凄惨な殺人事件の現場を訪ねてみると、事件発生から長い年月が経っているのに、周辺の人たちがいつまでも心に生々しい傷を抱き続けていることがよくある。

18年前に栃木県宇都宮市の繁華街「オリオン通り」の宝石店で起きた放火殺人事件もその1つ。私が現場の宝石店跡地を訪ねたのは、事件から16年近くが過ぎた頃のことだったが、近くで小売業を営む人に当時の話を聞こうとしたところ、「何も話すことはないです」と強く拒絶された。

それは、この事件の世上稀に見る残酷さを物語っているように思われた。

惨劇が起きた宝石店があったオリオン通り

◆手足を拘束した6人をガソリンで焼殺

事件が起きたのは2000年6月のこと。犯人の男S(当時49)は金に困って強盗を企て、馴染みの宝石店に約1億4000万円相当の商品を用意させて来店した。そして宝石を奪い、店長ら女性従業員6人を殺害するのだが、恐るべきはその手口だった。

Sはまず、被害者6人の手足を粘着テープで拘束し、休憩室に押し込めた。そしてガソリンをまくと、ライターで火を放ったのである。

店舗は全焼。焼き殺された6人の遺体は性別の区別もつかない無残な状態だったという。

現場の宝石店があった場所はずっと空き店舗のまま

◆宇都宮に舞い降りた妖精

そんな現場周辺では、なかなか当時の話を聞かせてくれる人はいなかったが、現在も空き店舗のままの建物のシャッターに、切ない思いにさせられた。被害者たちを悼むように、妖精の絵が描かれていたからだ。

「文星アートプロデュース部」という署名があり、絵のタイトルは「宇都宮に舞い降りた妖精」と書かれていた。店舗として借りたいという人は現れないままでも、こうした絵が描いてあれば、地元の人も多少は気持ちが和むだろう。

犯人のSは、裁判で「殺す気はなかった」と主張したが、2007年に最高裁で死刑確定。2010年に東京拘置所で死刑執行された。

シャッターに描かれた「宇都宮の妖精」

▼片岡健(かたおか けん)
1971年生まれ、広島市在住。全国各地で新旧様々な事件を取材している。

月刊『紙の爆弾』9月号

「絶望の牢獄から無実を叫ぶ ―冤罪死刑囚八人の書画集―」(片岡健編/鹿砦社)