刑務所を慰問して、歌で受刑者を激励する。言葉にすると簡単だが、続けるのは至難の業だと思う。
2000年4月21日に「風のように春のように」でインディーズデビューし、2002年3月 に全国の刑務所や少年院などでの公演「Prisonコンサート」をスタート、実に人道的な活動をしている女性のポップ・デュオ『Paix2(ペペ)』が、5年ぶりにコンサートを東京で行った。

7月12日、東京・恵比寿のライブ会場『恵比寿天窓.switch 』には、元受刑者も含めて、彼女たちの歌声を聴きにたくさんの人たちが訪れ、立錐の余地もないほどにあふれた。
「新潟刑務所に慰問に来たときに初めて見て、感動しました。こんなに苦しい生活をしている人たちを激励して歩くのは並大抵のことではないはず。自分が物書きになるきっかけを作ってくれた存在でもあります。今回もコンサートで元受刑者と保護司が同じステージに立っていましたが、本来はあり得ないような感動的な風景でしたね」(コンサート会場にて。作家・影野臣直氏)

『Paix2』はふたりとも鳥取県倉吉市の出身である。デビュー前は岡山大学の固体地球研究センターの技術補佐員だったManami(マナミ) と、デビュー前は倉吉市の病院の看護師だったMegumi(メグミ) の二人は、実にきつい日程をこなして全国の刑務所を駆け巡っている。
『逢えたらいいな プリズン・コンサート三〇〇回達成への道のり』(Paix2編著・鹿砦社)を読むと、なんと高速道路を100キロで10時間も走り続けたこともある。いわゆる「死のロード」を日常的にこなしているのだ。

ライブで『Paix2』のふたりは、開口一番、「東京のコンサートは本当に久しぶりで、お客さんが少ないんじゃないかと思ってこのへんが(胸のあたりをさすって)ドキドキしていました」と語った。
このあたりに、『Paix2』が愛されている、また愛され続けている理由をかいま見たような気がした。一流の人はみな、謙虚である。
『Paix2』の歌で貫かれているもの、それは「落ち込むより、顔をあげて生きよう」という前向きな姿勢である。坂本九は「上を向いて歩こう」と歌った。
『Paix2』が歌いあげるテーマも坂本と同じアングルで、つらい道のりを乗り越えようという『挑戦』である。
「風のように 春のように」「花天女」「ずっとずっと」「おかげさま」「ともいき・・・未来へ 」「SAYいっぱいを、ありがとう」

「元気だせよ」「逢えたらいいな」などなど、70年代フォークソングのテイストと、透き通る歌声のミックスは、かすかなノスタルジーを耳に残しつつ、それでいて 歌詞が生命力に充ちている。
「本当は、『元気出せよ』のときは、拳を突き上げるのがライブでは盛り上がるのですが、刑務所では、手をあげるのは禁止。歌う二人は、刑務所で歌うときは、そのたびに許可を求めていました。歓声もダメで、許されているのは拍手だけ。アーティストにとっては過酷な環境の中、10年余り全国の刑務所・拘置所・少年院を回ったのです」(ファン)

前代未聞のプリズン・コンサート300回を達成し、テレビ番組『ミヤネ屋』でも取り上げられた『Paix2(ペペ)』が紅白歌合戦に出る日が楽しみだ。
「いつまでも歌い続けてほしい。人生に敗れてもまた挑戦したいと思えるのは、彼女たちのおかげなのです」(元受刑者)

チャーリー・チャップリンは言った。
「人生で必要なものは3つ。勇気と想像力、そしてサム・マネー(少しのお金)」
今、こうしている間にも、社会復帰した元受刑者たちが全国にちらばり、『Paix2(ペペ)』の歌を口ずさむ。勇気と想像力で人生をあきらめない、再生の物語がそこかしこで始まっている。

(K)