小学校のときに読んだ漫画「はだしのゲン」は、かなりインパクトがあった。
放射能で人間の髪が、肌が、あらゆる箇所が溶けていく描写に心が痛んだ。その描写は、漫画家・中沢啓治(なかざわ・けいじ)さんが自らの体験をもとにしたものだった。中沢さんは、爆心地から1.3キロの同市内の国民学校前で被爆。とっさに柵の後ろに隠れて、すんでのところで放射能の爪から逃れた。

少年ジャンプに掲載された、あまりにも理不尽な原爆の爪あと。家族が、友人がつぎつぎと命を落としていく。
その中沢さんが12月19日、肺がんのため広島市内の病院で死去した。73歳だった。父と姉、弟を失い、直後に生まれた妹もまもなく亡くなった。中学卒業後、漫画家を志して上京。1963年のデビュー当初は原爆体験を秘していたが、66年の母の死への憤りをきっかけに、初めて原爆を題材にした作品「黒い雨にうたれて」を68年に発表した。
「今も世界中で読まれる名作です。晩年は、『はだしのゲン』の続編の構想を描いてくれました。感謝です」(ファン)
『はだしのゲン』は英語やロシア語など18カ国語に翻訳(翻訳中含む)され、海外でも出版されている。
「ある講演で、小学生に『誰になんと言われようと、戦争には反対しなさい』と力強く訴えていた。日本にとって貴重な戦争の語り部を失った」(漫画編集者)

『はだしのゲン』の根底に流れるテーマは、原発問題に共通するものがあると思う。
人間はエゴで、兵器もエネルギーも都合よく使う。原爆も原発も、国家、人間のエゴにより使用されることはあってはならないと思う。

(鹿砦丸)