◆財務省・福田淳一事務次官の居直り「辞任」劇

女性ならずとも、誰もが事態の推移に憤慨し、はらわたが煮えくり返るのを感じているのではないだろうか。財務省・福田淳一事務次官の居直り「辞任」劇である。週刊誌にみっともないセクハラ会話「何カップなの? 胸に触っていい?」「やめてください」「好きになったので、抱きしめていい?」「手を縛っていい?」「いやです」「キスしていい?」「ダメ」などをすっぱ抜かれ、いさぎよく認めるどころか「自分の声かどうか、録音なのでわからない」「あんなひどい会話をした記憶はない」などと言い逃れる。そのいっぽうでは「全体をみてくれ、あれはセクハラではない」と、なかば女性記者との会話をみとめているのだ。ここはもう、錯乱しているとしか言いようがない。

◎[参考動画]“胸触っていい?”「財務省トップ」のセクハラ音声(デイリー新潮 2018/04/12公開)

そして挙句の果てに「マスコミ取材がこういう状態なので、業務を遂行できない(お前らのせいで仕事にならん!)」と、職を投げ出したのである。みずからのセクハラ疑惑で報道騒動を起こしておきながら「お前らのせいで仕事ができない」のである。辞任は懲戒ではなく普通退職なので、多額の退職金が支払われる。そして「引き続き裁判で訴えるつもりだ」などと、訴訟を匂わせながらの会見も、おそらく民事裁判には踏み切れないだろう。ようするに、取材から逃げて事件を曖昧化することで、みずからの世間知らずな「プライド」を守りきったのだ。一般人になったからといって、セクハラの事実が消えるわけではないのを、思い知るべきであろう。

◎[参考動画]女性記者へのセクハラ疑惑の福田次官辞任会見(東京新聞2018/04/18公開)

◆世界に恥をさらした財務省

それにしても問題なのは、財務省の世間の常識と感覚からおよそかけ離れた人権意識である。誰の耳にも明らかな「事実認識」のために、セクハラ被害者に名乗り出るようもとめ、しかもその相談先が財務省の顧問弁護士事務所なのである。顧問弁護士が雇い主である財務省に忠実であろうとすれば、被害者を誤動するか、もみ消す方向に導くにちがいない。いや、そもそもセクハラの恥辱と恐怖で傷ついている被害者に「名乗り出るのがそれほど苦痛なことか?」(矢野康治官房長の国会答弁)、「相手のある話でしょ。むこうが出てこないと、福田にも人権はある」(麻生財務大臣)などと言い放つありさまだ。省庁の中の省庁、財務省が世界に日本の恥をさらしていることに、まだ気づいている様子はない。「何が何だかわからない」「異常な事態だ」(放送局の取材に答えた財務省幹部)というのだから――。野田聖子総務大臣(女性活躍担当大臣・男女共同参画特命担当)の「財務省は国際的な人権感覚をわかっていない」という批判に耳を傾けるべきであろう。

◆米山隆一新潟県知事は辞める必要はあったのか?

いっぽう、米山隆一新潟県知事は女性との交際が問題だと週刊誌に書かれ、金銭のやり取りがあったと辞任した。この辞任劇については、ちょっと不思議な気がする。米山知事は独身なのである。女性との付き合いは、いわば婚活ではないだろうか。

東大医学部で医師免許を取得するいっぽうで、司法試験にも合格する秀才であって、モテないのも不思議なことだが、ネットで知り合った女性と会っていたという。その場で「わたしを好きになってくれ」と気持ちをこめて金銭を渡したことから、売買春の疑義が飛び出したというわけだ。おカネを出すからホテルに行こうと呼びかけたわけではない。いったい何が問題だったのだろうか。そもそも婚姻制度とは性生活の安定であり、経済システムとしては買売春と変わるところがない。セックスと経済的な結びつきでによって、夫婦は成立しているのだから。

◎[参考動画]「歓心を買うため」“買春”報道で米山知事が辞職願(ANNnewsCH 2018/04/18公開)

たしかに政治家は清廉潔白を求められるかもしれないが、米山氏は女性にカネを渡して「おれの女になれ」と言ったわけではない様子だ。くり返すが、彼は独身である。不倫でもないのだ。問題があるとしたら、相手の女性に男がいて、強請りのようなシチュエーションになったのは想像に難くない。それならば被害者的な側面すらあるではないか。

おなじく女性問題でミソをつけたエリートで、いっぽうは自分の罪を押し隠し「一般人」になることでマスコミと世間の追及から逃れようとする財務省のトップ。かたや選挙に4度も落ちた苦労人で、原発再稼働に待ったをかけた政治家の下半身問題でのあまりにも不思議な潔さ。デジ鹿の読者のみなさんは、これらの事態に何を感じただろうか。

◎[参考動画]新潟県 米山知事が辞職 会見の中身は(PRIDE OF NIIGATA 2018/04/18公開)

▼横山茂彦(よこやま・しげひこ)
著述業、雑誌編集者

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