中学生の時に、東京大空襲を受けた父は、夕焼けが空襲に見えるようになってしまった。
多感な少年時代に、一夜にして殺された、おびただしい数の死体を見たのだ。
九死に一生を得た父は、埼玉に疎開している家族のところに、何とかしてたどり着いた。
「なんだって、家を置いて帰ってきたんだ」
と、自分の父親、つまり私の祖父から言われた、という。
「退くな、逃げるな、必死で消化! 消せば消せる焼夷弾!」
などという標語が街中に躍っていた時代のことだが、父が深く傷ついたことは間違いがない。

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