毎週金曜日の官邸前デモは、衰えも見せずに続いている。原子力規制委員会委員長に、田中俊一が起用されていることにも、怒りが上がっている。田中は原発推進側であったのはもちろん、原子力委員会委員長代理であったのだから、福島第一原発の事故に直接責任のある立場だ。今まで通りのユルユルでナアナアの規制しかしない、と公言するに等しい、ふざけきった人事だ。
野田首相もデモの盛り上がりを無視することができず、代表者と会う日程を調整していると、伝えられている。

これまで東京都公安委員会と警視庁は、国会周辺でのデモを許可しなかった、官邸サイドがOKして、歩道上での抗議を認めているのではないか、と7月1日の当ブログで書いた。
その後分かったことだが、このデモは、まったく何らの許可申請も経ずに、行われているということだ。

歩行スペースを確保するために、警察は、デモ参加者を歩道の半分くらいのスペースに押し込むような形で規制をしている。
参加者にとっては窮屈きわまりなく、著名人の発言が始まると、報道陣も殺到し、大変な混雑になる。

「警察の規制はひどい」という声も聞くが、もう少し多面的な見方が必要だろう。
無許可の大衆的示威行動で、公道である歩道が占拠されているわけだから、警察はこれに「退去を求める」という選択もできるのである。
金曜日デモでは、参加者が歩道からあふれ出し、車道をも占拠するという場面も何度もあった。
このような場合、「歩道に戻りなさい」と、警察が隊列を組んで押し戻そうとし、少しでも抵抗すれば公務執行妨害で逮捕する、というのも警察のお決まりのデモ弾圧のパターンだ。

それをしない、という、政治的判断が働いているのだろう。
これだけ脱原発の世論が高まっている時に、デモを弾圧すれば、火に油を注ぐことになる。不当な弾圧を行えば、今は、ネットを通じてすぐに広がってしまう。
金曜日ごとにじわじわと増え続けているデモ参加者は、警察にとっても簡単には手を出せない脅威となっている。

警察というのも、弾圧一方ではなく、けっこういろいろ考えているものである。
80年代頃、ヨーロッパの市民運動から、非暴力直接行動という考え方が伝わった。
これにどう対処するのか、警察も研究していた。

90年代に友人が、厚木基地の正門前で、平和を訴えるウエディングパフォーマンスを行った。
実際に恋人同士である二人が、ウエディングドレスとタキシードを着て、正門前で躍るのだ。女性が日本人で、男性はアメリカ人。通りがかった非番らしき私服姿の米軍兵士が、「君はアメリカ人なのに基地に反対なのか? 信じられない」と嘆く場面もあった。

二人の踊りが始まると、警官隊は手を繋いで緩い円陣を作って、囲んだ。その中に何人もの取材者、支援者も入って撮影などできるので、かなり大きな円だ。
警官隊は、二人が基地のほうに向かっていく時には緩やかに阻止したが、踊りを邪魔することはなく、二人はパフォーマンスをやりきった。
この時二人はどうしても逮捕されたかったらしく、その後、別の場所からフェンスを乗り越えて侵入し、逮捕された。

今回の官邸デモの盛り上がりを見て、60年安保の再来、といった声がよく聞かれるが、まるで違うと思う。
半世紀の間に、ささやかな成功と、数多くの無惨な失敗を経て、ツイッターやフェイスブックを通じて集まった、まったくバラバラの参加者の間で、「非暴力直接行動」が共通認識になっているのだ。
半世紀経って、やっとここまでたどり着いた、というのが実感だ。
脱原発の実現まで、静かに怒りを持続させていきたい。

(FY)