2009年頃に社会の耳目を集めた鳥取連続不審死事件で、2人の男性を殺害するなどしたとして強盗殺人などの罪に問われ、無実を訴えながら死刑判決を受けた上田美由紀被告(43)。その最終審理とも言える上告審弁論も6月29日に最高裁で開かれ、あとは最後の判決を待つばかりだ。

私はこの連載で2つの殺人事件について、事件当日の上田被告や被害者の足取りをたどるなどしたうえで上田被告の無実の訴えは無理があることを論証してきた。

今回は2つの殺人事件のうち、上田被告が2人目の被害者・圓山秀樹さん(当時57)を殺害したとされる事件について、上田被告の弁明がどんなものだったかをみてみよう。

◆同居していた男性が真犯人であるかのように弁明

一、二審判決の認定によると、上田被告は2009年10月、電化製品の代金約53万円の支払いを免れるため、電気工事業の圓山秀樹さん(同57)に睡眠薬などを飲ませて意識もうろう状態に陥らせたうえ、摩尼川という川の上流で溺死させたとされる。

そして事実関係を見ていくと、事件当日の朝、圓山さんは内縁関係にあった女性に「集金に行く」と言って、用意された朝食も食べずに外出。そしてほどなく上田被告と合流し、殺害現場のほうに車で向かったのちに行方が途絶え、翌日、川の中で溺死体となって見つかっている。

加えて、上田被告は同年4月、借金270万円の返済を免れるために殺害したとされる1人目の被害者・矢部和実さん(同47)が失踪した当日も朝から矢部さんと行動を共にしていた。そして一緒に車で殺害現場である海まで向かったのち、矢部さんはそのまま行方不明になり、後日、溺死体で見つかっている。このように2つの事件が酷似した経緯をたどっていることを「単なる偶然」だと思う人はいないだろう。

そして2つの殺人事件では、上田被告の弁明も酷似していた。矢部さんが殺害された事件について、上田被告が当時同居していた男性A氏のことを犯人であるかのような弁明をしているのはすでに述べた通りだが、上田被告は圓山さんの殺害についてもA氏の犯行だったかのように主張しているのである。

圓山さんが殺害された当日、上田被告と一緒に赴いた岩戸港

◆詳細に事件当日のことを語ったが……

裁判の第一審では黙秘した上田被告。控訴審の法廷で黙秘を撤回し、圓山さんの事件について弁明した供述の要旨は次の通りだ。

・・・・・以下、控訴審判決をもとにまとめた上田被告の公判供述の要旨・・・・・

私は事件当日、知人の運転する車で、ファミリーマート鳥取丸山店に寄って、コーヒー、タバコ、お茶を購入した後、圓山さんが経営する電気工事業の事務所に赴き、圓山さんと合流しました。そして圓山さんの運転する車の助手席に乗って喫茶店に赴き、モーニングを食べ、その際に圓山さんから「電化製品代金のことでAと話がしたい」と言われたので、Aに電話をしました。そしてAに対し、圓山さんの言う通りに待ち合わせ場所を説明したのです。

それから、私は圓山さんの運転する車で、当時は名前を知らなかった岩戸港まで移動しました。そして岩戸港に到着後、10分か20分すると、Aが車を運転してやってきました。すると、圓山さんが「Aと1対1で話がしたい」と言ったため、圓山さんの車の助手席に座っていた私はAと交替しました。そして私はAが乗ってきた車の運転席で2人の話し合いが終わるのを待っていましたが、途中、自動販売機で買った缶コーヒー2缶を2人が乗っている車に差し入れました。

しばらくすると、Aと圓山さんが車から降りてきて、運転席に座っていた圓山さんが助手席に座り、助手席に座っていたAは缶コーヒー2本を海に投げ捨ててから、車の運転席に乗り込みました。そしてAは私に対し、「圓山さんは気分が悪いみたいだ。車を運転し、ついてくるように」と言い、圓山さんの車を運転して岩戸港から出発しました。そこで私も車を運転し、Aが運転する圓山さんの車についていったのです。

それからAは殺害現場の川のほうに車を走らせて行きましたが、その途中、Aの運転する車の助手席に座った圓山さんが窓に頭をもたれかけているのが見えました。それから私はクラクションを鳴らしてAの運転する車を停めさせ、Aに「ついていきたくない」と言いました。私は無免許運転だったため、このまま一本道を行くと、後ろからついてきていると思っていた警察に捕まるのではないかと思ったためです。

すると、Aは「待っとれ」と言い、私の運転する車を残し、自分は圓山さんを助手席に乗せた車で殺害現場の川の付近に向かっていきました。その後、私からAに電話をしたところ、Aから「まあ、ええけえ。ちょっと待っとれ」と言われましたが、私が乗っていた車を少し前進させたところ、Aが小走りで向かってきて、私が乗っていた車の助手席に乗り込んできました。

私は「何があったの?」と尋ねたり、自分と交替で運転席に座ったAに「車を進めて欲しい」と言いましたが、Aは膝から下を濡らした状態で、しどろもどろになってはっきり答えず、車を動かしませんでした。

・・・・・以上、控訴審判決をもとにまとめた上田被告の公判供述の要旨・・・・・

 
とまあ、上田被告は裁判で、かくも詳細に事件当日のことを語っている。A氏こそが圓山さんを殺害した犯人だと明言しているわけではないが、そう言ったに等しい供述内容だ。

◆罪を免れるための虚言

実際問題、検察の主張では、上田被告が圓山さんから「代金後払い」の約束で交付をうけていた電化製品は計12点・販売価格合計約123万円に及んだとされたが、そのうち6点・約69万円が圓山さんの作成した売掛帳ではA氏が債務者であるかのように記載されていた。そしてA氏本人は裁判で、自分が債務者であるかのようにされた電化製品6点は上田被告が注文したものだと主張したのだが、裁判では結局、A氏の証言が信用されず、A氏が問題の電化製品6点の債務者だったように認定されている。

しかし事実関係を見ると、上田被告が主張する通りにA氏が真犯人だと考えるのはやはり無理がある。

まず、そもそも上田被告らと圓山さんが取引を始めたのは、以前から知り合いだった上田被告と圓山さんが2009年8月頃、ドラッグストアでばったり会ったのがきっかけだった。さらに圓山さんと内縁関係にあった女性によると、圓山さんは事件の1週間前の朝、上田被告から電話があったことについて、「(電化製品の)代金を支払わない女性客がいる。その女性の親族が払ってくれる」と述べていた。そして携帯電話の通話記録を見ると、圓山さんと上田被告の間で頻繁に電話がかけられていた。こうした事実関係を見る限り、圓山さんが代金を請求する相手をA氏ではなく、上田被告だと認識していたことは明らかだ。

そして事件当日の朝、圓山さんは取引先に電話をかけ、「集金に来てくれという電話があったので、行かなければならないからまた後で電話をする」と伝え、その後に内縁関係にあった女性に「集金に行く」などと言い、用意された朝食を食べずに慌てた様子で出かけて行ったという。そして外出後、ほどなく上田被告と合流している。こうした事実経過をたどる中、圓山さんが突如、「電化製品代金のことでAと話がしたい」と言い出し、やってきたA氏がいきなり圓山さんを殺害するなどということはどう考えてもありえないだろう。

そしてA氏が圓山さんを殺害するということがありえないならば、圓山さんを殺害する機会や機会を有していたのは上田被告だけである。上田被告の無実の訴えについては、「罪を免れるための虚言」と評価せざるをえない。(次回につづく)

上田被告は、この橋の下を流れる川まで圓山さんを連れて行き、溺死させたとされる

【鳥取連続不審死事件】
2009年秋、同居していた男性A氏と共に詐欺の容疑で逮捕されていた鳥取市の元ホステス・上田美由紀被告(当時35)について、周辺で計6人の男性が不審死していた疑惑が表面化。捜査の結果、上田被告は強盗殺人や詐欺、窃盗、住居侵入の罪で起訴され、強盗殺人については一貫して無実を訴えながら2012年12月、鳥取地裁の裁判員裁判で死刑判決を受ける。判決によると、上田被告は2009年4月、270万円の借金返済を免れるためにトラック運転手の矢部和実さん(当時47)に睡眠薬などを飲ませて海で水死させ、同10月には電化製品の代金約53万円の支払いを免れようと、電気工事業の圓山秀樹さん(同57)を同じ手口により川で水死させたとされた。そして2014年3月、広島高裁松江支部の控訴審でも控訴棄却の判決を受け、現在は最高裁に上告中。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

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