新聞・広告関係者が新聞に折り折り込んで配布する広報紙や選挙公報を水増し発注させて、不正な折込手数料を得ている実態が、水面下の問題になっている。この詐欺的な手口は、何の制裁を受けることもなく続いてきた。新聞・広告関係者は、「知らぬ」「感知していない」で押し通りしてきた。

千葉県流山市の大野富生議員(NHK党)は、この問題について千葉県全域を対象に調査した。千葉県選挙管理委員会に対して情報公開請求を行ったのだ。請求した資料は、2019年7月21日に施行された参議院通常選挙の際に、千葉県選挙管理委員会が委託した選挙公報の新聞折り込み部数(委託部数)である。

請求を受けて千葉県は、折込委託部数が1,769,824部だったとする資料を公開した。ここから不正疑惑が深まった。

と、いうのも同じ時期の千葉県のABC部数は、1,562,908部しかなかったからだ。新聞折り込みを行っていない四街道市(22,515部)と白井市(13,737部)のABC部数を除くと、1,526,656部しかない。

ちなみにABC部数は新聞社が販売店に搬入している部数である。この部数に、千葉日報(ABC協会の非会員)の公称部数、約145,000部を加えると、千葉県下における新聞部数は、総計で1,671,656部ということになる。

以上のデータをまとめたのが次の表である。

千葉県下における新聞部数

上表から分かるように98,168部が水増しされた計算になる。しかし、これは新聞販売店に「押し紙」(広義の残紙)が1部も存在しないことを前提とした水増しの実態である。「押し紙」が存在すればこの限りではない。そして千葉県にも「押し紙」が存在する可能性は極めて高い。たとえば、過去に毎日新聞社と産経新聞社を被告とした「押し紙」裁判が提起され、このうち毎日新聞社は、推定で3500万円の和解金を支払わされている。産経新聞の場合は、「押し紙」による損害賠償は認められなかったが、新聞が過剰に搬入されていたこと自体は認めた。

水増しの程度は、98,000部程度ではすまない可能性が高い。

◆流山市、2016年から5年にわたり広報紙の搬入部数をロック

大野議員は、流山市議会でこの問題を今年の2月から3度にわたって質問してきた。新聞のABC部数が全市で36,836部(2020年4月時点)しかないのに、新聞販売店には55,238部の『広報ながれやま』が搬入されていた。この搬入部数は、2016年(平成28年)11月に設定され、今年になって改定されたが、後述するように、依然として水増し状態になっている可能性が高い。

流山市の言い分は、隣接の自治体から流山市へ新聞を配達している販売店があるので、流山市のABC部数と流山市民が必要とする折込媒体の部数は必ずしも一致しないというものである。それが広報紙の部数が、ABC部数を大きく上回っている理由だという。また、市と販売店の間に広告代理店が介在しているので、市が直接販売店を調査することはできないとも言い訳をしている。

◆流山市選挙管理委員会の取材

12月3日、わたしは流山市の選挙管理委員会を取材した。2021年10月31日に投開票された衆議院議員選挙で、広告代理店を通じて新聞販売店に委託した選挙公報の部数を尋ねた。それによると、委託部数は、56,000部だった。

対応した職員は、委託部数だけではなく、実際に折り込まれた部数も教えてくれた。それは51,228部だった。わたしは後者のデータが存在することは知らなかった。この数字は、広告代理店からの報告部数である可能性が高い。流山市のデータを、ABC部数も含めてまとめると次のようになる。

流山市のABC部数、委託部数、実折込部数、廃棄部数

このデータから、流山市だけで約4800部の選挙公報が廃棄されたことになる。2019年の参院選でも、2021年の衆院選でも、選挙公報の水増しが行われた可能性が高い。

◆新聞部数のロック、朝日新聞と東京新聞で頻繁に

念のために、わたしは流山市の新聞社別のABC部数の変遷を調べてみた。すると部数がロックされる現象が頻繁に起きていることが分かった。「部数のロック」とは、新聞社が販売店に搬入する新聞の部数を一定期間にわたって固定することである。新聞社が販売店に対して課すノルマ政策である。ノルマ政策の下では、新聞の購読者が減っても、新聞の搬入部数がロックされているわけだから、減紙部数がそのまま「押し紙」になる。当然、折込媒体の水増し状態は解消されない。むしろ悪化する。

次に示すのが、流山市における各新聞社のロックの実態である。

流山市における各新聞社のロックの実態

最も頻繁にロックが観察されるのは、朝日新聞と東京新聞である。

筆者は今年に入ってから、全国の地方自治体を対象にロックの実態調査をしている。そこから浮かび上がってきたデータにより、多くの新聞社が販売政策としてロックを行っている可能性が高いことが判明した。当然、広報紙や選挙公報はいうまでもなく、一般企業の折込広告も水増し割合が上がっている可能性がある。

参考までに大阪府堺市における読売新聞の例を紹介しておこう。

大阪府堺市における読売新聞の部数推移

このデータの初出は、次の記事である。

大阪府の広報紙『府政だより』、10万部を水増し、印刷は毎日新聞社系の高速オフセット、堺市で「押し紙」の調査 

「押し紙」問題は、新聞業界内部の問題だが、折込媒体の水増し問題は、一般広告主や地方自治体を巻き込むことがあるのだ。それを公権力が逆手に取ると、公権力によるメディアコントロール(世論誘導)も可能になるのである。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

12月7日発売! タブーなきラディカルスキャンダルマガジン『紙の爆弾』2022年1月号!

〈原発なき社会〉を求めて『NO NUKES voice』vol.30(紙の爆弾 2022年1月号増刊)

『紙の爆弾』『NO NUKES voice』今こそ鹿砦社の雑誌を定期購読で!