12月中旬郵便局によったら「このまま52円で使えるのは1月7日までですからご注意ください。それ以降は10円プラスの切手が要りますから」とカウンターで年賀状を販売している方が購入者に説明していた。「年賀状は数が多いですから、『企業努力』で安くさせて頂いております」と余分な説明も耳に入った。マニュアルにある説明文句なのだろうか。郵便局が「企業」になった(された)ことをまだ、首肯してうけいれられないわたしにとっては「なにが『企業努力』ですか?」と嫌味の一つもいいたくなるけれども、窓口で勤勉に業務をこなしている方に「郵政民営化」の罪は微塵もないわけで、文句を言いたいのであれば、総務省か、小泉元首相あたりにぶつけるのが筋だろう。

◆「平成30年」は早かった

その郵便局で「平成30年」と大きく書かれたポスターが目に入った。今年は昭和が終わってから30年目だと(誰でも知っていそうなこと)気づかされた。わたしにとって、この30年は早かった。4、5回転職し、2回裁判をして、両手に余る親戚、知人を看取り、ある小さなカジノでは1ドルが40万円に化けて、2千冊ほどの本を転居時に廃棄し、5000㏄エンジンのクライスラーでニューヨークからワシントンD.C.までハイウエーを走っていたらパトカーにスピード違反で追いかけられ(たけれども途中でUターンしてその時は煙に巻いた)のをはじめに、5か国で交通違反に引っ掛かり、3回ほど死にかけた。それでもお陰様で心身ともガタを実感しながらも、わたしは生きている。

◆島国の「少子高齢化」と地球規模の「人口爆発」

昨年12月23日の京都新聞では、2017年に生まれた新生児が統計を取りはじめた1899年以来最少だった2016年より約3万6千人少ない94万1千人とみられ、2年連続で100万人を割り込むことになった一方、17年の死亡者数は戦後最多の134万4千人(前年比約3万6千人増)で、死亡者数から出生数を引いた人口の自然減は過去最大の40万3千人(同約7万2千人増)と推計されることを報じられていた。この島国の人口は政府が予測していた速度よりもかなり速いスピードで減少を続けている。わたしの予想と現実が近づいてきた。

日本の人口推移(出典)2015年までは総務省「国勢調査」(年齢不詳人口を除く)、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(出生中位・死亡中位推計)

他方地球全体でみると、国連によれば2017年の総人口は約76億人と推計され、2030年には86億人、2050年には98億人、2100年には112億人に達すると予想されている。

世界人口の推移(出典)内閣府が引用掲載している国連統計より

目の前では「少子高齢化」がますます顕著になっているけれども、地球規模では「人口爆発」が進行しているということだ。100億人がこの地球上で平和裏に暮らすことができるだろうか? 一部大量生産大量消費国では人口増が終わり、少子化に転じるかたわら、大量生産のために労働力や資源を供給する国では人口爆発が起きるのは、資本主義の宿命であり、これを解決しようとすれば冨の偏在を解消し、たとえば、われわれが使っているエネルギーを現在の半分以下にする、といった大規模変革がなされなければ状況は変わらない。

「少子高齢化」などじつは小さな問題だ。人口爆発の前では、平成が30年になろうが、年賀状に1月7日以降は10円切手を貼らないと送り返されてこようが、私が2回裁判をしようが、すべてが終焉に向かう。資本主義の基本「搾取」の対象が数的に爆発してしまい、一方AIやIPS細胞、東京五輪などと眠たいことをいっている勘違いした「進んだ文明」では、逆に決定的な労働市場不足が生じる。働く場所がなくなってしまうのだ。あるいは不可思議なことに労働力不足も生じよう。その兆候はすでに現れており、空前の好景気といわれる現在、失業率は低止まりしているがゼロにはならない。そして中小企業や運送業の人手不足は深刻だ。

現象としては、求職者と企業のアンマッチに見えるかもしれないが、そうではない。大資本は抱えている正社員の削減を図るべく「労働力」を「コスト」と計算しはじめている。資本主義は空間的、物質的に広がっていかないと維持できない(成長しないと破綻する)から貸借対照表には黒字を計上するために、「人間」を削るしか目下大資本には人口爆発に対抗する術が思い当たらないのだ。

そして文明的視点から断じてしまえば、そもそも「企業」という労働形態に「ヒト」のすべてが馴染むはずはないのだ。地球が静止しない動体であるように、国家や社会を生物と仮定すれば、この島国においては、圧倒的に欠乏している食料自給率を上昇させるべき(つまり第一次産業)仕事にこそ多くの若者が従事するのが自然である。

◆大言壮語をしている猶予は長くない

「国家100年の計」だとかなんだとか大言壮語できる牧歌的な時代は、既に終焉しているのであって、いまごろ月探査機を計画してもなんのメリットがあるというのか。そういう的外れで、自滅的な方向に無自覚な政権の下で暮らさざるをえないわれわれは、どうやって日々生活をすべきなのだろうか。どのようなことを「やめて」、なにを「なすべき」なのか。

わたしは2050年にこの島国の統治形態は崩壊すると考えていたが、2011年以降2030年その予想を繰り上げた。理由はご想像いただけよう。なにを「なすべき」か、「なさざるべき」か。あれこれ考える猶予はそう長くない。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

2018年もタブーなし!月刊『紙の爆弾』2月号【特集】2018年、状況を変える

【新年総力特集】『NO NUKES voice』14号 脱原発と民権主義 2018年の争点

松岡 昨年はお疲れ様でした。『カウンターと暴力の病理』は大反響で、発売直後は「しばき隊」は完黙(完全黙秘)状態でしたが本年もよろしくお願いいたします。

A あれにCD付けるアイディアは社長が発案しはったんですか?

松岡 それは「企業秘密」ということで。

B 「鹿砦社どこまで突っ走るの?」って仲間のフリーライターから面白半分に聞かれるんですけど、ここまで来たら一応の区切りまでは突っ走るってことでしょうか?

C もちろんでしょ。だから「サイバー班」から上がってくる情報の分析方法も格段に進歩したでしょ。

E 基本「特別取材班」は「M君リンチ事件」がもちこまれたところからスタートしましたよね。だからM君の一件が片付くまでは、「周辺事態」にも目配りしないと、ってことですかね。

A いやー。正直なところ、自分はちょっと精神的に疲れてるんですわ。

D どうしたの? 毎晩飲み歩いてるじゃない?

A 李信恵とか野間易通とかの書き込みのサマリーが、毎日「サイバー班」からあがってくるやないですか。あれ読んでたら「何がしたいんか、この人ら」って正直思いますよ。

D まあ無理はないだろな。俺もいい加減連中のお供には飽きが来てるし。

大学院生リンチ加害者と隠蔽に加担する懲りない面々(『カウンターと暴力の病理』グラビアより)

E それでは困るでしょ。まだまだM君の裁判は続くんだし。李信恵の判決後には記者会見を開くのに、M君や鹿砦社は一切無視のマスコミにも一撃くらわさないと。

C 暮れに毎日新聞の後藤由耶(よしや)記者に公開質問状を送ったけど回答はありませんでしたね。

A 毎日新聞もどうかと思うわ。取材対象に癒着してしもうて。あれやったら記者と取材対象やなしに、ただの友達やんか。

D まあ、毎日新聞にしろ、朝日新聞にしろ、原則違反の取材姿勢がはっきりしたから社長から遠からず「突撃命令」が出るんじゃないの。

B え! また「突撃」ですか?

松岡 今回はBさんとCさんにお願いします。

C は、はい・・・。

D まぁ、若いうちに直撃や、現場は踏めるだけ踏んでおいた方がいい。

A そういえばDさんはいまだに「直撃」はゼロですね。

D そのかわり君らの文章の校正は全部俺がやってるぜ。

一同 はあ、それはそうです。

B 『カウンターと暴力の病理』の最後で社長が「隠し玉はまだある!」って宣言してましたよね。

松岡 あれっ。まだ皆さんには送っていませんでしたか?

D 社長、あれは俺に任せたってことだったじゃないですか。

松岡 ああそうだった。Dさんよろしくお願いいたします。

D 「爆弾処理」承りました。毎度ながら今回の爆弾に「しばき隊」は腰を抜かすだろうな。

A どないな内容なんですか?

松岡 まあ、見てのお楽しみということで。ちょっとだけヒントを言うと、「しばき隊」のかなりコアとみられている・・・

D 社長、ストップ!これはメガトン級の衝撃取材だからゲラができるまでは特別取材班内でも秘密にしましょう。

松岡 そうですね。今年は私も徐々に一線から退いて、社長業に専念する方向で行こうと思っています。

B 本当に我慢できますか社長?「しばき隊」関連ではないけど『紙の爆弾』最近評判がうなぎ上りですね。

C うんうん。鹿砦社の仕事してるって話すと「紙爆か? 頑張ってるな」って全国紙の記者の評価も上がって来たよね。僕は「紙爆」の仕事回ってこないけど。社長、僕にも書かせてくださいよ!

松岡 中川(『紙の爆弾』編集長)に相談してみてください。

C  (なんだ、そっけない)

A ところで例の絨毯爆撃の効果はどないでした?

E かなりのものだったらしいよ。住所不明で帰って来たのは1人だけで、1人は「受け取り拒否」だったって。

C 「受け取り拒否」なんかした人には、当然直撃取材が待っているわけですね。

松岡 その人は北陸の人でね。有名人でもないから取材費使って「直撃」するのはどうしようかと考えています。

E 北陸といえば、あの宗教関係者だ!

A しかおらへんやろ。

D 小物はほっときなよ。それより今年はM君や鹿砦社だけじゃなく、対「しばき隊」の新たな訴訟の情報があるよ。

C 聞いてます。聞いてます。それも複数でしょ。

D 安田浩一がさ「こういう記事を書いて最終的に喜ぶ人間の顔がわかるんです」とかなんとか言ってたけど、俺に言わせりゃ「じゃあ連中が喜ぶようなことをするなよ」ってだけのことなんだよね。「不都合な事実」は隠蔽しようとする。でも起きたものは仕方がない。事実は事実でしょ。「しばき隊」は隠蔽せずに、「これはここがまずかった」って反省すれば、ことはそれで簡単に済んだんだよ。けど奴らはそうはしない。だからたちが悪いんだよな。有田もそうだけど。四国の合田夏樹さんは、俺はっきり言って思想的には全然合わないよ。彼は保守でしょ。安倍の支持者で原発にも賛成。でも人間は誠実なんだよな。だから話は通じる。それに有田の選挙カーで職場や自宅を「訪問」されてる。こんな事件聞いたことないぜ。

B 合田さん事件については新たな証拠も入りました。いずれ読者に公開できますね。

松岡 皆さん今年も昨年以上の奮闘を期待します。よろしくお願いしますね。

A 社長、年末年始の出費がかさんでいまキツイんです。ちょっとだけ前借お願いできませんか?

D やめときな。若いくせに前借の癖なんかつけたら、ろくなことにならないぜ。誰かさんみたいに50歳超えてもSNSしか居場所がなくなったら嫌だろう? バイトでもしなよ。

A キツイなー。けど説得力あるわ。「誰かさん」みたいにはなりとうない。夜勤のバイトしますわ。

(鹿砦社特別取材班)

『カウンターと暴力の病理 反差別、人権、そして大学院生リンチ事件』[特別付録]リンチ音声記録CD(55分)定価=本体1250円+税

本日9日、南北朝鮮の国境、板門店で南北会談が行われる。韓国は2月に平晶オリンピックをひかえ、朝鮮は米国をはじめとする経済制裁にあえぐ中、両国の直接会談は、いっときの「モラトリアム」かもしれないが、理由はどうあれ歓迎すべきニュースだ。

昨年は朝鮮側から韓国側への亡命を試みた兵士が2名いた。銃撃を受けた1名は重傷を負ったが命はとりとめ、入院中だ。「K-POPが聞きたい」と病床で話しているという。板門店は何度か訪れたが、あの厳戒態勢の中でよく、亡命を敢行したものだと、兵士の決意には恐れ入る。

◆祖国分断の諸相

国境が海上にしかない島国に暮らしているわたしたちが、想像できないような地上の国境は世界にはいくつもある。かつて東西ドイツ国境の緊張もそうだったし、インド-パキスタン国境で繰り広げられる、双方が敵意むき出しの「儀式」のような様子も深く印象に残っている。中国とベトナムの国境も一時緊張状態にあった。

静寂時の板門店を韓国側から訪れると、そこは、緊張と商業主義の混在した場所だ。会談が行われる安っぽい建物は南北国境線上にあるが、観光客でも建物内の朝鮮国敷地内に入ることができた。毎日にように訪れる観光客の姿を、朝鮮側の兵士は望遠鏡で注意深く観察していた。

韓国の友人の多くは、「祖国の分断をいつかは解消したい」とわたしに語る。「世界最後の分断国家の子」と名付けた個展を日本で開いたのも韓国の友人だった。わたしは朝鮮国民に会ったことはあるけれども、友人と呼ぶほどの付き合いのある人はいない。日本にたとえれば、箱根あたりの南北で国境線が引かれ、引き裂かれた民族。冷戦取終結により、溶解した「ベルリンの壁」や、ソ連崩壊後多くの国が独立したのに反して、極東では、誰の意思によるのだろうか。いまだに同じ民族が分断を余儀なくされている。

◆誰のための、何を目指す「経済制裁」なのか?

「北朝鮮のミサイルの脅威」を連日垂れ流し、拉致問題をスパイスのように散りばめイメージづくりされる朝鮮民主主義人民共和国から、この冬には例年にない数の簡素な木造船、もしくは木造船の残骸が日本海各地に流れ着いている。わたしはその理由が国際社会による朝鮮への「経済制裁」にあると想像する。いわゆる“Sanction”(サンクション=経済制裁)はこれまでも、国際政治の場で幾度も繰り返されてきた。けれども、「経済制裁」が、その対象国の権力者に打撃を与えた実績をわたしはまったく知らない。そもそも、「経済制裁」を行うのが妥当であるのかどうかが、はなはだ疑問なケースは、イラン、イラクやキューバをはじめとして枚挙にいとまがない。誰のための、何を目指す「経済制裁」なのか。その理由の大半はここ半世紀ばかり「米国の利益」とほぼ重なる。

朝鮮に対する「経済制裁」も金正恩氏には痛痒でもなんでもないだろう。彼の恰幅(かっぷく)の良さは相変わらずだし、(わたしも好ましくないと同意する)独裁体制が揺らぐ気配はどこにもない。「経済制裁」は対象国の庶民生活を直撃し、権力者にはまったく無影響である(独裁的な国であればあるほどその傾向は強まる)ことを、わたしたちは日本海に流れつく、簡素な木造船の破片から、その中に横たわる亡骸から感じ取ることができないものだろうか。

映画『シュリ(Shiri)』(1999年)

◆映画『シュリ』の卓越なストーリー

1999年に韓国で撮影された『シュリ(Shiri)』という映画がある。ストーリーはややわかりやすすぎるきらいはあるものの、分断国家の悲劇を描いた作品として当時韓国では史上最高の観客動員数を記録した。朝鮮の精鋭部隊工作員が韓国の国防組織の人間と接触するうちに恋仲になるが、2000年に開催されるサッカーワールドカップに参加した南北両国の首脳を朝鮮側の部隊が爆破し、統一のための「革命」を図ろうとし、それが果たされない。そんなストーリーだったと思う。

「民族が分断されて何十年。政治家どもたちだけがいい加減な芝居を演じてきた。祖国統一のために、俺たちは政治家ではない新しい革命を必要としている」

たしかそんなセリフを朝鮮側から韓国に侵入した特殊部隊の隊長が、韓国の国防部隊主役に投げかけていたような記憶がある。『シュリ』のなかで、朝鮮の部隊は韓国だけではなく、みずからの国の元首もスタジアムごと爆殺することによって、民族統一を図ろうとしていたストーリーが卓越だった。終焉に向かう前に何人もの朝鮮兵士が窮地に陥ると殺される前に、「トンイルマンセイ(統一万歳)!」と声をあげながら服毒自死するシーンもあった。

当時の韓国大統領金大中は2000年に平壌を訪問し、金正日総書記と会談をしている。金大中が平壌空港に降り立ったとき、金正日は自ら出迎え、最大限の敬意を表している。日本でも在日コリアが涙しながらその様子を目にし、喜びに酔いしれていた(一部冷めている人もいたけれども)姿はまだ覚えている。韓国からの留学生も夜を徹して祝っていた。だから『シュリ』の描いたストーリーは劇場内では刺激に満ちたものだったが、それが現実を動かす力になりえたか、と言えばそうではなかったろうし、当時はそんな情勢でもなかった。

独裁国家の精鋭部隊が、忠誠を貫くべき国家元首を、「民族統一」の障害物として爆殺を敢行しようとするストーリーには引き込まれたが、2月には平晶オリンピックが韓国で開幕する。もちろん物騒な騒ぎなど微塵もなく、この機会に南北両国の凍てついた関係に少しでも融和の兆しが現れるよう、こころから切に願う。


Shiri (Shiri’s Ending)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

新年早々タブーなし!『紙の爆弾』2月号【特集】2018年、状況を変える

捜査機関が被告人に有利な証拠を隠す「証拠隠し」は、冤罪が起きる原因の1つとして批判されてきた。私が過去に取材した様々な冤罪事件を振り返っても、捜査機関による「証拠隠し」の疑いが浮き彫りになった事件はいくつもある。

中でも印象深いのは、10年余り前に東広島市の短期賃貸アパートで会社員の女性が探偵業者の男性に暴行され、死亡したとされる事件だ。私は取材の結果、この事件を冤罪だと確信するに至ったが、取材の過程では「別の真犯人」の存在を示す証拠を警察、検察が隠している疑いも浮上しているのだ。

◆短期賃貸アパートで見つかった遺体

東広島駅近くの短期賃貸アパートで被害女性(当時33)の遺体が見つかり、事件が発覚したのは2007年のゴールデンウィーク中のことだった。遺体はバスルームで発見されたが、服は着たままで、水をはった浴槽に頭から突っ込んでいた。顔面や頭部に鈍器で殴られた跡が多数あり、上唇が裂けるなどした無残な状態だったという。

被害女性の遺体が見つかった短期賃貸アパート

女性は事件発覚の少し前、現場の短期賃貸アパートを契約していたが、そのことは一緒に暮らす家族すら知らないことだった。ただ、事件後に女性の携帯電話がなくなっており、警察は当初から顔見知りによる殺人事件だと疑っていたようだ。そして事件発覚から約2週間後、1人の男性が殺人の容疑で検挙される。広島市でコンビニを経営しつつ、副業で探偵業を営んでいた飯田眞史さんという男性(同51)だ。

なぜ、飯田さんは疑われたのか。事情はおおよそ次の通りだ。

被害女性は事件前、妻子ある男性と不倫関係にあったのだが、そのことが男性の妻にばれ、トラブルになっていた。そして事件発覚の10日余り前、電話帳で探偵業を営む飯田さんの存在を知り、相談にのってもらっていたという。

警察が捜査を進める中、被害女性の携帯電話の発着信履歴や東広島市内のファミレスの防犯カメラ映像などから飯田さんが事件当日も被害女性と会っていたことが判明。さらに現場アパートの室内から飯田さんのDNAも検出され、警察は飯田さんを容疑者と特定したのだ。

飯田さんは逮捕後、事件当日に被害女性と会い、現場アパートに立ち入ったことは認めつつ、殺人の容疑は一貫して否認した。飯田さんによると、被害女性が家族にも告げずに短期賃貸アパートを契約したのも飯田さんの助言だったという。

「被害女性は、不倫相手の妻から慰謝料のほか、印鑑登録証明書の提出を求められており、印鑑登録証明書に記載された住民票の住所から不倫相手の妻に自宅を知られるのを嫌がっていました。そこで短期賃貸アパートを契約し、住民票の住所を一時的に移せば、印鑑登録証明書に記載される住所は短期賃貸アパートのものになると助言したところ、被害女性はその通りにしたのです。そして私は事件当日もアパートの室内で、被害女性に示談書の書き方を教えてあげていたのです」(飯田さんの主張の要旨)

しかし、飯田さんはこのような言い分を警察、検察に信じてもらえずに起訴され、裁判でも広島地裁の第一審では懲役20年の有罪判決を受ける。広島高裁の控訴審では、犯行時の殺意が否定され、傷害致死罪が適用されて懲役10年に減刑されたが、上告審でも無実の訴えを退けられ、懲役10年が確定。現在も山口刑務所で服役生活を強いられている。

飯田さんが服役している山口刑務所

◆被告人には一見怪しい事実があるにはあったが・・・

私がこの事件を取材したきっかけは、獄中の飯田さんから冤罪を訴える手紙をもらったことだった。飯田さんは当時、広島高裁に控訴中だったが、調べたところ、飯田さんには怪しいところが色々あるにはあった。だが、よく検討すると、色々ある一見怪しい事実は、飯田さんが犯人であることを何ら裏づけていないのだ。

たとえば、飯田さんは事件の数日後、埼玉で暮らす不倫相手の女性に現金書留で100万円を送っており、このお金について「事件当日に被害女性から預かったものだが、(不倫相手の女性には)車の購入資金として送った。被害女性には、あとで自分の預金から返せばいいと思った」と説明していた。これなどはかなり怪しさを感じさせる事実だが、よくよく調べてみると、飯田さんは金を送った不倫相手の女性に口止めなどはしておらず、金の送り方も現金書留を使っているなど非常に無防備で、犯人らしからぬ点が散見されるのだ。

また、現場アパートの室内から飯田さんのDNAが検出されたという話については、鑑定資料が血痕なのか、ツバなど血痕以外のものなのかで争いがあるのだが、いずれにしてもきわめて微量のDNAがテレビのスイッチに付着していただけのことだった。飯田さんは事件当日、被害女性に示談書の書き方を教えるためにアパートに立ち入ったことを認めており、このDNAはその時に遺留したと考えても何らおかしくない。

そもそも、飯田さんは被害女性と事件の10日余り前に知り合ったばかりで、被害女性の顔面や頭部を執拗に攻撃し、殺害しなければならない動機があったとも思いがたかった。そんなこんなで私はこの事件について、次第に冤罪の心証を抱くに至ったのだ。

そして取材を進める中、期せずして浮上してきたのが、捜査機関による重大な「証拠隠し」の疑いだ。それはすなわち、飯田さんとは別の真犯人が存在することを示す事実がありながら、警察、検察が握りつぶしたのではないかという疑惑である。

逮捕によって閉店に追い込まれた飯田さんのコンビニ

◆警察が「複数犯」を前提に「黒い車」を探していた謎

「警察はなぜだか、飯田さんの共犯者を探していました」「そういえば刑事が話を聞きにきた時、『あれは一人ではできない犯行なのだ』と言っていました」

私の取材に対し、飯田さんの周囲の人たちは異口同音にそう言った。つまり、警察は飯田さんを容疑者と特定しながら、この事件を複数犯の犯行だと思っていたということだ。

一体なぜなのか。謎を解く鍵は次のような証言だ。

「刑事から『飯田に黒い車を貸さなかったか?』と聞かれたので、貸してないと答えたら、その刑事、今度は『あなた以外で誰か飯田に黒い車を貸せるような人はいないか?』と聞いてきたのです。とにかく刑事は『黒い車』にこだわっていましたね」

これは飯田さんの知人男性から得られた証言だが、同様の証言は他でも複数得られた。これはつまり、警察が何らかの証拠に基づき、この事件は複数犯によるもので、犯行には黒い車が使われたと考えていたということだ。ちなみに飯田さんが乗っていた車の色は「白のスカイライン」である。

私は、おそらく事件現場周辺の「防犯カメラ」の映像などを根拠に、警察は犯人が複数存在し、犯行に黒い車を使っていたと断定していたのだろうとにらんでいる。そこで実際、事件現場周辺でそのような防犯カメラの映像を警察に任意提出した会社などがなかったか探してみたが、残念ながら現時点で見つけられていない。

私は今後もこの事件の取材は続けるつもりなので、もしも気になる情報をお持ちの方がいれば、下記の私のメールアドレスまでご一報頂けたら幸いだ。

kataken@able.ocn.ne.jp
※メール送信の際、@は半角にしてください。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

1月7日発売 2018年もタブーなし!月刊『紙の爆弾』2月号【特集】2018年、状況を変える

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

ワンプラ(仏陀の日)は寄進の多い日。いちばん左はデックワットやっていた中学生、お父さんが亡くなったばかりで供養の為の出家、ネーン(少年僧)になりました。(1994.10.27)

◆態度が変貌した藤川さん!

ペッブリーへ向かうバスが到着近くになると、藤川さんが車掌さんを促し、寺近くの交差点で降ろして貰うと、寺まで歩いて3分ほどの距離。歩きながら藤川さんに「網走刑務所に入るような気分か?」と聞かれ、刑務所という発想は無いものの、中学生の頃の短期ながら合宿生活に入るような、憂鬱な気分で寺の門を潜り、正に“入門”となった瞬間でした。

まずは自分の部屋が無いので藤川さんの部屋にお邪魔します。持って来た荷物を広げると、「狭いんやから、よう考えてやれ!」と機嫌悪いようなキツイ言い方が始まる藤川さん。元々仏陀の教えに反するような、贅沢な物が溢れる部屋で狭いのだから仕方無いだろうに、どうやら門を潜った途端、指導のスイッチが入ったような今迄と違う変貌に戸惑ってしまいました。

「来月、5日過ぎたら還俗者が増えて部屋が空くからそれまでここに居れ!」と言われるも、こんな口煩い藤川ジジイと1日だっていっしょに居るのは嫌でした。

◆デックワットの仕事!

夕方になると、「デックワット(寺小僧)と一緒に掃除しとけ!」と藤川さんに指示され、早速のデックワットとしての仕事が待っていました。出家前は数日前に寺に入り、比丘のお手伝いをするのが常識で、新弟子のような存在。そして日々デックワットがやっている仕事を私もやることになります。広いクティ内の板の間をモップを使って他の中学生ほどのデックワットとともに掃除を始めました。そんなモップがけをしながらフッと考え込んでしまい、「俺、30歳越えてこんなタイの田舎の寺で何でモップがけやっているんだろう。日本でもっとカメラマン出来ただろうに」と何か悶々としながら掃除を終え、やっと一人になれる時間を作って寺周りに散歩に出て、ようやく心休まる時間を作りました。

寺に帰り、藤川さんの部屋へ戻っても、特に話すことはない何とも窮屈な空間。すると突然、「よし、座禅組もう」と言い出す藤川さん。もう鬱陶しいこと言うやら、やらせるやら。逆らおうかとも思うも、ここに来ている意味を考えれば仕方ありません。

その頃にまた隣の部屋にデックワットが遊びに来ている様子が伺えました。また壁の穴からの視線を感じ、こちらは覗き部屋の見世物的対象。

「また日本人が変なことやってるぞ」と何やら言ったか言わないか、気になること落ち着かない。それに対し平然と身動きせず座禅を組む藤川さん。修行者と未熟者の違いがはっきり現れる座禅でした。約30分超えの座禅も意外とキツくはない。「これなら毎日やらされても耐えられるかな」とちょっとした自信にもなりました。午後9時過ぎ、我々は就寝。刑務所のような寺一斉に消灯ということはなく自由なもので、相変わらず両隣の部屋からはテレビの音やデックワットの笑い声が聞こえてくるのでした。

比丘の朝食風景(1994.10.27)

◆ワンプラ(仏陀の日)!

翌朝5時、まだ外は暗く鶏が鳴く中、藤川さんとともに起床。眠りは浅かった。コーヒーを飲みながら黄衣を纏う藤川さんの巻き方を見て覚えようとするも、なかなかすぐ覚えられるものではありません。もう一度、藤川さんの托鉢を撮りたいところ、「デックワットと一緒に掃除しとけ」と昨日と同じ指示して托鉢に向かう藤川さん。ここはもう私をカメラマン扱いしていない寂しさを感じました。

後から起きて来た若い比丘らが部屋の外で黄衣を纏うのを見ていると、「わかる?」と言われて「難しそう!」と応えると「大丈夫、すぐ出来るよ!」と慰めてくれる一回りほど年下の先輩僧たち。

藤川さんが托鉢から帰ってくると、「今日はワンプラ(仏陀の日)でサイバーツ(お鉢に入れる寄進)が多うて重かったあ~!」と腕も痺れる一苦労を、少々優しく報告してくれました。

“ワンプラ”は1週間に1回ぐらいの割合でやってくる仏教徒としてのお努めの日。在家信者さんも特にこの日は仏教の戒律を重視する日で、普段あまりやらない人も、この日は徳の“ポイントお得デー”かのようにお布施に力を注ぎます。托鉢での寄進だけでなく、信者さんが大勢寺にやって来て寄進する日でもありました。

大勢の比丘が座る目の前に、皿に盛られた大量の料理が並び、先導者に続いて5分ほどの読経が始まりました。そして5僧のグループ6つぐらいに分かれて朝食が始まりました。そんな時、信者さんと一緒に居る和尚さんに呼ばれました。

「どのくらいの期間出家するつもりか?、日本で何しているのか?」などと聞いてくるので、「日本ではボクシングやいろいろなスポーツのカメラマンやっています。」とやってもいないハッタリ含めて大袈裟に言っておくと、「こいつは日本で有名雑誌のカメラマンやっている優秀な奴だ!」と信者さんに更に大袈裟が加わり、二人目の日本人が来たことで「ウチの寺は国際的だ!」と言いそうで自慢げな笑顔と踏ん反り返った姿勢。藤川さんから聞いた、我々が“客寄せパンダ”となる和尚さんの思惑が見えて来た頃でした。

ワンプラ(仏陀の日)。多くの寄進された料理が皿に盛られて並びます。(1994.10.27)

寄進に訪れた信者さんも朝食へ。私も勧められました。(1994.10.27)

比丘の朝食の後、訪れていた信者さんの朝食となります。来ていたオバサンたちに呼ばれて一緒に食事となりました。「これも食べなさい、遠慮しなくていいよ、いっぱいあるよ、いつタイに来たの?タイ語上手いね」など、国は違えど、タイでも人見知りしないオバサンたちの温かさに癒されました。

食事後の片付けは信者さんたちが一斉にやり、私らデックワットはホー・チャンペーンを掃除し、藤川さんは独自の日課の掃除を始めるので、私も弟子らしく手伝いに入りました。部屋の内側外側の壁を雑巾で大雑把に拭いていると、藤川さんは「掃除というのは手の届かん見えんところまで拭くのが掃除というもんや!」とまた癪に障るキツイ言い方をする。こんな細かいことをいちいち言うことに、「年末大掃除じゃないでしょ!」とついに言い返してしまい、自分が甘く悪いことも分かりながらもムカついて仕方ない状況でした。

◆「銀座」に買い物に行く!

昼飯は朝の托鉢と寺で寄進された食材の残り物で済ませます。比丘の後、藤川さんに「デックワットと一緒に早う飯食え!」と促されて慌てて昼食。その後、藤川さんに案内して貰い、今後の生活に必要な日用品類を買い出しに出ます。バイクタクシーに跨って藤川さんが言う“銀座”へ。この街でいちばん賑やかな田舎っぽい商店街でした。いずれ利用するであろう写真屋さんも覗いておきました。

夕方頃、和尚さんに「部屋が空くぞ!」と嬉しい知らせが入りました。還俗した警察官らしい人が鍵を渡してくれて中に入ると、部屋は藤川さんの部屋より広め。しかし、デックワットも同居する雑魚部屋で、ちょっと残念ながら、狭い藤川さんの部屋で文句言われながら居るよりはるかに楽で、ウキウキスキップ気分で部屋を移動しました。

銀座で買った洗剤や、トイレットペーパー、水出し麦茶入れる水筒など並べていると、中学生デックワットが、私に「これどうぞ」と“カーオムーデーン(豚肉ライス)”を持って来てくれ、引越し御挨拶を逆にやられてしまう出遅れ。誰かに「持って行ってやれ」と指図されたのかもと思うも有難い気遣いでした。

夜は水浴びした後、「これが最後の髪いじりか、明日の夜は髪が無いんだな」と髪を梳かしながら中学卒業以降、長髪だった髪を惜しむように触っていました。明日はいよいよ剃髪の日となります。

ペップリー銀座。田舎の商店街の一部です。見難いですが、黄色い看板が写真屋さん(1994年)

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

本日発売!2018年もタブーなし!月刊『紙の爆弾』2月号【特集】2018年、状況を変える

大和知也との打ち合いを制し、綱渡り防衛となった高橋一眞

大和知也vs高橋一眞。二度のダウンの後の危ない打ち合いはファンをハラハラさせた。高橋一眞のピンチ

激闘ノックアウトが続いた主要カード3試合。

「格闘技人生賭けて今日全てを出し切ります。僕の生き様を見てください」と語っていた大和知也は一昨年、怪我で王座返上し、昨年9月の再起戦は棚橋賢二郎(拳心館)にKO負けもまだ王座復帰とNKBエース格を目指す。

高橋一眞は一昨年の3連敗から脱出し、昨年6月に宿敵村田裕俊から王座奪取し、再び「KNOCK OUT」出場を目指す今、両者とも負けられない立場。高橋一眞はパンチで出て来る大和にヒザ蹴り中心に右ローキック、ロープ際での接近戦で右ストレートでダウンを奪う。足に来た様子の大和だったが、パンチの距離になると右ストレートで逆転のダウンを奪う。

パンチとヒザ蹴りの攻防の中、更なるパンチ連打で2度目のダウン奪った大和。残り1分半。パンチで出る大和に応戦する一眞は危険な打ち合い。しかし一眞の右ストレートでスリップダウンする大和は立ち上がるも再び足に来ている様子で足がもつれる。一眞は上下の蹴りからヒザ蹴りも出すが、大和とパンチの打ち合いに応じ、どっちが倒れるかスリルある展開の中、一眞の右ストレートがヒット、足に来てフラついて起きれない大和にレフェリーが試合を止めました。

悔しさで号泣の大和。何のヒットで倒したか、自分がダウンしたことも覚えていない試合直後の一眞。2度ダウン後の打ち合いは危険な賭けは一眞にとっては今後に課題を残す初防衛となりました。大和は王座奪回成らず、2連敗。今後再戦するとしたら互いがガードをしっかりしなければならないでしょう。特に「“KNOCK OUT”に出たい」と言う一眞は要注意です。高橋一眞はこれで15戦11勝(9KO)4敗。大和知也は32戦16勝(11KO)13敗3分。

村田裕俊vs優介。向かって来た優介に村田のカウンターパンチがヒット、ダウンとなった瞬間

村田裕俊は2016年12月に初防衛戦で対戦した優介との再戦となる2度目の防衛戦。2017年は注目の選手との対戦が続く中、3連敗の村田。優介は再挑戦に向け、調子を上げてきた侮れない挑戦者。村田の攻勢は想定内で首相撲になっても組負けず、しなりある村田のハイキックとミドルキックが優介を圧倒。

2ラウンドには接近してきた優介に左フックカウンターでダウン奪う村田。優勢に進む中、村田の右ストレートが優介にヒットするも、相打ち気味だった優介の右ハイキックが村田のアゴを捉え、ダブルノックダウンのような形で、優介がやや先に尻餅つくが、ほぼスリップ気味ですぐ立ち上がり、村田は完全に足に来てフラつく中、レフェリーが止めました。

優介が劇的逆転ノックアウトで号泣の王座奪取成る。優介は第14代チャンピオン。村田裕俊はこれで19戦10勝(5KO)7敗2分。優介は25戦18勝(8KO)5敗2分。

村田裕俊の右ストレートはプッシュ気味、この直後、優介の右ハイキックが村田のアゴを捉える

ロープにもたれて倒れ込み、立ち上がれなかった村田裕俊

高橋聖人は昨年4月に村田裕俊を攻略する金星判定勝利。安田浩昭は3年前に髙橋聖人に判定負けしているが、その後勝利を重ね、上位進出してきた底力は侮れない。

パンチ主体の安田に対し、右ローキックを中心に蹴り技で優っていた距離感もよかった聖人。聖人の蹴りのペースが続き、安田の左足が効いていく中、安田の一瞬の右フックが聖人のアゴを捉えると、バッタリ倒れた聖人、完全に効いてしまって上半身を起こそうにも身体が言うこと利かないダメージでレフェリーが試合をストップ。パンチの当たる隙を安田が見逃さなかった展開。キックのキャリアは似たものがあるが、人生の経験値からくる勘があったであろう結末。聖人は反省点ある試合で今後に活かせることでしょう。高橋聖人はこれで10戦8勝(3KO)1敗1分。安田浩昭は10戦8勝(4KO)2敗。

新チャンピオン優介と真門ジム山岡会長。真門ジムでは優介が高橋兄弟に続く現役三つ目の王座獲得となった

◎神風シリーズ vol.6
2017年12月16日(土)後楽園ホール17:30~20:50
主催:日本キックボクシング連盟 / 認定:NKB実行委員会

◆メインイベント NKBライト級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.高橋一眞(23歳/真門/61.05kg)
VS
挑戦者同級2位.大和知也(前C/32歳/SQUARE-UP/61.23kg)
勝者:高橋一眞 / TKO 1R 2:35 / 主審:前田仁

◆NKBフェザー級タイトルマッチ 5回戦

チャンピオン.村田裕俊(28歳/八王子FSG/57.05kg)
VS
挑戦者同級2位.優介(33歳/真門/56.95kg)
勝者:優介 / TKO 2R 1:32 / 主審:鈴木義和

◆フェザー級 5回戦

NKBフェザー級1位.高橋聖人(20歳/真門/57.05kg)
VS
同級3位.安田浩昭(31歳/SQUARE-UP/56.9kg)
勝者:安田浩昭 / TKO 2R 3:02 / 主審:亀川明史

安田浩昭vs高橋聖人。頭をもたげる高橋聖人、身体は言うこと利かない痛烈なダウンシーン

安田浩昭vs高橋聖人。隙を突いた安田の右フックが高橋にヒット

王座挑戦権を得たであろう安田浩昭

初防衛成功の高橋一眞。王座奪取時にも見せた雄叫びポーズ

◆ライト級3回戦

NKBライト級1位.棚橋賢二郎(30歳/拳心館/60.95kg)
VS
小鹿雅弘(26歳/ジョイント/61.0kg)
引分け / 0-1 / 主審:川上伸
副審:前田30-30. 亀川30-30. 佐藤友章29-30

◆ミドル級3回戦

NKBミドル級6位.釼田昌弘(28歳/テツ/72.3kg)
VS
義充(27歳/アウルスポーツ/72.5kg)
引分け / 0-1 / 主審:佐藤彰彦
副審:鈴木30-30. 亀川29-30. 川上30-30

◆63.0kg契約3回戦

NKBウェルター級5位.マサ・オオヤ(43歳/八王子FSG/63.0kg)
VS
NKBライト級9位.野村怜央(27歳/TEAM-KOK/62.95kg)
勝者:野村怜央 / TKO 2R 1:58 / カウント中のレフェリーストップ
主審:佐藤友章

◆62.0kg契約3回戦

NKBライト級5位.パントリー杉並(25歳/杉並/61.65kg)
VS
J-NETWORK.スーパーライト級7位.伊東伴恭(33歳/ライラプス東京北星/61.9kg)
勝者:伊東伴恭 / 判定0-3 / 主審:亀川明史
副審:川上28-30. 前田27-30. 鈴木28-30

◆ウェルター級3回戦

NKBウェルター級4位.チャン・シー(33歳/SQUARE-UP/66.5kg)
VS
同級6位.SEIITSU(38歳/八王子FSG/66.45kg)
引分け / 0-1 / 主審:佐藤彰彦
副審:川上29-30. 前田30-30. 佐藤友章30-30

◆フェザー級3回戦

NKBフェザー級6位.鎌田政興(27歳/ケーアクティブ/57.0kg)
VS
同級9位.岩田行央(37歳/大塚/57.05kg)
勝者:鎌田政興 / 判定3-0 / 主審:鈴木義和
副審:亀川30-28. 佐藤友章30-28. 佐藤彰彦30-29

前座2試合は割愛します。

《取材戦記》

日本キックボクシング連盟に於いては、ラスト3試合は近来に無い壮絶な決着でした。リングサイド関係者は、意外な盛り上がりに驚きながらも満足気の様子。「来年(2018年)もNKBを盛り上げましょう」と言う声も聞かれました。高いレベルとは言い難いところもあり、「KNOCK OUTイベント」に向かっていくなら磨かねばならない技はあるものの、出場させてみたい選手も揃っています。

新年の興行タイトルは「闘魂シリーズ」だそうで、どこかで聞いたことあるようなシリーズ名ですが、この日のようなスリルは成り行き任せで難しくとも、好カードで盛り上がりを見せればNKBの存在価値も上がることでしょう。高橋三兄弟は課題を抱えつつ、負けてもまた向かっていく姿がカッコよく見えます。

2018年定期興行スケジュールは、2月17日、4月21日、6月16日、10月13日、12月8日、いずれも土曜日、後楽園ホールでの開催で、開始時刻は17:30の予定。この他、地方興行も予定されています。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

前回は2018年の注目冤罪裁判として、「今市事件」と「千葉18歳少女生き埋め事件」を紹介した。この2事件はいずれも第一審で無実の被告人に対し、有罪判決が出て、被告人たちが現在、控訴審で無罪判決を求めて闘っている。

一方、私が取材している冤罪事件の中には、まだ有罪判決は出ていないものの、無実の被告人が無罪を勝ちとるために裁判の第一審を闘っている事件もある。その被告人は名古屋市の喜邑(きむら)拓也さん、37歳。小学校教師だった喜邑さんは2016年11月、勤務していた小学校の1年生の女児に対する強制わいせつの容疑で逮捕され、2017年1月に起訴された。しかし一貫して無実を訴え、現在は名古屋地裁で無罪を求めて裁判中だ。

そんな喜邑さんの裁判は公判があるたび、無実を信じる支援者たちが多数傍聴に駆けつける異例の事態になっており、地元ではすでに冤罪を疑う声が広まっている。全国的にみれば、まだ事件の存在自体を知らない人のほうが多いだろうが、今年中に全国的注目を集める冤罪事件となる可能性は十分なので、冤罪に関心のある人は今から要注目だ。

◆「現場」には約20人の生徒がいながら目撃者はなし

喜邑さんは子供の頃から教師になることを目指していた人で、音楽大学を卒業後は地元の愛知県で一貫して小学校教師として働いてきた。プライベートではエレクトーン奏者としても活躍し、「名古屋のキムタク」と呼ばれた。そんな喜邑さんは、熱心な指導により生徒たちから人気を集め、保護者からの信頼も厚い教師だった。

この喜邑さんが2016年11月、強制わいせつの容疑で逮捕された。容疑内容は、前年度まで勤務していた小学校の教室で2016年1月、1年生の女児の服の中に手を入れ、胸を触った疑い。この時、保護者たちが受けた衝撃は大変大きいものだったようだ。

しかし、喜邑さんは容疑を一貫して否認した。そしてこのように無実を訴えたのだった。

「掃除の時間、教室の事務机で漢字ノートの採点をしていたら、女児がちりとりにゴミをたくさん取っているのを見せてきました。そこで、頭をなでて褒めてやろうとしたところ、手が女児の首からあごのあたりに触れてしまったのです」

この喜邑さんの主張を聞いただけでは、信じていいのか否かわからない人が大半だろう。しかし、「事件」があったときの現場の状況を踏まえれば、喜邑さんが容疑内容のような強制わいせつ行為をしたとは考え難いことはすぐわかる。何しろ、掃除の時間だった現場の教室には、「事件」があったとされるとき、約20人の生徒がいたのだ。そんな場所で、教師が1人の女児の服の中に手を入れ、胸を触る強制わいせつ行為に及ぶということは通常ありえないだろう。

実際、裁判が始まると、「事件」があったとされる現場には、約20人の生徒がいたにも関わらず、検察側は目撃証言を一切示せないなど証拠の乏しさが次第に明らかになった。法廷外でも昨年2月に結成された「喜邑拓也さんを支援する会」が冤罪を訴える街頭宣伝などの支援活動を熱心に繰り広げ、次第に地元では冤罪を疑う声が広まっていったのだ。

昨年9月の公判の際、支援者たちと名古屋地裁に入る喜邑さん(右から4人目)

◆大きなポイントは2月にある認知心理学者の証人尋問

裁判では結局、「被害者」の女児の証言が唯一の直接的証拠となる見通しだ。しかし、弁護人の塚田聡子弁護士によると、唯一の直接的証拠である「被害者」の女児の証言も変遷や矛盾があるという。

「女児はまだ小1で、認知や記憶の能力が高くありませんでした。母親に『こんなことがあったのでは』と誘導的に聞かれ、事実と違う記憶が形成された可能性も十分あります」

弁護側は女児の証言の信頼性について、認知心理学者に鑑定を依頼しているが、その鑑定人も証人として採用され、2月に証人尋問が行われる予定だ。この鑑定が有罪無罪を分ける大きなポイントになりそうだ。

喜邑さんは私の取材に対し、「逮捕勾留されていた時に自白せずに堪えられたのも、いま前向きに進めているのも支援のおかげです」と感謝の思いを述べ、「いまはとにかく無罪をとり、学校に戻りたいという思いです」と語った。支援者の中には、保護者たちも名を連ねているが、「本当にまじめな先生で、逮捕された時は何かの間違いと思いましたが、裁判を傍聴し、改めて無実を確信しました」「早く冤罪とわかって欲しいです」と誰もが喜邑さんの教師復帰を願っていた。

この事件の動向については、今後も折を見て、報告したい。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

ルンピニーのベルトも手に入れることが出来るか、二つ掲げたい梅野源治(2016.11.4)

2017年の主に目立った出来事を大雑把に独断と偏見で振り返ると、
・梅野源治とT-98(=今村卓也)のラジャダムナン王座陥落
・「KNOCK OUT」イベントの躍進
・IBFムエタイの発足
・高橋一眞の復活
・志朗と麗也の独立
などがありました。
他にも多くの興行、イベントがありましたが、あくまで独断と偏見です。

◆《1》梅野源治とT-98(=今村卓也)のラジャダムナン王座陥落

2016年6月1日にラジャダムナンスタジアム・スーパーウェルター級王座奪取したT-98(=今村卓也)は同年10月9日に日本人として初めて現地で初防衛を果たし、その勢いで2017年の更なる記録更新が期待される中、5月25日に現地での2度目の防衛戦は惜しくも判定で敗れ記録更新成らず。その後T-98は長い休養はとらず再起。今度はルンピニースタジアムに標準を定め、10月22日にルンピニージャパン・ミドル王座奪取を経て挑戦権を獲得。12月2日にタイ現地でルンピニースタジアム・ミドル級王座に挑戦しましたが、判定負けで王座奪取成らず。外国人初の二大殿堂制覇も成りませんでした。

2016年10月23日に、同じくラジャダムナンスタジアム王座をライト級で奪取した梅野源治は、2017年5月17日、現地で初防衛戦を行なうも判定で敗れ王座を失いました。現地に渡るとなかなか難しい本場の壁に阻まれますが、これを打ち破ってこそ崇高の王座であるわけです。

二人揃って王座陥落のままに終わった2017年でしたが、梅野源治は2018年2月18日、REBELS興行で、ルンピニースタジアム・ライト級王座決定戦出場が予定されています。日本人として新たな可能性を懸けて、ムエタイ二大殿堂王座への記録更新は2018年に引き継がれます。

T-98も厳しい立場に置かれたが、梅野同様まだ終われないT-98時代(2017.5.25)

◆《2》「KNOCK OUT」イベントの躍進

2016年9月14日に記者会見興行(お披露目1試合)から発足した「KNOCK OUT」イベントは同年12月、2回目興行(vol.0)から盛大に始まりました。(株)ブシロードがバックアップする背景から2017年は1年間を通じて8回の興行が開催され、想定する範疇ながら「やっぱり凄いな」と思わせる実績を残して来ました。

対戦が難しかった団体の垣根を越えたトップクラスの対戦があり、地上波のTOKYO-MXTVをはじめ、衛星放送やインターネット配信の充実、街頭スクリーンにもコマーシャルが流れる拡散に過去に無い一般社会へアピールの進出がありました。

選手の発言にも「KNOCK OUTに出たい!」と言う声が多くなっています。このリングに立つ為に、既存の各団体やフリーのプロモーション興行も選手の目つきが違って来ています。目指すものが大きいと選手のモチベーションも上がることが実証された1年でした。

ひとつ厳格に守って欲しいのは、本来のキックボクシングルールとシステムを遵守して欲しいこと。一旦勝手な解釈が加わると、そこからまた新たな解釈が加わり、本来のキックから逸脱した方向に行ってしまうので、老舗キック競技を守ることからイベント開催へ向かって行って欲しいところです。

◆《3》IBFムエタイの発足

2017年後半、水面下で動いていたのはIBFのムエタイ団体発足の動きでした。プロボクシングの主要4団体のWBCがムエタイ世界王座を発足されたのは2005年12月。いずれは他団体も手を付ける可能性が高いと思われたプロボクシング認定団体のムエタイ進出でしたが、ここに来てやっぱり出て来た他3団体の中のIBFでした。

多くの世界認定団体と二大殿堂王座、更に活発化するイベント(トーナメント戦優勝制)がある中、それらの価値が低くなってきた時代に、IBFムエタイがトップ争いの末、ムエタイ最高峰となることは無いでしょう。

初の世界王座決定戦を行なった2017年12月20日の世界戦数日前からから「ライトヘビー級か、クルーザー級かどっち?」と思っていたら、開催直前になって別選手によるウェルター級戦になる曖昧さ。発展途上のタイ側に任せていたらこうなるんです。ムエタイなので試合ルールは本場タイ側が主導するのは仕方ないにしても、IBFに限らず、組織管理・管轄はアメリカやメキシコの本部が監視していかないと、タイ側は勝手なことやりだすので、単なる名義貸しにならないよう注意して貰いたいものです。

発足したIBFムエタイ世界王座3試合のセレモニー(2017.12.18)

IBFムエタイ世界ライト級初代王座はセクサンvsパンパヤック戦(2017.12.19)

IBFムエタイ、最初のチャンピオンはウェルター級のピンクラーオ、左側はIBF会長のダーリル・ピープルズ氏、右側は元・タイ国副首相スワット・リパタンパンロップ氏(2017.12.20)

ここにも団体を担うチャンピオンとなった高橋三兄弟の長男・一眞が2018年を戦う(2017.6.25)

◆《4》高橋一眞の復活

2016年に悪夢の3連敗を喫した高橋一眞は2017年は4連勝と完全復活。過去3勝1敗の村田裕俊を破り、NKBライト級王座奪取と、元チャンピオンの大和知也を破り初防衛を果たしました。

長男・一眞は打たれ脆さが心配されます。大和知也との試合はそのスリルある展開を見せ大歓声となりましたが、再び「KNOCK OUT」出場することとなった高橋一眞は、2018年2月12日の「KNOCK OUT FIRST IMPACT」に於いてKNOCK OUT常連の町田光(橋本)戦が予定されており、ここはガードを固め冷静に戦って欲しいところです。

次男・亮も12月のKNOCK OUTに於いて、小笠原瑛作(クロスポイント)と引分ける好ファイトを見せながらも弱点を見せる展開。三男・聖人は安田浩昭に一発で逆転負けする不覚を喫したばかり。それでもNKBを担う立場に成長した高橋三兄弟は、安泰マッチメイクは無く試練を乗り越えていくので、負けながら這い上がるところに好感が持て、それぞれが2018年の急成長が見られるかが期待と見所でしょう。

本場のリングが主戦場となった志朗、2018年も厳しい戦いが続く(2017.12.9)

◆《5》志朗と麗也の独立

志朗と麗也(ともにKICK REVOLUTION)が新日本キックボクシング協会を、脱退宣言発表をしたのは6月20日でした。本場タイのリングでの戦いの場を求めて、これ以降ほぼ現地のみのリングに上がっていますが、現地の有力プロモーターに認められ、勝ち上がることはかなり難しい道程で、下手すれば簡単に切り捨てられる本場で、窮地に追い込まれても2018年も突き進まなければなりません。

早速1月13日(土)、タイ・ルンピニースタジアムにて志朗の出場が決定しています。試合はタイ地上波9チャンネルで放送と、セミファイナル出場が予定されるかなり高水準の待遇で、対戦相手は、チューペット・シットパナンチュンという、タイ7チャンネルや9チャンネルに出ている知名度があり、今最も勢いのある選手の一人として名を馳せており、パンチとローキックが武器で、最近は3連続KO勝ちしており、志朗とはKO決着が予想されています。

麗也は志朗とは別のジムに所属しており、まだ活躍の詳細は聞かれませんが、2018年は志朗に続かなければならない勝負の年となるでしょう。

新春最初の興行は1月8日に、後楽園ホールに於いて17時より、新日本キックボクシング協会・治政館ジム興行「WINNERS 2018.1st」が行なわれます。WINNERS、MAGNUM、TITANS NEOSなど、この団体内でもビッグイベントが揃っており、「KNOCK OUT」以外の国内各団体が突出してくるか、あるいはまた分裂が起こるか、何が起きても不思議ではないキック界が1年後にどうなっているか、波乱にも期待したいところです。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

一水会代表 木村三浩=編著『スゴイぞ!プーチン 一日も早く日露平和条約の締結を!』

昨年暮れ、当欄で冤罪の疑いを伝えていた「滋賀人工呼吸器外し事件」の西山美香さんに対し、大阪高裁が再審開始の決定を出して大きな話題になったが、今年も袴田事件、大崎事件、日野町事件、恵庭OL殺害事件など冤罪が疑われる数々の再審請求事件で再審開始可否の決定が出る見通しだ。

一方、私が取材している冤罪事件の中には、被告人が第一審で冤罪判決を受けながら、今も無実を訴えて裁判中の事件もいくつかある。その中から、2018年の注目冤罪裁判2件を紹介する。

◆今市事件は2月にDNAの重要審理

まず、当欄では2016年から冤罪事件として紹介してきた「今市事件」。2005年に栃木県今市市(現・日光市)で小1の女の子・吉田有希ちゃんが殺害されたこの事件では、同県鹿沼市の勝又拓哉被告が2014年に逮捕され、2016年4月に宇都宮地裁の裁判員裁判で無期懲役判決を受けた。しかし、有罪証拠は事実上、捜査段階の自白しかなく、当時から冤罪を疑う声は決して少なくなかった。

そんな今市事件では、昨年10月から東京高裁で勝又被告の控訴審の公判審理が行われており、「殺害現場や殺害方法に関する勝又被告の自白内容は現場や被害者の遺体の状況に整合するか否か」「被害者の遺体に付着していた獣毛は、勝又被告の飼い猫とミトコンドリアDNA型が一致するか否か」という2つの争点において、すでに審理が終わったが、いずれの争点においても弁護側が優勢だったという見方がもっぱらだ。

とりわけ12月21日の公判では、藤井敏明裁判長が検察官に対し、「殺害現場について、訴因変更をしなくていいのですか?」と確認をしていたが、一審で有罪判決が出ている事件の控訴審で裁判長が検察官にこのような確認をするのは極めて異例だ。藤井裁判長ら控訴審の裁判官たちが一審の有罪判決の筋書きに疑問を抱いていることは間違いない。

勝又被告の控訴審では、2月にも2度の公判審理が予定されているが、その中では、被害者の遺体に付着していた粘着テープ片から検出された「第三者のDNA」について、真犯人のものである可能性があるか否かなどが法医学者らの証言によって争われる。裁判の結果を大きく左右する審理になるはずだ。

◆2人の被告人に無罪が出てもおかしくない「千葉18歳少女生き埋め事件」

もう1つの注目冤罪裁判は、当欄で昨年11月に紹介した「千葉18歳少女生き埋め事件」だ。

2つの注目冤罪裁判が行われている東京高裁

この事件は2015年に発生した当時、「生き埋め」という残酷な手口がセンセーショナルに報道されて社会を震撼させた。その報道のイメージが強いためか、一審・千葉地裁の裁判員裁判で3人の被告人のうち2人が殺人については無実を主張していたにも関わらず、3人全員に無期懲役判決が宣告されたことに疑問を呈する声はまったく聞かれなかった。

だが、実際には、生き埋め行為は、軽度の知的障害がある実行犯の中野翔太受刑者(すでに無期懲役判決が確定)が他の2人の意向とは関係なく、焦って自分1人で勝手にやったことだというのは、私が当欄の昨年11月10日付けの記事で報告した通りだ。無実を訴えていた井出裕輝被告、事件当時未成年だったA子の2人は、そもそも中野受刑者が被害者を生き埋めにした時には、現場を離れていたのだ。

井出被告とA子はいずれも無期懲役判決を不服とし、東京高裁に控訴中だが、A子の控訴審の公判審理はすでに始まっており、1月18日には第2回の公判が開かれる。井出裕輝被告の控訴審も1月23日に初公判が開かれる予定だ。

2人に対する有罪認定については、様々な疑問がある上、実行犯である中野受刑者自身が「1人で見張りをしている時、掘った穴に入れていた被害者が泣き出したので、焦って砂をかけてしまったんです」と証言しており、生き埋めは自分1人で勝手にやったことだと打ち明けているに等しい状態だ。

井出被告、A子共に控訴審で逆転無罪判決を受けても何らおかしくないだけに、冤罪に関心がある人には要注目の事件だと思う。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

── おとうちゃん、いくら正月やからゆうて、飲みすぎちがう? 暮れの紅白見ながら白酒(パイチュウ)飲みだして、ずっとやで。
── じゃかましい! おまえらにいちいち酒の事は言われとうない。
── せやけど体にさわるで。いくらなんでも。
── あほ!「今年の10大ニュース」お前らも見たやろ?
── それがどないしたん?
── なにが「上野動物園でパンダの赤ちゃんシャンシャン誕生! 初公開に46倍の申し込み」や! お前ら悔しゅうないんかい!

(また、おとうちゃんの「上野恨み節」がはじまった。酒はいってるし、きょうは難儀そうやわ)

── うん、うん。あれはあんまりやね。
── あんまりですむかい! え? テレビも新聞もどこみてけつかんねん。おっ! わしらここでどんだけの家族がいてると思うてんのや!
── そやねぇ。いまはうちら5頭だけになったけど、一時は大賑わいやったもんね。

正月2日、場所は和歌山県「白浜アドベンチャーワールド」だ。ここではジャイアントパンダが現在5頭飼育されており、上野動物園のガラス越しとは異なり、じかにジャイアントパンダを目にすることができるので人気がある。が、13頭もの新生児を誕生させたジャイアントパンダが「白浜アドベンチャーワールド」にいることは、あまり知られていない。そのことについては当人(当パンダ)たちのあいだで、これまでさしたる問題になることはなかったが、昨年上野動物園で「シャンシャン」が誕生して以降の報道過多に、ついに白浜のパンダたちは堪忍袋の緒を切らし、2018年元旦を期して「無期限ストライキ」に突入していた。

東京・上野など目でははない!和歌山「白浜アドベンチャーワールド」のパンダファミリー

パンダたちの要求は
「上野動物園パンダ偏向報道の是正」
「動物園に収容されている動物の野生への一時解放期間の要求」
「日本の自然動物との交流機会の保障」
「外来種を含めた自然動物と動物園収容動物による意思決定機関の保障」
の4項目だ。

関係者はこれまで温厚だったジャイアントパンダの態度急変に驚いたが、ジャイアントパンダが同園に果たしてきた役割の大きさから、要求を無視することもできず、「一度持ち帰り検討させてほしい」とジャイアントパンダ側に回答。同園だけでなく、国際問題に発展する恐れもあることから外務省、文科省、ユネスコ、そして中国大使館とも水面下で対応を協議していたが、回答をまとめるのに時間がかかりついに世界の動物園史上初「ジャイアントパンダによる無期限ストライキ」突入となった。

── だいたいやな。わしらは「平和の使者」ゆわれて、大陸から世界中に派遣された。ちゃうか?
── うん、それはおとうちゃんからしょっちゅう聞いてるし、上野動物園に最初「カンカン」と「ランラン」が派遣されたときからそうやったんやね。
── それがやな、なんでわしら白浜家族はこんなごっつい所帯やのに、ちょぼっとしか宣伝もされんと、なんで上野の若造ばっかりいつも注目されるんや! お? わしがここで可愛い13頭のこども育ててたことを知ってる人間がどれほどおるんや!
── うんうん、おとうちゃんみたいな人間はおらへんやろうね。
── あたりまえや! 人間なんて頑張ってもせいぜい7-8人が限度や。それに日本は少子高齢化社会やよってに、最近の若い人間はこどもを産まんらしい。そこへいくとおとうちゃんは、今でもバリバリやで、へへへ。
── 下品なこといわんといてよ(バッシ)。せやけど、こんなことしていいの?「ストライキ」ってなんのことかわからへんけど。ちゃんと食事くれはるやろか?
── あたりまえやろが。わしらの貢献がなかったら白浜はここまでもりあがらんかったんや。せやから上のほうは知らんけど、飼育係の兄ちゃんたちはいつも通りやがな。それどころかいつもは日本酒かビールしかくれへんのに、白酒こっそりくれはったやろ。これごっついうまいねん(ヒック)。
── あ、テレビのチャンネル変えて!もーなんで上野のことばっかりやるんやろうね。
── せやろが。わしはな、人間に意地悪しようとおもってるんちゃうで。人間には「人権」ゆうものがあるらしい。お前ら知ってるか?
── (一同)知らん。
── 人間は尊厳を守られるために「人権思想」ゆうのを考え出したわけや。お前らは日本生れやから知らんやろうけど、わしはこれでも中国の教育を一通り受けたんや。弁証法的唯物史観や毛沢東のゲリラ戦術からマルクス主義の基本も一応教わった。
── おとうちゃん、お酒飲みすぎちがう?なんか訳わからへんこと言いだしたよ。
── 気の毒にお前らには教養がない。それはしゃーない。こういう環境で育ったんやから。せやけどやな。わしらはもともとこんな「見世物」やなかったことくらいはわかるやろ。
── うん! それはわかる。いっつもおかあちゃんとお話してんねん。大陸の山の中の笹の匂いってどんなんやろなーって。
── そや! そやろ! なんぼこんな場所で産まれても、ワシらの血はあの山や林の中の匂いを忘れはせえへんねん。あそこが故郷なんやからな。
── おとうちゃん、ぼくもちょっとだけ白酒のんでいい?
── おお、ええで。人間は20歳にならんと飲んだらあかんそうやけど、わしらはわしらや。せやけどもったいないからあんまりのんだらかんで。おとうちゃんのぶん、残しとくんやで。
── うわっつ。ごっついきつい。匂いもきついな。この酒。
── そこがええんやないか。まだお前には白酒の味はわからんな。お前は発泡酒飲んどけ。
── うんそうするわ。のどが焼けそうや。
── さて、真面目な話やで。わしらはいま「無期限ストライキ」に突入したんや。こまかいことを説明してもお前らにはわからへんやろから、おとうちゃんが簡単に説明したる。ようきくんやで。まず上野とここの扱いが違い過ぎるのはみんなわかるな?
── うん、それはわかる。
── あれはな、日本の中央集権がまねいた結果なんや。考えてみ。ここではおとうちゃんだけでお前ら13頭を育てたんやから、上野の13倍騒がれなおかしいやろ?
── わたしもそない思う。
── 人間の世界はな、「人権」だの「平等」だといいよるけど、結局そうはなってへんいうことや。せやからおとうちゃんは人間に向けて全面的な問いを投げかけたわけや。「動物園に収容されている動物の野生への一時解放期間の要求」はわしらを一時的に「大陸の山にもどせ」いうことや。キリンやシマウマやライオンをアフリカに。ペンギンやイルカやオットセイを海に返せいうことや。
── え!それええやん!大陸の山の匂いだけやなくて、ほんまもんの笹食べたい。山に帰ったら親戚に会えるかな、おとうちゃん?
── さあな。それはわからへん。せやけどお前らでも胸が躍るやろ。大陸の山の匂い。
── うん!帰りたい!
── 「日本の自然動物との交流機会の保障」は日本にも熊や猪、狐や鹿。ようけ自然動物がおる。やつらとわしらは直接おうたことがない。こんな長いこと日本におって、おかしいと思わへんか?
── せやけど熊は肉食やで。狸も狐も。
── わかってるがな。やけど奴らはわしらのことをよう知っとる。実はな、日本の自然動物は「日本自然生物同盟」いう組織を立ち上げたんや。そのことはここに飛んでくるヒヨドリから聞いた。奴らもわしらと接触したがってるそうや。なんせわしらは人間に大人気やからな。
── そんで、日本の動物と話してどうすんの?
── それやがな。「外来種を含めた自然動物と動物園収容動物による意思決定機関の保障」はな、日本の動物だけやなしに、日本に連れてこられたり、入ってきてしもうた連中との連帯や。沖縄のマングースが中心になる。オブザーバーやけどヌートリアやブラックバスも参加する予定になっとる。
── 予定になっとるって、もう準備してるん?
── 白酒取ってくれ。あたりまえや。ヒヨドリをレポ(連絡役)にしてもう連中と話はつけてある。沖縄のマングースとハブは気の毒やで。ハブは毒蛇やさかいに、人間には嫌われた。ハブを駆除するために人間はマングースを沖縄に連れてきた。マングースは蛇が好物やからハブを食わせたかったんやな。ところがそこへ「ヤンバルクイナ」発見や。マングースはハブだけを食うてるわけちゃう。腹が減ったらネズミでも昆虫でも「ヤンバルクイナ」でも食うがな。当たり前やろ。せやのに人間は自然だけやなくレジャーランドでも「ハブとマングースの戦い」ショーをやってキャッキャ言ってよろこんどった。マングースが連れてこられたのは檻の中でハブと「格闘技」するためやない。自然のハブを駆逐させようと人間が考えたのが理由や。それで今何が起きてると思う?
── ハブが全滅したん?
── ちゃう。人間は「ヤンバルクイナ」を守るために「沖縄島の北部(ヤンバル)エリアからマングースを全滅した」いうてる。
── ええ!そんなん勝手すぎるやんか!
── そない思うやろ?それだけやない。「ヤンバルクイナ」で一儲けした人間は、どういうわけか、「ヤンバルクイナ」の宣伝を止めて「イシカワガエル」に看板をかけ替えよったんや。
── なに「イシカワガエル」って?
── 聞いたことないやろ。沖縄の固有種らしい。けども「ヤンバルクイナ」ほどインパクトないわな。わしらと共闘する「日本非人間生物同盟」には「ヤンバルクイナ」も「参加する」言うとる。人間はわしらが「可愛くおとなしい」と思いこんどる。そこや。だからわしらがまず動くんや。わしらには世界のネットワークがあるし、人間の環境主義者との連携も既に模索しとる。
── おとうちゃん、結局なにがしたいの?なにをするの?
── 生物解放や。人間の一元支配から生物解放。人間は人間同士でがんじがらめになってもうどうにもならん。数千年続いてきた人間支配ももう限界にきてるんや。だからわしらが動き出す。もう人間にまかせておかれへんからな。
── なんかわからん。けど、わくわくする。お父ちゃんもうちょっとなら白酒飲んでええよ。
── 言われんでも、もう飲んでるがな。それから内緒やけどこの作戦にはおもろい奴もくわわるで。
── だれ?
── トトロや。

(上記の物語は断るまでもないがフィクションである)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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