経産省「電力ひっ迫」のからくり〈2〉電力ひっ迫に発電設備の増強は正しいか? 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

◆「電力のひっ迫」とは何か

2022年3月と6月に出された 「電力ひっ迫」注意報。これは東電管内のみに出されたが、理由は「需給バランスが崩れる可能性があった」からである。

電力は溜めることができない。蓄電池や揚水式発電があるといっても、それは物理的に別の形に変えている。常時送電網に流れている電力は需給バランスが取れないと停電する。

「電力」(ワット)というのは、 「電圧」(ボルト)と「電流」(アンペア)のかけ算で、これに時間を掛けると電力量(ワットアワー)になる。一般には 「キロワットアワー・kWh」と表現されているが、これはワットアワーの1000倍という意味。常時1キロワット消費する家電製品を1時間使うと1キロワットアワーの消費電力量になる。

今、問題になっている「ひっ迫」とは短時間で起こる「需給バランスの乱れ」である。キロワットとキロワットアワーの違いを理解できていないと、発電所を沢山造らなければ停電するといった間違った議論になってしまう。

電気には「同時同量」の原則がある。使用している瞬間に、同量の電力を送電していなければならない。もちろん、発電所からだけでなく蓄電池でもかまわないが、いずれにしても同量の電力を送電線に供給していなければならない。

発電量が大きすぎて需要を大きく超えると周波数が上がる。その反対に、需要に対して発電量が足りなければ周波数が下がる。いずれの場合も、機器の損傷を防ぐため変電所単位で送電が遮断される。これが大きな変電所にまで至れば「広域停電」になる。これが2018年に北海道で起きた。「ブラックアウト」の原因だ。

◆北海道ブラックアウトのメカニズムと対策は?

北海道で最大震度6強の地震「北海道胆振東部地震」が起こったのは2018年9月6日3時7分。当時、北海道全域で300万キロワット弱の需要があった。この地震と、それに続く送電システムのアンバランスにともない、3時25分に北海道電力の送電エリア全域におよぶ大規模停電(ブラックアウト)が発生した。

地震発生の直後に北海道で動いていた最大出力の発電所「苫東厚真火力発電所」が停止したことがきっかけであるが、しかしこれが停止したからブラックアウトになったのかというと、それだけではない。地震から数えて17分間で、水力発電所や、風力発電所も次々に停止してしまった(正確に言えば水力・風力発電などのシステムから送電する変電所や変換所が地震の影響や機器損傷防止のため供給を止めた)。

大まかに、以下のような順番でブラックアウトは発生した。

1.苫東厚真火力発電所(2号機・4号機)の停止(116万kW)
2.風力発電所の停止(17万kW)
3.水力発電所の停止(43万kW)
4.苫東厚真火力発電所(1号機)の停止(30万kW)
5.ブラックアウトの発生

苫東厚真火力が止まってしまったのは、地震の震源地に近かったため、機器の一部損傷が原因だった。一方、水力発電所は複数の送電線が遮断されてしまったことが電気を供給できなくなる原因になった。風力発電は周波数の低下により設備を保護するために停止した。このように、それぞれの発電所は、それぞれ異なる理由で停止してしまった。これらについて独自に対策を取る必要があり、単に発電設備を増やしたからといってブラックアウトを防げるという単純な話ではない。

北海道泊村にある泊原発(加圧水型軽水炉3基合計出力207万kW)は現在新規制基準適合性審査中で運転を停止しているが、これが動いていたらブラックアウトを避けられたという説もある。その場合は苫東厚真火力は止まっていることが前提だ。きっかけがなければ起こらないのは道理だ。しかし、そういう議論をするのであれば、苫東厚真火力発電所の直下で地震が起きたように、泊原発直下で地震が起きることを想定しなければならない。その場合、 地震で原発は全部停止する(地震の直撃を受けなくてもおおむね震度5強で自動停止する)。震度6もの地震で止まった原発は、仮に損傷していなくても簡単に再稼働できない。何らかの損傷があれば復帰にも年単位の時間がかかる。万一、地震で大規模放射性物質拡散事故が起きてしまえば、最悪の場合福島第一原発事故のような原発震災を覚悟しなければならない。これでは問題の解決にはならない。

自然災害以外でブラックアウトが起きるとすれば、それは「系統崩壊」と呼ばれる需給バランスの崩れが原因である。

送電系統全体で発電能力不足が発生した場合や、送電線の容量不足で発生する。電力網では送電系統内のすべての発電機が協調して周波数と電圧を維持していなければならない(同時同量)。

もし周波数が一定範囲を外れると発電機は自動的に系統から遮断される。これを「脱落」という。系統内発電機がすべてフル出力運転していた場合、どこかで発電機トラブルが発生し供給能力の不足が生じると、脱落した発電機の分を他の発電機のオーバーロード(出力超過運転)などでカバーしなければならない。間に合わなければ系統全体が周波数低下を引き起こす。

北海道のブラックアウトの場合、本州と北海道をつなぐ「北本連系線」の容量が当時60万キロワットしかなかった。現在は90万キロワットある。

ブラックアウトは、北本連系線から多くの電力を供給できていたら回避できたと考えられる。

大きな発電機が脱落すると、供給が大きく不足するため周波数低下が大きくなり、遮断した先の需要停止だけでは追いつかなくなる。これが「系統崩壊」に至る理由だ。

2022年3月の東京電力管内で約209万戸の停電では、全域が系統崩壊しないようにあらかじめ部分的に負荷を遮断、つまり送電を止めた。送電系統は変電所により地域的に区切られていて、部分的に遮断することができる。2011年3月の震災時の計画停電もこの仕組みによる。

◆電力ひっ迫に発電設備の増強は正しいか?

現在の日本では、電力のひっ迫は長くても数時間程度の範囲である。これを発電電力量の不足と捉えるのは間違いだ。

需給ひっ迫対策は、発電設備の増強では解決しない。原発を増やしたら解決するという問題ではない。原発を増やせば、その分他の発電設備を止めている。電力会社は設備の維持管理に莫大な出費をしているから、原発を動かす場合は、その分火力などの他の設備を廃止したり停止したりすることになる。結局、供給力は変わらない。

日本の電力需要は2007年頃をピークに急激に低下している。

国際エネルギー機関のデータでは2007年に「1077テラワットアワー(以下、テラワットアワーを省略)」あった年間電力消費量は、2021年に「916」と「161」、約15%も低下している。これはウクライナの1年分の「124(2021年)」よりも多い。なお、 日本は1997年が「915」である。23年を経て同程度の電力消費量にまで下がった。

今後も、少子高齢化と人口減少が続くから、2050年にはさらに減少し、「700」前後まで減少すると想定されている。これは現在よりも22から26%も低下する量で、今後も発電設備の増加は必要ないことが分かる。

近年、政府による脱炭素の促進とウクライナ戦争に伴うエネルギー価格の高騰で、電気料金は2割以上も値上がりするなど、省エネルギーへのインセンティブは高まっている。

その対策として、産業も家庭も電力消費量を削減する取り組みが進む。電力会社は縮小する電力料金収入対策として、エネルギーの効率的利用や送電ロスなどの削減、未利用エネルギーの活用が、より1層取り組まれる。この取り組みに逆行するのが、現在の「電力ひっ迫」を口実にした原発の最大限利用政策である。(つづく)

本稿は『季節』2022年冬号掲載の「経産省『電力ひっぱく』のからくり」を再編集した全3回の連載記事です。

▼山崎久隆(やまざき・ひさたか)
たんぽぽ舎共同代表。1959年富山県生まれ。脱原発東電株主運動、東電株主代表訴訟に参加。反原発運動のひろば「たんぽぽ舎」設立時からのメンバー。湾岸戦争時、米英軍が使った劣化ウラン弾による健康被害や劣化ウラン廃絶の運動に参加。福島第一原発事故に対し、全原発の停止と廃炉、原子力からの撤退を求める活動に参加。著書に『隠して核武装する日本』(影書房 2007年/増補新版 2013年)、『福島原発多重人災 東電の責任を問う』(日本評論社 2012年)、『原発を再稼働させてはいけない4つの理由』(合同出版 2012年)、『核時代の神話と虚像』(明石書店 2015年)等多数。

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『季節』2023年春号(NO NUKES voice改題)福島第一原発事故 12年後の想い


〈原発なき社会〉を求めて集う 不屈の〈脱原発〉季刊誌
季節 2023年春号
NO NUKES voice改題 通巻35号 紙の爆弾 2023年4月増刊

《グラビア》福島発〈脱原発〉12年の軌跡(写真=黒田節子
      東海村の脱原発巨大看板(写真=鈴木博喜

樋口英明(元裁判官)
《コラム》原発回帰と安保政策の転換について

小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教)
《コラム》戦争は静かに日常生活に入って来る
《講演》放射能汚染水はなぜ流してはならないか

乾喜美子(経産省前テントひろば/汚染水海洋放出に反対する市民の会)
《アピール》放射能汚染水反対のハガキ作戦やっています

今中哲二(京都大学複合原子力科学研究所研究員)
《講演》懲りない原子力ムラが復活してきた
日本の原子力開発50年と福島原発事故を振り返りながら

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福島第一原発事故 12年後の想い
森松明希子(東日本大震災避難者の会 Thanks & Dream[サンドリ]代表)
あなたは「原発被害」を本当に知っていますか
黒田節子(原発いらね!ふくしま女と仲間たち)
フクシマは先が見えない
伊達信夫(原発事故広域避難者団体役員)
何を取り戻すことが「復興」になるのか
今野寿美雄(「子ども脱被ばく裁判」原告代表)
呆れ果てても諦めない
佐藤八郎(飯舘村議、福島県生活と健康を守る会連合会会長、生業訴訟原告団)
私たちが何をしたというのか
佐藤みつ子(飯舘村老人クラブ副会長、生業訴訟原告団)
悔しさだけが残ります
門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)
中間貯蔵施設をどうするか
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鈴木博喜(『民の声新聞』発行人)
区域外避難者はいま

水戸喜世子(「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表)
裏切られた2つの判決
福島原発刑事裁判と子ども脱被ばく裁判

漆原牧久(「脱被ばく実現ネット」ボランティア)
病気になったのが、自分でよかった
311子ども甲状腺がん裁判第3回・第4回口頭弁論期日報告

山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)
「原発政策大転換」の本命 60年超えの運転延長は認められない

井筒和幸(映画監督)×板坂 剛(作家/舞踏家)
《対談》戦後日本の大衆心理[前編]

佐藤雅彦(ジャーナリスト/翻訳家)
反社はゲンパツに手を出すな!

三上 治(「経産省前テントひろば」スタッフ)
突然のごとき政治的変更を目前にして

山田悦子(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈19〉
2023年に生きる私が、死について考える

再稼働阻止全国ネットワーク
原発の再稼働と再稼働の全力推進に怒る! 岸田内閣に大反撃を!
「規制をやめた」規制委員会に怒り! 山中委員長と片山長官は辞任せよ!

《全国》永野勇(再稼働阻止全国ネットワーク)
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《女川原発》舘脇章宏(みやぎ脱原発・風の会)
岸田政権による原発推進政策に抗し、女川原発2号機の2024年再稼働阻止を!
《福島》橋本あき(福島県郡山市在住)
「環境汚染」から「裁判汚染」まで 多岐にわたる汚染
《東海第二》志田文広(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東海第二原発差止訴訟・控訴審決起集会に参加して
《東海第二》柳田 真(とめよう!東海第二原発首都圏連絡会)
東京に一番近い原発=東海第二原発 2024年9月の再稼働を止めるぞ!
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環境省が新宿御苑へ放射能汚染土を持ち込もうとしている!
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原発推進に暴走する岸田政権、追従する大阪地裁 行きつく先は原発過酷事故
《規制委》木村雅英(再稼働阻止全国ネットワーク)
再稼働推進委員会が経産省と癒着、「規制の虜」糾弾
《反原発自治》けしば誠一(杉並区議会議員/反原発自治体議員・市民連盟事務局長)
岸田政権の原発推進大転換を許すな!
5月27日反原発自治体議員・市民連盟第13回定期総会へ
《読書案内》天野恵一(再稼働阻止全国ネットワーク事務局)
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