ある日、セントラル社役員の、土方さんが会社に来る。セントラル社自体は規模が小さいものの、大企業の関連会社となっていて資金力はある。土方さんは元々その大企業の重役で、セントラル社を事実上取り仕切っている。

「社長さんな、やりたい仕事をやるんはええけど、ビジネスとして成り立たせないといかんのや。マーケティングもしとらんのやろ? 今まで」
関西弁で社長と長々打ち合わせしているが、土方さんはごく基本的なことから話している。社長は経営を理解していないので、まずはそこから、と考えたのだろう。私のデスクが会議室に程近いこともあり、話す内容がよく聞こえる。まるで親が子供に教育しているみたいだな、と思った。うちの社長は子供みたいなものだ。

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7年前の今日。2006年1月10日。沢口友美が、44歳という若さでこの世を去った。
朝早く東京を発った筆者は、彼女が入院する広島の呉の病院に、昼頃に着いた。
見舞いに来たつもりだった。彼女の病室を看護師に訊くと、「今朝亡くなりました」と告げられた。霊安室で、遺体となった彼女と対面した。

沢口友美は「反戦ストリッパー」として、皆に愛されていた。
彼女は高校を卒業して、自衛隊に入隊した。配属されたのは、隊内の通信を扱う「基地通信」という部署。
1979年から呉駐屯地で2年勤務し、埼玉の朝霞駐屯地に配属された。

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神は死んだ、と言われて久しい。イエス・キリストが、実在した人物か、創造された人物か? もはや、そんなことは、どちらでもいい話ではないか。
そう訝りながら、ぐいぐいと引き込まれてしまったのが、『基督(キリスト)抹殺論』(鹿砦社)だ。
102年前の1911年、「大逆事件」で死刑となった幸徳秋水が、執行までの間に東京監獄の一室で綴った、遺作である。これを、『もうひとつの反戦読本』『もうひとつの広告批評』などの著書がある佐藤雅彦氏が現代語に訳した。

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その昔、冤罪を訴える人の再審が開かれるというニュースを聞くと、随分珍しいことが起きたような気がしたものだ。ところが、近年は足利事件に布川事件、東電OL殺害事件・・・・・・と毎年のように再審無罪判決や再審開始決定が出るようになった。2013年もまた、何か新たな再審の動きはあるだろうか。
注目度の高い再審事件は色々あるが、個人的に今年大きな動きがありそうな気配を感じているのが、あの飯塚事件だ。

確定判決によると、福岡県飯塚市で小1の女の子2人を誘拐し、殺害したとされる久間三千年さん(享年70)が2008年10月に死刑執行されたこの事件。有罪の決め手となったDNA鑑定は、あのDNA冤罪の代名詞「足利事件」のそれと同じく90年代前半に警察庁科警研が同じ手法で行なったものだった。その再審請求審は現在、福岡地裁で続いているが、昨年10月には、科警研が鑑定書に貼付した証拠写真を改ざんし、別の真犯人のDNA像が写っていたのを隠蔽していた疑惑も浮上。死刑執行された人が冤罪だったというだけで一大事なのに、そんな重大疑惑も持ち上がり、今後の展開がますます注目される事件となった。

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父は亡くなって、やっと苦しい人生から脱したのだな、と思う。
昭和5年生まれの父は、中学生の時、空襲を体験している。
昭和20(1945)年3月10日の、東京大空襲だ。
家族は全員、すでに埼玉に疎開していて、父は一人、浅草の家にいた。父は学徒動員されていたため、疎開することはできなかったのだ。

午前零時をわずかに過ぎた、深夜。警戒警報に続いて空襲警報が鳴り、父は物干し台に上った。投下された焼夷弾で街が燃え上がる。その光で、夜だというのに、低空で飛行するB29の編隊が見えた、という。焼夷弾が空中で分解して広がり、街に降り注いでいく。きれいだなと思ったが、すぐ近くにも焼夷弾が落ち燃え上がるのを見て、家から飛び出した。

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言ってほしいウソをつくのが、詐欺師のワザ。
「愛している」と、結婚詐欺師は言う。
「これで一財産作りました。あなたもどうですか?」と、マルチ商法詐欺は言う。
「救われます」と、カルト宗教詐欺は言う。
結婚詐欺の被害者は、あまり相手を訴えないとか。「愛している」という相手の言葉が、まるっきりのウソだったと、認めたくないからだ。
プロの結婚詐欺師は、訴えられないギリギリ程度の額をむしり取って、次の相手に移っていく。

福島第一原発事故は「収束」した、という政府のウソも、国民が欲していたものではないか。
そう言われることで、フクシマのことを忘れて、安心して日常に戻れるから。
もちろん、普通に日常を送っていくだけでも、大変なことはたくさんある。
その上に、四六時中、フクシマのことを考えて、心を病んでしまっても困る。
だが、まるっきり、忘れてしまう、というのはどうだろう。

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30代で、東京に住み始めた頃だった。駅のホームで、前を歩いていた女性がハンケチを落としたので、拾って差し出した。きわめて、当たり前の行動として。
「チッ」
舌打ちをすると、私と同世代のその女性は、ハンケチをひったくって歩き去った。
ナンパと間違われたのだろうか。しかし、こちらから何か仕掛けたわけではなく、正真正銘彼女のハンケチだったから、持って行ったのだろう。

50代になって振り返ってみると、この時のことが、ずいぶん心に突き刺さっていたのだ。
私はそれからも善行をやめなかったつもりだが、他人が落とした物を拾ってあげる、ということができなくなっていた。
それはその人の問題、自分が関わり合うことではない、という意識が働いた。

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尚坂に言われたからではないが、職探しを始めた。先の見えない会社に長居したくないのは当然だ。他にも数人、求職中だとほのめかす社員はいる。

「大丈夫ッスよ。そこまでヤバくないッス」
堀口はどうも危機感がない。某一流大学を出ているらしいが、そうは見えない適当さだ。背が高く、顔も長いのでより高く見える。昔NHKに出ていたのっぽさんに少し似ている。馬面ののっぽさん。営業なのに取引先を増やすのではなく、一部の取引先の人間と友人のように仲良くなって、そこから案件を回してもらっている。

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私がミャンマーへ行ったのは、ひとえにミャンマー人である夫の家族、親族に娘(0歳11カ月)を会わせるためだった。
民主化活動をしていた夫は、ミャンマー軍事政権の迫害を逃れるべく1991年に来日し、以後、一度も祖国ミャンマーに帰れなかった。
そこで2012年2月、娘である赤ん坊と会うために、ミャンマーにいる家族が、在ミャンマー日本大使館に日本への渡航ビザ発給を求めた。義父にはビザが出たが、義妹や義妹の子は、ビザを得ることができなかった。その理由について、在ミャンマー日本大使館は「原則的発給理由を満たさなかったため」という不可解な回答をした。

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新しい年を迎えて、新しい道を切り開こう! と張り切っている方々も多いだろう。
そんな時に目に飛び込んでくるのが、「資格を取ればバラ色の人生」「資格を取得して新たな未来をつかもう」といったキャッチコピーのテレビCMや新聞雑誌、電車の中吊り広告だ。
もちろん努力して資格を取ることは、いいことには違いない。
だがそこには、様々な落とし穴がある。
経験者の立場から、その内情を暴いたのが、須田美貴著『資格ビジネスに騙されないために読む本』(鹿砦社)だ。

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