ついに、本物の知性と勇気による本格的な「M君リンチ事件」への骨太の論評が発表された。8月10日発売の『救援』(救援連絡センター発行)紙上で、東京造形大学教授、前田朗氏が「反差別運動における暴力」を論じている。われわれ取材班は前田朗氏に書籍を送ってはいるが、直接に見解を伺おうと、尋ねたことはない。本論はあくまで前田氏が自身の発意によって執筆され発表されたものである。

◆〈知識人〉としてまっとうな前田朗氏の態度

鹿砦社より出版した『ヘイトと暴力の連鎖』『反差別と暴力の正体』『人権と暴力の深層』をお読みいただいたようで(取材班注:前田氏は以上3冊をまとめて「本書」と呼んでいる)、

「本書のモチーフは単純明快である。反差別の運動内部において暴力事件が発生した。反省と謝罪が必要であるにもかかわらず実行犯は反省していない。周辺の人物が事件の容認・隠蔽に加担している。被害者Mは孤独な闘いを強いられてきた。このような不正義を許してはならない」

「反差別と反ヘイトの思想と運動は差別にも暴力にも反対しなければならない」

「筆者は当時、事件関係者に知り合いはなく、事件発生を知らなかった。しかし、後にCの反ヘイト裁判支援のため裁判所に意見書を提出した。その後に事件があったようだと知った」

「SEALDs及びしばき隊とは、安保法制反対闘争の中で、運動方針の違いから対立する局面を体験してきた。筆者は救援連絡センターの運営委員であり、刑事司法に関する認識が異なるからだ」

「他方、筆者はのりこえねっとの共同代表の一人である。のりこえねっとには22人の共同代表がいる。そのうち辛淑玉、中沢けい、鈴木邦男、宇都宮健児の4人が本書の批判対象である。共同代表は一堂に会したことも、運動方針について全体で討論したこともない。反ヘイトのためのもっともゆるやかなネットワークであり、それぞれの立場で発言している」

「いずれにしろ暴力は許されない」

「特にCの反ヘイト裁判が焦点となる。Cをヘイト団体やネット右翼から守るために、本件を隠蔽するという判断は正しくない」

「Cが重要な反ヘイト裁判の闘いを懸命に続けていることは高く評価すべきだし、支援するべきだが、同時にC本件においてはCも非難に値する」

「反差別・反ヘイトの闘いと本件においてCを擁護することは矛盾する」

「しかし、仲間だからと言って暴力を容認することは、反差別・反ヘイト運動の自壊につながりかねない。本書が指摘するように、今からでも遅くない。背筋を正して事実と責任に向きあうべきである」

この上なく簡潔かつ的確にわれわれの取材意図を要約してくれている。ここまで書いてもらえば、取材班はなにも付け足すことはない。出版意図を正確に読み解いていただき、そして理解し自らの見解を公にしてくれた前田氏の〈知識人〉としてのまっとうな態度に、深い敬意を覚えるものである(もちろん公的な場面での意見表明はなさらずとも「本書」をお買い上げ頂いた方々、「M君」の裁判支援をして下さる方々へも、取材班は感謝の念に堪えない)。

前田朗氏の論評「反差別運動における暴力」(2017年8月10日付『救援』より)

 

 

 
◆他の「のりこえねっと」共同代表の人たちに願うこと

なぜならば、同評論の中で前田氏自身が述べている通り、前田氏は「のりこえねっと」の共同代表の一人であり、同評論でCと記載されている李信恵の裁判支援にもかかわっている方でもあるからだ。「救援」紙上に長く寄稿されている前田氏のことであるので、少々の圧力や嫌がらせに屈することはあり得ないが、取材班が大枠で「敵性認定」をするに至った「のりこえねっと」の共同代表でありながら、事実を正確に読み解き、真実に迫る判断を開示してくれた、前田氏の姿にこそ、腹を据えて持論を展開することのできる、真の言論人の矜持を見る。

前述したとおり、この論評は取材班が依頼したものではなく、前田氏が自発的に発表されたものである。その内容に取材班は深い敬意を禁じ得ないとともに、100%同意するわけでもないことを述べておく必要があろう。それは前田氏が正直に、

「本書が批判する野間易通、有田芳生、辛淑玉、中沢けい、上瀧浩子とは面識があり、いずれも敬愛する運動仲間である」

とまで前田氏の見解を明らかにしてくれている部分があるからだ。しかし、だからといってわれわれは前田氏に「認識不足だ。本書を読めば連中の悪行は明らかじゃないか」と、さらにわれわれの立場や、見解に同意するよう求めたりはしない。事実を一つづつ見ることの大切さと、「反差別裁判と、暴力事件を混同してはならない」との、きわめて重要な原則を前田氏は開陳しているのであり、その総論を度外視して、部分的な批判を展開することは、なんら積極的な議論を生まないと、われわれは考える。譲ってはならない、許してはならない。「暴力は許されない」という大前提に立脚すれば、前田氏の論はたとえ友好関係がどのようなものであれ、高く評価に値するのであり、「M君リンチ事件」には諸相が複雑に入りくんではいるが、根本は前田氏が提示する原則と問題点に収斂されるからである。

すでにご承知のように、われわれ取材班のひとり田所敏夫は、「のりこえねっと」共同代表で、この団体を起ち上げた辛淑玉氏と訣別し、決別状をこの「通信」、及び『反差別と暴力の正体』に掲載している。また、鹿砦社代表の松岡は、やはり「のりこえねっと」の共同代表・鈴木邦男氏と、本「通信」6月27日号で、実に30数年の関係を義絶している。それほどまでして取り組む「M君リンチ事件」について、前田氏は、われわれの本気度と、事件の反差別運動のみならず社会運動全般における悪しき影響を感じられたからこそ、本記事を書かれたものと推察する。前田氏以外の「のりこえねっと」共同代表の方々、また関係者が、前田氏の真摯な意見を真正面から受け止めていただくことを心より願うものだ。

可能な限り多くの人びとに前田氏の論評をお読みいただきたいと切に願う。そして最後に繰り返す。われわれ取材班は「差別」にも「暴力」にも反対の立場を崩したことはないと。

(鹿砦社特別取材班)

◎[参考記事]私はなぜ「カウンター」-「しばき隊」による大学院生リンチ事件の真相究明に関わり、被害者M君を支援するのか[松岡利康=鹿砦社代表]
 

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