今春学生を募集した法科大学院39校の受験者は述べ7258人で、過去最手を更新したことが文科省の集計で判明した。43校が募集し7449人が受験した前年より191人減。今年募集した39校のうち9割にあたる35校が定員割れで、司法試験の合格者の伸び悩みによる法科大学院離れが続いている。

入学定員は募集停止や削減で前年比236人減の2330人だったが、実際の入学者は1621人だった。定員に占める入学者の割合を示す入学定員充足率は69.57%で前年から約3%増えた。

合格者数は延べ3521人で入学者が最も多かったのは東京大学の213人で、慶応大学162人、京都大学158人、早稲田大学136人、中央大学95人、同志社大学44人、立命館大学31人だった。入学者数が定員数を上回ったのは、一橋大学、明治大学、筑波大学、甲南大学の4校で、定員に占める入学者の割合が50%を下回ったのは12校。このうち近畿大学は25%、南山大学は30%にとどまった。(5月15日付京都新聞より抜粋)

◆制度ごと崩壊を迎えている法科大学院

司法改革の目玉であった法科大学院が、いよいよ制度ごとの崩壊を迎えているようだ。導入時には「年間3000人の合格者を出す」と政府が大風呂敷を広げて、2004年法科大学院発足の年には、法学部卒業生72000余人もが大挙して法科大学院を受験した(同年の合格倍率は約13倍)。その背景には法曹界の人材不足と、「将来の需要増を見込んで」との腹積もりが政府にはあった。「将来の需要増」とは米国のように、なにか問題があれば、すぐに解決を司法に委ねる「訴訟社会」の到来であった。

しかし、社会はそのようには変化せず、「毎年3000人の合格者」を出し続ければ、司法試験に合格をした「失業者」をただ生み出すだけであることが判明してきた。そもそも「司法改革」の2本柱であった「法科大学院の導入」と「裁判員制度導入」はいずれも、私の目からは最初から破綻が必至の愚策であり、法科大学院の制度的終焉はごく当然の帰結を目の当たりにしているに過ぎない。

「将来の需要増」の中にはひょっとすると、日米合同委員会の中で米国側からの、要請(圧力があった)可能性も否定できない。ところが、工業製品や知的財産と異なり、司法にかかわる制度や人材(弁護士や弁理士など)の輸出は簡単ではない。日本の弁護士が米国で活動しようと思えば(英語を習得したうえで)、州ごとの試験を受け登録すれば仕事ができるが、米国人弁護士が日本で仕事をしようと思っても、制度もさることながら「日本語」が話せないことには仕事にならないのは、子供でも分かるだろう。「ロースクール」を作ったって法曹界の「非関税障壁」(米国が常に口にする難癖)が取り払われる、ことはなかったし、その必要もなかったのだ。

どう考えても10年そこそこで日本が著しい「訴訟社会」に変化するなど、法務省も、大学も、日弁連も考えてはいなかったであろうに、誰が、こんな愚策を決定したのであろうか。導入されたのは2004年だが、「法科大学院」準備過程は、司法の分野だけでなく各方面での「構造改革」が大手を振るった20世紀終盤から、21世紀初頭であった。この時期に愚策が真顔で進められた事実にも、注意を払う必要であろう。郵便局が民営化され、大手都銀が次々に合併を繰り返し、市町村合併で、とんでもない田舎の村が「市」となり……。

庶民にとっては乱暴で、いったいどんなメリットがあるのか、さっぱりわからない「改革」が分野を問わず横行した。このような「理屈」や「根拠」があやふやである「改革」に、「最高学府」たる大学は、冷静な状況分析を行い、将来予想を個々の大学で実施し、法科大学院の設置を決めた、と信用したいところだが、そうではない。文科省と法務省が号令をかければ“Do not miss the buss”とばかりに、ろくろく需要予想や将来計画も熟考せず、「国が旗を振っているのだから」と乗っかかるのが、悲しくも軽薄な大学の姿であるのだ。

法科大学院一覧(文部科学省資料=2016年2月時点)

法科大学院整備だけで国は1兆円を使ったと言っている。各大学も設置にあたっては相応の投資をしたことだろう。「学生が希望する法曹界への道を作りたい」、こう書けば字面はよいが、その実「予備試験」により法科大学院に進学せずとも司法試験に合格する人が年々増える実態は、個々の大学、または大学が総体として知的劣化に陥っていることを示す。

法科大学院は一般の大学院ではなく、「専門職大学院」と呼ばれる職業を意識した特別な大学院の範疇に入るが、来年度から「専門職大学」制度がスタートする。ここでは詳述しないが、「専門職大学」制度にも法科大学院とは別の深刻な、制度(制度の理念上)の問題を感じる。法科大学院実質破綻の責任や原因究明を当事者は誰も考えていないように見えて仕方がない。その反省があれば「専門職大学」など誕生しなかっただろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

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