一、二審共に死刑とされながら、無実を訴え続けていた鳥取連続不審死事件の上田美由紀被告(43)の上告審で、最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)は7月27日、上田被告の上告を棄却し、死刑を事実上確定させた。2009年に事件が表面化してから8年。ようやく裁判が終結しつつある今、被害者の遺族は何を思うのか。上田被告に殺害された2人の男性のうち、圓山秀樹さん(享年57)の次男・賢治さん(42)に話を聞いた。

7月27日、上田被告の上告審判決があった最高裁

◆「とうとうこの日が来た」

「予想通りで、わかりきったことでしたが、やはり結果を聞くと、こみ上げてくるものがありましたね」

上田被告の上告審判決は仕事の都合で最高裁まで傍聴に行けなかったという賢治さん。当日は兄たちと一緒に鳥取市内でマスコミの取材に応じ、「上告棄却」の第一報は会見場で記者から聞かされたという。その時のことを振り返る言葉には万感の思いが込められていた。

賢治さんの父・圓山秀樹さんは2009年10月、上田被告に睡眠薬を飲まされ、川の中に誘導されて溺死させられた。上田被告がこのような犯行に及んだ動機は、家電代金約53万円の支払いを免れるためだったとされる。事件当時、上田被告は同居していた男性と共謀し、取り込み詐欺を繰り返しており、電器店を経営していた圓山さんからも「代金後払い」の約束で洗濯機など家電6点の交付を受けていたという。

そんな圓山さんは事件前、周囲の人に「代金を支払わない女性客がいる」と漏らしていた。そして事件当日の朝、上田被告から電話をうけ、「集金に行く」と言って出かけたまま、行方不明に。翌日、川で遺体がうつぶせ状態で浮かんでいるのが見つかったのだが、実は賢治さんはその現場に駆けつけ、遺体の発見者にもなった。「上告棄却」の報を聞いた際はその時のことも思い出したという。

「それから8年間ずっと毎日、父の仏壇に手を合わせてきました。『とうとうこの日が来た』『長かった』と思いましたね」

被害者の遺族にとっては、上田被告の死刑判決が確定することはまさに悲願だったようだ。

話を聞かせてくれた被害者遺族の圓山賢治さん

◆上田被告は「血も涙もない」

「父は母と離婚しているんですが、そのぶん僕や兄のことを気にかけてくれていました。僕や兄同様、父もバイクなどの乗り物が好きで、趣味も合った。だから、僕や兄は事件当時もよく父のところに遊びに行っていたんです」

賢治さんは圓山さんとの思い出をそう振り返る。生前の圓山さんは「『よく商売ができるな』と思うほど、とにかくむちゃくちゃ優しい性格で、まったく怒らない人」だったという。ただ、人が良いためか、経済的なことでは何かと苦労が絶えなかったようだ。

「今は量販店がありますから、父のような個人経営の電器店は家電の販売では儲かりません。父の仕事は主に電気工事でした。ずっと日曜日も関係なく働いていて、お酒を飲まないので、お客さんから修理のために夜呼ばれることもありました。そのうえ、自宅で祖母の介護もしていましたから生活は大変だったはずです。父にとっては、1万円でも大事なお金だったと思います」

上田被告はそんな圓山さんから「代金後払い」の約束で約53万円の家電を購入し、結局、代金の支払いを免れるために殺害してしまった。賢治さんはそんな上田被告について、「血も涙もないですよね」というが、遺族がそう思うのは当然のことだろう。

「父は甘いところがあり、支払いについても『待って』『待って』と言われたら、待ってしまう性格でした。だから、上田に狙われてしまったんじゃないかと思います」

◆「とにかく上田が死ぬのを待つだけ」

この連載の第1回で書いたことだが、上田被告は私と面会や手紙のやりとりをする中、まったく悪びれた様子もなく不自然きわまりない主張をし、「冤罪」を訴えながら様々な人を貶めることを述べていた。賢治さんによると、裁判中も上田被告はケロッとした様子で罪悪感を一切覚えていないように見えたという。

だからこそ今、賢治さんは上田被告に対して、こう思う。

「僕はとにかく上田が死ぬのを待つだけです。上田が生きているうちは、事件が解決したとは思えないので。上田は人の生命を粗末に扱ったのだから、自分も同じ報いを受けて欲しいです」

《鳥取不審死・闇の奥》
《01》「悪」とは別の何かに思える被告人
《02》弁護人も悲しげな表情で聞く被告人の荒唐無稽な弁解
《03》様々な点が酷似していた2つの殺人事件
《04》同居男性が真犯人であるかのように語った上田被告
《05》上告審弁論で弁護人が証明した上田被告の「クロ」
《06》被害者遺族が語る 死刑が確定する被告への思い

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

愚直に直球 タブーなし!『紙の爆弾』9月号!さよなら安倍政権【保存版】不祥事まとめ25

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)