平成から令和への代替わり(譲位)をうけて、女性宮家および女性天皇の議論が日程にのぼった。政府は秋口にも国会での議論を行なう予定だという。とくに皇族男子が秋篠宮と悠仁親王、日立宮しかいなくなったことから、女性宮家の創出が現実性を帯びてきている。親善外交や慈善事業など、国事行為や公的行為の担い手が、親王(皇室直系の娘)、女王(皇族の娘)が結婚して皇籍を離脱することで減少する、皇族存続の危機を迎えるからだ。

女性宮家の議論は小泉政権時代に行なわれ、諮問機関から「女性宮家の創出を早急に検討すべき」「女性天皇の実現にむけて議論すべき」と、皇室典範の改定が急務であるとされた。議論は悠仁親王の誕生で沙汰やみとなり、次期天皇が愛子内親王なのか、それとも悠仁親王なのか、議論は尽くされないままの状態だった。第一次安倍政権では女性宮家の議論も封印され、民主党野田政権において議論が復活。さらに第二次安倍政権でふたたび封印されるという流れだった。その安倍総理は、根っからの女性宮家反対論者である。


◎[参考動画]【解説】 なぜ女性は天皇になれないのか(BBC News Japan 2019/4/26公開)

◆皇統の伝統が男系であるという史実誤認

安倍総理は選挙で敗れて下野したあとに「皇室の伝統と断絶した『女系天皇』には、明確に反対である」と「文藝春秋」(2012年2月号)で語っている。

「女性宮家を認めることは、これまで百二十五代続いてきた皇位継承の伝統を根底から覆しかねないのである」「二千年以上にわたって連綿と続いてきた皇室の歴史は、世界に比類のないものである。そして皇位はすべて『男系』によって継承されてきた。その重みを認識するところからまず議論をスタートさせなければならない」「仮に女性宮家を認め、そこに生まれたお子様に皇位継承権を認めた場合、それは『女系』となり、これまでの天皇制の歴史とはまったく異質になってしまうのである。男児が生まれたとしても、それは天皇系の血筋ではなく、女性宮と結婚した男性の血統、ということになるからだ」

女性宮家の創出は、そのまま女系天皇へとつながり、皇統の伝統をおびやかすというのだ。しかし、これは史実を知らない不見識というものだ。

女系天皇が存在する史実は、こうである。天皇にならずに亡くなった草壁皇子の正妻・元明天皇(43代天皇)が譲位して、即位したのが娘の元正女帝である。元正には結婚経験がなく、独身で即位した初めての女帝である。文武天皇の遺児・首皇子(のちに聖武天皇)がまだ幼かったので、母とおなじく中継ぎということになるが、父親が草壁皇子であるから、彼女は男系天皇ではない。皇統史上唯一の女系天皇なのである。そして飛鳥・奈良王朝は、安倍総理の忌み嫌う女帝の時代であった。
女帝は推古・皇極(斉明)・持統・元明・元正・孝謙(称徳)と、六人八代をかぞえる。このうち、孝謙女帝は弟の基王(もとのみこ)が早世したことから、20歳の時に立太子している。皇太子であった女帝は、保守派の言うような「中継ぎ」ではない。事実、孝謙女性は称徳として重祚してもいる。

皇統史上、重祚したのは皇極(斉明)と孝謙(称徳)の二人の女帝だけである。平安期の摂関政治が行なわれるようになるまで、古代王朝においては女帝はふつうのことだったのだ。いや、むしろ律令体制を軌道に乗せた持統女帝、圧政をふるったとされる皇極女帝、たび重なる貴族の叛乱(橘奈良麻呂の乱・恵美押勝の乱)をくぐりながら意志的な仏教政策を推し進めた孝謙女帝という具合に、古代の女帝たちは一流の政治家だったといえよう。神話世界でも神功皇后のように、天皇にかぞえられるほどの辣腕政治家があった。ある意味で、野太い執政をものにしてきたのが古代の女帝たちであり、わが皇室の伝統と言ってもいいのだ。


◎[参考動画]「女性天皇・女系天皇検討すべき」共産・志位委員長(ANNnewsCH 2019/5/9公開)

◆神話を前提にした皇室観のむなしさ

ところで、安倍が言う「百二十五代続いてきた皇位継承の伝統」「二千年以上にわたって連綿と続いてきた皇室の歴史は、世界に比類のないもの」も神話(フィクション)を前提にしたもので噴飯ものだが、そこはお愛嬌と言うべきか。

世界では多数の王朝交代があったとはいえ、エジプトのファラオはクレオパトラ(七世)のプトレマイオス朝まで3000年の歴史を持っている。わが近代皇室が範をとったイギリス王室は、アングリア(イングランド)の王権が8世紀には成立している。ちなみにわが朝における実在の天皇は継体天皇(26代・在位507年~531年)、とされ、その前史でも三輪王朝(崇神天皇)、河内王朝(応神天皇)、近江王朝(継体天皇)など王朝交代があったとする説が有力だ。歴史家(古代オリエント史専攻)だった三笠宮崇仁が、紀元節(建国の日)復活し反対の論陣を張ったのは、まさに神話を歴史にしてしまう愚を批判してのことだった。

◆小室問題で迷走する議論

それはともかく、ここにきて維新の会が女性宮家創出の議論をすることで、秋の国会論戦が展望されている。すなわち「馬場伸幸幹事長は8日の記者会見で、女性皇族が結婚後、宮家を立てて皇室に残り、皇族として活動する『女性宮家』の創設に関する党内議論を開始すると述べた。「『不測の事態に備え、きちんと国会で議論し、皇室典範などの改正が必要であれば、そのような働きかけも行っていかなければならない』と強調した」(産経新聞、5月9日)というのだ。

そこで問題になるのが、眞子内親王と小室氏の「婚約問題」である。眞子内親王が宮家を設けると、小室氏は正規の皇族の一員になるのだ。眞子内親王だけではない。佳子内親王の「個人の幸福を優先する」「姉の意志が尊重されることを希望する」への批判、悠仁親王への「帝王学」の欠如など、秋篠宮家へのバッシングは、女性宮家を何がなんでも阻止しようとする政治的な思惑を感じさせる。

国民の80%が賛成という女性天皇および女性宮家問題に、時代に応じた議論が行なわれなければならないだろう。それはまた、改憲をふくめた国の将来を左右する内容をはらんでいるといえよう。


◎[参考動画]自民・二階幹事長 女性天皇を容認「時代遅れだ」(ANNnewsCH 2016/8/26公開)

▼横山茂彦(よこやま しげひこ)

著述業・雑誌編集者。主な著書に『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『真田一族のナゾ!』『山口組と戦国大名』(サイゾー)など。医療分野の著作も多く、近著は『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)

山田悦子、弓削達ほか編著『唯言(ゆいごん)戦後七十年を越えて』

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