民党議員がいるからだ。

自民党の村上誠一郎元行革相は9月21日、朝日新聞の取材に対して安倍元総理の国葬について「そもそも反対だ。出席したら(国葬実施の)問題点を容認することになるため、辞退する」と述べ、参加しない意向を明言した。

村上元行革相は不参加の理由について「国葬に納得できないため」と説明したうえでこう主張する。「安倍氏の業績が国葬に値するか定かではないうえ、国民の半数以上が反対している以上、国葬を強行したら国民の分断を助長する」と。そして「こうしたことを自民党内で言う人がいないこと自体がおかしなこと」と語ったのである。

さらには安倍元総理の政権運営についても「安倍氏は財政、外交をぼろぼろにし、官僚機構を壊したとの見方もあり、その責任は重い」「財政、金融、外交をぼろぼろにし、官僚機構まで壊した。国賊だ」などと、安倍元総理を批判していた(9月20日)。まさに歯に衣着せぬ、とはこのことである。

国民を分断すること(批判勢力を叩く扇動政治)で、際立った政治焦点をつくり出した宰相。カルト教団と結託することで選挙に勝ってきた政治家の、末期の評価がこれなのであろう。

◆荘厳だった英女王の国葬

国葬それ自体の問題点(法的根拠がない)はともかく、王室の一大儀典を見せられたわれわれは、日本の文化的貧困をも思い知らされた。エリザベス女王の国葬である。あまりにも荘厳なものだった、と同時に世界が見送る儀式であった。

もちろん、英連邦から離脱の要求や動きもあり、女王自身の治世が大英帝国の宗主国としての位置からのリタイヤ。それにともなう植民地支配の暗い記憶からのフェイドアウト、癒しを必要とするものだった。その意味では、帝国主義支配の過酷な歴史と向かい合い、

女王の国葬は黙とうの後、国家斉唱とバグパイプ奏者による演奏で終わった。チャールズ国王やウィリアム皇太子などイギリス王室をはじめ、世界中から2000人が参列した葬儀の最後には、歌詞を「ゴッド・セイブ・ザ・キング」に変えて国家斉唱が行われた後、女王専属のバクパイプ奏者が「スリープ,ディアリー,スリープ」を演奏した。これは女王の遺言だったという。

国葬が行われたウェストミンスター寺院からウェリントン・アーチまでは、宮殿近衛兵の警護による行進だった。経由したバッキンガム宮殿ではスタッフが外に並び棺を見送った。さらに棺は霊柩車に移され、国歌が演奏される中埋葬場所のあるウィンザー城へ向かった。女王の子供達であるチャールズ国王、孫のウィリアム皇太子とヘンリー王子は徒歩でその行進に参加した。

◎[関連記事]エリザベス女王追悼と安倍国葬 元総理の業績と予算への疑義(2022年9月11日)

◆わずか数十名で棺を警備したイギリス近衛連隊

注目したいのは、外縁部ではともかく沿道の一般国民の見送りはフリーハンドで、女王の棺を宮殿近衛兵連隊(数十人)がすぐ近くで歩きながら護り、行進を妨害できないようにしていたことだ。

わが国では安倍国葬儀にかかる費用が、16億5000万円と発表されている。そのうち警備費用が8億円(延長勤務手当5億円・派遣旅費3億円)、外国要人の接遇費(車両手配や空港の受入体制)が6億円である。動員される警察官は2万人だという。イギリスの国葬のように、数十人で核心部は護れるのではないか。

国葬の数日前から行なわれている検問(何の意味があるのか?)、要人送迎にはワンレーンだけ確保すればいいのに、全面通行止めにする意味不明の交通規制。過剰警備のあり方を見直すべきではないか。当日(27日)の重警備の実態をお伝えしよう。

◆9.27 東京フォトレポート

けっこうな暑さでした。暑さ寒さも彼岸までと言いますが、まだまだ続くようで。本日も酷暑なり。

無党派をふくむ左派系の集会、300人程度。明大駿河台校舎裏の錦華公園、ここは神奈川県警の警備でした。ここを取材したあと九段下に向かいましたが、内閣府のピケット隊が「一般献花はあっちにまわれ!」で、靖国神社側へ。
 

この向こうが武道館。靖国通りは警察車両(借り上げのレンタカー「わ」ナンバー)。が車列をなす。車内は休憩場所を兼ねているようでした。つまり8億円の大半は、警察官への手当とレンタカー代だったわけだ。
 

一般献花の会場は、武道館をおおきく迂回した千鳥ヶ淵。長蛇の列に、献花台の写真取材は断念(待ち時間3時間)。
 

大音響のサウンドデモは、さすがに効果があって坂の上まで響いてきました。地方からの参列者も音響にビックリ。
 

九段下、にぎやかでした。このあと、献花用の花をDバッグに入れていたのが目立って、NHKの取材をうけました。自転車用のヘルメットで「安倍さんも苦労してきた方ですから花で送ってあげたい」とか言いながら「国葬儀には反対です」「警察警備がグロテスクで、英王室の国葬には遠く及ばない」「カネをかけすぎ」というのがニュースで映ったら、わたしです。
 

ヘルメットのデモ隊列も、老人が多かった……。
 

国葬儀開催の午後2時から、国会正門前で「そうがかり行動」の集会。こちらは日共系の労組も参加で数千人。

 

 
◆未確認、某重大事件 「ミスタープロ野球、心肺停止」の報

最後に、安倍国葬儀の陰で、まさに陰に隠された国民的な重大事をお知らせしておこう。

公表されていれば、国葬にすべきとの議論が起こったであろう、国民的なスーパースターの「逝去(心肺停止)」にかんする情報である。

まだ公表されていない、その意味ではオフレコ情報に属するものだが、ジャーナリストの山岡俊介氏によれば、警視庁関係者からの情報として、ミスタープロ野球こと長嶋茂雄氏の病状が「心肺停止」であると判明したという(山岡氏のSNS参照)。

事実であれば、ご快癒を祈りたい。

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業・歴史研究家。歴史関連の著書・共著に『合戦場の女たち』(情況新書)『軍師・官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)『闇の後醍醐銭』(叢文社)『真田丸のナゾ』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『天皇125代全史』(スタンダーズ)『世にも奇妙な日本史』(宙出版)など。

タブーなきラディカルスキャンダルマガジン 月刊『紙の爆弾』2022年10月号
〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌 『季節』2022年秋号(NO NUKES voice改題 通巻33号)

大津市民病院の新理事長に滋賀医科大の河内明宏教授、過去の有印公文書偽造事件は不問に、前近代的な人事制度の弊害 黒薮哲哉

赤色に錆び付いた人事制度の弊害。人脈社会の腐敗。それを彷彿させる事件が、琵琶湖湖畔の滋賀県大津市で進行している。

 
新理事長に就任する河内明宏医師(出典:九州医事新報)

大津市の佐藤健司市長は、9月9日、大津市民病院の次期理事長の名前をウェブサイトで公表した。新理事長に任命されるのは、滋賀医科大付属病院の泌尿器科長・河内明宏教授である。河内教授の理事長就任は、今年の6月に既に内定していたが、今回、任命予定者として公開されたことで、近々、公式に理事長に就任することが確実になった。任期は、2022年10月1日から25年3月31日である。

デジタル鹿砦社通信でも報じてきたように、河内教授は滋賀医科大病院の小線源治療をめぐる事件に関与した当事者である。はたして公立病院の理事長に座る資質があるのか、事件を知る人々から疑問の声が上がっている。

佐藤市長に対して、新理事長選任のプロセスを公開するように求める情報公開請求も提出されている。

◆滋賀医科大付事件の闇

小線源治療は、前立腺がんに対する治療法のひとつである。放射性物質を包み込んだシード線源と呼ばれるカプセルを前立腺に埋め込んで、そこから放出される放射線でがん細胞を死滅させる治療法だ。1970年代に米国で始まり、その後、日本でも今世紀に入るころから実施されるようになった。この療法を滋賀医科大の岡本圭生医師が進化させ「岡本メソッド」と呼ばれる高度な小線源治療を確立した。

【参考記事】前立腺癌の革命的な療法「岡本メソッド」が京都の宇治病院で再開、1年半の中断の背景に潜む大学病院の社会病理

この岡本メソッドに着目したのが、放射性医薬品の開発・販売を手掛けるNMP社だった。NMP社は、岡本メソッドを普及させるために2015年、滋賀医科大付属病院に寄付講座を開設した。講座の指揮を執るのは、岡本医師だった。

ところがこれを快く思わない医師がいた。泌尿器科長の河内明宏教授である。河内教授は、寄付講座とは別に泌尿器科独自の小線源治療の窓口を開設し、前立腺がんの患者を次々に囲い込んだ。そして部下の成田充弘准教授に患者を担当させたのである。

 
滋賀医科大事件を記録した『名医の追及』(黒薮哲哉著、緑風出版)

しかし、成田准教授には、小線源治療の実績がない。専門は前立腺がんのダビンチ手術で、小線源治療は未経験だった。それを憂慮した岡本医師が、成田医師による手術を止めた。幸いに塩田学長も未経験者による手術のリスクを察して、河内教授らの計画を中止させた。

河内教授は計画がとん挫したことに憤慨したのか、岡本医師を滋賀医科大から追放するために動き始める。水面下で河内教授が取った行動は不明だが、松末病院長と塩田学長は、なぜか小線源治療の寄付講座の閉鎖を決めた。その結果、岡本医師の治療の順番待ちをしていた98名の前立腺がん患者が混乱に陥ったのである。

寄付講座の開設に際して、河内医師には関連する公文書を偽造した疑惑がある。寄付講座の人事を決める際に、みずからの息がかかった成田医師を幹部として送り込むことを企て、「岡本」の三文判を使って、人事関連書類を偽造したのである。岡本医師が成田准教授の寄付講座への抜擢を承諾したかのように工作したのである。

書類の偽造に気付いた岡本医師は、弁護士を通じて河内教授を大津警察署へ刑事告訴した。大津警察署は、2020年8月21日に河内教授を大津地検へ書類送検した。地検の取り調べを受けた河内教授は、公文書偽造の責任を部下の2人の女性に押し付けたらしく不起訴となった。地検は、2人の女性に非があると結論づけたようだが、不自然きわまりない。

さらに河内教授は、岡本医師の医療過誤を探すために、無断で岡本医師の患者の診療録を閲覧していたことも分かっている。

◆佐藤市長、「地域医療に精通している方であると判断」

滋賀医科大病院の事件を知る大津市民からは、河内教授の理事長就任について、人選に問題があるのではないかとの声があがっている。

「有印公文書偽造という汚点を持つ医者は、全国を探してもそんなにいないと思います。市役所でも、他人のハンコを使って文書を偽造したとなれば、処分を受けます。しかし、河内教授は、何のお咎めを受けることもなく、理事長に就任するわけです。その合理的な理由がまったく分かりません」

大津市のウェブサイトに掲載された「任命理由」は次のようになっている。

地方独立行政法人市立大津市民病院(以下「市民病院」という。)は、平成29年4月から地方独立行政法人として病院運営を開始し、現在、第2期中期目標期間(令和3年度から6年度までの4年間)において中期計画に掲げる目標達成に向けて取組を進める一方で、新型コロナウイルス感染症に対応する病院として、大津保健医療圏域のみならず滋賀県下の多くの重症例に対応するなど、公立病院としての責務を果たしながら病院運営を行っています。

河内明宏氏は、平成25年から滋賀医科大学の教授として医師の人材育成や研究などで長く滋賀県内の医療に携わってこられました。理事長の選任を進める中で、県内の複数の医療関係者から河内氏の名前が挙がったことから、滋賀医科大学をはじめ医療機関等と信頼関係を醸成され、地域医療に精通している方であると判断しました。

これまでの経歴を生かし、院内外における調整能力を発揮するとともに、自身の専門である泌尿器科をはじめとする医師確保を図っていただけることを期待して、理事長として任命するものです。

◆人脈重視の社会

河内教授の理事長就任の件でも明らかなように、要職にある人物は、不祥事を起こしても、負の影響を受けないことがままある。そして再び平気な顔で要職に就く。それは医療界だけではなく、政治界でも、学術研究界でも同じである。論文を盗用しても学者として生きられる。仲間から批判されることもない。お互いにかばい合う。実績よりも、人脈で世渡りを続ける土壌が日本にはあるのだ。

大津市民病院の人事騒動は、日本社会の前近代的な実態を露呈している。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
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黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

冤罪を訴え、最高裁に上告中 ──「川崎老人ホーム連続転落死事件」死刑被告人との対話〈前編〉 片岡 健

2014年に起きた「川崎老人ホーム連続転落死事件」では、同施設の介護職員だった今井隼人被告(29)が殺人罪に問われ、一、二審共に死刑判決を受けた。しかし、無実を訴える今井被告は、現在も逆転無罪を諦めず、最高裁に上告中だ。

筆者は、今井被告が本当にこの事件の犯人なのか疑問を抱き、今年の春頃から検証を始め、今井被告本人とも東京拘置所で計4回面会し、手紙のやりとりをしてきた。この取材を通じ、今井被告の冤罪の可能性は無下には否定できないと思うに至った。

前後編2回に分け、事実関係に照らしながら今井被告の無実の訴えを紹介したい。

◆事件のあらましと今井被告の第一印象

まず、事件の経緯を簡単に整理しておく。

事件が最初に世間の耳目を集めたのは2015年9月のことだった。前年(2014年)11、12月、川崎市の有料老人ホーム『Sアミーユ川崎幸町』で80~90代の入所者3人が4階と6階のベランダから転落死し、神奈川県警が捜査していると報道されたことによる。

それに伴い、同施設では、職員が入所者を虐待する事件や、職員が入所者から現金や貴金属を盗む事件が起きていたことも表面化。そのうち、盗みをはたらいた職員は、当時から転落死事件との関連を疑われてマスコミに追いかけ回され、週刊誌に「疑惑職員」と報じられたりもした。それが、当時23歳の今井被告だった。

翌2016年2月、神奈川県警は今井被告を殺人の容疑で逮捕。その決め手は、県警の任意調べに対し、今井被告が「被害者たちをベランダから投げ落とした」と“自白”したことだった。

その後、今井被告は裁判で自白を撤回し、無実を主張した。しかし、2018年3月、横浜地裁の裁判員裁判で入所者の丑沢民雄さん(事件当時87)、 仲川智恵子さん(同86)、浅見布子さん(同96)の3人を各居室のベランダから転落させ、殺害したとして死刑判決を受ける。そして、二審・東京高裁でも無実の訴えを退けられ、現在は最高裁に上告中という状況だ。

筆者が今井被告と初めて東京拘置所で面会したのは、今年4月初旬のことだった。今井被告はこの日、深緑色の長袖Tシャツを着た姿で面会室に現れた。

「頂戴したお手紙は届いています。同封されていた雑誌の記事のコピー、郵便書簡もありがとうございます」

今井被告は、落ち着いた口調でそう言った。坊主頭で、セルフレームの眼鏡をかけており、風貌は真面目そうな印象だ。体格は報道のイメージより大柄に感じられ、年齢のわりに物腰は堂々としていた。

◆取り調べで自白した理由

事前に取材の趣旨は手紙で伝えてあったので、筆者は今井被告に対し、単刀直入に質問した。

「本当に無実なら、なぜ一度、自白したのですか?」

今井被告は指を2本立て、「僕が自白した理由は大きく2つあります」と言い、以下のように説明した。

「1つは、マスコミから守って欲しかったということです。当時、僕と母、妹はマスコミに追いかけ回され、40人くらいに路上で囲まれたこともありました。カメラでパシャパシャ撮られ、『何もしていません』と答えても、『関与しているんでしょう』『本当はどうなんですか』と延々と言われ続けました。取り調べの刑事に『警察がマスコミから母ちゃんと妹を守ってやるから』と言われ、僕は刑事に迎合してしまったのです」

実際、今井被告が逮捕前からマスコミに追いかけ回され、「疑惑職員」と報じられたことは前記した通りだ。「マスコミから守って欲しかった」という主張は、とりあえず客観的事実に整合している。

逮捕前から「疑惑職員」と報じられた今井被告(週刊文春2015年9月24日号)※記事本文は一部修正した

では、自白したもう1つの理由は何か。今井被告はこう続けた。

「認めなければ、取調室をいつ出られるかわからない状態だったことです。取調室から早く出たい。逃げ出したい。そんな思いから自白したのです。自白後の取り調べは録音録画されていますが、自白に至るまでの経緯や取調室の状況は録音録画されていません。録音録画される前は、刑事からネチネチと取り調べを受けていて、その状態に戻りたくなかったのです」

この話を聞き、「無実の人間がその程度の理由で、やってもいない重大事件の罪を自白することがあえりるのか?」と疑問に思う人もいるかもしれない。しかし実際には、無実の人間のほうがむしろ、身に覚えのない罪を簡単に自白しやすいというのは供述心理学の定説だ。無実の人間は、自分が刑罰を受ける未来をリアルに想像できないので、取り調べの苦しみから逃れたくて、安易に自白してしまうのだ。

今井被告が語る「自白した理由」には、とりあえず合理性があると言える。

◆裁判で犯行動機が不明とされている事情

そもそも、今井被告はなぜ、疑われたのか。それは、『Sアミーユ川崎』で3件の転落死があった日にすべて出勤していた唯一の職員だったことだ。

そういう状況であれば、疑われても当然だ。だが、逆の視点から見ると、「そのような疑われるのが自明の状況で犯行に及ぶだろうか?」という疑問も浮かぶ。その点に水を向けると、今井被告はこう答えた。

「僕が3件の現場にいたから犯人だというのは逆におかしいというのは、一般論的に言えばそうだと思います。我々も一、二審で当然、『犯人であれば、普通はそういう状況でやらない』と主張しています」

自分自身のことを“一般論的に言えば”と語る今井被告。無実を主張する被告人は、裁判が進むにつれ、自分自身の行動などを客観的に語るようになることがよくある。今井被告もそのパターンかもしれない。

では、裁判で犯行動機はどう認定されているのか。実はこの事件で動機は、真相を見極めるための大きなポイントだ。

一、二審判決によると、1人目の被害者・丑沢さんについては、今井被告は介護業務中、認知症だった丑沢さんから暴言や暴力行為を受け、うっぷんを募らせ、転落死させたとされる。一方、2人目の被害者・仲川さんと3人目の被害者・浅見さんについては、実は今井被告が犯行に及んだ動機が裁判でも特定されていない。

今井被告はその点について、こう説明した。

「丑沢さんは正直、大変な人でしたので、僕は丑沢さんの事件で(嘘の)自白をした際、動機は『ストレスが溜まっていたからだ』ということにしました。しかし、仲川さんと浅見さんの件については、僕は動機を供述できなかったのです」

無実の被疑者は、身に覚えのない犯行を自白する際、事件について知っている情報をもとに、「犯人はどうやったんだろう?」と想像しながら犯行を供述する。今井被告は、仲川さんの件については、もっともらしい動機を想像で供述できたが、仲川さんと浅見さんの件については、もっともらしい動機を思いつかなかったというわけだ。

実を言うと、今井被告は裁判前、精神鑑定を受けている。そして一審判決では、その鑑定医の証言に基づき、今井被告は仲川さんと浅見さんについて、「心臓マッサージを行っているところを他人から見られるなどして周囲から評価されたい」と考え、犯行に及んだように認定されていた。しかし、二審判決でこの認定が否定され、動機は不明のままなのだ。

一般的に言えば、動機が不明というのは、冤罪事件の判決でよくあることだ。犯人ではない人間を犯人と認定すると、どうしても辻褄が合わないところが出てくるためだ。加えて、自白した理由についても、今井被告の説明はとりあえず合理性があると言えるのは既述した通りだ。

次回も引き続き、事件の検証結果を報告する。(つづく)

◎冤罪を訴え、最高裁に上告中 ──「川崎老人ホーム連続転落死事件」死刑被告人との対話
〈前編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44047
〈後編〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44051

▼片岡健(かたおか けん)
ノンフィクションライター。stand.fmの音声番組『私が会った死刑囚』に出演中。編著に電子書籍版『絶望の牢獄から無実を叫ぶ―冤罪死刑囚八人の書画集―』(鹿砦社)。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ[電子書籍版]─冤罪死刑囚八人の書画集─」(片岡健編/鹿砦社)
党綱領を自ら否定した自民党は即時解散せよ 岸田内閣改造人事の真相 月刊『紙の爆弾』2022年10月号