ピョンヤンから感じる時代の風〈47〉 欧州での「右翼」進出をどう見るのか  赤木志郎

◆右翼の進出が台風の目

EU議会選挙でフランスをはじめ各国での右翼政党の大幅な進出が大きく取り上げられている。とくにフランスでは右翼の国民連合が第一党となり、危機意識をもったマクロン大統領は国民議会を解散し、総選挙を実施した。その結果、第一回目の選挙では国民連合が大きく票をのばし、決選投票でも国民連合が第1位となり過半数を占めるかどうかが焦点になった。国民連合が過半数を占めればマクロン大統領は国民連合党首に首相を指名しなければならず、混乱を避けることができない。ところが、第2位の左翼連合の「新人民戦線」と第3位の与党連合が組んだ結果、第1位は新人民戦線、第2位が与党連合で国民連合は第3位に後退した。左翼連合と与党連合の一人に候補者に絞る作戦が効を奏し、国民連合を封じ込めるのにかろうじて成功したのである。

それは一つの政治劇だった。しかし、政権を握っているマクロンの中道左派が孤立し、右翼の国民連合が支持率で第1党になっていることは変わらない。国民連合の目標は大統領選での勝利だ。

右翼の進出はフランスだけはない。右翼が政権を握っているのはイタリア、ハンガリー、連立で政権に参加しているオランダ、オーストリアなどがある。まずハンガリーでオルバン首相率いる右翼政党「フィデス」が、今回の欧州議会選と地方選の両方で勝利し議席数を増やした。ウクライナ支援に反対し、ロシアとの関係を維持している。

イタリアではメローニ首相率いる「イタリアの同胞」はEU議会選挙で得票率は29%に上り、2022年総選挙での同党の得票を上回った。オーストリアは、右翼の自由党がEU議会選挙で第1党を占め、秋の総選挙で首相になることを狙っている。オランダでも右翼政党が昨年11月の総選挙で第1党となり、連立政権を発足させた。ベルギーでもEU議会選挙と同時におこなわれた選挙で前首相が右翼政党に敗北し首相を辞任した。

ドイツでも今回の選挙で「ドイツのための選択肢(AfD)」は得票率15.9%で国内2位となり、ショルツ首相の「社会民主党」は同13.9%で3位だった。トップは同30%の保守政党「キリスト教民主同盟」だった。

EUから脱退したイギリスは、今回、下院総選挙を実施し、スナク前首相率いる保守党は惨敗し、労働党が大躍進し労働党政権が発足した。ところがここでもファラージ率いる新たな右翼政党「改革党」が移民阻止、環境規制反対など保守党の「イギリス第一主義」の頓挫にたいしその徹底化を主張し、2割の支持を受けており、支持率で政権を握っていた保守党をすでに凌駕している。

スウェーデンでは右翼政党の「民主党」が第2党となり閣外協力をおこなっている。

これらの右翼政党は一様に自国第一主義をかかげ自国の利益を守ることを優先させ、EUのウクライナ軍事支援、環境政策、移民政策などに反対し、ロシア、中国との関係を強めている。それゆえ、右翼の進出がEU支配の欧州を揺るがせる台風の目になっている。ハンガリーのオルバン首相はチェコ、オーストリア、フランスの国民連合と組み、EU議会で3番目に多い「欧州の愛国者」という会派を7月に発足させた。

では、右翼政党が反対するEUとは何か? 欧州各国とEUとの関係はどうなっているのだろうか。

◆グローバリズムの欧州版であるEU

欧州では各国の主権があり、政治もその枠内で各政治勢力が、たとえばフランスでは今回のように国民議会選挙でマクロン派、右翼の国民連合、左翼連合、共和党などが争いながら、一方でEU(ヨーロッパ連合)のもとに各国がありEU議会選挙に参加している。だから5年に一度のEU議会選挙があり、各国ごと大統領制や議会で首相を選ぶ制度など独自的な政治制度がある。

EUは半世紀をかけてECSC(ヨーロッパ石炭鉄鋼共同体1951年)、EEC(ヨーロッパ経済共同体1958年)、EC(ヨーロッパ共同体1978年)を経て1993年に発足した欧州における超国家機構・共同体だ。域内での市場の単一化、通貨の統合、人の自由な移動、物の自由な移動を実現し、域外からは共通の関税を課し、欧州の経済発展と平和をはかった。EUは機構としてEU議会(比例代表制)、EU理事会(各国の首脳・外相が参加)、そして行政的な指揮をおこなう欧州委員会がある。

EUは上で見たようにグローバリズム(国境を越えた地球統合主義)の欧州地域版である。EUはASEANやAU(アフリカ同盟)のような各国の主権の尊重にもとづいた地域組織ではない。各国はEU委員会の指示を受けて国内政策をおこない、各国の主権は3割しかないと言われている。EUは実質、ドイツとフランスが主導権を握り、欧州の支配層が握った政治機構だということができる。欧州各国は国があっても国の主権がない状態におかれた。関税や通商政策、漁業資源保護はすべてEU基準、エネルギー・環境政策などはEU法が優位。ここから、イギリス、ドイツなどが東欧諸国と移民の安い労働力を使い本国の労働者が雇用を失うという問題が起こったり、農業で欧州委員会の厳しい環境規制を受けて不満を呼び起こす問題などが不可避的に生じ、EUの指示に従うのではなく自国の実情、利益に合わせていこうとする自国第一主義がうまれるようになった。

数年前から各国でEU脱退の要求が起こり、EU本部があるブッリュセルのエリートにたいする激しい反発が生まれた。「渦巻くエリート支配にたいする嫌悪感」、ある新聞の欧州総局長はこう表現していた。今回のフランスでのEU議会選挙で国民連合が第1党に躍り出たとき、パルデラ国民連合党首は「これはブリュッセルに対するメッセージだ」と勝利宣言をした。ハンガリーのオルバン首相は「現在のブリュッセルのエリート層から得られるのは戦争・移民・停滞だけだ」と非難した。

とくにこの間、ウクライナ戦争の勃発を契機に、ウクライナにたいする軍事支援およびロシアにたいする制裁にともなうエネルギー価格、食料価格の高騰による生活難がEUにたいする反発と右翼進出に拍車をかけた。

EUは米軍から司令官をだすNATO(北太西洋条約機構)という軍事組織との密接な関係がある。NATOはアメリカの直接の覇権軍事機構だ。NATOはセルビアにたいする空爆、東欧諸国にたいする政権転覆であるオレンジ革命、イラク、アフガニスタンなどへの介入などアメリカの侵略策動に大きな役割をになってきた。EUは軍事的にNATOの軍事的基礎に築かれた欧州機構だということができる。だから、周辺諸国を経済的利害からEUに加盟させ、最終的にはNATOに加入させ、アメリカの勢力圏を拡大してきた。

今、ウクライナでの戦乱もウクライナをまずEUに加盟させ、つぎにNATOに加盟させようとするところからロシアとの摩擦、衝突が起きてきた。ロシアにとってはウクライナをめぐってアメリカ、NATO、欧州諸国の介入に反対し自国を守る戦いとなる。ロシアがウクライナにたいする軍事行動を起こしたとしてそれを侵略だといえない理由がここにある。NATOがアメリカの覇権のための欧州における軍事組織だとしたら、EUはアメリカの覇権のための政治組織であるといえよう。

EUがもたらしたもの、それは自国第一主義の欧州での台頭だということができる。

◆右翼か左翼かが問題ではなく、自国の主権を守るかどうかが根本問題

欧州で右翼か左翼かが問題にされている。フランスでの国民議会選挙で得票率2位の左翼連合と3位のマクロン派が組んで、決選投票で国民連合を1位から3位に転落させたのは、右翼に政権をとらせないという点で左翼連合とマクロン派が一致したからだ。

日本で進歩的学者として有名な森永卓郎氏が大竹まことのラジオ番組(文化放送)で、つぎのように述べている。「これがもう一つ気になっていることで、実は今日本だけではなくて、世界の先進国がみんな議会選挙で右派勢力が議席を伸ばしているんですよ。世の中が平和なときではないと左派勢力って勢力を維持できなくて。……

第一次世界大戦、第二次世界大戦が起こった原因もみんなが自分の国のことだけを考えるようになったというのが発端となっているわけですよね。だからこういう状態で少し刺激が加わると本当に戦争が起きかねないんですよね……」

果たして森永氏の言う「自分の国を考えることが戦争の原因だ」といえるだろうか。第一次大戦、第二次大戦すべて独占資本家が起こした植民地再分割戦争ではないだろうか。

今回、欧州で右翼が進出した直接の原因は、貧困化した大衆の不満をくみ上げたからだと言われている。貧困問題をとりあげたのが極右と極左といわれる政党だった。新自由主義のもと格差がいっそう広がる中で大衆にとって貧困が耐えがたいものとなっていた。それをウクライナ戦争と移民問題が拍車をかけたのである。従来の左派は中道左派を呼ばれ新自由主義に染まっていって大衆から孤立してしまった。

貧富の格差を拡大してきた根本要因は、EUやマクロンがすすめてきたグローバリズムと新自由主義政策にある。そのもとでフランスをはじめ各国は自分の国そのもの、そのアイデンティティまで失ってきた。パルデラ国民連合党首は集会で「フランスの消滅はすでにさまざまな地域で始まっています。私たちの文明は衰退してしまうかもしれません。……フランスを愛してください。私たちの仲間になってください。私たちと一緒にフランスを守り伝えていきましょう」と訴え、人々の心をとらえていた。

 
赤木志郎(あかぎ・しろう)さん

もちろん右翼の国民連合は、「不服従のフランス」党の最低賃金引き上げなどの政策を拒否しマクロン派に賛成し、パレスチナのハマスの蜂起を反ユダヤ主義として激しく非難するという問題点も有しているが、EUに反対し愛国心に訴え国を守ろうとする主張では正しいといえる。大衆の貧困化、ひいては国の消滅化の根源はEUのグローバリズムと新自由主義政策にあり、その解決の途も各国の主権をとりもどし、国の指導的役割を高めるところにあるはずだ。

フランスの国民連合など欧州の今日の右翼は、かつての右翼とは異なっている。それはEU脱退などのスローガンをおろしソフトなイメージ戦略で臨んだからだけではない。かつての右翼は愛国を掲げて侵略戦争の手先、体制側になったが、今日、愛国を掲げ、国を守れと主張することは反米、反グローバリズム、反体制派になる。それとは反対に国を否定し階級を掲げた左翼の多くがグローバリズムを支持し大衆から遊離していったのと対照的だ。フランスでは社会党がそうだった。

このことは日本の政治を考える上でも大きな示唆を与えているのではないだろうか。

たしかに右翼といえば宣伝カーで大衆の運動を妨害し、侵略戦争の反省を否定し、アメリカの従属に反対せず、体制側の手先の役割を果たしてきた。もし真に愛国をかかげるならば日本の自主独立のために闘っていかなければならないだろう。そのような右翼は日本では少ない。

現在、日本の支配層がアメリカの覇権主義との一体化を機軸に据え、日本という国をなくしていっているもとで、右翼が愛国をかかげるならば日本の自主独立のために闘い、左翼が格差に反対し階級をかかげるならば日米一体化に反対し闘うことだ。右翼か左翼かを区別する意味は久しくなくなっている。重要なのは、底辺の国民大衆の要求に応えるか、国民にとってもっとも重要な国の主権を守りその役割を高めていくかであると思う。そのスローガンは自国第一、国民第一だと思う。

▼赤木志郎(あかぎ・しろう)さん
大阪市立大学法学部中退。高校生の時は民青、大学生のときに社学同。70年赤軍派としてハイジャックで朝鮮に渡る。以来、平壌市に滞在。現在、「アジアの内の日本の会」会員

『抵抗と絶望の狭間 一九七一年から連合赤軍へ』(紙の爆弾 2021年12月号増刊)
『一九七〇年 端境期の時代』