現在、日本の都市部では、街中の至るところに防犯カメラが設置されている。このような状態を「監視社会化が進んでいる」として、嫌う人は少なくない。

だが、私は正直、監視社会化が進む現在の状況をいちがいに否定できないでいる。過去に様々な殺人事件を取材してきた中、「もしも、あの場所に防犯カメラが設置されていれば、防げたのでは……」と思うような事件がいくつも存在したからだ。
ここで紹介する、16歳の少女が殺害された事件もその1つだ。

24時間営業の店が色々ある現場界隈。地下道は「死角」だったようだ

この非常ボタンは事件当時も存在したが、悲劇を防げなかった

◆事件から19年、犯人はいまだ捕まらず

事件は2000年1月20日、広島市の中心部からそう離れていない、西白島町で起きた。現場は、国道下を通る、地下道であった。

被害者の少女は、この日の深夜、タクシーで自宅近くまで帰り、コンビニで買い物をした後、帰宅しようと午前3時50分頃、地下道を利用したとみられている。そしてこの時、何者かに刃物で刺され、生命を奪われたのだ。

現場の地下道周辺は、少女が買い物をしたコンビニのほか、ファミレスやファーストフードショップが24時間営業している。そんな中、地下道はまさに「死角」になっていたようだ。

事件から今年1月で19年を迎えたが、犯人はいまだ捕まらず、未解決。広島県警はホームページで情報提供を呼びかけ続けている。

事件後、現場の地下道に設置された防犯カメラ

◆事件後、市は11の地下道に防犯カメラを設置

もっとも、そんな事件の現場を訪ねると、今は地下道の数カ所に、存在感のある防犯カメラが設置され、まさに通行人たちを睨みつけているような様相だ。そこで、広島市に問い合わせてみたところ、この事件が起きたのち、この地下道を含む市内の11の地下道に防犯カメラを設置したのだという。

そのおかげか、この事件が起きてから20年近くになるが、広島市内の地下道で新たに重大な事件が起きたという話は聞かない。それはすなわち、防犯カメラが市民の安全に寄与しているということだ。

そして裏返せば、この事件が起きた2000年1月の時点で、現場の地下道に今のように防犯カメラが設置されていれば、16歳の少女は生命を奪われずに済んだかもしれないということだ。

彼女が今も生きていれば、30代半ばという年齢だ。結婚し、子どもにも恵まれ、幸せな家庭を築いていたかもしれない。

殺人事件を色々取材していると、こういうケースにめぐりあうことは少なくない。だから、私は正直、監視社会化を否定できないでいる。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。新刊『平成監獄面会記 重大殺人犯7人と1人のリアル』(笠倉出版社)が発売中。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)