広島市長の松井一実さん。厚生労働省官僚のご出身で新自由主義色が濃い市政をされています。

※[過去記事]官僚出身・ネオリベ広島市長の暴走が止まらない! 中央図書館移転問題で市民の声を完全無視! 

 

広島市学童保育連絡協議会の田中富範さん

特に子どもに関する福祉に対しては完全に背を向けていると言わざるを得ない対応を取っておられます。

その一つが学童保育=広島市では放課後児童クラブと呼ぶ=の有料化です。実は広島市の学童保育は全国でも珍しく、無料です。もちろん、指導員は非正規の会計年度任用職員ばかり、使っている建物も老朽化が進んでいるなど、問題は多くあります。それでも、無料はありがたいという声は強くあります。

その学童保育の有料化を2023年度から松井市長は強行する姿勢です。年収800万円世帯で月5000円。減免される世帯でも(年収240万円の場合)月3000円の負担になります。240万円の世帯の場合、3000円でも結構負担は大きいものがあります。

それに対して、許さないと声を上げておられる広島市学童保育連絡協議会の田中富範さんのご講演を、1月22日(日)、筆者は「ひろしま自治体学校」(広島自治体問題研究所主催)でお聞きしました。田中さんのお話しなどによると、以下の市長の暴走ともいえる状況が起きています。

◆学童保育料金徴収の根拠条例がない

何事も、市が市民からお金を取る以上は、市民の代表である議会の決議を経た条例が必要です。国の場合でも、例えば「消費税率は10%」などと法律で定めています。それらと同じことです。

ところが、広島市の場合、驚くべきことに学童保育の料金の根拠となる条例がないのです。条例どころか規則さえないのです。あくまで、要綱を根拠に徴収するというのです。そして、「広島市は私人として、保護者と契約しているから条例無しで徴収できる」というのが市幹部のスタンスだったそうです。私人と言えばどこかで聞いたことがあります。辺野古の問題では、沖縄県に埋め立てを不許可にされた国(防衛局)は私人として、不服申し立てをしたのです。

一方で、国はもちろん、強大な権力を持っています。市ももちろん、学童保育の指導員の任免権を持っています。権力者があるときは私人を装う。あるときは、もちろん、強大な権力者として労働者や市民、国民を押さえつける。セコイし脱法行為としかいいようがありません。

◆国の考えを過剰に忖度

私人としてふるまう広島市は一方で、国の考えを過剰に忖度します。国は昔から予算編成にあたって、一応、学童保育の費用は、半分を保護者負担、半分を国、県、市で賄うとしています。しかし、これはあくまで国の予算編成にあたっての考えであり、市に対して「こうしなさい」という指示をするものではまったくありません。実際に広島市は独自に無料=保護者負担分を市がカバーする=を続けてきたのです。ところが2011年に松井市長が市長に就任されてから、「まるで国の出先機関のように」振舞っています。

実は、松井市長は筆者の父が厚生労働省の医系技官だった時代の部下だったそうです。父によると若き日の松井市長は非常に真面目な方だったそうです。国の官僚であるならば、それはそれでいいでしょう。さすがは労働委員会の事務局長まで上り詰められた方です。

しかし、いまの松井さんは選挙で選ばれた「市民の代表」です。いつまでも「国の官僚」のような態度では困るのです。困るのですが、現に、ネオリベ方向で国の考えを過剰に忖度し、実行しようとしておられます。

◆将来は8700円まで引き上げの構え

そして、広島市は、将来は8700円まで学童保育の保護者負担を引き上げる構えです。市側の言い分としては、「国の言う通り、半額を保護者負担にするのであれば、8700円になる。だから、現状でも高所得者家庭は8700-5000=3700円、低所得家庭でも8700-3000=5700円「配慮している」」というのです。

だが、本人がどこまで本気かどうかは別としても、地元選出の岸田総理も「異次元の少子化対策」とぶち上げておられるときです。わざわざ、それに逆行するような方向での学童保育の有料化、さらなる値上げというのもいかがなものでしょうか?実際のところ、松井市政の国を都合の良い時は隠れ蓑にして、こどもへの支援はサボタージュしたい、という本音が透けて見えます。

◆「サービス向上」が招く指導員の執行体制崩壊

さて、値上げするならサービスの向上がなければ、利用する保護者も子どももたまったものではありません。古びた施設の修繕は当然としても、そのほかのサービス向上の内容は「いままで休所していた第二土曜日を開所する」というものです。

ところが、学童保育の指導員の執行体制は現状でもボロボロです。2022年度当初は72人欠員が生じたので補充はしています。しかし、15人がすでに2023年1月現在で退職。2割以上が1年どころか10か月もたたずに退職とは筆者の勤務先の介護現場は別として、異常事態です。

安い給料でもやりがいだけでなんとかモチベーションを維持してきた指導員たちも限界です。そこへ来て、これまで休みだった第二土曜も開所しろという。しかも、労使合意もないままです。このままいけば、「有料になるわ、サービスは崩壊するわ」で保護者や子どもも地団駄を踏むしかなくなります。

◆いい加減すぎる市長、議会で追及を

今回のイベントでコメンテーターを務めた田村和之広大名誉教授は、「松井市長は就任以降細々な負担引き上げをし、それで数千万円の歳入増はするが、しかし数百億規模の事業で無駄遣いをしている。」と指摘します。

学童保育の根拠は民主党政権が方向性をつくった2015年の児童福祉法改正でできた。その第21条の10に「市町村が放課後児童健全育成を行う」と定められており「私人」扱いはない。」。

「公の施設は条例を定めないとできない。広島市は保育料も規則でさだめている。違法の疑いがある。学童保育は規則でさえなく要綱でやろうとしている。こんないい加減なことをやっている市を法を根拠に追及する議員が議会にいないのか?」と田村名誉教授は嘆きます。統一地方選で、松井市長を打倒できればいいのですが、市長打倒にいたらずとも、市長をガツンと追及する市議もふやしていく必要があると痛感しました。

▼さとうしゅういち(佐藤周一)
元県庁マン/介護福祉士 1975年、広島県福山市生まれ、東京育ち。東京大学経済学部卒業後、2000年広島県入庁。介護や福祉、男女共同参画などの行政を担当。2011年、あの河井案里さんと県議選で対決するために退職。現在は広島市内で介護福祉士として勤務。2021年、案里さんの当選無効に伴う再選挙に立候補、6人中3位(20848票)。2023年広島県議選にも立候補。広島市男女共同参画審議会委員(2011-13)、広島介護福祉労働組合役員(現職)。
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月刊『紙の爆弾』2023年6月号