このところ、出版業界の人が3人集まれば必ず、「書店はいつゼロになるのか」という話になる。
さまざまな統計を見ているが、ここ10年間で6000店前後の書店が減少している。和歌山県では、ここ数年で書店が半減した。

取次会社の営業マンが言う。
「この推移で行くと、向こう10年間で1万店を切るだろうと予想されている。出版社そのものの数は、おそらく2千もしくは1500くらいは残るかもしれないが、丸善にしても紀伊国屋書店にしても老舗の大型店からして赤字ですから、小売り店は、もう身を切っているでしょうね」

身近にある書店が減ることで、私たちの読書環境はどのように変わっていくのだろう。
私について言えば、もうこの2年くらい、「駅中」と言われている、駅のショッピングモールの中にある書店でしかほぼ、本を買わない。
このところの町の図書館の本の拡充ぶりはとみに充実していて、人気作は、順番待ちさえすれば、確実に読むことができる。
急ぐなら、300円程度払えば電子書籍で読める。もちろん書き手としては新刊で買っていただいたほうがいいに決まっているのだが、1か月もすればブックオフなどにズラリと並ぶ昨今では「新刊を買え」というのはあまりにもKYだ。

日本の出版業界は、イギリスのそれに近くなるのではないか。イギリスには出版社がランダムハウス、ペンギンブックス、テームズ・アンド・ハドソンなど14社程度しかない。
「イギリスの場合は、エージェンシーが著者やデザイナーなどを管理するシステムで、出版社は流通を賄うだけです。それでこと足りますから」(イギリス在住のライター)
映画の世界によく似たシステムだ。制作会社がつくった映画を、東宝や東映などほんの数社が配給する。当然、それなりにマージンが高い。
イギリスの出版界にせよ、日本の映画にせよ、流通を通さなければ話にもならない。マーケット王は流通なり、というわけだ。

「それでも、東野圭吾のミステリーや、原発事故を追跡した『プロメテウスの罠』などのノンフィクションは売れています。この金環日食のブームでは、サングラスつきの書籍が30万部以上も売り上げています。要するに、アイデアしだいなのでしょう」(出版エージェンシー)

過日、出版エージェンシーのスタッフと話をしていたが、「作家になったって食えない」と平然として言い切る。
要するに、ふだんは探偵であったり、司法書士であったり、生命保険調査員であったり、現役の教師だったりした人が「余技」で本を書くほうが、ネタが豊富でおもしろいのだ。素人がプロを凌駕しているのだ。本の売上げでもそう。

戦略も重要だ。塩谷瞬との二股交際で知られる料理研究家の園山某の本は、軒並み売り切れが続出で注文が殺到している。二股騒動はセールス戦略だったのではないか。塩谷の舞台は大赤字らしいが。
園山某の本は新宿の紀伊国屋書店ですら、1,2冊しかもう売れ残っていない。

大手出版社のマーケティング部門にいる知人は言う。
「デジタル書籍文化が進んでいないのが痛いですね。デジタル・フォーマットすることを考えると、書籍の内容自体は売れ行きと関係ない。例えば、読みにくい小さな文字で書かれた文章がつまった表が多用されていて、iPadの通常の”ズームイン”ジェスチャーでも拡大できない場合、読者は相手にしない。アプリも文庫ビューアやPDF、タップ、XDMLなどバラバラで不統一だ。読者は出版社ごとにアプリを変えざるを得ない。加えて、一部のコンテンツしかセールスしていない。電子ブックスは言い換えれば、一部の人にとってペーパーの本よりも使い勝手のわるい代物に成り下がるわけです」

書店が仮に、今のペースで1年で600ずつ減り続けてしまうなら、単純に考えれば仮に今、書店は1万5千店舗あるから、割ることの、600=25年で書店はゼロとなる。2037年がXデーだ。
とすると通っていたあそこも、あの店もないのか。過日、子供のころから通った駅前のレコード屋(旧表記)、今ではCDショップがつぶれたのは悲しかった。

あまりにもセンチメンタルな話だろうか。
「いえいえ、現実になりそうな話ですよ。名前は出せませんが、老舗の書店が近くバタバタと倒産しますよ。見ていればわかります」(マーケティング会社)
本当か。頼むから、せめて駅中の書店くらいは倒産しないでいただきたい。もう生活圏に書店が入ってくることは、めったになくなるのだから。

書店数の推移 2001年から2011年

2001年  20,939店
2002年  19,946店
2003年  19,179店
2004年  18,156店
2005年  17,839店
2006年  17,582店
2007年  16,750店
2008年  15,829店
2009年  15,482店 ※2009年10月現在
2010年  15,314店 ※2010年5月1日現在
2011年  15,061店 ※2011年5月1日現在

※グラフの2011年は5月1日現在の数字
※本部や営業所、外商のみの書店を含む。

※この統計は、出版業界紙の「新文化」とマスコミ界の専門紙「文化通信」を元に作成したデータです。
出展:「日本著書販促センター」ホームページhttp://www.1book.co.jp/001166.html

(渋谷三七十)