前編に引き続き、後編は安倍政権の具体的な“犯歴”を列挙するのが目的である。

安倍政権がこれまで進めてきた日本破壊活動を、人体になぞらえて「血栓」(血管内にできる血の塊)と表現している。

第一の血栓を“イデオロギー系”とすれば、第二の血栓は“現世利益系”で、忖度や汚職に関係する分野である。

第一の血栓は、安倍自民党政権の好戦的で全体主義的な体質の起源である尊王攘夷思想。この思想にもとづいて明治国家はつくられ、第二次大戦の敗戦を招いた。そして、戦後も続いていることが、日本にとっての血栓(危険因子)だと前編で指摘した。

第二次大戦で彼らが復活していることは前編で指摘したが、それでも第二次大戦後は新しい憲法ができて、まがりなりにも日本は民主体制への道を歩みだした。

安倍政権とその支持者らにとっては、この日本国憲法体制=戦後レジームはとんでもないもので、少しでもかつての長州レジーム(エセ尊王攘夷体制)を復活させたいと彼らは意識的あるいは無意識的に考えているのではないだろうか。

「戦後レジームからの脱却」などと安倍首相は言い始めた。まさに第一の血栓を象徴する表現だが、実際にやったことを挙げる前に、まずは基本体質を明示する出来事を振り返ってみよう。

安倍退陣を求める大規模デモは何度も起きていた。写真は2018年4月、国会議事堂前

◆体質を表す失言(本音)

「こんな人たちに負けられない」

安倍政権転落の歴史的発言だ。2017年都議選最終日に東京秋葉原で、安倍辞めろコールをする人々に対しムキになって口(本音)を滑らせた。国民を分断させる総理の本質が、ひと言でわかってしまった歴史的発言だ。

「マスコミを懲らしめる」

失言の多さから“魔の自民党二回生”と言われる一群の人たちがいる。大西英男議員もその一人。勉強会「文化芸術懇話会」で、大西英男議員は「マスコミを懲らしめるには、広告料収入がなくなるのが一番」とぶち上げた。あからさまな報道圧力だが、その後も反省する気配はない。

安倍晋三氏は、メディアを恫喝するのが大好きである。2001年10月30日にNHKが放送したETV特集シリーズ「戦争をどう裁くか」の第2夜「問われる戦時性暴力」で、慰安婦問題などを扱う民衆法定について放映した。放映前から、経済産業省・故中川昭一と、当時は副官房長官だった安倍晋三が番組に圧力をかけたとされる事件が有名だ。

「治安維持法は適法に運用された」

共謀罪法案が焦点になっていた17年5月2日の衆院法務委員会で、畑野君枝衆議院議員が治安維持法犠牲者の救済と名誉回復について質問し、金田勝利法相が答弁したもの。安倍自民政権の本質を表している。法手続きもデタラメに運用して国民を弾圧した治安維持法の運用を適法と考える安倍政権が共謀罪を強行成立させたのは悪夢としか言いようがない。

「(自民党候補の応援を)自衛隊としてお願いしたい」

安倍首相の秘蔵っ子、不祥事と失言連発の稲田朋美防衛大臣の発言だ。自民党が歴史的大敗を喫した17年都議会議員選挙の最中、自民党候補を応援する集会で「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としても、お願いしたいと思っているところだ」と訴えた。実力組織である自衛隊を政治利用するもので、ありえない発言。安倍首相は彼女を罷免もしなければ強い叱責もしなかった。

◆“尊攘派”が喜ぶトンデモ法の数々

基本的な「安倍エセ尊攘派政権」の体質を踏まえたところで、具体的に犯した重要案件をピックアップする。

特定秘密保護法

権力者たちが失政や不正を隠すために作った法律である。「秘密は秘密」なので何が秘密か一般人にわからないため、何をしたら逮捕されるのかわからない。特定秘密を洩らせば最高懲役10年という重刑だ。

「記憶にございません」「記録は破棄しました」などという政治家や官僚の答弁を“合法化”した悪法と言えよう。それは特定秘密に指定されています、といえば何で通ってしまう。

しかも、委員会では怒号が飛び交い与野党議員が議長席に詰めかける中、議長の発言も聞き取れず正式な記録も採れず、採決もどきをしただけで本会議に回して強行採決した。まったく非合法にでっちあげたのが特定秘密保護法。この悪しきパターンがこれ以降、国会の日常風景となった。

集団的自衛権の行使容認の閣議決定

他国のために軍事行動をとるのが集団的自衛権だ。歴代自民党政権は、自衛
隊の目的を専守防衛としてきたが、2014年7月1日に集団的自衛権の行使容認を閣議決定した。本来、憲法を改正しなければならないにも関わらず、20人に満たない閣僚たちによって“無血クーデター”がなされたに等しい。

安保関連法制の強行採決

集団的自衛権の行使とセットになった11本の法律から成り立ち、一つひとつ慎重審議すべき内容なのに、一本にまとめて審議を進める乱暴さだった。世界中どこにでも自衛隊を派遣できることになってしまい、さすがに危ないと思った人たちが国会に押し寄せ、大きな社会運動が起きた。

しかし、またしても強行採決。与野党対決法案を片っ端から強行採決する独裁ぶりを示したといえよう。この安保法制を成立・運用するためには情報を統制し、反対者を排除しなければならない。そのための秘密保護法、盗聴法拡大、共謀罪だ。

沖縄の新基地建設問題

安保関連法や共謀罪法の最先端に立たされているのが沖縄である。工事を強行し、反対者を逮捕。なかでも、沖縄平和運動センターの山城博治議長が抗議活動中に逮捕されて長期間拘束されたことに関し、共謀罪の先取りではないかと批判の声があがった。

このほか、県外からも大量の機動隊員を沖縄に導入し、機動隊員が「土人」発言で問題になった。近隣諸国には居丈高で好戦的対応をし、国民には抑圧的態度、その一方で宗主国に対しては靴底をなめるようなドレイぶり。

これこそまさに江戸時代末期から台頭した“尊攘派”の特徴を示す。

共謀罪、刑訴法&盗聴法改悪

しゃにむに戦争体制準備体制の確立に向かって暴走してきた安倍政権。2016年5月には、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」を成立させた。同法をわかりやすく表現すると、盗聴の対象を大幅に拡大し、司法取引の導入、法定での匿名証人を認めるなど、その後に成立した共謀罪への橋頭保ともいえるものだった。

これに共謀罪法が加わると、将来共謀罪法の対象に全部盗聴できるようにするなどが心配である。そうなったら超監視社会になってしまう。
  
極め付きは、2018年6月の共謀罪法の強行採決だ。委員会での審議も終わらないのに本会議で中間報告という形を悪用して強行採決してしまい、さっそく2018年7月11日から施行されている。

犯罪を実行していないのに逮捕を含む強制捜査をするからたまらない。何よりも、具体的に何をどうすれば共謀(犯罪の計画)にあたるのかほとんどの人がわからないところが危険だ。

一連の治安立法は、権力者の失政と不祥事を隠し、反対者を弾圧するために不可欠のものである。安倍政権にサヨナラした後にまっさきに実行すべきは、共謀罪法などのトンデモ法の一括廃止法案を可決することだろう。

◆第二の「血栓」汚職系

尊王攘夷的発想を土台とする第一の血栓につづいて、第二の血栓だ。これは汚職やデータ改ざんなどに関係する。もっとも、第一と第二は連動しているが。

森友学園問題

安倍昭恵夫人が名誉校長を務めていた森友学園運営の「瑞穂の國記念小学院」開校のために国有地を格安で払い下げ。値引きの理由だった地下に埋まっているゴミがもともとほとんどなかったことが判明した。

昭恵夫人から「安倍晋三からです」と100万円受け取ったと籠池泰典・森友学園前理事長は証言した。同学園は、過去に「安倍晋三記念小学校」の名目で寄付が募られていた。

安倍総理は。「私や妻が関わっているなら総理も国会議員も辞める」と2017年2月17日の衆院予算委員会で、民進党の福島伸享氏への答弁で明らかにした。関与は明らかも総理も議員も辞めず、昭恵夫人の証人喚問も拒否。

この事件をめぐっては、複数の死者が出ている。

加計学園事件

総理の親友である加計孝太郎氏が理事長を務める学校法人・加計学園。その岡山理科大学の獣医学部新設をめぐる事件である。安倍氏の「ご意向」で新学部の設立が認められたというものだ。

一切かかわりないということだったのに、「総理のご意向」なる文書の存在が明らかになり、「文書は間違いなく存在し官邸からの働きかけがあった」と文科省前事務次官の前川喜平氏が証言して大問題に。その後も、関与したとする証拠が出てきているにもかかわらず、責任を認めない。

河合克行・杏里夫妻事件

前法相の河井克行衆院議員と妻・案里参院議員が公職選挙法違反(買収)容疑で逮捕された事件だ。
 
2019年夏の参院選で、河井案里容疑者の陣営に自民党本部から支出された1億5000万円と、買収容疑がポイントである。

もちろん、自民党本部が買収目的で1億5000万円の資金を提供しているのなら、党総裁である安倍晋三氏の刑事責任が問われる可能性が高い。

そもそも自民党内で決して重鎮ではない河合案里氏に1億5000万円もの巨額資金を党本部が拠出したこと自体、普通ではない。

以上、「安倍さんがんばった」というバカコメントに代表されるような一部の風潮に対して、安倍政権が何をしたか前編と後編わけて記録した。

安倍政権とその追随者たちによって、血管のあちこちに血栓ができ、日本は危険な状態である。

いまなすべきは、体中にできた血栓を溶かすための地道で確実な作業ではないだろうか。

▼林 克明(はやし・まさあき)
 
ジャーナリスト。チェチェン戦争のルポ『カフカスの小さな国』で第3回小学館ノンフィクション賞優秀賞、『ジャーナリストの誕生』で第9回週刊金曜日ルポルタージュ大賞受賞。最近は労働問題、国賠訴訟、新党結成の動きなどを取材している。『秘密保護法 社会はどう変わるのか』(共著、集英社新書)、『ブラック大学早稲田』(同時代社)、『トヨタの闇』(共著、ちくま文庫)、写真集『チェチェン 屈せざる人々』(岩波書店)、『不当逮捕─築地警察交通取締りの罠」(同時代社)ほか。林克明twitter

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