「あまり報道されませんが、今の政府の審議がもしこのままいけば、平成29年にすべての法人が社会保険に強制加入をせざるを得なくなります。今までは、社会保険に入らなくても罰則はありませんでしたが、未払いがある企業は、金融面からも、また労働基準局からの面も含めて罰則が適用されます」(社会保険労務士)

法律的には、法人は、健康保険法・厚生年金保険法において加入が強制されている。
「だけれども、労災保険のように、届出の有無に関係なく、法律としては、保険関係が成立するということではありません。これまで社会保険はあくまでも、届出によって適用事業所となるシステムでした。遡っての加入は、強制加入にも関わらず、かなり特殊な状況でない限り(都道府県により対応が違う模様)できないという内容でした。それでいいのか、という話と加入している事業所としていない事業所があるのは不公平だ、という議論です。さらに今、厚生労働省で議論しているのは、『従業員から集めた保険料を納めない事業所が仮にあったとすれば、給付の対象は従業員なだけに、給付の義務だけが残り、お金を回収できない。だから、ほおっておくと財政破たんする。それならば、社会保険未加入の法人には罰則を設けるべき』という議論です」(厚生労働省関係者)

ある統計によれば、社会保険未加入の法人、つまり未加入事業所は全体の3割近くになるという。
「変なシステムですよね。社長が自分で申告しないと社会保険には入れない。だけども一度入れば、払わないと差し押さえられる。入らなくても罰金がない。それなら、『入らない』という社長も多くなります。しかし、徐々に入らない法人はペナルティを重くしていく考えが今の厚生労働省の官僚にあるようです」(ファイナンシャルプランナー)

社会保険は、(1)法人事業所(会社)(2)常時5人以上の従業員が働いている工場・商店・事務所などの個人事業所などの事業所は健康保険と厚生年金保険に加入することが義務付けられている。
建前は、「全員が加入」なのだ。雇用保険も厚生年金も 原則全事業主に加入手続き義務があるが もし仮に加入しない場合は、罰則30万円以下の罰金又は6ヶ月以下の懲役とされている。だが、これぞ絵に描いたモチで、罰則が適用された例は皆無だ。「支払えぬなら、適用を見送りましょう」と事業所に耳うちする役人もいたほどだ。未払いが起こるなら、むしろ未加入のままでいいという、いかにも日本らしい建前論だ。

現在、厚生労働省で議論しているのは「猫も杓子も、たとえ代表ひとりのペーパー会社であっても、保険料を徴収しよう」という議論である。
「その取り立てを、税務署にやらせる。これが、2009年夏に民主党の鳩山代表(当時)が言い出した、社会保険と税金の取り立てを行う『歳入庁創設』構想です」(前出・弁護士)
社会保険強制加入の問題は、建設業での未加入事業者が多い問題が端緒となっている。
国土交通省が今年の2月に作成した資料「建設業における社会保険未加入の問題について」(http://www.mlit.go.jp/common/000192773.pdf)をつぶさに読むと、いわゆる「ひとり親方」や、「元請け、下請けなどが錯綜する複雑な工事の受注システム」にもメスを入れる、踏み込んだ内容となっている。危険な仕事なのに、怪我をして保険がつかず、泣き寝入りしている職人がたくさんいることも問題となっている。ペーパー会社もたくさんある業界だ。

「建設業では社会保険を払わない企業は、『①現場から締め出そう②金融から締め出そう』という話です。これが仮にモデルケースとなれば、ほかの業界も右ならえで、社会保険を払わない企業は罰則が待っていることになるでしょう」(弁護士)
問題もある。社会保険の支払いは、企業にとっても負担となろう。
「シンクタンクは、仮に社会保険加入を企業に強いた場合、7.3%の企業が赤字になるとしています。その帳尻をどうするのか」(経済ジャーナリスト)
国にお金がない。政府よ。だからまたしても法人、つまり企業のすねをかじるのか。企業が日本から出てシンガポールやインド、中国に法人を作るわけだ。
法人の社会保険強制加入へGO、の話は、「進め1億、火の玉だ」的な強引さも感じる。
労働者はうれしいが、経営者にとっては、おそらくは耳が痛い話である。

(渋谷三七十)