冤罪説根強い今市事件 上告棄却の勝又拓哉氏が手記に綴った「再審無罪への決意」

勝又氏が勾留されている東京拘置所

2005年に栃木県今市市(現在の日光市)で小1女児が殺害された「今市事件」について、筆者は当欄で、被告人の勝又拓哉氏(37)が冤罪であることを繰り返し伝えてきた。

だが、残念なことに、3月4日、勝又氏は最高裁に上告を棄却され、無期懲役の判決が確定することになった。

そんな勝又氏から筆者のもとに、現在の心境などが綴られた手記が届いたので、ここに紹介したい。

手記では、勝又氏は裁判への不満などを率直に語りつつ、再審で無罪を勝ち取るまで無実を訴え続けることを宣言している。台湾出身の勝又被告の言葉はたどたどしいが、無実の人間ならではの自信が行間からにじみ出ている。ぜひご一読頂きたい。

勝又氏から届いた手記

◆上告書をちゃんと読んでいるとは思えない

3月5日の午後3時頃、いきなり看守から書類が届けられ、わけがわからずに受け取ってみたら、最高裁の決定書で「棄却決定」とありました。支援者から差し入れてもらった本を読んでいる最中のことでした。

決定書は1枚だけしかなく、「中身この1枚だけ??」と思いました。自白の任意性はあると認め、法令違反や事実誤認の主張は上告理由に当たらないとあり、理解できませんでした。自白の任意性よりも信用性が問題であり、信用性は控訴審で否定されたはずなのに、この点には触れていないし、事実誤認の主張が上告理由に当たらないというのも理解できませんでした。

もしも控訴審判決を精査しての判断であるなら、犯人は本当は私ではないという重大な事実誤認が読み取れなかったか、無実の証明ができなければ、上告理由に当たらないということだと思います。

決定書は裁判で争点になった「Nシステム」「手紙」「取調べ」の録音録画などについても何ら触れていませんでした。最高裁の決定書から読み取れるのは、裁判官が事件を右から左に流しただけで、上告趣意書をあんまり見ていないということでした。1年半かけて、上告趣意書の中身にまったく触れていない決定書に、先日の森法務大臣の発言にあった「無実なら無実を立証すべき」との言葉が蘇りました。

有罪証拠がこれだけ無いうえに、控訴審で最後の最後に検察が禁じ手の訴因変更、それを当たり前のように認めた控訴審裁判官、そして、それについて、何ら触れない最高裁。99.9%の有罪率は恐ろしいとあらためて思いました。悪くても差し戻しになり、控訴審をもう1回やると思っていました。

決定書を受け取った初日は本当にショックが大き過ぎました。「ありえない」と目の前が真っ暗になりました。2日目は落ち着きを取り戻し、判決文をよく読み返し、いかに理不尽な文章なのか、なんとか理解できるようになりました。弁護団が提出した大量の上告書に対し、決定理由は6行の文章しかないのです。上告書をちゃんと読んでいるとは到底思えません。

◆「やってない」と胸を張って言い続ける

警察や検察の関係者から状況証拠の積み重ねで有罪にしたとのコメントがありましたが、そこまで自信のある証拠を集めていたのなら、控訴審での検察の訴因変更は何だったのでしょうか。ただの訴因変更ではなく、死亡時間や場所、これらがまったくわからない変更です。

殺害方法も控訴審で自白通りでは不可能と証明されていますし、Nシステムにしても検察が証拠開示に応じていないので、どれほどのセダン車やワゴン車が通ったのかわからないし、警察や検察が自信があるなら、捜査資料などあらゆる証拠を開示してもらいたいです。

何年かかろうと、やっていない殺人を認めるわけにはいきません。東住吉冤罪事件の青木恵子さんの記事によると、刑務所では罪を認めない人は何かと不自由だったり、なかなか階級を上げてもらえなかったりするそうです。でも、たとえ階級が上がらなくて、家族と会える時間が増えなくても、私はやってない殺人について「やってない」と胸を張って言い続けます。

国会が冤罪調査会のようなものを作ってくれたらいいのですが、今の国会(というか、国会議員)には期待できそうにありません。だから、今のままの司法で再審を求めて、無罪を勝ち取ります。私は、やってないから強気でいられるのです。弁護団はどうなるのかという点について不安はありますが、堂々と胸を張って、再審請求を粛々としていきます。

私の再審無罪が決定した日、警察や検察が記者会見で何を言うか、今から大変気になります。再審無罪になったら、誰が悪かったのか、責任の所在を明らかにしてもらいたいです。そして取調べでは、せめて弁護士の立ち会いを認めるようにしてもらいたいです。弁護士が全ての取調べに立ち会いできれば、録音録画をしていない時に警察や検察が変なマインドコントロールをする心配がなくなります。

私の場合、最初の数日の取調べで、警察や検察はまず私を屈服させることに全力で取り組みました。そして、その後はやさしく洗脳されました。こういう取調べに弁護士が立ち会いをしていれば、冤罪はかなり減ると思います。また、その前に警察や検察が無罪が出た冤罪事件に対して、素直に「申し訳ありません」の一言を発する時代がくることを願うばかりです。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

《NO NUKES voice》大手メディアに黙殺されながらも「一億総玉砕」「皆でお陀仏」と叫ぶ「希望の牧場」吉沢正巳さんの9年間 民の声新聞 鈴木博喜

JR常磐線が全線再開した3月14日。冷たい雨が降り続く中、JR常磐線・双葉駅ホームの一角で行われた囲み取材。記者クラブメディアに混じって内堀雅雄福島県知事や赤羽一嘉国交大臣に質問しながら、私は一方の耳を、駅舎の外から雨音に負けじと聞こえてくる怒鳴り声に集中させていた。怒鳴り声は、華やかな式典のすき間をぬうように、しかし、はっきりと聞こえた。

「オリンピックはんたーい!」

たった1人でマイクを握り、大手メディアに黙殺されながらも抗議の声をあげていた人こそ、「希望の牧場・ふくしま」(浪江町)の吉沢正巳さんだった。事前に「今日は大きな音は出せないな」と言っていたが、十分な音量だった。

JR常磐線・双葉駅前で抗議行動をした「希望の牧場・ふくしま」の吉沢正巳さん。常磐線全線再開の先にある〝復興五輪〟強行について「玉砕だ」「皆でお陀仏だ」と怒りを口にした

吉沢さんは午前8時すぎには双葉駅前の駐車場に街宣車を停め、牧場の写真や「福島を忘れるな」などの横断幕を広げて静かに抗議の意思を表明していた。手には「カウテロ」、「コロナ爆弾」「2020五輪返上」と書かれた赤い〝時限爆弾〟。不謹慎だと叱られかねない表現ではあるが、そこには原発事故から9年間、闘ってきた吉沢さんなりの強い想いがあった。その前日、電話で次のように話していた。

「大勢集まっているマスコミに対して『オリンピックは玉砕だ』と訴えたいんだ。延期や中止ではなくて〝玉砕〟のコースを歩んでいるとね。安倍晋三首相やその取り巻きは何がなんでも五輪を開催するという事で突き進んでいるけれど、世界からは『1人で勝手にやったら?』という話になると思うよ。無理にやれば玉砕。あの戦争の頃と同じですよ」

「もはや〝五輪玉砕〟だよ。ここまで来ると止めようが無くて、開催に向けて神がかっている。だいたい、皆も映画『Fukushima 50』を観て感動なんかしちゃってるくらいだからね。皆で〝復興五輪〟に突入するしか無いんだよ。それで、世界を巻き込んで皆でお陀仏だ。今まで震災も原発事故も他人事だと思っていた人たちにも降りかかって来るんだよ。皆で仲良くお陀仏さ。一億総玉砕。歴史は繰り返すんだよ。安倍晋三のルーツは岸信介だからね」

一見、とっぴで乱暴な物言いだが、事態は吉沢さんの言葉を笑って聞き流せないところまで来ている。今月の双葉町は〝復興ラッシュ〟の真っ只中である事が、その1つだ。

3月4日に避難指示が部分解除され、駅周辺の通行規制が緩和された。7日には常磐自動車道・常磐双葉インターチェンジがオープン。14日にJR常磐線の運行が再開され、双葉駅を含む全ての駅で乗り降りが可能となった。そして、26日には〝復興五輪〟の露払いとも言える聖火リレーが行われる。

当初、福島県内の聖火リレーには双葉町は含まれていなかったが、まるで聖火リレーを実施するためであるかのように避難指示が部分解除され、福島県の実行委員会で聖火リレーへの追加が決められた。赤羽国交大臣は沖縄タイムス記者の質問に対し「安全をないがしろにして、東京オリパラにあわせたというのは全くの事実誤認。そういった事は全く無いという事だけははっきりと申し上げておきたい。被災者一人一人の生活をないがしろにしているような、そんな想いで私はここに関わって来たわけでは無いと政治家生命をかけて断言したい」と気色ばんで見せたが、ではなぜ、避難指示解除日を今月末に設定しなかったのか。その疑問には誰も答えない。

双葉駅での「特急列車出迎え式」に出席した赤羽一嘉国交大臣(右から二番目)。聖火リレーのために安全を無視して全線再開をするのではないかとの質問に「政治家生命をかけて事実誤認だと断言する」と声を荒げた
赤羽一嘉国交大臣(右)と内堀雅雄福島県知事(左)

◆負けると分かっていても反対できない空気

吉沢さんと話をしていると思い出す言葉がある。

2016年9月、福島復興局で行われた今村雅弘復興大臣(当時)の囲み取材。「そもそも、これだけ放射能汚染が酷い帰還困難区域を除染して、人が住めるようにする事など出来るのでしょうか?」という筆者の問いに、今村大臣はこう答えたのだった。

「出来るか出来ないかじゃないんです。とにかくやるんだ、という事です」

そこには理路整然とした理論や裏付けなど無い。あるのは精神論のみ。まるで戦時下のような精神性は、今回の〝復興五輪〟や聖火リレーも同じだ。橋本聖子五輪担当大臣は国会で「延期はあり得ない」と答弁し、安倍晋三首相や菅義偉官房長官も「予定通りの実施」を強調する。

日本オリンピック委員会(JOC)理事の山口香氏が朝日新聞の取材に対し「コロナウイルスとの戦いは戦争に例えられているが、日本は負けると分かっていても反対できない空気がある。JOCもアスリートも『延期の方が良いのでは』と言えない空気があるのではないか」などと延期をするべきと答えているが、それに対しても、JOCの山下泰裕会長は「いろいろな意見があるのは当然だが、JOCの中の人が、そういう発言をするのは極めて残念」(朝日新聞)と不快感を示した。もはや五輪開催に異を唱えるのは〝非国民〟であるかのような空気。それを吉沢さんは「玉砕」という言葉で表現しているのだ。

吉沢さんは昨年暮れ、渋谷スクランブル交差点を見下ろすようにマイクを握り、道行く人々に語りかけていた。

「東北の福島県がこの東京の電力を支えているにもかかわらず、私たちは放射能差別の眼を向けられています。福島県の農産物が売れない。そういう差別は今なお根深く続いております。私たちは、東京オリンピックを心から喜べる状態ではありません。東京五輪を応援する気分にはなりません。オリンピックなんか勝手にやってください。オリンピックなんか東京の、大都会のエゴの極限の姿ではないだろうか。私たちには関係ない!」

怒鳴るように語る吉沢さんの向こう側では、ファッションビル「渋谷109」のきらびやかなネオンが光っていた。その電気を支えているのは誰かなど、道行く人々は考えまい。

「原発が生み出した電気を使って来た皆の連帯責任だろ!原発が生み出した電力で便利な暮らしを送ってきたんじゃないか!この豊かな大都会は、福島県の電力供給によって今も成り立っているという事を忘れないでいただきたい!」

〝復興五輪〟などと言葉ばかりが躍っているが、その陰で今なお原発事故被害が続いている事を忘れて欲しくないのだ。だから、吉沢さんは渋谷で双葉駅前で声をあげるのだ。

汚染も被曝リスクも、そして新型ウイルスまでも覆い隠すように26日から聖火リレーが始まる。内堀知事は常日頃「光と影の両方を発信したい」と口にしているが、聖火リレーでは福島の「光」ばかりが国内外に伝えられる。聖火は通常、車で次の市町村まで運ばれるが、双葉駅まではランタンの炎をJR常磐線の車両を貸し切って運び、聖火ランナーの持つトーチに点灯される。

そんな「演出」までする聖火リレーが、本当に「福島の光と影」を伝えられるのだろうか。これが、吉沢さんの言う「玉砕」や「皆でお陀仏」の序章で無い事を願うばかりだ。

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

◎紙媒体版   https://www.amazon.co.jp/dp/B085RRT815/ 
◎電子書籍版 https://www.amazon.co.jp/dp/B07RX7H5XQ/

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検察VS官邸? 安倍政権肝いりの夫婦議員・河井克行と河井案里の両議員秘書の起訴は、三権分立を確証するか? 健全な司法のために期待される検察の「叛乱」

公職選挙法違反の買収容疑で逮捕された河井案里参院議員の秘書ら3人の勾留が満期になる3月24日、広島地検は公訴提起した。案里議員に対して当選無効とする連座制適用に向け、迅速な審理「100日裁判」を広島地裁に申し立てる方針だという。

このうち、夫の河井克行元法務大臣の政策秘書・高谷真介容疑者がウグイス嬢たちへの「河井ルール(日当が規定の倍の3万円)」を指示した中心人物として立件・有罪となれば、河井夫婦はそろって議員職を剥奪される。安倍政権の中心的な元閣僚・期待の新進女性議員が失脚することになるのだ。


◎[参考動画]河井案里参院議員の秘書ら2人を起訴 公選法違反(ANNnewsCH 2020/03/24)

森友学園への国有地不正払い下げへの安倍夫人の関与、加計学園(岡山理科大学獣医学部)認可への安部総理の関与疑惑。そして桜を見る会における公職選挙法違反(買収)と、みずからへの疑惑を回避するための思惑をふくめて、検察人事に介入することで自陣営への訴追を封じようとした安倍総理の目論見の一端は、これで崩壊したことになる。

河井夫妻をターゲットにした広島地検の決断は、安倍政権の司法介入にたいする、検察当局の明確な意思表示であろう。そしてそれはそのまま、検察VS官邸という、司法権の独立をめぐる戦いに発展するのかもしれない。


◎[参考動画]河井案里議員にインタビュー(テレ東NEWS 2020/01/15)

それにしても、安倍総理の専権ともいえる閣議決議において検察官(黒川検事長)の定年延長の解釈変更をするという、ここまで露骨な司法介入があったのである。マスメディアの反応は鈍いと言わざるをえない。マスメディア批判では人後に劣らない夕刊紙の解説を聴こう。

「前代未聞の人事を発令してまで定年が延長されたのは、黒川検事長が安倍官邸と極めて近いからだ。安倍政権は、官邸に近い黒川検事長を検察トップである検事総長に就け、検察組織を官邸の支配下に置くつもりだ。法務省事情通がこう語る。」(日刊ゲンダイ)

「黒川検事長と菅官房長官が親しいのは、省内では誰もが知っている話です。黒川検事長を法務省の事務次官に抜擢したのも、東京高検検事長に就けたのも“菅人事”だとみられています」「本来、事務次官には、黒川さんと同期の林真琴・名古屋高検検事長(62)が就任するはずだったのに、ひっくり返した。」

この人事をめぐる官邸と検察の抗争は、じつは今回が初めてではない。2016年に法務省と検察庁は、林真琴刑事局長(当時)を事務次官に就けようとしていたところ、官邸がこの人事案を蹴っている。黒川弘務官房長(当時)を事務次官に据えたのである。このときも「これまでにない、政権の検察人事介入だ」(検察関係者)と、安倍政権の強権手法が批判されたものだ。


◎[参考動画]東京高検のトップに黒川弘務氏が就任 抱負語る(ANNnewsCH 2019/01/21)

◆再燃する森友学園不正下げ渡し疑惑

周知のとおり、黒川検事長は森友学園に関する公証記録の財務官僚による改ざん不起訴の当時、法務事務次官だった人物である。安倍政権寄りとされる所以である。今回、森友学園不正認可疑惑については赤木俊夫さんの遺書が明らかになり、文書改ざんが佐川宣寿元理財局長(パワハラ官僚)の全面的な指示でおこなわれたことが明白になった。さらには、遺族によって「調べられなければならないのは、安倍総理と麻生大臣」だと指弾されてもいる。

「週刊文春」3月26日号 に掲載された「森友自殺〈財務省〉職員遺書全文公開 『すべて佐川局長の指示です』」によれば、安倍総理の佐川局長へのメモによる「指示」も明らかになっている(記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のもの。2018年4月9日初公開)。

「学校法人『森友学園』への国有地売却を巡り、財務省の佐川宣寿理財局長(当時)は野党の質問攻めに忙殺されていた。委員会室で10数メートル先に座る首相の安倍晋三の秘書官の一人が佐川氏に歩み寄り、1枚のメモを手渡した。

『もっと強気で行け。PMより」
『PM』は『プライムミニスター(首相)』、即ち安倍首相を指す官僚たちの略語である。」

ふつうの政治的な常識が健在の社会ならば、考えられない。もう政権はボロボロになっているはずだ。みずからの不正払い下げへの関与を隠ぺいするために、官僚に「強気で(隠せ)」と指示し、その隠ぺい工作の下には無辜の下級官吏が責任を感じて自殺している。いわば万骨枯れる状態で生き延びた政治家。それが安倍総理なのである。そして、みずからの政治生命を延命するために、民主主義の根幹である三権分立すら人事権を行使して骨抜きにする。これでは北朝鮮や中国と変るところがない独裁国家ではないか。しかも独裁をこのむ国民たちによって、安倍政権は維持されている。だが、無理を通せば道理が引っ込む。無理を重ねれば、かならず矛盾が政権そのものを崩壊にみちびくと予言しておこう。ほかならぬ人事介入した検察の叛乱、いや順法行為によって安倍政権は危機に瀕するはずだ。


◎[参考動画]【報ステ】「佐川局長の指示」自殺した職員の手記(ANNnewsCH 2020/03/19)

◆検察官たちは法律家としてのプライドを!

二度にわたる人事介入によって、さすがに検察当局のうっ憤をつのらせている。
森友学園・加計学園をめぐる財務官僚・文部官僚や桜を見る会における内閣府のように、ハイそうですかと忖度するほど、検察庁はなさけない奴隷官庁ではないことがわかった。腐っても三権分立の司法権を体現する、すくなくとも個々の検事たちは独自の権力思想でその精神が構成されている。したがって、安倍と菅が思いどおりに動かそうとするほど、そこには独自権力としての反発が醸成されるのだ。そして検察官諸個人には、いまこそ法律家としてのプライドをもって職務に忠実であることがもとめられる。佐川宣寿および彼の偽証を使嗾した安倍晋三、麻生太郎を訴追せよ。


◎[参考動画]総理「一切関わっていない」森友学園への国有地売却(ANNnewsCH 2017/02/24)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号
鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

元弟子に訴えられた「ビートたけし再婚相手」が訴訟の書面で過激反論〈後編〉

芸能界の重鎮・ビートたけしの再婚相手で、現在の所属事務所『T.Nゴン』の役員を務める女性A子氏について、週刊誌などでネガティブな情報が続々と報じられている。

そんな中、たけしの元弟子・石塚康介氏がA子氏からパワハラ被害を受けたとして、A子氏とたけしの所属事務所『T.Nゴン』に1000万円の損害賠償を請求した訴訟では、A子氏側(代理人弁護士は矢田次男、鳥居江美、金森四季の3氏)が答弁書で石塚氏(代理人弁護士は湯澤功栄氏)の主張を全面的に否定するところか、石塚氏の人間性も否定したに等しい過激な反論をしている。

その内容を前編に引き続き、紹介する。

石塚氏は『週刊新潮』誌上でA子氏からのパワハラ被害を実名告発した。その記事は『デイリー新潮』にも掲載された(『週刊新潮』2019年11月21日号掲載)

◆報酬は「月40万円」支払っていたと主張

答弁書におけるA子氏側の主張によると、俳優志望だった石塚氏は2010年頃に1年近く、たけしが毎週仕事のために出向く飲食店の近くに立ち続けて弟子入りを懇願し、弟子入りを果たしたのだという。そしてその後、石塚氏が『T.Nゴン』で雇用されるに至った経緯について、A子氏側は「たけしの好意」だったように主張している。次のように。

〈妻子のいる原告(引用者注・石塚氏のこと。以下同じ)の生活が成り立たないことを心配した社長(引用者注・たけしのこと。以下同じ)は、原告に対して、原告が俳優としての活動を優先させることを奨励しつつ、それ以外の時間において、社長の弟子としての諸業務のほかにも、被告会社(引用者注・『T.Nゴン』のこと。以下同じ)の雑務の一部を業務委託することとし、それら一切の業務履行の対価として月額40万円の報酬を支払うこととし、被告会社と原告とでこれを合意した〉

『T.Nゴン』が石塚氏に月40万円の報酬を支払っていたという話が事実ならば、単純計算で同社が石塚氏に支払っていた1年あたりの報酬は480万円だったことになる。A子氏側としては、石塚氏が妻子との生活を成り立たせることができたのは、たけしのおかげだと言いたいのかもしれない。

◆石塚氏のことを“恩をあだで返した人物”であるかのように主張

さらにA子氏側は答弁書において、たけしの弟子であったことは俳優志望の石塚氏にとって大きなメリットであったように主張している。次のように。

〈(引用者注・石塚氏は)社長のタレント活動の現場に同行したり、芸能活動に必要な雑務を手伝うことにより、俳優やタレントとして活動する上で必要な芸能界の常識を習得したり、知識、見識を深めたり、芸能界における人脈づくりをする機会を得ていた〉

また、A子氏側は答弁書で石塚氏について、〈社長の紹介、後押しにより、俳優として映画、ドラマ等に出演する機会を得ていた〉と主張。とくに、たけしの監督作品である映画『アウトレイジ ビヨンド』と『アウトレイジ 最終章』に石塚氏が出演していることについては、たけしの存在あってこその出演であったように強調している。次のように。

〈他の出演者は名だたる俳優ばかりという中で、まだ無名でキャリアも浅い原告がこれらの映画に出演する機会を得ることができたのは、社長の後押しがあってこそである〉

A子氏側の答弁書を見ていると、石塚氏のことを「たけしに散々面倒をみてもらっておきながら、恩をあだで返した人物」であるかのように非難している印象が否めない。

◆パワハラ被害を訴える石塚氏に対し、「社会人としての常識すら欠く」と反論

A子氏側の答弁書における主張のクライマックスは、次の部分だ。

〈原告は、特に取締役(引用者注・A子さんのこと)に対して、挨拶や話が聞こえないふりをして無視して返事をしないといった嫌がらせを度々行い、それを注意されても繰り返すという態度であったため、2019年7月30日、取締役が再度これを注意したところ、取締役に対して、「てめー、この野郎」「クソ女」「馬鹿野郎、ふざけんな」などと大声で怒鳴り、暴言についても謝罪しようとせず、そのまま一方的に被告会社を去ったものであり、社会人としての常識すら欠く対応を行っていたのはむしろ原告である〉

このA子氏側の主張を信じていいのか否かは現時点で判定不能だ。現時点で確実にわかることは、A子氏側がパワハラ被害を訴える石塚氏のことを「社会人としての常識すら欠く」人物であるかのように言い、「こちらこそ被害者だ」という趣旨の主張をしているということだ。A子氏側が答弁書で繰り広げた石塚氏への反論について、筆者が「石塚氏の人間性も否定したに等しい」と評した理由がこれでおわかり頂けたことだろう。

A子氏側は答弁書において、〈こうした原告の問題行動及びそれに対する被告会社の注意の詳細に関する主張立証については、原告の主張の整理を待った上で行っていく予定である〉と明言している。つまり、今後も石塚氏の人間性を否定するような反論をしていく意向とみられる。

一方、石塚氏も『週刊新潮』誌上でA子氏から受けたパワハラ被害を実名告発した際には、〈カメラで監視され、24時間、いつ理不尽なメールや電話が来るか分からない地獄の生活が続いたことで、ストレスで胃が痛み、夏なのにどうしようもなく寒く感じられ、鼻水が止まらなくなってしまい、私は仕事の途中に公園で倒れ込むようになってしまいました〉などと切々と訴えている(※)。訴訟の中でA子氏から人間性を批判するような反論をされたら、石塚氏も当然、再反論するはずだ。

現時点でどちらの言い分が正しいのかは判定しかねるが、この訴訟の行方は今後も注視し、めぼしい新情報が入手できれば報告したい。(了)

※石塚氏がA子氏から受けたパワハラ被害などを実名告白した『週刊新潮』2019年11月21日号の記事は、『デイリー新潮』でも3回に分けて掲載されている。〈〉内の石塚氏の主張は、その『デイリー新潮』の3回目の記事〈ビートたけし弟子が愛人をパワハラで提訴 「これ以上殿を孤立させないために」実名告発〉(https://www.dailyshincho.jp/article/2019/11220800/?all=1)から引用した。

▼片岡健(かたおか けん)
全国各地で新旧様々な事件を取材している。近著に『平成監獄面会記』(笠倉出版社)。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会物語」』(同)も発売中。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号
「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

《NO NUKES voice》バリケードの向こう側の日常 ── 3月14日、華々しいJR常磐線全線再開の陰で 民の声新聞 鈴木博喜

3月14日、JR常磐線が華々しく全線再開された。再開直前の10日に駅周辺のごく一部が避難指示解除され、〝復興五輪〟の聖火リレーも26日から予定通りに行われる。原発事故から10年目の福島県・浜通りは〝復興〟に大きく前進したと国内外に発信される。

もちろん、鉄道の再開などインフラの整備は原発事故前の生活を取り戻すのに大きな要素となる。一方で厳しい現実もまだまだある。9年ぶりに乗り降りが始まった夜ノ森駅の周辺をほんの少し歩くだけでも、原発事故が奪っってしまった日常がそこにはある。祝賀ムードに水を差すようで申し訳ないが、やはりJR常磐線再開の「影」をきちんと確認しておきたい。

3月22日投開票の町議会議員選挙でも「夜ノ森駅周辺の活性化」を子や国掲げる候補者がいるが、現実は厳しい
閑散とした夜ノ森駅前。駅には自動販売機もトイレも無く、駅舎の外に仮設トイレが設置されている。目に入るのは立ち入りを制限するバリケードばかり
「自由に乗り降り出来るようになった」のは駅周辺の限られた区域だけ。夜ノ森駅を降りると、「通行証」と書かれた看板がすぐに目に入る。常磐線の乗務員も「全ての駅で降りる事は出来ますが、何もありませんよ」と話していた
夜ノ森駅前の酒店も理容室も、あらゆる日常がバリケードの向こう側に行ってしまった。原発事故が奪ったものは、鉄道が再開されても簡単には戻らない
「のこすもの!」があれば「泣く泣く残せなかった物」がある。夜ノ森駅で降りる人たちには、そういう事にも思いを馳せて欲しい
「原子力災害時避難・集合場所」に身を寄せれば終わりでは無かった。避難生活は9年を超えた
富岡町が設置した線量計は0.57μSv/h。「ここまで下がった」ととらえるか「まだこんなに高い」と考えるかは住民の間でも分かれるだろう
夜ノ森駅構内の空間線量は0.210μSv/h。中通りに設置されているモニタリングポスト(リアルタイム線量測定システム)の数値より高い

▼鈴木博喜(すずき ひろき)

神奈川県横須賀市生まれ、48歳。地方紙記者を経て、2011年より「民の声新聞」発行人。高速バスで福島県中通りに通いながら、原発事故に伴う被曝問題を中心に避難者訴訟や避難者支援問題、〝復興五輪〟、台風19号水害などの取材を続けている。記事は http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/ で無料で読めます。氏名などの登録は不要。取材費の応援(カンパ)は大歓迎です。

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

◎紙媒体版   https://www.amazon.co.jp/dp/B085RRT815/ 
◎電子書籍版 https://www.amazon.co.jp/dp/B07RX7H5XQ/

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安倍政権下の日本は、欧米列強に抗って、感染覚悟の空洞五輪に暴走するか?

アメリカの水泳連盟が、東京オリンピックの一年間延期を提言した。すなわち、同連盟はアメリカオリンピック委員会に書簡を送り、「いまとるべき責任ある行動は選手の健康と安全を最優先することだ」「選手たちに具体的な道筋を示し2021年の安全な大会に向け準備させるための解決策だ」として、アメリカオリンピック委員会に声をあげるよう要求したのである。


◎[参考動画]米水泳連盟「東京五輪1年延期すべき」仏水連からも(ANNnewsCH 2020/03/21)

おなじくアメリカのオリンピック・パラリンピック委員会も3月20日、「東京五輪の運命を決めるにはもっと時間が必要」との認識を示し、傘下の主要競技連盟が、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)をめぐる大会の延期を要求している。

代表選手の選出や派遣を担う競技連盟が「大会の1年間延期」を求めたのは、五輪史上初めてとされる。過去にオリンピックが戦争で中止されたことはあっても、4年に一度の定款から、延期がなかったからだ。

すでに2月下旬に、IOC(国際オリンピック委員会)のディック・パウンド委員が、新型コロナウイルスの感染拡大で東京オリンピック中止の可能性に言及している。これに連動してJOC委員からも同調する発言があり、森会長および日本政府は色めき立って発言打消しに奔走したものだ。


◎[参考動画]「とんでもないこと」森会長 五輪延期発言に猛反論(ANNnewsCH 2020/03/11)

3月19日にはIOCのジョン・コーツ調整委員長が英紙「ガーディアン」の質問に応じて、「9月または10月に延期することは可能かどうかの質問に対し「それは可能だ。現時点ではどんな可能性もある」と答えている。

だが、一年間延期については、「それは表面上簡単な提案のように思える。ただ、世界選手権大会はあなた方が話している日付(2021年8月6日から15日)と全く同じであるため、1つ降ろすと言うほど簡単ではない」としている。一年延期したら、五輪が世界選手権とバッティングしてしまうというのだ。

コーツ調整委員長といえば、マラソン開催を東京から札幌に移転させた実力派の委員である。次期会長ともいわれるコーツ委員長の影響力は大きいものがあるという。

JOCでは、ソウル五輪柔道女子銅メダリストの山口香理事が「毎日新聞」の取材に応じ、新型コロナウイルスの感染拡大で開催が懸念されている東京オリンピックについて「アスリートが十分に練習できていない現状では延期すべきだ」とする。さらに山口理事は「延期の議論すらできない空気はおかしい。マラソン・競歩の札幌移転のように、IOCの突然の決定は許されない。判断の時期や条件などオープンに議論すれば、選手や関係者も心の準備ができる」と話したという(3月20日)。

ほかにも、ソチ冬季五輪のアイスホッケー女子でカナダの4連覇に貢献したへーリー・ウィッケンハイザーIOC委員は、東京五輪を予定通り開催することは「無神経で無責任な行為。この危機は五輪よりも深刻だ」と自身のツイッターで非難したという。スペインオリンピック委員会のアレハンドロ・ブランコ会長は、選手が練習もできない状況に追い込まれていることに「最も重要なことは選手たちが練習することができず、不平等な状況にあることだ。このままでは選手を公平に開催地に送ることができない」と延期を希望している。

委員ばかりではない。リオ五輪の陸上女子棒高跳び金メダリストのエカテリニ・ステファニディ(ギリシャ)は「IOCは練習を続けさせることで私たちや家族の健康、公衆衛生を危険にさらしたいの?」と自身のツイッターで怒りを表明している。陸上男子800メートルのガイ・リアマンス(イギリス)も「五輪の成功を望んでいるが、実現するためにはイベントを延期する必要があると強く信じている」と延期を訴えている。

もはや7月開催から秋開催、もしくは一年間延期には流れができてしまい、7月開催の変更が規定事実になったかのようだ。


◎[参考動画]IOC会長「異なるシナリオも」五輪延期を示唆?(ANNnewsCH 2020/03/20)

◆中止を誰が決めるのか?

もともとアメリカ3大放送ネットワークが、秋の大リーグプレイオフやアメリカンフットボール、バスケットボールなどの人気スポーツ番組とのバッティングを避けて、メインスポンサーの立場から強要してきた夏五輪の7月開催である。昨年7月の猛暑を体験しているわれわれ日本人には、最初から到底信じられない日程だった。

前出のパウンド委員は「(コロナウイルスの)事態が終息しなければ、東京オリンピックの中止を検討するだろう」と、5月までの判断が必要だと語っている。米3大ネットワーク(スポンサー)の了解がなければ、延期ではなく中止が濃厚と観測されているのだ。一年延期の現実性のなさは、コーツ調整委員長が言うとおり世界選手権とのバッティングに明らかだ。

それでは誰がいつ、中止の決断をするのだろうか? 結論から言えば、このままズルズルと決断できないまま、5月末に至って「中止」が発表されるのではないだろうか。それはIOC単独の決断ということになるだろうと、わたしは思う。なぜならば、わが安倍総理に五輪経済にしぼってきた「国運」を左右し、国際的な責任も問われる開催中止の「決断」は、ほぼ無理だろうと思うからだ。

そして最も懸念されるのは、コロナウイルスの終息がままならない状態で、7月開催になだれ込んでしまうことだ。IOCがJOCおよび日本政府、東京都に判断をゆだねた場合、その怖れは非常に高くなるはずだ。責任の所在が混在化し、責任を取りたくない政治家およびJOC委員たちの資質から考えて、この可能性は残念ながら高い。

そのさいは、各国から歯が欠けたように選手が派遣されないまま、感染覚悟の日本選手団とわが国民、そしていくばくかの海外選手の参加による空洞五輪として、オリンピック史上に「燦然とかがやく」ことになるのではないか。いや、参加することに意義があるのだから、それもいいかもしれない。このさい観客抜き(観客抜きはない、と安倍総理は明言しているが)でも選手抜きでも、五輪大会開催を祝おうではありませんか。


◎[参考動画]「Rio to Tokyo」Rio Olympic(HISTORY CHANNEL 2016/09/30)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)

編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

いまこそタブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号
鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

天皇制はどこからやって来たのか〈05〉公武合体とその悲劇

◆中世・近世の公武合体

公武合体という名称は、幕末の幕府と雄藩の協調運動の代名詞である。幕末の尊王運動を幕藩体制のなかに取り込み、外圧に対する挙国体制を意味している。天皇を報じて夷敵を撃つ、尊王攘夷運動とは相容れない、しかし当時は斬新な提案であった。

現在の天皇制も、武力をそなえた政権と結合することで、公武政権の発展した形態とみなすことが可能だ。皇室および皇族が純粋な文化的な存在として、京都に逼塞すべきだとわたしが思うのは、現在のあり方が伝統的な禁裏ではないと考えるからだ。どうしても日本人が天皇および皇室を必要とするならば、現在のような政治権力に振りまわされ、利用される様式は美しくないばかりか、かならず矛盾をきたして崩壊するだろう。

武士

それはともかく、鎌倉府が成立した中世以降、公武合体は何度も試みられてきた政体である。最初は後鳥羽天皇の時代に、親幕府派の九条兼実が行なった鎌倉幕府との提携である。天皇を頂点に貴族が伝統的な有職故実を踏襲しつつ、武家政権が軍事的に補完する。その理想は九条兼実の弟である慈円の『愚管抄』にくわしい。

後鳥羽天皇は三種の神器がないまま即位したが、失われた神剣を補完するものこそ鎌倉府だとしている。そこでは朝廷と鎌倉幕府は政権を分担する役割に過ぎず、位階の執行者としての天皇の権威が尊重されるいっぽう、武家の軍事的な役割も明白だ。公武が協調しようというのだから。

それは幕府を開いた源頼朝にとっても同様だった。頼朝は征夷大将軍を拝領すると、政子との愛娘・大姫を後鳥羽天皇のもとに嫁さしめようとした。そのために頼朝は、朝廷とのパイプ役であった九条兼実ではなく、平氏政権・後白河政権・源氏のあいだを鵺のように振舞ってきた源(土御門)通親(みちちか)および後白河院の寵姫だった丹後局こと高階栄子(えいし)に接近し、公武の結びつきを強めている。この頼朝の政治選択は、彼の中央貴族出身ゆえの限界だと評価されている。しかも大姫は二十歳の若さで夭折してしまう。幼いころに木曽義仲の子・義高と結婚し、頼朝と義仲の関係が破綻したのちに、大姫は父に夫を殺されている。心の傷は癒えてなかったのであろうか。

いっぽう上皇となった後鳥羽帝は、政体の形式的な役割性だけを見ているわけではなかった。政権の実質が荘園の支配権にあることをリアルに感じ取っていたのである。承久の変とは、西国の荘園支配権をどうするのか。鎌倉府の支配権を削ぎ落すことにこそ、上皇の関心はあったのだ。その結果は、このシリーズの第4回「武士と戦った天皇たち」を参照されたい。

◆和子入内

朝廷との結びつきを強くすることで、政権基盤を安定させようとしたのは江戸幕府も同様だった。秀忠とお江のあいだに和子が生まれたころから、家康は公武合体の構想を抱いていたようだ。

後陽成天皇が譲位すると、家康は天皇の弟の八条宮智仁親王が秀吉の養子になったことがあるので、その即位に反対した。天皇の子である政仁親王、すなわち後水尾天皇を推したのである。3年後の慶長19年には朝廷から和子入内の内旨がくだる。後水尾天皇に別腹の皇子(賀茂宮)と皇女(梅宮)が生まれるなど、幕府を不快にさせる経緯はあったものの、史上はじめて武家の娘が入内した。

ちなみに平清盛の徳子(建礼門院)の場合は後白河法皇の猶子としての入内であるから、先例とはならない。のちに後水尾天皇と幕府の間には紫衣事件や春日局の参内など、穏やかならぬ出来事がつづき、突如として譲位することになる。天皇が皇位を譲ったのは、幕府の神経を逆なでするように女帝(明正天皇)だった。女帝は結婚できないから、徳川家の血は皇統に入ることはなかったのだ。

いっぽう、家光の御台所が鷹司孝子であることは、あまり知られていないかもしれない。というのも、婚儀してまもなく中の丸(吹上)に軟禁されるように移され、生涯を通じて家光と会うことはなかったからだ。鷹司家は藤原氏北家流の五摂家のひとつである。

◆和宮降嫁

皇女和宮(かずのみや)

ここまで見たとおり、公武合体は政権の基盤を盤石にするための政策である。その意味では、本人たちの意志とは無関係に企図され、強引に実行される。それはしばしば悲劇を生むものだ。十四代将軍徳川家茂に嫁いだ和宮親子の場合も、婚約者から引き離される縁談だった。

頼朝の娘・大姫は無理やり後鳥羽天皇のもとに入内させられそうになったが、皇女和宮の場合は熾仁親王と婚約していた。兄の孝明天皇は婚約を理由に和宮の降嫁を断るが、幕府側は執拗だった。京都所司代の酒井忠義を通じて、再三の奏請があった。侍従の岩倉具視が考えた策は、幕府にアメリカとの条約を破棄させ、攘夷を断行させるのを、和宮降嫁の条件とするものだった。ところが和宮が昇殿して、徳川家との縁組をかたく辞退した。

和宮の反応に困った孝明天皇は、以下のとおり宣言する。和宮があくまで辞退するなら、前年に生まれた皇女・寿万宮を代わりに降嫁させる。幕府がこれを承知しなければ、自分は責任をとって譲位し、和宮も林丘寺に入れて尼とする。この乱暴な通告は久我建通の策を容れたものだった。和宮が折れて、攘夷と挙国一致をめざす公武合体が成立した。

降嫁した和宮は家茂と仲睦まじく、家茂が上洛したおりにはお百度を踏むなど愛情をしめしている。幕末の騒乱のなか、和宮は家茂亡きあとも江戸城にとどまり、天璋院とともに和平に奔走したのはつとに知られるところだ。

ちなみに、明治天皇の皇妃は一条美子(昭憲皇太后)だが子はなく、大正天皇は柳原愛子(公家)が母親である。大正天皇の皇妃・九条節子(貞明皇后)も公家の出身であり、昭和天皇の皇妃・香淳皇后は母方が島津家の血筋を継いでいる。

◎《連載特集》横山茂彦-天皇制はどこからやって来たのか
〈01〉天皇の誕生
〈02〉記紀の天皇たちは実在したか
〈03〉院政という二重権力、わが国にしかない政体
〈04〉武士と戦った天皇たち
〈05〉公武合体とその悲劇

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
編集者・著述業。「アウトロージャパン」(太田出版)「情況」(情況出版)編集長、最近の編集の仕事に『政治の現象学 あるいはアジテーターの遍歴史』(長崎浩著、世界書院)など。近著に『山口組と戦国大名』(サイゾー)『日本史の新常識』(文春新書)『男組の時代』(明月堂書店)など。

タブーなき言論を! 月刊『紙の爆弾』2020年4月号
『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』

《NO NUKES VOICE》福島県浪江町の自宅が3月25日にも鹿島建設に解体される今野寿美雄さんに聞いた福島第一原発事故からの9年間〈3〉 尾崎美代子

子ども脱被ばく裁判原告団長の今野寿美雄(こんの・すみお)さんは、9年前の震災と原発事故後、当時住んでいた福島県浪江町から妻と息子とともに避難を続け、現在は福島市内の復興住宅で生活を送っている。2月初め、Facebookで今野さんが「解体のため、今春、鹿島建設に玄関のカギを渡さなければなりません。環境省から引き渡しを迫られています。昨年、11月末に現地立ち合いをしたところ、令和2年(2020年)3月25日が工期だといわれましたが、そんな話は寝耳に水でした。今まで工期について一切、説明もなければ、連絡もありませんでした」と投稿していた。今野さんに何が起きたのか、お話を伺った。全3回に分けて報告する。聞き手・構成=尾崎美代子)

3月4日、福島地裁で開かれた子ども脱被ばく裁判の公判前、地裁前でアピールする今野さん(Toshiko Okadaさん提供)

◆浪江訴訟──小早川社長になってから態度がゴロっとかわった東電

── 今野さんは現在、2つの裁判にかかわっていますが、1つは浪江訴訟。こちらは浪江の住民の皆さんが、原発事故の慰謝料の増額を要求していた原発ADRで、東電が和解案を6回も拒否して決裂したため、2018年4月17日、本格的な裁判を提訴して始まった裁判ですね? ADRを闘ってきた人たちは、東電に6回も拒否され、がっくりだったしょうね?

今野 ADRでは、精神的賠償の35万円の金額が10万円しか賠償されなかったので、あとの25万円を支払えと訴えていたわけです。東電は、和解案をずっと拒否してきた。最終的に中間指針で「5万円支払え」となり、住民側は受け入れたのに、東電はそれも拒否したわけです。個別の請求では、東電の現場の職員は一生懸命聞いてくれるわけですよ。俺たちのことを考えて。でも本店にもっていくと断られてしまう。

東電は、社長が前の広瀬さんから小早川さんに変わりましたが、彼が一番ひどいです。広瀬さんは、まだ要求を受けるようなことをいっていたが、小早川さんになってから態度がゴロっとかわった。私が個別に請求した分、1200万円も棄却されました。

── 本格的な裁判となるとハードルが高く、どこでもですが、おのずと原告の数は減りますね?

今野 そうです。ADRのときは、裁判費用も削除かからないし、早くに解決できると思い、浪江町の7割もの住民が参加しました。でも東電が拒否し続け、その間に亡くなった人も大勢いました。今度の裁判は、長くかかるのであきらめた人、それから損害賠償は着手金や印紙代金が高いこともあり、経済的な理由などで参加しない人も多く、原告の数は減りました。うちは、子ども脱被ばく裁判とのかねあいもあって、第四次で加わりました。裁判費用は家族3人で16万円かかりました。

息子さんと復興住宅にて(今野さん提供)

◆子ども脱被ばく裁判──3月4日、山下俊一氏が証人尋問に立つ

── もう一つが、「子ども脱被ばく裁判」(福島県在住の小・中学生らが、年間1ミリシーベルトを下回る地域での教育を求めて、国や福島県、市町村を訴えている裁判)、こちらの裁判の原告団長になった経緯からお聞かせください。

今野 最初は別の人がやっていましたが、その方が病気になったりして、いったん団長が不在の期間が続きました。でもやっぱり団長を置かないといけないとなり、僕が抜擢されました。職業柄、放射能のことは詳しかったからね。裁判では、通学している学校周辺の土壌を調査した結果を証拠として提出しています。きちんと測ったものを資料として提出しなくてはならないからね。土壌は、私と仲間で採取したものを、京都で測定してもらいました。また、空間線量も仲間と測りました。

── こちらの裁判に3月4日、いよいよ「毎時100ミリシーベルトまで大丈夫」「ニコニコしている人に、放射能は来ない」発言の山下俊一さんが証人尋問に立ちますね?

今野 そうです。あともう一人、重要な人物が前回の裁判で証人として出廷しています。福島県立医科大学の鈴木眞一教授です。彼は、実際、多くの小児性甲状腺がんの子どもを手術していますからね。彼はずっと忙しいと逃げてました。いったんは出張裁判をするとなりましたが、最終的には裁判所が「出廷しなさい」と命令しました。

── 傍聴には福島の方々はどのくらい集まりますか? またどのような判決になると予想しますか?

今野 原告の人たちは、子供が小さいし、仕事があるから、そうそう皆さん、傍聴にはいけていません。子どもを迎えにいかなくてはならないから、裁判の途中で帰らなければならない人もいます。判決はどうなるかは、全くわかりません。ただ福島では生業訴訟で勝訴の判決がでていて、一部控訴した部分もありますが、それも先日仙台高裁で結審しています。一方、東電刑事訴訟など悪い判決もあるし、そうしたほかの裁判の結果もまた影響してくると思います。どうなるかはわかりませんね。


◎[参考動画]山下俊一トンデモ発言(2011/05/08)

3月4日、福島地裁前(Toshiko Okadaさん提供)

◆「復興五輪」──復興なんて無理ですよ、元に戻ることはないから

── 7月から始まる東京五輪についてお聞きします。先日、Jヴレッジで「オリンピック反対」のスタンディングが行われましたが?

今野 全国から50人くらい集まって、プラカードに日本語だけではなく英語、韓国語、フランス語などいろんな国の文字で思いを書いてアピールしました。国道6号線にずらりと並んで。車で行き来する人たちも見ますが、それが全国、全世界に報道されたのだから、影響は大きかったと思います。地元では、僕も何度も取材をうけた東京のTBS系列のテレビユー福島が夕方のニュースで報じていました。

── 福島のなかでは「東京五輪」への歓迎ムードはあるのでしょうか?

今野 俺の周辺では、浪江訴訟の仲間も津島訴訟の仲間のなかにも、全くない。聖火リレーだって、いいところばかりをちょこっと走って、それをつなげるだけ。それでは福島の現実は伝わりませんよ。復興した印象を持たせようと、廃墟のある場所や更地になった場所は、走りません。Jヴレッジや新しくできたハコモノの周辺等のいいとこどりです。

── 2月12日、「ひだんれん」で行った記者会見でも、いま行われている「復興」はうその復興と話されてましたが、では「本当の復興」はどうすれば成し遂げられるとお考えですか?

今野 復興なんて無理ですよ。元に戻ることはないから。復興とは、復旧が終わって再び興すことです。復旧とは、元に戻すことです。復旧が出来ていないのに復興することは出来ません。

◆原発で一緒に働いていた同級生の仲間が2人、50歳で亡くなった

── 確かにそうですね。今野さんの元の同僚の方はどうなさっていますか?

今野 事故後に原発の仕事辞めた同僚は、半分くらいいます。ほかにも事故を機に辞めた仲間はいっぱいいます。福一に戻った同僚からは発電所の現状や思っていることを「俺たちは言えないから代わりに言ってくれ」と言われています。 

じつは原発で一緒に働いていた同級生の仲間が2人、50歳で亡くなっています。死因はわからない。事故から3年後です。新聞のお悔み欄で見つけたり、人から聞いたりして知りました。2人が事故後に原発に入っていたかどうかもわかりません。表にでてこない話だから。あと同級生の女性も50歳で亡くなりました。津島地区の人ですが、やっぱり死因はわからない。病気になり闘病生活送ったとかではなく、みんな、急に亡くなっています。

ほかにも、以前浪江に住んでいた近所の人で、50歳代で亡くなった人が3人います。会社の先輩、一緒に仕事していた仲間、それと幼稚園の園長先生。この前、花をあげてきましたが、みなさん、50台後半、家族を残してね。

── 1人だけならまだしも立て続けに何人もって、おかしいですよね?

今野 絶対おかしいですよ。50歳台で突然亡くなること自体がそうそうないでしょう。ほかの人たちは話さないが、俺は話します。でもその原因が被ばくとは言っていない。ただ「こういう現実がありますよ」と話します。被ばくとの因果関係はわからないが、異常だと思うよと。考えられる要因としては、そこしかないだろうと話します。

── 残されたご家族も無念だし、「これはおかしい」と考えられるでしょうね?

今野 思っていても証明できないから、しょうがないですよね。医者だって言えないしね。死亡欄には「心不全」と書いてあるが、「その心不全に何故なったか?」と言われてもわからないわけです。僕ができるのは、とにかく事実を伝えることだけ、それしかありません。

── まだまだお聞きしたいことはありますが、今日はここまでといたします。長い時間どうもありがとうございました。(完)

(2020年2月29日/瀬戸大作さん提供)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故

『NO NUKES voice』Vol.23
紙の爆弾2020年4月号増刊
2020年3月11日発行
定価680円(本体618円+税)A5判/132ページ

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総力特集 〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
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[グラビア]福島原発被災地・沈黙の重さ(飛田晋秀さん

[インタビュー]菅 直人さん(元内閣総理大臣)
東電福島第一原発事故から九年の今、伝えたいこと

[インタビュー]飛田晋秀さん(福島県三春町在住写真家)
汚染されているから帰れない それが「福島の現実」

[報告]横山茂彦さん(編集者・著述業)
元東電「炉心屋」木村俊雄さんが語る〈福島ドライアウト〉の真相

[報告]尾崎美代子さん(西成「集い処はな」店主)
車両整備士、猪狩忠昭さんの突然死から見えてくる
原発収束作業現場の〈尊厳なき過酷労働〉

[報告]伊達信夫さん(原発事故広域避難者団体役員)
《徹底検証》「原発事故避難」これまでと現在〈7〉
事故発生から九年を迎える今の、事故原発と避難者の状況

[報告]鈴木博喜さん(『民の声新聞』発行人)
奪われ、裏切られ、切り捨てられてきた原発事故被害者の九年間

[対談]四方田犬彦さん(比較文学者・映画史家)×板坂 剛さん(作家・舞踊家)
大衆のための反原発 ──
失われたカウンター・カルチャーをもとめて

[報告]本間 龍さん(著述家)
原発プロパガンダとは何か〈18〉
明らかになる福島リスコミの実態と功罪

[報告]山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)
「特定重大事故等対処施設」とは何か

[報告]三上 治さん(「経産省前テントひろば」スタッフ)
停滞する運動を超えて行く方向は何処に

[報告]山田悦子さん(甲山事件冤罪被害者)
山田悦子の語る世界〈7〉記憶と忘却の功罪(後編)   

[報告]佐藤雅彦さん(翻訳家)
5G=第5世代の放射線被曝の脅威

[報告]渡辺寿子さん(核開発に反対する会/たんぽぽ舎ボランティア)
「日本核武装」計画 米中対立の水面下で進む〈危険な話〉

[読者投稿]大今 歩さん(農業・高校講師)
原発廃絶に「自然エネ発電」は必要か──吉原毅氏(原自連会長)に反論する  

[報告]再稼働阻止全国ネットワーク
老朽原発を止めよう! 関西電力の原発と東海第二原発・他
「特重」のない原発を即時止めよう! 止めさせよう!

《関電包囲》木原壯林さん(若狭の原発を考える会)
「5・17老朽原発うごかすな!大集会inおおさか」に総結集し、
老朽原発廃炉を勝ち取り、原発のない、人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しよう!

《規制委》木村雅英さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
1・24院内ヒアリング集会が示す原子力規制委員会の再稼働推進
女川審査は回答拒否、特重は矛盾だらけ、新検査制度で定期点検期間短縮?

《全国》柳田 真さん(たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワーク)
原発の現局面と私たちの課題・方向

《北海道・泊原発》佐藤英行さん(岩内原発問題研究会)
北海道電力泊原子力発電所はトラブル続き

《東北電力・女川原発》笹氣詳子さん(みやぎ脱原発・風の会)
復興に原発はいらない、真の豊かさを求めて
被災した女川原発の再稼働を許さない、宮城の動き

《東電・柏崎刈羽原発》矢部忠夫さん(柏崎刈羽原発反対地元三団体共同代表)
柏崎刈羽原発再稼働は阻止できる

《関電・高浜原発》青山晴江さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
関西のリレーデモに参加して

《四国電力・伊方原発》名出真一さん(伊方から原発をなくす会)
三月二〇日伊方町伊方原発動かすな!現地集会 
レッドウイングパークからデモ行進。その後を行います。圧倒的結集をお願いいたします。

《九州電力・川内原発》けしば誠一さん(反原発自治体議員・市民連盟事務局次長/杉並区議会議員)
原発マネー不正追及、三月~五月川内原発・八月~一〇月高浜原発が停止
二〇二〇年は原発停止→老朽原発廃炉に向かう契機に!

《北陸電力・志賀原発》藤岡彰弘さん(命のネットワーク)
混迷続く「廃炉への道」 志賀原発を巡る近況報告

《読書案内》天野惠一さん(再稼働阻止全国ネットワーク)
『オリンピックの終わりの始まり』(谷口源太郎・コモンズ)

私たちは唯一の脱原発雑誌『NO NUKES voice』を応援しています!

《NO NUKES VOICE》福島県浪江町の自宅が3月25日にも鹿島建設に解体される今野寿美雄さんに聞いた福島第一原発事故からの9年間〈2〉 尾崎美代子

子ども脱被ばく裁判原告団長の今野寿美雄(こんの・すみお)さんは、9年前の震災と原発事故後、当時住んでいた福島県浪江町から妻と息子とともに避難を続け、現在は福島市内の復興住宅で生活を送っている。2月初め、Facebookで今野さんが「解体のため、今春、鹿島建設に玄関のカギを渡さなければなりません。環境省から引き渡しを迫られています。昨年、11月末に現地立ち合いをしたところ、令和2年(2020年)3月25日が工期だといわれましたが、そんな話は寝耳に水でした。今まで工期について一切、説明もなければ、連絡もありませんでした」と投稿していた。今野さんに何が起きたのか、お話を伺った。全3回に分けて報告する。(聞き手・構成=尾崎美代子)(聞き手・構成=尾崎美代子)

◆あの時の福島第一原発と女川原発の違い

── 3・11のとき、今野さんは宮城県の女川原発で被災したわけですが、福一の事態は予測できましたか?

今野 女川原発が津波に襲われた時点では、福島第一原発までが津波に襲われているとは知らなかった。自分たちの置かれた状況が悲惨すぎて、そこまで頭がまわらなかった。しばらくしてBSテレビを見たら、「電源喪失しました」「水位が低下しています」と言っているので、「これはやばい。もう終わりだ。爆発するな」と思っていたら、翌日1号機が爆発。そのとき、私は女川の職員に言ったんですよ。「1号機は一番小さいから最初に爆発したが、これは2号機も3号機も続けて爆発するからね」と。1号機は出力が小さい分、原子炉も格納容器も容量が小さいから、圧力が上がり易い。

── 実際、今野さんが福一の現場で働いていたから、予測できたのですね?

今野 そうなりますね。実際、そういう教育を受けてきた訳ですから。どうしたら、どういうトラブルがおきるかと想定して、それに対する設備をメンテナンスしていたわけですから。原発は、実はすごい巨大なシステムなんですね。その全体を判断できる人間はそういないです。当直長でさえ全てわかっている人はいないからね。

── 女川原発も相当ひどかったのですね。事故直後の周囲の空間線量が10μSv/hにまで上がり、外出禁止となり、中に今野さんら3000人近くの作業員が残されたということですが?

今野 ええ、女川も津波に襲われたからね。でもポンプが一台助かったのと、外部電源は喪失したが非常用電源で発電できたから、そこが福島第一原発と違うわけですよ。女川は非常用電源で4~5日間もちこたえた。ただ、津波で周囲の道路がズタズタに壊されたので、どこへもいけない状態が続いていたので、原発内にいました。食事はもともと売店にあった食料と、東北電力と関連会社が備蓄している食料を、ヘリで運んでもらい、地元の人たちに食べてもらったりしていました。僕たちはカップヌードルでもミニサイズで我慢して、デッカイのは地元の人に食べて貰いました。牡鹿半島に住む地元住民です。水は発電所に原水タンクがあったのでろ過して使用でき、ペットボトルの飲料水は地元の人達に優先して廻しました。

放射線管理手帳(今野さん提供)

◆事故後5日目、女川原発から福島へ戻る旅

── ご家族と連絡取れなくて、心配でしたね?

今野 当時、幼稚園の息子を妻が、朝、実家のじいちゃん、ばあちゃんの家に預けて仕事に出ていました。息子はそこからからバスで幼稚園に通っていた。津波は川を上ってくるが、幼稚園のバスのルートが川の近くだったので、「もしかしたらバスが襲われた可能性があるな」と不安でした。家族は家族で、私が津波に呑まれて死んでるんではないかと思っていたそうです。

── 5日目にようやく、女川原発から脱出したというこですが?

今野 そうです。3月15日、我慢の限界でした。「自己責任で構わない。家族のもとに行かせてくれ」と発電所長に許可を貰い、福島から一緒に行った仲間6人と東京から出張で来ていた仲間1人の8人で1台の車で出ました。

浪江の仲間が自分を入れて3人、原町1人、いわきから3人。とにかく浜通りは通れないから、行き先がない流浪の旅になった。いわきの人は郡山まで迎えにきてもらい帰り、俺たちはしょうがないので、新幹線で移動することになりました。そのころにはもう、家族と連絡がとれ、茨城県の古河の妻の親戚宅にいることがわかっていた。

ただ新幹線は那須塩原までしか走ってないので、そこまでどうやっていくかとなり、郡山駅からタクシーを貸し切り、2万5000円払って行きました。背に腹は代えられませんからね。途中乗り継いで、古河駅に妻のおじさんと息子が迎えに来てました。そこで、朝日新聞記者の青木美希さんが『地図から消される街』に書いてくれましたが、息子が「パパ生きてた! パパ足ついてる!」と言った感動の再会がありました。今でもはっきり覚えています。思い出すと涙が出てしまいます。

それから親せき宅に約10日いて、そこから避難所に行き、4月11日から猪苗代の旅館に移り、8月31日から福島市の飯坂温泉の借り上げ住宅に移りました。そこから4年たって、いまの福島市飯坂温泉の復興住宅に移りました。

── 事故後、浪江の家を見にいったのはいつ頃でしたか?

今野 その年の7月に皆でマイクロバスで行きました。防護服着て。放管(放射線管理員)の人も一緒で、線量計ったらとんでもない数値で「ヤバイ!ヤバイ! とっとと帰ろう」となりました。20~30分しか滞在しなかった。めちゃくちゃ線量が高かった。10μSv/h位ありました。植え込みや側溝の上は20~30μSv/h位ありました。通帳とか必要なものを持ち出しただけ。

3月15日女川原発を脱出し、家族のいる茨城県古賀市に逃げた時の新幹線の切符(今野さん提供)

◆柏崎刈羽原発の定期検査の監督をやってくれと言われたが、当時はそれどころではなかった

── 今野さんに、東電から「現場に戻れ」という指示はなかったのですか?

今野 逆ですね。現地のメーカー指導員は、メーカーから「一線から退け。被ばくして使えなくなってしまうから」と退去命令が出たそうです。当時はがれき撤去などの作業などだから、失礼な言い方ですが、誰にでもできる。僕たちがそんなことで被ばくして病気になったり、死んでしまったら、あとあと原発の技術面での作業に支障がおきて困ると、そうメーカー側は考えたのでしょう。

そのあと新潟県の柏崎原発の定期検査があるから監督やってくれと言われましたが、当時はそれどころではなかった。避難所の自治会長を頼まれたので、毎日避難者の面倒みたり、役場と連絡とったり、支援物資を仕分けして皆さんに配ったり、忙しくて、仕事したり、遊んでいる暇もありませんでした。

── 皆さん、体調などはどうでしたか?

今野 息子は、鼻血は出なかったが、風邪が非常に治りにくくなっていました。治ったと思ったら、またひくみたいな状態が続きました。免疫力が低下したのでしょうね。鼻血は私がよく出たね、井戸川さんと同じ。

── 鼻血騒動のバッシングは酷かったですね? 井戸川さん自身が「出た」というのに、嘘だといわれる?

今野 「風評被害だ」といわれましたね。俺だけじゃなくて、「私も」「俺も」という人が大勢いるのに。俺も最初は「血圧高いのかな?」と思った。それまで鼻血なんか、一切出たことないのに。でも血圧計ったら高くはない。原因は、避難所で放射性物質を鼻で吸い込んでいたからですよ。(つづく)

(2020年2月29日/瀬戸大作さん提供)

▼尾崎美代子(おざき みよこ)

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3・11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。
◎著者ツイッター(はなままさん)https://twitter.com/hanamama58

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『紙の爆弾』創刊─出版弾圧15周年!! 15年前の出来事を怒りを込めて振り返れ! われわれは、いかなる困難にも弾圧にも打ち勝った! 鹿砦社代表 松岡利康

15年前の2005年は、私たちにとって“特別の年”でした。この年の4月7日、『紙の爆弾』は創刊しました。

『紙の爆弾』創刊号(2005年5月号。4月7日発売)

そして、それからわずか3カ月後、あろうことか鹿砦社代表の私松岡が逮捕され、本社、松岡自宅、東京支社、関係先などに大掛かりな家宅捜索がなされ、さらには製本所、倉庫会社、大手取次3社、関西の主要書店3社などにも捜査が入りました。製本所、倉庫会社はともかく、普段は「表現の自由」「言論・出版の自由」という言葉を声高に叫ぶ大手取次や大型書店は、あっさり捜査に協力しました。少しは抵抗してほしかったな。

私は192日の長期勾留を強いられ、このかんに鹿砦社は機能停止、事務所閉鎖、壊滅的打撃を受けました。大晦日・正月を六甲の山の上(歴史的にも名のあるひよどり台)にある神戸拘置所で過ごしました。そうして、執行猶予付きながら懲役1年2カ月の有罪判決、民事でも600万円(一審は300万円、控訴審で2倍になりました)余りの賠償金が課されました。

そうした困難な情況でも、心ある多くの方々のご支援で『紙の爆弾』は、断続的ながら発行を続け、私の保釈後、鹿砦社は、自分で言うのも僭越ですが、奇跡的に復活することができました。正直、自分でも復活できるとは思ってもいませんでした。ただ、「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もある」と、懸命にもがき続けただけです。うまく「瀬」を摑むことができました。悪運が強いとしか言いようがありません。

松岡逮捕を報じる朝日新聞(大阪本社版)2005年7月12日朝刊

一方、弾圧の張本人、本件事件の責任者で当時の神戸地検特別刑事部長・大坪弘道検事は、大阪地検特捜部長に栄転、しかし厚労省郵便不正事件証拠隠滅に連座し逮捕され有罪、失脚しました。また、主任検事で松岡に手錠を掛けた宮本健志検事(地元甲子園出身!)は深夜に泥酔し暴れ拘束され、戒告・降格処分を受けました。

大坪弘道逮捕を報じる朝日新聞2010年10月2日朝刊
岡田和生逮捕を報じるロイター電子版2018年8月6日付け

さらに、松岡を刑事告訴し、賠償請求3億円もの巨額訴訟を起こした、警察癒着企業にして大手パチンコ企業アルゼ(現ユニバーサルエンターテインメント)の創業者社長(当時)岡田和生氏も海外で逮捕、みずからが作り育てた会社からも放逐されました。

まさに因果応報、人をハメた者は、必ずやみずからもハメられるという恰好の証左です。こうしたことを想起すると、この事件が、よからぬ輩に仕組まれたものだということが判るでしょう。
 
私たちは、『紙の爆弾』創刊(4月7日)─出版弾圧(7月12日)に至る過程で絶望的に地獄に落とされましたが、そうした攻撃や弾圧に打ち勝ち、『紙の爆弾』を継続発行し、さらに強くなり出版活動を持続しています。これほどの事態を乗り越えたのですから、もう何も怖くはありません。

『紙の爆弾』は、来月4月7日発売号(5月号)で創刊15周年を迎えますが、別冊「2005年に何が起きたのか?」を付けます。お支えいただいた皆様方に感謝し、死滅したジャーナリズムの中で、存在感のある出版活動を継続してゆくことを、あらためて決意するものです。共に闘いましょう!

『紙の爆弾』創刊―出版弾圧15周年を記念して、昨年の鹿砦社創業50周年に続き、今回は東京だけですが6月6日(土)に記念集会を予定しています(午後3時から、於・スペースたんぽぽ)。今から日程を調整され、ぜひともご参加お願いいたします。この種の記念集会は、これ以後しばらくはやらないつもりですので、特に昨年の集会に参加されなかった方のご参加をお願いする次第です。

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◆月刊『紙の爆弾』(定価600円/税込)は全国の書店にて発売していますが、なるべく定期購読をお願いいたします。1年(12号)分6600円(1号分お得)を郵便振替(01100-9-48334 口座名=株式会社鹿砦社)にて、お名前、ご住所、×号からを明記しご送金ください。お申し込みの方には特製ブックカバーを贈呈いたします。また、毎年12月には魂の書家・龍一郎揮毫によるカレンダーを送ります。

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創刊─出版弾圧15周年!! いまこそタブーなき言論を!月刊『紙の爆弾』2020年4月号
『NO NUKES voice』Vol.23 総力特集〈3・11〉から9年 終わらない福島第一原発事故
鹿砦社創業50周年記念出版『一九六九年 混沌と狂騒の時代』