◆岸田首相の原発17基再稼働促進は何が危険か?

昨年(2022年)7月14日、岸田首相は来年(2023年)冬の電力ひっ迫を回避するため、原発9基を稼働し火力による予備電源を確保することを萩生田光一経産相(当時)に 「指示」したと会見で語った。

「電力ひっ迫には原発」とばかりに、前のめりの姿勢を見せたわけだが、これは昨年3月と昨年6月末の電力ひっ迫警報・注意報の発出と軌を一にする、電力不足をテコにした再稼働推進の仕掛けを、さらに強化しようとするものだ。

再稼働を促進するとした原発のうち、すでに再稼働した「9基の原発」とは、関西の美浜3号、高浜3、4号、大飯3、4号、四国の伊方3号、九州の玄海3号、川内1、2号。現時点で再稼働した原発のうち特定重大事故対処等施設の建設が完成していないため法律上運転できない玄海4号以外全部だ。別に首相が指示する筋合いではない。

電力業界の中枢である電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は翌15日の記者会見で、冬の電力不足に対応するために「原発を最大9基稼働させる」とした発言について「ほとんどの原発はすでに(供給力に)織り込」み済と、電力不足対策になどならないことを示している(2022年7月15日付朝日新聞)。

これで定期検査中に発見される損傷や運転中に生じるトラブルに対して、首相の指示だからと無理矢理動かし、重大事故につながることはないのかが本当に心配になる。

昨年8月24日、 官邸で開いたGX(グリーン・トランスフォーメーション)第2回実行会議、岸田首相は原発について大きく3つの検討項目を打ち出した。

(1)福島事故後に稼働した10基に加え、7基を追加で再稼働すること、
(2)次世代革新炉を新増設すること、
(3)原則40年、最長60年と定められている既存原発の期間制限の廃止検討だ。

追加の7基とは、女川2号、柏崎刈羽6、7号、東海第二、高浜1、2号、島根2号だ。そのうち柏崎刈羽と東海第二は、いずれも地元合意はない。

柏崎刈羽原発は東電によるたび重なる違反行為で、現在規制委により「運転禁止措置」が取られ、これを解除する見通しも立っていない。

東海第二も地元6市村の同意がなければ再稼働はできないが、いずれも同意に向けた動きはない。さらに立地・周辺15自治体(水戸市、日立市、常陸太田市、高萩市、笠間市、ひたちなか市、常陸大宮市、那珂市、鉾田市、茨城町、大洗町、城里町、東海村、大子町と茨城県)が定めなければならない原子力防災計画は、9自治体が策定できていない。

水戸地裁は、防災体制の不備を指摘して運転差止の判決を出している。裁判は現在東京高裁で審理中だ。日本原電の広報担当でさえ、来年夏の再稼働など見通すことはできず、最短でも再来年の9月以降と明言している。

◆電力ひっ迫に対する対応方法は何か?

「ひっ迫に対して原発」には、もうひとつ大いなるミスマッチがある。現在の再稼働原発はすべて西日本。冬場の電力需要は東京が最も大きいうえ、北へ行くほど「ひっ迫」しやすい。一方、西は雪もほとんど降らないから条件が良ければ日中は太陽光だけでも需要の多くをまかなえる。九電などはそうだろう。しかし 「電気が余る」 西から「電気が足りない」東への送電は、周波数が異なるため「周波数変換所」を通さなければならない。この容量がわずか210万kWしかない。原発2基分程度だ。

西側の原発の電気で東側のひっ迫に対処するなど、そもそもできない。「同時同量」の原則を思い返せば、対策は唯一、北海道から九州までの連系線を強化することである。これで電力ひっ迫は回避できる。

昨年6月末に発生した東電、東北電のひっ迫に対しては、西日本の電力を送ることができていれば十分まかなえたことは、電力広域的運営推進機関のデータを見れば明らかである。当時予備率が低かった東電は、朝から夕方まで平均的に5%を下回っていたが、このレベルならばひっ迫ではない。しかし最も低い時間帯が16時から17時半の範囲で3%だった。もちろん省エネも効果はあったが、大電力を広域で連系すれば、ひっ迫は十分回避できた。

時間帯は短いので、大規模停電に至る可能性はほとんどない。実際、18時には「電力需給ひっ迫注意報」は解除されている。

なお、今回の電力ひっ迫を口実とした原発利用拡大政策の狙いは「最長60年の運転期間制限」の撤廃ないし延長である。これを詳論するには紙数が尽きた。 次回に詳しく論じることにする。

◆再稼働促進は「原子力安全規制」を侵害する

原子力規制の基本は、原発を推進する行政機関から独立して権限を有した規制当局が、たとえ首相命令であろうとも基準を満たさない原発を運転させないことにある。

原子力規制庁は環境省の外局だが、原子力規制委員会は設置法第1条に「専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置し、もって国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」と規定している。電力が足りなかろうと、首相が指示しようと、安全性に問題のある原発の稼働を認めてはならない。

昨年7月13日に東京地裁で言い渡された株主代表訴訟の判決で朝倉佳秀裁判長が、東電旧経営陣5人に対して13兆円あまりの賠償を認めた(但し4人について)。判決にあるとおり、原発事故は「我が国そのものの崩壊にもつながりかねない」(判決骨子より)からである。(完)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっ迫』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

◎山崎久隆 経産省「電力ひっ迫」のからくり〈全3回〉
〈1〉「電力ひっ迫に備えて原発推進」は正解か?
〈2〉電力ひっ迫に発電設備の増強は正しいか?
〈3〉電力ひっ迫に対する対応方法は何か?

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

◎たんぽぽ舎 https://www.tanpoposya.com/
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『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

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福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
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鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
総攻撃には総力を結集して反撃を!
「福島を忘れない!原発政策の大転換を許すな!全国一斉行動」の成功を!
《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
《東京》平井由美子(新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会)
環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
《関西電力》木原壯林(老朽原発うごかすな!実行委員会)
原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
『また「沖縄が戦場になる」って本当ですか?』ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会 編
 
反原発川柳(乱鬼龍選)

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