先日、ある死刑被告人に面会取材するために東京拘置所を訪ねたところ、不可解な出来事があった。施設に入る際、待機していた職員に「弁護士か否か」を確認され、「違う」と答えたら、「新型コロナウイルス対策の検温に協力して欲しい」と求められたのだ。

このご時世、もちろん検温には応じたが、疑問が残った。刑事施設はどこも平時から、弁護士の面会については、手荷物検査を免除したり、面会時間を長くしたりと、様々な点で一般の面会と扱いが異なるが、それらはすべて被収容者の権利擁護のためだと理解できる。しかし、新型コロナウイルス対策の検温について、弁護士とその他の来訪者を区別する必要は何かあるだろうか?

その職員は、「上から、そうするように言われたんです……弁護士の方は、弁護士会で徹底するそうです」と説明したが、ますます意味がわからない。弁護士会が所属弁護士に対し、新型コロナウイルスに感染しないことや、感染した場合に拘置所や刑務所で感染を拡大させないことを徹底できるはずがないからだ。

実際、他地区の弁護士によると、東京拘置所以外の刑事施設では、弁護士もその他の来訪者同様、入場前に検温をされている例もあるという。

◆弁護士に対する検査は「入場後」に行っていた……

そこで、なぜ、弁護士には入場前の検温を要請しないのかについて、東京拘置所に正式に取材を申し入れた。すると、総務部の職員から電話で次のような回答があった。

「弁護士の方については、拘置所内にある弁護士専用の待合室に入ってから、サーモグラフィーカメラで検査させてもらっています。そのうえで必要があれば、検温もさせてもらっています。ただ、このような対策を始めてから、弁護士の方が検温で発熱が確認された例はありません。一般の方は、発熱が確認された方がこれまでに1人いて、入場をお断りしましたが」

入場前の検温が弁護士だけは免除されている東京拘置所

東京拘置所は元々、弁護士とそれ以外の来訪者では、面会の受付窓口も待合室も別々になっている。それゆえに検温をする場所も違うということのようだ。ただ、弁護士だけは検温をせず、拘置所の建物内に入れていることに変わりはなく、それが新型コロナウイルス対策として適切と言えるかは疑問だ。

では、もしも今後、弁護士が専用の待合室に入ってからの検査で発熱が確認されることがあったらどうするのか? その点も質問したところ、その総務部の職員の回答は歯切れが悪かった。

「実際にそうなってみないとわかりませんが……その場合、入場をお断りするというより、入場しないようにお願いすることになるかもしれません。あくまでお願いベースだと思います」

拘置所や刑務所は現在のコロナ禍において、クラスターの発生が最も恐れられている場所の1つだ。しかし一方で弁護士の面会については、下手に制限すれば、弁護士や被収容者から反発され、面倒な事態になりかねない。この総務部の職員の話しぶりからは、東京拘置所がそのあたりのバランスに苦慮している様子が窺えた。

実際問題、全国各地の刑事施設で職員や被収容者が新型コロナウイルスに感染したというニュースがぽつぽつと報じられている。他ならぬ東京拘置所でもすでに被収容者の感染例が確認されている。「弁護士も入場前に検温しておけばよかった」という事態にならないように願いたい。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。原作を手がけた『マンガ「獄中面会物語」』【分冊版】第11話・筒井郷太編(画・塚原洋一/笠倉出版社)がネットショップで配信中。

月刊『紙の爆弾』2020年9月号【特集】新型コロナ 安倍「無策」の理由

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)