制御力を失った電車は、軌道があっても止まることを知らず線路が果てるまであるいは、停車中の車両や車止めにぶつかるまで暴走します。しかし、電車の暴走事故は軌道から離れた環境にはさして大きな損害を与えません。

他方、軌道上の走行や移動を想定していない交通手段の故障は、予想できない範囲に及びます。航空機が操縦不能に陥ると、いかなる角度に向かって飛んでゆくか想定は困難です。墜落の局面でもどこに堕ちるのか不明ですし、見方を変えればどこが「墜落被害」を被るのかも想定できません。

それでも「墜落被害」は多くの場合、一国を滅ぼすような甚大なものではなく地域に限られるでしょう。「電車の制御力不能」や「航空機の操縦不能」は操縦者や乗客さらには追突される電車や墜落地で巻き添えを食らう人々に、甚大な恐怖感と生命の危機を強いる点で共通項を見出すことができますが、わたしたちの暮らす実時間、2023年春はそれらの被害や恐怖をはるかに凌駕する、軌道も操縦も失った大暴走の時代だと言わねばなりません。

愚劣な政治家(不幸にも現時点で総理大臣)岸田文雄は、選挙や国会での審議なしに原発運転の期間を60年以上に延ばすことを勝手に決めました。この国ではいつから「閣議決定」さえあれば、従前の法律や憲法の解釈変更が可能になったのでしょうか。日本は法治国家などではなく、明らかな「無法地帯」以外のなにものでもない、この残念な現実を岸田はさらに強力に証明することに血道を上げているようです。

原発の60年超え運転だけで満足せず、原発の新増設や新型原発の開発まで、真顔で語り始めています。危険で非効率極まりなく実現可能性のない戯言を堂々の宣うことにより、岸田は狂気時代の先頭走者として「破滅が必定」な地へ向け暴走を続けています。岸田並びにそれに与する議論には、なんの科学意的根拠、論理性、倫理性そしてあえて付言すれば経済性の欠片もありません。究極的とも言える「暴論の暴走」です。

本誌は岸田が繰り広げる暴論とは真逆の地に立っています。岸田の虚言と正反対の地平に真実があることを本誌(われわれ)は知っているだけではなく経験しました。冷静な判断能力の持ち主にとって原発は「必ず事故を起こす。事故が起きれば制御できない」構造物であることは明白です。原発はいったん事故が起きれば「軌道」がなく、人間が制御できるものではないことを、この国に住むひとびとは僅か12年前に福島で経験したではないですか。78年前には兵器(原爆)として広島と長崎で凄惨極まる被害を受けたではないですか。その広島の地が生み出した政治家、岸田により原発・原爆被害の事実と歴史が見事に踏みつぶされています。

季節は移ろいますが本誌は反原発・反核兵器から絶対に、1ミリも後退しません。岸田に象徴される反理性を、思想と事実において撃滅せしめる地平を切り拓こうではありませんか。

3月10日発売 『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

——————————————————————–
福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
——————————————————————–

鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
反原発川柳(乱鬼龍選)


◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0BX927CLY/

「よって原発の運転は許されない」……(龍一郎揮毫)

私たちは唯一の脱原発雑誌『季節』を応援しています!

新聞を情報入手の発信源として、毎日目を通す必要があるのかどうか。年々新聞に対するわたしの不信感と嫌悪感が増してはいるのであるが、それでも漫然と新聞購読は続けている。記事の5割以上に「なに言っているんだ!」と内心舌打ちするのは、毎朝のいわばルーティーンで、ときに堪忍袋の緒が切れる。加齢によって堪え性が減じる兆候であろうか。

花粉症でただでも鬱陶しいこの季節に、またしても度し難い文言が目に入ってきた。今次は新聞記事ではなく、経済産業省の広告である。

「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と、促されたので、考えた。でも、考えても、考えても、わたしの知識からは広告全体が伝えようとしているメッセージにどうしても得心がゆかない。

広告は、

Q.ALPS処理水って何?
A.東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性を含む水について、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです。トリチウムについても安全基準を満たすよう、処分する前に海水で大幅に薄めます。

といった体裁で、QアンドAは上記を含め4つある。ちょっとでも原発問題に関わっている人間には、アホらし過ぎて反論する気も失せる虚偽だらけだ。しかしこの広告は経済産業省つまり国がわれわれの税金を使って新聞に掲載している。少ないながらも納税者であるわたしにも、ことの真相を問いただす権利はあろうし、国が悪化な嘘を吹聴していることを問いだす責任があろう。

そこで経産省傘下資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室(電話:03-3580-3051)に「考えよう」と指示された内容を教えてもらうために電話をかけた。

以下はその内容であるが、やり取りには重複や会話特有の不明点があるのでその箇所は適宜修正している。

◆「安全だ」とは書いていないけれども、汚染水は「安全」だと理解してもよいのでしょうか?

田所  恐れ入ります。新聞に「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と広告が出ていました。そのことについてお尋ねするのはこちらでよろしいですか。

対応者 内容によって変わってくるかと思うんですけれども、一応こちらでお伺いできればと思います。

田所  「みんなで知ろう。考えよう。ALPS処理水のこと」と書かれた広告のことですが「海に流して大丈夫? 本当に安全?」とQ(質問)に書かれていてA(回答)に「安全確保に万全を期します」と答えで書かれています。この広告によれば汚染水が「安全」だと理解していいのでしょうか。

対応者 そうですね。ここに書かせていただいている通りのことですけれども。

田所  「安全確保に万全を期します」と書いてあるけれども「安全」とは書かれていないのですね。

対応者 はいはい。

田所  「安全確保に万全期す」とはたとえば火災の場合でも、「万全を期して」防火しても火事が起きたら「安全」ではなかったと結論づけられます。

対応者 はい。

田所  「安全だ」とは書いていないけれども汚染水は「安全」だと理解してもよいのでしょうか。

対応者 その前半部に環境や人体の影響を書かせていただいているので……

◆処理水の7割は法令以上に汚染されている。なのになぜ安全と言えるのですか?

田所  Q&A(質問・回答)が4つ掲載されています。質問は「ALPS処理水って何?」、「なぜ、ALPS処理水の処分が必要なの?」、「海に流して大丈夫?本当に安全?」、「もっと詳しい情報は何処で確認できるの?」です。ですからお尋ねしているのですが、「処理水は安全」であるのが間違いはない、ということですね。

対応者 そうですね。充分希釈して放出することは図って頂いていることですので。

田所  希釈というのは何を希釈するのですか。

対応者 放出する物質を海洋放出するものを希釈させていただくということになっておりますので。

田所  希釈、は何か物質を希釈する訳ですね。

対応者 ALPS処理水ですね。

田所  汚染水を希釈しているから、大丈夫だと。

対応者 そ、そういうことになります。

田所  「トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化した水のことです」と書かれていますけれども、トリチウムは安全基準まで下がっていないということですか。

対応者 その下に書かせていただいている通り、トリチウムについても充分に希釈して、その前に希釈して。

田所  トリチウム以外のものは全部取り除けているということですか。

対応者 安全基準を満たすまで浄化しておりますね。

田所  わたしが知る限り、トリチウム以外の汚染濃度が法令基準以下に下がっているのは、汚染数い総量の30%だけでしょ。

対応者 しかし、その30%、えっと70%、70%は再度二次処理を済ませて同じようなところに……。

田所  だから、安全基準内に落ちているのは30%だけなのではないですか。

対応者 いえいえ。放出する際には全部。

田所  現在放出ができる基準の値まで下りているのは貯めている汚染水全体の30%だけではないですか。

対応者 現在の話ですね。

田所  そうです。

対応者 そうですね。

田所  そうでしょ。ということは「ALPS処理水が安全だ」というのは事実とは違うじゃないですか。安全基準を満たさない残りの70%も一応ALPSで処理したのでしょ。

対応者 そうですね。それを再度浄化して。

田所  あなたは「ALPS処理水は安全で間違いないですか」とわたしがお尋ねしたら「安全で間違いない」と先ほどおっしゃいましたね。

対応者 はい。

田所  でも汚染水の30%だけがトリチウムを除く規準が法定以下に落ちているだけであって、70%は法定基準の汚染のまま残っているということですね。

対応者 はい。

田所  そうであれば汚染水は「安全」ではないのではないですか。

対応者 (無言)

田所  いかがですか。

対応者 どこをもって「安全」とするかについては、放出の際に関してはすべて同じく処理させて頂きますので。

田所  では当面放出するのは汚染水の30%だけですか。

対応者 はい、はい、はい。(その後長い沈黙)

田所  この広告では「ALPS処理水」と書いてありますが、今の説明を伺うと「ALPS処理水」が安全なものと勘違いしますね。

対応者 はい、はい、はい。

田所  トリチウムを除いて法令基準以下に出来ているものは30%だけなのですね。

対応者 現在のALPSでは3割になるんですけれども。

田所  現在のALPSではなく、一度使った水、汚れている水で法令基準値以下に値が下げられているものは3割以下ということですね。

対応者 はい、はい、はい。

田所  7割は法令基準値以上だから、流すことは出来ないわけでしょ。

対応者 はい、そうですね。そのままでは流せません。

田所  でもそのような汚染水も「ALPS処理水」と呼んでいるのではないですか。

対応者 そうですね、そこについてちょっと担当に……。

田所  これは専門的な内容ではなく、新聞に載っている広告です。わたしたちのように素人が見るものです。そこに「みんなで知ろう。考えよう。」と書かれているからわたしも「知ろう。考えよう。」と思って聞いているの。

対応者 はい。

田所  安全ですかとお尋ねしたら、「安全です」とおっしゃるので、法令基準値以上なのに、なぜ安全なのですか、とお尋ねしているのです。

対応者 放出する際のというところになるかと思います。

田所  この広告のどこに書いてありますか。

対応者 (長い沈黙のあと)「処分する前に海水で大幅に薄めます」というところになると思います。

田所  ん? でも「ALPS処理水のこと」と書いてあるけども、ALPS処理水には、法令基準値以上に汚染された70%以上のものを含むわけでしょ。

対応者 はい。

田所  それでは安全ではないものを含んでいるじゃないですか。

対応者 はい、はい。

田所  それどころか7割がたは安全ではないもの、じゃないですか。

対応者 (沈黙)

田所  今教えていただいた内容によれば、7割は法令以上に汚染されている。なのになぜ安全と言えるのですか。国が。

対応者 (沈黙)

◆「嘘も百回言えば本当になる」

田所  ダイオキシンの濃度は現在は規制されていますね。ダイオキシンを出す焼却炉は、今使えませんよね。でも同様に法令違反なのにALPS処理水と書かれているものが、あたかも安全かのように誤解しそうです。それでも安全とおっしゃるのですか。

対応者 そうですね。

田所  ALPS処理水はこれから海に流そうとしている汚染水だけではなく。タンクに溜まっている汚染水も含みますね。

対応者 はい、はい。

田所  その中にはトリチウム以外の核種が、いまだに法令基準をはるかに上回る濃度で入っている汚染水も含まれますね。

対応者 はい。

田所  それは安全ですか。

対応者 そのもの自体に関しては、安全じゃないと思います。

田所  でも、そのもの自体についても「ALPS処理水」と呼ぶのでしょ。

対応者 はい、はい。

田所  それでは「ALPS処理水は安全だ」という論は立たないのではないですか。

対応者 はい。そういったご意見があったことについては……。

田所  意見ではありません。客観的事実をお尋ねしている。「ALPS処理水は安全だ」と最初に教えて頂いたのですが、お尋ねしているうちに「ALPS処理水の7割は法令基準値を超える核種が含まれている」と言われた。であればそれは法令基準以上だから安全と呼ぶ対象にはならないのではないですかと。わたしは意見ではなく聞いているんです。

対応者 ちょっと確認させて頂きたいと思います。

国はあらゆる手を使って国民を騙し、不都合な事柄は「無かったことにしよう」と税金を使い宣伝する。残念なことにアドルフ・ヒトラーによる「嘘も百回言えば本当になる」との権力者発信情報の特質は、依然として有効だ。だからわたしたちは日々、少々面倒くさくても、情報の取捨選択や、偽り情報を流す者に対しての忠告を怠ってはならないのだろう。

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

3月10日発売 『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


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季節 2023年春号
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      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
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福島第一原発事故 12年後の想い
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私たちが何をしたというのか
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病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

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再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
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《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
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《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
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『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
反原発川柳(乱鬼龍選)

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「よって原発の運転は許されない」……(龍一郎揮毫)

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事実を裏付ける資料は、報道に不可欠な要素のひとつである。新聞や雑誌などの紙媒体はスペースに制限があるので、資料を全面公開するには物理的な限界があるが、インターネット・メディアには限界がない。この当たり前の原理を最も有効に生かしたメディアは、恐らくジュリアン・アサンジが設立したウィキリークスではないか。生の資料を公開することで、記事の記述の裏付けを提示している。

先日、筆者は読売新聞販売店の元店長から、膨大な量の内部資料を入手した。その中で注目した資料のひとつに、古紙回収業者が販売店に発行した伝票がある。そこには業者が回収した残紙量と折込広告の量が明記されている。

残紙の実態は、「押し紙」裁判などを通じて、かなり明らかになってきたが、水増しされ、廃棄される折込広告の数量が伝票上で明らかになったのは、筆者の取材歴の中では今回が初めてである。抜き打ち的に伝票を写真付きで紹介しよう。

◆過剰になった折込広告を裏付ける伝票

まず伝票で使われている用語について事前に説明しておこう。「残新聞」とは残紙(広義の「押し紙」)のことである。「色上」とは、折込広告の事である。年月日の表記は、元号で表記されている。従って本稿でも例外的に元号を使用する。ただし(括弧)内に正規の年月日を示した。

元店長によると、古紙回収業者は月に2回から3回、残紙と折込広告を回収していたという。

■平成27(2015年)年8月26日
残新聞:6480kg
色上(折込広告):1210Kg

■平成28年(2016年)11月21日
残新聞:7320kg
色上:1250Kg

■平成30年(2018年)7月5日
残新聞:7010kg
色上:810Kg

水増しされ、廃棄される折込広告の数量が記された3通の伝票

◆折込広告の水増しの背景

折込広告が水増し状態になる背景には、残紙の存在がある。残紙とは、広義の「押し紙」、あるいは「積み紙」のことである。広告代理店が販売店に割り当てる折込広告の枚数(折込定数)は、新聞の搬入部数に一致させる基本原則がある。そのために搬入部数に残紙が含まれていても、残紙分の折込広告がセットになってくる。その結果、折込広告の水増しが生ずるのだ。

もっとも最近は、残紙問題を知っている広告主が多く、折込広告を発注する段階で、自主的にABC部数よりも少ない数量に折込枚数を調整することが多い。それにもかかわらず折込広告が水増し状態になるケースが少なからずある。

今回、紹介した3通の伝票を見る限り、残紙の量と過剰になった折込広告の量がアンバランスになっている。大野新聞店は新聞代金が納金できなくなり、廃業に追い込まれており、従って折込広告を過剰に受注していたとはいえ、それによる利益よりも、残紙による被害額の方が大きかった可能性が高い。

◆「押し紙」問題と折込広告の水増し問題
 
従来、「押し紙」問題といえば、新聞業界内部の商取引の問題として認識されてきたが、折込広告の水増し問題が絡んでくると、業界の境界を超える。しかし、「押し紙」裁判で、広告主が受ける被害について徹底した審理が行われることはあまりない。裁判の争点が、新聞社と販売店の商取引に限定されるからだ。

しかし、折込広告の水増し問題を放置し続ければ、広告主が被害を被る状況が延々と続く。公正取引委員会も、裁判所もそれを承知の上で、新聞社の「押し紙」政策を容認してきた経緯がある。新聞業界の汚点を逆手に取れば、メディアコントロールが容易になるからだ。

次に示すYouTube動画は、山陽新聞の元店主が撮影したものである。新聞販売店の店舗から搬出されてトラックに積み込まれる段ボール箱の中には、残紙と水増しされて過剰になった折込広告が入っている。

段ボールは「親会社」から提供されていたという。

動画を撮影した店主は、山陽新聞の販売会社を相手に「押し紙」裁判を起こし勝訴(2011年3月15日、岡山地裁)した経緯がある。判決の中で裁判所が折込広告の水増し行為を認定したわけではないが、この事件が折込広告の水増しについて考察する糸口を与えた。
 
折込広告の水増し行為は、「押し紙」問題と表裏関係にある。そのための材料を今回、大野新聞の元店長が新たに提供してくれたのである。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

月刊『紙の爆弾』2023年4月号

◎amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0BXCMXQK3/

度々ご報告している通り、広島県教育長は腐りきっていますが、広島市教育委員会も暴走が止まりません。

ひとつは、「はだしのゲン」を小学生の平和教育の教材から削除するということです。

もうひとつは、同じように中学生の平和教育の教材から「第五福竜丸」を削除するということです。

 

故・中沢啓治さん(写真右、2011年8月6日撮影)

◆はだしのゲン削除強行

はだしのゲンは故・中沢啓治さんの不朽の名作です。現状では、広島市では小学校三年生の平和教材として使われています。これに対して、広島市教委は削除をすることを決定してしまいました。これに対して、被爆者団体からは相次いで削除に対して抗議の声が上がりました。

広島市教委も、結局、被爆者団体に対して、子どもたちがいつでも読めるようにするという趣旨の回答をせざるを得ない状況に追い込まれました。しかし、平和教材から削除されたのは残念です。

他人の池の鯉を盗むシーンについても、戦争というものが人々の暮らしを壊してしまうということをよく伝えていると思います。そのあたりは、きちんと先生が説明すれば、子どもたちが誤解するということはないと思います。

◆「はだしのゲン」削除は、教育委員会の暴走だった

平和教材の変更は、有識者による改訂会議を経てされた、とされています。しかし、真相は違うようです。日本共産党の近松議員は「有識者の改訂会議の議事録を読んだだけでは、はだしのゲンを削除する理由はみあたらない」と質問(13:21から)。しかし、13:50からの当局は、「教育委員会職務権限で決めた」と答弁しています。有識者の議論ではなく、当局が一方的に提案し、一方的に決めたのです。

◆第五福竜丸抜きには反核平和運動の歴史は語れぬ

1954年3月1日にアメリカが太平洋のビキニ環礁で行った水爆実験で多数の船舶や地元住民がヒバク。特に第五福竜丸の乗組員の久保山愛吉さんが亡くなったことで当時の日本人に衝撃を与えました。杉並区の主婦らの運動を契機に原水爆禁止運動が盛り上がり、1955年8月6日の第一回原水爆禁世界大会につながっていきます。

もちろん、ヒバクしたのは第五福竜丸だけではなく、高知県など多くの漁船がヒバクしました。そして、地元住民も多数ヒバクしました。従って、この水爆実験を第五福竜丸事件と呼んでしまうのは筆者にはためらわれますし、反核平和運動でも「ビキニデー」という言い方をします。だが、だからといって、第五福竜丸を削除してしまっては、反核平和運動の歴史の流れが意味不明になってしまいます。たとえは不適切かもしれませんが徳川家康の名前を知らないで江戸時代の歴史を学ぶのと同じような話です。

◆第五福竜丸も有識者会議とは全く相容れぬ

筆者の友人が入手した「第2回平和教育プログラム改訂会議 構成員発言内容概要」(2021年2月19日)の会議録には、次のような発言が載っています。この発言内容と、「削除」は、まったく相容れないのではないでしょうか。

▼中学校長の発言
「第五福竜丸の部分なのですが、単に被爆したということだけが載っています。さらに、指導案の方にも、被爆した、としか書かれていません。生徒にとっては、そんなことがあったのかということがピンとくるのか、こないのか、よくわからないところがあります。そこで、当時の船の記録が残っていると思うのですが、指導案の方にも、そういった資料を少しでも載せておけば、授業される先生方にとってよいのかなと思います。もちろん、本文に入ればよいのですが、難しいのであれば、補助資料として指導資料の方に載せておいてほしいと思います」

▼事務局説明(中学校)
「ありがとうございます。検討します」

▼(名前・肩書は黒塗り)
「第五福竜丸のことは歴史的に見ると他のいろいろなことに影響を及ばしたことなので、そういったことも入れながら、ということも検討していただきたいと思います」

このようなやりとりの結果が、なぜ「削除」という結論になるのでしょうか。さっぱりわかりません。

◆対米従属で暴走・迷走する総理への忖度か?

筆者は、市教委はどうも、地元選出の岸田総理に忖度しているのではないか?と思ってしまいます。実際に、知事の湯崎さんも市長の松井さんも地元選出の総理には忖度しまくりの雰囲気がビンビンに伝わってくるからです。

いま、地元選出の岸田総理の暴走・迷走が全国の皆様にご迷惑をおかけしています。このことを心からお詫び申し上げます。ロシアのウクライナ侵略に悪乗りした軍事費倍増・そのための大増税への暴走。そして、安全保障環境が危ないと言いながら有事に標的になりかねない原発は増やすという。低すぎる食料自給率にもほとんど無策。そんな迷走。

地元・広島でのG7サミットを目前に控えた岸田総理。アメリカの下請けをすることで、いわば「名誉白人」扱いしてもらっていい気になっているだけのようにも思えます。この点では、イランなどとの外交もそれなりに重視していた安倍晋三さんよりも酷いのです。

増やした軍事費で買った武器も実際には、アメリカに指揮権が実質的にはあるという有様。こうした中で、広島湾では、初めて、アメリカ軍の大型艦を使った大規模な米日共同軍事演習が行われました。

そのタイミングでの「はだしのゲン」「第五福竜丸」削除です。アメリカに都合が悪いことを削ろうというのではないか?

しかし、もし、筆者の危惧するような忖度だとしたら、逆に、その意図とは逆に、「はだしのゲン」や「第五福竜丸」に注目を集めてしまったのではないかとも思うのです。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士/参院選再選挙立候補者。1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)、片目失明者友の会参与。
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◎広島瀬戸内新聞ニュース(社主:さとうしゅういち)https://hiroseto.exblog.jp/

最新刊! 月刊『紙の爆弾』2023年4月号

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岸田文雄首相は同性婚について、「全国民にとって、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」と否定。日本会議や旧統一教会との価値観の共有を明らかにしたのち、差別発言の秘書官を即日更迭した2日後には、“極右の女神”こと櫻井よしこ氏と3時間の会食。そのうえで「LGBT理解増進法」に向けて具体的な動きを始めました。

 

3月7日発売! 月刊『紙の爆弾』2023年4月号

こうしたわかりやすさの中でも、マスコミの援護射撃もあるのでしょう。4月の統一地方選は、自民党と旧統一教会の癒着をはじめとした「政治と宗教」がメインテーマであるはずが、はぐらかされ続けているように見えます。周知の通り、“統一教会応援議員”が最も多いのは自民党・安倍派で、そのほとんどが安保3文書や原発回帰に賛成。そうした議員を落とすことが、反差別・反軍拡・反原発を実現していく一手につながります。

4月号では、「全国有志医師の会」代表の藤沢明徳医師にインタビューしました。「全国有志医師の会」は、新型コロナウイルス感染症への対策の見直し、ワクチン接種事業の中止を求め、昨年2月に立ち上げられた医師・医療従事者の団体です。藤沢医師は「新型コロナワクチンは、ワクチンではない」と指摘。その“正体”と、ワクチン後遺症の医療的な対応についても、臨床医の立場から語っていただきました。「全国有志医師の会」ホームページ(https://vmed.jp/)では、ワクチン後遺症に対応する病院のほか、受診の流れや相談窓口などについても紹介されています。ご覧になることをおすすめします。

そのコロナワクチン接種拡大を牽引、現在はデジタル大臣としてマイナンバーカードの普及にいそしむ河野太郎氏について採り上げた3月号は、おかげさまで大きな反響をいただきました。“デマ太郎”“ブロック太郎”と呼ばれる河野氏は、現在さらに「コオロギ太郎」という新たなキャッチフレーズを与えられ、Twitterでトレンド入りしているようです。突如としてブームのように扱われている「昆虫食」。その背景としての「食料危機」を含め、本誌でもレポートの準備を進めています。

警察庁が公表した2022年の犯罪情勢まとめ(暫定値)によると、刑法犯の認知件数は前年比5.9%増。20年ぶりに前年を上回りました。報道では外出自粛の緩和が影響したというものの、「ルフィ」のような闇バイトも要因と推測しています。集められるのは若者に限らないようですが、背景にあるのは貧困よりも将来への絶望。自分の将来をイメージできないことが、リスクに見合わない犯罪に手を染めることにつながるのではと思われます。その代わりに政府が投資・運用を勧めるのは、また「自助」で、政治の責任を投げ出したということなのでしょう。

さらに4月号では、三浦瑠麗氏や竹中平蔵氏、デービッド・アトキンソン氏らの主張と手法を読み解きつつ、「レントシーカー」とはいかなる存在かを分析。また統一地方選に向け、地方議会における公明党の“疑惑”に迫りました。ほか、4月号も盛りだくさんの内容をお届けします。『紙の爆弾』は全国書店で発売中です。ご一読をよろしくお願いいたします。

『紙の爆弾』編集長 中川志大

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遂にジャニー喜多川(故人)の性的児童虐待問題が世界に配信される。3月7日、英国国営放送のBBCが全世界に向け取材映像を放映、その直後からネットでも視聴可能であると同社のサイトに予告された。https://www.bbc.co.uk/programmes/m001jw7y

BBCのサイト

 

在りし日のジャニー喜多川

報道タブーとされていたジャニーズ事務所から出版差し止め(発禁)の訴訟を起こされたのは鹿砦社が初めてのことだった。1995年のことだ。書名は『SMAP大研究』、原告はジャニーズ事務所所属のSMAPのメンバー6名(当時。ジャニーズ事務所は訴外)と、これに付和雷同する学習研究社、扶桑社、マガジンハウス、主婦と生活社(のちにジャニーズと決裂、訴訟合戦を繰り広げる)らだった。日本の芸能界を代表する芸能事務所に加え日本を代表する大出版社vs一地方零細出版社の争いで、今でいうSLAP訴訟のはしりである。

訴訟は、仮処分(東京地裁)、本訴(同)、控訴審(東京高裁)と続き鹿砦社敗訴で466万円の賠償を課せられた。ただし、SMAPメンバーの請求(パブリシティ権・肖像権)は棄却、学習研究社ら出版社の請求(著作権)のみが認容された。ジャニーズ事務所の目的は、むしろパブリシティ権・肖像権だったようだが、これは認められなかった。

この提訴を契機として、鹿砦社VSジャニーズ間で死闘が開始され、次いで2件の出版差し止め訴訟を最高裁まで争うことになる。ジャニーズ事務所から3件もの出版差し止めを起こされ徹底抗戦したのは昔も今も鹿砦社だけだ。特に『ジャニーズ・ゴールド・マップ』出版差し止め事件では、本はおろかゲラも何もない中で裁判所は発行の事前差し止めの判断を下したが、判決内容には大いに疑問が残る。しかし、なぜかその2件の訴訟は、当初から賠償請求はなかった。

そうしたわれわれの闘いを継いで、次に『週刊文春』(文藝春秋)、かつては鹿砦社への提訴に名を連ね、カレンダー利権を持つほどジャニーズと親密な関係にあった『週刊女性』(主婦と生活社)が、よほど酷い仕打ちがあったのかカレンダー利権を棄て告発に走り、ジャニーズに対する報道タブーは解き放されたかと思われた。

『ジャニーズに捧げるレクイエム』(鹿砦社刊)より

[左]『ジャニーズに捧げるレクイエム』表紙[中央]唯一ジャニーズの歴史を詳述した書籍『ジャニーズ50年史』(増補新版。鹿砦社刊)[右]たびたび出版されたジャニーズのスキャンダルをまとめた書籍『本当は怖いジャニーズ・スキャンダル』(増補新版。鹿砦社刊)

しかし、BBCの取材班スタッフが首を傾げるように、ジャニーズに対する報道タブーは今も続いている。ジャニー喜多川による性的児童虐待は、欧米では明確な犯罪なのに、なぜ日本では問題にならないのか、これをなぜ日本のメディアは報じないのか、BBC関係者は驚く。文春がせっかくシリーズで告発し、社会的に一定の発信効果があったのに、いつのまにか忘れ去られていった。海外に発信されたこともなかった(部分的にはあったかもしれないが)。

ジャニーズ事務所創業者で「ジャニーズ帝国」といわれるほど事務所を拡大させたジャニー喜多川が死去した際には、文春訴訟で認定された性的児童虐待は語られず、逆に「日本の芸能界に大きな足跡を残した」とか「惜しい人を亡くした」など、本質から離れた報道一色だった。

 

星野陽平著『【増補新版】芸能人はなぜ干されるのか?──芸能界独占禁止法違反』(鹿砦社刊)

実は新型コロナが襲来する前後、鹿砦社にはBBC関係者から内々に協力の打診があった。われわれがどう振る舞ったかは信義上言えないが、協力要請はジャニー喜多川による性的児童虐待を報じた文春はじめ多方面に渡った。コロナ禍が長期化し、企画はペンディングとなり、そのまま没になるのかと思っていたところ復活、遂に昨夏取材クルーが遙々イギリスより来日して多くの人たちに調査・取材したようである。その結果が、明日いよいよ報じられるドキュメント番組として結実した。興味津々である。これが、このかん報じられているジャニーズ事務所内の内紛にどう影響するのか、公正取引委員会(公取委)に警告される日本の芸能界を変えるきっかけとなるのか──。

ちなみに、芸能界の寡占状態や奴隷労働などを問題視した公取委が注目したのが星野陽平渾身の大著『芸能人はなぜ干されるのか?──芸能界独占禁止法違反』(鹿砦社刊)だった。公取委は星野を講師として招き研究会を行い、その後ジャニーズ事務所などに指導に入ったのだ。鹿砦社の本もたまには社会的に貢献することもある。

ところで、これに先立ち、パチンコ・パチスロ・ゲーム業界のガリバー企業「アルゼ」(現ユニバーサルエンターテインメント)の、フィリピンにおけるカジノ汚職疑惑を追っていたロイター通信から協力要請があり、持てる限りの資料を提供したり聴き取り取材にも応じた。この結果、創業者オーナーでパチンコ・パチスロ・ゲーム業界に君臨してきた岡田和生を逮捕(香港で)に至らしめ、なんと実の息子、前妻、子飼いの社長らによって、自らが作り育てた会社から放逐されるに至ったのだ。われわれが返り血を恐れず、4冊の本を世に送り、鹿砦社代表・松岡逮捕、半年余りの長期勾留、有罪判決と600万円余の賠償金を課され一時は会社も壊滅的打撃を受けつつも闘ったことが実ったといえよう。逆に、岡田の告訴を受け連携して鹿砦社弾圧に加担した神戸地検・大坪弘道特別刑事部長(当時)も別の汚職事件で逮捕され失職、松岡に手錠を掛けた主任検事・宮本健志検事も深夜泥酔し街中で暴れ降格の懲戒処分を受けている。

時代は確かに変わってきている──全世界に放映される、日本の芸能界の暗部を抉る今回のBBCのドキュメントが、日本の芸能界関係者やメディアがどう捉えるのか、そして改革のきっかけとなるのか、興味は尽きない。われわれの問題提起が、四半世紀を超えて世界的なニュースとして採り上げられる。是非ご注目頂きたい。(文中敬称略)

※この記事に関連して掲載されている『ジャニーズ50年史』(増補新版)などの書籍は在庫僅かです。ご関心のある方は早めにご購読されることを望みます。鹿砦社販売部(sales@rokusaisha.com)までお問い合わせください。
また、『芸能人はなぜ干されるのか?』は増補新版は品切れ、旧版が少し在庫有ります。

(ジャニーズ特別取材班)

7日発売! 月刊『紙の爆弾』2023年4月号

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さて。
2018年7月18日に、いわゆる「杉田論文」を掲載の「新潮45」8月号が発売され、当時、衆議院議員であった立憲民主党の尾辻かな子氏が、ほぼデマと言える意図的な要約ツイートをした。

それに扇動された人々が騒ぎ、しばき隊界隈と東京レインボープライドが杉田水脈氏と自民党に対する抗議デモを呼びかけ、27日には「杉田水脈の議員辞職を求める自民党本部前抗議」を実施。しかしながら、その暴力性とダサさゆえに、LGBT当事者からは大不評。

それでも、マスコミはデモがLGBTの総意であるかのように報道した。LGBT当事者の抗議の声を、マスコミは完全スルーしたのである。

世の異性愛者たちはすっかりだまされ、知識人や文化人までが、しばき隊に同調した。

8月5日には、しばき隊界隈呼びかけの「杉田水脈議員の差別発言に抗議する渋谷ハチ公前街宣」が実施される。実は、同日、そのデモの他にも「杉田辞職しろ大阪街宣」「杉田水脈の差別発言に抗議する福岡・天神PARCO前街宣」が、翌6日には「杉田辞職しろ伊賀街宣」といったしばき隊デモが実行に移されている。
 
マスコミは、またしてもそれらを好意的に報道。

だが、それが清く正しいデモであるのなら、しばき隊系活動家を一般人であるかのように偽って報道する必要はありませんよねぇ? 朝日新聞さん?

――というのが、これまで拙稿が追ってきたおおまかな流れ。

しばき隊系活動家は官邸に自由に出入りできる権力者だった

自分が呼びかけたデモがここまで話題になり、「我が世の春」だか「頭の中が春」だかの状態になった平野太一氏は、こんなツイートをしている。

「どうも~!民主党政権時に官邸に自由に出入りしていた平野太一どぇ~す!フゥ~!…わしゃどんな権力者やねん笑」

反差別だのなんだのお綺麗なことをおっしゃっているが、その正体は権力志向のくだらん俗物であるということを証明するかのようなツイートであるが、内容自体は事実なのだろう。となると、このスクショは旧民主党、現立憲民主党にとっては大打撃となりかねないブツである。

「民主党政権時に官邸に自由に出入りしていた」というしばき隊/ANTIFA系ゲイ活動家が、立憲民主党の尾辻かな子氏のデマを利用し、反自民デモを計画、LGBT活動家が共闘し、大手マスコミも同調したのである。

端的に申しまして、どいつこもいつも雁首そろえてバカ揃いということでございましょう。

もちろん、自民党叩きのチャンスを、共産党の機関紙「赤旗」も逃しはしなかった。

しかも、アホなことに(あるいは、大手新聞との差別化を狙い?)、デモがしばき隊系活動家の呼びかけであり、東京レインボープライドが乗ってしまったことを、バッチリ記録に残している。

「抗議を呼びかけた、平野太一さんが訴えました」

「抗議にはTRP(東京レインボープライド)も連帯を表明し、参加を呼びかけました。自民党本部前でもメンバーがスピーチ」

赤旗は東京レインボープライドのやらかしも報道

人権無視の差別やめろ 「杉田議員は辞職を」 自民に抗議 5000人(2018年7月28日付しんぶん赤旗電子版)

まあ、共産党にとっては自分たちの「使い捨ての兵隊」でしかない反差別チンピラどもが、日本最大のLGBTイベント・東京レインボープライドを操ることに成功したということで、「でかした!」というお気持ちなのでしょう。

さらに、赤旗に関しては、異性愛者諸氏にお伝えしたいことがある。

8月5日のしばき隊系デモ「杉田水脈議員の差別発言に抗議する渋谷ハチ公前街宣」の記事だが――。

赤旗デビューしたレズビアンYouTuberだったが……

「生産性のために生きていない」 渋谷で杉田暴言に抗議(2018年8月6日付しんぶん赤旗電子版)

この記事の中でコメントを寄せている、「レズビアンであることをカミングアウトしたユーチューバー(22)」だが……その後、突然メディアから姿を消し、現在は死亡説まで流れている女性の可能性がある。You Tube番組「性性堂堂」を仲間と主催していた鈴木南十星(なとせ)氏だ。

7月27日の自民党本部前抗議デモの写真でも、私は彼女の姿を確認している。

現在、You Tube番組「性性堂堂」のトップには「このチャンネルにはコンテンツがありません」の表示が……

◎[参考動画]You Tube番組「性性堂堂」

彼女がメディアから姿を消した理由は、まったく表には出ていない。

しかし、「活動家が突然姿を消す」という現象は、しばき隊界隈やLGBT活動界隈ではよくある話だ。活発に活動し、積極的にネット発信もしていた者が、ある日突然いなくなる。仲間たちもそれにはまったく触れない。そして、死亡説(特に自殺説)、失踪説、入院説、発狂説、逮捕説(特に違法ドラッグがらみ)等が流れる。

そして、それこそが、不健全な運動体であることの証左であるように私には思えるのだが、どうであろう?

もし、鈴木南十星氏の現在をご存じの方がいらしたら、ぜひ、ご一報いただきたい。あるいは、彼女に、一面識もない他人も心配しているのだとお伝えいただきたい(つづく)

◎[過去記事リンク]LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ
〈1〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40264
〈2〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40475
〈3〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40621
〈4〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40755
〈5〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=40896
〈6〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=44619
〈7〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45895
〈8〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=45957
〈9〉 http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46210
〈10〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46259
〈11=最終回〉http://www.rokusaisha.com/wp/?p=46274

 

▼森奈津子(もり・なつこ)

作家。立教大学法学部卒。90年代半ばよりバイセクシュアルであることを公言し、同性愛をテーマにSFや官能小説、ファンタジー、ホラーを執筆。『西城秀樹のおかげです』『からくりアンモラル』で日本SF大賞にノミネート。他に『姫百合たちの放課後』『耽美なわしら』『先輩と私』『スーパー乙女大戦』『夢見るレンタル・ドール』等の著書がある。
◎ツイッターID: @MORI_Natsuko https://twitter.com/MORI_Natsuko

◎LGBTの運動にも深く関わり、今では「日本のANTIFA」とも呼ばれるしばき隊/カウンター界隈について、LGBT当事者の私が語った記事(全6回)です。
今まさに!「しばき隊」から集中攻撃を受けている作家、森奈津子さんインタビュー

《関連過去記事カテゴリー》
森奈津子「LGBT活動家としばき隊の蜜月はどこまで続くぬかるみぞ」

『暴力・暴言型社会運動の終焉』

3年4ヶ月ぶりに新日本キックボクシング協会興行で行われたラジャダムナンスタジアム王座挑戦はまたも惜敗。

◎MAGNUM.57 / 2月19日(日)後楽園ホール17:33~21:03
主催:伊原プロモーション
認定:新日本キックボクシング協会、ラジャダムナンスタジアム
(下記より公式戦の試合順。試合レポートは岩上哲明記者)

◆第10試合 タイ国ラジャダムナンスタジアム・ライト級タイトルマッチ 5回戦

勝者=チャンピオン.ジョーム・パランチャイ(タイ/19歳/ 60.8kg)
      vs
敗者=同級10位.重森陽太(伊原稲城/1995.6.11東京都出身/ 60.7kg)
判定3-0
主審:ジラシン・シララッタナサクン(タイ)
副審:ポンメート・チャスラック(タイ)49-48.
   チャルーン・プラヤサップ(タイ)49-48.
           椎名利一(日本)49-48.
スーパーバイザー:チョークタナパット・パッタナパックディー(タイ)

第1ラウンド、ジョームは右ミドルキック、重森陽太は前蹴りでジョームの距離をとらせないと同時に、太腿を蹴ることで軸足を崩し、攻撃力を削りに来ていた。ラウンド終了後に重森の右脛から出血があったが、試合に影響は無さそうだった。

第2ラウンド、重森は左ミドルキックで攻めていくが、ジョームは合わせてパンチを繰り出し圧力を掛け始める。至近距離で互いにヒジ打ちを出していくが、重森から余裕が無くなってきた様子。

第3ラウンド、ジョームは重森のボディーにストレートパンチを的確に叩き込み、重森のスタミナを削る作戦に出てきた様子。重森はボディブローを貰いながらも、首相撲では互角に対応し、パンチやヒザ蹴りをヒットさせるが、ジョームのボディブローのヒット数が多くなる。

ジョーム・パランチャイのボディーブローが重森陽太にヒット

重森陽太のハイキックも浅かったがジョーム・パランチャイにヒット

第4ラウンド、ジョームはこのラウンドで重森を倒しに掛かるかのような左右のパンチやミドルキック、ヒザ蹴りを混ぜながら攻めていく。重森はカウンターのヒザ蹴りで対応していくが、左右のストレートを貰い動きが止まってしまう。体勢を立て直すも、明らかにジョームの優勢のラウンドになる。

第5ラウンド、ポイントで有利と思ったか、ジョームはセーブしながらも鋭いボディブローを主体に重森に圧力を掛け続ける。重森は手数足数を増やし、時折ジョームにクリーンヒットするも単発で流れを変えれず試合終了。ジョーム・パランチャイが判定勝利で防衛。

前日計量では両選手ともに今回のタイトルマッチ実現に嬉しさを語り、日本のファンへムエタイの素晴らしさを伝えるとコメント。ファイタータイプのジョームに初挑戦である重森陽太のテクニックが通じるかどうかが試合のポイントになると思われた。

防衛したジョームはリング上で「有難うございました!」とコメント。控室に戻ってきたジョームは支援者から祝福され、リング上とは違う安堵感を見せ笑顔で会釈をしてくれました。重森陽太は出血した医務室で右脛の治療を受けていた様子。

重森陽太が前蹴りでジョーム・パランチャイの接近を阻止

明暗が分かれた両者の表情、ジョーム・パランチャイの勝利

◆第9試合 WKBA世界62kg級王座決定戦 5回戦

日本ライト級チャンピオン.髙橋亨汰(伊原/ 61.9kg)
      vs
ラット・シットムアンチャイ(元・ルンピニー系フェザー級6位/タイ/ 60.0kg)
勝者:髙橋亨汰(王座獲得) / TKO 2R 0:39
主審:少白竜

試合開始早々に右フックをヒットさせる高橋亨汰。ラットはバランスを崩すが立て直し、右飛び回し蹴りで威嚇する。高橋の猛攻にキャリアでかわすラット、しかし、高橋の左のショートパンチを貰ってノックダウンを喫する。ラットはすぐに立ち上がり逆襲し、パンチの連打で高橋をフラッシュダウンまで追い込む。
第2ラウンド、高橋の猛攻は続き、ラットも打ち合いに応じるが、高橋の右ストレートで態勢が沈んだところに高橋が左の縦ヒジ打ちでラットの頭部にヒットさせノックダウンを奪う。ラットは立ち上がるも、前頭部からおびただしい出血。ドクターの勧告を受入れレフェリーが試合ストップして終了。

前日計量の会見で高橋は会長などに感謝の言葉を述べながら「チャンスを掴みたい!」と意欲が伝わる。ラットも「勝ちたい。経験(長年の)もありベルトは巻く!」と意気込みを語っていた。

試合後、控室でチャンピオンベルトを肩に掛けた高橋選手は「キレイにヒジが決まって嬉しいです。次もヒジ打ち有りで戦いたい!」と応えていた。

高橋亨汰がハイキックでラットに威嚇

ラットを流血させた高橋亨汰の左ヒジ打ちがヒット

◆第8試合 第2代WKBA日本バンタム級王座決定戦 5回戦

2021年10月17日に泰史(伊原)との王座決定戦に判定勝利した初代チャンピオン.佐野佑馬(創心會)は都合により欠場で王座返上。

NJKFバンタム級チャンピオン.志賀将大(エス/ 53.15kg)
      vs
No-Ri-(前・TENKAICHIバンタム級Champ/ワイルドシーサーコザ/ 53.4kg)
勝者:志賀将大(王座獲得) / 判定3-0
主審:椎名利一
副審:少白竜50-45. 宮沢50-46. 仲50-46

初回から志賀将大は冷静にミドルキックを中心に攻め、No-Ri-(=ノーリー)は押され気味ながら、変則的なリズムでキックやパンチを仕掛けていく。
第2ラウンド以降も志賀は首相撲に持ち込むが、No-Ri-は付き合わず後ろを向いてかわしていく。組まれたら後ろを向くことが多くレフェリーから注意を受ける。志賀は執拗に首相撲を仕掛けヒザ蹴りに入るなど自分のペースに持ち込もうとするが、No-Ri-に阻まれる。

最終ラウンドに入ると、志賀は首相撲からのヒザ蹴りでは倒せないことや、ポイントで有利な状況でアウトスタイルに切り替えた様子。No-Ri-はバックハンドや胴回し蹴りで逆転を狙うが単発で終わってしまい終了。志賀将大が大差判定勝利で王座獲得となった。

試合前にNo-Ri-選手から「身体にハンディーがある人達のために沖縄にベルトを持ち帰り勇気を与えたい!」とコメントがあり、急遽決まった試合でありながら、地元で興行が中止になった悔しさをぶつけたいという気持ちが伝わってきました。
志賀選手はリング上で感謝の言葉を述べていたが、試合には満足はしていなかった表情で、観客の「セコンド陣の指示が噛み合えばダウンは奪えたかもなあ!」という声が聞こえましたが、この試合を象徴するものでしょう。

志賀将大は離れても接近戦でも攻勢を見せ、ミドルキックでNo-Ri-を攻める

NJKFから乗り込んだ志賀将大の戴冠、今後の防衛戦に期待

◆第7試合 57.0kg契約3回戦

木下竜輔(伊原/ 56.7kg)vs 湯本剣二郎(Kick Life/ 56.85kg)
勝者:湯本剣二郎 / KO 2R 3:00
主審:仲俊光

第1ラウンド、木下竜輔は鋭いローキックを主体に攻め、湯本剣二郎はパンチで追い詰めようとするが、木下のローキックでなかなか距離が掴めない様子。

第2ラウンド、湯本はローキックのダメージが蓄積している様子だが小刻みに攻めていく。残り数秒で湯本の右フックが木下のテンプルにクリーンヒットし、前のめりにノックダウン。木下は立ち上がるもファイティングポーズがとれずカウントアウトされた。

◆第6試合 58.5kg契約3回戦

ジョニー・オリベイラ(トーエル/ 58.35kg)
      vs
WKAムエタイ世界フェザー級チャンピオン.国崇(=藤原国崇/拳之会/ 58.25kg)
勝者:ジョニー・オリベイラ / 判定3-0
主審:宮沢誠
副審:仲29-28. 少白竜30-29. 勝本30-29

ジョニー・オリベイラのタフさと国崇のテクニックの競い合いが予想された試合。初回、ジョニーのパンチがヒットすると国崇も返し、パンチの打ち合いで盛り上がる場面が見られた。

第2ラウンドもジョニーは的確に攻めていく。国崇はやりづらそうな表情を醸し出し、第3ラウンドには、ジョニーの攻勢に国崇はヒジで打開を図ろうと試みるが、ジョニーは蹴りで国崇の間合いを取らせず終了。

◆第5試合 58.5kg3回戦

仁琉丸(富山ウルブズスクワッド/ 58.65→58.35kg)vs 小林勇人(伊原/ 58.2kg)
勝者:小林勇人 / TKO 1R 2:18
主審:椎名利一

第1ラウンド、小林勇人の鋭い蹴りが会場を沸かし、仁球丸はバックハンドブローで牽制。2分過ぎて、仁球丸のガードが下がったところを小林が強烈な右ストレートをヒット。仁球丸は身体が吹っ飛ぶように受け身が取れないノックダウン。ほぼ失神状態になり、レフェリーはノーカウントでストップをかけて終了。仁琉丸は担架で運ばれた。

◆78.0kg契約3回戦=中止

マルコEX斗吾(伊原/ 78.6kg)vs 江原陸人(GODSIDE/ 負傷欠場)は中止により、引退したマルコEX斗吾出場によるエキシビジョンマッチ2回戦(90秒制)を披露。

斗吾選手は現役さながらの動きで、現役復帰の可能性を聞いてみると、「それはないです!」と笑顔で否定していました。

◆第4試合 51.0kg契約3回戦(2分制)

オン・ドラム(伊原/ 50.85kg)vs 青木繭(SHINE沖縄/ 50.65 kg)
勝者:青木繭 / 判定0-3 (27-30. 26-30. 27-30)

◆第3試合 フェザー級2回戦

吴嘉浩(=ゴガコウ/伊原/ 56.85kg)vs 古山和樹(エス/ 56.4kg)
勝者:吴嘉浩 / 判定3-0 (19-18. 19-18. 19-18)

◆第2試合 女子アマチュア34.0kg契約2回戦(90秒制)

西田永愛(伊原/ 33.8kg)vs 菊池柚葉(笹羅/ 33.4kg)
引分け 三者三様 (19-20. 20-19. 19-19)

◆第1試合 52.0kg契約2回戦

渡邊匠成(伊原/ 51.7kg)vs 今吉勇樹(K-style/ 51.8kg)
勝者:渡邊匠成 / 判定3-0 (20-19. 20-19. 20-19)

日本で激戦を制したジョーム・パランチャイ

《取材戦記》

本場タイでは権威失墜が叫ばれる二大殿堂スタジアムも、この日行われたラジャダムナンスタジアム王座を懸けた戦いは、やはりまだまだ最高峰の重みが感じられるものだった。タイからスタジアム公認審判団とスーパーバイザーが招聘されれば、タイのジョーム・パランチャイも決して気を抜けない本気で倒しに来る真剣さがあった。

採点がジャッジ三者とも49-48ではあるが、プロボクシング式のような各ラウンドが独立した採点基準ではないのは、ムエタイに精通する人なら理解出来るでしょう。

2019年10月20日にラジャダムナンスタジアム・バンタム級王座に挑戦し、引分けで逃した当時の江幡睦は、「倒しきれなかった、それに尽きると思います。ひとつのノックダウンでも奪わなければ、ラジャダムナンのベルトは獲れないということです!」と殿堂の壁の厚さを語っていたとおり、重森陽太ももうちょっと優勢に進めていても48-48か、或いは49-48は変わらなかったかもしれない。この1点差を乗り越えるにはもうちょっとながらも、もっと大きな壁が存在するのでしょう。

次に期待されるのは高橋亨汰になるかもしれない。そのステップとなった今回のヒジ打ちによる豪快TKOはインパクトがあるものでした。(堀田春樹)

まだ最高峰への通過点ながらWKBA王座獲得した高橋亨汰

《岩上哲明記者レポート》

今回の興行は新日本キックボクシング協会の底力を感じさせるものでした。KO決着した試合はそれぞれ内容は違いますが、どれもがインパクトが強く、キックボクシングの凄み、そして観客が求めているものを示してくれたものだったと思います。

メインイベントのラジャダムナンタイトルマッチは、前評判では「重森陽太はファイタータイプのジョーム・パランチャイにKO負けするのでは?」という声が割とありましたが、テクニックとタフさで僅差の判定に持ち込んだ重森選手は、次回の挑戦に期待が出来そうなものでした。重森選手に強いて苦言を言えば、前日計量後の記者会見で「ムエタイを見せる!」ではなく「勝って王者になる」と勝利への意気込みを語って欲しかったところです。ジョーム選手と同じことをコメントしたことで、試合前に勝利が重森選手との距離を少しとってしまったかもしれないでしょう。

高橋亨汰選手はリングに上がった時に「王者になる」雰囲気が出ていました。重森選手と同じ階級ではあっても、カラーも違い、団体のエースとした活躍しそうな予感をさせてくれました。今後も左ヒジを武器に盛り上げてくれることを期待したいものです。

デビュー戦で豪快なKOを決めた小林勇人選手やキャリア差に怯むことなくKO勝ちした湯本剣二郎選手のような有望な若手選手も出てきており、次回興行も期待出来そうです。(岩上哲明)

◎新日本キックボクシング協会の次回興行は、4月23日(日)に後楽園ホールでMAGNUM.32が開催予定です。

▼堀田春樹(ほった・はるき)[撮影・文]
フリーランスとしてキックボクシングの取材歴32年。「ナイタイ」「夕刊フジ」「実話ナックルズ」などにキックのレポートを展開。ムエタイにのめり込むあまりタイ仏門に出家。座右の銘は「頑張るけど無理しない」

国際化の波が日本にも押し寄せている。ビジネスの世界でも政治の世界でも、国境の感覚が薄れ始めている。その中で浮上しているのが、コミュニケーションの問題である。世界の人口80億人のうち、日本語を話す人口はわずかに1億3000万人程度である。日本語は、グローバル化の中で生き残ることできるのか。

語学教育はどうあるべきなのか。国際化にどう対処すべきなのか。海外で長年にわたって日本語教育に取り組み、牧師でもある江原有輝子氏に、異文化とコミュニケーションの体験について話をうかがった。[聞き手・構成=黒薮哲哉]

◆世界の5か国で日本語を指導

── 海外で日本語を教えるようになるまでの経歴を教えてください。

 

江原有輝子(えはら・ゆきこ)氏

江原 わたしは早稲田大学の文学部を卒業した後、福武書店に入社して教育教材などの編集の仕事に就きました。しかし当時は、女性は結婚したら退職は当然というような社風があり、「この会社には長くはいられない」と思いました。そこで転職を考え、当時、国際交流基金と日本語教育学会がタイアップして設置していた日本語教師養成講座を受講するようになりました。1年目は日本語教育の基礎を学び、2年目には大使館の外国人職員などを対象とした教育実習を行いました。そして1988年に国際交流基金から派遣されて、メキシコシティーへ行きました。

希望する渡航先をきかれ、わたしは「どの国でもいい」と答えました。するとメキシコシティーへ行くように言われたのです。同市にある日墨文化学院(Instituto Cultural Mexicano Japones)で1991年まで日本語教育に従事し、いろいろなレベルのクラスを教えました。これが日本語教師としてのキャリアの始まりです。

── メキシコはスペイン語圏ですが、スペイン語は話せたのでしょうか。

江原 話せませんでした。最初は、午前中はメキシコ国立自治大学(Universidad Nacional Autonoma de Mexico)にある外国人のためのスペイン語講座に通い、午後から夜の9時まで日墨文化学院で仕事をしました。ハードな日程が裏目にでて途中で体調を崩したりもしました。

── 91年にメキシコから日本に帰国された後はどうされましたか?

 

メキシコ大学院大学(出典:ウィキペディア)

江原 お茶の水女子大学の修士課程(日本言語文化専攻)に入学しました。そこで第二言語習得の観点から日本語教育を学びました。在学中にメキシコ外務省の奨学金を得て、1年間メキシコシティーにあるメキシコ大学院大学(El Colegio de Mexico)に留学しました。この大学院で、自分が研究対象にしていたメキシコ人による日本語に関するデータを収集しました。たとえばどのようなレベルの日本語学習者がどのような語学上の誤りを犯す傾向があるかといったことを調べるために、外国人が書いた日本語の作文などを資料として収集しました。

日本語も教えました。日本研究をしている大学院生が7、8人いて、そのうちのひとりはコロンビアの人でした。もうひとりは確かキューバの人だったと思います。ラテンアメリカで修士レベルの日本研究ができるのは、おそらくメキシコ大学院大学だけでした。

── メキシコの次はどの国で日本語を教えましたか?

江原 お茶の水女子大学の修士課程を終えた後、国際交流基金の派遣で今度はドイツへ行きました。さらにその後、ニュージーランドとオーストラリアへ赴任し、政府機関で日本語アドバイザーとして働きました。さらに2019年5月からパラグアイへ行きました。これは国際交流基金の派遣ではなく、日本基督教団の宣教師として派遣されました。ピラポという日本人移住地にある教会の牧師として赴任したのです。日本語は、1年間だけピラポ日本語学校で教えました。

◆言語の違いと異文化

── 江原さんは外国語でコミュニケーションをされてきた期間が長いわけですが、それが自分の日本語力にどのような影響を及ぼしましたか?

江原 わたしの場合、メキシコへ行って初めてスペイン語を学んだわけです。その後、日本に帰ってきた時に、友人たちから以前に比べて話し方が分かりやすくなったと言われました。メキシコへ行く前、日本語でコミュニケーションしているときは、はっきりと要件や主張を伝えなくても分かってもらえる部分がありました。このあたりまで伝えれば相手は、わたしが言いたいことを察してくれると。

しかし、スペイン語はわたしにとっては外国語ですから、限られた語彙や表現で、相手に自分の意図を正確に伝える必要性が生じました。たとえば、水道屋さんに「水が漏れているから修理してほしい」という意思を伝える場合、はっきりと要件を言って、自分が相手に希望することが実現するように、説明しなければなりません。限られたボキャブラリーで、どう言えば相手が分かってくれるかということをいつも考えながら、話していました。その結果、日本語で話すときも、「こういったら分かってくれる」とか、「こういう言い方をした方がいいかも知れない」ということを常に考えながら話すようになりました。

外国人に日本語を教えるときも、限られた語彙で、どう表現すれば相手を理解させることができるかを考えなければなりません。普通の日本人を相手にするように話しても通じません。どういう言い方をすれば、相手は理解できるかを常に考えました。

◆幼児に対する外国語教育、指導者側の問題

── 早期からの外国語教育についてどう思いますか? 幼児期から英語を教えるべきだという考えと、まずは国語を十分に勉強すべきだという考えがありますが。

 

早期英語教育をPRするウェブサイト

江原 中途半端に英語を勉強した日本人の先生が、小学校で英語を教えるのはやめたほうがいいと思います。本当に子どもをバイリンガルにしたいのであれば、外国にいるような環境を準備する必要があります。日常生活の半分ぐらいを英語にする必要があります。それができるのであれば、幼時から子供を英語の環境に置いたほうがいいと思います。

日本語は特殊な言語なので、英語をちゃんと身に着けておくことは大切ですが、だからといって小学生を相手に不正確な発音で、「one, two, threeとか、red, white, yellow」などとやるぐらいなら、むしろなにもしない方がいいと思います。誤った発音を覚えてしまうと、矯正するのにかえって時間と苦労が必要になるからです。

この問題は日本以外の国にもあります。たとえばニュージーランドは、日本と違って小学校とセカンダリー(中学+高校)の教育制度になっており、セカンダリーでは外国語を教えるのが普通です。わたしが2000年にウェリントンに赴任したころは、生徒には5つの外国語の選択肢がありました。日本語、中国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語です。ひとつの学校で全部を教えることはできないので、学校によって教える外国語が異なります。生徒も、自分が選択を希望する外国語のクラスがあるセカンダリーに進学します。

当時、ニュージーランドでは、教育省が小学校からの外国語教育を奨励していました。しかし、特に日本語の場合は教師の資質の問題がありました。フランス語とドイツ語はもともと学校で教えていた言語なので、ある程度、レベルの高い先生がいます。日本語がブームになってきたので、教育省は教える方針を打ち出しましたが、学生時代に日本語を勉強した教師はいませんでした。そこで、「日本語なんか分からなくても教えられるわよ」というような考えの人が、小学校教師を対象とした教え方の教材を制作したのです。

その教材は、「ひらがな」は難しいので、教えなくてもいいことになっていました。ローマ字で代用すればいいとされていました。それが教育省の方針だったのです。そこでわたしと、もう一人の日本人アドバイザーが、「こういうやり方ではだめです」とアドバイスしました。

限りなく日本語の知識がゼロに近い先生が、学校で「イチ、ニイ、サン」とか、「ワタシノ ナマエハ……」といったことをやるわけです。これは日本でよくある幼児を対象にした英語教室とよく似ています。

小学校でこうした教え方をしていると、「変な発音」や「変な表現」が身についてしまうので、本格的に言語の習得を始めたとき、それを矯正するのが大変です。その役割を担うセカンダリーの日本語教師にとっては迷惑なことです。

こうした観点から考えると、日本の小学校で中途半端に英語を教えるのはよくないと思います。不正確な発音や自己流の表現で、たとえばゲームをやるとそれが身についてしまい却ってマイナスになる。後年、矯正するのに大変な手間がかかります。

── 外国語を学ぶときは、最初が肝心だということでしょうか?

江原 はい。わたしはメキシコへ行くまでは、スペイン語をまったく勉強したことがありませんでした。ゼロだったわけです。そしてゼロからメキシコ人にスペイン語を習った。そうするとある時から、同じスペイン語でも、メキシコ人が話すスペイン語と、それ以外のスペイン語国圏の人が話すスペイン語との違いがはっきりと分かるようになりました。

ところが、英語に関しては、わたしは英語圏で7、8年生活しましたが、最初は米語と英語の違いを聞き分けられなかった。その原因は、日本の学校で受けた英語教育により、わたしの耳が「つぶれていた」からだと思うのです。間違った発音を身に付けていたからだと思います。

◆言語の背景にある文化的な土台の衰弱

── パラグアイの日系2世、3世の日本語はどんなレベルなのでしょうか?

江原 パラグアイのピラポへの移住は約60年前に始まりました。1世は今70代から80代です。1世は日本語しか話しません。家の中では、孫とも日本語だけで話します。ですから2世、3世の日本語力は、非常に高いレベルの人が多いです。わたしはそこで1年間、日本語を教えましたが、3分の2ぐらいの生徒は日本の義務教育で使われている国語の教科書をそれぞれの学年で教えることができるレベルでした。

子供たちは、月曜日から金曜日までは、現地の学校へ通学してスペイン語で学び、土曜日には日本語学校にきて日本語を勉強します。日本語学校では、当然、すべての場で日本語を使います。職員会議も日本語でやる。先生は2世と3世の日系人で、日本人はわたしだけでした。

多くの日系人がかなり高いレベルの日本語を使うことができます。しかし、日本文化についての知識は十分ではありません。たとえば森鴎外や夏目漱石は知っているが、太宰治などは名前すら知らない。日本文化のある部分が欠落しているのです。もちろん古文などは読んでいません。そこに何か欠落したものを感じました。教科書を使って問題なく日本語を教えることはできますが、言葉の背景となっている部分の知識が浅くなっているように感じました。

これに対して、日本で育った日本人は、日本についての十分な知識があり、その土台の上に言語が乗っています。ピラポでは、その土台の部分が浅くなっているのではないかと思います。2世、3世の方々ですから当然といえば当然ですが、世代を重ねるごとに土台の部分がさらに脆弱になり、日本語力も徐々に落ちていくのではないかと推測します。そして最後には、現地の公用語であるスペイン語だけになるのだと思います。日本語は消えるわけです。それが他国の日系人に起こったことです。隣国ブラジルには150万人の日系人がいると言われていますが、日本語を話す人はほとんどいません。

◆国際言語ではない日本語

── 日本語の普及は必要だと思いますか?

江原 わたしは、日本語はあまり役に立たない言語だと感じています。日本語を教える仕事は楽しいですが、もしわたしが日本人でなかったら、日本語を勉強しなかったと思います。第一に漢字の習得が大変です。数が多い上に、読み方がたくさんある。音読みと訓読みがあり、それを組み合わせると読み方も変化します。こうしたことを全部覚えて、本を読むのは大変なことです。日本語は、話すことに関してはそれほど難しくはありませんが、読み書きで日本人並みのレベルになるのはとても大変です。学習する外国語としては、非常にハードルが高いのが実態です。趣味でできるような言語ではありません。

これに対して、たとえば英語やスペイン語は、熱心に勉強すれば1年ぐらいで新聞が読めるようになります。頑張れば大学へも入学できます。少なくとも一定のレベルまでは到達できます。しかし、英語を母語とする人が、日本語の授業を聞いてノートを取り、日本語の参考文献を読むのは大変なことです。

── 海外へ出るとすれば、どの国を勧めますか?

江原 あえて言えばメキシコを勧めます。わたしは、自分が最初にメキシコへ行ったことは、非常に幸運だったと思っています。メキシコには、自分の想像とは異なった世界がありました。メキシコでは休日になると、かならず親族が集まってきて、一緒に時間を過ごします。日本にいる時には、「外国では大きくなると独立して親と別居する」と教えられましたが、「外国」と言っても、ラテンアメリカではそれは当てはまりません。

日本との文化の落差が大きな国へ行くと目が開かれて、学びが多いと思います。人生が大きく変わります。実際、わたしの人生はメキシコで変わりました。

▼黒薮哲哉(くろやぶ・てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』

◆SDGsに無批判なマスメディア

田所 国連が提唱するSDGsという「持続可能な成長」。耳障りは良いです。しかし本音は「持続可能」ではなく「成長」=「経済成長」です。成長を実現するために紛争をなくす、貧困をなくす、二酸化炭素を減らすといろいろ言いますがそのための市場や商品が国連により推奨され、あたかも人類や地球環境や生態系に良い効果をもたらすと札付きを与えている。たとえば電気自動車や二酸化炭素を出さないもののが、良いものだとされる。けれども二酸化炭素がなければ新しい空気ができません。この基本的な議論がSDGsからは見事に抜け落ちている。

 

黒薮哲哉さん

黒薮 環境をよくすることは大事だけども、それをビジネスに変えるのはおかしいでしょう。環境問題を企業に委ねれば、目的が達成できると考えるのは誤りです。

田所 綺麗な言葉で国連が新自由主義を擁護している。国連が発するのですからもう学校教育の場でも子どもたちに刷り込みが既に始まっている。

黒薮 「企業コンプライアンス」という言葉が重視されていますが、新自由主義の下で格差が広がり、様々矛盾が噴出してきたから、それをなんとなく誤魔化すための言葉だと思います。資本主義の枠内で、欠点を多少「手直し」して、基本的には同じ路線を突き進むための世論誘導です。現在の体制を巧みに維持するための戦略です。

田所 これは政策ではなくイメージです。そこがたちが悪い。イメージだから直接的に誰かが傷ついたり即座に誰かが困ったりはしない。けども分析すれば「貧困をなくす」のは企業がではないです。利益を追求しないと成立しえない集合体が企業であり利益を最大化したいのがもとからの企業の存在意義です。

黒薮 だからイメージをコントロールして世論を誘導する戦略が、非常に重視されるわけです。こうした財界の戦略に協力しているのがマスメディアです。

田所 マスメディアはSDGsにまったく無批判です。イメージでは我々よりも意識が進んでいるだろうと思いがちな欧州の国々でも、この問題に異議を唱える人が多くはなさそうで、右から左までがSDGsを認証することにより、新自由主義=格差拡大を地球規模で拡大させることにより事態がさらに悪化してゆくことは目に見えている。

◆「誰にでも起業のチャンスがある」というのは幻想

黒薮 今の資本主義は高度成長時代の資本主義と違い、国境がなくなっていますから資本主義の陣営が同じ方向性の戦略を取り、必要とあればどこかの国を共同で攻撃する。こうした戦略がどんどん鮮明になっています。

田所 資本に国境はないです。GAFAといっても米国だけが儲かっているわけで、製造業は工場を世界各国に置きます。利益は国境を越えて多国籍企業が儲かる仕組みです。彼らは大きくなりすぎているので新規参入の中小企業が入る余地はない。

黒薮 それが実態なのですが、メディアにより「誰にでも起業のチャンスがある」かのような幻想が広がっています。

田所 大嘘です。ビジネスチャンスとか、ドリームとか、頑張ればなんとかなるとか。はっきり言って頑張ったってどうにもなりませんよ。この寡占の現実は。原則が間違っていると認識し、違う方向を見出さない限り無理です。今お金を持っていて支配している人が作り出すからくりを綺麗に言いつのる現実を気持ち悪いと感じます。

◆政策を決定しているのは、グローバル化した資本主義

黒薮 防衛費の倍増や沖縄の基地化。これらの政策に反対している人々の多くは、自民党の政治が終われば問題は解決すると考えていますが、そんな単純なものではありません。政策を決定しているのは、グローバル化した資本主義です。

国際的な協力の枠組みの中で、日本も「役割分担」をさせられているわけです。ですから安倍政権が終わっても、グローバリゼーションを背景に、政策の大枠はまったく変わっていません。改憲と軍国化の方向で走り続けています。グローバル化した資本主義に合わせた政策をやっているわけです。

 

田所敏夫さん

田所 その側面があることに同意しますが、覇権を維持しよう、利益を維持しようとする層がいます。実は安倍元首相の場合は、彼の祖父の時代からその時々で、主張することは違いますが、岸信介は若い時代中国大陸で満州国を作り商工大臣をしていました。戦後戦犯として逮捕されたもののどういう訳か不起訴で出てきました。戦犯追放を潜り抜け総理大臣になり、昨年話題になった「勝共連合」の設立に尽力しました。それは米国の軍産共同体との利害が一致していたからでしょう。米国はベトナム戦争の際、韓国に参戦させることにより、韓国に特需を与えた訳です。今韓国にある財閥はベトナム戦争時に出来上がり、米国の財閥との結び付きを得た。次の世代が安倍晋太郎ですがこの人は中継ぎです。中曽根がレーガン、サッチャーとともに、重武装への転換点を作り小泉がイラク派兵を行った。その完成形の役割を安倍は長い期間にわたって担い続けた。黒薮さんが指摘されるように、必ずしも個人の思いつきではない部分も多いが、安倍晋三は小泉政権の副官房長官時代に早稲田大学で「敵地攻撃は違憲ではない」「核兵器保持は違憲ではない」と明確に話しています。だから一定程度そのような考えの持ち主であることは確かです。そのような人物で血統もそうだから総理大臣にさせてもらっていた側面もあると思う。

黒薮 どういう人物が首相になるかを決めているのが、時代の流れでしょう。

田所 単に投票行動だけではなく、投票行動を誘う諸政策、小選挙区制の導入や労組の無力化、政党助成金の導入などにより選択肢がない。こう言うと熱心に政治に関心を持っている方々に悪いかもしれないけども。

黒薮 政治家が劣化しています。どうやって次の選挙で当選しようか、そのことばかりを考えて、世論に迎合し、大胆なことはしない。バッシングされると困るので控えておこうという傾向が非常に強くなりました。1996年に小選挙区制導入されてからどんどん新自由主義が顕在化し、それにあわせて軍国化が進んでいます。ビジネスのグローバル化に伴い、多国籍企業を「国際協力」により防衛するための体制が拡大され続けています。

◆「リベラル保守」の罪

田所 それを可能にするには、世論の支えが必要です。一連の構造改革の中で派遣法の改正が行われました。改正以前、派遣労働は特別な業種に限定されていたが、ほぼすべての職種で派遣労働が可能になり、同じ仕事をしていても給与が半額の人が多数生まれる現象が起きました。

貧困で労働組合にも入れない。その人たちが自分たちの窮状を訴え、権利を求める方向に目が行かないように当時一番売れていたのは小林よしのりです。『ゴーマニズム宣言』です。評価は分かれますが宮台真司、宮崎哲弥、浅田彰も入れます。廃刊した『朝日ジャーナル』の負の部分が一役になっていたと思います。今30代、40代のひとがかつての革新陣営や社会主義に対して持っている嫌悪感や、日本や日本民族に対する論拠無き過剰なプライド。砂上の楼閣のような感情が見事に形成されたのを政府は確認して、投票年齢の18歳に引き下げたのでしょう。

黒薮 そうですね。これらの層は根本から日本の社会を変えようとはしないで、一部を手直しして基本的な枠組みにはメスを入れません。その典型が、「リベラル保守」と呼ばれる人々ですね。

田所 そう人たちの罪がとても大きいと思います。

黒薮 朝日新聞などもこうした路線だと思います。資本主義の枠は維持して、その中で「手直し」を提唱する程度です。ガス抜きはするが、本当に社会を変革しようというメディアではないと思います。こうした勢力は、日本を支配している人たちにとっては、むしろ必要なメディアなんです。世論誘導とはそういうものです。(つづく)

◎遠慮・忖度一切なし!《本音の対談》黒薮哲哉×田所敏夫
〈01〉「スラップ訴訟」としての横浜副流煙事件裁判
〈02〉横浜副流煙事件裁判のその後 
〈03〉禁煙ファシズムの危険性 ── 喫煙者が減少したことで肺がん罹患者は減ったのか? 
〈04〉問題すり替えに過ぎない“SDGs”の欺瞞
〈05〉「押し紙」は新聞にとって致命的

▼黒薮哲哉(くろやぶ てつや)
ジャーナリスト。著書に、『「押し紙」という新聞のタブー』(宝島新書)、『ルポ 最後の公害、電磁波に苦しむ人々 携帯基地局の放射線』(花伝社)、『名医の追放-滋賀医科大病院事件の記録』(緑風出版)、『禁煙ファシズム』(鹿砦社)他。
◎メディア黒書:http://www.kokusyo.jp/
◎twitter https://twitter.com/kuroyabu

黒薮哲哉『禁煙ファシズム-横浜副流煙事件の記録』(鹿砦社)

▼田所敏夫(たどころ としお)
兵庫県生まれ、会社員、大学職員を経て現在は著述業。大手メディアの追求しないテーマを追い、アジアをはじめとする国際問題、教育問題などに関心を持つ。著書に『大暗黒時代の大学──消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社)がある。※本コラムへのご意見ご感想はメールアドレスtadokoro_toshio@yahoo.co.jpまでお寄せください。

田所敏夫『大暗黒時代の大学 消える大学自治と学問の自由』(鹿砦社LIBRARY007)

月刊『紙の爆弾』2023年3月号

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