拉致問題「報告書」の真相とは?

◆トランプ任せの安倍外交で、拉致問題は解決できるのか

米朝会談の日程が明らかになり、いよいよ朝鮮戦争の終結が秒読み段階に入っている。もしもそれが実現すれば、東アジアに和解と平和の時代へと流れが作り出されるであろう。もう核戦争の恐怖に怯えることも、なくなるのかもしれない。

 
蓮池透『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)

とはいえ、わが国は安倍総理の北朝鮮敵視政策、圧力を強める一辺倒の方針により、その埒外に置かれている。すくなくとも、トランプに対北朝鮮政策を一任してしまい、その範囲からはみ出すことはないだろう。

したがって、安倍晋三がそれを契機に政権を掌握し、第一級の任務としてきた日本人拉致問題も、トランプおよび韓国の文政権に丸投げしたままなのである。いやそもそも、安倍に拉致問題を解決する意思が本当にあるのだろうか? 蓮池透氏はその著書『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』において、安倍晋三および「救う会」の政治的な利用を批判してきた。

安倍政権と「救う会」は北の脅威をことさらに煽り、拉致問題で北朝鮮の非を批判することに自分の政治的な求心力をつくり出してきた。その方針は「対話」ではなく「制裁」一辺倒であり、北朝鮮が最終的に破綻(体制が崩壊)することで初めて拉致問題は解決するというものだ。安倍および「救う会」においては交渉による拉致問題の解決、あるいは平和条約の締結・国交正常化による拉致問題の解決の方途は考えられていない。そんな方針に実効性はあるのかと、蓮池透氏は疑問を呈してきた。結果的に拉致問題は小泉政権時の平壌宣言(2002年)と5人の帰国およびその家族の帰国(2004年)以降、1ミリも進展していないのだから、透氏の批判は的を得ているというほかない。

◆安倍政権のウソ

拉致問題は「解決済み」とする共和国(北朝鮮)と、安倍政権の「未解決」という主張には、事実関係としても大きな隔たりがある。いや、安倍政権の「虚偽」による事実関係の錯綜があるのは、あまり知られていないようだ。じつは北朝鮮の「調査報告」を、安倍政権が受け取らないまま推移してしまい、その結果「調査報告が延期され、履行されていない」ことになっているのだ。この「調査報告」とは、言うまでもなく2014年のストックホルム合意(再調査と制裁解除)によるものだ。「未解決」か「解決済み」かは、そもそも前提がちがうのである。

北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使は、2015年9月9日に日本の共同通信の取材に応じて、調査結果の報告書が「ほぼ完成した」と語っている。発表しない理由として「調査結果を日本側と共有できていないため」と主張したという。「共有できていない」とは、どういう意味だろう。事実関係は、調査結果を見た外務省の幹部が「これではダメだ」と、受け取りを拒否したのである。

この事実は宋日昊が浅野健一同志社大学大学院教授に漏らしたことから、大手新聞でも報じられた経緯がある。外務省(安倍政権)によれば「北朝鮮が調査を履行していない」となっているものが、じつは「調査報告」が上がってきているにもかかわらず、その内容が期待通りのものではなかったがゆえに、受け取らなかったというのだ。この事実は国民には知らされていない。その後、2016年にいたって北朝鮮の水爆実験と長距離ミサイル発射によって、拉致問題の交渉が国連レベルでの経済制裁に飲み込まれていくのは周知のとおりだ。

宋日昊大使を取材した浅野健一教授によると、さらに外務省の担当者が二度にわたって訪朝滞在し、追加の調査をした結果、芳しい結果は得られなかったという。最後は不衛生な生活環境の滞在に耐えられず、外務省の職員は逃げ出すように帰国したという。つまり拉致問題は「未解決」ではなく「調査が終了」してしまっているのだ。再調査を行なった北朝鮮の「特別調査委員会」には国家安全保衛部、人民保安部など治安・特殊機関も加わっていたとされている。北朝鮮による過去の調査のときとは違う強力な布陣であり、これ以上の調査は不可能と考えられる。

そうであるがゆえに、安倍政権は解決不能におちいった拉致問題での交渉結果を封印し、ひたすら北朝鮮を「拉致問題は未解決」と批判することで拉致問題そのものからの逃避を行なっているのではないか。おそらく全員が死亡、もしくは入国の事実がないという北朝鮮の「調査報告」を、家族会や国民に知らせることをためらったすえに、北朝鮮が調査を怠っている。つまり拉致問題は「未解決」だと強弁するしかないのであろう。

米朝会談を契機として日朝会談が実現すれば、拉致問題はその全容が明らかになる可能性はある。その場合にも、日朝双方が胸襟をひらいて過去の歴史にも向き合い、相互に誠意を尽くすのでなければ、またぞろ政治家と官僚・右翼勢力に利用されるだけではないか。日朝の過去の精算を訴えるのは、冒頭に紹介した蓮池透氏である。その蓮池透氏を招いてのイベントが、5月29日に東京・水道橋のたんぽぽ舎で開かれる。

朝鮮半島情勢と拉致被害者:元「家族会」事務局長・蓮池透さんに聞く!(5月29日 18:30開場 参加費:800円 会場:千代田区神田三崎町2-6-2ダイナミックビル4階 スペースたんぽぽ Tel.03-3238-9035)

▼横山茂彦(よこやましげひこ)
著述業・雑誌編集者。著書に『「買ってはいけない」は買ってはいけない』(夏目書房)、『軍師・黒田官兵衛に学ぶ経営学』(宝島文庫)、『山口組と戦国大名』(サイゾー)など多数。医療関係の仕事に『新ガン治療のウソと10 年寿命を長くする本当のガン治療』(双葉社)、『日本語で受診できる海外のお医者さん』(保健同人社)、『ホントに効くのか!? アガリクス』(鹿砦社)、など。

『紙の爆弾』6月号 安倍晋三“6月解散”の目論見/「市民革命」への基本戦術/創価学会・公明党がにらむ“安倍後”/ビートたけし独立騒動 すり替えられた“本筋”
横山茂彦『ガンになりにくい食生活――食品とガンの相関係数プロファイル』(鹿砦社LIBRARY)