1999年に起きた桶川ストーカー殺人事件で、“首謀者”とされて無期懲役判決を受け、現在は千葉刑務所で服役中の小松武史(51)について、先日、以下(千葉日報2017年9月9日付記事)のような報道があったのをお気づきになられた人はいるだろうか。

千葉日報2017年9月9日付記事

記事の内容をかいつまんで紹介すると、「小松武史とフリーのルポライターが手紙のやりとりを禁じた千葉刑務所の処分は違法だとして国を相手取り、損害賠償などを求めて千葉地裁に起こした訴訟で勝訴した」ということが書かれており、共同通信も同様の記事を配信している。この記事に出てくるフリーのルポライターとは実は私のことで、私は当事者だから当然だが、この訴訟のことを一から十まで知っている。そこで、このほど違法性が認定された千葉刑務所の処分がいかに悪質だったかをここでもう少し詳しく報告しておきたい。

◆裁判で実行犯が証言した小松武史の「無実」

まず、前提として知っておいてもらいたいのは、小松武史には「冤罪」の疑いがあることだ。いきなりそう言われ、「え、この事件に……」と驚いた人もいるだろう。無理もない。この事件は大変有名だが、冤罪の疑いがあることはこれまでほとんど報道されていないからだ。

しかし実際のところ、この事件はむしろ、これまで冤罪の疑いが指摘されてこなかったのが不思議なくらいだ。

というのも、裁判の認定によると、小松武史は経営する風俗店の店長・久保田祥史(52)[懲役18年の判決をうけ、宮城刑務所で服役中]に対し、弟・和人[事件当時27。事件後に死亡]の元交際相手の女性・猪野詩織さん(同21)を殺害するように依頼し、刺殺させたとされている。

しかし、小松武史はこれまで殺害依頼の容疑を一貫して否認している。加えて、あまり知られていないが、取り調べなどでは「小松武史から殺害を依頼された」と供述していた久保田も実は小松武史の裁判中に従来の供述を撤回し、次のように「真相」を証言していたのである。

「本当は小松武史から殺害の依頼はなかったのです。私は、猪野さんに振られて落ち込む小松武史の弟・和人の無念を晴らすため、猪野さんの顔にナイフで傷でもつけてやろうと思ったのですが、現場で猪野さんに近づいた際、誤って背中やみぞおちを刺し、死なせてしまったのです。そして逮捕された後の取り調べでは、普段から快く思っておらず、事件後の態度にも腹が立った小松武史を首謀者に仕立て上げる供述をしたのです」(久保田の証言の要旨)

私はあるきっかけからそんな事件の構図を知り、小松武史や久保田と手紙のやりとりをしながら、この事件の真相を見極めるために取材を進めていた。刑務所は受刑者に対し、一般面会をほとんど認めていないため、私が小松武史や久保田に事実関係を確認するには手紙のやりとりが唯一の手段だった。また、小松武史としても、私に冤罪を訴えるための手段は手紙しかなかった。

そんな状況下、千葉刑務所は私と小松武史の手紙のやりとりを禁じる処分をしたのだが、その理由は言いがかりとしかいいようがないものだった。

私と小松武史の手紙のやりとりを禁じた処分が違法認定された千葉刑務所

◆7回の手紙のやりとり禁止処分はすべて違法と認定

というのも、今回の訴訟では、被告の国は「片岡は小松武史の意向に従い、久保田をはじめとする共犯者3名と手紙をやりとりし、共犯者たちの動向を小松武史に伝達・仲介していた」と指摘し、それゆえに千葉刑務所が私と小松武史の手紙のやりとりを禁じた処分は適法だと主張した。しかし実際のところ、私は実行犯の久保田や現場に同行した2人の共犯者(いずれも受刑者)に手紙を出し、事実関係を取材したうえ、小松武史にも事実確認をしていただけだったのだ。私が行っていたのは複数犯事件の真相を見極めるためには、当然必要な取材である。

そもそも、仮に私や小松武史がやりとりしていた手紙に何か問題点があれば、その部分を黒塗りするなどすればいいだけだ。千葉刑務所が私と小松武史の手紙のやりとり自体を禁止する必要などまったくないのである。

千葉刑務所の処分を違法と認定した千葉地裁

千葉地裁の阪本勝裁判長は今回の判決で、千葉刑務所が小松武史に対して計7回に渡り、私との手紙のやり取りを禁じた処分はすべて違法だと認めたうえ、
(1)千葉刑務所長が小松武史に対して平成4月8日付けでした私への手紙の発信を禁じる処分を取り消すこと、
(2)国が小松武史に慰謝料5000円などを支払うこと、
(3)国が私に慰謝料3万5000円などを支払うこと――の3点を命じる判決を出した。事実関係に即した適切な判決をしてくれたと思う。

国は当然、控訴などすべきではなく、千葉地裁の判断に素直に従うべきだ。また、全国の他の刑務所・拘置所でも同様の違法な処分が行われないように何らかの対処をすべきである。

かくいう私は今回の勝訴判決を無駄にしないように今後、この事件の真相について、さらなる取材を進める予定だ。また取材結果をここで報告させてもらう機会もあるだろう。

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)

9月15日発売『NO NUKES voice』13号【創刊3周年記念総力特集】多くの人たちと共に〈原発なき社会〉を求めて

愚直に直球 タブーなし!『紙の爆弾』10月号!【特集】安倍政権とは何だったのか